ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
まるでタイトルが某仮面ライダーの言葉。 そしておまわりさん、こっちです。


第74話~nobodies perfect~

 下田、三千院家の別荘から数十分といった距離に鷺ノ宮家の別荘は存在した。 その有名な技師により作られた日本庭園に二人の執事服を着た男が歩いている。 ハヤテとテルだ。

 

「お邪魔しまーす」

 

「どうも。伊澄さん」

 

「あらテル様にハヤテ様。 こんな時間に何かご用でしょうか?」

 

中へと上がり、障子を開けるとそこには和服の少女、伊澄の姿があった。

 

今回、ハヤテたちが鷺ノ宮家にやってきたのは理由がある。 

それは伊澄の身に起きた能力が使えなくなるという異常だった。

 

ある日突然、自分の能力が使えなくなってしまったのである。 伊澄の祖母、銀華によればハヤテの血を飲むことによりその力がもとに戻るというのだが、これを伊澄が拒否。 

 

しかしテルたちはナギたちが殺し屋に襲われた時に銀華に血を飲ませるという条件で助けてもらっていた。 その話をすれば自ずと伊澄も理解してくると踏んだ。 

 

ようやくすれば、交渉だ。できれば伊澄の機嫌を取るわけではないが、交渉が不利に傾かないように慎重に会話をしなければならないのだが。

 

「しかし、力が使えなくなっちまったらそれはそれでいいんじゃねぇの?」

 

あろうことかテルは初っ端から空気を破壊するようなことを言った。

 

「私がこの身に宿した力が使えなくなってしまってはロクに妖怪を追い払うことができませんが・・・」

 

「まぁ、そんな低いテンションになるなよ。 俺はそのほうが普通の生活を送る上での邪魔もなくなるし、晴れて普通の女の子に戻れるわけじゃん?」

 

「確かにそうですけど・・・」

 

と伊澄が言ったところでハヤテは伊澄の表情を伺う。 今は特に険しい顔になったりするわけでもなく現状維持といったところだ。

 

「ですが心配には及びません。 ですからはやて様はナギの所にお戻りください、大叔母様のお約束とはいえハヤテ様の手を煩わせるわけにはいきませんから・・・」

 

「で・・・でも伊澄さん・・」

 

「お戻りください」

 

こちらの顔を見ないでの返答。 そうとう意思は硬いようだ。 以前ナギが伊澄について言っていたことを思い出す。

 

――だから意外とアレで頑固なんだよ

 

その言葉が今更ながら理解できる。

 

「おいおい、ハヤテどうすんだよ。 コイツ超頑固だよ。 あのざわざわ森のガンコちゃんよりも頑固だよ」

 

「テルさん、そのガンコは違います。 テルさんも少し頑張ってください、あの大叔母様のことですから、うまくいかなかったら強引なことしてくるかもしれないんですよ?」 

 

「た、たしかに・・・なんかさっきから変な視線を感じるし・・・」

 

「何をこそこそとしているのですか。 用がなければ・・・」

 

「い、いや! 用ならある! お前を説得することだ! だからそんな冷たい目で見つめるなよ伊澄ィ!」

 

あたふたしながらテルが言葉をつなげるがこれといった打開策がない。 しかし、そもそもなんで今で伊澄がこんな状態になってしまったのか。 

 

「でも伊澄、わざわざハヤテの血を飲まなきゃならないのか? 俺とかの血ならいくらでもやるんだが」

 

「それでは意味がないのです。 何故かそういう条件になっているのですから・・・そもそも、仮にテル様の血が治る条件になったとしても私の気が変わるとでも?」

 

うーん。 なんて意思の硬さだ。 ダイヤモンド並みの硬さだ。

 

「テルさん、ちょっと・・・」

 

と、ハヤテがテルを招いて耳打ち。

 

「そんな方法でいいのか?」

 

「はい。 多少強引かもしれませんが・・・」

 

(何か考えついたようですがどんな事をされても私には揺るがないこの決意がある限り、決して屈したりは・・・)

 

伊澄はテルたちを睨むように見つめた。 自分を動かす事が出来るならどんな方法でもどんと来いである。

 

「・・・・なぁ伊澄」

 

「・・・ダメですよ」

 

ズイ。

 

「どうしてもダメか?」

 

「・・・どうしても、です」

 

(・・・あれ、なんかテル様の距離がどんどん近くなってきている気が)

 

伊澄は最初はそれが錯覚だと思ったが正座していたテル位置が微妙に変わっているからにして明らかにこちらに近づいていた。

 

「頼むぜ・・・」

 

数十センチ。

 

「う・・・」

 

(ハヤテ様! 外道にも程があります!!)

 

そんな事を思っている間にまた迫まれた。 もうテルと伊澄の距離はもう十センチ位である。

こんな近くにテルの顔があるのだ。 伊澄としてもこの状況は初めてであり、近づくたびに顔の色がどんどん真っ赤へと変化していった。

 

(しかしハヤテも変な作戦立てるよなぁ、ただ伊澄に顔を近づけるだけでいいっていうんだから・・・)

 

この男もハヤテのことは言えない。デリカシーのなさは一級品であった。

 

「あ、あぅ・・・」

 

(れ、冷静さを保っていられない・・・)

 

もう体温まで上がってきてしまい視界もなんだかボヤけてきた。 このままではいけない。 落ちてしまう。

 

それを見ていた作戦の考案者は。

 

「計画通り・・・」

 

拳を握って悪い顔をしていた。 一応主人公です。

 

「うちの孫娘になにしとるかぁ―――――!!」

 

「「ギャアアアアアアアアアア!!」」

 

だがこういった悪巧みはうまくはいかないのだ。さっきから張っていたであろう銀華が障子を突き破り、トゲのついた鉄球二つをテルとハヤテの頭へと直撃させる。 

 

「この外道・・・伊澄大丈夫か? 何も悪いことされてないか?」

 

「は、はい・・・」

 

一瞬の間にテルを鎖で縛りつるし上げた。 血がぽたぽたと、あと色々流れてきたりしているが彼なら大丈夫だろう。

 

「ぶ、ぐふぅ・・・頭から血が出てるのに逆さ釣りはヤバイだろ・・」

 

「そこで一生縛られてろ外道。 孫娘に手を出した罰じゃ」

 

「手をだしてねぇし、出すつもりもなかったつーのッ! 頭いかれてんじゃねぇのかこの白髪BBA!!」

 

「ほぅ・・・いい身分だな小僧・・・」

 

ジャラジャラと懐から鎖付きクナイがテル顔の前で揺れていた。 しかも銀華の目もマジである。 

殺す気だ。

 

「さぁ伊澄よ。 ここに綾崎 ハヤテの血があるぞ。 早く吸うのじゃ」

 

「早くするのは止血の方です大叔母様・・・大体、こんな事をして私が喜ぶと思っているのですか?」

 

さっきとは一転した冷たい目が銀華を射抜いた。銀華の体が震え出す。

 

「あ・・あ、伊澄のバカァあ―――! せっかくこんなに頑張ってるのに―――!!」

 

銀華は泣きながらその場を走り去っていった。銀華としても実の孫娘を思った行動をその孫娘に否定されるとは思わなかったのだろう。

 

「すいません。 テル様ハヤテ様、大丈夫ですか?」

 

「俺はなんとか・・・しかしまぁ、婆ちゃん大切にしろよ。 お前を思っての行動だったんだからな」

 

鎖から開放された二人は伊澄から渡されたタオルで頭を抑えて止血。 

 

「でも、ここまで大事になるものなんですね。 能力の喪失っていうのは」

 

「それはもちろん、妖怪退治や除霊を専門としている人間が減るというのはやはり痛手というものです。 能力がなくなったのではなく、一時的に使えなくなっただけですが」

 

「しかしまぁ、なんで能力とか使えなくなっちまったんだよ。 なんか理由がありそうだけどな・・・」

 

「・・・・」

 

テルが発したその一言でその場の空気が凍りついた。 いや、ハヤテまで凍りついたわけではない。 しかし、伊澄の放つその冷気がその空間にいる全てを凍りつかせたのだ。

 

(いかん。じらい踏んだ・・・)

 

しまったというテル。 すると伊澄は口を開いた。

 

「八年前の一月・・・初めての友達ができました」

 

八年前。 というと、伊澄が五歳のころだろか。 伊澄は続ける。

 

「その人は私の母が姉のように慕っていた人の娘で・・・その子はお日さまみたいに笑うかわいい子で・・・私はパーティで知り合いました」

 

(よかった~なんか地雷じゃなくて助かったぜ・・・)

 

「でも、その年の三月、彼女は笑わなくなりました」

 

(やべ、やっぱり地雷だったよ)

 

テルが内の焦燥が半端ないが、今は黙って伊澄の話を聞く。

 

「私は彼女の笑顔を取り戻したかったんですが――――」

 

―――ナギ、お母さんにもう一度会いたくない?

 

―――え? できるの?

 

「ですがその頃の私は今より未熟で・・・逆に彼女の傷つけるだけでした・・・」

 

その墓標の前で泣いている彼女を放っておけなかった伊澄は、自分の力を行使した。 だがうまくいかず、更にはその彼女には小さなトラウマまでも植え付けることになってしまう。

 

「結局、今回の能力のことも自分の未熟さが原因なんです。 だから他人の力を借りることは私はいつまで経っても未熟なまま。 だからお二人にはお帰りいただいて欲しいのです」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

その話を聞いたハヤテとテルはお互いに目を見合わせて伊澄から顔を逸らした。

 

(オイオイやべーよ! 話が抽象的過ぎてなんの話か全く分からなかったけどこれじゃ提案なんて出来る雰囲気じゃねーよ!)

 

(ど、同意見です。 まさかあんなちょっとしたところからトラウマスイッチが入ってしまうなんて・・・)

 

だが、これで一つ分かったことがある。 これまでの伊澄の無茶な言動となんでも一人で抱え込もうとする原因はその過去の失敗によるものだ。

 

「だが伊澄、この前の戦いでわかってるはずだ。 一人でやるにしては限界があるってことが・・・」

 

「・・・・」

 

テルの言うことに伊澄が黙り込む。 そうだ。 前回の黒羽との戦いは体調が悪かったとはいえ、絶望的な状況まで追い込まれた。 だが、あくまで体調が悪かった時の話だ。

 

「本調子になれば、私一人でも大丈夫です。私が力を取り戻せば、仕事もなんなくこなせるんです。テルさまだって、たいていの事は一人で片付けているではありませんか」

 

「いや、違う。 俺は一人で何もかもやっているわけじゃない」

 

伊澄の意見はテルに即否定される。

 

「俺がなんでも出来る男だと思ったら大間違いだ。 掃除、洗濯、勉強、執事業なんて出来ていないに等しい・・・料理以外は」

 

「テルさん、料理もです」

 

ハヤテの密かなツッコミもテルはスルーして続ける。

 

「簡単にいえば、俺は執事とかそういう細かいことする仕事は向いてないこった。 そこらへんは理解してんだよ」

 

これにはハヤテと伊澄が少し驚く。 まさか自分で理解しているとは思わなかったからだ。 

 

「この前の化け女のときだってそうだ。 俺はお前ん家の霊刀が使わしてもらえなかったらアイツには一生勝てなかっただろうよ」

 

そう考えれば、テルは剣術が出来ること以外は何もできないのかもしれない。 白皇の編入試験もラインスレスレで合格だし、料理ができない。

 

言われてみれば完璧な人間なんて一人も居ないはずだ。 ハヤテでさえ、他人の気持ちには果てしなく鈍感だという弱点があるのだから。

 

「そんな高い人間像を俺に抱いていたとすれば、それはお前の間違いだ伊澄」

 

No body`s perfect(完璧な人間なんていない)

 

「俺の生活を支えてくれているのはハヤテやナギたちのおかげだし、白皇を退学しないでなんとかとどまっていられるのはヒナギクやマリアさんのおかげだ」

 

「こう言葉だけ並べるとテルさんが駄目人間と言ってるようなものですが・・・」

 

「そこ、黙らっしゃい」

 

ハヤテに淡々と述べられてテルはいささか不機嫌となった。 気を取り直してテルは結論を言う。

 

「自分は一人で頑張ってんだっていう奴に限って結構、周りから助けられてる事が多いんだよ・・・だからお前は少し反省してコイツの血を飲め。 それで全て解決する」

 

反省させて地を飲ませるとは、かなり強引にもって言っている気がするが。伊澄はその言葉を聞き、険しい表情をしながら立ち上がった。

 

「・・・新しいタオル、持ってきます」

 

と、その部屋を後にして障子を閉めた。

 

(この前のことでもうこりたと思ったんだがな・・・なかなか性根っていうのは変わらないもんだ)

 

それは自分にも言えたことではないが。 とテルは自分で少し半笑いする。

 

「しかし、困りましたね・・・」

 

「そうだな・・・俺もなんか体中がスンゲェ痛いんだよ」

 

ヨロヨロと体を揺らしながら言うテルの表情は良いものではない。タオルの布地は真っ赤に染まり、止血の役割を果たすことはない。 傍から見たら赤いタオルと言えるほどだ。 

 

「わー! さっきより血が出てますよテルさん!」

 

「あー、無理して温泉はいるんじゃなかった。 アレで治ると思ったのに・・・」

 

「なんでわざわざ体をさらに痛めつけるようなことをするんですかって、わ――――!!」

 

 

「うわぁ―――――!! 本当にあった――――!!」

 

同時刻、その鷺ノ宮家の別荘の入口で歓喜の声を上げるマヤ。 その喜々とした表情の先には、まるで昭和時代のアニメに出てくるような宇宙船のような建造物があった。

 

「ふ・・・だから言ったではないか。 この三千院家にこんなことは造作もないと・・・」

 

一緒にマヤとナギも自身のあまりの直感の良さに思わず恐怖してしまうところだった。

 

(まさか、鷺ノ宮家が宇宙船を使って温泉を経営しているとは・・・)

 

鷺ノ宮邸に置かれたそのマヤの宇宙船は、大きな看板を付けられていた。 『鷺ノ宮温泉』。 鷺ノ宮家は見事にこの建造物を利用した経済を展開していた。

 

「さぁ宇宙船は見つけたぞ! これで私はピピルマピピルマテクノロジーでアダルトタッチな悩殺メロメロボディーになるのだな!!」

 

「・・・ん。 魔法のステッキとかはないけどなんとか・・・」

 

その言葉を聞いてナギはニヤリと笑みを浮かべる。 叶う。叶うのだ。 今まで叶わなかった夢へと、届くことのなかったその頂へ!

 

「よし! それでは早速宇宙船へ・・・」

 

ナギが動きを止める。 ぴたりとだ。 マヤが気になりナギを見ると、その視線はある方向を指していた。

 

「な、なんでこんな所にハヤテとテルが・・・?」

 

ナギの瞳に写ったのは紛れも無くハヤテとテルだった。

 

(テルはともかく・・・なぜハヤテがこの鷺ノ宮の別荘に?)

 

ナギは自分の別荘では窓からそのまま宇宙船探しに出たため、そのあとの別荘の動きを知らない。 

ハヤテとテルは鷺ノ宮の別荘の中へと入っていった。

 

考えられることは以下の点だ。

 

・ハヤテが伊澄と逢い引き

 

・テルが伊澄と逢い引き

 

・ハヤテとテルが逢い引き

 

 

 

「ちょっと待ったァ――――!! 一番上はわかるけど一番下のはなんだコレェ―――!! こんなのやらされて誰が得するというのだァアアアア!!」

 

(落ち着け・・・ここは旅館だ。 相手が伊澄だとは限らない・・・ならばやはり相手はテルなのか!? いや、それよりハヤテは私にメロメロのはずだ!!)

 

明らかに一番下の選択はありえない。 しかし、いや、まさか・・・と思考を巡らせているとマヤが肩に手を置いた。

 

「じゃ、取り敢えずマヤの宇宙船へ・・・」

 

と、その瞬間。 マヤの頭がナギの右手により鷲掴みにされた。

 

「あんな宇宙船のことなど後でどうとでもなる。 だからもう少し私に付き合え・・・」

 

「う・・・うぃ?」

 

指にかかる圧力とは別の黒い圧力に圧倒されたマヤは頷くしかなかった。

 

すぐさまハヤテのあとを追い、鷺ノ宮邸に潜入する。 まるでスニーキングみたいだ。 心が踊る。

廊下を歩き、二人はどこかと探していると。

 

「わ―――!!」

 

「むっ! この声はハヤテ? ハヤテはここなのか?」

 

通り過ぎようとした臥間の向こうからハヤテの声が聞こえた。 ただ事ではないと踏んだナギは思い切って障子を開ける。

 

「こぉらハヤテ! こんな所で一体何をしているのだ―――!!」

 

 

障子の向こう側にナギが見た世界は。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

ナギは目を見開いてその光景を見つめていた。 確かにその部屋にはハヤテは居た。 しかもテルも。

問題なのはその二人の状況だ。

 

 

 

なぜ血まみれのテルが血まみれのハヤテを押し倒しているのだろう。

 

 

(ほ、本当に・・・何をしているのだろう)

 

唖然。 その一言に尽きる。 まさか、一番恐れていた事が起きているとはナギも予想外の展開であった。

 

「お、お嬢、違うんだ。 ちょっと血糊で滑ってハヤテの所に倒れ込んでしまってだな・・・」

 

テルがなんとか弁解を求めるがナギの目は完璧に別方向に走っていた。

 

「お、お前ら! 男同士だったら何でもありなのか!? ハヤテも女の気持ちに疎いくせに男の前ならなんでもいいのかぁ!?」

 

「酷い誤解ですよお嬢様!! 本当にこれはテルさんの言うとおりにただ滑って転んだだけで・・・」

 

「その前にそんなに血だらけになっている事を説明しろ! まさかそういう趣向なのか!? お前らそんなアブノーマルな輩だったのか!?」

 

「・・・腐ってやがる。 早すぎたんだ」

 

テルがボソリと呟いた。もちろん腐っているというのは頭のことを指しているのは言うまでもない。

 

「ようするに、私の裸を見て何も思わないのは・・・そ、そういうことだったんだな―――――!!」

 

「ど、どういうことだったんですか!?」

 

ハヤテとしては早くこのわだかまりを解消させたいという一心だったが、ハヤテはこういう時にはわだかまりを逆に増やす事をしてしまうのだ。

 

「だいたいお嬢様の裸を見て何も思わないのは、お嬢様がまだちっちゃな子供だからという正常な反応で・・・」

 

ポチッ。 ナギの怒りのスイッチオン。

 

「だ・・・だ・・・誰がちっちゃな子供だバカ―――――!!」

 

(くそう! こんなやつだとは思っていなかった! ハヤテはそんなことはしないと絶対に思っていたのに!!)

 

泣く仕草も見せずその場を走る。 障子が勢い良く開かれ

 

「お前はそこで血生臭く仲良くやってろ!!」

 

そして閉められた。

 

「お、お嬢様!! 確かにここ血でいっぱいですけどぉぉぉぉぉ!!!」

 

「まずいな、このままじゃナギが違うトラウマを持っちまう、んでもって紛れもない腐女子の完成だ・・・」

 

「そんな悠長なこと言ってないで早くしないと―――」

 

その瞬間、ハヤテは一つの殺気を感じ取った。 それは閉められた障子の向こう。 

 

その夥しさに二人が気づくのはさほど時間は掛からなかった。

 

「――――!!」

 

テルはハヤテの前に立ち、懐から鉄パイプ撃鉄を斜め上に振り上げた。 ハヤテには何かわからなかったが、ガキン、という金属音と共に天井が突然として轟音を立てて破壊された。

 

 

「こ、これは・・・?」

 

「・・・・」

 

その天井にあったのは黒い槍だった。 刺さっている黒い槍は二人にとっても、そしてテルにとっても忘れられない物だ。

 

「・・・このクソ忙しい時にッ」

 

恐らく投げられたものだろう。 そう判断したテルは向こうを見据える。 投げられた際に障子は破壊されてしまい外から中の様子は丸見えだった。 

 

「・・・・・」

 

テルの視線にはやはりあの黒衣の少女、黒羽の姿があった。 そして同時に。

 

「お前、昼間の・・・」

 

「よう。 また会ったな」

 

黒羽の隣には温泉で居た木原 竜児の姿もあったのだ。

 

「テル様!ハヤテ様! 何かあったんですか!?」

 

異変に気づいた伊澄がやってきた。 そして黒羽の姿を見て顔が一層険しくなる。

 

「いきなり強襲かけてやったぜ綾崎 ハヤテ。 お前に一つだけ言っておく、三千院ナギは俺たちが捕まえて隠した」

 

「な、なに!!」

 

ハヤテが木原の言葉に反応した。 恐らく出ていったところを捕まえられたのだろう。 格下といっていたが一体どこに隠されたのか、ここから早く飛び出したいところだがこの状況で動くことができない。

 

「無事に返して欲しかったら、俺たちの要求に従うんだ」

 

木原が突きつける条件は恐らく、この前から狙っていた石のことだろう。

テルは鉄パイプを構えて二人に言った。

 

「なんか今回はちゃんと考えて来てんじゃねぇか・・・お前ら、一体何もんなんだよ」

 

そのセリフを聞いて、答えない訳にはいかないと思ったか、木原が薄く笑って答えた。

 

「・・・お前の事を昔から知っている人間だよ善立 テル・・・俺の名前は木原 竜児」

 

「木原・・・・竜児・・?」

 

 

 

―――どこまでも馬鹿なクソヤロー、俺を信じたお前が馬鹿だったんだ・・・

 

 

(な、なんだ・・・い、いまの)

 

一瞬、脳裏をよぎった場面。 突然の出来事に、テルの視界が荒れる。

 

 

「そして・・・・」

 

木原はゆっくりと構えて、言った。

 

 

 

 

 

 

 

「お前の記憶を消し去った男だ」

 

 

 







後書き
やっぱりナギは頭が腐ってるんですかね~。次回、話の進み具合がトランザム。

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