ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
黒羽さん。マジ逃げて(二回目)


第81話~黒き死神の最期~

雨が降っていた。 最近はどうも雨が多い。 梅雨でもないのにここ2~3日雨が続いていた。

 

 

その雨の空を飛び続ける鳥がいた。 否、鳥のような何か。

 

『あー、雨なんかずっと見てると欝になってくる~』

 

漆黒の羽を羽ばたかせたソレは、確かに羽以外は、人間の少女の姿をしていた。 黒いローブを着て、黒の長髪を風でなびかせているのは黒羽だ。

 

『マスタ~ このままじゃカゼひいちゃいますですよぉ』

 

先程から喋っていたフードの部分に隠れていた黒羽の分身、チビハネがひょいと顔を出す。 

 

『あの下田に行ってからあのクソバカはいなくなりやがるし・・・』

 

チビハネが言っている人物とは、木原 竜児のことである。 勝手に居なくなったのではなく、居なくならせたというほうが正しい。

 

『でもあの野郎がいなくなったおかげでこちらとしても邪魔になる要素がなくなって丁度いいです! 食費も浮くのです! 節約万歳! 一人暮らし万歳!』

 

「・・・・・・」

 

フードの真後ろで歓喜の声を挙げられても黒羽は嫌がる素振りも見せず、無言だった。

 

『マスター、最近・・・疲れてませんか?』

 

黒羽は心配そうに見てくるチビハネを横目で見た。 寒さもあってか、少しだけ手が震えている。

 

『この前の傷が全然ふさがってません・・・いつもなら一日で完全に治ってるハズなのに』

 

そう、前のテルとの戦いはこれまでの戦いの中では最も過酷な戦いであったことは黒羽自身も自覚している。 

だが今まで一日も掛からない傷の回復がこれまで遅れた事があっただろうか。

 

原因は、あのテルの鉄パイプに巻かれた札の力にあった。

 

どうやら、あのパイプに巻かれた札は黒羽の力にとって天敵となるらしい。 その分、札の使用者には相応のリスクが備わうらしいが。

 

『ま、マスターの力になることだったら私はなんでもやります! だから、今は傷を直すことだけに専念しますですよ! マスターが居なくなったら、わ、わたじ・・・』

 

小さくフードの後ろで嗚咽が聞こえてくる。 このチビハネは黒羽に対する忠誠心は本物だ。

 

「大丈夫」

 

黒羽が一言だけ、黒羽に向けて言った。 このように気遣いをされたのは恐らくこれが初めてだと、チビハネは目を丸くする。

 

『は、初めてマスターに気遣われたです! 何か不吉な予感がするです・・・』

 

「・・・・」

 

フードの中は『え? うそ、マジで?』などという言葉を繰り返しているが、黒羽本人にはどうでもよかった。

しかし、自分がさっきのような言葉を口走ってしまうのはなぜだろうか。

 

思えば、最近になって地震のの言葉数というのが増えてきた気がする。 その原因は恐らく、あの鉄パイプをもった執事だ。

 

あの男が持つのは強さだけではない。 まだ他に持っている。 自分にはない大きな力を持つ武器を。

 

『しかし、今日は川の水が荒れてますねぇマスター』

 

丁度、黒羽達が飛んでいる場所からは雨のせいで水位が上がり、濁流と化している川が見えた。 その川をまたぐように線路が伸びている。 

 

『こんな日はさっさと帰ってあったかいココアでも飲むに限りますですよ!!』

 

と、その時。

 

 

―――掛かりました

 

 

突如、黒羽の半径五十メートルを淡い紫色の光が囲んだ。

 

『な、何ですか――――!?』

 

「・・・・」

 

紫の光の柱が合わせて六本。 まるで黒羽をここから逃がさないかのような現れ方だ。 六本の柱が立つと、霊力がはじけて、ドーム状に展開される。

 

「・・・結界」

 

『け、結界ですか――――!? いったい誰が? なんのために!?』

 

黒羽の一言にチビハネが慌てて身をフードの中から現す。 この状況では仕方ないことだろうが、もう少し冷静にならないだろうか。

 

そう思いながら構えていたとき。

 

「――――ッ!?」

 

黒羽が背中に衝撃が走った。 強力な霊力の塊が自身の背中を直撃したのだ。 角度からして、地上から狙われたのは確かだ。と、落ちながら分析する。

 

『のわわわわわわわ!!!』

 

分析の最中、体から離れたチビハネを手につかむとそのまま線路の上に着陸した。

 

『あ、ありがとうございますマスター』

 

「・・・・」

 

チビハネの助けてくれた黒羽に対するお礼の言葉は恐らく黒羽には届いていないだろう。 何故なら、その瞳には既に別の何かが映されていたからだ。

 

「お久しぶりです・・・探しましたよ」

 

「・・・・・・」

 

雨の中、番傘をさした伊澄は睨みつけるような瞳を黒羽たちに向けた。

 

 

 

第81話~黒き死神の最期~

 

 

 

 

 

「この結界は、設置式のもので閉じ込めるものをここまで誘い込まなければなりませんが、その効果は強力です。 恐らく、あなたが出るにはかなりの時間がかかりますよ?」

 

「・・・・」

 

くるりと首を捻って黒羽は辺りを見渡す。 光の柱に囲まれたこの場所では伊澄の霊力が満ちている。 それは空まで届いていることが分かった。 どうやら逃げ場はないらしい。

 

「ここにくることを予想して正解でした。 私が望むことはただ一つ」

 

伊澄は袖から一枚の札を取り出して、黒羽に向けて構えた。

 

 

「あなたともう一度、戦いたい」

 

「・・・・」

 

突きつけられたのは伊澄からのリベンジマッチだった。 

 

「再戦の意味もありますが、もう一つ・・・あなたを、私の大切な人たちに近づけさせないためです」

 

力強く、言った。 恐らく、こちらの方が本当の理由だろう。

 

「これ以上、私の大切な人たちに危害を加えるようであれば、私は私の持てる力をもってあなたを全力で叩き潰します」

 

これにはどうやら明確な殺意を感じた。 まだ幼い年頃がこのような殺意を出せるのだろうか。 それと同時に肩に乗っていたチビハネもカタカタと震え出す。

 

『ま、マスター。 は、早く逃げたほうがいいですよ・・・ってしまった! 逃げられないんだった!!』

 

どうやらここからは逃げられないようだ。ここで戦うしかなさそうだ。

 

「・・・・・」

 

黒羽は黒い剣を構えた。 左右の腕から生やした腕を構えて素早いスピードで伊澄へと迫る。

 

『先手必勝です! 行けェ! マスター!』

 

チビハネは馬にでも乗ってる気分なのか。 

 

黒羽の振りかざした剣が伊澄に届く前に、伊澄の覆うように光の壁が現れる。

 

金属音が響く。 黒羽の剣は届くことなく、その壁に阻まれた。

 

「・・・・・」

 

「・・・・」

 

 

お互い近い距離に、防御の壁を一枚挟んで対峙する。 この壁は前回は何度も攻撃することにより壊せるはずだ。

と、考えた黒羽は連続で攻撃を仕掛ける・・・だが。

 

パキィン。

 

『これは・・・!?』

 

チビハネがまっ先に驚いていた。 なんと攻撃を仕掛けた黒羽の剣が砕けたのだ。

 

「・・・・・」

 

構わず、ともう片方の剣でも攻撃を仕掛けるが、同じく簡単に砕けてしまう。

 

『ま、マスター! 前、前!!』

 

自身の剣が砕けたことに呆気にとられていたとき、チビハネの声で我に帰った。 だが目の前には激しい光。 伊澄が札を構えている。

 

「八葉六式・・・撃破滅却ッ!!」

 

右手から展開された五芒星から紫の極太レーザーが黒羽の体にほぼ至近距離で直撃した。なすすべなく、黒羽の体が吹き飛ばされる。

 

『ま、マスター!!』

 

チビハネの悲鳴にも似たような声が耳元で響く。 体を震わせながら起こすと立ち上がった黒羽は、右手から槍を出現させて伊澄に向けて飛ばした。

 

「これくらい・・・!!」

 

迫り来る無数の槍を展開した光の防御で全てを弾いた。

 

「この前は体調が万全ではありませんでした。 これが今の私の全力!!」

 

札を構えて何か術式を唱え出した伊澄の体から一層霊力の波長が強くなる。

 

持っていた札を投げ捨てると、その札は一つの光となり、空へと浮かんだ。 

 

「術式八葉・・・建御雷神(タケミカズチ)ッ!!」

 

浮かんだ光が一層輝きを増した瞬間、光は空気を裂く豪雷となって黒羽に降り注いだ。 

当然、まともに防ぐことも叶わず、その豪雷をまともに食らう。

 

『わぁ――――!!』

 

チビハネが激痛を覚悟して頭を隠したが、建御雷神を食らう前に黒羽が体を使って庇ってチビハネのダメージを殺す。

 

「・・・・」

 

『ま、マスター! 私を、かばって?』

 

弱っていて、ダメージも回復していないこの状態で戦うことは危険なことだと、黒羽は自覚していた。 だが先程から食らってはいけない攻撃を何度も受けている。 

 

「・・・・」

 

黒羽は反撃を試みるが、ダメージをもらい過ぎたためか、剣を作っても形をなすだけですぐに崩れさってしまう。

 

「もう、限界のようですね」

 

その様子を見た伊澄が札をしまった。 

 

「ここであなたがもう手を引くのであれば、私は貴方を倒しませんし、二度と貴方を追うなんて考えません」

 

(テル様がやっていた。 戦うだけでない、言葉で分からせる戦い方・・・私にも出来るはず)

 

伊澄はただ戦ってねじ伏せるのではなく、テルのように相手にそれ相応の力の差を見せつけて、こちらに勝負を挑む気力を削ごうという作戦を望んでいた。 

 

無駄に血を流すことなく、相手にとってもさほど悪い条件では無いはずだが。

 

「なぜ・・・戦うのを止めないんですか」

 

黒羽が示したのは白旗でもなく、戦闘続行の意思だった。

 

「無駄だって分かっているはずです! これ以上自分を殺すようなマネをしてどうするんですか!?」

 

『そ、そうですよマスター! あの女の言うとおりです! ここは条件を飲んで逃げましょうよ!』

 

伊澄の言葉に拍車をかけるようにチビハネもこの場の撤退を望んでいた。 だが黒羽は聞く耳を持っていない。 両の手から剣を作り出して構える。

 

『もう止めましょうよ! これ以上力を使ったら・・・本当に死んじゃいますよ!!』

 

肩に雨とは別の水が落ちる。 横目で肩の部分を見るとチビハネの瞳からは大粒の涙が流れていた。 その悲しそうな声に戦いの瞳をしていた黒羽の表情が一瞬だけ緩む。

 

『わらじ(わたし)・・・わらじ、マスターが死ぬなんて、考えたくない"っ!!』

 

顔の涙をローブの袖で拭いながらチビハネは泣く。 自身の主を失うということだけは何としてもやめて欲しい。

 

そのチビハネの手に、大きな手が添えられた。 撫でる手は主である黒羽の手だ。

 

『・・・マスター』

 

そして表情をもとに戻して再び伊澄と向き合った。

 

(これは・・・覚悟を決めた顔)

 

伊澄も黒羽の顔を見てそのプレッシャーを肌で感じ取った。 もう相手は長くない。 次の一撃で全てを決めてくるだろう。

 

『マスターの決めたことにはもう反対しません』

 

チビハネが肩で涙をぬぐった。 こちらも覚悟を決めたようである。

 

『そして、死ぬときは一緒ですよ!!』

 

拳を握り締めて、伊澄に向かって『かかってこいやゴラァ』と挑発している。

 

「だったら、私も手加減できませんよ」

 

(この・・・分からず屋が)

 

伊澄も本気だ。 札を新たに取り出して、膨大な霊力を開放する。

 

「・・・・」

 

黒羽は持てるだけの力を振り絞り、巨大なドリルを作り出した。 右手に作り出したドリルはテルとの戦いで作り出したドリルとは比べ物にならないほどデカイ。 もしかしたら十メートルくらいはあるかもしれない。

 

 

その重さをものともしないのか、持ち上げて構えると伊澄に向かって突っ込んでいった。

 

『突貫じゃあああああ・・・・え?』

 

威勢良く叫んでいたチビハネが急に叫ぶのをやめた。 黒羽も急に走るのをやめる。

 

 

二人の目の前に現れたのは、巨大な竜だった。

 

大きく、そして見た目も恐ろしい。 昔の竜のイメージを具現化したものだった。 オイこらそこ。 バ○ウ○ケルガとか言うな。

 

「術式八葉上巻(じゅつしきはちようかみつまき)・・・神世七夜(かみよのななや)」

 

竜の口が開かれて、その口は真上から黒羽を捉えていた。 猛々しい吐息を吐きながら、神世七夜は黒羽めがけて突っ込んできた。 

 

 

黒羽も、ドリルを真上に向けて応戦する。 二つの最大の技が今、ぶつかりあった。

 

地面と空が震えて、激突の衝撃は轟音を呼ぶ。

 

 最初は互角だったが、後にジリ貧で黒羽の方が押され始める。 だんだんとドリルの面にヒビが入ってきたのだ。

同時に意識が薄れてくる。

 

『ま、マスター! 頑張ってッ』

 

そんな意識を何度も呼び戻してくれていたのは肩に乗っているチビハネの存在だった。

 

『まだ、押し返せますよ!』

 

なぜ、この小さき者はこんなにも自分を応援してくれているのか。

 

黒羽は理由が分からなかった。 その一方で右手のドリルはほぼ半壊状態になり、腕からは血が出始めた。もう限界である。

 

「はああああああああ!!」

 

伊澄の気合の声と共に神世七代が勢いを増した。 拮抗状態にあったドリルを噛み砕き始める。

 

強力な霊力の塊。 これを喰らえばいくら黒曜の力をもってしても防ぎきれるかどうか。 何より、ただ少しだけ力が強いだけのチビハネが耐え切れるだろうか。 無理だろう。

 

(気づけばそんなことを考えている)

 

『マスター! ファイトォ!』

 

黒羽は決断した。

 

ドリルがほぼ砕かれて神世七代が目の前に迫ってきたその瞬間。 

 

『え?』

 

黒羽は肩に乗っていたチビハネを鷲掴みすると、出来るだけ遠くに投げ飛ばした。

 

『マスター、なんで――――』

 

「・・・・・」

 

 

 

――何か。忘れていたものを・・・思い出した気がする。

 

 

 

 

チビハネはこちらを横目で見ている黒羽を見た。 いつもと変わらぬ無表情。 だが、その表情は確かにチビハネに伝えていた。

 

『生きて』

 

 

――だが気付くのが、あまりにも遅すぎた。

 

 

 

 黒羽の目の前には巨大な口を開けた伊澄の最強の術がある。

 

視線を直した黒羽は、次の瞬間には巨大な竜の一撃に飲み込まれた。

 

激しい爆発音と共に、チビハネの体が遠くへ飛ばされる。 二回、三回とぬかるんだ地面を転がった。

 

泥でぐちゃぐちゃになった体を起こしたチビハネは自分より高く吹き飛ばされていた黒羽が目に写った。

 

『マスタァァァァァア!!!』

 

その呼びかけにももう返す気力もないのか、もはや意識も失われているのか、黒羽は動かない。

 

吹き飛ばされていった黒羽はそのまま激しく荒れる濁流の中へと落ちていった。 

 

『うわあああああああああああああ!!』

 

慌てて駆け出したチビハネが近づいたときには黒羽の姿は見ることができなくなってしまっていた。 

あの傷で意識もなかったのだ。 無事でいられるはずがない。

 

膝を地面へと落として、自身の主を失った悲しみ暮れる。

 

「・・・・・・」

 

そしてその後ろから伊澄が歩いてきた。 今は涙を流して、こいつをすぐにでも亡きものにしてやりたいという気持ちで溢れている。 すぐにでも飛びかかろうと振り返った瞬間、既に札を構えられていた。

 

 

 

『・・・・・』

 

もう主を失った。 ならば自分の存在価値なんてない。 ここでいっそのこと死んでしまえばいい。

 

「・・・私に止めをさせとでも?」

 

チビハネの目がそう語っていたのか、伊澄の理解力にチビハネが不敵に笑った。 だが、伊澄は構えていた札を袖へと戻す。

 

「あの人の最期、貴方を助けることだけを考えていた。 つまり、ここで死ぬことは貴方にはこのまま生きていて欲しいという主の願いを無駄にするということですよ」

 

 

『・・・・・』

 

不敵にも笑っていた顔が、また涙で崩れた。 目の前には敵。 自分を窮地にも追いやり、マスターである黒羽を倒した敵。 

 

チビハネは悔しかった。この敵はに屈辱にまみれて生きろということを遠まわしに言っているような気がしたのだ。

 

「それでも・・・あなたが望むというのなら・・・」

 

と袖から再び札を取り出そうとしたが、チビハネが動くのを見て伊澄は動きを止める。

 

『まだ・・・死ねない』

 

拳を握り締めて、チビハネは唇を噛み締めながら目の前の荒れ狂う濁流を見つめて一言。

 

『生きているマスターを見つけるまでは!!』

 

次の瞬間、チビハネはその濁流の中に飛び込んだ。 飛び込んだ瞬間、小さな水しぶきが立つ。

 

「馬鹿なことを・・・ッッ」

 

元が小さいだけにチビハネの姿はもう見えない。 この濁流の中にあんな小さな者が入って、主同様に、無事で済まされる訳がない。 

 

「結局・・・私は力を振るうことしかできないのですね。 やはり私は・・無力」

 

目を閉じて、思う。 この力に頼らなくても、同じ人間ならば言葉で分かってもらえるものだと思っていた。 

 

だが、テルのようにはできなかった。 そして、あの二人を説得することも出来なかったという己自身の無力さ。

 

 

 

戦いで荒れた光景が切なさを呼び、最初にさしていた傘を拾ってさすこともなく少女は一人雨に打たれ続ける。

 

 






後書き
結局脳筋に交渉なんて無理があるんです。 伊澄さんがこれほどまでガチすぎる。マジで容赦ねぇ!

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