ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
人生初の入浴シーンですよ。


第70話~下田温泉湯煙事情その1~

色々な騒動に巻き込まれながらもテル達一行は無事に伊豆・下田へと到着していた。 宿泊場所は駅から歩いてわずか十分ほどというお手軽な場所にある。

 

恐らくナギのことを考えて作られた要素が存在しているだろう。

 

 

「へぇ、ここが三千院家の別荘・・・」

 

テルが立ち止まって言葉を止めた。 暫く別荘を遠くから眺めて唸りながら何かを考えている。

 

「? どうしたんですかテルさん」

 

気になったハヤテがテルに聞くとテルが「ん?」と気づいて答える。

 

「いやさ、この別荘なんか屋敷と似てね?」

 

「ああ。 確かに・・・」

 

ハヤテもよく見てみるとその作りからどこかで見たことがあると思っていたが、目の前の正門、そして玄関、窓の配置までどこからともなく東京の屋敷そっくりであった。

 

「馬鹿だなお前たち、そんな訳ないじゃないか。 気のせいだろ?」

 

「そうですわ。 けっして手抜きとかじゃないんですよ?」

 

ナギとマリアが笑いながら言っている。 この領域にはあまり踏み込んではいけないと相場が決まっているのだ。

 

「それに見ろ、その証拠にだ! 窓はなんと・・・」

 

ナギが屋敷の中から窓の外を指さす。 その先にはなんと・・・。

 

「うわっ! 太平洋じゃん! っていうかやっぱりそこだけかよっ!!」

 

この別荘の窓の景色は三千院家の広大な庭ではなく、広大な太平洋が広がる。 まぁそれだけ。

 

「しかし流石に熱海からここまでの二人乗り自転車は疲れました」

 

「ていうか私たちとほとんど同時だったな・・・どんだけスピードだしたんだ?」

 

「やっぱりお前人間じゃないね」

 

ハヤテが苦笑いを浮かべて話すが結局は苦笑い程度で済ませているのだ。 テルとナギがそれぞれありえないといった表情だ。

 

荷物も置いて、あらかた片付いたところでナギが言った。

 

「ま、せっかく温泉地にきたのだから、その辺の温泉にでも入って疲れをとってくればいい。 この場所には三千院家の経営する温泉があるからな」

 

「え? いいんですか? そんな気を使わなくとも」

 

ハヤテの言葉にナギは首を振った。

 

「マリアも行きたがっていたし、私は疲れたのでお昼寝をする。 テルも連れて旅でもしてこい」

 

「そういうわけだハヤテ、行くぞ」

 

「って、テルさん! なんでもう執事服から浴衣になってるんですか!? 風呂道具一式なんてもって! 一体どこにあったんです!?」

 

ハヤテが驚くのも無理はない。 テルは完璧なまでに職に対する心構えを捨てて、目の前の温泉のことに頭がいっぱいだった。 

 

テルはハヤテの背中をバシンと叩く。

 

「細けぇことはいいんだよ! 俺の、俺の・・・この顔が素敵仕様に変化するっていうんだぜェ―――ッ

! これがおちついていられるかよォ―――!!」 

 

凄いハイテンションのテルは道具を振り回したりとまるで子供のようだ。 それを見てマリアがハヤテの肩を小さく叩く。

 

「どうやらテル君は温泉のことで頭が埋めつくされてますよ。 だからあまり気にせず私たちも温泉へと行きましょう?」

 

「はぁ。 分かりました・・・ではお嬢様、僕たちは温泉に行ってきます」

 

「うむ。 存分に楽しんで来い・・・ふぁ・・」

 

と、屋敷から出ていったハヤテの言葉にナギはあくびを混じらせながら返したのであった。

 

 

 

「立派な場所ですね・・・これも三千院家所有の温泉なんですか?」

 

ハヤテの驚きマリアに聞くとマリアは笑みを浮かべながら答えた。

 

「はい、あとこの先には二三軒くらいはあるかと、取り敢えず近場のここを選んだんですけどね」

 

 

屋敷、もとい下田の別荘からわずかな時間を掛けることでその場所にたどり着けることができた。

大きな場所である。 のれんには大きな字で『三千院の湯』。

 

三千院家は温泉事業にまで手を出しているのかと、その経営力を改めておも知らされたテルであった。

 

さて、とテルが暖簾をくぐり入っていく。 靴を下駄箱の中へと入れてそのまま窓口へ・・・という流れになるはずだったが窓口の所で三千院家の関係者というのをマリアが店主に教えるとなんとその場でタダになった。

 

マリア曰く、これが職場の特権ってヤツです。とのこと。

 

「お、なんだ。 テルくんたちもこの下田に来ていたのか」

 

と、急に後ろから名前を呼ばれて振り返るとそこには見知った顔が居た。 

 

「あれ? 唯子さん?」

 

「いかにも。 奈津美 唯子とは私のことだ」

 

自己紹介は別にしなくても、というハヤテが心の中でつぶやくがいったいどうして唯子がここにいるのか分からなかった。 

 

「ふむ。 その様子だと、私がここにいるという理由が分からないと見たが・・・」

 

心を読まれた! と心の中で驚くハヤテ。 唯子はふっと笑い

 

「なに、今回は私の小旅行だよ。 君たちと同じだ」

 

「そうなんですか? 家族旅行とかですか?」

 

その言葉に唯子はマッサージチェアに腰掛けたまま両手を広げる。

 

「いや、一人だよ。 突然と下田に落下した隕石の効能で有名になった温泉の効能に惹かれてやってきた哀れな人間の一味だと君は笑うかい?」

 

「哀れ・・・だと?」

 

とテルの目が細くなるがハヤテは構わず返した。

 

「いえ、決してそんなことは思いませんよ。 それに唯子さんは別に悩むことなんてないんじゃないですか?」

 

「はっはー。 その通りだ。 私は常に楽しいことを良しとする、故に悲観的な考えや特に考えて悩むことなんてないからな!」

 

「そういう意味で言ったんじゃないと思うんだけどな・・・まさにポジティブの化身だ」

 

「まぁそういうな。 君たちだけなのか? 他に連れは?」

 

唯子が団扇を揺らしながら聞いてくる。 テルはそう言えばこの場にいないが確かヒナギクや歩が来ていたのを思い出した。

 

「そういえば会―――」

 

「なにィ!? ヒナギク君が来ているだとォ――――!!?」

 

 

会長と言い終える前に唯子は下田にヒナギクが来ていると分かってしまったらしい。 恐ろしいもはや変態の域だ。 いや、変態か。

 

「クソッッ!! 私はなんという過ちをッッ!! どうして私はッ 先に風呂に入ってしまったのかッッ!!」

 

「・・・・」

 

うん。 やっぱり変態だ。

 

 

 

ところで。 と残念そうに髪をかき回していた唯子が落ち着きを一気に取り戻してハヤテに聞き返えす。

 

「君たちもこれから温泉に入るのか?」

 

その問いに、ハヤテは首を縦に振って答える。 そうすると唯子は少し固まって

 

「・・・まぁそうだよな」

 

と言った。

 

「いや、気になるんですけど。 さっきの間は一体何だったんですか? 教えてくださいよ!」

 

「いやーべつにわたしはなんもしらないよー」

 

「棒読みになってますよ!」

 

ハヤテが気になって仕方ない。 一体この先に何が待ち受けているというのだ。 

 

最後に唯子は髪をかきあげるとつぶやくようにこういった。

 

「・・・不幸だな」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

その小さなつぶやきをハヤテとテルは聞き逃すことなかった。 いや、唯子はあえてギリギリ聞こえるか聞こえないのかのギリギリの大きさでつぶやいたのだ。

 

明らかにこちらの反応を楽しんでいる。 テルとハヤテは暖簾をくぐった。

 

「ハヤテ、少し覚悟して行こうか」

 

「そうですね。 ここからは・・・アレ? なんか、凄い寒気がしてきました」

 

ハヤテが両肩に手を当てて何やら不穏な空気を肌で感じ取っていた。 一体向こうの世界はどんな危険が待ち受けているというだ。

 

意を決して二人は浴場へと続く戸を開けた。

 

「やぁ――――」

 

衝撃的な出来事だった。 扉を開けた瞬間、ハヤテは足場の悪いタイルの上を難なく足場にして目の前に現れた男をテルが気付かない内に殴り付けていたのだ。 

 

「ん?」

 

テルがそれに気づいたのはその何かが豪快に湯の中へと落ちた時だった。

 

「え? どうしたんだいハヤテ君? え? なに、なんかゴミのように飛んでいったけど・・・」

 

「テルさん『ゴミのよう』ではなく、『ゴミ』なんですよ」

 

淡々と述べるハヤテの目は酷く冷め切っていた。 すぐにいつもの表情に戻るが・・・。

 

「そんな冷たいこと言うなよ綾崎ィ―――――!!」

 

間髪いれずにそのハヤテが呼称する『ゴミ』が湯船から奇声を上げて飛び上がってきた。

 

それにまるで思うこともないハヤテはそのゴミと呼ばれる男に前蹴りを顔面へと叩き込んだ。

 

ごふぅ。 という言葉と共に男は一度沈んだ。

 

「おい、これ誰?」

 

「ああ、たしかヒナ祭り祭りにでたお嬢様誘拐事件の犯人ですよ」

 

「え? ていうかそんな事件あったの?」

 

テルの言葉にハヤテは無言になる。 まさかマリアさん、テルさんには連絡してなかったのか。

 

と、直後、男は突然起き上がった。

 

「そんな、綾崎! 俺という男、虎徹という男を忘れてしまったのか!? 冷たいじゃないか!!」

 

「なんで風呂場にいるんですか!?」

 

「別にいいじゃないか! 一緒に入ったって何もしないし!」

 

「そのセリフは絶対何かする人のセリフですよ!! ていうか、警察に捕まったんじゃなかったんですか!?」

 

ハヤテの言うとおり、この男、虎徹はナギを誘拐未遂してしまったために一度警察に送られている。

 

「ふ、各地に赴いて謝罪と労働と反省文を永遠と繰り返し、今回は未成年の初犯ということでなんとか助かったよ・・・ますかアレがギャグに済まされないとはね・・・」

 

「なんでもかんでもギャグで流そうっていう考え自体が甘いんですよ・・・いっそのこと永遠に捕まっていればよかったのに」

 

「おい、ハヤテ・・・お前黒いぞ」

 

このままではソウルジ○ムが真っ黒になって魔女化してしまうくらいにハヤテの発しているオーラは黒かった。

 

「だが、一度監獄という場所を体感しながらもお前へのこの気持ちが萎えることはなかっッた! この愛は本物だァ――――!!!」

 

虎徹の会話を聞いて、テルはちょっと白い目を向けていた。 それはもちろんハヤテも例外ではなく。

 

「お前ら、もしかしてそんな関係なの?」

 

「そんな訳ないじゃないですか!!」

 

「あのさぁ・・・そういうのはホントコミケとか、そっちの方面の薄い本でやってくれよ。 これ一応全年齢対象版だからさ」

 

とテルが言ったところで。

 

「貴様ら―――! ここにはキングであるこの俺様がいるのだぞ! 静かにせんか――――!!」

 

湯船から立ち上がった人物が居た。 少々湯けむりが濃くて今まで気付かなかったのだ。 

 

「うげ! バカ王子!」

 

「ぬっ! 貴様らか! なんでここにいる!!」

 

この独特的な口調で話す人間など、テルたちの知っているなかでは一人しかいない。

 

乙葉 千里そのひとであった。

 

「バカ王子、それはこっちのセリフだ。 なんでお前がここにいるんだよ! って俺は取り敢えず質問をそのまま聞き返すぜ!!」

 

「俺は今回、爺やが何やら伊豆・下田のほうに行ってお休みをして来いと言っていたのでこちらに湯に浸かりにきたまでのことよ」

 

爺やとは千里の専属の執事、加賀美のことであろう。 

 

「見るがいい! 下田の温泉効能、そして絶景なるこの場所で静かに浸かり、ここの温泉卵を食べて体を癒す・・・まさに至福の一時ッ」

 

と言いながら千里は高笑いした。 そばにはバスケットの中に温泉卵があるが大きさが桁違いだ。 明らかにあれはダチョウの卵のである。 

 

温泉卵ひとつにとっても金を持つ人間は桁が違うと思ったテルたちであった。

 

「なるほど・・・唯子さんがため息をついていたのはこの人の事も頭に入っていたのか」

 

そうだな。と、テルが頷く。 なんか嫌な予感はしていたけど、まさかこれがその嫌な予感だったとは。

 

「さぁ、そんなことよりッ綾崎! 俺と一緒に愛を語り合おうじゃないかッ!」

 

調子に乗った虎徹は空へと飛んだ。 そして両手を合わせてハヤテへと一直線。 これが有名なルパンダイブである。

 

「誰がッ 語るかこの変態ッ!」

 

当然、ルパンダイブはほとんどの確率で失敗するためこれも例外ではない。 ハヤテの空中の虎徹へと合わせたハイキックが虎徹を蹴り飛ばすと同時に湯に入ろうとしていたテルも湯へと叩きつけられた。

 

「な、なんで俺まで巻き込んだーっ!」

 

「ん?」

 

勢い良く水面から顔を出したテルが叫ぶとちょっと隣で声がした。 どうやら他にも先客がいたらしい。

 

「あ、スンマセン。 僕らちょっとはしゃいじゃって・・・修学旅行のテンションみたいなモンなんですよ・・・」

 

と笑いながら湯けむりで隠れていた人物に説明する。

 

「いや、俺は別に構わねぇけど一般の人も来るから少し静かに――――」

 

と言ったときに風が吹いて湯けむりを吹き飛ばした。 そしてお互いに顔を見合わせる結果となり、その瞬間、二人は顔を見て思った。

 

「「ん?」」

 

ほぼ同時。 

 

(アレ?なんかどっかで・・・)

 

とテル。

 

(あばばばばばばばばばば・・・・)

 

と、男はテルを見た瞬間に凍るように固まった。 

 

(・・・・?)

 

(な、なんでェェェェェェ!!)

 

その風呂場に居合わせた人物、それはなんと木原 竜児であった。

 








後書き
ヒナギクとか歩とか唯子さんの入浴シーンだと思った? 残念! 野郎どもでした!(迫真)

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