ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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いよいよシリアス長編のラスト。 そして意外なことが明らかになります。


第47話~最後に残った大きな手掛かり~

互いの勝負は一瞬だった。 それはハヤテやヒナギクには見切ることも難しく、捉えることはできなかった。

 

静寂だけが響き、両者はまったく動かない。 そしてやがてハヤテが呟く。

 

「一体・・・誰が?」

 

その時、上から何かが落ちてきた。 銀色の刀の破片がくるくると回りながら地面に突き刺さる。

 

テルの刀だ。

 

まさか。とハヤテ達が顔を歪めたときである。

 

ピキ・・・

 

何かがヒビ入る音が聞こえた。 皆がその音の出所を見る。

 

それは黒羽の持つ武器からだった。 

 

そのヒビはやがて腕までに達し、形を維持できなくなったその剣は崩れ落ちる。

 

「・・・・」

 

同時に黒羽が右腕を押さえながら膝をついた。 右腕からは機械がショートしたかのように火花が小さく弾ける。

 

「・・・・」

 

ゆっくりと立ち上がり、テルを振り返る。 その表情は全く変わることのない無表情だった。

まるで痛覚がないかのような平然さにテルは悪寒が走る。

 

「黒羽!」

 

「なにッ!?」

 

突如、ドラム缶の山から一つの丸い球が場に投げ込まれる。 テルは「まさか」とデジャヴュ感否めない展開を予測した。

 

ボシュン。

 

と丸い球からあふれ出る白い煙が場を包み込んでいく。

 

「うわ! なんか悪党どものお約束の煙幕だー!」

 

「ちょ、なんも見えないじゃない!」

 

「誰か! 鳥系のポ○モンを! 早く『かぜおこし』をッッ!!」

 

「「「誰もポ○モンなんて持ってないわァァァァ!!!」」」

 

テルのボケに一同が突っ込みながら叫んだ。 確かに何も見えない。 お互いが誰かというぐらいにだ。

 

一方で煙幕を投げ込んだ木原はドラム缶から一直線に黒羽のもとに。

 

「黒羽・・・大丈夫か?」

 

「・・・大丈夫、問題ない」

 

「涼しい顔でイー○ックの真似なんてやるもんじゃねぇよ」

 

もちろんその類のネタを知ってるわけではない、自然と出た返答であることは木原も承知している。

 

「片腕の黒曜の機能が80%ダウンした・・・でもまだやれる」

 

腕を押さえながら黒羽は言うが、片腕はバチバチと音を上げながらプルプルと震えている。

 

「機会はいくらでもある。 今は無理してまでやることはない!」

 

「・・・・」

 

無理するな、という木原の言葉にしばし考えていてコクッと頷いてか、黒羽はその場を走り去っていく。

 

「やれやれだぜ・・・」

 

一瞬にして消え去ったのを確認する木原。 いくら煙で周りが見えなくても彼女の力をもってすれば簡単に出口まで逃げれるだろう。

 

木原もそろそろこの騒ぎに紛れて廃ビルを後にする。 黒羽と違って特殊能力は全くないが一つの感覚が彼を導いていく。

 

その白い煙の中を何も道しるべ無く進んでいく木原。

 

「へ・・・これなら楽勝で----」

 

だが、どうしてそのに足を止めてしまったのだろう。

 

どんな時でも逃げる時は全力で逃げ、ノンストップを心がけていた彼が。

 

 

「ん?」

 

偶然だ。 偶然だった。 惚け顔のテルと木原が鉢合わせになってしまっていた。 

 

「なんでお前が・・・ッッ!?」

 

そう呟いたのは木原だった。 その発言にテルも顔をしかめる。 

 

木原は明らかに動揺していた。 まるで『居ない人が目の前にいるかのような』、幽霊でも見たかのような。

 

「なんでお前が居るんだよ!!」

 

思わず叫んでしまう木原。 テルは疑問に思いながら返していた。

 

「お前・・・どっかで会ったか?」

 

「ッッッ!?」

 

その言葉を聞いて木原はまさか・・・と驚愕の表情だ。 忘れてしまっているのかという顔だ。

 

「チィ!」

 

「あ、オイこら!!」

 

やがて木原が舌打ちするとテルの真横をそのまま走り抜ける。 テルは一度は叫ぶがその後は追っても無駄だと判断し、黙ってその背中を見続けることしかできなかった。

 

 

やがて白い煙が晴れて、二人が居なくなったことを確認して一同が騒然とした。 

 

「くっそう、逃げられたか・・・」

 

「まぁ何事もなくて良かったですけど・・・」

 

逃げられたことに悔しがるナギだが隣でハヤテが宥める。 

 

「いや」

 

隣でテルが小さく呟く。 

 

「俺はなんかあったぜ」

 

その言葉にはみんながよく分からないでいた。 

 

 

アイツは俺のことを知っているようだった。

 

 

大きな進展だ。 

 

 

「という訳でお前ら先に帰ってろよ、俺屋上に忘れ物したから」

 

「わ、分かりました・・・」

 

頷くハヤテに同意して、ヒナギクやナギも後に続いていく。

 

テルはそれを見送ると屋上へと向かっていった。

 

 

 

 

テルは帰り道を歩いていく。 その背中には伊澄がいた。 最初は嫌がっていた伊澄だがテルに

 

「お前に拒否権はない」

 

と断言されてしまい背中に乗せられてしまっている。

 

今は鷺ノ宮家まで帰る途中だ。

 

「あーだるい、どれ位だるいかっていうととんでもなくだるい・・・」

 

そんなことを言っていると伊澄が降りそうになるが慌てて冗談と言って歩き続けた。

 

「テル様・・・」

 

「ん?」

 

伊澄の言葉にテルが相槌を打つ。

 

「あ、ありがとうございました・・・」

 

「気にすんな。 ただ、もう簡単になんでもしょい込むなよ? いざとなったら高性能関西人がいるんだからな?」

 

「・・・はい」

 

戸惑いながら答える伊澄の言葉には嬉しそうな感じが混じっていた。 

これならもう大丈夫だろう。 取り敢えず一安心したテルだった。

 

 

ちなみに高性能関西人とは咲夜のことである。

 

どんなシリアスな雰囲気を作り上げても持ち前の関西パワーでその雰囲気を中和することから名づけられた。

 

 

その関西人はというと。

 

「あーはっはっはっ! なんかまだ伊澄さん達帰ってこんなぁ!」

 

お笑い番組を見ながら平和に過ごしていた。

 

 

 

「・・・・・」

 

とあるビルの屋上に黒羽と木原はいた。 無事退却をし、今はその屋上から町全体を見渡している。 

すると黒羽が珍しく口を開いた。

 

「石は・・・?」

 

「久しぶりに喋りかけたと言えばソレかよ、もうちょいまともな会話をしようぜ」

 

ふぅため息をつく木原は人間らしい会話を黒羽に求めるが、再度問い詰められて無理と悟ったか両腕を交差してジェスチャーする。

 

「チャンスはあった」

 

その一言をいう黒羽の表情はいつもと同じ無表情。 

 

「だからどうした、まさか殺してでも奪えって話なのかよ? そんな大切か石が」

 

「・・・・」

 

それを言うと黒羽は黙り込んでしまう。 木原は続けた。

 

「別に命まで取らんでも気絶させてる間に奪うっていう手もあるんだろうが」

 

失敗したのを棚に上げる訳ではないが、少しばかり口調を強める。 木原も感じていた。 この少女、黒羽には人間らしい感情が見受けられない。 その謎の力を使い、他人を傷つけることを躊躇わない。

 

まず、本当に人間なのだろうか?

 

だが黒羽は木原の言葉に全く動じることなく、いつものように無表情を通し続ける。

 それを見て小さく舌打ちすると

 

「取り敢えず、しばらくこの街に潜伏することにしよう。 そうすればあいつ等だって監視できるしな」

 

「・・・・・」

 

それを聞きうけると、黒羽は翼を広げて東京の空へと姿を消していった。

 

(あいつのあだ名は今日からミス・ポーカフェイスだ!!)

 

そう決めると前方に広がる景色を眺める。 しかし彼は少しだけその虚空を見つめた。

 

「本当にお前なのか・・・・テル」

 

その呟きは風と共に消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

その次の週。 善立 テルは元気? 良く白皇学院に登校していた。 

怪我を理由に休もうという算段だったが、なんと土日を挟んでだいぶ良くなってしまい(それでもまだ怪我人)、休もうという野望が打ち砕かれてしまった。

 

「あー、ダルイ・・・世界よ、なぜお前は俺に対して残酷なんだ・・・」

 

一人机の上に頭だけを乗せて理不尽をつぶやくテル。 隣では休みの最中にできなかった宿題を急ピッチで片付けるハヤテの姿が。

 

「テルさん! 時間が刻々と迫ってきていますよ!? あの宿題、今日の一限目に提出なんですから!!」

 

「んなこと言われてもなぁハヤテくん、俺は今にもこのまま死んで死後の世界で新しく人生をやり直した気分だよ」

 

「口を動かすより手を動かしてください! 僕だって過去に戻りたいですよ! タイムマシンが欲しいくらいです!」

 

「机の中を覗けばあるかもな」

 

「ちょっとあなたたち、あの宿題終わってないの?」

 

絶望を感じている二人の間に現れたのはヒナギクとナギだ。

 

「あんなの数分あれば終わる」

 

「あり得ない。 お前らの頭はどうなってるんだ? 改造でもされたのか? どこだ? どこの組織だ?ショッカー?」

 

物凄いだるそうな表情のテルは鉛筆を手に持つ気力すらないらしい、持っては机をころがし、持っては転がす・・それを繰り返していた。

 

とそこへ・・・

 

 

「ヒナちゃーん!」

 

「ノートを!」

 

「見せてー!」

 

「却下ッッ!!!」

 

この話では初登場となる生徒会三人組、泉と美希、理沙が現れた。

しかしヒナギクはその三人の明らかに手抜きを見て習いバッサリと切り捨てた。

 

さらに・・・

 

「うわー! 唯子先輩と王華 千里が喧嘩でこっちまで来たぞーーー!!」

 

一人の生徒が叫ぶ。 その瞬間、両側のドアを蹴破って千里と唯子が入ってきた。

 

「待たぬか貴様ァァァ!! もう一度言ってみろォォォ!!」

 

「ハッハッハッハ! 何度でも言ってやるぞ木偶の坊! 貴様のようなキャラは使いにくいから最後の方でしか一生使われないとな!!」

 

「ふざけるなァァァァ!! キングである俺様がこれ以上の侮辱を受けるとは、貴様八つ裂きにしてくれる!!」

 

「望むところだ陶片僕。 口から2リットルの血を吐き出させてやろう!」

 

千里は飛びかかりながら、唯子は竹刀を構えながら応戦。 朝っぱらから、この2年生たちは何やってるんだろう・・・そう思えてならないハヤテのクラスだった。

 

「ああーもうっ! 朝から騒ぐんじゃなぁぁぁぁぁぁい!!」

 

ヒナギクが叫びながら喧嘩を止めるように呼び止めるが、二人は聞く耳持たずといったところであり、戦闘はさらに激化。 ほかの生徒も巻き添えを食らう。

 

「おっ! 喧嘩か? いいねいいね、青春だね! 先生も混ぜろーーー!!」

 

「ギャーーーー! 雪路も暴れてきたぞーーー!!」

 

更に雪路も加わり、教室内はカオス状態に・・・

 

「俺様キャラなんて古いのだよ! いい加減目を覚ましたらどうだ!? そんな事だから友達ができなのだ!!」

 

「貴様、これ以上の無礼は許さん! キングは一人、この俺だッッ!!」

 

もうこいつらは気が済むまでやらせないと事態の収拾はつかない、アレ、今正宗を持ったヒナギクが突っ込んでいったぞ。 なら後数分と言った所だ。

 

とその喧騒を物ともせず惰眠を貪ろうとしていたテルだったが、千里の投げた机がテルに直撃。

 

「・・・もう勘弁してくれ」

 

遠のく意識の中、テルはそんなことを呟いていたのだった。

 

 

 

 







後書き
テルと木原は別にホモじゃないよ。そしてテルと伊澄にまさかのフラグが立っちまった、どうしよう。 


次回は1,2話くらい日常パートやってヒナ祭り篇に入ります。

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