ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
温泉に釣られて欲望の亡者が集まってくるようです。


第66話~ルール無視からの強制退出~

「おおハヤテ! やっぱり列車は速いな! 見ろ、景色がすごい勢いで変わっていくぞ!」

 

遠足に行く小学生のような無邪気さを全面に押し出しているナギ。 同席に座っているハヤテはその光景を見て笑みを浮かべていた。

 

「やべぇな、マジやべぇよコレ。 小さな悩みもぶっ飛んでっちまう・・・」

 

窓に一緒に張り付いているテルを除けばもっと良い笑顔を演出できたが、彼のせいで半分苦笑いだ。

 

「しかし、まぁなんだ。 伊豆っていったらなんだ? うまい食べ物なんてあったっけ?」

 

窓に張り付いていたテルが景色を堪能したか、席へと座る。 それを聞いたマリアはお茶を飲んで答えた。

 

「テル君、あれじゃないですか? 昨日やっていた温泉ですよ」

 

「ああ、あのテレビでやっていた温泉ですね?」

 

ハヤテの言葉にテルも昨日の夜のことを思い出していた。 行く前日になってのことである。 テレビをつけていると、伊豆の特集を行なっていたのだ。 

内容は近くに隕石が落ちてその近くの温泉になにやら怪奇な現象が起きているという。

 

 

なんでも元気が湧いてきたりと滋養供給に優れたりというのもひとつであるがそれだけではないのだ。

 

 

『他にも、女性は胸が大きなくなります』

 

 

「なん・・・だと・・?」

 

 

これを同時刻見ていた某学院の生徒会長様は思わず風呂上りに飲んでいた牛乳を飲むことを忘れて食いついたりしている。 まぁそんなことはハヤテたちは知る由もないが。

 

 

『頭がよくなって主に数Iを中心に理数系の成績がアップします!』

 

「なん・・・だと・・?」

 

これに反応したのは普通の高校の女子高生。 思わず目の前に広げていた教科書の問題よりもそちらの方に食いついたのは言うまでもない。

 

 

『それと何らかの理由で神秘の力を失った人は力を取り戻せるとか・・・そうなんですよね?』

 

 

『はい、俺は失ってた死神の力、取り戻すことができました』

 

 

「な・・・・に・・」

 

もちろんこれに反応したのはどこかの陰陽師みたいな少女。 飲んでいたお茶を一度置いてその画面に食いつく。

 

 

『そしてなにより体が発達しましてね・・・見てくださいよこの女の子、こう見えてもこの子まだ六歳』

 

『ショウガクセイニナッタラトモダチヒャクニンデキルカナー?』

 

「なん・・・だと・・」

 

何よりこの食いつきからして言うまでもないがこれは某お金持ちのお嬢様。 明らかにおかしな体型をした六歳児の体型をガン見していたのは言うまでもなく。

 

『実はココだけの話・・・死ん魚のような瞳が水を得た魚のようにキラキラと輝き出すんです!』

 

「なん・・・だと・・」

 

 

もちろん、その屋敷に仕えている借金執事は誰よりも早くその話題に食らいついた。 彼の人生はここで変わるのだと思ったのかもしれない。

 

 

 

 

 

「俺もこのコンプレックスからついに抜け出せる時がきたんだよ。 入っただけでこの辛さからおさらばできるんだぜキャッフゥゥゥゥ!!」

 

 

ドスッ。

 

 

喜びを声にして表していたテルに対して即座にマリアがテルの鳩尾へと抜き手を繰り出した。 繰り出された抜き手はテルの溝尾へと突き刺さる。

 

「静かにしましょうね? 騒ぐのはいつでも向こうについてからでもいいじゃないですか」

 

「・・・はい、す、ずみばぜん・・・」

 

呼吸困難のような辛い息のしづらさに言葉を上手く発せられないテル。 みんな、電車の中ではあまり騒がないようにね。

 

「まぁ、お嬢様にはお嬢様の良いところがあると思うので僕はあまり気にしませんが・・・」

 

「ば、バカもの! 別にそういう訳ではないのだぞ! ただアレだ! せっかくの伊豆だ。 そういうパワースポットとかあったらちゃんと寄って行きたいではないか!!」

 

ハヤテの言葉が図星だったのか、ナギは慌てて言い訳した。 そこへテルが腹を抑えながら割って入る。

 

 

「お前はいいよな、あまり深い悩みとかなさそうで」

 

「僕にだってありますよ。 悩みくらいは・・・」

 

そのセリフを聞いてテルは顔をしかめて鼻を鳴らす。

 

「お前が抱えている悩みってアレか? 女絡みの悩みだろ? いいだろうがコノヤロー、日本中の俺みたいな人間が、お前のような人間を全国の男子が殺意を込めた瞳で見ていることを忘れるんじゃねぇぜ」

 

「いや、そんなことないですって。 僕はこの不幸体質をどうにかして欲しいです」

 

「お前は自分のその体質をまるで理解していない。 お前のその不幸体質はなくしちゃダメなんだよ。 そう、それはもうネタをのせていない寿司のように意味がねぇんだ・・・不幸をとったらお前はもうただの女たらしになっちまうんだよ!!」

 

「テルさん、訳がわかんないです!」

 

「もう、二人とも旅を盛り上げるような話もしないでどうするんですか?」

 

二人の話にうんざりしたか、マリアが割って入った。 列車の醍醐味と言えば、目的地に着くまでの景色をのんびり見ながら堪能するというものだ。 

 

「それなのに近頃の若い子と来たらやれトランプだの、PSPだの全く景色に目を向けることもしないで・・・」

 

「「はい、全くおっしゃるとおりで・・・」」

 

なにやらブツブツと続けているマリアに二人は苦笑いで答えていた。 説教をくれるマリアの姿はもうオカンにしか見えない。

 

 

「ん? ハヤテ、そのお前が膝の上に乗せているソレはなんだ?」

 

ふとナギがハヤテの膝の上にあった四つの箱を見て聞いていた。 テルは分かっていたが、ナギやマリアはこのようなモノには縁がないのだろう。 首をかしげてこちらを見ている。

それを見てハヤテは中の袋から取り出して見せた。

 

「これは駅弁ですよお嬢様」

 

「駅弁?」

 

「はい、駅で売られている弁当です。 車内でお嬢様たちがお腹を空かせると思ったので買っておきました。 皆さんの口に合うかわかりませんが・・・」

 

「その駅弁はどこでも売っているんですか?」

 

まじまじと駅弁を眺めながらマリアも興味津々だ。

 

「たいていの駅で売っていると思いますよ。 駅一つ一つに特色があって旅の一つの楽しみですよ」

 

 

「ふーん」

 

普段見ない駅弁というものに興味が沸いたのだろう。 ナギは席を立ち上がった。

 

 

「ならば私も自分用に買ってくる」

 

「おーう。 じゃあ迷子になるなよー」

 

ふん、と鼻を鳴らしてナギはそこを去っていく。 今のは遊びでテルが放ったものだ。 さすがにここで迷子というのは有り得まい。

 

「どうしても自分用に欲しいんですね。 僕が買ってきた弁当なんて興味がないんですかね?」

 

弁当箱を抱えたハヤテはまだ開いていた列車のドアから出ていくナギの姿を見てハヤテがさびそうな目をしていた。おおかた、また勘違いをしているのだろう。

 

「まさか。 どうせ物珍しくなって欲しくなっただけだろう? 変に落ち込むなって」

 

「僕見捨てられたりしてませんよね?」

 

「それは考えすぎだバカ」

 

もう知らん。 ここまで変にネガティブになられるとこちらの対応も困るというものだ。

 

―――数分後。

 

「なぁ、アイツ遅くね?」

 

「そうですね。 お嬢様、まさか迷子に?」

 

「いやいやいや。 まさか、やめろって、フラグなんて俺は立ててはないぞ」

 

『それでは発車いたします』

 

車両内に発車を告げる放送が流れた。 さすがにこれはいけないと思ったテル達だったがちょうどその時に。

 

「おーい、ハヤテェ!」

 

「お、お嬢様!?」

 

ようやくナギの姿を確認することができたハヤテだが、そのナギは窓の向こうにいた。 ナギはなにかこちらに呼びかけている。

 

「おーい、財布を忘れてた。 駅弁を買いたいから早く持ってきてくれ。 ものすごくいいのが見つかったのだ。 イクラがのっておるのだ。 すごい高級感が溢れているだろう!!」

 

注意。ナギの声はハヤテたちには聞こえません。 

 

ものすごく今の自分の置かれている状況を理解していないアホがハヤテたちの前にいた。 

 

「おおおお嬢様!! 何しているんですか! もう発車する時間ですよ! 急いで乗ってください!!」

 

「というかナギの財布とかは中身はカードなんですからあんま意味ないですよ!!」

 

当然だがハヤテとマリアの言葉も向こうのナギにはまったく聞こえていない。 ナギから見てわかるのはなにやら中でうだうだと騒いでいるというだけだ。

 

「まったく。中の奴らは何を騒いでおるのだ。 このとおりハヤテから言われた切符はもちあるておるし、これがあれば安心―――」

 

ガチャン。

 

どうどうとチケットを見せびらかしているナギの目の前で自動でドアが閉まった。 時間が来たのである。

 

列車がゆっくりと動き出し、窓に見えていたハヤテたちの姿もゆっくりと遠ざかっていく。

 

「・・・・」

 

やがて列車全体が駅を過ぎ去っていくと呆然としていたナギが目をぱちくりとさせた。

 

「あっれー?」

 

自分の置かれている状況がどういうものか全くわからないナギはただ立ち尽くしていた。 自分が置いて行かれたという悲劇に気づかない、これもなんという悲劇かな。

 

はい、迷子の出来上がりです。

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおお!!! 燃えるんだ僕のコスモォォ―――!!」

 

ナギが目の前で置き去りにされているのを黙って見ているハヤテではなかった。 すぐさまに救出に向かおうとしているハヤテであるが、その方法がまさかの列車の扉を無理やり開かせるという行為だった。

 

「お、落ち着くんだハヤテ! お前、いくら主人公だからってこんな暴挙許されると思ってんのか――!!」

 

「放してくださいテルさん! お嬢様が危ないんです! お嬢様が通常の三倍のスピードでトラブルに巻き込まれるのはテルさんもよく知っているでしょう!?」

 

「そりゃあそうだけどいくら主の為だからって救出するために法まで犯すか!!」

 

「だったら一回列車を止めてもらったほうがいいんじゃないでしょうか?」

 

慌てるハヤテとテルを前にマリアが冷静にその一言を告げる。 その一言にハヤテが反応する。

 

「なに言ってるんですか! 列車なんて止めたらそれでこそ何千万という借金が!!」

 

「俺もこれ以上借金増やすのはゴメンですよマリアさん!!」

 

列車にはダイヤという時刻表があるため基本列車はその時刻表通りに動かなくてはならない。 早すぎても遅すぎても駄目なのだ。 

 

列車のダイヤというは固く、ダイヤモンドのように守られなければならない。 これが時刻表をダイヤと呼ぶ理由である。

 

そんな物を簡単に止めてるということはすべての時刻を丸々変えるということである。 

 

だがマリアは言った。

 

「そのくらいの損害で住むのなら別に止めてしまっても構わないんですけど・・・」

 

((忘れてた!! マリアさんにはこのての常識が通じないんだったッ!!))

 

やはり金銭感覚の根本的違いだ。 一般人たちの常識をはるか超えている。

 

ここで絶望的状況に立たされたハヤテはテルとアイコンタクトを取った。

 

(テルさん! こんな状況ですし、マリアさんをここに一人で置いていくのは危険だと僕は考えています!)

 

(たしかにそうだな。 いや、ちょっと待てハヤテ。俺はお前に連れていかれることは確定なのか?)

 

(当たり前ですよ! 探す人は多いほうがいいに決まってます!!)

 

最近のテルには拒否権というものがないらしい。 だがここにマリア一人だけを残していくのはいささか問題があるのではないか。 

 

「あれ? テル君にハヤテ君にマリアさん・・・どうしてここに?」

 

その時だ。 二人の目の前に救いの女神が現れた。

 

「ヒナギクさん!? どうしてこんな所に!?」

 

ハヤテたちの前に現れたのは私服姿のヒナギクだった。 

 

「え、なんでって言われても・・べ、別に温泉とかの効能の話を聞いて家族旅行の場所を伊豆とかにした訳じゃないんだから!!」

 

(いや、嘘だね。 俺にはわかるぜ会長)

 

一瞬でその動向からヒナギクの虚偽を見極めたのはテルだった。 なぜなら自分も同じく温泉の効能を求めるものなのだ。 同じ目的をもつ人間の頭の中など分かってしまうものだ。

 

「でも良かったですよ。 ここでヒナギクさんに会えるなんて・・・」

 

「え・・・そう・・?」

 

ハヤテの一言に少なからずとも嬉しそうな仕草を見せるヒナギク。 

 

「でも一緒には居られませんので、まりあさんをよろしく」

 

まんざらでもなさそうにしていたヒナギクに続けてハヤテは真顔で言い放った。

 

そして気合を込めてドアを一気に開けるとテルの首根っこを掴んだ。 

 

「もう俺に拒否権なんてないのかよ! お前、後で覚えておけよチクショーーーー!!」

 

テルの怒号に耳を貸すことなくハヤテは車両の外へと軽く飛んだ。 投げ出されたのではなく、飛んだのだ。

 

 

「良い子このみんなは絶対にマネしないでねぇぇぇぇ!!」

 

時速百キロを超えている列車から飛び出しているテルは空中で雄叫びを上げながら地面を転がった。 普通死にます。

 

アスファルトを変に受身を取ることなく直接叩きつけられただろうに大の字で倒れて重傷を負っているテルをよそにハヤテはむくりと立ち上がってガッツポーズを見せていた。 

 

 

「・・・もう人間じゃないですね」

 

「・・・・そうですね」

 

(え、というか・・・私とそんなにいたくないのかしら・・?)

 

少女の悩みはまた増えたのであった。

 

 

 




後書き
フフ・・・こんな時でもハヤテはマイペースか、大した奴だ・・・。

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