ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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第45話~宇宙一馬鹿な執事~

「酸素……だと?」

 

 

「そうだ。 普通に俺達の周りにある酸素だ」

 

ナギ達のいる廃ビルでは異様な光景が広がっていた。

 

 

大の字に倒れているのは紛れもなくハヤテだ。 トラックに跳ねられても、洗剤入り料理を食べても無事だったハヤテがだ。

 

 

「お、おい! ハヤテ、しっかりしろ!!」

 

今まで見たことのないハヤテの姿にナギは驚くばかりだ。

 

 

「酸素は俺達が生きていくには必要不可欠……しかし、使い方次第では…人体にこれほど有毒ッッ」

 

 

木原が勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

 

「一つだけ豆知識を教えよう……」

 

 

―人間の体はとても不思議な物であり、酸素を取り込まないと生きていけない。

しかし大気中にある酸素濃度が6パーセントを下回った時、コレを吸い込んだ人間は意識を失うッッ。

 

「俺はこの手のひらに濃度6パーセント以下の酸素を集め、コイツに吸わせた……」

 

大の字に倒れているハヤテを見下ろしながら木原は続ける。

 

「まともに食らったんだ。半日は起き上がってこれねぇ・・・」

 

「だ、だが掌で作った大気を別の大気と混ざらせないように相手に吸わせるなんて・・・」

 

頭のいいナギ。 その点に対してはすぐに疑問が上がった。

 

たとえ掌で毒の大気を作ったとしても、その大気に大気中の酸素が混ざってしまっては意味がないのだ。

 

不純物を混ぜずに相手に与える技にしてはとてもリスクが高い。

 

「だが俺は克服した」

 

ナギの疑問に打ち消すように木原が答えた。

 

「それでこそ、自身を発狂寸前までに追い込むほどの修行だったがな・・・」

 

その右手を見つめる木原。 技ひとつ磨くのに対しても、武人は自身を発狂寸前に、自分の気がくるってしまうほどまでに荒行に励むという。

 

彼も若いとは言えそれを体験したのだろう。

 

「しかしアレだな、毒が『酸素だ』と言っておきながらその実態はただの『酸欠』なんだな・・・」

 

「そこには突っ込まないでいただきたいね・・・」

 

ナギの言葉に咳払いをする木原。

 

「だけど、動けない相手をどうするか、ここ重要」

 

途端に木原の顔に笑みが宿った。

 

「動けない相手を生かすも殺すも俺しだいだ・・・」

 

「ま、待て!!」

 

ハヤテに近づこうとした木原の前にナギが両手を広げて立ちはだかる。

 

「へっ・・・なんのつもりだよ?」

 

「主は執事の身を守るという義務がある! お前にハヤテは傷つけさせない!!」

 

それを見た木原は

 

「・・・ハァ!?」

 

頭を掻きむしゃりながら声を上げた。

 

「いや、なにも俺は----」

 

木原が何かを言おうとした時だった。

 

「ナギ! 下がっててッッ!!」

 

突如、ナギの耳に聞きなれた声が聞こえた。

 

その人物は木原の真横に現れると横腹目がけて長物一閃。

 

バキッと音を立てて木原は地面を転がった。

 

「怪我はなかった?ナギ」

 

「ひ、ヒナギクなのか?」

 

そこにいたのは紛れもない白皇の生徒会長、桂 ヒナギクだった。

 

 

 

 

一方で屋上にてただ一人だけ立ち尽くしている人物が一人。

 

背は160あるぐらいか、黒衣のローブに身を包んで黒い長髪の少女、黒羽である。

 

雨を気にしないのか、黒羽は傘をさしていなかった。 先ほどから雨も弱くなっているのでさほど必要でもないのだが。

 

「・・・・・・」

 

特にすることも無く、黒羽はその無機質な瞳で虚空を見つめ続ける。 下で何やら新しい人が来たようだが黒羽が加勢に行くようなことはなさそうだ。

 

「見つけましたよ・・・」

 

黒羽の後ろで、なにやら聞いたことのあるような声がする。

 

ふと、振り返るとそこには番傘をさした伊澄がいた。

番傘をたたむと袖から札を構える。

 

ここでもまた一つの激闘が始まるのだ。

 

 

 

「ヒナギクはなんでいるのだ?」

 

場所は戻って廃ビル内。 ナギが突然現れたヒナギクに聞いた。 ヒナギクは木刀正宗を肩に担いで答える。

 

「何でって、だいたい事情を聴いたから助けにきたのよ」

 

「お、お前・・・単身木刀一本で乗り込んでくるとか、もうお前戦国無双の世界でも行け」

 

「ちょ、それどういう意味!?」

 

ナギに意味ありげに言われたヒナギクは少しばかり口調を強めた声を出す。 

 

「ちょっとちょっと・・・なんなんですか?」

 

床に伏せていた木原が立ち上がって笑ったような声を出した。

そしてヒナギクを見て一言。

 

「スケ番じゃねーか!!」

 

カチン。 出会って数秒、ヒナギクの中で何かが切れた。

 

「あ?」

 

「のわあああああ!! 落ち着けヒナギク!! お、おいお前、前言撤回しろォォォ!!」

 

「だってお前、セーラー服に木刀って、やっくんスタイルにもほどがあるだろ!!」

 

「うわあああああ!!!」

 

頭に怒りマークを浮かべたヒナギクを見てナギは必死になって木原に先ほどの言葉を撤回するように促す。もう遅いのだが。

 

「ねぇナギ・・・あの人ってナギを誘拐した人なのかしら・・・」

 

「あ、ああそうだが・・・」

 

顔を俯かせたヒナギクの低音ボイスがナギの体を震わせる。 なんか後ろから鬼っぽいの見えるし、体から負のオーラ見えるよ、なにこの人、コワイ。

 

「本気でやってもいいのかしら? さっきは峰で吹っ飛ばしたけど、今度は刃の部分を使うわよ」

 

「殺傷沙汰は勘弁してください、マジで」

 

あまりの怖さに敬語になっていたナギである。

 

「てか、なんでそんなに怒ってんだ?」

 

ようやくヒナギクの負のオーラに気付いたのか、木原が額に汗を浮かべる。

それにヒナギクは笑顔で答えた。

 

「あら、味の利いた嫌がらせするわね? 無自覚なのかしら? それともワザとなのかしら?」

 

「待て待てヒナギク! そこで手を出したら終わりだぞ!ストップ・ザ・イジメ!」

 

「うん、それ無理♪ テルくんとハヤテくん以上にボコボコにしたい気分だから」

 

ぶんっと正宗をその場で構えて一言。

 

「というワケでそこになおれェェェーーーーッッ!!!」

 

怒声とともにヒナギクが正宗を構えて物凄いスピードで木原に斬りかかる。

 

「ちょっと待て! 俺は女と戦う気はこれっぽちもねぇ!!」

 

「女だからって舐めないでよね!!」

 

攻撃意識がないように木原はアピールするがそれは逆にヒナギクを逆撫でする結果になってしまう。

 

怒りながらも正宗が描く軌跡はしっかりと真っ直ぐでブレがない。 

 

しかし、木原もただでやられる男ではなく、その太刀筋を読んだうえでしっかりと避ける。

 

(あ、当たらないッッ!?)

 

「ホント勘弁してくれ! お前は一体何なんだよ!?」

 

避けながらそう言う木原に対してヒナギクはさらに踏み込んで答えた。

 

「白皇学院の生徒会長・・・桂 ヒナギクよ!!」

 

バシンッと正宗の峰の部分で右腕を捉える。 かすった程度だが、木原の動きを一瞬止めるには十分だった。

 

(もらった!!)

 

一瞬の隙を突いてヒナギクが正宗を振りかざす。 木原はしまったという顔で退避を試みるがもう間に合いそうにない。 

 

峰の部分を脳天目がけて振り下ろす。 木原はなりふり構っていられず左腕で翳した。

 

次の瞬間。

 

ガキンッ!!

 

「ッッッ!?」

 

ヒナギクは耳を疑った。 それもそうだろう、まさか相手の腕から金属音の音がするとは思わなかったからだ。

 

ヒナギク自身も正宗の力は十分発揮しており、ロボットだって関係ないぐらいスクラップにしてしまう戦闘力を有する。 

 

正宗も鉄をも切り裂く切れ味はもっているので相当の名刀だということは自覚していた。 峰で殴っても腕の一本は軽く折れるだろうと思ったのだが・・・

 

「あぶねっ!!」

 

「あ、しまった!!」

 

正宗で叩いた違和感に気を取られてヒナギクは木原に距離を取らせるという行動を許してしまった。

 

離れた木原は左腕を摩りながらつぶやく。

 

「こいつじゃなかったら折れてたな確実に・・・」

 

ヒナギクの一撃により、ボロボロになっていた手袋を木原は脱いだ。

 

「なっ・・・」

 

「あ、あなた・・・」

 

ナギとヒナギクが目を驚愕の表情で見る。。 その男の左腕を・・・

 

その腕は普段の人間の皮膚の色をしておらず、黒い。 いや最早人の腕ではないのだ。

 

「そ、義手なんだよ。 俺の左腕」

 

左腕だけが機械の腕だから。

 

「よほどのことがない限りはへこみもしないし、錆びることはない・・・ちょっといいところを使った奴でさ」

 

左腕を摩りながら木原は言う。 

 

「なんということだ・・・お前、人体錬成でも行ったのか?」

 

「ここでそのツッコミはどうかと思うわよナギ・・・」

 

呆れ顔でヒナギクが呟くが、木原が真剣な顔で答える。

 

「そう・・・持ってかれたのさ・・・」

 

「いや、わざわざ乗って答えなくても・・・」

 

ヒナギクも相手のおかしなボケに突っ込んでいく。 どういうことだろうと、この人はホントに悪い人間なのかと疑問を抱いてしまうほどに。

 

「じゃあ、その恐い木刀は没収だな!!」

 

まるで不意を突くかのような切り替え。 木原は姿勢を低くしたままヒナギクに接近。 ヒナギクは正宗を構えて応戦。

 

避けるだけだった木原が今度は転じて攻めに。 剣と拳の激しいぶつかり合いが始まる。

 

(ほとんど片腕でいなされてる・・・この人、武器を持った人との戦いに慣れてるッッ!!)

 

その見事なまでの対処法は、単純にヒナギクの剣戟一つ一つを鋼鉄の義手の部分で当てる、受ける、流す。 という物だった。

 

しかし、ヒナギクなどの上級者になるとそう言った防御は繊細な動作、タイミングが必要になってくる。 それを平然とやってのける木原にヒナギクはひとつの危険を感じた。

 

そしてついに。

 

「とったッ!!」

 

「くッ!!」

 

その左手に正宗が掴まれてしまう。 そして左手で刀身を捻った。

 

「し、しまった・・・!!」

 

ヒナギクが一瞬の痛みに顔をしかめる。 木原が正宗を捻ったのは簡単に言えばヒナギクの間接を痛い方向に捻って手を離させる為だ。

 

「よし、没収完了」

 

目的の物を手にしたかを確認すると、木原は正宗を遠くへ投げた。 暗闇に投げられた正宗はカランカランと床をすべる様に転がる。

 

「あ、あなた・・・一体」

 

この鮮やかな敵の武器の奪い方。 ヒナギクは疑問を抱かずには居られない。 この男の正体を・・・

 

「俺は木原 竜児・・・伊達に世界最強を目指してはいないさ」

 

笑みを浮かべながら木原がそう答える。 そして続けざまにこう言ったのだ。

 

「・・・まだやるかい?」

 

武器を奪い、明らかに戦力は逆転した。 こうする事で相手を無力化する・・・それが武器を持った人間との立ち合い方。 

 

もっとも、随分と生易しい気がするが。

 

しかし、木原は勘違いをしていた。 

 

目の前にいるのはハヤテやテルも畏怖せざるを得ない程の負けず嫌いである。

そんな彼女が『まいった』なんて言う訳が無かった。

 

「もちろん!! 来て正宗!!」

 

ヒナギクが手を翳す。 木原は何をしてるのかとヒナギクの行動を見ていたが、後にその顔は驚愕の物へと変わる。

 

そして、目を疑うような事態が起きた。

 

瞬きをしてもいない状態で、ヒナギクの手には正宗の姿があった。

 

 

「ハアァァァァーーーーーーッッ!!?」

 

木原は驚愕するばかりであった。 そこには、ワープでもしたようにヒナギクの手に正宗が現れたという事実ッッ。

 

 

「残念ね、正宗は私が呼べばどんな所からだってやってくるのよ!!」

 

どうだ、と言わんばかりのヒナギク。

 

「こ、この原作チートキャラめ! そんな武器持ったら鬼に金棒じゃねーか!!」

 

カチン。

 

「誰が鬼ですってーーーー!!?」

 

ヒナギク、本日二度目のプッツンタイム。 そしてあろう事か後ろを振り返って、倒れているハヤテに叫んだ。

 

「ちょっとハヤテ君!? なに何時まで寝てるのよ!? さっさと起きて手伝いなさい!!」

 

それを見て無駄だというように木原がヒナギクを嘲笑った。

 

「フフフ・・・無駄だぜ。 ソイツは俺の技を喰らってもう半日は動け---」

 

「ハッ!?」

 

その瞬間、ハヤテがヒナギクの呼びかけに呼応するように跳ね上がるように起きた。

もちろんソレを見て木原くん青ざめながら絶叫。

 

「エエェーーーーーーーーッッ!?」

 

ムンクのように顔を両手で押し合ってこの世のものとは思えない表情だ。

 

 

「ど、どうしてヒナギクさんがここに?」

 

眠りから覚めたハヤテが当然のようにヒナギクに聞くがヒナギクは前を向きながら答える。

 

「今はソレを議論するよりも、目の前の事件を解決することが先よハヤテ君」

 

ヒナギクの言葉に、まだふらつく体を手で叩いて渇を入れる。 それを見て木原が聞いた。

 

「ありえない木刀を使う女に、半日は起きれない毒を喰らってもたったの数分で起きる執事・・・俺は夢でも見てるのか!?」

 

「いいえ、紛れもない現実よ」

 

「悲しいけど、これって現実なんですよね・・・」

 

「畜生、なんなんだお前ら! 一体何なんだよ!!」

 

木原が怒声を飛ばすとハヤテがキランと光らせて呟いた。

 

「なんだかんだと聞かれたら・・・・」

 

「いや今もやってるけどそのネタはどうかと・・・」

 

冷静沈着なナギのツッコミ。それに代わってこたえるようにヒナギクが笑顔で言った。

 

「ん~簡単に言えば、『宇宙一バカな執事』の仲間の一味ってトコかしら?」

 

「え・・・それってまさか・・・」

 

宇宙一バカな執事という単語にハヤテが反応した。

 

 

 

 

場所は戻って屋上。 ここでも激しい戦いが繰り広げられていた。黒羽と伊澄である。

 

闘いの構図は至ってシンプルだ。 黒羽のあの伸縮自在の『黒い槍』を伊澄が結界で弾く。 

そして伊澄が反撃に札を飛ばす。

 

ほぼ伊澄が攻撃をしているという点を除けば、あの神社での闘いと変わらない。 

 

「・・・・・」

 

黒羽が黒い槍を伸ばす。 伸びた槍は一直線に伊澄の元へ。

 

「くっ・・・!!」

 

対する伊澄は結界で対応。 槍は見えない何かにぶつかって、拒絶されたかのように弾かれる。

 

実力拮抗・・・まさにそう思わせる戦いだが。

 

 

「はぁ・・はぁ・・・!!」

 

如何せん、伊澄の体調はベストではない・・・いくら互角に戦えているといってもその体力の消耗の差が明らかであった。

 

「・・・・・」

 

荒い息を吐く伊澄に対して黒羽は汗ひとつ掻いていない状況。 この女の体力は無尽蔵か。

 

「・・・・・」

 

槍をいったん戻すと右手に黒い短剣を生やして伊澄に接近。 遠距離から接近戦に切り替えたようだ。

 

 

「はっ!」

 

即座に札を構え、結果を展開。

 

ほぼ展開したと同時に短剣が衝突。

 

電気のような物が散り、短剣は弾かれた。

 

 

だがまだ油断してはいけない、そう神経を尖らせて結界をまだ解かない伊澄。

 

相手はまだそこにいるのだ。 何かしてくるかもしれない。

 

 

案の定、それは的中する。

 

 

「やはり来ますか!!」

 

「………」

 

冷徹な瞳で構えるはまたしても黒い短剣。

 

違うのは右と左の手にあるという事だ。

 

 

黒羽はタンっと勢いをつけて前に飛ぶとまるで独楽のような回転で伊澄の結界に突進。

 

 

「ぐっ……これは!」

 

まるでチェンソーで木をガリガリと削られるような感覚。

 

それは疲労している伊澄にとってボディーブローのように効いてくる。

 

 

やがて黒羽の独楽攻撃は勢いを失って止まってしまう。またしても直接ダメージを与えられなかったが。

 

「か、体が……」

 

膝を落とし、洗い息をつく伊澄。

 

それを見れば効果は充分だった。

 

 

(もう視界がはっきりしない……だけど負けたら……)

 

 

何人も見える黒羽の姿が伊澄を追い詰める。 黒羽は既に短剣を長剣へと変化させていた。

 

 

テルを刺したあの長剣だ。

 

(…悔しい、誰も護れないまま消えるなんて……)

 

 

長剣を床に引き吊りながら迫る黒羽に対して、伊澄は悔しさと無力さでいっぱいだった。

 

 

このまま自分は無抵抗のまま消えるのだ……そう思っていた。

 

 

「………」

 

振り上げていた長剣を黒羽がピタリと動きを止めていた。

 

その視線も、伊澄には向いていない。

 

遥かその後ろ……

 

 

「よぉ……」

 

昇降口から一人の男の影。

 

腰には一本の刀を携えた男はその姿を現した。

 

 

そしてその男の現れと共に、曇天の空の隙間から光が差し込んだ。

 

 

「ラウンド2開始だぜ……お嬢さん」

 

へらっと笑ったその男は伊澄がよく知る男。

 

 

 

善立 テル、意地と面子と覚悟の為、今ここに推参!








後書き
ヒナギクとハヤテ同時相手なんてマジ無理ゲー。

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