ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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第52話~あの日落とせなかった景品の名前を僕たちはまだ知らない~

白皇学院ヒナ祭り祭りの会場にて、色んな人々が集まる今夜。  ラーメン屋の店主にメイド執事、人間爆弾執事とほんと厄介な事態に見舞われている中で普通に祭りをエンジョイしてる奴らがいた。

 

パコッ。 

 

「お!! 当たった!! 当たったでおっちゃん!!」

 

普通に祭りをエンジョイしているのはワタルと店を回っていた咲夜だった。 咲夜は今、自身が打ち込んだ射的の球が人形を撃ち落としたことにはしゃいでいる。

 

「はは 上手じゃねーかお嬢ちゃん」

 

「やっぱり? ウチ何やらせても天才やねん。 こう見えても前世はスナイパーで成層圏の彼方から狙い撃ってたんや」

 

その話を聞き、どこの武力介入組織だと心の中で突っ込んだワタル。 

 

「んじゃ可愛いお嬢ちゃんにサービスだ」

 

「うわーありがとーおっちゃん♪」

 

麦わら帽子のおっちゃんから落とした景品とは別に、もう一つの人形を手渡しされる咲夜。

それにも満面の笑みを浮かべている。 

 

(なんか・・・スゲェ楽しんでんな)

 

自分とのテンションを比べても明らかに咲夜が上だ。 あんなにはしゃいでいる咲夜をワタルはここ最近見たことがない。

 

「へへ~ 見てみワタル。 おまけしてもろたで♪ ウチが可愛いから♪ ウチが可愛いからおまけやで」

 

「そこを強調すんな。 ところで借金執事×2は探さなくていいのかよ」

 

「ん~」

 

ワタルが言っているのはメイド服を着たハヤテと人間爆弾になってしまったテルの事だ。 

咲夜は両手を後ろに組みながら答えた。

 

「巻田と国枝に探してもろてるけど、ウチ、この学校の事よー分からんし」

 

「まぁそうだけどよ・・・」

 

ワタルもその点では納得している。 咲夜はもともと白皇学院の生徒ではない。 

 

咲夜はもともと白皇学院の生徒になるはずだった。 本来なら、今ここで白皇制服を身にまとい白皇学院の生徒として祭りに参加しているはずである。

 

ではなぜ咲夜は白皇にいないのか。 その原因は一人の少年にあった。

 

「でもエエ学校やなぁ白皇ちゅうのは。 おおらかで・・・」

 

「あ?」

 

歩きながら立ち並ぶ出店を見渡す咲夜。 何を思ったか一度立ち止まる。

 

「こんなエエ学校って知っとったらナギらと通うんも・・・悪くなかったかもしれんなぁ・・・」

 

「・・・・」

 

その表情を見てワタルは少しばかりか申し訳ない気持ちになる。 そうだ。 本来なら咲夜は白皇の生徒になるはずだった。

 

しかし、一人の少年の我儘の為に。

 

一人のバカな少年の恋心の為に。

 

その特待の席を譲ってしまっている。

 

取り敢えずこんな低いテンションのまま回られても仕方ないとワタルは財布を取り出した。

 

「咲夜、綿菓子食いたくねーか綿菓子。 おごってやるよ」

 

「ホンマか? 欲しい欲しい!」

 

一応幼馴染で年長の咲夜なのだが、この時見せる咲夜の嬉しがる様子は子供だ。

 

「あと、あっちで金魚すくいしたくねーか金魚すくい。 おごってやるよ」

 

「なんや? なんや? 自分、今日はずいぶん太っ腹やな~!」

 

「いつも世話になってるからな。 あとここれくらい楽勝だ。 俺はこう見えても店長だぞ?」

 

しかし、その経営の実態は危うく、今回の財布の中身も伊澄と共に回るために用意したなけなしの金なのだ。

 

 

 

 

ま、そんなふうに・・・少年少女がお祭りを満喫している頃・・・借金執事(女装の方)は。

 

「いやしかし・・・御嬢さんにケガがなくてよかった」

 

「あ・・・はぁ、そうですか?」

 

見事に女の子だと勘違いされていた。

 

白皇学院の自販機売場、ハヤテは校舎内でぶつかった虎鉄という男と共にいた。

 

別に大丈夫だといったのにも関わらず、虎鉄が「飲み物をおごらせてください」と言うので仕方なくと言った所だ。

 

(いかん・・・まさかこの姿を人に見られるとは・・・まぁ幸い女の子だと思われているのでいいけど・・・男とばれたら)

 

もしばれたら、彼はこう名付けられることになるだろう。 女装して夜な夜な学校に来る変態と・・・

 

(だめだ!! そんな勘違いを許すわけにはいかない!! 少年漫画の主人公として!! 三千院家の執事として!! ここは無難に乗り切らなくては!!)

 

身も凍るようなその結末を回避するべく、ハヤテは決意する。 一刻も早くこの場を去らなければならないと。

 

「じゃあちょっと忙しいんで・・・」

 

「あッッ!! 待ってくださいッッ!!」

 

「・・・・何か?」

 

少しばかり興奮気味に引き留めてくる虎鉄にハヤテは振り返って聞く。 そして虎鉄の口から一言。

 

「ですから・・・その・・・私と一緒に踊ってくれませんか?」

 

(絶対嫌です)

 

顔を赤くした虎鉄を一蹴する台詞をハヤテは心の中で呟いた。 虎鉄が言うのは向こうでは祭りとばかりに男女が楽しく踊っている。 それに混じりたいというのだろう。

 

確かにこの誘い、正式に男女なら受け入れられるだろう。 正式な男と女ならばだ!!

 

そして何より、この虎鉄という男。 なんか別の意味で危険な感じがする。

 

ハヤテは心の言葉を口にしないよう。 慎ましく丁寧に返した。

 

「もう行かなくてはならないんで、踊るなら他の人とどうぞ」

 

「ああ!! そんな冷たくあしらわなくても!! だがそれがいい!! それがいいったらそれがいい!!」

 

「どっちなんですか・・・それに別に繰り返して言わなくても・・」

 

ハヤテがこの男から逃げるか考えていた時、虎鉄はハヤテの肩をガシッと掴んだ。 無理やり虎鉄とハヤテは正面を向く。

 

「突然なんですけど・・・私はあなたのことがスキなんです!!」

 

「・・・・・へ?」

 

何を言われたか分からなかった。 情熱的に告げられたのは愛の告白。 

 

「ちょ!!何を言ってんですか!! 冗談はよしてくださいよ!!」

 

「冗談でこんな子という訳ないでしょう!!」

 

いや、あるかもしれない。 たとえば、学校で行っていた罰ゲームで強引に誰でもいい女子に告白させるというトラウマのゲーム。

 

虎鉄は距離を更に詰めて続けた。

 

「本気なんですよ私は!!」

 

「そ・・そんな・・・困ります。 そ・・・そんな事急に言われても・・」

 

おい、ハヤテ。 どうして顔が紅潮している。 とナギがその場に居たらとび蹴りが飛んできそうだ。

 

 

「僕は・・・・」

 

と思わず情熱的な虎鉄の視線から逃れるべく、ハヤテが目をそらした時だった。

 

「わくわく・・・」

 

「・・・・」

 

ハヤテの視線の先に居たのはなんて泉。 ハヤテを追いかけて追いかけて、ようやく追いついたのか。

 

「瀬川さん!!」

 

「ん? あれ? お嬢?」

 

隣にいた虎鉄もそう呟く。

 

「あははは~ ごめーん邪魔してー」

 

まるで展開を楽しむかのような笑顔。 そして笑顔のまま続ける。

 

「ま、私の事は気にせず・・・続きをッッ」

 

「では・・・」

 

「では、じゃなくて!!」

 

グイッと掴んでいた両手でハヤテの体を引き寄せる。

当然ハヤテは拒否した。

 

しかしここで泉が一言。

 

「いや~まさかハヤ太くんにそんな趣味があったとはね~」

 

「ち!! 違うんですよこれはッッ!!」

 

顔を真っ赤にしながらハヤテが答えるがここで虎鉄がある疑問に気づく。

 

「ん? ハヤ太くん?」

 

その謎のワードに気付いた虎鉄は泉に聞いた。

 

「なんですかお嬢。 そのハヤ太くんって・・・この人にはハーマイオニーさんという女の子で・・・」

 

「男の子だよ♪」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

即答された虎鉄は処理落ちを起こしたパソコンのように遅れて一言。

 

その事実を肯定するかのように泉が続ける。

 

「だからハヤ太くんは男の子なんだって。 綾崎 ハヤテくん。 私のクラスメートで三千院 ナギちゃんの執事さん♪」

 

「はは・・何言ってんですかお嬢・・・え? 男の子? こんなに可愛いのに?」

 

「だったら自分で確かめてみればいいじゃない」

 

笑顔でそう答えた泉。 虎鉄は自身の手をハヤテの胸に押し当てた。

 

「ッッッ!! な、なにをするんですか!!」

 

例え自分が男だと分かっていてもこの行為は抵抗がある。 ハヤテは虎鉄の腕を払い距離をとった。

 

「だいたい勝手に勘違いしたのはそっちなんですから!! 僕は・・・!!」

 

「裏切ったな・・・」

 

「え?」

 

ハヤテの弁明をかき消させるほどの低い声がハヤテの耳に聞こえた。

 

「お前もまた・・・今までの女みたいに・・・私を裏切ったな・・・」

 

ゾンビのように暗い雰囲気をまとった虎鉄は何やら訳の分からないことを呟いている。 

 

「うちの虎鉄君は全然モテないんだよ♪ 超強いけど思い込み激しいし、切れるとヤクザだし、鉄道オタクで時刻表ばかり読んでるから」

 

「は?」

 

それを見た泉がいつもの事のように、見慣れた光景のようにハヤテに説明する。 ハヤテは少しばかり分からないでいたがもしそうならこの男は面倒くさい男だ。 色んな意味で。

 

「お前みたいな奴がいるからなぁ・・・戦争が無くならないんだぁー!!」

 

「知りませんよそんなの!!」

 

虎鉄は背中から隠していた竹刀を取り出し、いきなりハヤテに斬りかかる。 ハヤテはすんでの所でかわすとその場を去ろうと走り出した。

 

「貴様は歪んでいる!!」

 

「どっちがですかーーー!?」

 

叫ぶハヤテに虎鉄は竹刀を構えたまま追いかける。 い7つどこでもハヤテの不幸は厄介だ。

 

 

「・・・・」

 

人が混む道の中、ただ一人だけ異質の雰囲気を出している少女がいた。 周りは生徒なら制服、一般客なら私服、または浴衣。 

 

黒いローブ。 それを着こなしていた少女は見事にその集団から抜け出ていて目立っていた。

 

黒羽。 名前をそう言う。 以前、夜の神社にて伊澄を襲い、救出に来たテルでさえもその少女は退けた。 彼女は木原と共に行動し、同じ目的の上で組んでいる。 仕事仲間と言った方がいいだろう。

 

「・・・・・」

 

黒い長髪をなびかせ、黒羽は何かを探すかのように辺りを見渡す。 そう、彼女の狙いはただ一人の人物、ハヤテだ。

 

「お嬢ちゃん、どうだい? 綿あめなんて買っていかない?」

 

と言う店員の声にも耳を傾けることなく無視して歩いていく。 無表情でだ。

 

彼女は自身の任務以外に全く興味を持たない。 テルの一撃を受けた時も、痛がる様子もなく、無表情を貫き通した。 木原からつけられたあだ名はミス・ポーカーフェイス。 もとい鉄仮面。

 

彼女の特筆すべき所はその強靭な身体能力以外に、伊澄とはまた違った異能の使い手という所だ。

彼女の能力、「黒曜」。

 

体を自由自在に変化せることができる。 翼を広げれば空を飛べるし、邪魔なものは腕を剣にして切断。

それ以外にもロボットアニメのようなドリルまで出現させて攻撃可能。

 

戦闘に関しては万能である。 冷酷な彼女は、その力を他人に振るうことをいとわない。 それが彼女、黒羽だ。

 

「あれ? あれあれあれ? もしかして?」

 

と、黒羽の背後から少女の声が聞こえた。 その声に黒羽が振り返る。

 

「あー! やっぱりそうだ! あの時の!」

 

この高校の生徒ではないだろう、と彼女の姿を見ればすぐわかる。 黒羽が振り返ったのはその声の主に聞き覚えがあったからだ。

 

「あ、名前言ってなかったよね? 私の名前は西沢 歩!」

 

「・・・・・」

 

そう笑顔で声を掛ける歩に無表情を貫き通す黒羽。 それを見てか、少しばかり歩は戸惑ってしまう。

 

「あれ? 覚えてないかな? あの、スーパーで助けてくれた時の子だよね?」

 

歩は以前、スーパーの前で怖いお兄さんたちに絡まれているところを黒羽に助けてもらっている。 だが、黒羽は歩を助けたという認識はなく、ただ自分の任務に弊害をもたらすだろうと思いお兄さんを追い払ったのだ。

 

「別に・・・助けてはいない」

 

低く、冷え切った声で言う黒羽。 大抵の人間ならば、この台詞を聞いた後にはくるっとUターンして逃げ出してしまうだろう。 大抵の人間=普通の人ならば。

 

「じゃ・・・」

 

「MATTE!!」

 

とまた視線を前方に移して進もうとする黒羽の肩が掴まれる。

 

「こう見えても私は受けた恩は必ず返す人間なの。 取り敢えず私の気が済むまでお礼をさせて欲しいの!」

 

「・・・・?」

 

そう聞く黒羽に歩は笑顔で言い放った。

 

「私と一緒に出店を回る!」

 

「・・・・」

 

それはちゃんとお礼になっているのだろうか。 ほとんど歩が楽しむものではないだろうか。

 

黒羽はそんな笑顔を向ける少女を見て考える。 ここで時間を食う訳にはいかない・・・と。

 

断る。それだけを言おうとした時だった。

 

「お、いたいた。 おーい黒羽!」

 

遠くから響く声に黒羽が反応する。 彼女が反応するときは自分が知っている人間の声に反応するらしい。

 

「探したぞ。 走りに走り回ってわそこの出店にて物を食い漁り・・・っと、別に遊んでいたわけじゃないんだがな」

 

しかし、木原の両手にはいかにも先ほどのたこ焼きの箱と水風船がある。 どう見ても遊んでいたとしか考えられない。

 

「ん?」

 

と、木原が黒羽の隣にいた歩に視線を合わせる。

 

「あれ? 何この子、知り合い?」

 

どうやら木原はあの時スーパーでその場にいたのにも関わらず、歩の事を忘れてしまったらしい。

 

「・・・・」

 

と、黙っているようだったので木原も少しばかり考える。 

 

(別にターゲットに関係があるってわけじゃなさそうだな・・・どう見ても普通だし)

 

やはりッその一言に尽きるッ! 歩の姿を見て、木原は彼女が全く無関係だということを・・・確信ッ!

 

(このまま黒羽を連れて作戦やるのもいいけど、俺もうちょっと遊びたいし・・・)

 

任務に忠実で他人を傷つけることをためらわない黒羽と違い、木原はこまめで優しい。 しかし、人相が災いして他人からは怖い目で見られることがある。 それが災いして先ほども検問に引っかかったくらいだ。

 

(そうだ!)

 

ここで木原ッ 閃くッ! 勝手な言い分、自分勝手な正義ッ! 彼は閃いたッ 道を切り開く一手ッ!

 

「ああ、なるほどね。 お前も祭りを楽しみたいという訳か」

 

「・・・?」

 

「そうだよな。 いつもいつも仕事ばっかりじゃあ疲れるもんなウン」

 

「どういうつもり・・・」

 

腕を組みながら続ける木原に黒羽も疑問に思ったか、その真意を聞く。

木原は手招きで呼び寄せ小さな声で黒羽に耳打ちする。

 

「ここは名門白皇学院。 お偉いさん方のガキどもが通っている場所だ。 俺たちがここから派手に動けばただじゃすまない。 中には政治家ぐるみの奴もいるはずだ」

 

つまり、その手の連中から狙われると今後の活動に支障をきたす・・・と木原は言いたいわけだ。

 

「そこで、お前はできるだけ一般市民に成りすましてここを探る、そんでターゲットを見つけたら人気のないところまで移動、そこからはお前の好きにすればいい・・・だがな」

 

と木原は静かに一言。

 

「無関係な人間を巻き込むんじゃねぇぞ・・・」

 

「あわわわ・・・」

 

とその台詞を言っていた時の木原の表情を見た歩が脅えだす。 歩から見て、今の木原の顔は怖いお兄さんに匹敵する・・・もしくはそれ以上の迫力だったからだ。

 

それを聞いた黒羽が返した答えは。

 

「状況を確認、今回はあなたの作戦に同意」

 

(けっこうマジだったんだがな・・・)

 

本気で蹴落としにかかった木原だったが黒羽は動揺するどころか、顔色一つ変えずに返した。

 

木原としては黒羽が暴走しない方がいい。 無関係な人間を巻き込むのは彼の主義ではない。 黒羽が自分の作戦を承諾してくれたことに感謝しよう。

 

「という訳でだそこの二フラムで消えそうなキャラよ。 こいつをヨロシクな」

 

「え!? ちょっと何がどうなってるのか分からないんだけど!?」

 

 

歩はグッと親指を立ててその場を去っていく木原を追いかけようとするが木原は風のように走り去っていった。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

再び二人になったところで沈黙。 そして、その沈黙を破ったのは歩だ。

 

「あのさ・・・お店、回る?」

 

先ほどのやり取りを気にしながらも歩は意決して黒羽に再度聞く。 これで断られたらそれは歩も落ち込んでしまうと心に残りそうだが・・・

 

「・・・・」

 

黒羽は何も言わずだが、首を静かに縦に振った。 つまり、OKだということだ。

 

「よーし!じゃあ取り敢えずあの店から回ろうかー!」 

 

心の中でガッツポーズを決めながら歩は黒羽の手を握り、向かう店を指差しながら意気揚々と駆け出した。







後書き
流されるままに歩と行動する黒羽さんが書きたかっただけだったり。

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