ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
チビハネちゃん、マジ逃げて。
本日の三千院家はお客さんが珍しく来ています。
屋敷内を歩いているのはひとりの少女。 白皇学院の生徒会長、桂 ヒナギクである。
「なんか誰もいないから勝手に入っちゃったけど大丈夫かしら・・・?」
現在、使用人たちはそれぞれの仕事に付いている。 テルはうなだれながら屋敷内で、マリアは着替えるために一度お風呂場へと、ハヤテもどこかで仕事に付いているだろう。
「別にこれはハヤテ君に会いに来とかそういうのじゃないの。 ただ今回は届けものをしてくるようにお義母さんに言われただけで・・・」
少し前のヒナ祭り祭り、ヒナギクの誕生日の白皇で来た人たちに少なからずともお礼をしなければと小さな紙袋をもって来たのだ。
祭りと言えば、ちょっと変わった事がある。 彼女はその祭りでハヤテのことが好きであるというのを自覚してしまったのである。
という訳で、ハヤテがいる屋敷に来ることに少なくとも緊張してないとは言い切れない。
「別に緊張とかもしてないから・・・・・」
いや、酷く緊張していた。 その証拠に辺りをキョロキョロしながらと。もはやいつもナギの家に遊びにくるという軽い感覚ではなくなっている。
「それにしてもみんな仕事に夢中になっているのかしら・・・適当にこのソファーでも座っていようかな」
立っているのもなんだったので、その客専用のソファーに腰をかけることにする。 しかし、ヒナギクが背にもたれた瞬間。
バキッ!
「ひゃっ!」
ソファーの一部が鈍い音を上げた。 ヒナギクの体がゴロンと後ろへ投げ出される。
「な、なんでソファー壊れてるのかしら・・」
べっきりと折れてしまっている背もたれを見てヒナギクが身を起こす。 よく見ると、ソファーの背もたれにはノコギリで削られた後があった。
これでは簡単に背にもたれただけで折れてしまう筈だ。
「なんだかテル君の仕業のような気がするけど・・・まさかね」
今考えられる可能性は家事が一番できなさそうな彼ほかならないとヒナギクは踏んでいる。 実際は違うのだが。
と、一歩踏み込んだ瞬間。 今度は足に何かが引っかかる感触がした。ピンッという音を立ててキレたあとに、何処からか殺気を感じ、振り返る。
勢い良くヒナギクの元へ飛んできたのは長方形型の何かだ。 何かと識別するより早く、ヒナギクは右手に政宗を呼び出してその物体を斬り捨てる。
「・・・こ、これは・・まな板?」
ゴトッと落ちてきたモノをよく見るとそれは台所で使われる一般的な道具、まな板だった。
「どうしてこんなものが・・・誰からかの悪意を感じるわね・・・」
と、まっぷたつになっていたまな板をよく見ると、大きく字が書かれていた。 まっぷたつにしたせいでなんと書いているか分からないが、二つを合わせる大きな字でこう書かれている。
『このまな板女』
そしてその裏には数字で「72」と書いてあった。 これは意味がよく分からなかったが。
ブチ。
「ホント・・・悪意しか感じられないわね・・・」
「アレ? ヒナギクさん。 来ていたんですか?」
とそこへタイミング悪く、ハヤテがやってきた。 しかしその瞬間、ヒナギクは政宗の矛先をハヤテに向ける。
「ハヤテくん? 私今すごく機嫌が悪いの。 ちょっと悪者がこの屋敷にいるから一緒に捕まえるのを手伝ってくれないかしら?」
「へ? それは構わないんですけど・・・なんで怒ってるか教えてくれませんか?」
「な・ん・で? こうあなたはデリカシーっていうのがないのかしら?」
「スイマセン。 もう聞きませんから取り敢えず政宗を首筋に近づけるのは止めてください」
とても素敵な笑顔で居る時のヒナギクは本当は般若並みの形相をしているに違いない、想像したくもないが。そんな先頭を切り始めたヒナギクを見ながら心の中で、また何か自分はやらかしてしまったかと思っているハヤテだった。
――――――――――
『またなんか一人増えましたね・・・即席のトラップを作ったとはいえ、あの女、侮れないです』
廊下を歩くチビハネは先程のヒナギクの超人的な光景を見ていた。 今後、これからの自身のマスターの驚異になることは間違いないだろう。
『さて・・・あの男はどこに行ったのか。 探すのもいいですが、こう広くては疲れます」
確かに、こうも屋敷ないが大きく広くては一部屋を行ったり来たりするだけかなりの時間がかかる。 今だけ等身大でないことを悔やんだ。
何かないかと辺りを見回していると。角を曲がろうとしたところである物を発見した。
『あれは・・・』
チビハネが発見したのはティーセットや食事などを乗せてあるキャスター付きの台だ。 ひとりの老人が押してこちらに向かっているのがわかる。
それを見てチビハネは閃いた。 即座に身を潜めて老人が横切るのを待つ。
『とうッ!』
と、台が丁度横切る瞬間にチビハネは素早く飛び出してキャスターの間をすり抜けて真下へと滑り込んだ。 そのまま真下の部品に張り付く。
『これで楽に移動することができます・・・』
どこかで見たことのあるようなシーンだが取り敢えず突っ込まないで置いて、軽快な速さで進みながらチビハネは真下から隙間から見える空間を眺めていた。
ある程度距離を稼いだところでチビハネは張り付くのを止めて床を転がった。 服に付いた汚れを払うと少しだけ空いている部屋を見つけた。
その隙間を覗くとチビハネはニヤリと笑みを浮かべた。
『ビンゴなのですぅ・・・』
そこに居たのは部屋掃除をしているテルであった。 しかしその表情はぼーっとしており、何か遠くを見つめるような虚ろな状態である。
「はぁ・・・どうにかしてくれ。 この状況から抜け出せる方法を教えてくれ」
モップを扱いながら、ヨレヨレとした動きで床をきれいにしていくテルがつぶやく。 今日は朝から散々な目にあっている。 それが彼をここまで疲労させていたのだ。
『ククク・・・弱音を吐きまくっているのですよ。 もはやヤツは虫の息・・・』
タンスの上によじ登り、気分だけ見下ろした気分をチビハネは味わっていた。
『しかし、ヤツもまた怨敵でありながらも私の好敵手だったわけでありますが・・・ここで殺るのはちょっと気が引けますね』
今までの戦いを知っているわけではない。 テルを好敵手と呼んでいるのもチビハネの勝手だ。
『私が本気を出せばこんなもんですよ。 あっさり過ぎましたがね・・・』
ふんと鼻を鳴らすチビハネは内心では多少興ざめしてしまっているといったところか、その言葉には高ぶりはない。
しかし、ここでチビハネの予想外の展開が起こる。
「おや? テル様、なにかお困りのようで?」
『なッ!?』
と、いつの間にこの部屋に現れたんだと思ったチビハネだ。 その驚愕の視線の先には和服を着た少女がいたのである。
「オイオイ伊澄、一体どこから入ってきたんだよ」
テルはだいたいの察しは付いているが、突如現れた伊澄に向けて問う。 伊済はいつものようにポケーっとしながら
「ええーっと、いつものように歩いていたら・・・いつの間にかここに」
つまりは迷子。 この伊澄が所有している天性のスキルだ。
F○teのサーヴァントで表せるなら、必ずともEXランクとも言っても過言ではないのである。
「まぁ、ちょっと聞いてくれよ伊澄。 実は今日は朝からだな・・・」
と、テルは朝から今までの出来事を伊澄に聞いてもらうことにした。 伊澄は霊能力者であり、恐らく呪いの類の知識はあるはずだと思ったからである。
「・・・今の話を聞く限り、呪いという可能性もなくはないのです」
話を聞いていた伊澄の言葉の感じが少しだけ変わる。 やはり、これはその類の呪いなのか。
「しかし、それは人本来の持つ幸運の要素にも入ります。 ハヤテ様の不幸が乗り移ったのかしら・・・」
「さすがにそれはねぇだろ。 断言できないけど、あの不幸はケースが違う。 なんかこう、あいつが都合が悪くなるような不幸しか起きてないからだな」
ハヤテの場合、不幸はいつものように訪れているが、それは決まってハヤテが行く道を阻むかのように都合を悪くするものだ。 テルのように、直接命まで狙われるような不幸ではない。
「・・・まぁ尽力はします。 これでもそういった類のモノにはなれてますから」
(だいたいの検討はついていますし・・・)
と心の中でつぶやいた上で伊済は袖から札を取り出した。 表情が一変し、いつものおっとりから仕事人の顔へと変貌する。
「ではこれでその呪いとやらを捕まえましょう」
伊澄が取り出したのは一つの小さな箱だ。色柄は素晴らしい、だがその箱の形を見てテルは目を細めた。
「ええーと、なにこのゴキブリホイホイ・・・」
「これは鷺ノ宮の悪霊捕獲用具、捕異捕異(ほいほい)です」
「やっぱりゴキブリホイホイじゃねーか! 名前もそうだしこの横に空いたそれらしき穴もあるし!」
テルの言うとおり、その捕獲用具と言われた箱の側面にはどうみても小さなあの黒い虫専用の通り抜け穴が数個ほどあった。 どう見てもゴキブリホイホイである。
「しかし、この効果は絶大です。 そのうち一家に一台ぐらいの需要が出てくるはずですよ」
「んなわけあるかよ・・・」
と突っ込んだテルをよそに伊澄は箱をその場に置いた。 そして何かを箱の中に入れたあと、蓋をしてテルと共に部屋を出る。
「これで完璧です。 あとは数分の後に悪霊はあの箱の中にいることでしょう」
「俺の見間違いでなければだけどなぁ、あの箱の中に入れたのってどう見てもケーキだよな」
「はい、ついでにチョコレートとかもいれてみました」
「そんなのに引っかかる奴がいるのか? そもそも俺に呪いをかけてる悪霊がいるのか?」
「まぁ・・・それはお楽しみです」
袖口で口元を隠しながら自信アリ気につぶやく伊澄にテルはなにも言うことはなかった。
・・・・そして数分後、扉を開けて入ってみると。
『わーい! このケーキマジで美味いです~!!』
箱の中でケーキにかぶりついているチビハネをテルたちは見つけた。
「コイツはあの祭りの時の・・・」
「知っているのですか?」
「あぁ、なんか知らないがあの黒い女と戦ったときに出てきたやつだ」
テルの『黒い女』という言葉に、伊済の表情が険しくなる。
「・・・ではこれは使い魔ということでいいのでしょうか?」
『ハッ! お前はマスターの怨敵! まさかこの箱は罠ッ!?』
いまさかよと言いたくなるが、ようやくチビハネは自身が罠にかかったということを自覚したようである。
『オラァこっから出せぇ! このインチキ魔術師がぁ!!』
「なんと言っているのでしょう?」
「さぁな。 コイツ『やー』しか言わないから分からん」
チビハネがなにやら騒いでいるが二人には『やー』という言葉しか伝わってはいない。
「では早めに片付けてしまいましょうか・・・その前に」
と伊済が箱を持ち上げて怒りの顔のチビハネを凝視する。
「アナタを使った人物はだいたい予想は付いています。 その人はどこにいるか教えていただきたいのですが・・・」
「伊澄?」
テルはチビハネに言葉を放つ伊澄に何か違和感を感じる。
『なッ!? コイツ、何を言ってやがるのです!?』
チビハネは驚いた。 伊澄が聞いたのは自分の主である黒羽の場所。 当然、チビハネは知ってはいるが、教えることはない。 そのまま座り込んで白を切ることにする。
「やはり教えはしてくれませんか。 多少の意思はあるようですね・・・」
「伊澄・・・一体何をするつもりだ」
低い声でテルが伊澄に聞く。 明らかに仕事人の顔だ。 だがそれ以上に感じる違和感、これはなんだろうか。
「この使い魔から主の場所を聞いていたんです。 場所が分かればその場へと私が赴いて戦うつもりですが・・・この使い魔は話してくれそうもなかったので」
「ここで始末します」
続けて放ったその一言に、テルは驚愕した。 いや、これも仕事として割り切ってしまえばそうなのだが、とテルの顔が困惑の顔へと変わる。
「何もそこまでする必要はないだろ。 確かに実害を被った俺からすれば、無視はできないけどな」
「・・・私たちに脅威となる存在は出来るだけ取り去っておいた方が良いかと思ったのですが。 それでも貴方は敵にまたしても逃げるチャンスを与えるのですか?」
「・・・・」
伊澄の一言にテルは黙り込む。 事実、テルやナギ達を襲ってきた相手をテルは倒しはするが捕まえるまではしない。 現に、黒羽の時だってそうだ。 ヒナ祭りの時も何故か仕留めずに終わっている。
「その甘さは戦いでは命取りです・・・ましてやこれは使い魔、人形といっても過言ではないです」
伊澄がテルに対してこのような態度を取るのは初めてだ。 戦いでの甘さが招く危機。伊澄も経験があるから言えるわけだ。
「ふん」
それに対してテルは鼻を鳴らして返す。
「ご忠告感謝する。 けど俺は必要のない戦いはあまりやりたくねぇのよ。 敵が挑んできたら気の済むまで潰してヤル気をなくさせてやるだけだからな」
テルはよほどのことがない限りは相手の命をとったりはしないだろう。 しかし、敵に情けをかけるどころか、相手に手をさし伸ばしたりと普通は考えられないような考え、はたから見れば偽善だ。
「わかりました。 今回は見逃します・・・ですが、今度会ったら」
「あぁ、その時に俺が居なければ煮るなり焼くなり勝手にすればいい。 遠慮なくやれよ」
その言葉で納得したか、テルにその箱を手渡す。
「すまねぇな。 今回は俺の顔を立たせてやってくれ」
それで敵を見逃せというのか、あまつさえ、自分の命を一度は取られかけたその手下相手に。
伊澄の心の中は複雑だ。
「まったく・・・いったい誰の為に言ってるとおもってるんですか・・」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもありません!」
と顔を少しだけ赤くしながら伊澄は去っていった。 テルはなにがなんだかわからない。
「さて………」
ヒョイと箱を持ち上げてテルはチビハネを取り出した。
「今の会話を聞いたら大体分かんだろ。 これからは気を付けな」
『自分の命を狙う相手を助けるとは愚かな奴です』
「だからなんて言ってんだよ」
口ではそう言ってもテルにはやーとしか伝わっていない。構わずチビハネはテルの肩に跳び、近くの窓に降りた。
そして窓を指差す。
「窓開けろってか?ホレ」
ぱしぱしと窓を叩くチビハネを見て、テルが仕方無く窓を開ける。
『こう簡単に敵を見逃すとは浅はかな奴です。 私から言わせれば『ちょろい』です。 まぁ一応感謝しますが……』
最後にビシッと指をさして言い放った。
『それではまたケーキを食べに来ます。 ごきげんよう、チョロ助』
当初の目的とは全く違うセリフを残してチビハネは飛び降りていった。結局『やー』としか言ってないが。
「もう来んなー」
ヒラヒラと手を振ってテルは窓を閉めた。 少しばかりため息をつくと再び仕事に取り掛かろうとする。 しかしその瞬間。
―――パツンッ。
「あれ?」
なにか張り詰めていた糸が切れたような音ともに天井から白い粉が溢れてくる。
「なんだこれ・・・小麦粉?」
目線から見えるその袋にはそう書かれていた。 どうしてこんな所にあるのかという疑問を浮かべる前に、テルの視線はそのすぐ横へと向けられた。
なにやらたくさんのてこの原理を利用したオブジェが設置されており、ピタゴラスイッチのようにボールが動いている。 そしてそのボールの終着点にはライターがあった。
さて、小麦粉という粉末物質を密室にした状態でなおかつそこに火を付けてしまうとどうなるか、みなさんはご存知だろうか。
「やべ―――」
ボールがピタリと止まった瞬間。 一瞬の閃光と共に部屋が吹き飛んだ。
テルはこの日を境に、小麦粉が少しだけ嫌いになってしまったのは言うまでもない。
○
『帰ってきましたよマスター!!』
夕方になった頃。 汚れた姿でチビハネはビルの屋上へと戻ってきた。 ビルの屋上では黒羽と木原が居る。
「お、帰ってきた。 ずいぶんと汚れてやがるなオイ」
『五月蝿い豚に興味はないのです! マスター!』
木原がつぶやいてるのに目もくれず、まっさきに黒羽の肩へと飛び乗る。
「・・・・ご苦労さま」
黒羽がその手のひらにチビハネを乗せた。 木原は何をしているのかと視線で問いをかける。
「情報の共有。 この子が見てきた情報を私が触れることで共有することができる」
「あらとっても便利だこと」
要は触るだけでチビハネの情報が黒羽に全て渡るというものだ。 驚きの性能である。
「で? その成果はどうだったよ?」
早速その情報に期待する木原。 黒羽は情報を一度整理して簡潔に述べた。
「ただっ広くて、ケーキが美味い」
「え?なんだそりゃ?」
そのふざけているのかと思う内容に木原は疑問を浮かべながらチビハネをつまんだ。
『触んなこのゲスやろう』
もの凄い殺気をこめた瞳で木原を見るチビハネ。 負けじと木原もにらみ返す。
「・・・・」
『あ、マスター・・・』
二人のにらみ合いをよそに黒羽はその場から離れていく。
『マスター。 私はマスターの役に立っているのでしょうか? 生まれたばかりの私が言うのもなんですが、私はマスターに笑って欲しいです』
チビハネは端で空の彼方を見つめる黒羽を見ながら胸のなかでつぶやいた。
初めて見たその日から感じていた違和感。 なぜそんなにも無表情なのか。
何か過去に悲しいことがあったのかもしれないし、チビハネがそこに入ることは出来ないだろう。
だって自分は・・・「使い魔」もとい人形のような、ものなのだから。
『ちくしょう、あの小娘の一言にいちいち気を立てている暇はないというのに・・・』
あの忌まわしき箱の中へと誘った和服の少女の事が脳裏を過ぎった。
『しかし、私が必ずやマスターに笑顔を取り戻させて見せます!』
熱い決意を表した拳が天を穿つ。 と、そのチビハネの真上から白い布が被せられた。若干湿ったそれは百均にでも売ってそうな白い使い捨てのタオル。
「ほら。 なんかスゲー汚れてるからコイツで拭け」
どうやらタオルを渡してきたのは木原だった。 湿ったタオルを持ち上げて顔を確認する。
『ケッ、なんかムカツクやつですけどこれは気の利いた奴です』
「ケッ、せっかく労を労ってやってるのに・・・・ん? どうした黒羽」
そんなやりとりをしている時、いつの間にか黒羽がすぐ側に立っていた。 まるで気配を殺した家政婦のミ○のように。
「言い忘れていた」
「言い忘れてたって・・・何を?」
頭に疑問形を浮かべている木原に黒羽が答える。
「この子の記憶から、次の三千院家の目的の場所を特定した。 来週には、そこに向かうらしい」
『あー! それは確かかれんだーとかに書いてあった奴です!』
チビハネが騒いでいるが、木原は黙らせて続きを聞いた。
「三千院家が次に向かう場所は・・・伊豆半島」
その言葉を聞いた瞬間、木原の顔が歪んだ。
「マジかよ。どうしてもいかなきゃいかないのか?」
「強制はしない。 ただ、作戦の効率が低くなるだけ、目標の達成には充分」
木原がいかなくても、黒羽が一人で行けば成功率が下がるものの目標は達成できるといったところだろうか。
「分かった。 行こう、お前一人だけ行かせるのはなんか不安だ。 いろんな意味で」
そこには別の目的があるのだろう。 木原の表情はそういうものだった。
『わ、私も行きます! 行きますとも! マスターとなら地の果てでも!』
チビハネも遅れて意気込む。 木原は真上の空を眺めた。
(あの場所に行くのは・・・何年ぶりかね)
もうすっかり夜になりかけてきた頃、一つだけ浮かんだ星を見て木原は心のなかで懐かしんだ
後書き
伊豆の話見てたら温泉行きてぇ。