ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
バレンタインのお返し? んなもんねぇよ


第83話~いつか返そう。思いもこめて~

(あ、ありのままに起こったことを話すぜ! ホワイトデーの日に俺は公園に来たと思ったらハヤテにチョコを渡されていた!! 恐怖なんて代物じゃねぇ、もっと別の何かの片鱗を味わったぜ・・・)

 

 

 

お昼真っ盛りの公園で善立 テルは混乱していた。 まさか、人生初のホワイトデーのお返しをマジでもらうとは思っていなかった。 

 

これがマリアとかならテルはもう嬉しいこと限りないのだが。  渡した相手は見た目は童顔で良く女らしいともいわれる・・・。

 

「えーっと・・・俺貰っていいのかなぁ・・」

 

(だが男だ)

 

テルが相手の尊厳を傷つけないように丁寧に対応する。 そうだ。 間違ってもソッチ系の意味でこれを貰うんのではない。 別の方向性でもらうことが大切だ。

 

ハヤテは体を震わせている。 この状況が事故だというのはハヤテ自身も分かっている。 

 

(どうやってこの局面を凌ごうかな・・・・)

 

身も心も財布の中身も極限状態のハヤテは様々なパターンを脳内でシュミレートさせていく。 その中でこれが一番妥当だという考えを採用した。

 

「だ、大丈夫ですよ! ホラ、テルさんには日頃からお世話になっているわけですし・・・そう言った理由ならこういったホワイトデーもありだって確か誰かが言ってましたし!」

 

どんと一歩足を踏み込んで拳を握る。

 

「だから・・・男が男に渡すホワイトデーは! 別に不純なモノなんかじゃないんですよォォォォォォォ!!」

 

「お、おお・・・なるほど・・ね。 うん、分かった。 じゃぁ貰っておくぜ。 ありがとな」

 

(世話になってる人に、感謝する日か・・・)

 

震える手を頑張って働かせてバスケットを受け取る。そんなことを想うが、相手が男なだけに複雑な思いだった。

 

なぜだろう。 ちょっとハヤテの目が潤んるように見えるのは気のせいだろうか。 しかし、これを深く追及すうることは間違いなくハズレだ。 そう思い、公園を後にするのであった。

 

 

 

「ま、マズイ・・・とんでもないミスを犯してしまった。 もう新しく買うお金もなければ手作りで何かをつくる時間もない。 困った・・・どうしよう・・・」

 

その場を歩き回りながら考えていると。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

幸か不幸かと聞かれたら間違いなく不幸だと考えるこの場面で、まさか本人の歩とばったり会ってしまった。

 

「うわああ!! ににに西沢さん!? 」

 

「い、いやあ! こ!! こんなところで奇遇じゃないかなハヤテ君!!」

 

ハヤテは驚いている。 だが歩は先程からの一部始終を全て見ていたのだ。 だからこそ、尚更ここを今通りかかったかのような演技をしなければならない。

 

(ど・・!! どうしよう!? まさかこんなところで西沢さんと出会ってしまうとは!! いや、ここで引いたら男じゃない!! ここは・・!!ここは・・・!!)

 

「きょ・・・今日の六時にそこの公園に来てください!! 西沢さん!! ちょっと・・・渡したいものがあるからぁあああ!!!」

 

「え・・!?」

 

ハヤテの叫びにも近い約束に歩も一瞬だけ混乱したが流れになんとなく乗る。

 

「は、はい!! わかったわぁあ!!」

 

「絶対に!! 絶対に来てくださいよぉお!!」

 

「OK!! バッチリさぁああ!!」

 

ハヤテは自ら背水の陣を張って自分を更に追い込んだ。

 

 

 

 

 

「は? プレゼントを渡す練習してたら、そのまま別の人に渡しちゃったですって?」

 

「ええ・・概ねそんな感じです」

 

ハヤテの目の前には小さな鬼の角を出現させているヒナギクが居た。 彼女が若干怒り気味の理由はもちろん、ハヤテがやらかしてしまったことについてだ。

 

「ハヤテ君はどんだけドジを踏めば気が済むのかしら・・・」

 

「あうう・・・スミマセン、スミマセン・・・」

 

「だいたい間違えたんならその場で言えばいいんじゃない。 なんでそんなことも言えないのよ、そんなことも!!」

 

「スミマセン、スミマセン。 ホント、スミマセン」

 

「それに新しいのも買おうにも他人に費やしていたせいでもう買うお金がないって? 今までなけなしのお金を渡してたんだ。お人好しにもほどがあるわよハヤテ君」

 

「スミマセン、オカエシスルコトバモゴザイマセン」

 

(まったく・・・なんで私、この人のこと好きなのかしら?)

 

ヒナギクは今更ながら思う。 片言で涙目を浮かべているハヤテは、間違いなく自分が思いを寄せる相手なのだが、こういったドジな面を見てしまうと何故自分がハヤテのことを好きなのかと疑ってしまうくらいだ。

 

「まぁいいわ。 そのいい加減な正確を少しは直すために、失敗は・・・体でなんとかしなさい!!」

 

「え? 体・・・ですか・・」

 

「なんでソッチの方で解釈するのよ! 殴るわよ!!」

 

最早お約束ともなっているハヤテの受け答えにヒナギクは拳を握り、それをハヤテの前にちらつかせながら強めの口調で言った。 ハヤテも反省したようで、咳を一つ挟んで改めて聞く。

 

「一体、どうするんですか? 手作りしようにも材料もないし、そう言った物を作る場所は屋敷くらいしか・・・」

 

「それなら問題ないと思うわ。 私のバイト先の厨房を少しだけ使わせてもらうくらいは良い筈だから」

 

 

 

 

一方その頃、テルもまた別の意味で混乱していた。

 

「まさか・・・本当に男からもらうことになるなんてな・・・」

 

右手にもあるバスケットがその混乱を生み出している。 学校で唯子に言われた通り、男から貰うとは思わなかった。

 

「こ、こんなの人生初の体験だぞ。 でも人生初だから、逆に新鮮だぞ・・・」

 

百合子や木原と山で暮らしていた時はお約束の『お母さんからのバレンタインチョコよ』を貰っていたため、親以外の誰かからこういったものを貰うのは人生初である。 そう言った面では新鮮な気分だ。 決してソッチの意味ではない。

 

「ん~このまま喰ってもいいんだけどな・・・」

 

別に空腹にうなされている訳でもないし、すぐ食べたいわけでもない。 ただ一つ考えることがあった。

 

「誰かに感謝する日でもあるかぁ・・・」

 

ハヤテの妄言なのだが、テルは少し真面目に考えてみる。 思えば、自分はそう言った形式的な礼をしてはいるのもを、直接何かを渡したり形に残るものを渡したりすることをしてはいない。

 

 

「あら? テル様? こんなところでごきげんよう」

 

「お、伊澄」

 

お菓子を手に持ちながら歩いていると伊澄とバッタリ会った。 ぺこりとお辞儀をして挨拶をしてくる。

 

「今日はどこに迷子になる予定なんだ?」

 

「別に迷子になる予定はありませんよ。 ただの散歩ですよ?」

 

その散歩自体が迷子の元なんだぜ。 とテルは心の中で突っ込むが、伊澄はプライドが高い。 なるべく口にしないようにするが。

 

「つい先ほどオランダから帰ってきたところです。 これがまた歩いていたらいつの間に・・・」

 

「さらっと海外旅行してんじゃねぇか! その感覚で海外に飛ばされるお前んとこの使用人の事を考えろよ!!」

 

と、やはり口に出してしまっていた。 この少女伊澄は、歩いているだけで迷子になるという歩くワープ装置。

 

気づけば東京からちょうど反対側のブラジルにまで勝手に行ってたりする。 その行動力は計り知れない。

 

 

「そういえばここ2,3日いなかったな。 迷子だったのか?」

 

「・・・・」

 

てっきり怒って喰いかかって来るかと思ったが伊澄が黙り込んだのを見てテルは首を傾げる。 伊澄は視線をそらして言った。

 

「ちょっと、遠出の依頼をやっていたもので・・・」

 

「なんだ。 2,3日もかかる妖怪退治だったのか。 それならそうと、俺も呼んでくれればよかったのに・・・」

 

「いえ、そんな・・別にそれほど難しい依頼でもありませんでしたし・・・それに」

 

そういうと伊澄は袖で口元を隠して小さく言った。

 

「もうその相手には二度と会うことはありませんし・・・」

 

その言葉に思うことがあったが少しだ考えただけでそれ以上は深く詮索しないようにした。 

 

「なるほど。 じゃあ依頼の帰り道だったわけだ。 だったら報酬がてらにコイツを受け取ってくれよ」

 

と伊澄に先ほどハヤテから受け取ったお菓子の入ったバスケットを手渡した。

 

「これは・・・?」

 

「えーっと。 なんだ・・・普段お世話になってるわけだしな、別にチョコとか貰っていなくても感謝の気持ちがあらわせるなら相手に渡してもいいらしいぞ。 ホワイトデーは」

 

「ほ、ほ、ほわいとでーですか? しかし、これを貰うのは・・」

 

慌ててバスケットを返そうとしたがテルが無理やり伊澄の手に押し込んだ。

 

「俺はいつも鉄パイプ振り回すことしかしてないから。 こうやって直接的な礼とかやったことないから分からねぇけど」

 

受け入れてくれたかバスケットからテルの手が離れる。

 

「命とか助けてもらってるお礼が糖分・・・なんていうのもなんか変だけどよ」

 

「い、いえ! 変じゃないです! む、むしろ・・・嬉しいくらいで」

 

「ん?」

 

最後の方だけ凄い小声だったためか、旨く聞き取れず耳を立てるが伊澄が顔を袖で全体を隠した。 なにか恥ずかしいことでもあったのだろうか。

 

「で、では・・・私も来年の二月十四日にお返しします」

 

「あ? 別にいいのに。 俺がお世話になってることが多いのによ」

 

「そ、それとこれとは話が違います!! わ、私は・・・!!」

 

伊澄が両腕を振って何かを訴えようとするがその時、テルのポケットの中から着信音が鳴った。

 

「あれ? マリアさん? あ、はい。 空いてますけど・・・わかりやしたすぐ行きます」

 

携帯を閉じる。

 

「悪いな。 なんかマリアさんが手伝ってほしいことがあるんだとよ。 じゃあな!」

 

そう言い残してテルは去っていった。 

 

「も、もう・・・テル様ったら・・」

 

伊澄はバスケットを抱いて表情をつんとさせて帰った。 だが時たま顔が笑みを浮かべていたのを伊澄本人は知らない。

 

 

 

 

 

「な、なるほど・・・こいつのホワイトデーのお返しのお手伝いを・・・だいたい分かったんすけど、なんで喫茶店の手伝いを?」

 

 

ここはヒナギクがバイトしている銀何商店街の喫茶店『どんぐり』。 中の厨房ではマリアとヒナギクが料理の仕込みを行っていた。

 

「まぁかいつまんで説明しましたが、全部説明すると多分遅くなってしまいますので都合のいい解釈でお願いします」

 

「はぁ、時にマリアさん。 俺は何をすればいいのか教えてください。 料理なら喜んで・・・」

 

「い、いいえ! 流石にそれだと死人が出かねないので・・・マナーを守れていない客人の取り締まりとメニューを運ぶ仕事をお願いします」

 

マリアは慌ててテルの暴挙を止める。 そりゃそうだ。 テルに厨房を任せた暁にはどんな暗黒物質を含んだ料理が出てくるか分からない。 なんせ何度も屋敷のキッチンを破壊している張本人だ。 毒物を出してもおかしくないのだ。

 

テルがメニューを持っていくと途中でハヤテとあった。 

 

「あれ・・・テルさん・・・」

 

「あ、ああ・・・・」

 

お互いがなんとなく目を合わせずらい雰囲気になる。 やがてテルが口を開いた。

 

「ハムスターにやるホワイトデーのことだったらその時に言えば良かったじゃねーか」

 

「は、はは・・ですよね」

 

力なく笑うハヤテにテルが続ける。

 

「ま、まぁ俺が発端になっちまったようだしな・・・ちゃんと手伝ってやるよ」

 

「テルさん・・・」

 

「うん。 それでお前がホモだということは隠しておいてやる」

 

「だからホモじゃありませんから!!」

 

怒るハヤテを背にテルはニヒルな笑みを浮かべながらメニューを運んで行った。

 

 

「なんか色々と誤解を孕んでいたみたいですけど解決したようですね」

 

「そうですね。 ほんと、一体どんな誤解だったのかしら・・・」

 

高速で包丁を動かしてまな板の上の材料を切り刻んでいく姿からは想像もできない笑顔を浮かべるマリア。そんな忙しそうな素振りも見せず、マリアはヒナギクに聞く。

 

「ヒナギクさんは、今日はどうだったんですか?」

 

「えっ?」

 

とヒナギクの手が止まる。 変に慌てたのが気になったのかマリアは加えて言った。

 

「いえいえ、バレンタインのことですよ。 ちゃんと男の子から貰えましたか?」

 

「ああ、えーっと。 やっぱり女の子からのがいつもより多くて・・・遂に三ケタをマークしちゃいました・・・」

 

苦笑いでヒナギクは答えた。 三桁となると全部とかして500mlのビンにいれたとして十個くらいはいくのではないか。

 

「そうですか・・・でも、男の子からだって渡したい人はたくさんいると思いますよ? ただヒナギクさんが立派すぎてなかなか渡そうとしても一歩引いてるからだと思います。 いっそのこと生徒会長をお辞めになったらどうです?」

 

「そ、そんなことはできませんよ。 私、文武両道を三年間貫き通すって決めたんです・・・マリアさんも今年はどうだったんですか?」

 

負けじとこちらも聞き返すヒナギク。 あまり傷穴をいじる事はしたくなかったがこれくらいはしないと同等にならない。 マリアは少しだけ包丁さばきを緩める。

 

「いつも期待していませんよ私は・・・あげた人とかも別にいませんし、もしあげたいって思った人が居ても私の性格上、大体もう渡しそびれちゃいますから。 だからこの時期はあまり期待はしていないんです」 

 

「・・・・」

 

再び包丁を動かし始めたマリアをヒナギクは黙って見た。 少しだけ後悔の念を感じたのは気のせいだろうか。 もしかしたら、渡したい人がいたのかもしれない。 でも2月14日の時にはその人に渡せず時間が流れて、今日を迎えた事で改めてその人に渡しておけば良かったと。 

 

(マリアさんがそんなに渡したかった相手って・・・)

 

忙しさが増す喫茶店『どんぐり』。 生徒会長は雑念を抱きながらも仕事をこなしていった。

 

 

 

 

「ハヤテ君・・・くるかな?」

 

午後六時。 公園では寒さで両手を合わせて待つ歩の姿があった。

 

(もう約束の時間だけどやっぱり人間の欲張りってあまり良くないな。 都合がうまくいくようにお願いすると全然叶わないんだから・・・)

 

両手に向かって白い息を吐き、時計を眺める。 もう来ないのではないかと思い、その場を去ろうとした時だった。

 

「西沢さん! 待ってくださーい!」

 

その声にいち早く振り向く。 そこには息を切らしながら先程まで全力疾走でここまでやってきたであろうハヤテの姿。

 

「ハヤテ君・・?」

 

「お待たせ・・しました・・・。 今までのお礼だって、あります。 お嬢様のこととか、他にも・・・あと、なにより」

 

膝に両手を添えて前かがみになっていたハヤテは顔を上げる。

 

「バレンタインの時、西沢さんから貰って・・・嬉しかったから」

 

息を整えて、心臓の音が一定を極めてハヤテは歩と向き合う。

 

「そういうのも・・・全部ひっくるめての・・・お礼です」

 

差し出されたのは小さな小袋。 先ほど出来上がったのだろうか、二人しかいない空間に若干甘い臭いが流れてくる。

 

(相変わらずだね・・・もう少し色々と理由を行って欲しかったけど)

 

わがままな自分の無理な欲張りを叶えてくれた愛しき人に歩は笑顔を向ける。

 

「ありがとう・・・ハヤテ君」

 

 

 

 

 

「なんか今日は一日中バタバタして疲れちゃったなぁ~」

 

すっかり日も暮れ、暗くなった路地をジャージ姿のヒナギクが歩いていた。 空を見上げながら歩いて月を眺めながら一日を振り返る。

 

今日、自分はどんな一日を送ったか。

 

(これで良かったのよね・・・これで)

 

そうだとも。 歩はあの時にチョコを渡した。 私は渡せなかった。 だけど、貰いたかった。

 

「さっさと帰って寝よ寝よ」

 

体を伸ばして欠伸をこらえながら歩く。 明日からは春休みだ。 長い休みである。 バイトも始まって、どんどん忙しくなるだろう。 

 

そうすばこの悶々とした気持ちも少しは晴れるだろうか? と思っていた時。

 

「ひ、ヒナギクさん・・・」

 

「え? ハヤテ君?」

 

ちょうど向こうからダッシュで走ってきた黒い閃光。 キキーッとギャグ漫画のようなブレーキ音を立てながら止まったのはハヤテである。

 

「どうして・・・」

 

「どうしてって・・・喫茶店の方に行ったらもう帰ったって言ってたもんですから」

 

いや、そうじゃなくて。 とヒナギクが心で突っ込むが声には出さない。 何故ならハヤテが凄い息を切らしていたからだ。 結構探したのだろう。 額からの汗や服を通しての蒸気がゆらゆらと浮かんで見える。

 

「ヒナギクさんにはもぉ、試験とか、ヒナ祭りとか、下田の時もお世話になりましたので・・・受け取ってもらえると嬉しいのですが・・・」

 

と、不意に小袋を渡される。 下田の時は何がお世話になったというのか良く分からないが、ハヤテ特性のクッキーをヒナギクは受け取る。

 

「あれだけしてもらって・・・お礼はクッキーで済ますつもりなんだぁ・・・」

 

「え!? いや、そういうつもりじゃ・・・!!」

 

「くすっ、冗談よ冗談。 ありがたく受け取っておいてあげるわ」

 

その言葉を聞いて最初はうろたえていたハヤテがホッと胸をなで下ろす。

 

「じゃあ来年はバレンタインのチョコをあげるわね」

 

「え?」

 

「ば、馬鹿ね! 義理よ義理! 変な期待はしないことね!別に深い意味はないんだから!!」

 

「はは・・・わかってますよ~」

 

力なく笑いながらいうハヤテにヒナギクもまた息をついた。

 

(馬鹿ね・・・私、ほんと素直じゃない)

 

ここは普通は素直に変な上からの発言をせずに受け取るべきだった。 

 

「あー。 ハヤテ君、お月様が綺麗よ」

 

「ホントですね」

 

今はこんな形でも、いつかは好きな人に対してもっと素直な自分になれていたら、何か変わるだろうか。

 

来年のバレンタインデー、しっかり応えなくちゃね。

 

 

 

 

「へぇ・・・やっぱりテル君はホモだったんですねぇ」

 

「ちょっとちょっと!! いい感じで場面が変わってそんなみんなの俺に対するイメージが一転しちゃう発言しないでくださいよ!!」

 

ここはヒナギクたちが通っている道とは別の路地。 マリアとテルがコーヒー缶を片手に歩いていた。 喫茶店でお手伝いをしてくれたお礼に、喫茶店のマスターから貰ったのである。

 

「でも男の子からホワイトデーにもらうっていうのもなかなか新鮮な体験だったんじゃないですか? 内心嬉しかったとか?」

 

「いや、確かに新鮮な感覚ありましたよ? なんかこう、自分の中で何かが開いたような・・・扉が、ええ」

 

「それはときめきですよ」

 

「いや、違います! 断じて違いますから! いつも思いますけどマリアさんの俺に対する扱いって時々ひどいと思いません?」

 

「本人の目の前でその質問はどうかと・・・それにテル君はなんか出来の悪い弟をもった気分でついつい・・・」

 

そんな、出来の悪い弟なんて・・・。 その軽く落ち込むテルを見てマリアはふふ、と笑みを浮かべるのだ。

 

「そりゃあなんでも超出来るマリアさんから見れば超出来の悪い弟かもしれませんけど・・・」

 

「別に私はなんでも出来る訳じゃないんですよ? 出来ることしかできません。 自分のしてきたことに対して間違いをすることだってありますし、何より・・・後悔だってするんですから」

 

かつては白皇の生徒会長の座につき、三年間優秀成績保持者である証の銀時計をもっているが、ひとりの少年の苦しみを、悲しみを分かることができなかった。 

 

「私、たまに思うんです。 自分って結構馬鹿だなーってことが」

 

その人には何度も助けられてきたというのに。自分は助けることすら出来なかった。 逆に、彼の生き様を見せつけられる。

 

「だから私は『頭の良さ=人生で有利になる』っていう訳じゃないってことを理解してるつもりですよ。 だからテル君も頑張ってくださいよ!」

 

パンッ。 と背中を叩かれる。 ちょっとだけよろめきながらもテルは苦笑いで体制を整えた。

 

「その・・・マリアさんは、今までホワイトデーに何かを貰ったことは・・・?」

 

「・・・・・」

 

気落ちしながらも発したテルの言葉にマリアが黙った。 すると少しだけテルの一歩前を歩きだす。

 

「私、バレンタインも誰かにあげたことがなくて・・・あげようと思った相手も居ないんです。 だからお返しなんて見込めませんし・・・私の青春、灰色でしょ? 笑いますか? テル君は」

 

その言葉にテルは首を振った。

 

「笑いません。 でも自分で自分の人生青春を灰色という人には一生そのままかもしれないスけど」

 

「・・・言いますね、テル君」

 

「フフ、ようやくマリアさんから一本だけ取れた気がします」

 

と笑うテルはポケットから探り始める。 

 

「でも良かったス。 てっきりマリアさんたくさんの人からもらってると思いました」

 

「はは、また傷口抉る気ですか――――」

 

と一発小突いてやろうかなとマリアが振り返ったとき、目の前に一つの包が差し出された。

 

「俺、いつもマリアさんに苦労かけまくってますから。 お礼言うにも全然相手に伝わらないし、あまりこういうの渡したことないっすからよく分かんないっすけど」

 

「私、もらう資格ないですよ?」

 

「そんな事ないっす。 逆に俺が渡す資格がないっす。いつも期待に応えられてませんから・・・でも相手には、感謝したい人にお礼がしたいからっていう自分の我儘を許してくださいっす」

 

と言われて、今まで下ろしていた手を動かしてマリアはテルの小包を受け取った。 バレンタインに渡してもいない分不相応なホワイトデーのお返し。

 

「・・・ちゃんと来年、待っててくださいよ? バレンタインのチョコは誰よりも美味しくできる自信がありますから、それまでに色々とあって退学したり、三千院家から居なくなったりしたら許しませんから」

 

「いやぁ、流石に借金を返すまでは居なくならないかと・・・じゃあ期待してますからね?ワリとマジですからね」

 

「もちろんですとも」

 

スキップを踏みながら数歩またさきを歩いて振り返った時のマリアの笑顔はいつもより輝いていた。 

 

これにてそれぞれの少年少女に色々と衝撃を与えたホワイトデーのお話はおしまい。







後書き

ちなみにこの小説でバレンタイン貰った人
・ハヤテ(2個)
・千里(1個)
・ヒナギク(62個)
・唯子(89個)

オイどうした主人公。 そしてバレンタインになぜかもらってる女子二人は返すのが大変です。

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