ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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第43話~人を見かけで判断しない~

「はい注目ーーー!!」

 

『3人』しかいないその道場にて女性が大きなボードをばんっと叩く。

 

「今回は人体の効率の良い破壊の仕方を教えるよ~?」

 

「先生、軽い気持ちで人体壊されたら溜まりません。 できればもう少し雰囲気だしてくださ~い」

 

テルが眠そうに、そしてダルそうに先生と呼ばれる人物に手を上げて要求。 

 

「そうねぇ・・・今回は人体の効率の良い破壊の仕方を『お前たち』に享受してやる。 まずは顎をのどを切り裂き、目を抉り、肋骨を破壊し中の臓器を・・・・」」

 

「おーい、怖くすればいいってもんじゃねぇぞぉー」

 

テルが静かにツッコムが女性は頭を手にやり、フゥ、とため息をつく。

 

「どこまでレベルを落とせばいいのかしら・・・やれやれだぜ」

 

「こっちがやれやれだよ」

 

授業なのにこのグダグダ感。 女性は竹刀を構えて不満を言い始める。

 

「だーったら、アンタらが門下生連れてくればいいじゃない。 いまやこの道場は門下生が二人なのよ?」

 

「先生、隣の奴はすでに受ける気力ゼロです」

 

テルは隣でスースーと静かに寝息を立てる同じ少年のことを指差した。

すると女性は持っていた竹刀を机にバシンッと叩きつける。

 

「よぉ~く聞けや小僧ども!!」

 

その怒声にたたき起こされたかテルの隣の少年が素早く上体を起こす。

少しばかり間を開けてから女性は口を開いた。

 

「・・・この世界に生まれたからには色々な事を知って生きていかなきゃいけない。 でもアンタたちはまだ子供だから、誰かが教える役を担ってやらなきゃいけない・・・私もできる限りのことは教えるわ」

 

今までよりも一番真剣な顔で女性は続けた。

 

「いつかはアンタたちが自分の意志で自分の道を歩いて行けるように・・・」

 

笑顔で言うとその手にある竹刀を肩に担ぎ、テルたちに言った。

 

「最初に教えることは-----」

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

目を覚ますと最初に天井が視界に入った。 辺りは薄暗く、雨音がザーッと聞こえてくる。

 

「・・・たこ焼きがなんやっちゅうねん・・・」

 

小さな呟きが聞こえたかと思うとテルの側にはうっつらうっつらと寝言を言う咲夜がいた。

 

(なるほど・・・看病してくれてたのか)

 

体に巻かれた包帯を見てみる。 上半身は痛みが走る所を見ると重症らしい。

 

「・・・うん? おお! 起きたか!!」

 

テルが起きていたことに気付いたか、咲夜が笑顔を浮かべる。 

 

「なんとか命は助かったようだな・・・あの黒髪野郎は?」

 

頭を掻きながらテルは咲夜に聞く。 咲夜はあの後の事を全て話した。

 

「・・・なるほどな。 体制を整えに戻ったというところか」

 

ぬく、とテルは身を起こして立ち上がろうとしたのを見て、咲夜が慌てて止めに入る。

 

「何してるんやテル!? 寝てなきゃあかん!」

 

「電話を聞いていたところ、他にも仲間がいる可能性がある。 『石』がどうだのなんだの言ってた・・・」

 

「なんか心当たりあるんか?」

 

咲夜がテルに聞くが、テルは首を振った。

 

「いや、さっぱりだわ・・・」

 

「わからんのかい!!」

 

咲夜がビシッと突っ込んだところ、テルが顔をしかめながら呟いた。

 

「なんかな・・・胸騒ぎがする」

 

「何を言うて・・・ん?」

 

聞こうとしたところで咲夜の携帯が鳴る。 咲夜は席を外し、その電話を聞いて何やら驚いた声を出している。

 

再び戻ってくると咲夜は慌てながら一言。

 

「ナギがまたさらわれたで!!」

 

その言葉を聞いてテルはまたか、と頭を押さえる。 

 

「まさか・・・あいつ等がやったのか?」

 

そう推測することは容易いが、確実にあの黒髪の少女が絡んでいるという可能性はない。 ただ何となくだ。 その可能性がテルの頭から離れない。

 

「そう判断するのはまだ早いで・・・とにかくアンタのやることは傷を早く治すことや」

 

「オイオイ冗談じゃねーぜ・・・これ以上職務放棄したらオレの給料が----」

 

ズドンッッ!

 

「・・・・・」

 

テルが立ち上がろうとした時、テルの顔の真横に槍が突き刺さった。

 

「アンタに動かれたら困るんや、マリアさんに言われてるからな」

 

「なんて?」

 

恐る恐るテルが聞くと咲夜は笑顔で返した。

 

「『無理させずに一歩もそこから動かさないで下いね?場合によっては実力行使で止めに入っても構いません』ってなぁ!!」

 

そして咲夜はどっから持ってきたのか分からないがその手には巨大なドリルが握られていた。

 

「お前実力行使って・・・何を止めるの? 俺の息の根?」

 

額に冷や汗を浮かべるテル。 咲夜はドリルを稼働させながらテルの眼前に構える。

 

「ナギのことは大丈夫や。 ナギに関しても大丈夫や、ハヤテもおるしな」

 

「この野郎、スペックの差に物を言わせやがって・・・・」

 

テルがそう呟いたとき、咲夜がドリルを止めていった。

 

「これは伊澄さんからも言われてるんや・・・」

 

「あ?」

 

ピクリと反応したテルだが、咲夜がそのまま続ける。

 

咲夜の話を聞いたところ、今は伊澄は眠っているとのことだが、テルの体が落ち着くまではずっと泣きながら謝っていたようだ。

 

---ごめんなさい、と。

 

 

「・・・・・」

 

「ウチも怖かったんや、あの時のテルはホンマに死んでしまうんやないかって不安だったんやで・・・」

 

その言葉を聞くと、テルは黙り込んでしまう。

 

「アンタが死んでまったら、ハヤテが悲しむ、ナギも悲しむ、ワタルも悲しむ・・・伊澄さんだって」

 

「わ、分かった分かった!! もう何も言わねぇよ!! どこにも行かねぇから!!」

 

そう言い終えると、咲夜も自然と笑顔を取り戻す。 少しだけ笑うと立ち上がり

 

「そんなら、もう心配あらへんな・・・んじゃ、ええ子にしとるんやで?」

 

「お前オレを小学生かなんかと勘違いしてるだろ!? んなことよりジャンプ買ってこいジャンプ!! 」

 

「はいはい、ジャンプでもサンデーでも買ってくるさかい」

 

「言っとくけどなァ、間違って赤丸とかスーパーの方を買ってくんなよ!! 母ちゃんみてぇな間違いすなよな!?」

 

怒鳴りながら要求を言い渡したテルを見て咲夜は笑いながら障子を静かに閉じてその場を去っていく。

 

「・・・・・」

 

廊下が軋む音が遠ざかっていくのを確認してテルは被っていた布団をどかした。

 

「すまねぇな・・・」

 

「フン、結局行くつもりだったんじゃな・・・」

 

スッと立ち上がろうとした時、幼い声が聞こえた。テルが天井を見ると、仮面をつけた白い着物の人らしきものがぶら下がっていた。

 

「・・・ずっと居たんだろ」

 

「ほう、気づいておったのか・・・」

 

ケケケと笑うと小さい白い着物が畳の上に降りてきた。

 

「お前が寝ている間に伊澄は先に行ってしまったぞ? もっとも、ワシが最初に気付いた時には既にいなかったのじゃがな」

 

仮面から聞こえる薄ら笑いにいささかイラッと来るものがあったテルだが、ため息をついてそのイライラを押し殺す。

 

「あの野郎目、やっぱり行きやがったか・・・」

 

「分かっていたのか?」

 

「アイツがあり得ないほど負けず嫌いなのは知ってんだろ?」

 

頭を掻きながら確認するように聞き返す。 仮面の人物は首を縦に振った。

 

「誰に似たんだか気になるがの・・・しかしお前、本当に行くつもりなのか?」

 

今度は仮面が聞く。テルは当然のように返した。

 

「当たりめぇーだろ」

 

テルはさらに続ける。

 

「俺がこうしている間にもアイツは・・・伊澄はまた抱え込んじまってるかもしれねぇ、無茶するかもしれねぇ。 俺はよぉ、この手で救える人間が目の前にいるなら手を差し出さずにはいられねぇんだよ・・・」

 

「ふーむ。 お人よしというかなんというか・・・」

 

仮面は少し考えてフッと笑った。

 

「分かった。 ならお前に良いものくれてやる。 この鷺ノ宮 銀華からの贈り物じゃ」

 

そういって銀華と名乗る人物は袖から一本の得物を渡される。

 

黒い鞘に金色の鍔。 まぎれもない真剣のものだった。

 

「またパチモンとかじゃねーよな?」

 

一瞬、折られた撃鉄の件もあり、こう言ったものには少しばかり抵抗のあるテル。 銀華は少しばかり唸って説明。

 

「これは紛れもなく鷺ノ宮の霊剣。 名は無いが得体のしれない連中と戦うには普通の刀じゃ勝てんよ」

 

取り敢えず分かったことはこの刀は高性能ということだ。

 

「やっぱり昨日俺らが襲われた奴が絡んでるのか?」

 

テルの問いに、銀華は小さく笑う。

 

「恐らくはじゃがな。 気を感じてはおるがワシも伊澄より霊力があるわけではないのじゃからの」

 

腕を組んだまま言い放つと

 

「取り敢えず、かわいい孫娘を頼んだぞ」

 

そう言い残して去っていった。

 

最後一人になったテルは渡された刀を持ってひとり呟く。今までのようなただの鉄の塊とは違い、ずっしりとした重みが伝わる。

 

「任せろ」

 

決意を秘め、テルは玄関へと向かった。 上半身は包帯だけ、下半身は執事服のものだがまず上をどうするか、と考えていた時、玄関に自分の執事服が置かれていることが分かった。

 

「・・・・」

 

そしてその横に添えるように置手紙と傘が一通。

 

書かれていた内容はこうだった。

 

---アホテルへ。 一応ウチのお気に入りの傘や、壊したら承知しないで!!

 

 

「・・・・参ったな」

 

その手紙を握りつぶすと傘を広げて雨の道を歩き出す。 そして心の中でこう呟くのだ。

 

(バカな女・・・)

 

 

 

「・・・・」

 

鷺ノ宮家の別室の窓から咲夜は、雨の中を傘をさして歩くテルの姿を眺めていた。

 

「マリアさんの言うとおりだったわ・・・」

 

『でもテル君は無茶してでも仕事に戻ると思うんですが、その時はテル君の意地なんで止めないでやってください』

 

これがマリアからの電話の続き。 ここまでする人間だっただろうか。 ここまで片意地を通して命をかけてくものだろうか。 

 

多分それは違うだろう。 意地もあるだろうが、これが彼の、善立 テルが決めたルールなのだ。

 

咲夜から言わせればここまで面倒くさい男だろう。 

 

(だけど、伊澄さんが気になってしまうのも分かる気がするなぁ・・・・でもホンマに)

 

そして心の中で細めながらテルを眺めて呟く。

 

(バカな男や・・・)

 

 

 

 

「ここは・・・どこだ?」

 

 

場所は変わり、ここは薄暗い建物の中。 ソファーには誘拐されたナギは目を覚ました。 誘拐されたというのに手足にはロープは結ばれておらず、体の自由は利いていた。

 

天井に穴が開いており、そこから水が降っていたので、外が雨だと言うのが分かった。

 

「くそう・・・幸子に騙された」

 

自分のこの状況を見て、悔しそうにあざ笑う幸子の姿が脳裏に浮かぶ。  そして横たわっていた体を起こした時、一人の男が現れる。

 

「ん? なんだ、起きたのか」

 

そう言う男はナギの近くに寄るが、ナギはその顔を見て絶句した。

 

まずは顔である。 特徴的な三白眼作り出す目つきの悪さがどう見てもヤンキー、ヤクザをイメージさせる。 なんだかいつも機嫌が悪そうな。というのを一目で分からせる。

 

(や、ヤバイ・・・めっちゃくちゃ怖いんだけど! あれ明らかに極悪人ではないのか?)

 

「なんだよ。 人を化け物みたいに・・・」

 

と彼が一歩近づくたびに

 

ズリ・・・

 

ナギが一歩横にずれる。 彼から距離を置くように。

 

「・・・・・」

 

スッ・・・

 

一歩。

 

「・・・・」

 

真横にまた一歩。

 

「「・・・・・・」」

 

ナギが冷や汗を浮かべながら男の方を見る。 誘拐とかには慣れていたので、そういった強面にも慣れているのだが今回はいかんせん。 普通の不良とはまた違うというイメージがあるので、ほんとに食われるのではないかと思っていた。

 

「・・・・」

 

しかし、意外なことに男の方はガクッと膝をついてorzしていた。

 

「な、なんだよ・・・」

 

ホントにどうしたとナギが恐る恐る尋ねて、男が顔を上げる。 表情は少しばかり沈んでいた。

 

「なんだってお前ら・・・顔で人を判断するんだよ」

 

「はっ!?」

 

「俺だってヤクザでも不良でもないんだぞ!! 窃盗なんてこのかた、ましてや煙草だってやってねぇのによ!!」

 

「でも誘拐はするんだな」

 

「うっ!!」

 

シャウトする男にナギが冷ややかなツッコミを入れる。 痛いところを突かれたらしい。

 

「だ、だけど俺は優しい! 誘拐犯だったらお前を縛ったりして動かさせないでいるだろうからな! それをしてない、毛布までかけてある!うん、俺は優しい!!」

 

「まぁ確かに、銃とかロープを使わないでいたのは私に対する礼儀だと受け取る。いままでの奴らに以上になかなか気の利いた奴だ。 そこは評価してやる」

 

「だろ? だろ?」

 

ナギが腕を組みながら言うと、途端に男の口調が明るくなる。しかしナギは続けて言い放った。

 

「だが誘拐は誘拐だ」

 

「ノオオオオオオオオオオオウ!!!」

 

男は頭を抱えて叫んだ。

 

「それにお前は人質に対する礼儀がまだなっとらん。 取り敢えず紅茶だ紅茶、紅茶を買ってこい」

 

「な、今度はオレをパシリに使う気か!?」

 

「それができなきゃ私はお前を一生誘拐犯と言い続けるぞ? それでもいいのか・・・」

 

薄ら笑いを浮かべると男は顔をしかめた。 そして仕方がないといった感じで出口へと向かう。

 

「分かったよ。 紅茶だな? 紅茶をご所望してるんだな?」

 

「ああそうだ。 ていうかここはどこだ?」

 

辺りを見回しながらナギ聞くと、男は普通に返す。

 

「ここは廃ビルだ。 あまり人目に付くことがなさそうだからここを選んでみた」

 

「うん、分かった。とりあえず行け、犬」

 

「ぐほっ・・お前、一応人質だろうに・・・あと俺は木原竜児(きはら りゅうじ)という名前が・・・」

 

そう言い放ってもナギは受け流すように一言。

 

「そうか、行け木原犬」

 

「だあぁぁぁぁぁ!!」

 

耐え切れなかったか、木原は叫びながら走っていった。

 

(暇だな・・・寝るか)

 

特にすることもなくなったナギはまたしても夢の中へ・・・とも行かなかった。

 

「コラ、買ってきたぞ」

 

「げ! 早ッ!?」

 

ちょうど目を閉じたと思ったときに木原の声が聞こえた。 思わず飛び上がってしまったナギである。

 

「ホレ」

 

ポイッとその缶を投げ渡す木原。 ナギは納得がいかない様な顔をしていたがまぁ仕方ないといった感じで缶を開ける。

 

「まぁ迅速な動きで主の要望にこたえれるとは大したものだ。 その従順さ、まさに犬といわざるを得んな」

 

「結局オレは犬のままだってのか!?」

 

ずっこけながら突っ込む木原。 この光景を見る限り、とても誘拐の現場だとは思えない。

 

「ん? なんで片方だけ手袋をしているんだ?」

 

ナギが気になったのは木原の左手。 真っ黒な手袋を片腕で摩りながらちょっとばかり間を置いて答えた。

 

「ん~、まぁちょっと怪我してんだよ」

 

「あ~」

 

木原の言葉にナギ頭に手をやって少しだけ悟ったような顔で、哀れみを含めた視線を木原に送った。

 

「お前は犬だけではなく、厨二病の称号も手にしているのか」

 

「ぶふっ!!」

 

ナギの素っ気無い一言に木原は吹き出してしまう。 さらに大きなダメージ。

 

「まぁ厨二病は一時のアレだ。 時間が全てを解決させてくれる。だからその・・・頑張れ」

 

「いや、なんで両手合わせてんだよ!? 明らかに『ご愁傷様』って事だろうが!! あとその哀れみに満ちた視線を送るのやめろ!!」

 

もはや泣きそうな木原は涙目になりながら突っ込んだ。

 

「いやマジでどうでもいいけどさぁ、お前が買ってきた飲み物、紅茶じゃなくてコーヒーなんだけど・・・」

 

「しょうがないだろ?紅茶なかったんだよ」

 

「ばぁぁぁぁぁぁかものぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「おう!?」

 

木原のその一言にナギは激昂した。その迫力には、思わず身を引いてしまうほどにだ。

そんな木原を睨みながらナギは続ける。

 

「コーヒーを選ぶにしても味が濃すぎる! 私がコーヒーを飲むときはカフェラテだ! お前はブラックの飲めない主人に、衆目の前でたっぷりのミルクとお砂糖をいれるという屈辱を与えようというのか!!」

 

ブンッとその手にあるコーヒー缶を投げた。 その缶に飛びつくように木原が缶に向かってダイブする。

ズザザザーーッと床をすべるが、コーヒー缶は無事だった。

 

「おまっ、勿体無いだろう!! しかも人質の癖に犯人にダメ出しするな!!」

 

ストレスが頂点に達したか、木原が抑えていた感情を叫びに乗せて不満をぶつける。 しかし、ナギは平然と腕を組みながら答えた。

 

「私は自分を誘拐した全ての誘拐犯にダメ出しをしている」

 

「なんて嫌な人質なんだ!!」

 

まさしく誘拐犯殺しの落ち着きである。 例え銃を突きつけられてもナギは動じないだろう。ある意味迷惑な人質である。 財布の中が磨り減っていくことが心配な木原だった。

 

「まぁ取り敢えず本命が来るまで待ってろよ。 お前はアイツを誘き出すために誘拐したんだからな・・・おっと誰か来たようだ」

 

それは背後に感じた殺気に近い物が会話を中断させた。木原がくるっと振り返ると出口付近に一人の少年の姿が目に入った。 ナギもそれを見て、笑顔になる。

 

最初に木原がその少年に聞いた。

 

「一応聞いておくけど、何モンだ?」

 

「執事ですが・・・お嬢様は大丈夫ですか?」

 

端と返して今度は執事、ハヤテが聞く。 木原はナギを指差して一言。

 

「この通りで」

 

「どうも・・・ではこちらに返していただけませんか?」

 

鋭い目つきのハヤテが木原を睨む。 木原は少しだけたじろくと、口笛を一瞬だけ鳴らした。

 

「怖い怖い。 だけど簡単に返す訳にも・・・いかねぇ」

 

「ハヤテぇ、もう思いっきりやっちゃってもいいぞー。 手加減はいらんからなぁー」

 

間延びするような声でナギが言う。 その言葉にハヤテも頷いた。

 

「そうですね、その『目つきの悪い』凶悪犯から早く離れてもらいましょう!」

 

「・・・・」

 

その言葉に、木原の眉間がピクッと寄った。

 

「お前・・・ソレ俺の顔を見て判断したなぁ・・」

 

「え?」

 

「そうやってお前は第一印象で決めてしまうのか。 いいよいいよ、俺はどうせ目つき悪いさ、俺は光を求めちゃいけないんだ・・・どうせ俺なんか」

 

「どこの地獄兄弟だ」

 

ナギ後方で突っ込むが木原の鬱モードは簡単に終わりそうにない。 だらんと両腕をぶら下げて、顔は俯かせたその姿は不気味だ。

 

「イテェ思いをしても、俺は責任持たねーぞ」

 

ゆったりとした動作で構える。 ナイフを使うわけでもなければ、銃を使うわけでもない。

 

ごく一般的な格闘家の構えだ。 簡単に言わせれば、ボクサーのような構えだといったほうが早いだろう。

 

「さぁ、ラウンド1と行こうぜぇ!!」

 

今まさに、執事と異質の格闘家の闘いが始まる。

 

「・・・・・」

 

その光景を黒羽はビルの屋上から無機質な瞳で見下ろしていた。

 







後書き
木原くんは異質の格闘家ではなく変態格闘家。

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