ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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第5話~昔は根性と気合でなんとかなる時代だったけど~

「さぁ、出て行くがいい」

 

三千院家の主であるナギからの命令。 今ここに一人の新生活が終わろうとしていたが……

 

「待ちなさい、ナギ」

 

突如声を掛ける人物がいた。 マリアである。

 

「な、なんだマリア、お前はこんな奴の肩を持つのか!?」

 

ナギとしてはマリアが自分の意見に反論する事に驚いている。

 

「なんでもかんでも簡単に決めるものではありませんよ。 初めてだし、誰しもが出来る仕事じゃありませんわ」

 

「ならどうしろと? このまま奴を執事にしたら三千院家の名が泣くし、帝のジジイにも笑われる」

 

腕を組ながらマリアに言うナギ。 いかにテルにとって初めてでも三千院家側としては三千院家の執事は完璧でなければならないという理念が存在する。 というのをナギだったか執事長が言っていた気がする。

 

「簡単です、テストをしましょう♪」

 

「テストですか?」

 

楽しげに言うマリアにハヤテが尋ねる。

 

「ええ、落ちたら失格、チャンスは一度きりの当に断崖絶壁の執事テストです」

 

─執事テストとは決してロボットと 戦ったり試練の塔に行って敵を倒してくるとかそんなんじゃなくてただ純粋に執事の能力を試すテストである。

 

「まぁ、今回はあのカオスな掃除をどうにかしなければいけないので試験内容としては掃除ですね」

 

「というか、執事ってロボと戦ったりするんすか?」

 

「まぁテル君、それは置いといて……ナギ? どうですか?」

 

テルの質問をはぐらかすとマリアはナギに聞く。 ナギはうーんと考えると

 

「うむ。 確かにそれならコイツも簡単に諦めがつくだろう。それに私は追い詰められた鼠がどうなるのか見てみたい」

 

「オイこら、人を実験台にすんな」

 

「とにかくこれがラストチャンスだ! お前が明日執事になれるかどうかはこの私が見定める!!」

 

その後昼からはテルの明日のテストの為の勉強が始まった。

やり方としては屋敷の掃除の仕方や高級品の手入れの仕方をハヤテから教わるというものだ。

ハヤテがアドバイスしては意味がないのでは? と思われるがそうではない。

やり方さえ聞いてメモすれば後は当日メモの通りにすれば簡単だが当日はカンペ無しだ。 そして何より

 

「テルさん、これは銀製なのでシルバーパウダーを使って磨きます」

 

「ほぅ」

 

「こちらの銅像は真鍮ブラシで汚れを落とした後、薄い洗剤で洗浄して水気を取ってワックスで仕上げを」

 

「ほ─」

 

「カーペットはウール製のキリムですのでお湯を使わず、冷水に頭髪用洗剤と塩を加えて、色落ちしないよう軽く……ってテルさん?」

 

「……んほ?」

 

「……今寝てましたね?」

 

「いんや、寝てない」

 

そう言うテルだが目をゴシゴシとこすり、大きな欠伸をしていた。 その証拠に

 

「ヨダレ出てますよ……」

 

「違う、汗だ」

 

「口から出る汗なんて聞いたことありませんよ! やっぱり寝てたんじゃないですか─!」

 

 

 とまぁ、こんな感じでテルが面倒事を嫌う訳である。

ハヤテとしてはナギ以上に手を焼く存在だと考えていた。

やってみれば予想通りだ。

 

 元々、この屋敷に来たハヤテは掃除を昔から体験していたこともあり難なくこなしていたので困った事は特にない。

あるとすればナギのとばっちりをくらうぐらいか。

ハヤテなりには考えたつもりだ。 テルの性格を考慮して分かりやすく掃除を教えたのだが

 

「いいかハヤテ。人間の脳は記憶出来る事に限界がある。

オーバーロードフュージョンだって攻撃力倍になったら最後は自滅するだろ? これを解決する事が人類進化の第一歩なんだよ」

 

と訳の分からない事を言っている。

ハヤテはため息をつくと

 

「いいんですか? このままじゃ本当にクビになりますよ? お嬢様はやることが半端じゃないですから」

 

実際これは嘘ではない、ハヤテはナギに出て行けと言われたり、ロボットやトラの戦闘、ナギに一億五千万で売られたりと既に体験済み。

それを理解した上でこの男、善立 テルは頭を掻きながらまだ欠伸をしている。 本当に呑気だ。そんな事を思いながらハヤテは続けた。

 

「ここを追い出されたら屋敷との関わりがなくなるんですよ?」

 

その瞬間、テルの動きが止まる。 関わりが無くなる。 それは三千院家関係者には二度と会えないという事だ。

 

(つまりソレはマリアさんと会えなくなるって事なのか!?)

 

額に汗を浮かべるテル。 理由はどうであれ、というかかなり不可解だがテルの誘拐を止めさせて更生させたのはマリアだ。 マリアは全く知らないが

 

 

 

―ここからは善立 テルの妄想にはいる。

 

 

 

「……ついにクビになってしまったか」

 

最後のチャンスをも無駄にしてしまい屋敷を追い出されてしまったテル。

三千院家の門の前に一人たたずむが、寂しいばかりに1月の寒風が駆け抜ける。

何も言わず門を後にしようとしたその時。

 

「お待ちなさい」

 

振り返るとそこにはマリアがいた……その姿は翼がはえており、天使の姿そのものだった。

 

「ま、マリアさん?」

 

 

マリアがどうして浮いているのか分からないがテルを見下ろし、後光がマリアを際立たせている。

しかしマリアは悲しげな瞳で

 

「ああ、あなたは諦めてしまったのですね……」

 

「どういう事ですか!?」

 

「あなたは確かに一度は心を入れ替え新たな人生を歩みました。 あなたが諦めなかったからです。しかしあなたは今回、掃除ひとつを諦めてしまった」

 

「そ、そんな!」

 

もはや画面真っ白状態のように言葉が出ないテルだが、マリアは最後にトドメの言葉。

 

「あなたはゴミムシ以下の存在、救う価値もありません…… 地獄に落ちてジャンクになりなさい」

 

突然手のひらを返したような冷たい口調のマリア。 その時の姿は黒い翼を生やしたどこかのドールさんだったという。

 

 

 

「あの……テルさん?」

 

「……ハッ!」

 

放心状態のテルが横を見ると声を掛けているハヤテがいた。

 

「どうしたんですか? 急にボーっとして……」

 

「いや、まぁ……」

 

テルは曖昧な感じで返す。 ハヤテは少し気になったがテルは頭を掻きながら続ける。

 

「そんな事よりもだ。 勉強だ勉強。 掃除の」

 

「え!? テルさんどうしたんですか!? 熱でもあるんですか!?」

 

失礼な質問だが、突如のテルの変わりようにハヤテは驚かずにはいられなかった。

 

「ジャンクになりたくはないがここはやはり……」

 

「(ジャンク?) やはり?」

 

「あのナギにナメられたままクビにされるのは天が許しても俺が許さん!!」

 

「な、なるほど……」(この人も負けず嫌いなのかな?)

 

そう思わずにはいられないハヤテだった。

 

 

カラカラ……

 

長大な屋敷の廊下にキャスターの音が静かに響く。 キャスター付きの台の上には純銀製のポット、鮮やかな色合いのティーカップ。 それらを運んでいるのはマリアだ。

 

 

(さて、テル君の調子はどうですかね……)

 

マリアは試験を明日に控えたテルの様子を見に来ていた。

 

 

屋敷では現在、各々がそれぞれの時間を過ごしている。 学校があるのだが夜までゲーム、漫画と趣味に没頭するナギ。 夜食の片付けや明日の朝食のメニュー作成、その仕込みの準備をするハヤテ。

マリアもまた様子見、疲れているであろうテルの為に紅茶を届けているのであった。

 

(ここですね……)

 

マリアはテルが居る部屋の前に到着。 礼儀として扉を叩いて入った。

 

「失礼しますテル君……調子はどうですか?」

 

マリアが入ると最初に暗い部屋で執事服を着て一人ブツブツ呟くテルの後ろ姿が見えた。

 

「あの~テル君」

 

まだ気付いていないのか、と思ったマリアは再び声を掛けた。

 

「あ…マリアさん……」

 

ようやく気付いたのかクルッと振り向く。しかし、その時のテルの顔は酷く痩せ痩けていた。更に死んだ魚のような瞳。暗い部屋がホラー感を引き立てていた。マリアはテルの顔を見て

 

「キャアアアアア!! ゾンビィィィ!!」

 

と叫びながら近くにあった箒を振り回した。

 

「ぐふっ!!」

テルの顔に振り回していた箒が見事クリーンヒット。 あまりの強さにテルはその場に倒れ付した。 それを見たマリアは更に箒でテルをバシバシ連打。

 

「悪霊退散!悪霊退散! この!この!」

「あ、痛! ちょっ!マ、マリアさん! 俺ですよ! テルです!」

 

その声を聞き、マリアの箒を叩いていた手がピタリと止まった。 マリアが明かりを点けるとさっきより顔が腫れたテルの姿を確認した。

 

「て、テル君!? どうしたんですか? そんなに顔を腫らして……」

「いや、マリアさんがやったんですケド……」

 

慌てて心配するマリアにテルは突っ込んだが罪の意識の全く無いマリアをテルはそこまで激しく言わなかった。

──────

 

「申し訳ありません……余りにも瞳が死んでいてゾンビにそっくりだったので……」

 

「マリアさんのゾンビの基準は目が死んでるって事だけなんですね……」

 

「まぁ、取り敢えず頑張っていましたから休憩がてら紅茶でもいかがですか?」

 

話をそらすマリアはティーセットを運んでくる。 テルの選択は常に一択。

 

「はい!モチロンです!」

 

 

 

 

 

 

二人は椅子に座ると紅茶を淹れ始めた。 マリアは自分で淹れた紅茶を一口だけ飲む。

 

「ふぅ……」

 

と息をついたマリアを見て、テルも紅茶を一口。

 

ゴクッ

 

「こ、これは……」

テルは紅茶を飲み驚愕の表情を浮かべた。

 

「なんと美味な紅茶か! 味の三千世界よォォォ!」

 

「まぁテル君ったら、ただのレモンティーで大袈裟な」

マリアはクスクス笑いながらテルを見る。

 

(マリアさんが淹れてくれた紅茶ならどんな物も極上の味です!!)

 

などとテルは言って見たかったが流石に言えず心の中で呟いた。

 

 

「どうですか調子の方は?」

 

マリアはティーカップを置くと尋ねてきた。

 

「まぁ、ハヤテの甲斐もあってかなんとかなりそうなならないような……」

 

「それは随分と微妙な所ですわね……」

 

「それよりもハヤテには驚きましたよ。 やり方も教え方もやたらと上手いですし、コレってかなりの専門知識が無いと無理なんじゃ……」

 

実際、ハヤテの知識はかなり精通しているものがある。 ある意味業者よりも上手い。

それを簡単にやってのけるというのは何かあったのだろうか。 それ以前に、16歳という若さで執事をやっている時点で普通ではない。

 

 

「ハヤテ君が借金を抱えているのは知ってますね?」

 

「ええ、なんか一億五千万とか借金してて、それを返す為に働いてるとか……」

 

「元々ハヤテ君の借金ではないんですが、ハヤテ君の両親が作った借金をハヤテ君に残して逃げてしまったんですよ。 両親はかなりの遊び人で二人の代わりに年齢を偽ってバイトしてたらしいんですよ。 掃除とかのバイトは確か9歳からやってたって笑顔で言ってましたし……」

 

 

「言葉の端々に笑えない苦労が滲み出る奴だなぁ……」

 

と呆然としながらハヤテの過去を思ったテルだった。

 

「でもまぁ、昔の苦労があったからこうして自分の仕事を見つけれてるんですね」

 

 

ハヤテの過去は謎だらけだ。ナギの誘拐事件の時に見ていたが身体能力の高さはかなりのものである。 あの異常な戦闘力と執事としての能力、どこで身に付けたものか疑問だったが、今の所はあんまり深く追求はしないほうがよさそうだ。

 

「少なくともハヤテにとってこの仕事、天職ですね」

 

「天職かもしれませんが昔も今も苦労しぱなっしです……」

 

マリアは苦笑いを浮かべながら呟いた。

 

「苦労か……」

 

「どうしました?テル君……」

突然ぽつり呟いたテルにマリアは聞いた。

 

「いいえ、考えてみればラーメン屋にいたときもやたら迷惑かけて出てきたなと思って、しかしアレはまずったな~」

 

テルは顎に手を当ててうーんと続ける。

 

「ラーメンの麺を黄色粘土代用しようとしたんですね、あの後腹痛で何人か病院行きました」

 

(それはもう……追い出されて当然ですね……)

 

もはや、料理がカオスというのが当たり前だが料理に関してはテルは常識が足りないらしい。

 

 

「追い出された事には後悔はないんですがね……けど」

とテルは続ける。

 

「俺はあのラーメンの味、好きだったんですがねぇ」

 

─ほらよ、腹減ったんなら俺のラーメン食いな。

 

 

老人から差し出されたラーメンは普通の醤油ラーメン。 老人は少しめんどそうな顔をしていた。

 

─旨いだろ?俺のラーメン。 俺の魂が籠もってるからな。

 

こんな細い麺に魂とか何を言ってるかと思ったが老人は続ける。

 

 

─俺達職人はテメェ(自分)の魂を込めて何かを作んだよ。 いつでもどこでも、この命が尽きるまで魂を込め続ける。

 

そこまで自分の魂を込めるのは何故か? 疑問に思った。

 

 

─それは俺の魂を他人に感じてほしいからだっつーの。 俺の魂でたくさんの客に何を与えられるのか。

他人が何かを感じたと実感できるのはいつだ? 作った本人はそれが分かるのか? 老人は言った。

 

─難しいことは分からねえ、けどよ……

 

─そいつの顔が笑ってて旨いって言わせれたら、俺は充分だと思うぜ。

 

海で一人のラーメン店主に助けられた少年はまたラーメンを口にした。 今度はただ旨かっただけではなく不思議と笑みがこぼれ、そして何よりも。

 

 

 

 

 

 

身も心も暖かかった。

 

 

「まぁ、いつしか会いに行きますよ。 会ってあのジジィの鼻明かしてやります」

 

あの日交わした約束がある。それを守るためにも今は目の前にある壁を壊さなくては

 

「なら、明日は頑張ってください……これ位ができなければ三千院家の執事は務まりませんよ?」

 

その迷い無き表情を見たマリアは安心したのか笑顔で言う。 テルは親指をビシッと立てて、

 

「任せてください! マリアさんの為にも明日の試験、必ず合格して見せます!」

 

(……私のためではないんですけどね……)

 

 

苦笑いを浮かべてマリアは部屋を後にした。

 

 

(でもラーメン屋に戻ってどうするねでしょうか、まさかこの仕事を辞めてラーメン屋に戻るという事なんでしょうか……)

 

 

廊下を歩くマリアは一抹の不安感じる。 廊下には紅茶セットの台のキャスターのカラカラという音が響いていた。

 

 

 

─翌日。

 

「むぅ……」

 

廊下を先人をきって歩くのはナギだ。 その後ろにはマリアとハヤテがいる。

 

「どういうことだ……」

 

ナギの表情が怪しいのは決して体調が悪いとか眠いとかそんな理由ではない。

数々の廊下、部屋の中を確認すると多くの家具が日の光を浴びて輝くほどに手入れされていた。

 

「キレイになっているではないか!」

 

ナギは驚きの声を上げる。隣ではハヤテやマリアが部屋の隅々をみていた。

 

(まぁ、一人でここまでやるとはなかなか……ですがこの細かいところはまだまだですね)

 

(テルさん、この家具は他のよりも年代物で丁寧な手入れが必要なんですよ!まだまだですね)

 

((まだまだですね……))

 

できる使用人達の評価は厳しい。

しかし、昨日の失敗が嘘かのように掃除はできていた。 カオスな状態から大きな進歩である。 それを見たナギはフンと言った表情で

 

「まぁ仕方ない、合格点をくれてやる……クビはなしだ。 ところでテルはどうした?」

 

マリアに聞くとマリア人差し指を立ててしーっと静かにさせた。

 

「ナギ、あそこよ」

 

マリアが指をちょんとちょんと指すとその先にはソファに横になっているテルの姿があった。

 

「ぐおぉ~があぁおぉ……」

 

「両○勘吉並みのいびきだな……」

 

「本当ですね、どうして今まで聞こえてこなかったんでしょう?」

 

ナギとハヤテは呆れながらも言うがナギは後でフッと笑うとテルに近寄り、起こさないように呟いた。

 

「これでお前も立派な三千院家の執事としての第一歩を踏み出した。 ハヤテよりはまだまだ格下だがな。これからも己の力を高めんと精進するがよい」

 

 

腕を組み、静かに言い放つナギ。するとテルが少しピクッと動き

 

「うんがぁ~」

 

ゴスッ

 

いびきと共にナギの頭に寝返りのチョップが直撃した。

 

「………」

 

 

ナギは額に青筋を浮かべる。マリアとハヤテは冷や汗をかきながらオロオロしている。

 

「貴様に『終わりのない終わり』をくれてやる……」

 

「お嬢様!レクイエムの発動は止めて下さい!」

 

 

ナギが精神体を発動しそうだったのでハヤテが全力で止めに入った。 それを見ていたマリアはクスリと笑い二人に言った。

 

「その内起きますよ。休ませましょう……」(これからも頑張ってくださいテル君……今はあなたの仕事を頑張って下さい」

 

「うんがぁ~」

 

マリアの心の呟きに一瞬返事したように聞こえたがマリアはそのまま聞き流した。

 

 

 

こうして、ダラダラ執事のクビは免れたのである。

 

 

 

 

 

 

以下、オマケ。

 

 

 

「ぐおぉごおぉ~」

 

注意。今回の話はテル君が主役ではありません。

 

「まぁ、なにはともあれクビが免れて良かったですねマリアさん」

 

 

「ええ、まだまだ荒々しい掃除ではありましたがこれから頑張ってもらえればいいですね」

 

 

時は1月10日の朝。 賑やかな朝の光が廊下の窓から差し込む三千院家、マリアとハヤテはナギが学校へ行ったので自分たちの朝食をとるために食堂へと向かっていた。

 

 

善立 テルのテストが終わり、一息ついた三千院家の使用人たち。

 

 

「なんだかんだでテルさん、これだけできたら普通に料理とかもできそうですね」

 

 

ハヤテは目を輝かせながら話すがマリアは顔をしかめて

 

 

「いや、掃除ができたからって料理まで上手くなるとは……」

 

 

「何を言ってるんですかマリアさん! テルさんはやればできる子だったんです! 一つの家事ができるようになったという事は、料理の方も上達したに違いありません!」

 

ハヤテは技術的にテルが成長したので料理の腕も自然と上がったと考えていた。

 

 

「はぁ……そういう事になっていればいいのですが」

 

「はい、レベルアップは宇宙の法則です」

 

 

マリアの言葉にハヤテは頷き、食堂の中へと入った。

 

 

「………」

 

いつものようにテーブルが置かれているはずだったが今回は違った光景が目に入った。

 

キッチンの役割を果たしているこの食堂には数々の食器や道具が置かれているが辺りは食材や道具で散らかっていた。

 

「こ、これは……」

 

「なんですかこの惨状は……」

 

二人は少し考えたが直感的に察した。 明らかにテルの仕業だと。

 

「テルさんしかいませんよね、お嬢様も学校に行ってますし……」

 

「ええ、一体何を張り切って作ったんでしょう? あら、あんな所に何か入ってそうな鍋が……」

 

マリアが指を示すとそこには鍋フタをして回りにはソースらしきものが飛び散っている鍋があった。

 

 

「なんでしょう……あそこだけ異様なオーラを出しているんですが……」

 

ハヤテは鍋から感じる緑色のオーラに嫌な感じを覚えた。 何故緑色なのかは分からないが……

 

「マリアさん、中を確認してきます」

 

 

「ええっ!!ハヤテ君何言ってるんですか!? あのオーラ見て下さい。明らかにカオスの詰め合わせですよ!?いくらハヤテ君でも死んでしまいます!!」

 

 

ハヤテの自殺とも言える発言にマリアは慌てて引き止めるがハヤテは目をキリッとさせて返した。

 

 

「でも、アレを処理しないことにはおちおち僕らは食事をとれません、戦わなければ生き残れないんです!」

 

 

ハヤテは意を決して鍋の中を確認する事にした。

 

 

「くっ! なんだこのプレッシャーは……」

 

 

ハヤテは鍋へと近づく度に感じる重圧に額から汗を流した。

 

(一体何を作ったんだろう。 マシな料理であればいいんだけど……)

 

 

ハヤテはあの惨状を見ておきながら淡い希望を持つがその希望は一瞬にして吹き飛んだ。

 

 

「ん?」

 

 

足に何やら固いものがカツンと当たった。 置いてあった物に気付かず、足で蹴ってしまったようだ。

 

「………」

 

ハヤテはその蹴った物を見て顔をひきつらせた。 それはよく大工が使ったりするドリルだったのだ。

 

 

(一体何を削って料理したんですか! ドリルで削るほどの食材は屋敷には置いてないのに!)

 

ハヤテは心の中で突っ込んだがこの程度では終わらない。 次に目に入った物は

 

(コレはゴム風船? うわっ! こっちは洗剤だ!)

 

 

コレはヤバいよ、どれぐらいヤバいかっていうとマジでヤバい。 とハヤテは鍋の中に潜んでいる魔物を前にした。

 

「マリアさん!」

 

「は、はい!」

 

 

ハヤテはクルッと振り返ってマリアに言うと親指を立てて続ける。

 

 

「後の事は頼みましたよ!」

 

 

そう言い放つとハヤテは唾を飲み込み、一気に鍋フタを持ち上げた。

 

「うおっ!!?」

 

 

ハヤテは思わず声わ上げてしまった。 それもそのはず開けた瞬間、緑色の光が放たれたかと思うと更には緑色の煙がハヤテを包んだ。

そしてハヤテはしばらくすると二三歩ふらつきながら下がると

 

 

「………」

 

ドサッと後ろに力無く倒れた。

 

 

「えっ!? ちょ、ハヤテ君!? ハヤテくうぅぅぅん!!」

 

まるで死んだかのような表情のハヤテをみてマリアはパニックに陥った。

 

その数十分後にハヤテは目を覚ましたが何を見たのかは全く覚えていなかった。 むしろハヤテは思い出したくないとマリアに言っていた。

 

因みにあのモンスター料理は後でSPが美味しくいただきました。 何人か昇天しかけたけど……

 

 

「ぐおぉごおぉ~」

 

そんな事が起きているとは知らずテルは爆睡。 全く無責任な男である。

 

結局、テルの料理の腕は全く治っていなかった。

 

 


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