ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
昔人気だったあの人は今? 的な感じの話です。 そして千里もこれで晴れて家なき王。ノーハウスキング。


第85話~サブとメインは悩みの度合いが違う~

「う~ん・・・」

 

 朝、三千院ナギは窓から指してくる陽の光に目を覚ました。 といっても完全に覚醒というわけではない。目だけが開き、体は全く起き上がるわけでもない。 まだ体は寝ていたいという状態なのだ。

 

「お嬢様~そろそろ起きてくださいよ~」

 

扉が開き、ハヤテが入ってきてナギの名を呼んだ。 だらけていても朝はしっかり起きて欲しいため、自分の主を起こすというのも執事の仕事に入っている。 今更説明する必要もないが。

 

「地球が後一周したら起きる~おやすみぃ・・・」

 

「一周したらまたその理由で寝るんですね。 わかります」

 

無理やりでも布団をひっぺはがしてでも・・・という行為に及ぶのは流石に控えたか、布団の上からさする程度にして起床を促す。

 

「私も本当は起きたいのだ。 でも私の起床をあの太陽が邪魔しているのだ。 ハヤテ、お前があの太陽を壊して永遠の夜をくれるというのなら私は起きてもいいぞ」

 

「取り敢えず、地球破壊爆弾が何基必要になるんですかね・・・」

 

とハヤテも毎度のことながらだが、このパターンには呆れていた。 いや、もう呆れるを通り越してしまっているようなものだろう。

 

「そう言えば王様先輩がこの屋敷に住み着いたのだったな。 今どうしてる?」

 

ナギは昨日付でこの屋敷に住まうことになった新たな住居人、乙葉 千里の事をさした。 ハヤテはナギの質問に淡々と笑顔で答える。

 

「千里さんはもう朝から起きてます。 なんでも朝の六時前に起きて外に出るのが日課だとか・・・朝食も採ったんですが・・・今は」

 

「ん?」

 

と、ハヤテの表情が苦笑いに変わったのを見てナギは首を傾げた。 実はというと・・・。

 

 

 

 

「ぐおおおお!!」

 

三千院家には数箇所ほどトイレが設けられている。 広すぎるため、どこでも用を足せるようにとの考えだ。 この食堂を出てすぐの場所にあるトイレもその一つだが、今は一人の男がそのトイレを占領していた。

 

「ぬおおおおおおおお!!」

 

三つある大専用の用をたす場所の一箇所から苦痛とも捉えられる叫び声が聞こえていた。 

 

「王様ー。 大腸の具合はダイジョブですかー」

 

タイル式の壁に寄りかかり苦痛の叫びを発する場所へとテルが声をかける。 右手にはコップと錠剤があった。

 

「き、貴様!! この俺をなんだと思っているのだ!! この屋敷は王である俺に毒物の入った朝食を食べさせるというのか!!」

 

こらえる。 ひたすら来る便意に千里は腹を抑える。 

 

「失礼なー。 俺の料理をそんな風に言うとは、王様も食わず嫌いですなー」

 

「食った結果がこの結果だこの馬鹿者めッッ ぐぅおおおおおお!!」

 

またしても腹部の奥から唸りを挙げたのに反応して千里が唸った。 もう大抵の人間はわかると思うが、千里がお腹を壊した原因はほとんどこのテルの仕業である。

 

「王様?アンタがいつも王様だっていうもんだから洋中心の料理がいいかなーって思ってさ。 だから色鮮やかなフレンチトースト、最高級の卵を使ったスクランブルエッグ、サラダ、その他もろもろを用意してやったじゃねぇか。 何が不満あったんだよ」

 

(不満もくそもあるか・・・・!!)

 

 千里は思い出す。 自分の食卓に出された毒物と言うなの料理を。 まず始めにテルの言っていたスクランブルエッグだが、ほぼ固形の状態で銀色で出来ていたのは何故だろうか。 パンにしてはどう見ても焦げたとしか言いようのないトーストをチョコトーストと言って差し出す。 サラダにしてはあのみずみずしさはどこに行ったのかと思うくらいに辛かった。

 

そんな物を食わされれば腹を壊すのは当然である。

 

「取り敢えず、なんでこんな事になったか分からねぇーけどさ。 ここに胃薬置いておくぞー 俺は仕事戻るから」

 

「誰のせいだと思っているのだ!! 待て・・・おおおおおおぉ」

 

ニヤリと顔を歪ませたテルはその場を後にするのであった。

 

 

 

「というのが・・・現状でして」

 

「ふーん」

 

と、話の一部始終を聞いた上でナギは布団を被ってくるまった。

 

「何やってるんですかお嬢様? そんなに丸くなって、ビスケット・オリバじゃないんですから」

 

「もう起きたろー。 いいじゃんか、それで一日終了しても」

 

「良くないです!というか、千里さんのこと他人事ですねその対応」

 

「当たり前だろ。 他人以外のなにものでもないのだからな」

 

 

 

 

 

「漸く起きてきたかこのねぼすけは」

 

「五月蝿い」

 

数十分たって、ようやく三千院家の主、三千院ナギが起床してきた。 寝巻きの姿で髪はボサボサ、顔はもう寝起きで半分まだ寝ているように目が細かった。

 

「そういえば咲夜の奴がさぁ」

 

朝食を取り終えたナギがソファに腰を下ろしてリモコンを動かそうとしたのを中断した。どうやらこの場にいる使用人たちに話しかけているようである。

 

「なんか最近、新しい使用人雇ったらしいんだよなぁ」

 

「そうなんですか? どんな人なんです?」

 

ハヤテが聞くとナギは頭に手をやりながら思い出した。

 

「確か一人がメイドで名前が『ハルさん』って言うんだよ。 これがえらく美人でってアイツが凄い自慢してた」

 

「咲夜さんも女の子ですし、それくらいの人が居てもおかしくないんじゃないでしょうか。 そう言えば以前に咲夜さんの専属の執事さんとお会いしたような」

 

「ああ。 そう言えば巻貝と佃煮だっけ?」

 

うーんと唸るハヤテにテルが掌を叩いて思い出したかのように口を開く。 どこからそんなネームが浮かんできたと突っ込んでみたくなったが今回ナギは冷静になって指摘する。

 

「いや違うだろ。 海苔巻きとドクダミだ・・・アレ?」

 

「あの、ナギ? 全然違いますからね?」

 

ナギもどうやら忘れていたらしく、この場に最終的に突っ込んだのはマリアだった。

 

「巻田さんと国枝さんですよね? 手を叩いたらテーブルとケーキを用意することに定評のある」

 

「ハヤテ君もそれしか印象残ってないんじゃないんですかね?」

 

結局のところ、誰一人詳しく覚えてる人物が居なかったのだ。

 

「しかしまぁ、そんな人たちの名前、俺久しぶりに聞いたかもなぁ。 でも実際原作でも凄いハブられてるし、空気状態になってるんだろうな」

 

「「空気で悪かったな!!」」

 

その居間に突如として二人のメガネをかけた若い男が現れた。 一人は白、片方は黒い髪の色だ。

 

「「「「・・・・え?」」」」

 

あまりのことに一同騒然。 白い髪の男が慌てて声を飛ばす。

 

「いや、『え?』ってなんだ!!」

 

「その『アンタら誰?』みたいなリアクション止めてくれ! っというか、名前まで分かっておきながら顔は覚えてなかったのですか!?」

 

今度は黒い髪の男が騒いだ。 テルがその様子を見て告げた。

 

「まぁこの小説でも実際に出たのなんて一回くらいのはずだし、もともとこの小説もオリジナルの話と変に登場人物が偏っちゃうからサブの方々との絡みが少ないという作者の未熟な面による犠牲。 ウチの執事長とかもそうだし」

 

「いやですねテル君。 クラウスさんはもう居ないようなものじゃないですか♫」

 

さらっと言ったその何気ない一言を扉の後ろで聞いていたクラウスは辞表を考えたという。

 

 

 

「それじゃあ少し落ち着いた所で。 私が巻田」

 

「国枝だ」

 

一息つき、慌ただしさもなくなって二人が自身の名をあげた。 黒い髪が国枝。 白い髪が巻田ということらしい。

 

「なんか凄いウォータースライダーの流れと勢いで自己紹介が始まったけど・・・」

 

「しーっ。テル君は少し静かに・・・」

 

とマリアが指を立てて注意したのでテルは大人しく話を聞くことにした。

 

黒い髪の男、国枝がメガネを動かして話を続ける。

 

「私は愛沢家にお仕えして十六年、巻田は十四年だ。 咲夜お嬢様が赤ん坊の頃からお仕えしているということになる」

 

「実のところ、新しいメイドを雇おうと言ったのは我々なのだ。 理由は、最近のお嬢の体の急成長によるもので・・・」

 

「ああ、なんかわかるぞソレ。 咲夜のやつの最近の成長っぷりには私も驚いたくらいだ。 別に羨ましいともなんて思ってないぞ? ただ藁人形を作ろうと思っただけだ」 

 

巻田の言葉にナギが深く頷いた。 巻田は続けて

 

「この間も、我々の前に普通にあられもない姿で現れたときは流石にもうまずいと思って・・・」

 

「ああ。 我々ではもう手に負えないと考えたのだ」

 

「いい大人が十三歳の少女に欲情してらっしゃる」

 

「コラ! 誤解を招くようなことを言うなそこ!」

 

「そうだ! 本来ならばこのお嬢様の成長は喜ばしきこと! だがお嬢様もお年頃であるため、そういうデリケートな所に気を使うのもまた執事の仕事だからだ!」

 

テルの言葉に二人が全力で否定しつつ、曲解なき理由を説明した。

 

「そうだとも。 だからそのメイドが凄い出来る子だとしても、お嬢様がなかなか相手してくれなくなっても、この気持ちは決して嫉妬とかではない!!」

 

「いや、もう嫉妬の塊バリバリですよ。 もう、そうやって口に出てる時点でこれでもかって位に嫉妬全面に出してますよ」

 

マリアが言うが、この二人の語りもガチである。 巻田に関しては鼻水を垂らして涙が滲んでいる。 マリアはそっとティッシュを差し出した。

 

「でもまぁ、アンタがどんだけ悩んでるかは大体分かった。 新しいメイドが入って大活躍なのは仕方ないとして、アンタらがこれから何を一番に考えなきゃならないかわかるか?」

 

突然テルがニヤリと笑い、巻田と国枝に問いかける。 

 

「な、なんだ・・?」

 

生唾を飲み込み、喉を鳴らした二人はテルの答えを待った。 テルはそして告げた。

 

「再就職先」

 

この四文字が巻田と国枝の胸を槍となって貫いた。 

 

「この先、いつお二人がお払い箱になるか分からないから。 だから今のうちに新しい仕事場を見つけておく必要があるんじゃね? でも今はただでさえ不景気で職難の時代。 ハローワークには浪人した学生と退職、派遣切りされた人間で満ち溢れるのが近年の傾向だ」

 

「テルさん。 なんか時代が色々と先のことになってますけど・・・これ、一応時間軸は2004ですから」

 

「んなもん関係ねぇんだよ。 原作だってなぁ明らかに時代そんな進んでねぇのにipodとか明らかに2010年以降のアニメとかの話やってんだから。 お前はそこらへん暗黙の了解考えろよ。 お前も最初の作画と現在の作画に文句言う口じゃねぇだろうな? これだから女たらしは困んだよ!」

 

最後はほとんど関係ないじゃないですか。

 

と心の中でそう思っているのはハヤテだけであるのは分かっているだろう。 自覚がないジゴロはほかの男たちから見ても暴力だ。

 

そんな話はさておき、と。 涙に暮れる二人に箱ティッシュを差し出す。

 

「この子のお話はあまり真面目に聴かない方がいいと思います。 お二人だって今までの長い経験とかがあるんですから新しい子がいくら出来ても知らないことだってあるんですから、そこはお二人の出番じゃないですか。 だからやめることなんてないと思います」

 

二人は、天使を見た。 笑顔を向けて、優しくアドバイスをくれるマリアに、二人は救われたのだと思った。

が、マリアはその笑顔を崩すことなく次の言葉を告げる。

 

「まぁ捨てられたらいつでもこちらで雇っても大丈夫ですよ。 フリーの主さんが一人いるのでこちらの王様の専属執事になるのがいい再就職先かと」

 

「加賀美ほどの執事とは思えないが、まぁこき使ってやろうではないか。 喜べ、王である俺の下に共に歩めることを」

 

いつの間にか腹痛から復活していた千里に示した。 実際千里の執事はいるにはいるが一連の事件の流れで音信不通。 よって実質フリーなのだ。

 

「そんな上げて落とさなくても!!」

 

「しかも笑顔で言うなんて! 『諦めるな』か、『諦めろ』のどっちを促してるかハッキリしてください!!」

 

愛沢家の使用人はマリアの内側に少しだけ触れた気がした。

 

 

暫く経って。

 

「では、我々はこれにて・・・」

 

「なんだよ。 結局帰るのかよ、何しにきたんだ。 帰ったってまたストレス貯めるだけだぞ」

 

テルが聞いて、国枝が軽く笑ってみせて答えた。

 

「我々は咲夜様にお仕えする執事。 お嬢様から不必要と言われるまでこの身はお嬢様に捧げるつもりだ」

 

「居場所なんてなくたっていい。 お嬢様の為になるのであれば・・・」

 

ついに開きなおりやがったか。 どこか悟りに近いようなこの状態の二人を見てテルもふーんと首を捻って。

 

「歳を取るとああいう性格になって色々とつまんなくなるのかなー? 嫌だなー」

 

「くっ、皮肉をいうな。 新しく来た執事も君みたいな奴だったな、そう言えば」

 

マキタが表情を崩して言った言葉。 新しい執事? なんのことだろうか。 

 

「新しいメイドの他に、もう一人の執事も雇ったのだ。 いや、執事というよりも実質ボディーガードっぽい男だ」

 

続けて国枝が説明する。

 

「もの凄い変わった奴だ。 皮肉屋で結構反感買う奴だが、どこか憎めない奴で咲夜お嬢様が結構気に入ってたりするのだ」

 

ほー。 と一同が口を揃える。 テルはこれまでの一連の流れと内容を把握した上で二人の肩の上に手を置いて言った。

 

「やっぱ再就職先考えた方がよくね?」

 

 

サブキャラ執事の明日はどっちだ。

 

 

 

 






後書き
千里の記念すべき三千院家での初日はテルの仕込んだダーク朝食により思い出に残るものとなりました。 そしてサラッと新キャラの前フリ。

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