ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
弱まりそうのない雨道を、善立 テルは歩いていた。 決意と武器を渡された彼が向かうのはナギが誘拐されたとされるその場所。
その場所は情報屋のバルトが大いに役に立ってくれた。 さすがもとスパイというべきか、短時間で情報を集めてくれたため、粗方の場所を特定することに成功している。
あとはその場所に向かうだけなのだが・・・
「あ~! テルくんだ! おーい!」
突如、背後からの声にテルは振り向く。 そこには傘をさした見知った女子がいた。
「なんだ、ジミーか」
「じ、ジミーとはなにかな? 歩だよ歩!? まさかこの短期間で私の名前を忘れたとか言うんじゃないよね!?」
「冗談冗談、んで? お前は何をしてんの?」
その言葉に歩はハッ! と気づくとポケットから何かを取り出す。
「実は今日はたい焼きが安い日だったんだよ! 場所は隣町だけどそこは気力でカバーした」
そういいながら歩はたい焼きを食べ始める。物凄い笑顔で。 テルはそれを見ると大きくため息をついた。
「うん、君は平和だなジミー君。 君はまるで別の世界にいる人間のようだ・・・んじゃ」
「ま、待ってくれないかな!?」
「ぐえっ!」
去ろうとしたテルの襟首を歩ががっしりと掴む。 そのせいで一瞬呼吸が止まったテルである。
「とても気になる台詞を吐いていくね? どうしてなのかな?」
「どうにもこうにも、お前は世界をものともしない最強の普通の女子高生だ。と思ったほどだ」
「さ、最強!? でも普通なんだよね? でも最強なんだよね? アレ!? 最強で普通で普通で最強で・・・アレ!?」
「うん、そうやって考えていてくれジミー」
今度こそその場を去ろうとしたテルだが・・・
「ヘイ、ストップ!!」
ガシッと首を掴まれてしまった。
「だからなんだっつーの!!」
そう言うテルに対して、歩は差し出したのはたい焼きだ。
「はいこれ」
「あん?」
「なにやらお困りのようだから素直に上げようかと・・・」
その一個のたい焼きを見つめると、黙ってテルはそれを受け取る。 そして一言。
「別にもらったからってお前の家来にはならないぞ。 あと、これじゃ足りないからもう一個」
「別に桃太郎の話を意識してないよ!? あと、さりげなくもう一個追加しないでほしいかな!?」
仕方なく、歩がもう一個渡そうと近寄った時。
「あれ?」
「む?」
二人同時に感じたことである。 歩がつまずいてしまってテルに向かって倒れこんできた。
ここからの一連の内容は、わずか一秒あるかないかの世界で行われたものである。
(アレ? なぜか前のめりに倒れちゃってるよ私・・・アレ? でもこのままだと計算すれば確実にテル君にもたれかかるようになっちゃうんじゃないかな?)
徐々に近づいていく二人の距離。 テルもぼーっとしてるせいか、反応できないでいる。
(でも避けられちゃったら私が地面に倒れることになるよね? それは嫌だけど出来ればそういうのはハヤテくんに受け止めて貰いたい・・・・・・だからッッ!!)
そして彼女の決断した行動はこれだ!!
「だっ・・・・」
前に倒れこむと同時につまずいている足とは逆の足を前にだして地面を踏ん張る。 そして・・・・
「シャァーーーーーーーーーッッ!!」
ズドッ! と勢いを利用したその右ストレートははテルの腹部打にち上げる形で見事直撃した。
「ぶっ・・・」
最初はまるで神経が通っていなかったのように平然としていたテルだが、次第にじわりと効いてきたらしく・・・
「ギャァアアアアアアア!!!」
カッ! と目を見開いて血を吐き出した。
「うわぁぁぁ!! テル君が血を吐き出したよぉぉぉ!!?」
突如のテルの吐血に歩は慌てる。 しかしテルは手を翳して制した。
「お、お前違うからな? これ・・・な? 朝飲んできたトマトジュースだ・・・てゴバァッ!!」
平然を装って苦笑いでアピールするがまたしても吐血。
「のわぁぁぁぁぁ! 私の拳が致命傷に!?私ボクサーデビューできるかも!?」
「気にするところそこかよォォォ!?お前がデビューする前にオレが先に天国デビューするわッッ!」
重症に重傷を重ねられ、もはやテルは戦う前からボロボロだった。
「・・・じゃあそれはトマトジュースだってことでいいんだよね?」
「ああ、そうだ・・・そしてお前は家へ帰る途中で、お前は『何も見なかった』!!」
ボロボロの体で歩を指差すテル。歩は敬礼するように手を構えた。
「りょ、了解であります!!」
とお互いに了解した所で歩は走ってその場を去っていく。 テルは空を仰いで叫んだ。
「オデノカラダハボドボドダァー!!!」
なぜにここでオンドゥル語なのか、あまり突っ込まないでいただきたい。 そして、テルはポケットから携帯を取り出す。 めんどくさそうにボタンを押していき、電話をかけた。
「おう、俺だ。 ちょっとお前、俺の危機を助けるために手伝ってくんね?」
○
そして場所は変わって廃ビル内。 その場所ではハヤテと木原が対峙している。その場所で激しい戦いが始まろうとしていた・・・ハズだった。
「あ、ちょっと待って」
「へ?」
突如の待ったにキョトンとするハヤテ。 相手の木原が片手を翳していたのだ。
「コーヒーが残ってんだ。 これ飲ませて・・・」
「は、はぁ・・・」
出鼻をくじかれ、取り敢えず木原が飲み終えるのを待つ。 片手で持っていたコーヒーを思いっきり飲み尽くす。
「ぷはぁ・・・カフェインはいいな」
コーヒーのうまさに肩を震わせながら木原が笑みを浮かべながら立ち尽くす。
「コイツはバカなのか?」
「緊張感の欠片もありませんね・・・」
ナギとハヤテがグダグダ感を否めない中、木原がふぅとため息をついて続ける。
「誰かさんが投げたコーヒーだ。 どうしようとオレの勝手、しかし地球にエコを心がけていないのはいただけない」
「なんか地球環境規模で語り始めたぞ」
「実はイイ人ですかね?」
なかなか奇妙な光景だな・・・とハヤテが考えていた瞬間。
ヒュン!
「え・・・?」
ハヤテの顔面に何かが投げつけられる。 先ほどの空き缶だ。 それを掴もうとした時であった。
「ハヤテ!」
ナギの声が飛ぶ。 だがそれに気づくにはあまりにも遅すぎた。
既に真横には大きく腕を振るう木原の姿があった。
「シュッ!!」
まるでボクサーのようにステップを利かせた右ブローがハヤテの腹部に炸裂した。
「がはっ!」
身を貫いたような激痛が腹部を襲う。 木原というと打ち込んだ瞬間にバックステップでハヤテとの距離をとる。 この一連の流れはやはりボクサーだ。
「おまえ! 卑怯だぞ!!」
ナギが後ろで抗議の声。 しかし木原は頭にクエスチョンマークを浮かべて返した。
「バカめ、これはスポーツじゃねぇんだ。 ルールなし、助けなしの喧嘩よ」
行った行為にまるで悪びれる様子もなく、木原は構えてハヤテに突っ込む。
「大丈夫ですよお嬢様・・・」
腹部の痛みを押さえながらハヤテが構えた。 先ほどとは全く違う真剣な表情だ。
「三千院家の執事は・・・」
「ヒュッ!」
左右に揺れながら迫る木原の右拳がハヤテの顔面に迫ってきたがその右腕の軌道をずらすように右足の蹴り。
軌道を見事にずらされた拳は当たることなく空を切る。
「この程度では負けませんッッ!!」
ハヤテは今度は左足で木原の顔面に突っ張るようなキックを打ち込んだ。
「ごっ・・・・!!」
当たった場所が顔だったこともあったか、スピードも利いてた分、反動で吹っ飛んだ。
(や、やはりハヤテはカッコイイな・・・)
ナギにとって今更分かったことではないが、とナギは感嘆する。 蹴りを決めた際にナギに向けた笑顔にまたナギは胸を打たれたのだ。
「いたたたた・・・」
地面を転がっていた木原がムクリと体を起こした。 起きたと思うと、突然笑い出す。
「いいね、いいねいいね! 嫌いじゃねェぜェそういうのさぁ!!」
再び構える木原。 しかし、ハヤテは疑問を浮かべた。
「さっきと違う・・・だと」
その構えは先ほどと大差ないがハヤテには分かる。 ボクサーの握りではない、握っていた手は軽く開かれている。 まるで柔道の構えだ。
「ほっ」
と、木原が素早くハヤテの懐に接近。 そのままハヤテを掴もうとしてきた。
「くっ!!」
ハヤテもただやられるだけでは無く、掴みかかる腕を先ほどと同じように足で裁こうとしたが。
「甘ェッッ!!」
パシンッ!
と右手と左手で受け流され、逆に隙を作ってしまった。
力強い握力で執事服の袖と胸倉を掴まれる。
(ま・・マズイッ!!)
この態勢にハヤテはどうしようもない危険を察知する。 何とかして振りほどこうとするが、ほどけない。
「どっせぇぇぇぇえい!!」
ぶん。 と木原が掴んでいた状態から素早く切り返し、ハヤテを投げた。 見事な一本背負いである。
「がはっ!!」
ハヤテの体が地面に打ち付けられる。 下はコンクリだ。 受け身が取れない。 受けるダメージは必然と高い。
だがハヤテも人外を超えた防御力を持っている。 ダメージが高くても一発KOとまではいかなかった。
「URYYYYYYYYY!!!」
しかし、木原はまったく動揺することなく某吸血鬼のような雄たけびを上げながら追い打ちを仕掛ける。
今度は空中へ飛び、体をグルグルン回転させてハヤテの顔面向けて踵落とし。
これはマズイと思ったか、ハヤテは床を転がってそれを回避。 勢いついた踵落としはハヤテに当たることなく地面に打ち込まれた。
「チッ・・・」
外れたことに小さく舌打ちして素早く木原が距離をとる。
危機的回避をみせたハヤテ。 しかし追い詰められていることには変わりない。
(まるで掴みようのない攻撃方法、隙がない戦法だ。 色んなジャンルの格闘が混ざってるッッ!!)
縦横無尽に攻撃方法を変え、隙を作らないような距離の作り方。 先ほどの踵落としの動きもまるで中国のカンフーにも使われてそうだ。
相手はおそらく、多くの格闘技を習っているのだろう。 しかも全てのレベルが高い。
「なかなか頑丈な奴じゃねぇーか。 アンタは鉄ででも出来てるんですかー?」
敵である木原もここまで攻めながらもハヤテのしぶとさに疑問を抱いていた。
最初の一撃のパンチもその一発で終わらせるつもりだった。 しかし相手は怯むどころか見事な反撃を与えてきた。
「どうなのよ・・・実際?」
その真実を問うや否やハヤテは胸を張って言い放った。
「鍛えてますから・・・」
まるで平成ライダーの一人のようなセリフを放つハヤテ。 そして今度はハヤテが仕掛ける。
「行きますよ!!」
タンッとステップを踏みこみ、目にもとまらぬスピードで接近した。
(あれ? 消えた・・・)
率直な感想。 木原も仰天していた。 小さなステップを踏んだ瞬間、ハヤテの姿が消えたのだ。
これがハヤテの絶対的強みともいえるスキル・・・それは速さ。
木原が瞬きをした瞬間、眼前にハヤテが現れる。 しかも宙に浮いたままだ。
「これが綾崎家の奥義・・・・」
「へ?」
ハヤテは両足で木原の首部分をしっかりとホールド。 木原もこの行動にまずいものを感じた。しかし時すでに遅し、脱出不可能。
「木の葉落としィィィーーーーーーッッ!!」
ホールドした状態からハヤテが体全体を捻る。 木原も危険を察知し、ハヤテの動きに合わせて体を捻られる方向へ浮かす。 そうした結果、木原は顔面から地面に激突した。
「ふぅ・・・」
素早く距離をとったハヤテが安堵の息をつく。
「ふぅ・・・じゃない。 なんだ木の葉落としって・・・」
「僕の考えた必殺技です。 なかなかの威力でしょ?」
笑顔で答えるハヤテは親指まで立てて見せつける。
「いやいや、アレ木の葉落としじゃないから関係ないから・・・アレただのプロレスと大差ないから」
ナギの冷静なツッコミにハヤテは笑うばかりである。
「オオオ・・・首と顔面が・・」
埋まっていた顔を持ち上げると、木原は顔についているその汚れを払った。 これにはハヤテやナギも驚いていた。
「まさか・・・アレをくらっても倒れないとは・・・」
「アイツこそ鉄でできてるんじゃないか?」
実際ハヤテが仕掛けた技、木の葉落とし(ハヤテ命名)の時に咄嗟の判断で木原は体をハヤテが捻る方向に合わせて体を浮かせていた。 これが功を奏し、顔面だけのダメージで済んだのである。
もし木原がタイミングを合わせて体を捻らなければ、首はへし折られていただろう。
「イタタタ・・・顔に似合わず、えげつない技使うのねホント・・・」
首をさすりながら木原が呟く。
「だったら俺も似たような技を使ってやろうじゃねぇの・・・・」
木原がそう言い終えると、木原は立ち上がって構える動作に入った。
「・・・・?」
ハヤテが目を疑った。 構えに入ったのはいいだろう。 しかし、木原の構え方が妙だ。
まるで体全体から力を感じないかのような状態。 両手はだらんとして、顔も若干力が抜けている。
(な、なんだ?)
ハヤテは相手の謎の行動に緊張感を感じていた。
「問題・・・」
木原が突然呟く。
「この世で人体にとって最も有毒なガスはなんだと思う?」
「え?」
刹那。 一瞬の間に木原がハヤテの顔面に蹴り上げた砂をぶつけてくる。 ハヤテは防御するがその時に巻き上がった砂煙で視界を失ってしまった。 そしてこれが大きな隙。
ぱちん。
と、ハヤテの口と鼻を覆うように木原の平手打ちが決まる。これがなんなんだと思っていたナギだが、次の瞬間にハヤテの体が大きく揺れるのを見て目を疑った。
「・・・・・・」
ハヤテは視界が定まらないのか、足元が覚束無い。 そして大きく地面に・・・・・倒れた。
大の字に倒れたハヤテを見下ろして、木原が呟く。
「はい、時間切れの不正解だ。 ついでに答え合わせを言うとだな・・・」
肩を鳴らして、少しばかり笑みを浮かべながら一言。
「答えは『酸素』・・・分かった時にはもう遅い・・・」
後書き
元ネタは言わずともしれた某格闘漫画の毒手の人。 主人公をそれで倒したけど公園最強の生物に簡単に負けた人。