ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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第55話~喧嘩は祭りの華~

時間はハヤテの呪いが解呪される一時間前になる。

 

「……ふぅ」

 

生徒会長桂 ヒナギクはグッタリした表情で椅子に座っていた。

 

「いやぁ見事な歌いっぷりだったなヒナギクくん」

 

ぐったりと疲れているヒナギクにクスクスと唯子が笑みを浮かべていた。

 

「なんで私まで歌わされるハメになってしまったんですか・・・」

 

「しょうがないだろ、あのバカ千里は見事に三十曲も歌い続けた結果ノドを潰してしまったんだ。 しらけた場を盛り上がらせる必要があったのだよ」

 

「それで私が何曲も歌わされるハメになったんですね」

 

ヒナギクは紙コップに入っているジュースをちびりと飲む。

 

「いいじゃないとても可愛かったわよ♪」

 

「おや・・・ヒナギクくんの母上様じゃないですか」

 

唯子が反応したのはエプロンを身にまとったふつくしい女性だ。 

 

「あら唯子ちゃ~ん! 唯子ちゃんも来てたの?」

 

「ええ、そうですよ。 可愛い後輩なもんですから」

 

ヒナママの表情はとても穏やかだ。 それは唯子も同じである。 どうやら二人は面識があるようだ。

 

「ところで唯子ちゃん♪ 新しいフリフリのドレスがあるんだけど着てみない?」

 

「謹んで遠慮させていただけますか?」

 

「もう、連れないわね。 こうなったらヒナちゃん!」

 

「私も右に同じ」

 

と唯子に続いてヒナギクも却下した。 二人に拒否されたヒナママはぷぅ~と膨れていた。

 

「海外から帰ってこれなかったパパの悔しい顔が目に浮かぶわ」

 

「絶対に内緒だからね」

 

とヒナギクは釘を打つようにそう言った。 あまり知られたくないのだろう。

 

(まぁ、ヒナギクくんのコスプレ・オン・ザ・ステージは私が完璧に撮影済みだがな・・・)

 

ヒナギクの見えない所でうししと笑う唯子。 これを他の人間(ヒナギクファン)に売りつけるという外道技があるが必要なものは大切に保管しようと考えていたりする。

 

「そういえば今日はヒナギクくんの誕生日だっていうのに王子様のハヤテくんはどこにいるのやら・・・」

 

「あらやっぱりそう言うことなのかしらヒナちゃん?」

 

唯子のその一言にいち早く反応したのヒナママは瞳を光らせてヒナギクに迫る。 ヒナギクは慌てて手を振ってそれを否定した。

 

「もう! 唯子さん、誤解招くようなこと言わないでください!」

 

(あ、そうだ・・・あの果たし状)

 

突然とコナンのようなSEがヒナギクの脳内を掛けたのを機にヒナギクはハヤテに渡されたあの手紙を思い出した。

 

内容は酷く挑発的、しかしその文面にはなにかしら別の意味があるのではないかとヒナギクは考えているのだ。

 

(あれはやはり果たし状・・・? もしかして二人きりになりたいだけの口実・・?)

 

「あまり悩むのではないぞヒナギクくん」

 

と考察してるヒナギクの耳に声が聞こえた。 唯子の声だ。

 

「昔の人は言っていた。 女は知力や腕力より、だいじにしなければならない者があると・・・」

 

腕を組みながら唯子はその偉人の言葉をヒナギクに伝えた。

 

「『女は行動力』・・・だ」

 

と最後に親指をビシッと立てる唯子はどこか誇らしげにヒナギクに微笑みかけた。

ヒナギクは少し考えた後、何かわかったような表情で

 

「唯子さん、ありがとうございます。 お義母さん、今日はもう先に帰っていて・・・」

 

「え? なにか用事でもあるのヒナちゃん?」

 

疑問をヒナギクに投げかけるとヒナギクは振り向いてキリッとした表情でつぶやいた。

 

「私は・・・決着をつけなくてはいけないから」

 

その瞳はまるで川中島の合戦を前にした上杉謙信、武田信玄の『今日で決着をつけてやる』という雰囲気みたいだった。

 

もはや武士を前に何も言うことは無い。 唯子とヒナママはヒナギクを見送った。

 

「いやぁお義母さん、それにしても以前お会いした時よりも若々しくなられましたな・・・」

 

「そうなのよ~ 美容院ってすごいわね! これからも行こうかしら!」

 

 

二人はどうやらとても気の合う二人らしい。

 

 

「・・・・・」

 

グッ。

 

「・・・モガッ」

 

ググッ。

 

『おい早く起きなよべらんめぇ・・・いつまで埋まってるつもりだ』

 

一方で地中に埋められたままのテルは土の中で誰かの声を聴いた。

 

「ぷはーーーっ!!!」

 

ボソッ! と地中から勢いよく顔をだしたゾンビ・・・ではなくテルだ。

 

「ぺっ! ぺっ!・・・くそぅ、あの野郎手加減なしかよ・・・ってアッーーーー!」

 

口の中の土を掃出しながら辺りを見渡した。 テルはあたりを見渡して絶句する。

 

「祭りもう終わってんじゃん! 何この真っ暗な夜!? 俺あのままずっと放置されてたの!? 誰も助けてくれなかったのかよ!? 放置プレイもいいところじゃねェかァァァァ!!」

 

そう。 彼が地に深く眠りについたあと、何事もなかったかのように祭りは再開されたのだ。 土の中に埋まったテルよりもどうやら周りの人たちは驚異のスルースキルを発動させてあたかもそこに誰も居なかったかのようにふるまい続けた。

 

「なんというシュール・・・そしてイジメ、ヨクナイ」

 

『べらんめぇ・・・もともとお前が負けたのが悪いのさ』

 

「そんなこと言ってもお前、あの女絶対人間じゃないって。 プラスティックのハンマーで人一人埋めるか普通・・・ん?」

 

と違和感なく入り込んできたその声にテルは気づいた。 そしてその声の出所である真下を見ると・・・。

 

黒い塊がそこにはあった。

 

「「ん?」」

 

お互いが視線を合わせて同じ声を出す。

 

『べらんめぇ・・・お前がこの俺に呪いをかけさせた愚かもンだな? 俺はお前に呪いをかけた・・・』

 

「ボム兵?」

 

とテルが呟く。 その黒い塊にはかわいらしい某配管工の出るファミコンゲームの中に登場する爆発物に酷似していた。

 

その証拠に足もあるし、後ろには起動用のネジがある。

 

「べらんめぇ・・・俺の名前をそんなのと一緒にされちゃあ困るぜ・・・」

 

「いや、どう見てもボム兵だろ? ス○パー○リオに出てくるあのボム兵だろ?」

 

「いや、お前どこまでマ○オにこだわるんだよ!? 確かにこんななりだけどボム兵なんて名前じゃねぇから!!」

 

「じゃあなんて言うんだよ」

 

とテルが聞いた瞬間、ボム兵はきりっとした雰囲気を醸し出しながら渋い口調で言った。

 

「慕夢(ぼむ) 平田(へいた)・・・」

 

「名前もそれっぽいじゃねーか!! もうボムって読むからな!? すべての読者さんたちもお前の事はボムって認識したからな!!」

 

とテルが思いっきり突っ込んだところで「チッ」とボムは舌打ちをした。

 

「てめぇ・・・自分がどんな状況に置かれたか分かってねぇようだなぁ・・・べらんめぇ・・・」

 

「どういうことだ・・・?」

 

と突然と態度を変えたボムが小さい体でテルに向かって言った。

 

「この俺が現れたってことは・・・お前が爆発する時間がもう少ししかねぇってことなんだよ!!」

 

「なん・・・だと・・?」

 

某ジ○ンプ漫画のようなリアクションのテル。 

 

「まさか・・・ハヤテも?」

 

「残念だがそいつは関係なしだ。 もともと呪いは二つで一つじゃあ無かったワケよ・・・俺とあのぜぺっとは、別々の呪いであのひな人形に憑いていたんだからなぁ!!」

 

「なん・・だと・・?」

 

またしてもこのリアクション。 それだけにテルは意表を突かれてそれしか言えない。

 

 

「ぜぺっとの野郎はもう逝っちまったか・・・数百年間奴の趣味について語られたが・・全く持って理解できんかったなぁべらんめぇ・・・」

 

(ということはハヤテの呪いは解けたのか・・・野郎だけ先に解決しやがって・・・)

 

心のどこかで憤怒の炎を燃やすテル。 当然その矛先はこの場に居るボムへと向かっていた。

 

「んで? このボムはどうすればなくなるのかな? ネジ巻いて動かせばいいのかな? それともスマブラみたいにどこかにブン投げればいいのかな?」

 

ガシッとボムを掴んだテルは握りつぶすかのような勢いだ。 だがボムは平然としていた。

 

「残念だったな小僧・・・俺はお前に憑いている身だ。 たとえお前が世界の果てまで投げ捨てようと俺はお前のもとに戻ってくるってぇワケよ・・べらんめぇ」

 

「チッ・・・どうすれば離れてくれるのかねぇボム兵」

 

「フフ・・・動じないんだな・・簡単なことだ。 俺の願いを叶えてくれればいい。 とても簡単な願いだ・・」

 

「・・・いいじゃねぇか。 その願い叶えてやるよ。 だが俺は魔法少女にしろといってもできねぇからな?」

 

「誰が魔法少女になるかべらんめぇ!!」

 

とボムがツッコむと話を戻して、ボムが願いを口にした。

 

「俺の願いは妬ましきクソカップルを・・・爆殺させてくれ・・・そうすればお前の願いは解除・・」

 

ドゴッ!

 

とテルはボムが台詞を言い切る前にその足でボムを思いっきり踏みつけた。

ボムは見事に地に埋まる。

 

「なぁにしやがるこのべらんめぇ・・・俺の言ったことは分からなかったか?」

 

「まったく分からん。 なんでそんな悪魔の手引きをわざわざ俺がしなきゃならんのだ」

 

「だって仕方ないじゃん! 俺生前彼女誰も居なかったんだよォ! アイツらァ・・・仲をいいことに人の目の前でイチャイチャイチャと・・・リア充爆発しやがれってんだァァァァ!!」

 

なんとも・・・なんともくだらないことだろうか。 まさか生前に彼女ができなかったという無念からこの呪いは生まれたとは流石にテルでも呆れてしまう。

 

「ダメだこいつ・・早く・・なんとかしないと・・・」

 

もうこのままコイツを伊澄の所へ持って行ってしまえば解決してしまうのではないかとテルは考えていた。 しかし・・・。

 

「だがその願いも今日中に果たせなければお前は爆死する!!」

 

「ハァ!?」

 

まさかの真実。 ぜぺっととは一緒の呪いじゃないくせに今日中に願いを果たせなければテルは爆死すると言い出してきた。

 

「さぁどうするぅぅぅ・・・タイムリミットはもう一時間もないぞぉぉ・・・」

 

渋く低い声が唸る。 ここから伊澄の所へ行って、果たして間に合うものだろうか?

 

その時だった。

 

 

「あれ? テルさんじゃないですか?」

 

後ろから聞きなれた声。 そこには呪いを解かれ、執事服姿になったハヤテの姿があった。

 

「どうしてこんなところに居るんですか? 屋敷の方に帰ってるものだと・・・」

 

とハヤテがテルに尋ねるが、テルは目をぎらつかせてハヤテの顔面を鷲掴みした。

 

「あの・・・テルさん、なんか・・すっごく痛いんですけど?」

 

「なぁなぁ、お前俺に不幸の霊とか憑かせた? なんでお前が俺より先に呪い解呪されてんの? だいたいなんでこの時間帯でお前がここに居るワケ?」

 

「それは・・・説明しますんで、取り敢えず離してください・・・」

 

ギリギリと軋む音を立てながらハヤテがそう懇願するのでテルはアイアンクローを解除して話を聞くことに。

 

んで・・・・・。

 

 

「ヒナギクとの約束をすっぽかしてた?」

 

「はい、もう何もかも普通に終わるものだと思ってベッドに入った瞬間・・・まるで僕のS○EDが砕けるように思い出しちゃいました・・・」

 

頭に手をやるハヤテ。 とても簡単に笑いながら言っているがそんな軽い気持ちでいいのだろうか。

 

「それよりそのボム兵はなんです?」

 

ハヤテがテルの肩に乗っているボムに気付いたのか、指をさして聞いてきた。

 

「あ~。 俺に憑いている悪霊だ・・・」

 

ここからはテルからもしっかり説明しなければならない。 そしてすべてが説明し終わった時、ハヤテは理解したかのように頷いた。

 

「なるほど・・・その霊の願いである『リア充を爆発させる』を実現させなければテルさんは爆発すると・・・そういうことですね?」

 

「その通りだ。 理解が早くて俺はとても助かる」

 

とここでボム兵が割って入ってきた。

 

「どうでもいいけどよぉ小僧、タイムリミットはぁ・・もう迫っているんだぜェ? もたもたしてていいのかよぉ?」

 

テルは時計に目をやる。 日付が変わるまであと三十分。 どうにかして解呪する方法を考えなくては・・・。

 

「やはりここは伊澄さんでは・・・」

 

とハヤテが一つ提案を出す。

 

「俺もそう思っていた。 取り敢えずアイツにはメールを送っておく・・・ってお前はいいのか用事」

 

「ああ、そうですね。 あまり待たせるとヒナギクさん怒っちゃいますから・・・」

 

(いや、もう死亡フラグビンビンだからなハヤテ)

 

敢えて口には出さず、心の中で突っ込んだテルだった。

 

その会話を聞いてか、ボムが口調を明るめながら聞いた。

 

「もしもし君は・・・これから女の子に会いに行ったりするのかな?」

 

「? ええ、そうですが・・・」

 

とキョトンとした表情で答えるハヤテ。 それを聞いたボムの頭の中では・・・

 

(年頃の男女がぁ、夜の校舎で会う約束ぅ・・・高校生、あま~い青春・つまりぃ)

 

その思考に至った時、ボムの瞳はカッと見開かれ猛々しい大声が叫ばれた。

 

「よおおおぅぅぅしぃぃい!!! おめぇリア充だぁぁぁなぁぁぁ!?」

 

「はい?」

 

ものの見事に頭にクエスチョンマークを浮かべるハヤテだが、ボムは喋るのを止めない。

 

「隠すんじゃねェよべらんめぇ・・・高校生の男女が夜の校舎ですることと言ったらぁ・・・愛の告白ぅ、そしてそのあとは若さに任せてにゃんにゃ~ん・・・って相場が決まってんだろうがァァァ!!」

 

 

「何を勘違いしてるか知りませんが僕は別にヒナギクさんとはそういう仲では・・・」

 

「とにかくだぁ! 貴様は今すぐ爆破する必要があるって・・・アレェ!?」

 

勢いよくハヤテに飛びかかろうとするがテルの手によってそれは失敗に終わる。

 

「今度余計なことをしたら口を縫い合わすぞコラ」

 

「口なんてねぇんだよべらんめぇ!!」

 

と返した後、けらけらとバカにするように笑うボム。

 

「じゃあ僕もうヒナギクさんのところに行きます。 呪いの方はテルさん、頑張ってください」

 

「完全に他人事だなオイ・・・分かったいけ――」

 

 

―――ゾクリ。

 

テルが言葉を言いかけたその時だった。

 

 

あの背筋を凍らせるかのような嫌な、記憶に嫌でも刻まれた寒気がしたのは。

 

「・・・・」

 

林の奥からコツコツと現れたその黒衣の少女は軽い足取りで彼らの前に姿を現した。

 

「あなたは・・・ッッ!!」

 

ハヤテは思い出した。 あのナギの誘拐事件。 伊澄の術とは違った能力を持つ少女・・・黒羽だ。

 

「今度こそは本命ってワケかい・・・」

 

テルの目つきがすぐさま戦闘態勢になる。 キリッと目つきは鋭くなり、自然とポケットに手が入った。

 

「ハヤテ・・・ここは俺に任せてくれねぇか?」

 

とテル。 ハヤテは驚いて言葉に詰まってしまうがテルは続けた。

 

「アイツ、お前狙いなんだとよ。 お前の追っかけなんだとよ」

 

「そんな無茶な・・・伊澄さんがいるならともかく、一人でだなんて」

 

それを聞くとテルはケッと笑った。

 

「バーカ。 俺がこいつに遅れなんて取るかってんだ」

 

「・・・・分かりました。 でも無茶はしないでください」

 

とテルに告げた後、ハヤテは後者に向かって走り出した。 

 

それを逃がすまいと黒羽が右腕を刃に変え、物凄いダッシュを利かせてハヤテに詰め寄った。 距離を一気に縮めて一太刀――。

 

ガキィンッッ!

 

だがそれを阻んだのは金属音。

 

「お前の相手はこの俺だ・・・」

 

黒羽の刃を受け止めたのは細長い黒い鉄の棒。 それが黒羽の一太刀を受け止めていた。

 

「そう言えばじゃんけん大会では世話になったなぁ・・・アレの続きと行こうぜ。 俺はなぁ、この世で勝ち逃げされることが大嫌いなんだ」

 

ニヤリと笑うと、一度パイプで刃を弾いて一度距離をとった。テルの背後には白皇学院の校舎。その前にたたずむ彼は最後の砦だ。

 

今回は以前のように霊刀があるわけではない、加えて伊澄の援護なし。 ハヤテもいないという孤立無援の状態だ。

 

「さーて、本気の喧嘩としゃれ込もうぜ・・・」

 

店は閉まり誰も居なくなった静かな学校で、もう一つの祭りがまた幕を上げる。







後書き
人形の呪いをボム兵にしたことは今では後悔している。

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