ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
やっぱり王様きゃらって馬鹿多くね?


第51話~祭りではいくらお金を用意しても足りない~

「はぁ~ 今日が俺の命日になるのか・・・・」

 

人間爆弾こと、善立 テルは歩いていた。 光輝く祭りのその道を。

 

辺りは屋台、周りを明るく照らすための雪洞がいくつも吊るされてある。 そしていつの間にか陽気な雰囲気に釣られて人々は集まってくる。 

 

それが祭りだ。

 

「まぁ、今日死ぬことになるんだからな・・・目いっぱい色々と遊んでみるのも悪くないかもな」

 

もう自分が死ぬことが確定しているかのように、現在のテルはマイナス思考気味だ。 それで最後にすることが祭りで遊ぶこととは、なかなか殊勝である。

 

「アレ? お前、テルじゃねーか」

 

「ん?」

 

と道を歩いている中、テルを呼び止める男がいた。 振り返るとそこにいたのは二人組の男。 声を掛けてきた男は老人だ。 浴衣を着ていて下駄を履いている。 

 

「なんと。 ここで会ったが何話振りだろうか・・・」

 

もう一人は白人の男だ。 身長はそれなりに高く、同じく浴衣を着ている。

 

「辰屋のジジイにバルトじゃねーか。 久しぶりだな」

 

久しぶりに見た辰屋の顔を見てテルは自然と手を振る。

 

「なんでぇなんでぇ、祭りだってのにシケた面してんじゃねーか」

 

「シケた? 俺が?」

 

「おうよ。 お前はこの祭りの雰囲気の中、一人だけ溶け込めていねぇ。 言っちゃわりぃがよ、今日は死ねるみてぇなそんな顔をしてやがる」

 

「そうだ。以前のお前ならこんな事に屈することは無かったはずだ。 俺より先にクビになんかならなかったはずだ!!」

 

「いや、まずお前と俺じゃああの店に居た時期が全く違ェんだけど」

 

「まぁ聞けよ」

 

話すバルトを黙らせて辰屋は話を続ける。辰屋は読み取ったのだろう。 テルのその雰囲気から不安の色を。

 

「・・・・」

 

「何も聞く気はねぇが・・・人生の先輩として俺から一つ教えておいてやる」

 

そう言った辰屋は険しい顔をして一言。

 

「死ぬ日にいい日なんて・・・死ぬまでねェぜ・・・」

 

辰屋はそのまま続けた。

 

「死ぬなんて簡単に受け入れていいもんじゃねぇ・・・そう簡単に物事を諦めるな。 男なら、お前ならこういう時でも踏ん張って見せろよ」

 

その言葉にテルは聞き入ってしまった。 久しぶりに話をして説教なのかと思ったが、今の自分の状況を理解はしていなくても善立 テルの本来のあり方を聞かされた。

 

「へっ・・・俺には熱血成分なんてないから熱くなったりはしねぇけどよ。 今のはなかなか効いたぜジジイ」

 

「へっ、伊達にお前より長生きしてねェンだよ」

 

「ふむ。 日本人とは改めて不思議なものだ。 言葉一つで悲しみ、燃え上がることができる・・・それより辰屋殿、せっかくの休暇なのだ。 楽しまなければ」

 

「ま、そうだな。 じゃあなクソガキ、また店に来いよ。 あと溜まったツケ払え」

 

「取り敢えずツケといて、お前の麺あたりにな」

 

「お前またそうやって逃げ出す気かオイ」

 

辰屋もいままで温厚な表情を保っていたがそろそろ限界のようだ。 眉間にしわを寄せ、微笑みながら怒りマークが複数出現している。

 

「それよりテル殿・・・」

 

その雰囲気を物ともしないように入ってきたのはバルトだ。 何やら手を動かしてこちらに来いと言ってるようである。

 

「なんだよ」

 

そう言うと少しばかり戸惑うバルト。 そして意を決したように小声で聞く。

 

「あ、ああ・・・そのだな。 ソニアさん・・・いや、元隊長は元気でやっておられるか?」

 

「あ? あの暴君シスター? 知らねェよ。 あの船の事件の後一回だけ会ったけどな、それっきりだ」

 

「そう、そうか・・・」

 

テルの言葉を聞いた後は少しばかりバルトは残念そうな顔をしていた。 一旦、ふぅとため息をつく。

 

「なら、いいのだ。 では行こう、辰屋殿」

 

そう言ったバルトに頷いた辰屋は二人で下駄を鳴らしながら屋台を回るために歩いていく。

 

「大人も大変だね~~」

 

そんなことを考えながらテルも首を鳴らしたところでまた歩き出す。 

 

「さてさて、今日はとことん楽しんじゃうよ~ 祭りの暴君とは俺のことだからね」

 

独り言だがさっきまでのようなネガティブな思考は無く、純粋に今は祭りを楽しむかのような表情だ。

財布を取り出してテルはその道を走り出したのだった。

 

 

 

テルのいる場所とは変わって、祭りの光景を歩きながら眺める男がいた。

 

その表情はひどく冷めたものであまり興味を持っているようではない。

 

「祭りか・・・まったくもってくだらんな」

 

彼こそ白皇学院の王様キャラ、乙葉 千里である。

 

「このような催しは、俺様の為に用意されるべきではないのか」

 

千里がつぶやくのは不満、王たる自分がこのような場であがめられることなく、全員が興じる今日の祭りにひどく不満を持っていた。 何とも身勝手な男である。

 

「当たり前だ。 自分の器も理解していないのか陶片僕」

 

その背後から聞こえた罵声に、千里はくるりと振り返る。 そこにいたのは二人の女子だ。 一人は千里が最も知っていて最も嫌いな女性。

 

「奈津美ッッ」

 

言葉には怒気がこもっており、相手を威嚇するように千里は唯子を睨んでいたが唯子はフフ・・・と小さく笑う。

 

「まったく・・・静かに祭りを楽しんでいるかと思えばただ一人で寂しく歩いていたのか・・・」

 

侮蔑するような視線を千里に送る唯子。 そう、何を隠そう千里、その自分勝手な性格が災いしてか友達が少ない。

 

「寂しいとは思っておらん。 王とは群れず、孤独なるものだ」

 

「ならばこの前の放課後に、私の雑談の場に居たのはなんだ? 気まぐれか?」

 

その言葉に千里は一瞬だけの間を開ける。 いつだったか、唯子が行っている雑談の場に一度だけ千里は居た。 普段群れを作ることのない彼がなぜあの時あの場にいたのか。

 

千里はあまり困った顔をすることなく答える。

 

「・・・決まっているだろう。 気まぐれだ」

 

「ふーん・・・まぁどうでもいいが」

 

腕を組みながら考える唯子だが、あまり深く考えることないように組んだ腕を解く。

 

「暇だったら私と一緒に回ってみようか?」

 

「な、なにッッ!?」

 

突然の唯子の提案に千里は驚く。 普通のお誘いならまだ理解はできる。 だがその誘ってくる相手に問題があるのだ。

 

「フフ・・・こんな美人と一緒に祭りを回れるのだぞ? 嬉しいとは思わないのかボッチくん」

 

「くぅ・・・」

 

せせら笑う唯子の言葉には明らかにバカにするような感情がこもっていた。 

 

「それとも何か? 美人な唯子さんと一緒になるのは純情なこのぼくちゃんは、唯子さんの隣を歩くには道頓堀のヘドロのように醜く哀れな存在のため一緒に回ることはできません・・・とか?」

 

「き、貴様ァァァァァア!!」

 

「今だッッ!」

 

痺れを切らした千里が大きく口を開けた瞬間。 唯子が機を図ったかのように右ポッケから何やら小さなパックを取り出す。 そして千里の口の中に向けて中身を射出。

 

「む、むぅ・・・ッッ!!」

 

パックから飛び出た赤黄色の物体を飲み込んだ千里は次第に広がるその味に表情を強張らせていく。

 

千里が飲み込んだ物体。 それはタバスコと辛子だった。

 

「ぐあああああああああああああああ!!」

 

「あ~はっはっはっはっ!! 逃げろ逃げろ書記くん!」

 

高らかに笑い声をあげると、唯子は一緒にいたもう一人の女子生徒と共に千里のいる場所から逃げ出した。

 

そして振り向きながらあっかんベーの状態で唯子は言った。

 

「ばーか。 誰がお前なんかと祭りなんて回るか木偶の棒、私には祭りのすべての屋台を回りきるという重大な使命を担っているのだ」

 

「う、ウォオオオオオオオ!!」

 

顔を真っ赤にしながら千里も叫ぶ。 辺りの生徒含めた一般人が注目するが千里は人目を気にせず唯子を追いかけ走り出す。

 

「許すか・・・許すものかァァーーー!!!」

 

こちらもまた別の意味での祭りが勃発した。

 

 

「まったく祭りですか・・・くだらない」

 

 

別の場所でも、千里のように祭りにあまり興味を示していない男がいた。 身長はそれなりに高く、髪はライトパープルで片手にコーヒーを持ちながら校舎の窓から祭りを眺めている。

 

「いいじゃないですか虎鉄くん。 僕は好きですよ? そういえばそちらの主は?」

 

笑顔を絶やさない細めの男、野乃原 楓が虎鉄という男に言う。

 

「お嬢ならその辺を走り回っているんじゃないですか? ウチはそっちほど過保護じゃないんで」

 

嫌味を込めてそう言う虎鉄に野乃原は軽く笑ってあしらう。 あと、虎鉄が敬語を使っているのを見て、上下関係は野乃原が上のようだ。

 

「だいたい男が女を誘う祭りってなんですか。 そんな不純異性交遊を後押しする祭りなんて・・・さ・・誘う勇気もない漢(おとこ)達は一体どんな夢を見れば・・・ッッ!!」

 

(不純異性交遊関係ないですね・・・)

 

と心の中で突っ込んでみる野乃原。 声に出さないのは彼がこの手の話題に敏感だからだ。

 

「じゃ、私は坊ちゃんが降られて慰めなきゃいけないのでこれで・・・」

 

「あ・・・東宮の坊ちゃんは告白できるのか・・・すごいな」

 

それに比べて自分は・・・と比べてしまう虎鉄だ。 東宮も頑張っているのだが報われない。 哀れな男である。

 

一人になった虎鉄はふぅとため息をついた。

 

「ああ・・・私にもあんな勇気があれば・・・」

 

自分はあり得ないくらい臆病だ。 しかし言いたいときは言う。 それだけの覚悟はある。 だがその機会すら自分には巡ってこない。

 

虎鉄は強く願いながらその思いを口にした。

 

「どこかに転がっていないのか運命ッッ!!」

 

「キャ!!」

 

両手を大きく広げた瞬間、虎鉄の背中に軽い衝撃が走る。 相手は虎鉄の体格に負けて軽く床に転んだようだ。

 

「あ!! スイマセン---」

 

「いたた・・・」

 

ズキュゥゥゥゥウンンン!!

 

それは一瞬の事だった。 彼にとってはそれを認識するまでにさほど時間は掛からない。 その姿を見た瞬間、体の心臓が跳ねたのだ。 

 

彼はこう思う。

 

(運命が・・・来たぜぬるりと---)

 

だがお気づきかと思うだろう。 虎鉄がぶつかった相手はメイド服を着こなしている綾崎 ハヤテであるということに。

 

「おおおおおおお名前はなんですか御嬢さんッッ!!」

 

「え!? な、名前ですか!?」

 

言葉を発するのが早いか虎鉄はすぐさまハヤテの手を取り、地面から立たせる。

しかし、最初に聞いた言葉が大丈夫ではなく名前を訪ねていたことにハヤテも戸惑った。

 

「な・・・名前は綾崎ハ・・・!!」

 

ハヤテは思わず自身の本名を口走ってしまう所だった。 慌ててその一文字で止める。 

なんせここは校舎の中、相手は一般の生徒? 相手は完璧に自分を女の子と勘違いしている。 

 

それでハヤテの名前がバレてしまうと後々、いや、ハヤテが生きていくこの先、非常に面倒なことになるのは目に見えている。

 

「綾崎ハ? ハ? なんですか!?」

 

「だからその、あ・・・あっと・・・!! あ・・あ・・・」

 

ハヤテは自分の脳内のギアを急速に回転させた。 この場で最も効果的で窮地を乗り切るための手段を。

そして一言。

 

「綾崎 ハーマイオニーです」

 

「なんか魔法使いみたいな名前ですね」

 

その場で浮かんだ偽名にまんまと騙される虎鉄。 取り敢えずは乗り切ったという所だろうか。

しかし、彼とこの虎鉄という男の果てしない闘い? ここから始まるのだった。

 

 

一方そのころで。

 

「はいはーいちょっと止まってくださいよキミ」

 

白皇学院校門前。 一般人の人々が出入りしているこの校門で呼び止められている少年がいた。

 

「なんですか。 なんすかなんなんですかぁ?」

 

呼び止められた少年、木原 竜児はもはやこんなことは慣れたかのような口ぶりだ。

 

「キミちょっと怪しいよ? ちょっとここではそういった人は入れないんだよね」

 

「えーっと・・・まず何を見て判断したのか知らねぇけどさぁ。 ちょっと失礼じゃないの?」

 

木原のその言葉に校門で警備している男は一言。

 

「いや、あんたちょっと危ない顔しちゃってるじゃん。 中に入ったらなんかドンパチやらかすんでしょなんかさ」

 

「オイコラ、顔の事を言うな。 人を見かけで判断するんじゃねェ」

 

毎度の事ながら言われてきている言葉だが、怒りが溜まることには全く耐性が付きそうにない。少しだけ怒気がこもった言い方になった。

 

「だいたい、俺はちゃんと連れがいるんだよ」

 

「ほぉ、その連れさんはどこにいるんだ?」

 

「どこって・・・・アレ?」

 

さっきまで隣にいた黒羽の姿がない。 急いで辺りを見渡す木原。 しかし周りは人人人、入る人出る人で埋め尽くされている。

 

(仕事を優先させて中に入ったって考えた方がいいのか?)

 

うーんと考える。 今回の仕事の内容、ターゲットはこの祭りの中に居るのだ。しかし、黒羽もすぐ中に入って爆発とか火事が起きていない所を見ると、まだドンパチはやらかしていないようである。

 

そのことに少なからずとも安堵した木原であった。

 

(取り敢えずは、俺も早く中に入って黒羽を探さないとな・・・)

 

まずそのためにはこの門番さんをどかさなきゃならないが、腕づくでやるのは簡単だがなんせ人が多いことに迂闊に派手なことはできない。

 

(どこかに別の道があればな・・・・おお!!)

 

木原が考えた結果、ある考えが木原の脳裏に浮かんだ。 すぐさまその校門からダッシュで逃げ出した。

 

 

全速力で走る木原がやって来たのは壁。 そう、白皇学院を囲っている壁である。

 

「はっは~ 最初からこうすりゃあ良かったんだよ」

 

自分の考え出した策に酔いしれているのか、笑う姿は不気味だ。 ただでさえ怖い顔にさらに拍車がかかっている。

 

登る・・・といっても、この壁はアスレチックのように凸凹している訳ではない。 それに問題なのはその高さ、どう考えても普通に30~から40メートルぐらいまではあるだろう。

 

「うん、筋トレにもなって素晴らしい」

 

だが、彼は登るのだ。 まるで手が壁に吸いつくように、お前の手はドラ○もんのペタリハンドにでもなってんのかと突っ込んでみたくなるみたいに。

 

「よっと」

 

スッと音もなく登り切り、音もなく着地。 最早潜入任務において彼の右に出るものはいないだろう。

 

「さて・・・黒羽はどこにいったのか」

 

侵入した場所が林の中だったこともあり、辺りは暗い。 だが遠くを見ると屋台の光が見えてくる。

 

(まだ行動を起こしたりはしないでくれよ黒羽・・・)

 

その賑やかな光の場所へ木原は走るのだった。

 

 

次回、さらに祭りが加速するッゥ!!






後書き
昔大判焼きごときに1000円くらい使ったのはいい思い出。

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