ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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第67話~我思う故に分からず~

「迷子になってしまった・・・・」

 

無人と言ってもいい駅で一人佇むナギは辺りを見渡しながら己の状況を整理していた。

 

「えーと。 ちゃんと切符を持っていたのに電車が発車、ハヤテたちは見事に置いていった・・・」

 

冷静に考えている間に時間は過ぎ、虚しさの風だけが吹いてく。 

 

「ま、まぁ時々こんなサプライズもある!! それになんら問題ない! このとおり、切符はしっかりと持っているのだ! これさえあれば取り敢えず何とでもなる!!」

 

右手に持っていた切符を掲げるナギは見事に前向き思考を展開していた。 確かに切符さえあれば取り敢えず次ある電車に乗り込むことが出来たはずだ。

 

そう願いつつこのままここで時間が経つのを待っているようにしたが。

 

「そう、なんとかな―――」

 

その瞬間、手から握っていた切符が風に攫われた。 

 

「うわっ! ちょっと待てェ!」

 

風に攫われた切符はゆらゆらと空中を泳いでいる。 ナギがぎりぎり手を伸ばそうとするとその時だけ風はいたずらをしてナギの手は空を切るのだ。

 

「そ、それがないと私は・・・待つのだこの切符ッ!!」

 

渾身の力を込めてジャンプをしてようやくのことでナギは切符をつかむことができた。 これで帰れると思ったナギだがその掴んだ物を確認して目を疑った。 その切符らしきものにはこう書かれていたのだ。

 

『偽物の切符を掴まされることを・・・強いられているんだ!!』

 

「知るかんなも――――ん!!」

 

怒りのスイッチONとともに強いられシールを破り捨てた。

そして破って少しだけ冷静になったか、辺りを見たときには自分は駅とは程遠い、森の中へとワープしていた。

 

「え? どゆこと?」

 

気づかぬ内に切符を追いかけていたらこんなところまで来てしまったようだ。 どこの森も深く入ってしまうと昼ごろだというのに薄暗い。

 

「は、ハヤテ・・・ど、どこだぁ~」

 

その薄気味悪さを感じたか、ナギはふらふらと出口を求めて歩きだした。 一つのアドバイスを言うならば、雪山などで遭難した時の対処法はどこにも行かず、その場にとどまることである。

 

「どこなのだぁ~」

 

対処法はどこにも行かず、その場にとどまることである。大事なことなので二回言いました。

 

「ガルルルル・・・」

 

「へ?」

 

さらに言えば、こういった山などでは野生の動物もいるわけで、よほどのことをしない限りだがたまに襲ってくる野犬がいるのだ。

 

「ちょ、待て! 突然ここで犬が出てくるなんて聞いてないぞ!! 誰も望んでないし私だってなにも望んでいない!!」

 

バウッ!

とナギの言葉に答えるように野犬が吠える。

 

 

「吠えられる事を私は強いられているんだ!」

 

 

恐怖に煽られたナギは完璧にパニックに陥っていた。 黒い野犬は低い唸りを上げながらゆっくりとナギに近づいていく。

 

「や、やめろ・・・私はそんなに美味しいものじゃないぞ・・・ホントだぞ」

 

いつもならハヤテが簡単に追い払ってくれるのだが、今ハヤテはここにはいない。 今は電車の中にいるのではないかとナギはさらに自身の状況が詰まれていることに気づく。

 

「う、嫌だぁ・・・怖いぞ・・ハヤテェ!!」

 

「ガァァーーーッ!!」

 

助けを求めたナギの叫びを皮切りに野犬はナギに襲いかかった。 

 

(もう、ダメだ・・・多分ここには誰も来ない・・)

 

ナギはその瞬間、あの鋭い牙が自分の体に食い込まれるのだとナギは目を閉じて覚悟した。

だがその時だ。

 

「ギャウンッ!!」

 

「え?」

 

その犬の鳴き声を聞いたナギが目を開けた時、そこには信じられない光景があった。

 

「・・・・」

 

「ガルルルル・・・」

 

自分を襲うはずだった野犬が今度睨みを利かせているのはやけんの遥か小さな物体だった。

 

小さな物体はナギが目を疑うほど小さい。 大きさはわずか10~15cmほどの人形の大きさ。 黒い服を着ていた。 

 

『ヤーッ!!』

 

その小さく黒い人形、チビハネは野犬に向かって声を上げながら構えを取った。

 

チビハネが構えた瞬間、野犬は2度チビハネに突っ込んだ。 上から奇襲である。 大きく口を開いてチビハネに噛み付くつもりだろう。

 

だがチビハネの反応は早かった。 すぐさまバックステップで攻撃を交わす。 野犬の噛み付きは音を立てて空を切る。

 

その瞬間を逃さず、チビハネは脚部に力を入れて犬の頭付近まで一気に踏み込んだ。 

 

『ヤッー!!』

 

その気合と共に踏み込んだスピードを最大限に活かしたグーパンが野犬の額に炸裂した。 犬からすればまるで人間の蹴りを食らったかのような衝撃だ。 

 

野犬は泣きながらその場を去っていった。

 

 

『やー・・・・』

 

 

まるで格闘家が呼吸法をするかのように息を吐くと改めてナギを見た。

 

 

『無事だったかいお嬢さんよ・・・俺がアイツに同廻し回転蹴りを叩き込まなきゃお嬢さんは今頃アイツの胃の中だったな・・・』

 

「・・・?」

 

渋い声で言うチビハネだがナギは首をかしげていた。 当然である。 チビハネの声は主である黒羽にしか理解ができないのだ。 他人からはほとんどが「やー」としか聞こえないのだ。

 

 

(えーっと・・・これ、なんなのだ?)

 

目の前の現実離れした現実にナギは何度目をこすったことだろうか、しかし何度現実逃避しようとちび羽の姿が消えることはなかった。

 

『しかし、俺もマスターの懐で寝ている間にこんな所に落ちていたみたいだな・・・』

 

「取り敢えずお前なに言ってるかさっぱり分からんな・・・だが、助けてくれてありがとう」

 

ひょいとチビハネを拾い上げるとナギは笑顔で礼を言った。 この状況はあまり驚いていても解決するはずがない。 だからあまり驚かず受け入れることにしたナギであった。

 

「しかし、妖精の類にこの年で出会えるとは・・・良い、良いぞ! 漫画のネタに出来そうだ!!」

 

『ええ!? あの世紀末チックな漫画に私のネタを盛り込む要素がどこにあるですかー!?』

 

「あ? なんか言った?」

 

思わず素に戻ったチビハネだが睨みを利かせたナギに瞬時に黙り込む。

 

(あっれー、オカシイですね。 私の言葉ってマスター以外は解らないはずだったんですけど)

 

恐らくナギは表情で読み取ったということだろう。 恐ろしい子である。

 

「まぁ、私はともかく・・・お前は迷子か?」

 

『いや、状況からするにお前が迷子じゃないですか?』

 

あくまで自分の迷子を認めたがらないナギにチビハネが突っ込む。

 

「私はそうだな・・・空飛ぶ切符を追いかけていたらいつのまに知らないところへ・・・」

 

『それを迷子と言うんじゃないですか!?』

 

チビハネは前回三千院家に侵入した際にナギの姿は寝ていた状態で確認していた。 だが情報で聞いていた負けずぎらいという部分だけであるが、アホの項目を増やしてもいいのではないかと思ったチビハネである。

 

「しかし困ったな・・・」

 

『むぅ、私もマスターとの早期合流を望んでいるわけですし・・・ここは敵の親玉だろうが手を貸してやるです』

 

と己の考えに結論を付けるとナギの肩に乗り出し道を指さした。

 

「お前、私をバカにしているのか? こっちなわけが無いだろう。 こっちだ」

 

とチビハネはナギを誘導しようとしたのだがナギもこの状況でも往生際が悪く、他人の意見に従おうとしない。 チビハネの指した逆方向の道を歩いていく。

 

ガシッ。

 

「あいたたたたたたッ! こら、髪を離せバカ!」

 

『コイツの方向に従っていたら一生この森から出れる気がしないです。 だから力ずくで連れていきますです!』

 

ナギのツインテールをがっちりつかみ、力ずくでチビハネは自分の方向へと歩いていく。 ナギはなんとか逆らおうとしていたが体格差と力の差があり、後ろ髪を引かれていった。

 

 

といっても、チビハネも勘で歩いているわけだが。

 

 

 

自分の主がこんな状況なわけだが、その頃の列車にいるマリアたちはというとだ。

 

 

「こうしてマリアさんとお話するのも久しぶりですね」

 

「そうですね。 今回は家族旅行なんですね・・・お姉さんは居ないんですね?」

 

「はい。 仕事で来れなくて・・・でもお義父さんが誕生日に行けなかったからどうしてもって」

 

「はは、相変わらずですね」

 

ハヤテとテルが(テルは強制)この列車を飛び出してから談笑を交えて数十分が立つ。 もう二人なんて居なかったかのような状態になっていた。

 

(ハヤテ君とテル君ってどんな扱いになってるんだろう・・・)

 

ちょっとそんなところが気になったヒナギクだったが、今回こうしてわざわざマリアと話をしているのは世間話をするためではない。

 

「で? 私に深刻な悩みを聞いて欲しいっていってましたけど」

 

そう。 ヒナギクはマリアに一つ相談があったのだ。 それはごく最近起こったと言っても過言ではない。

 

「もしかして胸のことですか?」

 

「違います!!」

 

マリアさん、温泉の効能求めに私がきたとまだ思っているようだ。

と、ヒナギクは頭を悩ます。 まぁ当たらかずとも遠からずだが。

 

「私はそういうのはあまり気にしないほうがいいと思いますよ? 女性というのは発達だけに魅力を求めるわけではありませんし、それに温泉なんかに入っただけで変化があるとは到底・・・」

 

「いや! なんか違う方向に話が変わり始めていますよ!!」

アレ? なんか今日のマリアさんきっぱり言い過ぎな気がする。 こんな人だっけ。 オブラートに包まないで直接苦薬口に突っ込まれてるような過激さだ。

 

「そうじゃなくてですね! その・・・恋愛絡みというか・・・私じゃないですよ! 友人の話です!」

 

「友達の話ですか・・・へぇ」

 

(うぅ・・・なんかすごい感づかれてる気がするけど気のせいよね・・・?)

 

慌てて付け加えたヒナギクだが、マリアとかに言うにはもう少しマシなカモフラージュをしないとバレてしまうので気を付けましょう。

 

 

prrrrrrr。

 

「あら? 知らない人から電話が・・・」

 

ヒナギクの話をする前にマリアの携帯に着信音がかかってきた。 

 

『おおマリアか? 私だ』

 

「あ、ナギ! 今どこに居るんですか!?」

 

電話の相手はなんとナギだったのだ。 ナギの携帯はここにあるため公衆電話か、他人の携帯を使用しているのだろう。

 

「誰かと一緒にいるんですか?」

 

『ああ。 不本意なことだが、ハムスター印のハ○ロクを手に入れたぞ』

 

『ちょっとナギちゃん! 不本意ってなんなのかな!?聞捨てならないよ!!』

 

ナギの声に混じって別の声が聞こえてきた。 どうやらこの人物の携帯を使用しているのだろう。

 

では次の熱海で合流しよう。

とナギが言った時にマリアの携帯に別の着信がきた。

「あ、今ハヤテくんからキャッチが入りました。 ハヤテくんにも伝えますので電話はそのままでお願いします」

 

 

マリアはナギにその旨を伝え、ハヤテにナギの現在の状況を通達するのだった。

 

 

 

 

快晴の空、日本海上空はどこまでも澄んでいた。

だがその雲一つなき空を一点の黒。

 

「………」

 

黒い翼を拡げているのは鳥でもなければ飛行機でもない。 人間だ。

 

無言のまま空を悠々と飛んでいる黒羽はその翼にて伊豆を目指していた。

 

木原とは別ルートで向かい、後にある場所で合流する手筈となっている。

何時もなら一人で向かう黒羽だが今回は小さな連れがいるのだ。

 

それはヒナ祭りから自身から生まれたチビハネである。

 

黒羽の命令に忠実に動くあの物体の正体を黒羽は掴めないままでいた。

 

自分のイメージに近い物を作りだし、武器として使うのが黒羽の黒曜だがあのチビハネだけは完全に黒羽の思考から外れていた。

何より考えたのはチビハネの行動だった。 木原 竜児という男と同じく笑い、泣き、怒る。

 

 

――それはどれも自分には全くない。

 

 

あの姿が自身の写し身ならば、あのチビハネは自分と一緒で機械のような存在だと思っていた。

 

が、現実にはあの様である。 まるで意志があり、生きてるように。

 

 

だから黒羽は疑問する。 自身とチビハネの相違に。 これは悩みではない、チビハネの存在など取るに足らない、が自分のイレギュラーな事態が起きている事は隠せない。

 

 

原因があるとすればただ一つ。

 

あの男から貰った一太刀ではないかと黒羽は考察する。

 

テルの放った強化版撃鉄が自身の体に当たった時、確実に何かが起きた。 恐らく過度なダメージの上で使用した黒曜の力がエラーを起こしたのだとすれば。

 

悪魔で予想だがこれが一番の節だろう。

 

どうやらあの系列の武器は自身に脅威となるものらしい。

 

次なる対策を打ち出して置かなければと黒羽は考えていたが、ここであることに気付く。

 

いつもなら五月蝿いとも言えるチビハネの声がない。

 

「………」

 

今まで自身の肩に張り付いているものだとばかり思っていたがそこにチビハネの姿は無かった。

 

 

今、現在で黒羽はチビハネが居ないという事に気付いたのだった。

恐らく飛んでいる間に寝落ちしたのだろう。 チビハネはよく寝る癖がある。

 

直ぐ気付くのが遅れたのは考え事をしていたためだと黒羽は断定。

 

 

無駄な思考は判断を鈍らせる。

 

黒羽はそのまま見捨てても良かったがそのチビハネの存在が余りに引っかかる。

 

 

彼女は旋回し、飛んでいたルートを飛び直すのだった。






前書き
まぁナギも執事クエスト内で色々と非現実的な光景は見ている訳だからこれくらいは大丈夫かと。

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