ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
ちゃんと木原たちの組織には黒幕が居るよー。 やっと出てくるよー。


第76話~後悔したくなければぺロに餌やりなさい~

あれは十二月に入った頃だった。 雪がまだ降っていて初めて来た東京の街で俺は久しぶりにアイツと再開した。

 

「お前・・・竜児?」

 

暫く会っていなかったからか、アイツの・・・テルの髪が少しだけ伸びていた。

 

「なに? お前まだ最強目指してやってんの? ポケモンマスター目指すかのごとく?」

 

口調も態度も全く変わっていなかった。

 

その時に俺の片腕はもう義手だったが、テルには何も言わず義手も手袋で隠した。 火傷してちょっと見せたくないと誤魔化して。

 

その日はテルと久しぶりに東京の街を回った。 東京といっても広い。 だが、昔いた山のなかよりずっと新鮮だった。 

 

店を周り、トラブルに突っ込んでやんちゃして、久しぶりに再開できたことに俺は嬉しさを覚えていた。

 

 

少なくとも、ここまではだ。

 

 

その夜、どこかの港。 何故か俺はテルをここに呼び出していた。 海は静かで波はどこまでも平面を維持している。

 

防波堤際にテルは棒立ちしていた。 しかし未だに分からない。 なぜ俺がここにテルを呼び出していたのか。

 

 

ちょっと待て、俺はなぜこの右手にバットを持っている。

 

 

 

おい、ふざけるな。 体が勝手に動いてるぞ。 振りかぶるな、テル、頼むから気づけ。

 

「・・・・・」

 

テルは気付かない。 思えばアイツがあの時反応しなかったのは俺がまさか攻撃してくるなんて思っていなかったからだろう。

 

 

降りおろされた金属バットはテルの頭を直撃した。 鈍い音共にテルが崩れ落ちる。

 

その場に倒れたテルは頭から血を流していた。 いけない。 早く治療しないと。

 

だが、俺の体はまたしても思考と合わなかった。 今度は奴の体にロープにくくりつけて一緒に石を巻きつける。

 

(待てよオイ。 俺は何をやってる? これじゃ海に投げでもしたら一生浮かんで来れなくなる重量だぞ?)

 

 

 

肩にその体を担ぎ、防波堤の先まで歩き出す。 もう海面は目の前だ。

 

(ふざけるな。 やめろ、やめろやめろやめろやめろ!)

 

心の悲痛な叫びもその時は無情だった。 投げられたそのテルの体は水しぶきを上げて沈んでいく。

 

浮かんでいた泡がやがてなくなる。 これが夢なのか、夢じゃないのか・・・夢ならはっきりさせて欲しい。

 

そこで俺の意識は途絶えた。

 

 

 

数時間後、俺の意識は完全に戻っていた。 頭を振って起き上がるが同時に自分の今まで見ていた光景がフラッシュバックする。

 

「なんだよこれ・・・」

 

それを確信づけるように、一部の地面には血がつき、夢の中でテルに振り下ろした血のついたバットがそこにあった。

 

「なんだよこれ!!」

 

目が開き、体が震える。 では全て夢ではなかったのか? いや、夢だ。 夢なら覚めて欲しい。

 

「夢じゃない」

 

後ろで声がした。 薄暗くてよく見えない。 どこかで聞いたことがある声。声からして男の声だ。

 

『お前が殺したんだ。 頭を少し弄らせてもらったがな』

 

「どこにいやがる! 隠れてないで出てきやがれェ!!」

 

拳をふるって構える。 怒号を発し、その体は怒りと共に熱くなっていた。

 

『私に当たるのは筋違いな話だ。 お前が殺した』

 

突き刺さった。 胸にぐさりと。

 

この男が言うように、俺は信じたくないが、操られてテルを手にかけたことになったのだろう。

 

だが、それはこれ、これはこれだ。

 

『紛れも無く、お前が殺したんだ・・・もう数時間経っているぞ? あれだけ重石をつけたんだ。 浮き上がってもこれまい』

 

男の声は笑っていた。 あざ笑うかのような。 人間の感情を弄ぶことが趣味のような声だった。

 

『お前が殺したという事実は消えない。 それを許してくれる人間さえもういないだろう?』

 

そうだ。 その俺を叱ってくれる人間も、友人も、もはやこの世には居ない。

 

友人はついさっき俺が殺してしまったからだ。

 

「俺が殺した・・・殺した・・・・殺した」

 

何かが、支配していく。 心の中をどす黒い何かが。

 

男の声はいつの間にかなくなっていた。 誰もいない。 俺は今、防波堤に一人座り込んでいる。

 

拳を握り締めて、俺は叫んだ。

 

 

 

 

朝日を迎えていたときには、俺はボーッとその登る太陽を見ていた。 もう流す涙も枯れている。

 

 

だが一つだけ決めたことがある。 俺は、決めた。

 

(もしここで俺が死ぬなんてことしたらアイツはキレるだろうな・・・)

 

そんな確信があった。 なぜだか、そういう言葉を発したら右手でグーパンが富んできそうな気がしたからだ。 だが心の中では「でも」という決して消えない事実で繋げて。

 

(俺がしてしまった罪は消えない。 消えはしない、誰かに許してもらう権利がない)

 

だったら、俺はアイツの命を殺めてしまった事を忘れず、後悔を背負ってずっと生きていくことを誓う。

 

 

 

そして・・・復讐しなくては。 

 

 

俺にテルを殺させたアイツに。 俺という個人を殺したアイツに。

 

 

まずはアイツの部下を探そう。 確か、俺はその部下を知っている。

俺の片手を切り落とした女だ。

 

後に俺は黒羽を見つけ出して、奴の組織に入ることに成功した。

 

 

 

 

俺があの男の組織に入って数ヶ月、俺は任務を行なっているときに信じられない光景を見た。

 

「・・・テル?」

 

三千院家のお嬢様を誘拐して、石を奪う任務。 その任務中にまさか、自分が殺した人間が目の前に現れたのだ。

 

(幽霊・・・じゃないのか?)

 

見間違う筈がなかった。 あの死んだような魚の目。 誰が忘れるもんか。

 

「ん・・・? お前、どっかで会ったか?」

 

だが代わりにアイツは俺のことを忘れていやがった。

 

 

その場を撒いて、俺は一人、思った。

 

(生きていて・・・よかった)

 

その想いだった。 アイツが、俺が殺したと思っていた人間は生きていた。

 

だからと言って、俺のやったことが消える訳がない。 そしてアイツは俺の事を忘れている。

 

見たところ、記憶喪失の一種だろうか。 頭をバットで殴ったのが原因か・・・なんとベターな。

 

俺は他人の振りをすることにした。 さっき言ったとおり、俺のアイツをあんな目に合わせたという罪は消えないからだ。

 

(今更・・・顔向けができるかよ)

 

アイツが俺の事を忘れているのがいい機会だ。 俺の正義を貫くと決めたその拳は真っ黒に染まっている。

 

 

 

 

 

 

 

もう握手すらも出来ないのだから。

 

 

 

 

「・・・とんでたか」

 

冷たい地面だ。 漸く本当の現実に戻ってくることが出来たのだろうか。 

 

三十秒ほどだけ、意識をなくしていたらしい。そんなに時間はたっていなかったのだろう。 口の中の小さな砂利を吐き出して起き上がる。

 

(他人の振りを決めたのに・・・こうして手を出してしまっているのはなんでだ?)

 

現に木原はテルに自分がテルの関係者だということまで明かしてしまった。

 

見据える先にはテルが膝を地面に付けて荒い息をついている。

 

「クソ・・・体動かすの、キツイな」

 

「小僧、その札を使うのはもう止めろ」

 

銀華が言っているのは、テルの鉄パイプに巻かれた一枚の札のことだろう。

 

「なんでだよ? さては俺に手柄とらせたくないからか?」

 

「自惚れぬなよ。 その札は鷺ノ宮のみが使うことを許された札。 適応者以外の者が使えばそれ相応のリスクがある、現にお主は立ってるのがやっとであろう?」

 

その通りだった。 銀華の鉄球を受けたダメージのこともあったが、この札を付けて戦うと更に体は悲鳴を上げていた。

 

この札は銀華の言ったとおり、適応者意外のものが使えばそれ相応に負担となってやってくる。

 

負担のレベルは一枚ならば全力でフルマラソンを走るほどの疲れ。

 

「これくらいどうってことねぇよ。 それに、これしかあの女に通用する、手段がねぇ」

 

リスクをもとに得られるものは黒羽の能力と互角に渡り合えるようになること。 これが突破口だ。

 

前みたく、霊刀のようなものがあれば良いが既に折られており、この捨て身の技しか残っていない。

 

「そうか・・・お前の体はボロボロか」

 

木原が笑った。 チャンスだと思ったのだろう。 もう一度構えてこちらへと迫ってくる。

 

「ババア、やっぱりあの女を足止めしてろ。 アイツは俺が決着つけなきゃならねぇ・・・」

 

「ふん。 そうだろうな。 なら、手早く済ませておくれよ。 ワシはあの女を、別に倒してしまっても構わんのじゃろう?」

 

それは有名な死亡フラグだが、大丈夫だろうか。 気の利いたことを言う前に、銀華は黒羽へと突っ込んでいく。

 

テルは前を見た。

 

「さーて、殺る気で来いよ。 もとからそのつもりだったんだろうけどな・・・」

 

鉄パイプを構えて、駆け出す。

 

 

 

その戦いを見守っている一同がいた。 ハヤテと伊澄であった。

 

「ハヤテさま・・・あなたの血を飲まさせてくれませんか」

 

「いきなりの提案ですね?」

 

伊澄の突然の提案にハヤテが戸惑う。 よく見ると、伊澄の手は震えていた。

 

「私は、テル様や大叔母様が危ない目にあって取り返しがつかなくなる前に、後悔はしたくはないんです」 

「でも・・・」

 

と伊澄の提案にハヤテが呟いた。

 

「テルさんのほうはもう少し、あのままで」

 

「どうしてですか?」

 

伊澄が聞いた。 今すぐにでも力を取り戻して、そのまま二人を助け出したい。なぜそれが許されないか。

 

「テルさんは今、二人だけの戦いをしているんです。 これだけは、邪魔してはいけないんです」

 

「・・・・」

 

伊澄が少しだけ黙ると納得したのか、ため息をつく。

 

「よくわかりませんが、無粋・・・というわけですね。 ですが、いざとなったらお願いします・・・もう誰かが傷付くのは見たくありませんから」

 

と決意の表れた表情でハヤテに言った。

 

 

 

 

 

 

木原は距離を詰める。 テルは体を大きく開いて、懐に木原を呼び込みながら真横に鉄パイプを滑らせた。

 

だが片手を添えて起動をそらすだけで鉄パイプは空振りし、空いた脇腹に綺麗なボディブローが抉るように入る。

 

「くそっ」

 

モロに入ってしまったためか、胃袋のなかにあるものが全て吐き出されそうな気持ち悪さが押し寄せてきた。 しかし、ここは勝負どころだ。 ゲロを吐いている余裕はない。

 

「わかってんだよ。 お前とのやり合い方は一番俺がよく知ってんだ。 それも忘れちまったかよ」

 

「ああ、忘れてるよ」

 

きっぱりとテルが木原に言った。 迫る拳と足をなんとか鉄パイプを使い、逸らす。

 

だが全ては逸らしきれず、隙ができてしまう。 距離をガンガンに詰めてくる木原の戦い方は長ものを利用したテルにとって、相性は最悪だった。

 

「八極拳ッ!」

 

体を低くし、テルの体の真ん中、丹田に肘を当てる。 その瞬間、テルの体を衝撃が突き抜けた。

 

「かっ・・・・!!」

 

木原の繰り出したのは単なる肘打ちではない、古来より気を使って相手の急所にその力を内部に流し込んで体内で爆発させる六大開 頂肘。

 

一瞬で気を持ってかれる寸前で踏みとどまる。 だがその間に足を払われて地面へと叩きつけられた。

 

その体の腹部に向かって、木原が踏み込んでくる。 足を振り上げたのを見てそう理解したテルは体を捻って回避した。

 

「どうした? 息が上がってるな。 札の副作用ってやつが来たのか? このままじゃ俺に殺されるぞ?」

 

木原が見たテルはさっきよりも息が上がっていた。 体からは嫌な汗が出て、血の流れも激しい。

だが、テルは痛みを噛み殺して苦笑いを向ける。

 

「はぁ、はぁ・・・殺す、気もねぇくせに・・よぉ」

 

「あ?」

 

何を言っているのか。 とテルを睨む。 普段で怖い顔しているのに、更に顔が鬼のように歪んだ。

 

「さっきから感じねぇんだよ・・・殺す気も、やる気も、覚悟も、何もかも・・・」

 

「・・・・」

 

馬鹿な。と木原は思う。 覚悟も、全て決めていた。 それが他人から見たらなっていないというのか?

 

テルは口から溢れていた血を拭き取って言った。

 

「なんでそんなクソみたいな目してやがる」

 

テルの言葉に、木原は動きを止めた。 テルは続ける。

 

「お前は・・・誰かに許して欲しかったんじゃねぇのか」

 

「ま、まさか」

 

「だったら、なんで明かした。 お前は俺に、自分が俺の関係者であることをべらべらと」

 

そうだ。 何も言わなければ、それで木原はただの三千院家を狙う悪党であるという事実のまま有り続けられたはずだ。

 

「お前は気づいて欲しかったんじゃないのか? 俺は・・・お前とダチか、バカやってるような関係だったのかもしれない、勘だけどな」

 

テルは指さして言い放った。

 

「そんな男が、なんでだか助けて欲しいという目をしている。 そんな時、俺はどうするか、俺のことを知っているお前は分かるかもしれねぇけど」

 

分かるとも。と、木原は心の中で答えた。 

 

(お前はそういうのにはじっとしてられない男だよな)

 

「だが、俺には助けてもらう資格がない・・・ないんだ」

 

「バーカかテメェは」

 

テルが木原に怒鳴った。

 

「俺が許すと言ってもか? 許すわけねぇだろ。 ここまでどんな苦労を重ねてきたと思ってやがる。 借金まで作っちまって、もう一生執事なんかやってなきゃならねぇんだぞ!!」

 

だから。と続けて。

 

「俺がお前を叩きのめして、助ける人間に値するっていう事を証明してやらァ」

 

「無茶苦茶だ!」

 

尋常じゃない。 自分を殺した相手を勝負で叩きのめしてそれでチャラにしようと言うのだ。 

 

簡単にいえば、憂さ晴らしに近い。

 

「勝負しろォ!」

 

同時に駆け出す。 テルはまっすぐに鉄パイプの突きを繰り出した。 鋭い突きは同じ方法で躱され、木原は素手の手ではなく、鋼鉄の義手を突き出した。

 

爪先までとがれたその抜き手は腹部の皮膚を貫通し、中まで入り込む。 テルの口から血が出た。

 

終わったと。と思った木原だったが。

 

「目玉ひん剥いてよぉ~く見てやがれ」

 

テルの目は死んでいなかった。 まさかの鉄パイプを投げ捨てて、右拳を作り出す。

 

「これが俺だぁああああああああ!!」

 

力任せに、フォームも糞もない、でたらめな力ませの右拳は木原の頬をえぐった。 

 

(んなぁこたぁ、知ってるよ)

 

激痛よりも、その心に響いた。

 

地面に倒れた木原は体を動かそうにも動かせない。 限界のようだった。

 

「許しゃしねぇよ。 俺は根に持つタイプだからな・・・だけど、その事はハーゲンダッツ奢ったら許してやる・・・竜児」

 

「・・・お前、記憶が」

 

その名前は、忘れもしない当時の呼び方と同じだった。テルは笑って答えた。

 

「お前のことだけはなんとか思い出した。 あとはさっぱりだけどな・・・」

 

「そうか」

 

と、テルが膝をつく。 かなり体力を消耗したようだった。

 

「俺の勝ちだ・・・竜児」

 

その言葉に木原は思い出す。 昔、最初に出会った時の喧嘩で言われた言葉だったか。

 

「ああ、そして・・・俺の敗北だ」

 

満足したような表情で木原はそう言った。 

 

「後できっちり聞かせてもらうぞ・・・お前が今まで何してたか全部だ」

 

 

分かっている。 と言おうとしたその時だった。

 

「小僧! 突破された!」

 

遠くで銀華の声がした。 突破された、という意味は。

 

驚異的なスピードで迫ってくる影がある。 黒羽だった。

 

「チィッ!」

 

テルが応戦しようとするが、足が動かなかった。 今までの疲労と一瞬の油断が隙を生み出してしまった。

 

(まずい・・・!!)

 

確実に、あの槍に突き刺される。 と痛みを覚悟したテルだったが突然、体が押されるのを感じた。

 

後ろへ飛ばされて尻餅をつく。 

 

「悪いな・・・色々と、バチが当たったみたいだ・・・うん、悪いことするんじゃなかったな畜生め」

 

声のする方向を見て、テルは目を疑った。 だが現実だと認めざるを得ないだろう。

 

黒羽の槍が、木原の体を貫いているということを。

 

 






後書き
木原アッ――!!

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