ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
冬の蚊はマジで面倒だ。


第53話~虫コナーズでは虫は殺せない~

「ほう・・・なかなか賑やかではないか」

 

「ですね~」

 

祭りの道中をナギとマリアが歩いていた。 ナギも一応白皇学院の生徒である。 義務ではないが一応参加したのだ。

 

「一応ってなんだ一応って・・・」

 

「仕方ないじゃないですか、最近ちゃんと学校に行っている描写もなくなっているせいでそう捉えている方も多いんですから」

 

ナギの不満の声にマリアが根も葉もないことを言う。 まぁ結構休んでいたりするのでそうとらえられても仕方がないのだが。

 

「それよりもさっきからなんだこいつら、私たちをじろじろと。 なんか珍しいものでもあるのか?」

 

「さぁ・・・?」

 

二人は分かっていないようである。 ナギとマリアが感じていたのは視線。 それもかなりの人数だ。

理由は簡単である。 ナギたちの周りには黒服の強面なSPが5~6人付いているのだ。 

 

護衛とはいえこの人があふれる中人目を引くのは仕方がないことである。

 

 

「それより、マリアも白皇通ってたんだろ? 祭りなんて見慣れたものなんじゃないのか?」

 

「まぁでもお祭りは何度来ても楽しいものですし」

 

ふーんと言った表情でナギがある店を指差した。

 

「じゃああの店はどう楽しいのだ?」

 

「あれはお面屋さんといってお面を買って楽しむんですよ?」

 

「・・・・」

 

ナギはその複数あるお面の中から一つだけ手に取り自身の顔に装着。

そしてお面を取り、一言。

 

「マリア・・・これあんまり楽しくない」

 

「ま・・・まぁそれは人それぞれですし・・・」

 

ふーっと息を吐くナギにマリアは苦笑いだ。 それにしても全国のお面屋さん、子供にこんなことを言われては涙目である。

 

しかしナギの問答無用の滅多切りは始まったばかりだ。

 

「あっちの金魚すくいはどうですか? あの破れやすい紙ですくうのはコツがあって・・・」

 

「買えばいいではないか。 なぜわざわざ紙ですくわにゃならんのだ?」

 

全国の金魚すくい屋、ぶった切られる。

 

「じゃあ、綿菓子は?」

 

「砂糖だろアレ?」

 

全国の綿菓子やの叫びが聞こえる・・・気がする。

 

「射的・・・」

 

「あんなおもちゃの銃で落とせてもポッキー辺りが限度だろ。 どうせなら本物の銃で商品はPS3な」

 

「商品手に入れたいのか壊したいのか、取り合えず日本のお祭りを端から否定しないの」

 

ナギのお祭り批判に淡々と突っ込みながら誰かがナギの頭に手を置いた。

 

「ヒ! ヒナギク!!」

 

振り返るとそこにはヒナギクがいた。

 

「まったく・・・少しは純粋に楽しみなさい。 純粋に・・・」

 

制服姿のヒナギクは腰に手を当てながらため息をつく。 

 

「お前はどうなんだ。 純粋に楽しんでいるのか祭りというものを・・・」

 

「生徒会長は見回りもしなきゃならないし、あまり気が抜けないのよ」

 

ナギの問いに平然と答えるヒナギク。 どうやら生徒会役員は今回の祭りの運営、警備もかねて行っているらしい。

 

三人娘は見事にサボっているが。

 

「でも珍しいわね。 あなたがこんな人の集まる場所にわざわざ来るなんて」

 

「なんだ、人を引きこもりみたいに」

 

「え? 違ったんですか?」

 

とナギに対してマリアはツッコんだ。

 

「今日はお前の誕生会をここでやるって聞いたから、わざわざ来てやったのだ!!」

 

「へ?」

 

ナギの咄嗟の一言にヒナギクは首をかしげる。 初めて聞く内容だったみたいに。

 

「あの・・・それ初耳なんだけど・・・」

 

「ん? でも唯子さんと生徒会の他の人が・・・ええい! もうめんどくさい! お前のプレゼントは今私が渡してやる!!」

 

考えるのも嫌になったかナギはポケットからなにやら小さな箱をヒナギクに渡した。

 

「ん?なにこれ? 随分と高そうな時計だけど・・・」

 

ヒナギクが箱の中を開けると中には時計が入っていた。

 

(うーむ。 一応ブルガリなんだが・・・そういうのはあまり知らないんだな・・)

 

どうやらヒナギクは今時のブランド物にはあまり知識はないらしい。

そんな事は些細なこととして、ナギは話を進める。

 

「安物だが・・・気に入らないっていうなら別に受け取らなくてもいいけど・・・」

 

「え? いや、そうじゃないわよ!!」

 

慌てて手を振るヒナギクはニコリと笑って返した。

 

「ありがとう・・・大事にする」

 

その笑顔のお礼を見たナギは

 

「ふん。 どうせすぐに壊すに決まっている」

 

と鼻で笑いながら呟いた。

 

「な!!そんなことはないわよ!!」

 

「分かった分かった。 早くみんなが待ってる時計塔に行ってやれ」

 

怒るヒナギクをあしらい、ナギはヒナギクを時計塔に行くように促した。

 

「分かったわよ・・・ナギもちゃんと学校来なさいよ」

 

そう言ってヒナギクはその場を去って行った。 そして、ヒナギクの姿が見えなくなったところでさきほどのヒナギクに答えるように一言。

 

「だが断る」

 

「こらこら」

 

「ところでマリア。 ハヤテはどうしたのだ?」

 

「ハヤテくんですか?」

 

ナギがマリアに今は虎鉄に追われてるであろうハヤテの事を聞く。

うーんと考えるマリアだが二人ともハヤテが今どういう状況に居るかまったくわからないので

 

「さぁ? 伊澄さんと一緒に迷子になっているんじゃないんですか?」

 

そう答えざるを得なかった。

 

「まったく・・・しょうがない奴だなハヤテは・・・」

 

「ハヤテ?」

 

ナギの呟いた一言に、どこから反応する声があった。

 

その声に気付いたか、ナギが立ち止まる。

 

「お前・・・綾崎ハヤテの知り合いか?」

 

「ん? まぁハヤテは私の執事だからな・・・」

 

その瞬間、木の上から黒い影が飛び降りてくる。 物凄いスピードでSPの間を抜けるとナギを抱えこんだ。

 

「ならば来い!!」

 

「ぬわ!!」

 

口調からして男だろう。 その男はナギを抱え込むとその一声と共に大きくジャンプした。

 

「綾崎ハヤテに伝えろ! 執事だったら主を迎えに来いと! そこで貴様の正体を衆目に晒してくれるわーーーーー!!」

 

「ナギーーーー!!」

 

マリアが離れていくナギに叫ぶ。 突如現れた男、虎鉄はそう捨て台詞を置いてナギをさらっていったのだ。

 

「オイオイ、一体何が起こったんだ?」

 

その一部始終を目撃していた木原はホットドッグを食べていた。 完全に任務放棄状態である。

 

「あの御嬢さんは攫われグセでもあんのかよ? しかし世も末だな、ロリコンで誘拐とかよ」

 

そう一言の後、木原は食べていたホットドッグを一気に口の中に放り込んで飲み込んだ。

 

「ちょっと追ってみるか」

 

ほんの興味本位で彼は虎鉄の後を素早く追い始めた。

 

 

一方その頃ヒナギクは・・・

 

「お誕生日おめでとうございまーす!!」

 

「え・・・ちょっとこれは・・・」

 

白皇の校舎の扉を開けたヒナギクは、カラフルなクラッカーの音で迎えられた。 見渡すところには白皇の生徒、生徒、生徒。 テーブルの上には豪華な料理がずらりと並び、一人の女子高校生を祝うにはやたらと豪華な会場のつくりになっている。

 

「どうしたヒナ? 今日はヒナの誕生会なんだぞ」

 

これは一体何が起きているのかと戸惑っているヒナギクに、美希が寄ってきた。

 

「誕生会って・・・なぜこんな派手に?」

 

「忘れたのか?」

 

「え?」

 

真顔で聞くヒナギクに理沙が答える。

 

「この前一緒に買い物したとき、誕生会はどうするか聞いたじゃないか。 そしたら・・・」

 

 

 

―――誕生日会? そうね・・・あまり派手なのは苦手だから・・・家族と静かに食事とかかしら

 

 

「・・・と言っていたので、可能な限り派手にしてみました」

 

「どこまで天邪鬼なの・・・」

 

と呟くヒナギクだがこうやってみんなから祝福されるのも存外悪くないと感じている。

 

「まあいいじゃない。 こっちの方が楽しいし」

 

「あ、お姉ちゃん」

 

右手に肉を持ち、左手に一升瓶をもった雪路が駆け寄ってくる。

 

「そうだ。 ヒナ、ちょっと待って・・・はぁひ、ふれへんほ」

 

「お姉ちゃん、物を食べながら喋らないでよ・・・これって?」

 

肉を口に含みながら雪路がヒナギクに小さな箱を手渡す。 そして雪路は口の中の肉を飲み込んでこう言った。

 

「お誕生日、おめでとうヒナ」

 

「あ、ありがとうお姉ちゃん。 お姉ちゃんからプレゼントなんて、な、何かな・・・コレ?」

 

ヒナギクは期待に胸を寄せてその箱の中を開けてみることにした。 するとそこには・・・

 

「・・・・・」

 

箱の中身を見てヒナギクは固まった。 中には数十枚の紙が入っている。 雪路は親指を立てた。

 

「肩たたき券よ! 大丈夫。 私肩たたきには自信があるの!」

 

一瞬でも期待してしまった自分が恥ずかしい。 と思ったヒナギクであった。

 

「しかしいきなりこんなパーティして大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ。 問題ない・・・政治家の娘だからな」

 

美希は憮然と返す。 政治家の家は何かと毎日が大変なのだろう。

 

「まぁ・・・問題なのは・・・」

 

と、ここで美希が立ち止まる。

 

「東宮の坊ちゃんみたいに・・・一方的な好意ならいつものことで良かったんだけど・・・万が一、二人きりでパーティとかになったら・・・」

 

「・・・?」

 

発している美希の言葉の意味を読み取れないでいるヒナギク。 やがて美希が話題を変えた。

 

「そういえばハヤ太くんからのプレゼントは?」

 

「え? いや、そんなのは全然・・・」

 

と答えるヒナギクだが、ここであることを思い出す。 あの手紙だ。

 

 

(そういえば・・・誕生日の日に素敵なプレゼントをくれるって言ってくれたわね・・・いつだったか)

 

そして更に渡された内容の意味をヒナギクなりに詮索してみる。

 

(ん? だったらこの手紙・・・もしかして遠まわしに二人きりになりたいという手紙なのかしら?)

 

つまり、あの文面をヒナギクはこう捉えてたのだ。

 

実は頼みがあります。 勝負してほしいんです→恋愛的な意味で

 

 

できれば2人の方がいいと思います。場所は時計塔最上階です→さりげなく二人の空間づくり

 

ま、勝つのは僕ですけどね→自分が告白して勝つという自信

 

 

武器は持参でお願いします。その方が平等ですからね……ま、勝つのは僕ですけどね→いざとなったら力ずく

 

 

胸の大きさが戦力の決定的差ではないという言葉がありますけど……ま、勝つのは僕ですけどね→ここで念押しして自分が勝つということをアピール

 

 

夜九時、楽しみにしてますよ。

 

 

最後に一応言っておきますけど、勝つのは僕ですけどね→最終的に自分が勝ち、ヒナギクがハヤテのものになるという絶対勝利宣言

 

 

(え? や・・・そんな・・え? え? そ・・・そうだったらどうしよう・・・そ、そんなの・・・)

 

自然と顔が紅くなり、自身の体温が上昇していることに気付いていた。 

はい、どう考えても行き過ぎた妄想です。 ありがとうございました。

 

そんな妄想に動揺しているヒナギクの背後に忍びよる影。

 

「ヒィナギククゥゥゥゥウンン!」

 

「ニャアーーーーー!!」

 

突如、ヒナギクの背後に思いっきり抱き着く人物がいた。 いったいだれか? 答えは少しだけ考えればおのずと簡単である。

 

「ゆ、唯子さん?」

 

「はっは~ 誕生日おめでとうヒナギクくん」

 

スッと離れた唯子はビシィとポーズを決める。 その立ち方はまるでジ○ジョのようだ。

 

「いやぁ出店も全部回りきったことだし、君の誕生日をこうして祝いにきてみたのだ。 そしたらどうか? こんなパーティーが開かれているではないか」

 

笑いながら唯子はお面を被りながら手に持っていた水風船で遊ぶ。 腕には救ったであろう金魚の袋、綿あめの袋、その他もろもろ。 

 

「見事にお祭りを満喫していますね唯子さん・・・」

 

「当たり前だ。 こんなに楽しいこと、私が見逃すわけないだろう・・・と」

 

何かを思い出したか、唯子がひょいとヒナギクに箱を手渡した。 

 

「フフ・・・可愛い後輩へのプレゼントだ。 ありがたく受け取ってくれ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

礼を言いながら受け取ったヒナギクはさっそく箱の中を確かめ始める。 雪路と違ってこの人のプレゼントは期待してみてもいいかもしれない。

 

なんせわざわざラッピングまで施されているのだ。 自然とヒナギクに笑みと期待感がよみがえる。

 

「これは・・・」

 

と箱を開けた瞬間、目に入ってきたソレを見てヒナギクは目を一回、二回・・・と瞬きした。

 

中に入っていたのは白くて丸み帯びた形二つの物体・・・そう、アレだ。

 

 

「・・・・唯子さん、まさかこれって・・・」

 

箱をワナワナ震わせたヒナギクの反応を楽しむかのように唯子は言い放った。

 

「そうッ! 豊胸パアァァァァァァアッッ---」

 

「わああああああああああああ!!」

 

手遅れかもしれないが、言い切る前にとヒナギクが唯子の口を塞いだ。

 

「なんでこんなものをプレゼントするんですかよりによって!!」

 

「ん? なんだ? 無いものがなくて困っているのではないかと思ってな・・・」

 

この笑いかた、明らかにワザとである。 ヒナギクは顔を赤らめていた。

 

「べ、別に困ってなんかいません!」

 

「そうなのか? 私は困っているぞ? 動くときに特にな。 むしろ邪魔だと感じている」

 

とヒナギクより主張の強い胸を見せつけるように胸を張る唯子。

 

「むむむ・・・・」

 

「おっと。 そんな顔をしないでくれたまえ。 これでは私が悪者みたいじゃないか」

 

「十分悪者です!!」

 

とヒナギクが目を怒らせたとき、扉が再びドンッ! と開いた。

 

「奈津美ィィィ!! どこだぁぁぁ!!!」

 

目を真っ赤にさせた千里が突如乱入してきたのである。

 

千里は堂々と叫びながら入ってくるとそのままステージに上り詰めて叫んだ。

 

「奈津美ィィィ! 貴様から受けた屈辱の数々! ここで晴らさせてくれるぞ! 大人しく出てこい!」

 

拳を握りしめながら千里は叫ぶ。 どうやら相当ひどい目にあったようだ。

 

「フン・・・そう言われてわざわざ出てくるアホが居ると思うかバカめ・・・さらばだヒナギクくん」

 

と唯子が颯爽とその場を後にしようとしたその時だった。

 

「千里くーん! ここに唯子さんがいるわよー!」

 

「なっ!」

 

大きく手を上げたヒナギクはその場で千里に場所を伝えた。 それを見た唯子は驚くばかりである。

 

「さっきの仕返しですよ唯子先輩」

 

「そんな、君はそんなことをする人間じゃなかった筈だ!」

 

「自業自得ですよ!」

 

「オイ貴様ァ! もう逃げる事は出来んぞ! 大人しくここに来い!」

 

とわざわざマイクを使って叫ぶ千里に、唯子は仕方ないといった表情でステージへと上がる。

 

 

そして二人が対峙した。

会場の生徒たちもその成り行きを静かに見守っている。

 

最初に言葉を発したのは唯子だ。

 

「・・・・私、なにかしたか?」

 

「いまさらとぼけても無駄だぞ! この俺の目を見ろ!」

 

と千里が怒りの形相で自身の真っ赤になった目を指差す。 唯子はうーんと考えながら

 

「結膜炎?」

 

と答えた。

 

「違うッ! 貴様に辛子とさまざまな香辛料のエキスを直接目にかけられたからだァァァ!」

 

「なるほど。 だからあんなに目が赤いのね」

 

と遠めだがソレを聞いたヒナギクはポンッと手を叩いて納得していた。

 

「ほかにもあるだろうが! 激辛のリンゴ飴を食わせたり、挙句の果てには納豆まで投げつけてくるとは!」

 

「まぁ・・・そんなこともあったな~」

 

まるで思い出話のような唯子の口調に千里が更にキレた。

 

「この俺様にこれほどの無礼! 愚行! 反逆にもほどがある! この場を借りて土下座しろ!」

 

ざわ・・・ざわ・・・と会場がざわめきだす。 このままでは千里が暴れだすのも時間の問題だ。 何故なら、あの唯子がそう簡単にことに応じる訳がないからである。 

 

そうなれば後はリアルファイト、その結末は誰もが予想できた。

 

「わかった」

 

ざわ・・・ざわ・・その一言に一同がさらにざわついた。

しかし、唯子は手を差し出して制止するように一言。

 

「ただし条件がある」

 

口調を完全に切り替えた唯子は憮然と言い放った。

 

「お前、歌え」

 

「な・・・ッッ」

 

千里はその提案に激しく動揺した。

 

「乙葉家の英才教育には確実に歌の教育もあるはずだ。 ましてや貴様は世界に名を轟かせるキングなのだろう? それで私を感動させてみろ。 無論ここの生徒たちもだ」

 

「貴様・・・本気で言っているのか?」

 

「本気も何も・・・それが出来たら土下座でもなんでもしてやろう。 何だったらアツアツの鉄板に座って土下座する『焼土下座』でもいい」

 

と自信ありげに、というかその自身はどこから生まれてくるのかと疑いたくなるくらいの表情だ。 

 

「ヌゥ・・・」

 

堂々と出された提案に動揺を隠せない千里。 その様子を見てか、唯子が再度聞いた。

 

「どうした? まさか今更になって歌うのが怖くなったというのではあるまいな王様?」

 

「ッッ!! いいだろう!!」

 

普通ならあり得ない提案だろう。 明らかに負は唯子にあるのだ。 このような提案は明らかに通らない。 むしろあり得ない。 

 

だが、唯子は彼のキングというそのプライドを利用した。 そうすることによりこの提案を通すことに成功したのである。

 

「ようは・・・」

 

「底なしのアホだったって訳だ」

 

唯子の話術的な効果もあるかもしれないが何より、千里という男はかなりのアホなのである。

 

ステージではマイクを手に持った千里が生徒に向けて叫んだ。

 

「貴様らに聞かせてやる! 大地と銀河を突き動かすこの俺の歌を・・・俺の歌を聞けェェェェ!!」 

 

 

 

 

「ひゃっほーい! こんなにおいしいモグッ 食べ物が食べられるなんて・・・幸せなんじゃないかな!」

 

場所は変わり外にいる人たちに変更。 道端で物凄い幸せそうな顔で出店の食べ物を片っ端から食べているのは西沢 歩だ。

 

 

「・・・・」

 

一方でその後ろにて沈黙を守り続ける少女が居ることを忘れてはならない。 黒羽だ。

 

「黒羽ちゃん黒羽ちゃん! さっきから黙ってばかりだけどコレ食べない!?」

 

と笑顔で差し出したのはリンゴ飴。 細い棒の先には見事な赤いリンゴがその輝きを放っている。

 

「・・・どうも」

 

静かながら礼を忘れない黒羽。 歩と違ってそのテンションは真逆だが、歩はまったくそんなことを気にしない。 それぐらいに超ハイテンションなのである。

 

「祭りってのは楽しむのだよ黒羽ちゃん! 身も心も江戸の風情に任せてこの体が燃え尽きるまで楽しむの!」

 

と言いながら歩は笑いながら仮面ライダーのお面を黒羽に被せる。  黒羽も嫌がるという仕草を見せる訳でもなく、されるがままにお面を被った。

 

よく見ると、黒羽には歩と行動する前よりも所持品の数が若干増えていた。 リンゴ飴、金魚すくいの金魚、綿あめの袋、景品、そしてお面。

 

「それにしても黒羽ちゃん、射的と金魚すくい凄かったね! なんで一度に六匹も金魚とれたの? お店の人あまりにビックリして顎外れてたよ?」

 

「・・・全て計算した」

 

と一言。 木原ならそっか。と一言で決着がつく。だが・・・

 

「へぇ~計算したの!? 頭いいよ黒羽ちゃん! 私なんて数学苦手だからそういうの出来ないよ!」

 

と物凄い興味深く聞いてくる。 

 

「あ、そうだ。 ヒナさんにプレゼント渡してこないと・・・ちょっと待っててね黒羽ちゃん!」

 

歩は慌てて思い出したかのように周りをキョロキョロしながら走り出す。 途中、道を訪ねてたりとしながら校舎の方に向かっていった。

 

「・・・・・」

 

黒羽は歩の姿が見えなくなると、被っていたお面を側面へと移動させた。

 

トサッ。

 

と軽い音とともに黒羽の手から何かが落ちる。 落ちたのは金魚の入った袋、そして綿あめの袋やリンゴ飴。

 

否。 黒羽は落としたのではない。 手放したのだ。 自身の任務の妨げになると思ったのだろう。 

 

作戦をともにしていた歩という少女はもういない。 ならば、自分の判断で作戦を行う。 そう考えた黒羽だった。

 

ピチャピチャ。 と袋の中の金魚が抜けていく水に慌てて袋の中で跳ねる。

 

「・・・・」

 

そんな金魚に目をくれながらも冷ややかな瞳を向けたのはものの数秒。 何事もなかったかのように歩きだした。 

 

その時である。

 

 

「待てよ」

 

黒羽は不意に振り返った。 その声が黒羽が知っていた人物だったからである。 

 

「・・・いくらジミーがくれたものだからってお前、食べ物とか粗末にしちゃいけねぇよ」

 

振り返るとそこには少年がいた。 少年は地面に落ちていた金魚の袋を含めた祭り一式の品を拾い上げる。

 

「また会ったな・・・」

 

「・・・・・」

 

リンゴ飴を勝手に口にふくんだ男、それは善立 テルであった。

 

 

 

 






後書き
もはやジミーとまで省略されてしまった歩。 涙目。

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