ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
まさかの今回は王様回。


第84話~どんな状況になってもキャラがぶれないのはいいことだ~

―――朝。 どこかの庭にて大きな動物が深い眠りについていた。

 

その動物は全ての動物の生態系の頂点に立つ存在、ライオン。 鬣がついた立派な雄ライオンであり、名前はヘラクロス。

乙葉 千里のペットだ。

 

もともと野生から千里が力強くで従えてこちらに連れてきたものであり、その他の手続きは全て親が行なっている。

 

ヘラクロスがパチリと目を開くと、その瞳に強い陽の光が当たる。 前足で顔をこすると大きく欠伸をした。

 

「おお。 今日も良い目覚めだなヘラクロス」

 

その隣でパジャマ姿で佇む大男がいた。 この屋敷の主、乙葉千里である。

千里は目覚めのコーヒーを口に含む。 使われているのは今朝とれたての豆から抽出したエスプレッソコーヒーだ。

 

『我が主、主はいつも朝にコーヒーを飲むという行為を続けているな。 これは習わしなのか・・・』

 

と、心の中でヘラクロスは千里が口にしているコーヒーを見つめる。

 

「先日、伊豆の地で秘湯に浸かってきたからだろうか。 体の調子がいい。 お前も連れていってやれば良かったな」

 

『我を置いて、主はそんな所に行っていたというか。 なんとまぁ贅沢なことか・・・』

 

両前足を組んで顎を乗せたヘラクロスはまたしても目を閉じた。 自分の主、千里と暮らして早三年になる。 最初こそ互角の戦いを見せて張り合っていた一人と一匹だったが、今年に入ってはまったく勝てなくなってしまった。

 

『今まで散々戦いを申しているが、主はこれをじゃれあいと勘違いしてしまっているようだ』

 

そう。 実は今までの突進や飛びかかり行為も、全ては千里の隙を付いて命を奪い取ってやろうという気でいたのだ。 だがその自分の下克上が届くばかりかじゃれ合いと認識されてしまっている。これは百獣の王にして最大の屈辱である。

 

「お前とも、長い付き合いになるな。 最初こそ暴れて手が付けられなかったが、これからも俺の栄光のロードを共に歩んでくれるな」

 

と、寝ていたヘラクロスの頭に手を乗せると優しく撫でた。 本来ならその栄光の道はヘラクロスが先頭を切って歩くはずなのだが。 

 

「しかし、今日は加賀美の奴が遅いな・・・いつもならもう来ているはずなのだが・・朝六時だからか?」

 

加賀美とは、千里の専属の執事だ。 結構な年寄りだが、ハヤテやテルも尊敬する執事の手本となる人物である。

 

「まぁ、今日はこの俺が自分で料理を作るということになるのか? なんということだ。 いくら加賀美と言えどこれは厳罰ものだぞ」

 

と、腕を組んでいた千里に目もくれず、隣のヘラクロスが起き上がっていた。眠そうな瞳は何かしら危険を察知したような野生の鋭い目つきへと変わっている。

 

「・・・? どうしたヘラクロス」

 

ヘラクロスの感じ取っている異様な雰囲気に気づかない千里。ここらへんが野生の違いだろうか。

不意に、玄関の方からインターホンが鳴り響く。 千里はただの客だと思い玄関の門を開けた。

 

「ヒャッハー! 朝早くスイマセン!!」

 

「ヒャッハー!!」

 

「ヒャッハー!!!」

 

「な、なんだ貴様ら!!」

 

門を開けると、そこには世紀末のモヒカンをした黒服の男たちが居たのだ。

 

「はいはい、ちょっと失礼しますぜヒャッハー!!」

 

一人目の男が入っていくと同時にあとの男たちもぞろぞろと中庭になだれ込んでくる。 これを黙ってみている千里ではなかった。

 

「貴様ら、王の中庭でこのような狼藉、いい度胸をしている。 万死に値される覚悟はあるか」

 

千里が睨むと同時、隣にいたヘラクロスも唸りを上げる。 威嚇だ。 男たちがそれを見て数歩下がる。

 

「ちょ、ちょっと待て! 俺たちに何をするつもりだ! 俺たちは公務員だぞ! 公務員!!」

 

「公務員・・・・か?」

 

「あ、今馬鹿にしたなお前! このモヒカンを見て差別したろ! こう見えても公務員なんだぞ!!」

 

と、後ろの方ではモヒカンの軍勢が四人がかりでヘラクロスと挑むが叶うはずも無く、追いかけ回されている。

 

「・・・・」

 

「えーい! ライオンに追いかけ回されてる公務員なんているかお前らー! 早く仕事にはいれー!!」

 

「ヒャッハーッ! わかりましたぜ班長!!」

 

男たちは勝手に屋敷の中に入り込み、家具や物品を物色し始めた。

 

「き、貴様ら! 一体なにをしているのだ! 答えろ!」

 

千里の怒りが爆発する寸前だ。 朝から堂々と屋敷内に勝手に上がってきたと思えばそれを勝手に荒らされているのだ。

 

「あれ? 知らないんですか?」

 

それをモヒカンの班長格の男が首を傾げていた。

 

「これですよ。 今日の朝、こんなニュースやってて・・・」

 

「ニュース? 知らん。 昨日から電波の調子が悪くてテレビがつかんのだ」

 

千里は昨日の夜、急にテレビの電源が落ちてしまってテレビが見れなくなったのを思い出していた。

ここ2,3日酷い雨が降っていたためか、その雷でアンテナが壊れてしまったのだろうか。

 

「あれのせいでムツ○ロウ王国の再放送、見逃してしまったではないか」

 

「知らねーよ! なんであんな昔の番組見てんのアンタ!!」

 

「馬鹿にするでない! 己の身ひとつで野生の凶暴な動物たちと向き合い、従える姿はまさしく野生の王! 尊敬の念を贈らずして何が王か!!」

 

「だから知るかァァァァァ!!!」

 

と、男は心を落ち着かせてわざわざ車に戻って千里に何かを突きつけた。 

 

「今日の新聞だよ。 これ見て現実見やがれってんだ!!」

 

「現実を見たほうがいいのは貴様らではないのか?」

 

と黒サングラス、金髪モヒカンの公務員に一言申しながら新聞を開いた。 その文面を見て、千里の表情が一瞬で凍りつく。

 

 

「なん・・・だと・・」

 

そこに書かれていたのは。

 

 

 

 

 

 

結野アナ「昨日発表された、乙葉グループの会社が事業に失敗して倒産してしまったということですが、解説の草野さんはどう思いますか?」

 

草野「そうですね。 これは政治界にも激震が走りますよ。 乙葉グループの重役には政治にも関係している人物も何人かいるらしいですからね」

 

結野アナ「乙葉グループの負債は公式的には一切明らかにされていませんが、この事業失敗を機に多くの乙葉の事業が撤退を始めているとのことです」

 

草野「恐らくありえないくらいの負債を抱えてしまったんですねぇ。 あまりにも負債を抱えすぎて、自分の持株とか別荘とか売り飛ばしてるんじゃないですかねぇ。 しかし、乙葉グループの社長、乙葉 源蔵氏も行方を暗ませてどこにいるかわからない状態なんでしょう?まったく、ふざけたロスタイムですねぇ」

 

結野アナ「以上、東京ウミテレビでした」

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイ、マジかよ。 あの王様の会社が潰れたってマジかよ?」

 

三千院宅でこのニュースを見ていたテルたちは騒然としていた。 ナギは食べていたパンをくわえたまま硬直し、ハヤテは箒を掃くのをやめ、テルは飲んでいたコーヒーを下に垂らしていた。(サボリ)

 

「これで政界の歴史も、日本の歴史もまた新しい歴史が刻まれるのか・・・悲しいな」

 

「お、お嬢様・・意外とドライですね」

 

「別に。 だが経営に一つのミスを許さない乙葉グループが事業に失敗するなんて、なかなかドジな一面を見せてくれるもんだ」

 

 寝ぼけていた目で再びパンを食べ始める。 この手の話題には興味を示さないのは分かっていたが知人の名前が出たのだ。 もう少し関心はもたないのだろうか。

 

「しかしまぁ、テレビで言われていた事がマジだったら今頃王様の家は大騒ぎだろうな」

 

「ええ・・・リアルで 12月のハヤテ君みたいに差し押さえ、身売り、夜逃げ、からのトラブルで執事とかやったりして、不幸で哀れな道を歩むことになるんでしょうか?」

 

「マリアさん、そんな僕のこの人生を否定するような言い方を・・・ちょっと涙出ますよ」

 

ハヤテが肩を落としてため息をつく。 だが、こうしている間にも千里の家が大騒ぎしていることは変わりない。

 

「ま、これからアイツも大変だな。 学校で会ったらちょっとは哀れんで毎日人参くらい送ってあげようぜ」

 

「そうですね。 じゃあテルさんは野菜担当、僕は糖分担当でいきます。 僕はチョコとかでいいでしょうか・・・」

 

「お前ら・・・私にドライとか言っておきながらお前たちが一番ドライなのではないか?」

 

ナギがパンを食べ終わるとマリアが用意した牛乳を受け取ると一気飲み。 ぷはっと息を吐いた。

 

「まぁ私たちにはあまり関係ない話なのは確かだ。 さてハヤテ、今日は是非とも読んでもらいたいものがある。 私の新作だ。 ジャンルは王道を外れた邪道の―――」

 

ナギが言おうとしたその瞬間。無防備な状態でいたこの一室で、彼らは衝撃的な光景を目撃する。

 

居間の窓を巨大な何かが突き破ってきたのだ。 窓のガラスは砕け散り、辺に飛び散った破片からハヤテがナギを守った。

 

「な、なんだァ? 朝っぱらからこの三千院邸に堂々と侵入してくる奴はァ!? 咲夜くらいしかこんな度の過ぎた事はしねぇぞ!!」

 

反射的に鉄パイプを取り出して構えたテル。 だがその次の瞬間にはテルに向かって何かが飛びかかってきた。

飛びかかった物体は口を大きく開けてマウントポジションを取り、テルの顔にかぶりつく。

 

「ぎゃあああああああああああ!! 生暖かい感触がァ!!牙が!! なんか牙が頭蓋を砕いてる音がするゥゥゥゥウ!!!」

 

「こ、コレって・・・千里さんの家のペットのヘラクロスじゃないですか」

 

生きるか死ぬかの瀬戸際でハヤテは冷静だった。 その後に続くように一人のお男が入ってくる。

 

「こらヘラクロス。 そいつは食べ物ではないぞ。噛むのを止めんか」

 

「あ、千里さん! 一体どうしてここに?」

 

「うむ。 俺も今一体どうなっているのか混乱している。 朝から黒男が家を押さえたり、マスコミに追われるわで・・・困ったものだ」

 

千里が腕を組んでいる間にもその後ろにいるテルの頭はもはや規制ナシでは公開できないような惨状へと発展していた。

 

「ちょっと二人とも! テル君の心配もしてあげてください!!」

 

 

 

 

「それじゃあ、やっぱりあのニュースは本当なんですか?」

 

ヘラクロスをテルから引き離してハヤテたちは千里を椅子に座らせて状況の確認を行なっていた。

 

「そうだ。 最近は少しづつ経営が傾き始めていたのだが、たかだか一つの事業が失敗しただけでこんな事になるとは思っていたなかったのだ」

 

と、千里はマリアから出されたコーヒーを一口ふくんで続けた。

 

「父上に電話してもまったくつながらない。 母上も恐らく父上と一緒にいるはずなのだが・・・今日の朝に自宅からの立ち退き願いが出されてしまった。 俺は納得いかなかったがマスコミ達が押し寄せてきて混乱してしまった」

 

「いや、それで俺たちの所に駆け込むのはなんで?」

 

包帯ぐるぐる巻のテルが言う。 三千院家の医療はそれなりの設備があるはずだが、先程まで瀕死だった人間にこんなアバウトな処置はいかがなものだろうか。

 

「ここでなくてはならないのだ。 俺のヘラクロスが自由に動けていいのは隔離されたあの屋敷のような場所だけだ。 それは同じように広大な敷地を持つここだった・・・それが理由だ」

 

そんな理由で瀕死直前まで追い込まれてしまうのは勘弁である。 

しかしその理由は分かる。 この三千院家でもタマと言う名の白いトラがいるのだが、それが外に出回ったときは三千院家で東京のあちこちを探す羽目になったのだ。 

 

無事見つけることができたのだがそれまで誰にも見つからなかったのが奇跡なくらいである。

こんな我侭な千里でも一応ペットの事は考えているのだとちょっと考えを改めさせられる。と思っていたが。

 

 

 

 

「そこで・・だ。 俺が命ずる。 ここに暫く住まわせろ」

 

「は?」

 

「え? 何・・それは」

 

ハヤテとテルが目を何度か見開いた。

 

「えっとテルさん。 僕は何か聞き間違いをしてはないでしょうか。 僕の記憶が正しければ今千里さんは『俺をここに住まわせろ』と」

 

「いや、ハヤテ。 俺も何が起きたのか分からない。 どうやら間抜け時空に囚われてしまったようだ」

 

「マリアー。 耳掃除お願いしてもいいかー」

 

「ちょっと待っててください。 今耳かき持ってきますから」

 

ハヤテやテルだけでなく、後ろにいたマリアとナギも千里の一言を疑っていた。 千里は咳を一つ挟んで。

 

「俺をここに住まわせろ」

 

「無理無理無理!! マジのライオン連れた暴虐暴君をこの屋敷に住まわせるなんてぜってー無理ッ!! つーかなんで命令口調なんだコラ!!」

 

「俺が王(キング)だからだ」

 

「堂々としてるなコイツ。 だからめっちゃむかつくんだけど」

 

先程までの好印象を一瞬でナシにさせてしまった。 やはりこの男、ダメだ。

 

取り敢えず理由を聞かせてもらうと思ったのか、ハヤテが千里に聞いた。

 

「えーっと。 一応聞いておきたいんですが、誰からも連絡がないんですよね? ちなみに、ご自分の所持金とかは・・・・?」

 

「最初に自分の通帳を開いてみたのだが、カードも自分の資産も何もかもが凍結されていた。 確か二千万くらいはあったはずなのだが・・・」

 

妙だな。 とテルは思う。たかだか事業が失敗したからって千里の資産やカードまでもが差押になる訳がない。 まず事業の撤退から千里の両親の行方を暗ますまでの流れが自然だ。自然すぎるのだ。 誰かが作ったとしかような考えられないような流れ。

 

と思っていたとき、外が騒がしい事に気がついた。

 

「なんだか外が・・・」

 

「恐らく俺の事を追ってきたのだろう。 いつも世の中は大手の会社のスキャンダルには鼻が利く・・・だから嫌いなのだ」

 

 テルは割れた窓から外の景色を見て唖然とする。 三千院邸の前に大きなワゴン車が数えても十台。 カメラやメモ帳を手にもった人間が50はいた。 

 

「やっべぇ人多っ! 気持ち悪いくらいに多っ! でもちょっとハリウッドのスターになった気分!!」

 

ちょっとだけ心臓がドキドキしてるテルをよそに、ナギは外の光景を見て顔の表情を歪ませた。

 

「オイオイ。こんなんじゃ落ち着いてくつろぐ事もできんぞ。 テル、ちょっと追っ払ってこい」

 

「なんで俺なんだよ。 こういうのはやっぱハヤテとかじゃないの? もう『カメラに向かってごめんなさい』方式でいいじゃん。 ぱーってハヤテが扉開けて出て、メイド服になったハヤテが『皆様の需要にあまり答えられなくてごめんなさい』って言えば万事解決」

 

「なんで僕なんですか! メイド服きてその台詞を言うことになんの意味があるんですか!! 需要とか男に求められても困りますって!!」

 

思いっきり手をばたつかせているハヤテの声が飛ぶ。 この問題、いったいどうやってい解決したものか・・・。

 

 

 

 

数分後、三千院家の広場でのマスコミたちはざわめきを更に大きくさせていた。 

 

「しかし、なんでこんなところに千里氏は逃げ込むようなことを」

 

「もしかしたらあの日本で有数の三千院家に取り合ってもらおうってことじゃないのか? だけど、今の乙葉グループで三千院家が吸収する価値があると言ったら・・・」

 

「うーん。頭髪用のシャンプーくらいか?」

 

なぜだか、シャンプーの売上で乙葉グループが開発した頭髪用シャンプー、「王の輝き」は抜群の人気を誇っている。 

 

キャッチコピーは『世界の全てが従うような髪へ』だ。 どこかのシャンプーのキャッチコピーと似たようなものがあった気がするが突っ込んではいけない。

 

 

「おい、誰か出てきたぞ!!」

 

と、一人の男の声に皆が動いた。 見上げるは三千院家のテラスだ。 一人の男が布団をもって佇んでいる。

 

「スイマセーン! 海テレビのものですが、乙葉グループの嫡男、乙葉 千里くんは三千院家と何か会談を行なっているという情報ですが、それは本当なのですか――!?」

 

 正確にはそこでちらほらと耳で聞いたことを記者の一人は大きな声で告げた。 これはマスコミのなかでの予想なのでそんな事は全くない。 だがマスコミというのはどんな情報でも拾ってネタとして扱ってしまうのだ。 それが例え嘘の情報でも。

 

「そこんところどうなんですかーー!!」

 

周りの記者も乗せられて大声で煽る。 だがその多くの煽りに動じることなく、男は布団を手すりにかけてハタキを構えて叫んだ。

 

「う―――っさいんだよ! いい加減にしろってのがわかんないかねェ―――!! そうやってまでウチらを悪者にしたいかァ――――!! それがマスメディアかァ!!」

 

その男、テルはハタキをパンパンと一定のリズムで叩き出す。

 

「かっえっれっ! かっえっれっ! さっさとかっえっれ!」

 

「そんなことしてたら近所から孤立しますよー。いったいいつのネタやってるんですかー!」

 

「うるせー! もうこの広い敷地のせいでほぼ孤立してるようなもんだー! 籠城なんてお手の物よ! ニートお嬢様にホモ執事、真っ黒メイドじゃーい! これだけの人間に囲まれて孤立しない方が可笑しいんじゃーい!」

 

「スゲー言われようだなこの家! ここまで自分の働いてる職場に文句言う使用人見たこと無いぞ!!」

 

記者がもの凄い勢いでメモ帳に内容を記していく。 だが、記している途中で。

 

グチャ。

 

「え?」

 

記者の持っていたメモ帳が突如黄色い液体を被った。 半透明で、その中心は黄色というどこかで見たことある物、それは卵。

 

「うわっ! 卵投げてきやがった! っていうか臭ッ! これめっちゃ臭ッ! 腐ってるだろうコレッ!!」

 

「一ヶ月、倉庫のところで腐ってた卵だコラ! 噛み締めろよー! 秋田比内地鶏だー もって帰らなきゃ損するぜー!」

 

「だ、誰がこんな腐った卵持って帰るかよ! 逃げろー!」

 

投げつけられた記者たちはその臭さ故か鼻をつまんで、あるいは涙を流しながら正門へとダッシュ、来る前へと逃げ込んで三千院邸から離れていった。

 

「ふー。 一回やってみたかったから試したけど結構爽快だなぁマスコミ追い払うの・・・アレ? ナギにハヤテにマリアさん? どうしたんですかこんなところで。 マスコミ、追い払ってやりましたよ。 アレ?なんで三人とも俺の肩の上に手を置いてるんだ?」

 

次の瞬間。  三千院邸の執事長クラウスは、黄色い液体にまみれて腐乱臭のする広場に横たわるひとりの少年の姿を目撃した。 

 

 

 

 

 

「それじゃあ親とかから連絡がくるまで・・・ということで」

 

「うむ。 心得た」

 

千里が腕を組んだままうなづいた。 結局のところ、その千里の使いや親からの連絡が取れるまでの間にこの三千院家に住まうという事になった。

 

「ホラ、そこの執事さん。  早くしないと今日の仕事終わりませんよー。 その仕事、今日の時給分には含まれませんからねー」

 

「すんませんでしたァ――――! ホント、すんませんでしたァ―――!! オエエエエエエエエエエ!!」

 

 マリアは外にいる黄色い腐乱臭のする広場を鼻にティッシュを詰めながら懸命に掃除するテルに声を飛ばした。 ブラシで丁寧にこすりながらテルは鼻から僅かに伝わる激臭に涙を流す。

 

「それにしても・・・なんか引っかかりますね」

 

「そうですね。 なんでこんな息子を置いて行くようなことを・・・?」

 

「・・・わからん」

 

ハヤテの問いに、千里は戸惑いながらそう答えた。 何故千里だけがこの地に取り残されたのか、何故捨てるような事をしたのか。 未だに連絡が来ないことが不思議である。

 

(どうしてだ・・・父上)

 

千里は胸の内に宿る複雑な思いが消えないままでいた。 

 

こうして、三千院家に新たな入居者(仮)が増えたのである。

 

 






後書き
ヒャッハー=不良 のテンプレの図式は素晴らしく使いやすい。 ギャグでしかねーけど。

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