ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

65 / 148
伊豆下田編始まります。


第65話~旅立つ先に幸あれ~

「おーいテルゥ、さっさと来いよ、置いていくぞ」

 

朝から早く、三千院家の玄関には三千院家の次期当主、三千院 ナギの姿がそこにあった。 普段引きこもりである彼女が珍しく外に出ているのはとても珍しい。

 

「待ってろっての、ったく・・・遠足前の小学生じゃねぇんだから」

 

やる気のなさそうな顔で玄関から現れたのは善立 テルであるというのは言うまでもない。

頭を掻きながらテルはそうつぶやいていた。

 

「まぁ、テルさん。 せっかくお嬢様が外に出てるんですから、本当なら嬉しいくらいなんですよ?」

 

「どーせ今回だけだハヤテ。 次の話になったらいつものニートお嬢様に逆戻りだ」

 

 テルに続くようにもう一人の執事、ハヤテが笑みを浮かべていた。 そんなハヤテにテルはふんっと鼻を鳴らす。

 

「ごめんなさーい、遅れてしまいました」

 

最後に扉を開けたのはマリアだった。 テルの視線がその姿に釘付けにされる。 今回のマリアはメイド服ではなく、私服だったのだ。

 

「んー。今日もいい天気ですね。 皆さん準備はできましたか・・・って、どうしたんですかナギ」

 

気付けば、ナギがマリアをジロジロと見ながら何か考えていた。 少しの間を開けて一言。

 

「いや、お前も寝巻きなんて冗談はよして、早くメイド服の準備を・・・」

 

「このオシャレ服が寝巻きに見えますか」

 

「だっていつもメイド服だから違和感が・・・」

 

「まぁまぁ皆さん。 早くいかないと予約の電車に間に合いませんよ?」

 

話を終わらせたのはハヤテだった。 使用人が運転する車が門の近くで停車している。

 

「ふむ。 では行こうか、皆のもの。 いざ伊豆半島へ!!」

 

 

 

 

第81話~クリスマスだけど特に予定なんてなかったんだぜ~

 

 

―――東京駅。

 

「ってアレ?」

 

「さっき車乗ったと思ったらもう駅かよ!?」

 

「ふっふっふ、残念だったなテル。 この小説ではよくあることだ。 場面の切り替えなど、話の区切りが付いたら一段落でかえることが出来るんだよ」

 

「なん・・・・だと・・」

 

まぁ驚いているところは放っておき、話を戻すことにする。 

 

「しかしまぁいきなり伊豆半島にいくことになるとはな・・・」

 

そう。 彼らがこれから向かうのは伊豆半島だ。 それは昨日、突然と言われたことだった。

なんでも、ナギの私用とかで行くことになったのだが、詳しいことは伝えられていない。 

 

「でも今回は変わってますね。 出かけるにしてもお嬢様だったらこの駅ごと買い取ってしまうかと思ったのに」

 

ハヤテが思うのももっともだ。 三千院家の財力なら、一つの駅を丸ごと借り切ることも出来る。 だがナギはそれをしなかった。 普通に予約をしてチケットをもらい、人ごみあふれる駅のなかで普通に立っている。

 

「そんな無粋な事はせんよ。 今回はただ普通に旅を楽しみたいとおもったからさ」

 

というナギ。 実は今回の旅、特別なことということなのでSPの方々も付いてきては居ないのだ。 誘拐の危険率を上げているという自覚はあるのか。

 

 

「だから誘拐されんじゃないのかよ」

 

「まぁ、今回はテル君とハヤテ君がいますので頼りにしていますよ」

 

笑顔でテルにいうマリア。 使用人嫌いのナギに自分たちは信頼に足る人物になったのだろう。

 

「まぁ、失態を見せればどうなるかわかってますよね?」

 

これも笑顔で言うマリア。 その笑顔からはダークネスなオーラが滲み出ている。 あの目はなんだ、見ただけで人を支配下に置ける目だ。 けっしてギ○スとかじゃないよ。

 

「「い、イエス・マイロード」」

 

「いや、お前らの主は私だから」

 

震えながら忠誠を誓っている二人に対してナギが静かに突っ込んだ。

 

「おお、そういえば私たちの乗る列車はどれだったか?」

 

「確かスーパービュー踊り子号でしたっけ? どこにあるんでしょう?」

 

ナギとマリアが辺りを見渡す。 こんなところはたから見られてはただの田舎者だと完治がされるのではないかと思ったハヤテである。

 

(おいハヤテ・・・)

 

(なんです?テルさん)

 

(俺の勘が正しければ、ナギとマリアさんは世間知らずと常識知らずの塊だ。 とても俺は安心して電車に乗せることがでるか心配だ)

 

(まぁ、確かに心配ですけど。 ただでさえ厄介なことに巻き込まれるのは通常の三倍のスピードですから・・・)

 

(そうだ。 だからこそ、お前がしっかりしないと二人を守れないぞ?)

 

(いや、テルさんも手伝ってくださいよ。 同じ執事でしょ?)

 

(イヤ、無理。 昨日スパロボZやってたら夜を明かしてた。 だから今眠い。 同じクラスの哲夫くんに今週中に返さなきゃならないのにまだクリアしてねぇんだよ)

 

(だからって僕に丸投げしないでくださいよ。 しかも今まで言いませんでしたけど、この会話の描写、お互いにチラ見しながらコンタクトとってるだけですからね!)

 

(ほら。そんなことを言ってる間に・・・)

 

 

「えーっとこのグリーン車ってなんなんですかね?」

 

「きっと緑色なのだろう。 旧ザ○的な感じで」

 

「じゃあ適当に空いている列車に乗りましょうか」

 

「そうだな」

 

隣では二人だけで危なっかしい発言をするナギとマリアの姿が。この二人をこのまま放置していたらろくなことにならない。 ナギに関しては爆発オチが目に見えている。

 

「あーもうっ! 全席指定なのでチケットなくさなければ全く問題ないです!ささ、出発ですよ!」

 

最終的にすべての仕事を丸投げされたハヤテ。 その二人の手をとって誘導していく。 まるで引率の先生だ。

 

「計画通り!!」

 

某主人公のセリフを言葉にしながらテルもあとを追っていった。 

 

 

 

時間は少し遡る。 時刻はだいたい六時ごろ、まだ夜が明けて浅い時間帯だ。

 

 

「うーん。 やっぱ無謀だったかな?」

 

道路をマウンテンバイクで駆るひとりの少女の姿があった。 ジャージ姿にリュックサック。 そしてそのオーラから醸し出される普通感。 

 

西沢 歩その人である。

 

「まだ出発して一時間・・・この時間からかけて行けば余裕だと思ってるんだけど・・・」

 

足のペダルに力を込める。 彼女の言う目的地まではまだ遠い。

 

「伊豆半島って遠いなぁ・・・」

 

 一般人の常識で考えてみよう。 東京都内から伊豆半島までどれくらいの距離があるのか。 常識的に考えて一日でというのはありえない。 しかし、歩は学生だ。 普通の女子高生なので電車賃などはまったく蓄えがない。 そして何より最近親の会社の事情を聞くとワガママが言えない状態であった。

 

 

その結果がこれである。 これならまだ伊豆行きの電車に張り付いて目的地に行った方がまだ早いのではないか。

 

 

「おお、その作戦なんかイイな」

 

「そうそう、もうそこらへんで走ってる列車でもいいから捕まえてひとっ飛びしたいなぁー・・・って」

 

突如心の声に割って入ってきたその人物は自身の隣にいたのだ。 しかもこの自転車に併走している。

 

「よう。 ハムスタ!」

 

「なんか違うよ! 伸ばしが無いだけでなんか全然違うよ!」

 

隣にいた人物は前回のヒナ祭りに会った人物、木原 竜児だった。 

 

「なんだハムスタ。 今日は体を鍛えるためにサイクリングか?」

 

「え、えーっと・・・」

 

(どうしよう。 まさか自転車で伊豆に行こうだなんてあんま言えないし・・・)

 

勢いに任せて自転車を漕いでいるとはいえ、その道は険しい。 万里の長城くらいの果てしなさがある。

その絶望感からちょっとだけ目的を伏せている歩だった。

 

「ちなみに俺はこれから伊豆に行くつもりだ」

 

「はい?」

 

一瞬、耳を疑ってしまった。 この男、木原 竜児は今なんと言っただろうか。 

 

伊豆に行く。 それは問題はない。 問題があるとすればその行く手段だ。

 

「え、伊豆って、どうやって?」

 

「いや、どうやってって・・・走ってだけど」

 

(は、走って!? この人、ここから伊豆までどれくらいの距離があるかわかってるのかな!?)

 

自転車で行こうとしているあなたも人のことは言えません。

 

「だって体を鍛えなきゃな。 黒羽はもう飛んでっちゃったし・・・」

 

「あ、黒羽さん。 元気にしてる? この前はゴタゴタしちゃっていつの間にかはぐれちゃったんだけど」

 

木原の口から聞い黒羽という名前に歩が反応した。 ヒナ祭りでは黒羽と共に店を回っていたのである。

 

「飛んでっちゃったって・・・あの人も伊豆にいってるの? もしかして飛行機とか?」

 

「いや、まぁ間違っちゃいねぇよ。 ただな、飛んでいくとき黒羽は・・・

 

 

黒羽『私が空を飛ぶために必要なこと、それは私自身が飛行機になることだったんだ』

 

「って言ってたんだ・・・」

 

「なんでそうB○EACHっぽくなるのかな? 黒羽さんは最後の卍解でもしたのかな!? というかそんなキャラじゃないよね!?」

 

思わず突っ込んだのはその異常な内容からだけではなく、あの鉄仮面がそんなギャグのセリフを放つなどというのは歩の中のイメージとかけ離れていたからだ。

 

「当たり前だ。 あいつがギャグをかますようになったらそれでこそ世界の消滅、地球の終わり、アルマゲドンだよ」

 

「最終的には隕石まで落ちてくるくらいの危険!?」

 

淡々と述べる木原に歩は突っ込んでいくことしかできない。 少しだけ会話が収まると、木原が口を開いた。 

 

「なぁ・・・」

 

「何かな?」

 

「やっぱり長くね? 伊豆まで」

 

ずっこけた。 近くに石があったわけでもなくずっこけた。 

 

「トレーニングだって言ってたあのポジティブさはどうしたのかな!?」

 

「いやぁ、だって人間出来ることとできないことがあるじゃん。 現実的に考えたら無理だった。うん、無理」

 

キランと笑顔で返す木原に歩は呆れる。 そんな歩を尻目に木原は次なる行動をしていた。 何故か近くの線路の近くへと移動する。

 

「じゃあ簡単な方法で俺は行くことにする」

 

「いや、どうやっていくの?」

 

その時、ちょうどそこから離れたところで大きな音がした。 列車だ。 列車が来たのだ。

 

「ハムスタのアイディアをもらおうと思ってな、こっちの方向へ行けば伊豆にも近づけるんだろ?」

 

間違ってはいない。 その方向に行けば大まかにも伊豆方面へと向かっていくのは確かだ。 しかしやり方が間違っている。 

 

「止めたほうがいいよ! 死ぬってホント考え直して! いや、マジで!!」

 

「はっはっは! 何驚いてんだよ。 これくらい簡単だって」

 

歩の忠告をけらけらとあしらう木原は遂に準備に入った。 後ろに下がって助走を付けて一気に線路にダイブする。

 

 次の瞬間、時速200を超える貨物列車がちょうど歩たちの横を通り過ぎていった。 

 

「ほーらかん た ん だっ って――――」

 

「全然言えてないからぁぁあぁぁ!」

 

通り過ぎたのはものの数秒、木原のセリフが歩に完全に届くことはなかった。 まぁ当然といえば当然であるが。

 

「本当に飛び乗っちゃったよ・・・」

 

常人なら体の骨折では済まない。 色んな体の場所が吹っ飛んでいてもおかしくないだろう。

 

だが歩は確かに見たのだ。 時速200を超えるスピードで動く貨物列車の取っ手の部分をピンポイントで鷲掴みしている木原の姿を。

 

よほどの筋力と握力がなければすぐに腕がちぎれてしまう。 そしてあの絶対的な自信。 まるで恐怖心なんてないかのようだ。

 

「っていうか、私置いてけぼりにされちゃったよ! ちょっと急がなきゃ不味いんじゃないかな!?」

 

ぽつんとその場に残されていた歩は急いで自転車を立ち直すと、ペダルに足をかけて駆け出した。







後書き
木原くんの時だけなんでバキ描写になるんですかねぇ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。