ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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刺されてしまったテル君、いったいどうなってしまうんでしょうか。そして今回はもう一人の新キャラ登場です。


第42話~罠には自ら飛び込む、これ馬鹿~

「かっ・・・は・・」

 

体を貫く激痛に耐えながら、テルは意識を保っていた。 見上げればすぐそこには自分を貫いた少女がいる。

 

「・・・・」

 

まるで慣れているかのような冷静さ。 いや、冷静すぎる。 まるで感情が全く機能していないような機械のような表情だ。

 

体を動かそうにも、見事なまでに地面に串刺し状態、とても動かして反撃とまではいかなった。

 

その時。

 

prrrrr!

 

少女のローブのポケットから無機質な電子音。 どうやら携帯を所持していたようだ。

 空いている片手でポケットから携帯を取り出す。

 

『黒羽・・・今どこにいる』

 

電話をかけてきたのは男の声。

 

「・・・・神社」

 

『例の物は見つかったのか?』

 

「見つからない・・・少なくとも、私のいる場所に『石』の気配はない」

 

トーンも全く変えずに静かに応対する黒羽という少女。  

 

この隙に逃げ出せないかと画策していたが、視線はずっとこちらを見ており、動けない状態は変わらない。

 

『あー、分かった。 オレの方でだいたい目星がついたからいったん戻って来い・・・誰かに見られたか?』

 

男の言葉を聞くと、黒羽は辺りを見渡して一言。

 

「・・・三人」

 

『そいつらは?』

 

「口封じ」

 

プッ。 と携帯を切ったのを皮切りに、黒羽は長剣を抜こうとする。 完璧に首から切断し、その命を消すつもり・・・・だった。

 

「・・・・」

 

抜けない。 さきほどから力を込めて抜こうとしているのだが微動だにしない。

 

「オイ・・・」

 

と、小さな声。 視線を向けるとテルが長剣を両手で握っていた。

 

刃の部分を掴んでいるため、手からも血がドクドクと流れる。

 

「こんなもんで・・・俺の心は折れねーよ・・」

 

「・・・・・」

 

抜けない。 一体どこにこんな力があるだろうか。 もはや相手は虫の息のはずなのに。

 

 それなら…と、もう片方の手を刃物に変形させてトドメを与えようと構える。

 

 

「八葉六式……撃破滅却!!」

 

黒羽が振り返えったとき、巨大な光線が直撃した。

咄嗟に羽でガードしたが突き刺さっていた剣ごと吹き飛ばす。

 

「これ以上は……やらせません!」

 

鬼気迫る口調だが顔は涙目の伊澄は限界な体力を使って札を構える。

 

 

「…………」

 

黒羽も地面を転がってムクリと起き上がる。 羽は伊澄の術を受けても少ししか効いていないようだった。

 

その表情はどうやら痛みを知らないというぐらいに平然としていた。

 

 

羽を広げて空へと飛び上がった黒羽は伊澄に目を向ける事無くその場を去っていった。

 

 

「……帰った?」

 

静まる場の中で咲夜呟く。 すると倒れていたテルが消えそうな声をだした。

 

「へへ……ありがとよ伊澄ちゃん、お前はやればできる子だって信じて…たぜ」

 

ここまで傷を負いながら笑いながら返すテルはそう呟くと目を閉じてしまう。

 

「テル様!? さ、咲夜どうしよう!テル様が死んじゃう!」

 

「おおおお落ち着けぇ! アンタも結構ヤバいんやから! 」

 

「た、タイムマシンを・・・」

 

「ボケとる場合かァァァ!! 応急処置ィ! 取り敢えず伊澄さん家に運ぶで!!」

 

病人である伊澄にツッコミを入れるとすぐさま咲夜は携帯を取り出す。

こうして、テル一時的に鷺ノ宮家に運ばれることになった。

 

 

 

 

その翌日。 テルが襲撃されたことがまだ誰にも知らされていない三千院家。

 

「あれ? テルさん今日は帰ってこないのかな・・・」

 

ハヤテもこういう日があるのは承知していた。 テルが朝見かけないのは仕事の影響であると。 

 普段はこういったときはハヤテの方からうまく話をしているのである。伊澄の仕事は一般の人物には公にできないことであり、内密にしなければならないからだ。

 

 

ナギやマリアにうまく説明するのも一苦労だったがなんとか言いくるめてナギとともに学校へ登校。

 

「ふぅ、あのバカが居ないと何とも静かな登校となるな・・・」

 

「ハハ・・・」

 

そんな登校道、ため息をつきながら歩いていると・・・

 

「ほい」

 

突如、ナギの視界が真っ暗になった。ハヤテが振り返ると

 

「おはよう少年」

 

ナギの背後にいたのは黒い長髪で凛々しい顔立ちの先輩。 見た目はものすごいナイスバディ、自称ちょっぴりおお茶目な姉御肌、奈津美 唯子である。

 

「唯子さん、おはようございます」

 

「うむ」

 

唯子は頷くと、ぱっとナギの目を塞いでいる手を離す。

 

「何をするのだ!!」

 

「フッ・・・スキンシップだよナギくん」

 

腰に手を当てて軽い笑みを浮かべながら唯子は言った。

 

「まぁもっとも、私のスキンシップは多くの種類が存在するが----」

 

「あ、唯子さんおはようございます」

 

唯子の台詞に割って入るように、後ろからヒナギクが挨拶をしてくる。 それを聞いた瞬間、唯子は180℃回転、その場で飛び上がるとそのままヒナギクに抱きついた。

 

「ハーハッハッハァァーーーー!! ヒナギクくゥゥゥゥウン、おはようだァァ!!」

 

「なんてダイナミックな朝の挨拶ッッ!!」

 

「私のスキンシップは百八式まであるぞ!!」

 

ハヤテが遠くでツッコム中、唯子の高笑い。 ヒナギクは抱きつかれたまま戸惑っていた。

 

「あの、唯子さん。 一応公共の場でもあるのでこういったのは止めてください」

 

「なんだ? なら誰もいないところならオゥケェーイなのか?」

 

「いいわけないです!!」

 

ヒナギクが顔を真っ赤にさせながら否定。 仕方ないといった感じでヒナギクから離れた。

 

そう、何を隠そうこの唯子先輩、かわいい女の子なら誰でも抱きついたりしたりと度を越えたスキンシップをする人なのだ。

 

「おや? 今日はテル君がいないのだな?」

 

唯子が一人足りないということを察したのか顎に手を当てて呟く。

 

「なんか自分探しの旅に出ているらしいぞ」

 

ナギが素っ気なく答えるとヒナギクがマジで? といった表情で聞いた。

 

「自分探し? 職探しの間違いじゃないかしら?」

 

その言葉にハヤテが説明を加える。

 

「なんでも『おれは世界の崩壊を止めるために様々な世界を旅しながら自分の記憶の究明に務めるぜ!!』って言ってました」

 

「ディ○イドじゃないんだから・・・」

 

しかし、これはすべてハヤテのアドリブである。 もう少し、まともな言い訳を考えられなかったものだろうか。

 

「そういった理由で学校を休むとは・・・取り敢えず減給は免れんな・・・」

 

ナギが言えたあ言葉か? と一同が視線を向ける中、ますます生活がひどくなるテルであった。

 

 

 

 

そして時間は早く流れて放課後、その帰り道にハヤテとナギはいた。

 

「疲れた・・・こんなことならテルと同じく世界をめぐる旅に出れば良かった」

 

ため息交じりにそう呟くナギに苦笑いのハヤテ。

 

「ああ、そう言えば足橋先生の『もうなんだかんだ憂鬱』の新巻がもうすぐ出るじゃないか……」

 

「あ、近くの本屋で買いますか? ちょうど僕も買いたい物が―」

 

prrrr!

 

「あれ?」

 

ポケットの携帯が震える。 ナギも早く出ろと言わんばかりにアイコンタクト。

 

 

「もしもし……あ、咲夜さんですか?」

 

 

「ふぁ……ん?」

 

長い話になるかと思ったナギが大きく欠伸をする。 そして何かを見つけたか地面を見ると一冊の本が……

 

 

「これはッッッ!!『もうなんだかんだ憂鬱』の新巻ッッ!?」

 

ナギが肩を震わせるほど歓喜するその本はナギが先ほど呟いた新巻だった。

 

(なぜこんな所に……いやそんなことはどうでもいい!!)

 

小さな疑問よりも目の前の大きな欲望が少女を突き動かす。

 

手を伸ばして掴もうとした瞬間。

 

 

―その時、不思議な事が起こった!(仮面ラ〇ダーblack RX風に)

 

ピョン。

 

「ヌッッッ!?」

 

ナギ掴む瞬間、風が吹くと同時に本が動いたのだ。

 

なんだ風かと思い再び手を伸ばす……が。

 

ピョン。

 

「なに!?」

 

ピョン。

 

「待て! 」

 

ナギはたびたび動く本を追いかけてハヤテからドンドン離れていく。

 

しかも不幸な事にハヤテは電話をしているためそれに気付いていない。

 

 

気付けばナギは誰もいない路地に入っていた。

 

「取ったァ!!」

 

漸く、念願の本を掴んだ。 しかしナギは表紙を見て唖然とする。

 

ピラっと表紙が剥がれる。 テープで接着していたらしい。

 

新しい表紙には……

 

 

『幸子の憂鬱~昼と夜の愛憎劇~』

 

「偽モンじゃねぇぇぇぇぇぇぇか!?」

 

勘に障ったか勢いよく地面に幸子は叩き付けられた。

 

「………いや、でも大人の本って…いや、待て待て、まだ早いだろ? いやいや、行けるって行けるって。 大丈夫大丈夫、何が大丈夫かって分かんないけどとりあえず大丈夫……ちょっとだけ」

 

まだ踏み込んだ事のない境地……というのもハヤテやマリアがそういった物を見せないからだ。

 

「そうだ・・・この見たいという欲望・・誰にも止められないッッ」

 

そのページを開こうとした時。

 

 

ガシャ。

 

「へ?」

 

突如真上からナギを覆うようにザルが振ってきた。 かなりデカい。

 

「なんでザル!?」

 

闇雲に突っ込むがただのザルではないらしく、中についていたセンサーらしきものから煙が吹き出る。

 

「………」

 

そのままナギはパタリと倒れて寝てしまった。

 

 

暫くして。

 

「はっ……と」

 

今度飛び降りてきたのは人だ。 ザルをどけるや本を摘んで呟く。

 

「マジでこんな手に引っかかりやがった……三千院家、恐るべし」

 

男はヒョイとナギを抱えるとポケットから紙切れを取り出し近くに捨てる。

 

「ま、いずれアイツにも嗅ぎつけるだろ……」

 

ナギを抱えた少年 木原はその場を歩きながら去っていった。

 

 

 

「分かりました……テルさんを宜しくお願いします」

 

『わかった。ハヤテも気を付けてな、次狙われるのは自分かも知れへんからな?』

 

そう言い残すとプツンと電話を切った。

 

「…お嬢さま、お話が……ってアレ?」

 

ハヤテが振り返るとナギの姿はない。

 

「お嬢さま―――! どこですか――!?」

 

返事をする気配がまったくない。 そして近くの路地にまで捜索範囲を広げた所、あの紙切れを拾った。

 

「これは……ッッ!?」

 

それを見て、ナギが誘拐されたのに気づくのに時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

――雨。 それは見てるだけ嫌になる天気だ。

 

その単語だけで人を鬱々とさせる力がある。

 

 

そんな雨の道を一人歩く小柄な影があった。鷺ノ宮 伊澄である。

 

 

(私が未熟だったばかりに……テルさまが傷ついてしまった……)

 

傘を差し、フラフラな足で歩くその姿は後悔の念が見て取れた。

 

 

またやってしまった。

 

 

大切な人を傷つけてしまった。

 

 

(もう繰り返さない……何がなんでも)

 

無理をしてはいけないというのは分かってる。 しかし、こうする意外に何か方法があるのか。

 

大きな決意を胸に秘めて伊澄は歩く。

 

「なにがなんでも……倒します。 例え相討ちになっても」

 

 

 






後書き
ちょい知識。黒羽さんの身長は166。

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