ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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第57話~執事と生徒会長と小さな人形~

「あ、綾崎くん・・・?」

 

「あー、えっと・・・まず、こんばんわですヒナギクさん」

 

寝ぼけた眼を擦りながらそう呟くヒナギクに対してハヤテは苦笑いで返した。 その表情を見てか、ヒナギクは少しばかりひび割れた時計を見る。

 

「・・・十一時半?」

 

少なくともその時計が故障している可能性を覗けば、嘘を言っていないというのも分かった。 しかし、その現在の状況を理解したヒナギクは右手に正宗を召喚した。

 

「へ?」

 

呆気にとられるハヤテが驚くのも無理はない。 ヒナギクはハヤテに向けて正宗を振りおりしていた。寸でのところでハヤテは正宗を白羽どりする。

 

「9時に来るんじゃなかったのかしら・・・綾崎くん?」

 

「スイマセンスイマセン!!」

 

物凄い剣幕でハヤテを睨むヒナギクはまだ正宗をハヤテに押し付けていた。 まるでこのまま両断してかねない勢いである。

 

「まぁ要するに宮本武蔵気分ってことね・・・わざと遅れて相手を油断させるっていう・・・」

 

「違いますって! その・・・なんていうか」

 

「なに? 納得いく理由があるなら聞くけど?」

 

「その・・・素で忘れてたというか・・・」

 

―――ブチィン。

 

「ダッシャアアアアアアア!!」

 

「のわあああああああああ!?」

 

方向と共にハヤテはヒナギクによって後方へと吹き飛ばされてしまった。 

 

「いたた・・・ヒナギクさん! どうしたんですか?」

 

「武器をとれ」

 

「ハイ?」

 

「勝負がしてほしいんだっけ? 早くを武器とりなさいよ」

 

ギロリ、と向けられた瞳は明らかな殺意を放っていた。 もうこの表現に飽き飽きしてるかもしれんが、あの眼はザクのモノアイだ。

 

(一体これはどうなっているんだ? ちゃんとヒナギクさんがあの手紙を見たか確認しないと・・・!!)

 

「ひ、ヒナギクさん! あの手紙は見ましたか!?」

 

*ハヤテは手紙の内容を知りません。

 

「て・・・手紙?」

 

―――胸の大きさが戦力の決定的な差で無いという言葉がありますけど・・・勝つのはぼくですけどね

 

*ハヤテは手紙はテルが書いたため、ひどい内容となっております。

 

「ええ・・・覚えているわよぉ」

 

「だったら・・・」

 

「だから勝負つけたいんでしょ? 白黒つけたいんでしょ? メチャメチャにしてやるわよ。 という訳で早く武器をとれ」

 

「だからなんでそうなるんですか!?」

 

「誰のせいだと思ってるのよーーーーーー!!」

 

逆切れしながらヒナギクは正宗を構えてハヤテに走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えええええええええッッ!!? ど、どういうことォォォォオ!!?」

 

黒羽とテルの戦いの最中、そのあり得ない光景にテルは絶叫していた。

 

「やー」

 

黒羽の銃口から飛び出た人形が突如動き、声まで出したのである。

 

大きさは8センチから10センチくらいか。 ねんどロイドのような大きい瞳と普段の黒羽とは全く想像ができないような天然顔が特徴だ。

 

『これもまたぁ、SONYの技術ゥ・・・』

 

「しかしなんでまたねんどロイドチックな顔だよオイ。 これもまたフィグマの策略だろ」

 

見た目はどう見てもあの某人形会社の作りが一緒なのである。 これではあの某球団のマスコットキャラの立ち位置が危ない。

 

「やー!」

 

「なんだ? もしかしてアレしか喋れないのか?」

 

「やー!」

 

『コレもお嬢ちゃんの攻撃と思ってもいいのかねェ・・・』

 

ボムも推測するかのように黒羽を見つめる。 この小さな人形も黒羽の攻撃の手段と考えたのだ。 一方等身大の本物の黒羽はと言うと。

 

「・・・・」

 

この奇想天外な状況にも眉ひとつ動かさないでいた。

 

「どうやら違うようだな。コレだけはアイツも予想外だったわけだ・・・」

 

『やー』

 

とひょこひょこと歩いてきた小っちゃい黒羽はボムの目の前までやってきていた。

 

『あん? なんでぇ嬢ちゃん・・・』

 

笑顔の黒羽(人形)に対して挑発するように窺うボム。

 

『言っとくけどなぁ、この作品のマスコットキャラはもうこの俺様に決定したんだよォ! この座はテメェが末代かかってもぉ、ぜえっていに渡さねぇええって・・・・あるぅぇ!?』

 

ボム兵が舌を巻きながらしゃべっている間に、黒羽(人形)に持ち上げられていた。

 

『やー!』

 

『オイ! テメェ、離しやがれこの野郎ッ ああっくそぅ! 足が短くて身動きができねェ!』

 

短い脚をバタバタと動かしながら抵抗するが全く効果なし。 人形の方は笑いながらボムを持ち上げたまま走り回っている。 

 

「えーっと、コレはもう突っ込むっていうレベルじゃねェな」

 

『んなこと言っとらんで早く助けろぉい!』

 

「はいはい」

 

とボムが助けをコールしたため仕方なくボムを取り上げた。 ひょいと取り上げられた人形は頭に?マークを浮かべて辺りを見回す。

 

『・・・?』

 

「ったく。 ここは遊び場じゃねぇんだ、これ以上ここに居られるとト○・ストーリの関係者に訴えれれちまう―――」

 

とテルがしゃがみこんで人形を指差した瞬間。

 

「よ」

 

ガブッ。

 

人形は口を開けてテルの指に噛みついてきた。

 

「ぎゃああああああああああああ!?」

 

『ガウゥ! ガゥウウ!!』

 

「いででででででで! やべーよコイツ! マジ痛ェマジ痛ェ! 指取れるって! 指取れるからやめてお願い!!」

 

指をブンブンと揺らしながら人形を離そうとするが一向に離れない。 ならば力づくでともう片方の腕を使うが、大きさに似合わず物凄い力のため引き離せない。

 

『おい小僧! 前を見ろイ!』

 

「うおぅ!」

 

ボムの声に気付いて前を向いたとき、黒羽が片腕を剣に変えて襲ってきたのだ。 辛うじてそれを横に跳ねて躱す。

 

『また来るぜェ・・・』

 

ボムが言うとおりに、黒羽はそこからツーステップを踏んでさらに追撃、テルは片方の腕で鉄パイプを構えようとしたが。

 

『やー!』

 

ガブリ。

 

「ぬぉおおおおおお! コイツ鼻まで噛みやがった!! 離れねぇーーー!!」

 

その間にも黒羽が問答無用で距離を詰めてくる。 またしてもテルは何も出来ずにその攻撃を躱すしかなかった。

 

「この野郎め!」

 

と、ようやく噛みつきが終わったのを見計らってテルは人形をぽいっと投げ捨てた。その人形は黒羽の掌にスポッと収まった。

 

「チクショウ・・・散々だぜ! おいボム、俺の鼻大丈夫? 取れてない?」

 

『ああ、大丈夫だ。 むしろそこら辺噛みつかれたせいで美形になったんじゃね?』

 

「え? ウソ!? どのへん?」

 

と緊張感がないのはいつものことだが、テルは改めて黒羽の方を見た。 人形の方は掌で腰に手を当てて笑っている。

 

『やー!』

 

「なんでドヤ顔なんだよ。 可愛い顔してエグイことしてくれるじゃないの」

 

テルも鉄パイプを構える。 今度は本気のようだ。 

 

『やー!』

 

ソレを見てか、黒羽の人形もどこからともなくあるものを取り出した。

 

「な、洗濯バサミ?」

 

『野郎・・・どっから出しやがった』

 

 

などと突っ込んでいる二人。 人形はニヤニヤと笑いながら洗濯ばさみをバチンバチンと鳴らしている。スプリングが強く、なかなかの締め付け具合がありそうだ。

 

『やー!』

 

「・・・なんて言ってんのアレ?」

 

『任せろ。 同じマスコット同士、言語は違えど心は通じる。 翻訳してやるぜ』

 

ボムが人形の言葉の翻訳にかかった。

 

『やー!』

 

『なになに・・・「この姿で私の居場所をかく乱して奴を驚かしてやるぜ」』

 

「く・・・あの小さいサイズは見つけるのが厄介だからな」

 

『やー!』

 

『「ついでにこの洗濯バサミでお前の股間を挟んでやってもいいんだぜ」』

 

「な・・・なんだと?」

 

なんと小っちゃい黒羽(もう後半はチビハネでいいや)は事もあろうに男の急所を容赦なくギロチンするという計画を立てていた。

 

「こいつ・・・なんて恐ろしい奴だッッ」

 

股間をひそかに抑えるテル。 もはやチビハネは小さな死刑執行人だ。

恐怖の所業をテルは防ぐことができるのか!?

 

「取り敢えずカバディだ!」

 

『なんでそうなる!? この小さなちびっこもやるわけが・・・・』

 

『やー!』

 

『やるのかよカバディ! もう何が何だか分からねェ!』

 

テルの提案に元気よく手を突き上げたチビハネにボムが突っ込んだ。

 

「・・・・・」

 

もうシリアスな雰囲気がぶち壊されているこの状況で黒羽はじーっとその光景を眺めていた。

 

 

 

場所は変わり、鷺ノ宮宅。 和式の豪華な日本庭園ではきれいな満月を見上げるリィンと伊澄の姿があった。

 

「しかし、祭りももう終わってしまったのか。 祭りにしかない限定品とか欲しかったのだが・・・」

 

「もう、また今度の祭りに行けばよいのでは? しかし・・・呪いが解けてしまうのがハヤテ様だけと言うのは誤算でした」

 

「あぁ、まぁ呪いが掛かっている少年執事の方はそんな危険に巻き込まれることは無いだろうからな」

 

「ええ。 まさか今日中に爆発と言うのはありえませんし・・・」

 

いやはや、そのまさかの可能性を見逃していた伊澄であった。 そしてリィンがふと気づく。

 

「そう言えば、決闘のときどうして武器持参なんてことをかいたのか・・・」

 

「それは・・・その、武器勝負なら相手の武器を落としてそれで決着がつきますし・・・そ、それに・・・」

 

そういう伊澄は次の言葉を発するのに少しだけモジモジしながら説明した。

 

「それに・・・素手だとほら・・肉体的接触があるというか・・・」

 

「なるほど・・・君は意外と・・・」

 

「い、意外とってなんですか意外って! 成仏させますよ!」

 

と、顔を赤らめて伊澄はお札をブンブンとふるう。 それに反応してリィンの体が少しばかりか薄くなった。  すぐさま伊澄が冗談と札をしまう。

 

「すまん、冗談にしてもやりすぎだと思う」

 

「スイマセン」

 

謝る伊澄。 そして、話題を変えるようにリィンが伊澄に尋ねてきた。

 

「そういえば、時計塔で二人が無駄な争いをしているようだが本気で戦うと勝つのは一体どっちなのか?」

 

今行われているもう一つの戦い、テルと黒羽の事なんてこれっぽちも考えることもなく、ハヤテとヒナギクの話題になった。

 

普通に考えてみれば片方は完全無欠の剣道娘、片や、車に轢かれてもロボットに攻撃されても全然だ異常な執事。

 

武があるのはハヤテだろう。 しかし、伊澄の見解は違った。

 

「武器での戦いになれば、恐らくハヤテ様が負けます」

 

「ほぅ、それは彼が女性相手に本気を出せないということだろうか?」

 

「まぁそれもありますが、生徒会長さんには木刀・正宗を渡していますので・・・」

 

木刀正宗、それは所有者の潜在能力を最大限に引き上げる鷺ノ宮家の宝具。 どのくらい能力が上がるかと言うと・・・

 

「00ガンダムがピンチの時にトランザムを発動した時くらいの上昇っぷりです」

 

「ふむ。 なるほどな、分からん」

 

取り敢えずめちゃくちゃ強くなるんです。

 

 

「なので、木刀正宗を持っている生徒会長さんにはハヤテ様の動きがすべて見えます」

 

 

 

「そこに直れェェェェェエ!!」

 

ブンッとヒナギクが正宗を振るうたびにハヤテを吹き飛ばすほどの剣圧が発生する。 周りの物もいくらか吹き飛んだ。 割れ物がないのが奇跡だ。

 

「まったく! あなたのお嬢様はしっかりと覚えていてくれたのに! ホントにうっかり者の執事さんねェ!!」

 

「のわああああああ!!」

 

怒りのままに横へ正宗を薙ぐ。 風が巻き起こり、ハヤテもそれに巻き上げられた。 後方へとバランスを崩しながら着地する。

 

(どうしよう・・・物凄い怖さだ・・・この怖さは原作を超えている!一体どうすれば・・・ッッ)

 

 

まさに絶対絶命。 今は辛うじて躱すことができているが、いずれは捕まってしまう。そうなってしまえば痛いという痛覚的なものでは済まされない。 それほどの地獄が待っている気がすると感じた。

 

その時だった。

 

『そんなときは必殺技だ・・・フ○ースを継し者よ』

 

(え・・・誰ですか?)

 

まるで脳内に話しかけるような、男の声がハヤテには聞こえた。 

 

『ほら、俺はここだぜ?』

 

と声のする方へと目を向けると・・・居た。 

 

 

良い体つきの青いつなぎの男の姿がそこにはあった。

 

「・・・・・いや、だから誰ですか?」

 

『フッ・・・俺はあれだよ、漫画で言う心理描写の天使と悪魔の葛藤みたいな、まぁ必殺技の化身みたいな? 俺ははってん場の化身だけど』

 

「いや、はってんばってなんですか? 突っ込んだら負けってやつですか?」

 

『まぁ、そんなことはどうでもいいんだよ』

 

「無視かよ」

 

つなぎのいい男はハヤテに構わずどんどん話を進めていく。

 

『いまこそお前は使うべきだ・・・いい男のみが使うことを許される秘儀のテクニックを・・・』

 

「いや、何勝手に名前つけてんだよ。 僕の必殺技蹴りだけど」

 

『合言葉はウッホ、いい男』

 

「いや、それ自分が言いたかっただけじゃん!」

 

『胸の大きさが戦力の決定的な差であるということを教えてやりなよ・・・それよりもお前、男だってわかればなかなかいい男だな・・・どうだ今度時間があったら一緒に―――』

 

―――ボギャ!

 

いい男が台詞を言い終わる前にヒナギクの死の一閃が男に炸裂した。 

 

『アッーーーーーー!!』

 

男は謎の奇声を上げながらはるか彼方へ飛んで行った。

 

「うわー! どこへ行くんですか謎の人ォォォ!!」

 

「勝負の最中、何ごちゃごちゃと話をしているのかしら・・・?」

 

正宗を払うと、ヒナギクはその距離を縮めてくる。 

 

「だいたい誕生日の約束をしたのは綾崎くんの方じゃない!!」

 

(アレ? なんだろうこの感じ・・・?)

 

ふと正宗を握っている手にいつもより力が入るのが感じた。 しかし、同時に体の奥でもやもやとしていたものがうずいてくる。

 

「ここ数日、私がどんな気持ちでいたのかも知らないで!!」

 

(あれ?)

 

「すみませんすみません! ですが、ホントに色々とあって・・・!!」

 

「色々とあったからって・・・なんで・・・私との約束は・・・!!」

 

(ちょっと・・・何を口走っているの私?)

 

何故だろうか。 その疼きを静めるかのごとく、自分の口からは思っていたことがどんどんと湯水のように溢れてくる。

 

「そりゃ女の子らしくもないし、可愛くもないのかもしれないけれど・・・!!」

 

(感情のコントロールが・・・効かない!!)

 

ため込んでいたすべてが吐き出されていくように、それを止める術は自身であるヒナギクも知らなかった。

 

「ただ謝っていれば済むと思ってる!!」

 

気づけば正宗を振り上げ、ハヤテの脳天目がけて振り下ろしていた。

 

「すみません!ホントすみません・・・・って、アレ?」

 

と痛恨の一撃がやってこないのに気付いたハヤテはヒナギクを見ると、ヒナギクは泣いていた。 

 

そして一瞬だけぐずるとハヤテの胸にヒナギクが倒れこむように顔を押し当てる。

 

「一年で・・・一年で一番大事な日なんだから・・・それくらい・・・覚えておきなさいよバカァ・・・」

 

―――カラン。

 

と力をなくした手から正宗が落ちる。 そのまま姿を消してしまった。 ひたすらハヤテの胸の中でなくヒナギクに対してハヤテは。

 

「すみません・・・ほんとにすみません・・・」

 

 

ただ謝ることしかできなかった。

 

 

 

 

一方その頃・・・。

 

「カバディカバディカバディ」

 

『やーやーやー』

 

なんと時計塔の雰囲気をぶち壊すかのようにマジでカバディを繰り広げていた。

 

『もうお前らマジでカバディ繰り広げるな』

 

「カバディカバディカバディ・・・・」

 

『やーやーやーやー』

 

『ダメだこりゃ、このちびっこ・・・もしかしてアホの子か?』

 

「・・・・」

 

黒羽と共にその光景を見つめるボムはもうどうにでもなれという感じでため息をついた。

 

 






後書き
必殺技のシーンはリスでも阿部さんでも、ビリーの兄貴でも良かったんだぜ。
そしてちっちゃい黒羽さんの方はアホの子。

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