ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
このときはフォーゼやってたんです。


第79話~気付けば大切なものばかり~

宇宙。 無限のコズ○ックエナジーを秘めた神秘の世界。 そこは空気がなく、光がない。

 

その世界は謎に包まれていることが多い。 どこまでが終わりなのか、どこからが始まりなのかすら分かっていないのだ。

 

科学的に解明されている宇宙の謎は、今書いていたらキリがないだろう。

 

その暗黒の世界にひとりの少女が居た。 

 

「ほ、ほんとに来ちゃったよ・・・宇宙」

 

宇宙船に隠されたナギが、目を覚ますと目の前には人がいた。 その人物がドアを閉めたのを堺に宇宙船が動き出したのだ。

 

「あの時の人は一体誰だったのだ? そんなことよりも・・・だ」

 

宇宙船の窓から見えるのは自分が生まれた星、地球。 初めて宇宙に来たナギにとってこの経験は貴重なものだった。

 

だがしかし、ひとつ忘れていたことがあった。

 

「私がここ(宇宙)にいて、ハヤテが地球にいるのか・・・」

 

来る前に、ハヤテとナギは喧嘩したばかりだった。 テルとハヤテの腐った光景(断じてそんなことはない)を目撃してしまったばかりか、それに対するハヤテの理由に絶望して飛び出してきたのだ。

 

「うぅ・・・私は、とんでもない過ちをしてしまった・・・ハヤテェ」

 

窓に手を置いてその名前を呼ぶ。 だが、助けは来ない。 その約束の名前を呼んでも暗黒の宇宙に吸い込まれていくように消えていくだけだ。

 

「頼む・・・喧嘩して会えなくなるなんて・・そんなの母だけで十分なのだ・・・だから」

 

涙を流しながら崩れ落ちる。 もう、自分のわがままで誰かを失うという後悔だけは絶対にしたくない。

 

「だから・・・頼む、ハヤテ――――!!」

 

「お呼びになられましたか・・・お嬢様」

 

不意に、後ろから声がした。 今ナギがすぐに会いたくて、謝りたくもある人物である。

 

「は、ハヤ―――」

 

ナギがその名前をもう一度言おうとする前に、ハヤテがナギを抱きしめた。

 

「ふ、ふえ?」

 

力強く、抱きしめられているその腕は言わずとも語っていた。 もう二度と離さない。

 

「このまま・・・もう二度と会えなくなるのではないかと、本当に心配しました」

 

「いや、あのちょっと!! 分かったからハヤテ!! 苦しいよ!!」

 

ナギの頬がだんだん赤くなっていく。 ここまで情熱的に抱き締められたらそりゃもう沸騰するしかないだろう。

 

「あー、なんか俺来ない方がよかったかもな」

 

「て、テル!? お前も来てたのか!?」

 

後ろからゆっくりと現れたテルにナギが気付いた。 

 

「ていうか、お前らどこから来た!?」

 

ナギが真剣な目で聞くが二人は揃って返す。

 

「「バイクで」」

 

「はぁ!?」

 

まるで某チャンネルに出てきそうな表情のナギ。 テルが頭を掻きながら続ける。

 

「あんまり色々聞くんじゃねぇよ。 バイクでどうやって入ったんですか? とか、お前ら免許持っていないだろ、とか。 そんなの大人の事情だっつーの、大人の事情」

 

「いや、どう考えてもネタに詰まったご都合主義展開だろ」

 

一体どうやってこの二人が宇宙に来たのかナギには皆目見当がつかない。 テルやハヤテもこの理由を簡単に話すことはないだろう。 話されたら伊澄が困るのだから。

 

「ま、うちのお嬢様も無事に確保出来たってことで、せっかく宇宙にいるんだからここでしか出来ないネタでもやっておこうぜ」

 

「そうですね。 人生で宇宙に来れるなんて貴重な体験ですから・・・」

 

「何をするのか大体分かってきたが・・・これ、原作の雰囲気ぶち壊してるよな」

 

ナギがジト目で突っ込みながらやれやれといった表情で応じる。 三人は横一列に並び、両手を目一杯上へと広げて叫んだ。

 

「「「宇宙キタ――――――――――――――――――ッッ!!!」」」

 

 

 

第79話~気づけば大切なものばかり~

 

「ネタをするのもこれくらいにして、操縦室へと行きましょう。 多分、急に宇宙船が動いた原因が分かるはずです」

 

「もしガチで宇宙人とかだったらヤベェな。 俺、サインの準備をしておいてもいいか?」

 

「のんきな奴らだなお前ら。 もしかしたら宇宙を侵略しにきた別の生命体の仕業かもしれないのだぞ?」

 

三人は船内の通路を走っていた。 この場所には船内の地図のようなものは存在していないようで、現在は行き当たりばったりに探している状態だ。

 

「それよりもテル。 お前、目なんか片目瞑って・・・どうかしたか?」

 

ナギが先程から片目をつぶっているテルに聞いてきた。

 

「ああ? なんでもねぇよ。 ただ片目にしているのがウィンクを常にし続けているという理由じゃないのは確かだ」

 

「うわ、ちょっと引くわ・・・」

 

ナギが顔を引き攣らせる。 心の底から引いているようだった。

 

「ハヤテ、こいつ宇宙空間に放り投げてきてもいい? 俺もう限界だわ、助けに来るんじゃなかったわ」

 

走りながらナギの頭を鷲掴みするテルにハヤテが慌てて制止させる。

 

「や、やめましょうよテルさん! ほら、操縦室らしき場所がなんか見てきましたよ!?」

 

ハヤテ達が走る通路の奥にはひときわ大きな部屋が見えた。 その部屋の前にたどり着くと自動でドアが横に移動して一同は中に入ると。 今回、宇宙船が勝手に動き出した元凶がいた。 

 

「うおおおおお!! 飛んだぞ――――!!」

 

声だけで分かった。 例え後ろ姿であろうとこの快活な声の持ち主が桂 雪路であることに気づくのは簡単だった。

 

「桂先生ィ! なんでここに居るんですかーー!! 今は仕事中で東京の方にいたんじゃ!?」

 

ハヤテが雪路を揺さぶりながら聞く。 すると、ハヤテの足元に何かが当たった。

 

「・・・酒?」

 

テルが缶を一つ拾い上げて中の臭いを嗅ぐと、アルコールの臭いが鼻をつついた。

 

「ねぇ! これ凄くない!? これ飛んだよ!? イー○だよ! イー○!! ホントびっくりだよ!!」

 

「「「ビックリしてるのはこっちだァァァァ!!!」」」

 

三人が声を上げて雪路にツッコンだ。 

 

「ということは、宇宙船を動かしたのは先生なんですか?」

 

「うーん? そうよぉ、さっきから言ってるじゃない」

 

つまり、この雪路が宇宙船を動かしたということになる。 雪路は酒が入って口調が可笑しくしながら続ける。

 

「いやぁ、あの生徒会三人組の赤点補習で休日出勤の仕事をサボって下田に来たけど、まさかこんな所で酒を飲みながら宇宙旅行に行けるなんて最高だわぁ!!」

 

この雪路の発言にテル達が眉間にシワを寄せる。 この女教師は、休日出勤の職場を放棄して、あまつさえ酒を飲んで飲酒運転までやらかしているのだ。

 

「あらどうしたの三人とも、目が怖いけど?」

 

テルたちの怒りに漸く気づいたか、雪路が口調を改める。 三人は口調を揃えて

 

「「「燃え上がれ僕・(私)の小宇宙(コスモ)ォ―――――!!」」」

 

「ペ○サスファンタジィィイィィィイイ!!」

 

三人同時のアッパーに倒れる雪路。 この女が居る時は大抵ろくなことに巻き込まれるなと、改めて思い知らさられるテル達だった。

 

「なぁ、一体どうやって地球に戻るんだ?」

 

「はっ!! そうでした!!」

 

ナギの言葉にハヤテが遅くながらも気づく。 なにせ、この宇宙船を動かした雪路は自分たちが盛大に殴って気絶させてしまったのだ。 

 

「やばいよやばいよ。 誰かアス○ロスィ○チのパラシュートのヤツ持ってこい!!」

 

「大気圏突入の問題はどう解決するんですか!?」

 

「無駄な抵抗はもう止めよう! ここで大人しく宇宙の藻屑となるんだ!! なぁハヤテ? お前はどこに落ちたい!?」

 

「お嬢様! 諦めないでくださいよ!!」

 

操縦方法が分からない一同はパニック状態。 ナギでさえこの状況に諦めをつけてしまう始末だ。 

すると、テル達が通ってきた扉が開いて誰かが入ってきた。

 

 

「うぃ~、やっと追いついたよ」

 

「あ、変なガキ」

 

「ま、マヤではないか!!」

 

操縦室に入ってきたのはマヤだった。 マヤはナギを見つけるやすぐさまナギに抱きつく。

 

「ごめんナギ、マヤ、ナギ助けようとしたけど・・あの二人、すごく怖くて・・隠れてた」

 

マヤはナギが攫われていくところを見ている。 近くにいたのだから当然だ。 だが、木原や黒羽に恐怖して、助けることができなかったのだ。 

 

そのマヤにナギが笑ってマヤの頭を撫でる。

 

「いや、謝るな。 そもそも、私がもう少し冷静だったらこんなことにはならなかっただろうしな・・・」

 

「ありがとう・・・ナギはやっぱり優しい子だよ」

 

ナギに許されたことによりマヤの顔に笑顔が戻った。 抱きついていたナギから離れる。

 

「でもキミ、どうやってここに?」

 

ハヤテの質問を聞いてマヤが嫌なことを思い出したように顔色を変える。

 

「・・・察してよ」

 

と一言。 多分、テル達と同じでバイクで飛んできたのだろう。 実際、あの移動の仕方、かなり体に来る。

 

ここに来るまでに体が茹で上がるかもしれないくらいまでに体温が上昇した。 あの熱さはもう大抵味わいたくはない。 

 

あの温度では宇宙人であるマヤも嫌になったのだろう。

 

「まぁ取り敢えず、あとは任せてよ」

 

「え? お前操縦できんの?」

 

ゆっくりと翼を動かして浮いたマヤがコックピットに座ると胸を張って「もちろん」と頷く。

 

「でも、ナギもほかの二人も無事でよかった。 これでマヤも安心していけるよ・・・」

 

「なんだよ? まるでもう会えないみたいな言い方じゃねぇか」

 

マヤの言葉に、テルが違和感を覚える。 まるでマヤの言葉がもうこの先会うことのできない、最後の言葉のような気がしたのだ。ゆっくりと顔だけをこちらに振り向かせたマヤはニコリと笑うと最後に一言。

 

「ありがとう」

 

その一言を告げた瞬間。 何かが割れる音がした。 まるでガラスが割るような音。

 

光が辺りを包んで何もかもが見えなくなる。 ハヤテも、ナギも、雪路も、テルも自分の体すら認識できなくなるくらいに。

 

 

 

 

 

 

「ここ・・・は?」

 

目を開くと、テルの視界は真っ白な空間があった。 

 

どこを見ても白。 上を見ても白。 下を見ても白。

 

「テルさん!!」

 

「ハヤテ! 無事だったか!? なんなんだよここは・・・」

 

「分かりません。 あの後、目を開けたらここに・・・」

 

後ろからハヤテが居たという事に気付いたテル。 次々と起こる異常な事態にハヤテも困惑気味だ。

 

 

だが、その時だ。

 

 

―――呼べば本当にどんな所にでも、来てくれるのね。

 

 

何もない、白の空間から声がした。

 

「へ?」

 

「おいハヤテ、今・・・」

 

それは、聞き覚えのない声が囁いた気がした。

 

―――あの子はわがままで自分勝手で、そのくせ淋しがり屋で泣き虫だけど・・・

 

優しそうな声が、どんどん近くなる。 それが後ろだということに気付いた二人は同時に振り返ると、そこにはひとりの女性が立っていた。

 

―――私はもう、見守ることしか出来ないから・・・

 

 

亜麻色の髪、紫のストールを羽織ったその女性の面影が二人の脳裏にある人物を思い浮かばせる。

 

「・・・ナギ?」

 

「お嬢様・・・?」

 

そうだ。 あのナギが、大人になった三千院 ナギが笑った気がした。

 

「ナギの事、よろしくお願いね」

 

女性はその言葉を二人に告げると笑顔を残して消えていった。 

 

「今の人・・・もしかしてナギの・・って、アレ? ハヤテ?」

 

テルが横を向くと、さっきまで隣にいたハヤテの姿が無くなっていた。 白しかないこの空間では隠れる場所なんてどこにもない。 つまり、考えられることはハヤテがこの空間から消えたたということだ。

 

「放置なんて酷すぎるぜ・・・俺に恨みであんのかあの野郎・・」

 

頭を掻きながらむしゃくしゃする気持ちを抑える。 ふぅ、と息をついた。 だが、一つだけ分かったことがある。 この空間は誰かが何かを伝える為に作られた空間だ。

 

先程の女性はハヤテに伝えることを伝えていた。結果、女性も消えて、ハヤテも消えた。 

 

つまり、自分が残ったということは、まだ何かがあるということだ。

 

・・・その伝えるべき思いが相手に伝わらない限り、俺は元の場所に戻れないってわけか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――その通り!

 

 

 

 

 

 

 

 

「え・・・?」

 

 

また、声がした。 今度は、聞いたことのある、懐かしい声が。

 

 

直感的に振り返ると、テルの視線の先にはひとりの女性。

 

「そこに気付くとは、アンタの成長ぶりが久しぶりに見れて私は嬉しいよ」

 

肩くらいまで伸びた白い髪が揺れた。 目を見開き、覚えのある姿にテルの視線は目の前の女性に奪われていた。

 

「あ・・・」

 

「ん? もしかして、記憶喪失? もう、冗談やめなよー テル」

 

冗談ではない。 と、テルは心の中でつぶやく。 声は覚えているのだ。 この声の人物に、何度助けられてきたことか。 

 

だが、肝心のテルの記憶は混乱していた。 

 

「え? まさか、マジなの?」

 

「・・・」

 

再度質問されてテルが黙り込んだのを見ると、女性は少し口を開けて沈黙した。

だが、それも数秒。 女性はゆっくりとこちらへ歩み寄ってテルの肩を掴んだ。

 

「ちょっと・・・歯ァ食いしばれェェェェェエエエ!!!」

 

ゴリッ。

 

鈍器に直接殴られたかのような衝撃にテルの体が大きく後ろへ飛んだ。

 

だが、倒れ込んだ拍子にテルの頭に頭痛となって流れてくる光景があった。

 

 

――――アンタの名前はね・・・テルよ。

 

 

それは自分がまだ幼子だった頃の光景。

 

 

―――ほら! 腰が入ってなきゃ強い一撃作れないよ!!

 

それは古びた門下生のいない道場で。

 

 

――――あの子はあの子で、アンタはアンタ。 誰もそれを否定することはできないし、する権利もない。

 

 

殴り合った相手の子との仲介に入ったあの路上で。

 

 

――――アンタ達の母親で・・・私、本当に良かった。

 

涙を流しながらそう言った布団の上で。

 

 

 

 

 

「思い出せるまでぶん殴るよ。 次はどこを殴って欲しい? 腹部? 頭部? 喉?」

 

大の字に倒れていたテルを胸ぐらつかんで引っ張り上げると右拳を構える。

 

 

 

そうだ。 思い出した。 なんで忘れていたのだろう。 

 

 

決して忘れていてはいけない人だったのに。 

 

 

 

「お、思い―――――」

 

ゴキン。

 

テルが言うより早く、女性の右拳がテルの顔を抉った。 女性は鼻血とともに飛ばされていったのを見たあとで。

 

「・・・・あちゃ~」

 

バツが悪そうに苦笑いするのだった。

 

 

 

彼女の名前は、神崎(かんざき) 百合子(ゆりこ)。

 

テルに剣術を教え込んだ人物でもあり、テルの母親とも呼ぶべき人物でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






後書き
まさしく殴り合い宇宙。 一方的に殴られたけど。

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