ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
ハヤテたちが困惑している頃にテルたちは。
「な、なんだここ・・・」
目を開けた時にテルの目に飛び込んできた光景は信じがたい光景だった。
「花畑・・・か?」
さっきまでいたところは下田という場所で、少なくともこんな花があふれた場所はない。
何故か夜だったのも夕方に変わっており、その夕日によって照らされた花がまるで黄金の輝きを放っているように美しい。
そしてテルが遠くを見ると、西洋の城らしきものがあった。 片目であまり識別が難しいが不自然な崖の先にぽつんと立っているのがわかる。
「あ、ありのままに起こったことを話すぜ! 俺は戦っていて突然光に包まれたと思ったら次の瞬間には見知らぬ花畑にいた! 何を言っているかわからねーが、次元転移とか転生したとかそんなモンじゃねぇ、もっと恐ろしい地獄の片鱗なるモノを味わったぜ!! ネズミの国ではないのは確かだけどな!」
こんなことすれば即にでも外国のネズミの王様がお怒りになってやってきそうだ。
冗談を言っている場合ではないが、この突然連れ込まれたかのような状況でテルは先程まで張り詰めていた緊張が解れてきていた。
「あの女は・・・・?」
と、先程までテルと戦っていた黒羽の事を思い出す。 ヤツもここに来ているのか。
探そうとしたテルだったが時間は掛からなかった。何故なら自分の4,5メートルの後ろにその少女、黒羽はいたからだ。
「・・・・」
「おい、勝負の途中だけど、ここはどこだよ? 新手のネズミの世界か?」
テルの問いに、黒羽はただ突っ立っている状態だった。 先程まで鬼神の如き戦いを繰り広げていた人物とは思えないほど戦意も、殺気も感じられない。
まるで普通の人間のようだった。
「・・・なんとか言ったら―――――」
無言の雰囲気に耐えられなかったテルが思わずセリフを切ったのはその黒羽の表情を見たからだった。
泣いていた。
「・・・・・」
いや、正確には無表情の顔でその瞳から涙を流していた。 叫んだり、嗚咽を含めた「泣く」というモノではない。
「・・・見つけたよ。 見つけたよお父さん」
涙を流しながら両手を広げて黒羽は一人つぶやく。
「これで、あの人も・・・」
そう言葉を終えたときに、テルたちはまたしても光に包まれた。 同じ感覚だ。 体が光になって意識も体も全てが飲み込まれる。
「・・・・なんなんだよ一体・・」
一瞬だった。 目を閉じて、開いたら、見慣れた日本庭園が飛び込んできた。
最初は東京の伊澄の自宅に戻ったのかと思ったが伊澄やハヤテ、そして木原がいるのを見てここが下田なのだということに気付いた。
「て、テルさん! なんで急に目の前に!? どこに行ってたんですか!? そんなことより大丈夫ですか!?」
ハヤテがこちらの存在に気づいて泡を食っている。 いきなり自分がここに現れてありえないといった表情だ。
「取り敢えず落ち着けハヤテ・・・一体なにがどうなってんだ?」
「それはこっちのセリフですよ。 急に消えたと思ったら、いつのまにか目の前に現れたんですから!!」
その言葉を聞いてテルはハヤテに一つの質問をした。
「俺は・・・どれくらいお前らの前から居なくなっていた?」
ハヤテが首をかしげて、答えた。
「大体2、30秒位だったと思いますけど・・・?」
ハヤテの答えに、テルは考える。 確か自分が飛ばされた場所にいた時の時間は大体5分位だったはずだ。
明らかなこの時間差。 自分が行ったあの場所とここの場所では時間の流れが違うとでも言うのか。
「いや、でもなぁ・・・流石にこの歳でアリスみたいなワンダーランドの中に入ったとしてもなぁ」
顎に手を当てて考える。 そういったファンタジー体験はもっと幼い頃に体験しておきたかった。
「そんなことより、テル様。 あの女の方はどこに?」
伊澄に聞かれてテルは思い出したかのように辺りを見渡した。 少し離れたところに黒羽が一人立っていた。
『マスター!!』
いつの間にか伊澄の元を離れていたチビハネがすぐさま黒羽の肩にぴょんと飛び乗った。
「・・・・・」
その表情からはあの場所で流していた涙はもうない。 いつもの無表情で冷徹な黒羽に戻っていた。
ダメージが激しいのだろう。 火花が腕にとどまらず体の隅々に渡って発生していた。
「テルさま! 今が好機です!」
伊澄が叫ぶ。 この弱っているというのが今の伊澄にはわかるのだろう。 確かにこれが最大のチャンスだ。 ぶっちゃけた話、ここにいる全員でかかれば今の黒羽には勝てる確率は高い。
伊澄も力を取り戻せば、この場で決着を付けることが出来るのだが。
「よせ伊澄。 アイツはもう限界だ・・・能力を使う余力が全然残っていねぇよ」
「ま、また貴方は! 目の前に敵がいるのに!!」
「だからって手負いの状態で狙うっていう行為は、好きじゃねぇ。 それになぁ、こっちも・・・限界だ」
途切れ途切れになりながらも言葉を終えたテルはその場に膝を着いた。
「やっぱ、これ・・・キツいなぁ。 アレぇ? ハヤテくん? いつから三人になったんだ?」
「あ、ヤバイですよ。 テルさんなんか幻覚見えちゃってますよ!」
「・・・・・」
その光景を遠くで見ていた黒羽は翼を広げて空へと飛んでいった。
(あの人は・・・私が必ず!!)
去っていく黒羽を終始睨みつける伊澄は握りこぶしを密かに握っていた。 果たして、また力をぶつける時はあるのだろうか。
だが、その心配をするよりも目の前の重傷な人物がいる。 まずはこちらからだ。
「テル様! 治療を始めますから少しお待ちを――――」
言葉を言い切ろうとした時、地面が震えるのを一同は感じた。
「な、なんだ?」
「ねぇ! そこの人たち!」
地震が始まったのと同時、テルの上空から何かが降りてきた。 突如表れたその人物に一同は身を構える。
「誰だお前は、ネズミみたいなみみしやがって! アレか!? ディ○ニーマニアかコラァ!」
「ち、違うよ! マヤはそんな権利関係で訴えられるような格好してないよ!!」
「うるせぇ! シルエットで見たらお前はどう見てもミッ――――」
「ああもうっ!! テルさん話をややこしくしないでくださいよ!!」
ハヤテが割って入ってその場を収める。
「それで君は?」
「あ! そうだった! 僕のことより、ナギが!」
「お嬢様が!?」
ナギの名前を出されてハヤテが反応する。 たしか、ナギは木原達が現れてから捕まってどこかに隠されたはずだ。
すると、突然上空へと上昇していく物体が現れた。 あのUFOだ。 鷺ノ宮の温泉の客引きにもなっていたあのUFOだ。
「な、なんでオブジェが浮いてるんだ?」
「あ、アレにはナギが乗ってるんだ!!」
マヤの言葉に、一同が驚愕する。 あの宇宙船にまさかナギが乗っているとは信じられなかった。
「ほ、本当だ・・・」
と、後ろで傷を抑えていた木原が起き上がる。
「おい竜児、無理すんな。 お前重傷なんだからよ」
テルの言葉に軽く笑って見せると木原はそのまま続ける。
「もう一人の組織の一員があのお嬢様をあの建造物に隠したんだ。 だがまさか・・・あのUFOが本物だったとはな」
と、今度はマヤが慌て出した。
「うわわわどうしよう! マヤの羽じゃあそこまで飛べないし、あのまま飛んだら飛行船が亜高速飛行に突入して、二度とナギは地球に戻ることが出来なくなる!!」
「え?」
マヤの言葉に、ハヤテの顔から血の気が失せた。 ハヤテがマヤの肩をつかむ。
「ちょっと君! 今の話・・・本当なの!?」
肩をつかまれ揺らされるマヤはハヤテの問いに答える。
「うぃ。 動いた理由は分からないけど自動操縦だから宇宙船は亜高速飛行に入ればウラシマエフェクトで時間の流れるスピードが変わるから・・・宇宙船の一日は地球での数年分に相当する」
その言葉を聞いて、ハヤテはマヤの肩をつかんでいた手を離した。
「そんな・・・なんの冗談だよそれ、いきなりそんな話を信じろだなんて・・・」
だが執事としての本能が告げていた。 このままでは二度と、ナギには会えない気がすると。
「このままお嬢様が居なくなるなんて事があってたまるか!! 何か、何か手はないんですか!?」
「そ、それは・・・」
「どんな危険なことでもするから!! 僕の命くらいなら、いくらでもあげるから!! 大事な人なんです!! 失うわけにはいかない人なんです!!」
ハヤテは叫んでいた。 それでこそ、願いが叶うならば自分の命を投げ捨てる覚悟であった。 目が語っている。
その意思は本物だ。
「ったく、お前はアイツのことになるとホント取り乱すよな」
テルがため息を付いて、震えながら立ち上がる。 続けてマヤの瞳を見た。
「こいつの命がなくなることはアイツにとって死ぬことと同じだ。 だから、使ってなくなる命は俺にしろ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! マヤはそんな術とか知らないよ!」
二人の真剣な顔に、マヤが手を振った。 確かに、マヤも宇宙人であっても、その技術はほとんどが宇宙船の機能のことであり、自分が持っている力なんて羽を広げて飛ぶくらいのだ。
「くそ! どうすりゃいいんだよ・・・」
「・・・・」
悔しげに拳を握るテルを見て、伊澄は思った。
(他人であっても、自分が出来ることがあるならば自分の身の危険を顧みず手を差しのべる。 貴方はそういう人ですね・・・例えそれが敵であっても)
伊澄が何かを決めたように顔を上げると、ナギの救出方法を考えているハヤテのもとに近寄る。
「ハヤテ様・・・」
と、一度声をかけてハヤテがこちらを向いた。 ハヤテが思わず反応して振り返ると、ハヤテの頬に伊澄の指がチョンと触れていた。
流れていたハヤテの血を指に当てて、その指を口に添える。
そう、伊澄はハヤテの血を飲んだ。 伊澄の体が青白く輝き出す。
「ハヤテ様はナギのヒーローです。 どんな所にいても、ナギのピンチに駆けつけるのがハヤテ様の役目です」
「伊澄・・・お前」
「テル様も、一応三千院家の執事なんですから。 ハヤテ様と一緒にナギを助けるサブヒーローです・・・」
「俺、サブなんだ・・・」
とテルがふっと笑った瞬間、伊澄の手が輝き出した。
「だから私がお二人をナギの元へ送って差し上げます」
どん。 と、煙と共に何かが現れた。
「こ、これは・・・」
テルがその何かの正体を知った瞬間、テルは目を丸くした。
「バイク・・・?」
ハヤテも頭にクエスチョンマークを浮かべる。 なぜ疑問形なのかというと、そのバイクはなぜか発射台のような機械の上に垂直に設置させられていたからだ。
「オイィィィィィ!!! これどう見てもフ○ーゼじゃねぇーか!! いつから俺は仮面ライダーになったんだァァァァ!!」
「安全な方法はこれかと・・・もしそれで我慢できないならこちらの方が」
と、伊澄が後ろを指さすとどこかで見たことのあるグラサンをかけた男がバットを振っていた。
「ヘイ、オニイサンイマナラチョウキョリワープ、フランスパン一本でイイヨ」
「「なんでワタルンここに居るんだァ――――!!!」」
二人が同時に突っ込んだ。 皆さんお忘れかもしれませんが、あのマラソン大会のワタルンです。
「なんでお前がワープ機能やってんだよ!! お前もう出ないはずだったろうが!!」
「しかもワープ一回フランスパン一本とか! どんだけフランスパン好きなんですか!?」
「この人、一応鷺ノ宮家で使い魔やってますら・・・」
「短期バイト、ヨロシク」
ブン、とバットを振るうとそこにあった大岩に直撃して、ワタルンの二倍はあるだろう大岩が木っ端微塵に吹っ飛ぶ。
「「・・・・」」
パラパラと飛び散る破片が頭にあたりながら、その光景を見てハヤテが呟いた。
「テルさん・・・もうこれしか」
「無理無理無理!! 絶対無理!! ライダースーツもねぇのにどうやって宇宙に行くの!? 生身で宇宙に行ったらオレら破裂すんだぞ!? 知らねぇのかよ!!」
確か、そうなるはずです。
「そこらへんはノリでなんとかしてください」
「無茶だろ・・・伊澄、嘘だと言ってよ伊澄」
と伊澄までもが投げやりな状態。 そして、強制的にワタルンによりバイクに二人は乗せられた。
「なぁハヤテ・・・」
「なんですかテルさん」
「点火しまーす」
伊澄がのんきな声を発すると、バイクの後ろに付いていたロケットの噴出校らしき部分から煙が吹き始めた。
「もう少し、ワープ的な物を期待してたんだけど・・・」
「もう、どこからツッコンでいったらいいか分かりません」
哀れ、絶望の表情を浮かべてテルたちは空へと向かっていった。 二人の命の輝きが、今銀河の歴史に、新たな一ページを刻む。
「いや、別に死んでないので次回も続きます」
「ジカイモヨロシク、OK?」
残った伊澄、ワタルンは親指を立てて言うのだった。
後書き
度重なる激務の御陰で俺の精神はバーンアウト寸前だったんや・・・