ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
次の話は休憩みたいなものです。


第82話~人から貰えた物はなんだって嬉しい。それが例えアレでも~

3月14日。 今日はホワイトデーである。

 

(そういえば・・・今日ってホワイトデーだったな)

 

3月にもなり、だんだんと気候が暖かくなり始めた頃、執事綾崎ハヤテは悩んでいた。

 

(ホワイトデーのお返しは西沢さんにいらないって言われたけど・・・やっぱいっぱいお世話になってるしお返ししなきゃ失礼だよなぁ人として・・・)

 

先日の下田旅行の際、桜の散る道を歩と自転車で駆け抜ける中、ハヤテはバレンタインデーのお返しについて聞いた。だが歩はきっぱりと笑顔でいらないと答えたのだ。

 

「しかしなんであんなに笑顔で断られたんだろうか・・・」

 

やっぱりなにか悪いことしたんじゃないか、とハヤテはいつものように妄想を膨らませる。 この悪い方向にいつでも考えてしまう癖をとにかくなんとかしたいものだ。

 

「テルさんはどうしたらいいと思いますか? ホワイトデーのプレゼント」

 

ティーセットのカップに紅茶を注ぎながらソファーに天井を見上げながら座る男に聞くと、男は上げていた首を平行に戻してこちらを見た。

 

「あのぅ・・・なんで睨んでるんです?」

 

「別に睨んでもねぇーから。 プレゼントだっけ? カエルの変死体でも入れればいいんじゃね?」

 

「いやいやいや・・・」

 

歪んだ笑みを浮かべた男、善立 テルは言った。 プレゼントはカエルに限ると。 当然のことながらハヤテは否定する。

 

「なんで小学校の悪戯の類をホワイトデーにプレゼントしなきゃならないんですか? こっちは真剣に悩んでるんですよ!? 真面目に考えてください!!」

 

「真面目にだぁ?」

 

ピクリと動きを止めて、テルはハヤテをギロッと睨んだ。

 

「そんな嬉しいことを悩むなんて、こっちには考えられないね! 大体3月14日って何!? ホワイトデーって何!? バレンタインデーのお返しって何!? 糖分に対して糖分でお返しするって何!? 俺にとっちゃ全世界の3月14日はただの『普通の月曜日』に過ぎないんだけど!!」

 

「なんでそんなにキレてるんですか!!」

 

「キレない理由があるかこの女たらしの変態野郎がぁー!!」

 

「まだ僕にホモ疑惑があると!? だから誤解ですって!!」

 

気付けばハヤテもテルに合わせてヒートアップしていた。 テルがキレている理由はただ一つ、ハヤテはバレンタインのチョコを貰えていて、テルはチョコを貰ってもいないのである。

 

まぁチョコもらった男子がホワイトデー当日に『プレゼントなにあげたらいい? 悩んじゃうんだよねー毎年さぁ』ってチョコもらえていない男子に聞いてきたらそらぁキレる。

 

本来嬉しいことであることを『悩み』と捉えているのだ。 

 

「それに貰ったチョコは手作りなんだろ!? ってことは『そういうこと』なんだからお前だったら何あげても大丈夫だろうが!! 何悩む必要があるんだよ!!」

 

テルはハヤテにチョコを渡した歩がハヤテに思いを寄せていることを知っている。 なので歩にとってハヤテが渡したものならなんでも良いはずだ。 

 

「その何をあげるっていうところで詰づいているんです! 何を渡したらいいか分からないんですから!!」

 

「もう馬にけられて死んでしまえェ!!」

 

「僕がいつ他人の恋路を邪魔したんですか!?」

 

「ひとりの少女の恋を邪魔してるんだよ! お前自身が!」

 

「僕に誰が恋してるって言うんですか!? いませんよこの世に!!」

 

「もう馬にけられなくてもいいから死んでしまえ!!」

 

「結局死ぬんですか僕――――!?」

 

 

 

 

第82話~人から貰えて嬉しいものはなんだって嬉しい。それが例えアレでも!~

 

 

 

月曜日、そう旅行から帰ってきて楽しいムードはなくなったが、学校は無くならないのである。

 

だが今日はテルにとっても嬉しい日であった。 テルだけでなく、日本中の学生たちがこの日を待っていただろう。

 

白皇学院全校集会にて。

 

「以上で三学期の生徒総会を終わります。 皆さん、白皇の生徒としての自覚をもってよい春休みを過ごしてください」

 

ヒナギクがお辞儀をして一言終えた瞬間、白皇学院時計塔の大広間は拍手喝采に満ち溢れれた。 そう、この日から白皇学院は春休みに突入する。

 

「いやーさすが生徒会長さんは立派だな。 よくあれだけの人を前に落ち着いて喋れるものだ」

 

「ヒナちゃんすごーい!」

 

式台から降りると美希、泉、理沙の三人がヒナギクを迎えた。 

 

「もぉからかわないの。 一応、緊張はしてるんだから」

 

「でもなぁ~」

 

「ねぇ~♫」

 

ニヤニヤとこちらを見ながら笑う美希と泉にヒナギクはため息を漏らす。 こっちは本当に忙しくてプレッシャーもかかるからなかなか休めないのに。 

 

と思いながらヒナギクは手にもっていた紙袋を取り出すと小さな包を取り出した。

 

「美希、はいこれ」

 

「ん?」

 

差し出されたその箱を美希は戸惑いながら受け取る。 中からはかすかに甘い匂い。

 

「なにじゃなくて・・・ホワイトデーよ。 チョコこの前貰ったじゃない・・・そのお礼だから、手作りクッキーよ」

 

「お、おお!! そ・・・そう!!わざわざ悪いな!!」

 

美希が嬉しさで照れていると、周りの女子もそれを見てか寄ってくる。

 

「わーずるーい」

 

「会長のクッキー私も欲しいー」

 

「あーもう、分かったわよ! こんなので良ければいくらでも上げるわよ!!」

 

(去年より多めに作ってきて良かった・・・・)

 

去年の経験からか、年々チョコは増える一方だ。 ヒナギクとしても今日のこういった事は初めてではないため、お返しのお菓子も年々増えていっているのが悩みである。

 

どんどんと寄ってくるヒナギクのチョコ求める女子たちをヒナギクは嫌な顔せず対処していく。

 

「私もー」

 

「私もー」

 

「私もー」

 

「私もー」

 

「ん?」

 

最後の声に対し、ヒナギクは眉を寄せて渡すのをやめた。 最後に聞いた声が少しどこかで聞いたことがある男口調だったからだ。

 

女子の群れの中から顔をひょいと出した人物は、テルだった。

 

「なんでテル君がチョコもらおうとしてるの?」

 

「いや、それだけあったら俺ももらってもなんら罪はないかなーと」

 

「あなたにチョコを渡した記憶はないのだけれど」

 

「ま、そんな事は気にせずお一つ」

 

と、テルが包に手を伸ばした瞬間。 テルの腕に鎖が巻かれた。 テルが隣を見ると、鎖を持っているのはその場にいた女子だった。

 

「会長のお菓子をもらう資格のない輩が! 簡単に会長のお菓子に手を出すなー!!」

 

「え? ちょ、なんで皆鎖とかもってるの? 会長? コイツら明らかに校則違反してまーす!!」

 

とヒナギクに取り合ってもらおうと冷や汗を浮かべるが、ヒナギクはクルッと背を向けて。

 

「それじゃあ残ってる仕事の調整に入りますか。 行きましょう、千桜(ちはる)さん、愛歌(あいか)さん」

 

「はい。会長」

 

「分かったわ」

 

同じ生徒会役員とも見られる少女が頷いてヒナギクたちはその場を去っていく。 テルの目の前には様々な得物をもった女子が殺気だった視線を集中させていた。

 

 

数分後。 鎖を全身に巻き付かせられたひとりの男子生徒の姿が時計塔の大広間にあったという。

 

「ほんと、女の敵よね」

 

「まったく、女子力なめんなって話よ」

 

 

女子力(物理)、怖るべし。

 

 

 

 

「クソ・・・酷い目にあった・・・」

 

集会も終わり、一段落した白皇学院校舎の廊下をテルは歩いていた。 先程の女子力の嵐に見舞われた体があちこち悲鳴を上げる。

 

「あんれー? ここって二年の廊下かぁ?」

 

周りの生徒の上履きにちょっとだけ変化がある。 そして教室の上には2―Aと書かれていた。 どうやら歩いている間に二年の廊下に入り込んでいたようだ。

 

どうやら終業式が終わったために、午前中で学校が終わりだ。 もうほかの生徒は下校をしようとする生徒がちらほら見て取れる。

 

すると廊下の窓際にひとりの大男が寄りかかって外の景色を見ていた。 金髪で身長が高い、自称キングで定評のある乙葉 千里だ。

 

(あんま関わりたくねー。 ここはスルーに限るよなオイ)

 

「む・・・貴様は」

 

見つかってしまった。ものの数秒である。 声をかけられてしまったからにはしっかりと応対しなければならない。

 

「王様・・・ちょっと空気読めよ」

 

それも善立流な訳だが。 

 

「貴様、王に向かってそのいい草はなんだ。 それに、空気を読めとはどういうことだ? 気象の流れを理解することか?」

 

 そこまで読まなくていいよ。 と心の中でツッコミながら、テルは千里の手が二つとも空いていることに気がついた。それを見てテルはニヤリと笑う。

 

「ま、そうだよなぁ王様」

 

「ん?」

 

テルは思っていた。 この厳つく、問題児でもある自分主義の塊が世界が何度生まれ変わったとしてもチョコをもらえているはずない。 いや、貰えるはずがない、故に渡す相手が居るはずがない、と。

 

「お前も俺の仲間だなぁオイ。 別に悔しがる必要はねぇさ。 人間の人生ってのは汚点は付きもだって、そう例えチョコが貰えていなくたってなぁ!」

 

ぱしっ、ぱしっと千里の高い肩を叩きながらテルは笑うが、当の千里はテルの言葉に思い当たることがあったか。

 

「ん? 菓子か? あるぞ。 ここにな」

 

「へ?」

 

ヌッと何処からか取り出されたのか分からないが、少し大きめの箱が千里の手のひらに乗っている。 

 

もちろん、テルは人間が死んだ時に見せる死後硬直のように体を沈黙させた。 と、次の瞬間。

 

「なんでダァーーーーーー!!!」

 

彼は叫んだ。この世の理不尽さを。 相当ショックだったようで、膝を床に付けて、立ち上がろうとしては膝をつき、立ち上がろうとしては膝を付くという行為を繰り返している。

 

「誰だ・・・コラ、一体だれにやるんだコラ」

 

「ああ、それだが、もう少しでこっちに来るはずなのだがな・・・」

 

「おーい千里くーん!」

 

 時計を見て確認しているときに向こうから間延びした声がした。 走ってくるのは少女。それはテルがよく知る少女だった。

 

「あれ? テル夫くん? どうして二年の廊下にいるの?」

 

「い、委員長だと・・・?」

 

そう。 何を隠そう、千里がホワイトデーにお返しする相手はクラスのいいんちょさんレッドこと、瀬川 泉だった。

 

「やーやー。 千里くん、今年もありがとねー♫」

 

「む、もらったらちゃんと返せと爺やが五月蝿くてな」

 

「今年も・・・だと?」

 

泉と千里のやり取りにテルは息を飲んだ。 つまりだ。 千里は去年のバレンタインも泉からチョコを貰っているということになる。 これは何かの見間違いだろうか。

 

「受け取れ。 もう俺には渡さなくてもいいんだぞ別に、供物としてなら別だが」

 

供物? と泉は一瞬唸るとにぱりと笑って返した。

 

「別にいいよ~、受け取れるものは受け取ってもいいんじゃないかな~王様」

 

最後に笑顔を残して泉は去っていった。 テルにとっては謎が深まるばかりである。

 

「なんで?」

 

「いや、何がだ」

 

「いや、なんで貰えてるのお前?」

 

テルの疑問を解決するために直接本人に聞きただす。 だが千里は腕を組みながら言い放った。

 

「わからん」

 

本人もまったく思い当たる節がないようだ。 とするとこれは・・・。

 

「おお、テル君にバカ王子ではないか!!」

 

凛とした声に振り返ると千里と同じ二年の奈津美 唯子の姿があった。

 

「ふむ、バカ王子は今年も瀬川嬢からか。その様子を見るとテル君は・・・フッ」

 

「あーっ! 今鼻で笑ったろ! あんま構うなこの野郎! あっち行け!」

 

唯子ははっはっはと笑い出す。 完全にこちらの反応を楽しんでいたのは見て分かった。

 

「ま、私もあまり長いすることはないさ。 今日の私は、かなり足取りが重くてね・・・」

 

「ん? 体重?」

 

その言葉を発した瞬間、テルの顔面に見事なハイキックが炸裂した。

 

「お、おま! 顔面の骨が砕けるだろうがッ! 手加減っていうのを知らねーのかよ!」

 

「レディーに対して重さの話を持ちかけるとはいい度胸をしている。 どうだ? ムエタイ選手直伝のキックだ。 次はどこを狙って欲しい? 言ってみろ」

 

足のつま先を床にトントンとさせてリズムを取る。 それを見て千里の後ろに隠れた。

 

「ん? それって・・・」

 

千里の後ろから見えたのは唯子の後ろ2,3個ほどの袋を乗せた台車があった。

 

「ああ、この時期になると本当に困るのだよ。 作るのも大変だ」

 

なるほど。 とテルは納得する。 この人物のことだ。 恐らくバレンタインデーの日にしこたま貰ったに違いない。 

その点ではヒナギクと一緒の状況を迎えているのだろう。

 

「しかし、ホワイトデーは男が渡すのではないのか? 女からしか貰っていないのだが・・・」

 

と唯子は袋の中から一つの箱を取り出した。 青と白のラインでラッピングされたシンプルな包だ。

 

「どうだ? やろうか? 贈り物だぞ」

 

「そんな哀れみに満ちた贈り物なんていらねー」

 

テルは額に青筋を浮かべながら拒否した。 唯子は少しだけまた笑って箱をしまう。

 

「まぁそう腐るな。 もしかしたら君だってもらえるかもしれないぞ?」

 

「どこの女から貰うって言うんだよ。 まず、貰うとしてもそれは来年の話で・・・」

 

「誰が女といった? それに今日はホワイトデーだ。 男が相手に渡す日でもあるのだぞ?」

 

「え? ま、まさか・・・」

 

唯子の意図を理解したテルは一瞬で顔の表情が冷めていくのを感じた。

 

「そうだ。 男からだ」

 

凍る。 背筋が凍りつく。 これほどまでに嫌悪感を露わにしたことがあっただろうか。

 

「幸いわいにも君の周りには美少年とホモの執事が二人ほどいるじゃないか」

 

「ねぇーから! 断じてそんな展開ねぇーから! カモが白鳥になるくらいねぇーから!」

 

「はーっはっはっは! それも一つの愛の形、存分に青春を謳歌したまえ!!」

 

その言葉を残して盛大な高笑いを発しながら台車を転がして唯子は去っていく。 

 

その唯子の言っていた事が本当に起きないことをテルは祈っていた。 

 

 

 

 

 

 

 

(しかし・・・ホワイトデーか。 そもそもホワイトデーって男があげるもんじゃないの?)

 

帰り道、ヒナギクは二年の同じ境遇の人物と同じ思考を巡らせながら帰路についていた。

 

(まぁそれは・・・好きな人から貰えたらさぞかし嬉しいでしょうね~)

 

街はもうホワイトデー一色だ。 店頭にはホワイトデー用のグッズやお菓子類を売っている店で溢れている。

 

(どうせなら手作りでしょ。 男で料理ができないからお店ので妥協して相手に渡すなんてどうかと思うわ)

 

と、ヒナギクが自分で結論づけていたところで一つの小さな菓子屋に足が止まった。 ガラス張りにされた店頭にはホワイトデー商品が並んでいる。

 

「ヒナギクさん」

 

不意に声をかけられてヒナギクが振り返るとそこにはハヤテの姿があった。

 

「あ、ハヤテ君・・」

 

「この前は助けていただいて有難うございました・・・」

 

「助けたって、わたし何もしていないけど・・・」

 

「いえ、あの下田に行く途中で西沢さんとゆっくり話が出来ましたし・・・」

 

 ヒナギクはハッと気づく。 そういえば自分の計らいでその時はハヤテと歩を一緒にさせるように仕向けたのだ。 

だが、下田の温泉でヒナギクが歩と色々と話し合ったのをハヤテは知らない。

 

「そ・・・そう!! 良かったわね~!! 大事にしなきゃダメよ! とっても優しい子なんだから!!」

 

「ええ。 それでちょっとヒナギクさんに相談があるんですけど・・・」

 

と苦笑でハヤテは続ける。

 

「西沢さんにホワイトデーのプレゼントをしようと思っているのですが、どんなものがいいでしょうか?」

 

「え?」

 

と、ヒナギクは一瞬だけその言葉に身を固まらせた。 

 

「こういうのって男の意見より、女性の意見の方が大事だと思うんですよ。 そう、男なんかより女性の方が!」

 

「なんか今日男に聞いて失敗だったみたいな言い方だけど・・・やっぱりそういうのってクッキーとかじゃない? こういう可愛い感じの」

 

「あ!こういう感じの奴ですか?」

 

ハヤテとしては装飾の凝ったクッキーの詰め合わせがバスケットに入ったものだった。 ハヤテとしてはデザインもよくて誰かが貰えば絶対に嬉しいと思うものだろう。

 

だが、それは最初にヒナギクが見ていたものだった。 それもただ見ていたのではない。

 

自分が好きな人から貰いたかった商品だった。

 

「そ・・・そうね。 そういのを貰えば、女の子は喜ぶんじゃない?」

 

その時は、一般論を出した。 恐らく、こうやって言っておけばある程度は大丈夫だと思われる言葉をだ。

 

ヒナギクの勧めもあってかハヤテも納得したようだ。

 

「有難うございますヒナギクさん! やっぱり男の人とは違いますね! ホント、男の人とは!!」

 

(さっきから・・・朝から男でトラブルでもあったのかしらね?)

 

「ま、まぁこのプレゼントは私が選んだっていうのはNGよ? 分かった?」

 

「え? なんでですか?」

 

あ、呆れた・・・。 とヒナギクは改めて思う。 それではまったく意味がないではないかと。

 

(あーもう、説明することもめんどくさい!!)

 

「とにかく! ちゃんと自分で選んだっていうのよ! 早く買いに行きなさい!!」

 

「は、はーい!!」

 

若干怒り口調でハヤテを急かし、ハヤテが店の中に入ったのを見てその場を後にした。 

 

(ま、チョコを渡していない私になんてもらう資格なんてないけれど・・・)

 

思えば、あの時は自分の気持ちがハッキリしていなかった。 だが今は気持ちに素直になればハヤテのことは好きであり、こういったイベントの時に貰いたいという気持ちがないと言われたら嘘になる。

 

(それとも、あの時にチョコを渡していれば・・・私も貰えたのかな・・・ハヤテ君から・・)

 

肩を落として一気に気持ちが下がった。 思えば、自分は恋愛において常に後手に回っている気がする。

 

「な・・・なんてね!! そんな暗いこといっててもしようがないわ!!」

 

ヒナギクは強引に声を高くして、携帯電話を取り出した。

 

「下田では結局ハヤテ君の事は話せなかったけど、アユムからはバレンタインのチョコを貰ったんだから話すきっかけが・・・」

 

歩の電話番号を電話帳から探してダイヤルする。 コールが2,3回ほどなってメッセージが耳に響いた。

 

「あ、歩―――――」

 

『Jud。この電話は現在ぶっ壊れております。 具体的には自転車に乗っているところを暗殺者に襲われた時、思わず落として壊れています。 メッセージも残せません。 そのまま切るかキレてください。――――――以上』

 

携帯電話から聞こえるどこかの自動人形のような音声を聞いてヒナギクは携帯を閉じる。 そして・・・。

 

「も――――――!! なんなのよこれは―――――――!!」

 

キレた。

 

 

 

 

数十分後。 買い物を済ませたハヤテは買った商品を片手にと負け犬公園に足を運んでいた。

 

「お返しも買ったし・・・後は感謝を込めてこれを西沢さんに渡すだけだな!!」

 

しかし、歩いていた足を止めてハヤテは或ことに気付いた。 そう、簡単そうに見えて実はすごく難しいアレ。

 

「どうやって渡そう・・・」

 

そう、相手に渡すという行為だ。 一見簡単そうに見えるが、これは様々な条件や想定される会話やタイミングを考える必要があり、最大の関門でもあるのだ。

 

(あれ? なんか凄い緊張してきたぞ・・・まずい。 落ち着け自分・・)

 

 

 

そして深呼吸を始めるハヤテの後方の茂みで蠢くものがあった。 帰宅途中の西沢 歩である。

 

(ハヤテ君、なんであんなところに? しかもあの手に持ったものは・・・まさか・・・私へのホワイトデーのプレゼント?いや、まさかね。 いや、でも・・)

 

今朝から今さらになって貰いたくなったということもあり、歩も期待せずにはいられない。 願っていた事がかなってしまうとは。 と歩の顔がうっすら赤くなっていく。

 

(取り敢えず・・・声だけでもかけてみようかな? 声だけでも・・・ヤイサホ――――って・・・)

 

と、恐る恐る声をかけようと決意したとき、ハヤテはというと。

 

(よ・・・よーし、こんな時はまず予行練習だ予行練習・・・心を落ち着けて・・・そして・・そして・・・)

 

心の揺れを水の波紋と例えてそれがなくなるまで精神を統一させる。 そして水の波紋がなくなったとき、目の前に歩がいるとイメージさせてシュミレーション通りに持っていたお菓子を両手で差し出した。 

 

「これを・・・受け取ってください!!」

 

(ん~こんなものかなぁ・・・アレ? 見たことある靴だな・・・誰だっけ?)

 

お辞儀するような姿勢をとっているため、ハヤテにはその下の地面しか見えなかった。 そして直感的にこれはどうもマズイ予感がすると思い顔を上げると。

 

「・・・・・え?」

 

「・・・・・あ」

 

 

見慣れた靴の正体・・・そして同時にハヤテの言葉を聞いていた人物は、なんとテルだった。








後書き
なんでこんな奇跡がおきるんですかねぇ・・

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