ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
主人公がガチ切れしたら大抵負けフラグだよね。
「ごふっ・・・」
「・・・・」
黒羽の突き刺さした槍が木原の体から引き抜かれた。 力なく膝をついた木原は口から血を吐き出す。
「くそ・・・」
悔しそうに腹部を抑えて黒羽を睨む木原。 完全に自業自得というやつか。
「テメェ、仲間じゃなかったのか!!」
テルが黒羽に叫ぶ。 当然、返す意思も見せない黒羽は更に驚愕の行動を見せる。
あろうことか、再び木原に向けて槍を構えたのだ。
殺す気だ。 目が語っている。 コイツは一度決めつけたら機械のようにこなす。冷徹にだ。
「まさか・・・味方に裏切られるとはね・・全部お見通しだったって訳かよ。 俺がお前らをいつか裏切ることも」
痛みに顔を苦痛に歪める木原が苦笑い。 目の前には構えた槍を突き出されて今まさに槍が迫ってきている。
だがトドメを刺そうとしたその瞬間。 黒羽は殺気を感じた。 とても雑な、それでいて明確な殺意を。
目の前にいたのは、さっきの男だった。 だが、今はさきほどとは全く違って目は血走っている。ひたすらこちらを睨み殺すように見る男は、鉄パイプを振るった。
食らう。 まともに。 黒羽の体は遠くへと飛ばされた。 まるで紙が軽く飛んでいくようにだ。
「・・・・」
いつもなら避けれた筈だった。 だが、なぜ避けなかったのか。
違う。 避けれなかったのだ。 彼の、テルの纏った『何か』に蹴落されたのだ。
テルは追撃を試みる。 走り、走り、徐々に距離を詰める。
だが黒羽もただ追撃を許すわけがない。 右手から今度は大量の槍を作り出してテルへと放つ。
「おおおおおおおおお!!!」
その大量の槍を前にテルは怯むことなく突っ込んだ。 途中何度も槍が体をかすめる、だが致命傷を与える位置の槍は全て鉄パイプで防いでいた。
「・・・・」
このままでは押し切られる。 黒羽は直感していた。この男の潜在能力を。 以前から思っていた。 この男の力は誰かの為という状況になったときに格段に強くなっている。
そこから計算するに、この今の物量では倒すことができないと感じていた。
そして黒羽が繰り出す次の一手。
まず、片手で槍はこのまま放出し続ける。 もう片方の腕は一本だけ作り出して放出する。
だがこの一本は特別だ。 先端はドリルのように尖らせて極限まで空気抵抗を減らし、速度を優先とさせた一本の槍。
狙いを定め、走る来るテルに向けて、放つ。
「・・・ッ!!」
無数の槍をたたき落としている中でテルは別の殺気を感じた。 この襲いかかる槍がまるで囮のような感覚がしたのだ。
(マズイッ!)
直感で危険だと悟ったテルだが、顔を逸らそうとした瞬間テルの顔面に何かが突き刺さる。 一瞬だけグサッという効果音を残して、後に・・・。
「がああああああああ!!」
激痛。 苦痛に体を地面へと激しく転んだ。 立ち止まらなかっただけで良かった。 結果、転がったことにより後から来た槍がテルに当たることはなかった。
もし立っていたらまたしても串刺しにされていただろう。
前回よりも穴が多いというおまけ付けでだ。
「テル様!?」
転がった伊澄は叫んだ。 しかし、状況がよくわからない。 伊澄たちから見れば無数の槍が邪魔をしてテルに何が起きたかわからなかったからだ。
だがこれだけはわかる。 かなり危険な状況なのだと。 伊澄はハヤテの顔を見て言った。
「ハヤテさま! もう我慢できません! 血をお願いします!」
「分かりました!」
と了解したハヤテに伊澄が手を伸ばそうとしたときだった。
「きゃっ!?」
伊澄の体が後ろへと引っ張られた。訳が分からず伊澄は地面へと尻もちつく。
「そんな、伊澄さんにはあざといドジっ子属性はつかないと思っていたのに!」
「これは・・・一体何が・・・」
と身を起こそうとしたとき、自分のお腹の上に小さな物体が表れた。
『私は・・・この時を待ってたんだ・・・です!』
ニヤケた笑みを浮かべたチビハネだった。
『この前の借りを返してやるですよォ! よくもやってくれましたですね覚悟しやがれヒャッハー!!』
どこぞの世紀末モブキャラのような奇声を上げながらチビハネは起き上がろうとする伊澄の髪を下へ引っ張るこう見えてチビハネは力持ちなのだ。
「くぅ・・・! 力がないと・・こんなに!!」
『ヒャッハー! これなら肩パット付けて髪もモヒカンにしたほうがもっと雰囲気出る気がするです! ヒャッハー!!』
「伊澄さん・・・ッッ!?」
ハヤテが伊澄の救出に向かおうとした瞬間、ハヤテは身を凍らせた。 さっきまで向こうにいた黒羽が目の前まで迫ってきていたのだ。
「石を・・・もらう」
「がはっ!」
腹部に向けてグーパンチ、ハヤテは身をもって知る。 こんな自分よりも小さい少女からこんな破壊力ある拳が生まれるものか。
あのハヤテでさえ腹部を抱えて体を前に倒れ込む。 その拍子にいつも身に付けているペンダントらしきものが溢れ出た。
「・・・・」
それに目が行ったのか、黒羽がすかさずそのペンダントを拾い上げる。
「し、しまった・・・!!」
「・・・・これが」
拾い上げた石のペンダントを見つめる黒羽。 その石はまるでどこかのジ○リ作品に出てくる石のような形をしている。
「・・・・・」
ペンダントを握ったまま、黒羽は槍を取り出してハヤテたちへと向けた。
「これで・・・終わる」
冷ややかな視線を向ける黒羽にごくりと生唾を飲んで覚悟をハヤテたちは決める。
だが槍がこちらに迫る前に。
「オイ・・・無視してんじゃねぇぞ」
声のする方向に振り返ると、狂気の顔を浮かべながら鉄パイプを振りかぶったテルが目の前にいた。
本能で悟ったのだろう。 槍を構えて防御の姿勢を取るが、力強いそのひと振りはその槍の防御をものともせず枝のようにへし折る。
一瞬のことであったがために、黒羽は次の動作に移れない。 テルはここぞとばかりに追撃を試みた。
槍をへし折った動きに続いて体を沈ませて鉄パイプを逆手に持ち変える。 そして、相手の足元から鉄パイプを滑らせて振り抜く。
地面を巻き込んだその一撃は惜しくも両腕に素早く展開された剣により防がれたが防御に使われた剣は粉々に破壊され、黒羽は吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた際に落ちたハヤテのペンダントをテルが拾う。
「はぁ、はぁ・・・これはなんだか知らねぇけどよォ、アイツの大事なものなんだよ。 パクるなんて趣味が悪いぞコラ」
「テル様、血が・・・」
伊澄が心配したような表情でこちらを見る。 テルの顔からは血が垂れていた。 目の部分から血が流れている。
「心配するなよ。 目の上の部分が切れただけだから」
と片目を瞑って笑顔で答えてみせた。 伊澄もそれを聞いてかホッと安心する。
「石を・・・よこせ」
直後、黒羽が再び二本の槍を構えて襲ってきた。
降りおろされた槍を真正面からテルは受け止める。
「随分この石にご執着じゃねぇか。 さてはお前は石マニアか?」
と、テルが笑っていると今度は左手に持っていた短槍が水平になぎ払われる。
当たる前に・・・とテルが下がって距離を取るが。
「ん・・・?」
胸を一文に切り裂き、テルの血飛沫が舞った。
「おかしいな。 よけたと思ったのにな」
続けて黒羽が長槍を一直線に突き出す。
「このやろッ!!」
突き出された槍を打ち払おうとしたのだが・・・。
「あら?」
テルのひと振りは槍に当たらず、空振りする結果に終わる。
そのため、槍がテルの肩に思いっきり突き刺さった。
「・・・いってェェェ!!」
(テルさん・・・さっきから様子が・・・)
二人の戦いを見てハヤテはテルの異変にすぐ気づいていた。 さきほどからテルは避けれそうな攻撃にあたったり、当てれそうな攻撃を当てられずにいる。
たしかこういう変化が訪れたのは、一度テルが声を上げて転がった時だ。
あの槍を弾いている時に、何かが起こったのだ。
ハヤテは目を凝らしてテルの顔を見る。 そして気づいた。 その顔に理由があった。
テルの左目の血は止まっている。 テル自身がぬぐったのなら、テルは多少なりとも目を開けれるはずだ。
なのに、未だに目を開けないでいる。
よく見るとまぶたの部分には傷がない。
(距離感が掴めていない・・・まさか、テルさんはさっきの攻撃で・・・)
全てを理解したときにハヤテは地面にテルが転がるのを見た。
「て、テルさん!!」
鉄パイプを杖代わりにしてテルが体を揺らしながら起き上がる。 かなりキツそうだ。
(やっぱりハヤテには気づかれたか・・・だけど、片目になろうが何になろうが・・・)
両目を閉じて深呼吸。落ち着かせて神経を研ぎ澄ませる。
(次は・・・当てる)
懐から、更に札を二枚取り出した。 それを鉄パイプに貼り付けていくのを伊澄が見て目の色を変える。
「テル様! これ以上体に負担をかけるような事をすれば・・・!!」
本来、一枚でもかなりの負担を課す鷺ノ宮の札を三枚も貼ってしまえば一体どうなってしまうのか。
破壊力は言わずとも上がる。 だが、それに見合うリスクはあまりにも高い。
だが、そんな悠長なことも言ってられないのだ。 今、目の前にいる相手はそれほどの相手なのだ。
テルにとっても最後の攻撃。
そして、相手の黒羽にとっても最後の攻撃になる。
先程のダメージが重なっているのか、両腕からは火花を放っていた。 それでも表情を変えない黒羽だが次に作り出した武器を見て、そう判断せざるを得ないだろう。
「・・・・・・」
作り出したのは黒いドリル。 デカイ。 2,3メートルはあるかもしれない巨大なドリルが機械音と共に回転を始めた。
空気が震えて、テルの背筋に今までとは比べ物にならないほどの威圧感。
「「勝負」」
お互いが静かに呟いて、地面を蹴った。 速度を上げて、距離が近くになるにつれてお互いが武器を突き出す。
次の瞬間、激突。
激しい火花と共に二つの獲物が互いを削り合う。
「お、おおおおおお!!」
三枚の札を使っていたテルでも黒羽のドリルはこれほどまでの気迫と攻撃力を兼ね備えていた。
だが、テルには引けない理由があった。
(ここで負けられるかよ・・・こいつ自身の仲間である竜児を、俺のダチを殺そうとしたこいつを・・・)
押される体を足を踏んで留まる。 ドリルの進行に止まった黒羽が向こうにみるテルの姿。 こちらを睨み、片目を失いながらも戦意を失わないその姿。
「許せるかァァァァァァァア!!」
全身が震える。 激痛だ。 心臓が、脳が、四肢が、五感が狂ってしまいそうになるくらいに悲鳴を上げる。
それでも無理を通してでもやらなければならない。 仲間のため、友のため、そして、自分の為にも。
だが、ここで不測の事態が発生する。削り合っていた二つの獲物が一つの輝きを生み出したのだ。
「うわっ!」
それは遠巻きに見ていたハヤテたちでさえ目を瞑ってしまうほどだった。
「こ、これは・・・一体・・」
光が全身を包んでいく。 この体までもが輝き、体も別の場所へと運ばれていくような感覚。
「・・・え?」
やがて光が収まるとハヤテは目を見開いて絶句していた。
「テルさん・・・?」
何故なら、そこには激闘を繰り広げていたテルも黒羽も存在していなかったからだ。
後書き
テルの霊圧が・・・消えた? うそ・・・だろ?