ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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からシリアス長編に入ります。 このお話はこれからの小説の物語でも重要なお話になるので。 この長編に基づき、新キャラが二名ほど追加されます。 何人増えるんだこの小説。


第二章 型破り執事、激闘編
第39話~始まりが近づく、そんな事も知らないで過ごす午前午後~


ここは東京都練馬区にある三千院家。

 

 

その広大さは練馬区の60%を占めるという。

どんだけブルジョアジーなんだと言われるかもしれないが、ここに住んでるお方、三千院 ナギは生粋のブルジョアジーである。

 

 

そこに奇妙な人間関係を持つ人間か分からないが、執事である綾崎 ハヤテ。

そしてメイドさんことマリアさん。 腹黒いプラスにその大人びた佇まいから本当に17歳なのか……おっと誰か来たようだ。

 

 

そんな個性溢れる人間が使用人がいる三千院家の屋敷。

 

 

そう言えばここ最近、更に奇妙な人間が使用人になったようである。

 

 

 

 

 

「流石だぜ……」

 

 

三千院家の台所。 黒煙が立ち込めるなか、三千院家の執事 善立 テルは薄ら笑いを浮かべていた。

 

 

朝から続いていた自分の運の良さを改めて確認する。

 

目覚め良し、気分良し、タマが襲ってこない。 この3拍子が彼に自信を持たせていた。

 

 

「朝ご飯の完成だ……」

 

皿に乗ったその物体をテルは動じる事無く食堂へ運ぶ。 むしろその表情は誇らしげだ。

 

 

本日、自分は絶好調……なのだが。

 

 

 

「馬鹿者がァァァァァッ!!」

 

「ごふっ!」

 

この屋敷の主人、もとい、三千院 ナギのアッパーカートがテルに炸裂していた。

 

 

「ハヤテよ。 テルに料理を作らせるなとあれほど言っただろ」

 

 

「申し訳ありませんお嬢様……」

 

床に倒れているテルを一瞥し、後ろにいるハヤテは申し訳なさそうにだが、苦笑いで言う。

 

 

「えーとテルくん、この料理はなんなんですか?」

 

目を細めてその料理なのか分からない物体をマリアが聞く。

 

 

「何って……ミートソーススパゲティに決まってるじゃないですか?」

 

 

「一言言わせてもらう。 ミートソースは少なからずとも黒くはないはずだ」

 

ナギの言う通りでテルの作ったミートソースはとてつもなく黒い。 そして鼻を詰まらせるかのような異臭。 パスタは伸びきり、全体からは黒い煙が出ていた。

 

 

「キッチンも爆破しおって、一体なにをしたらあんな爆発が起きるんだ?」

 

「台所を見てきましたが薬品が転がってました。 あと……これも……」

 

小さなビンを抱えたマリアが差し出したのは……墨汁。

 

 

「マジでか……」

 

呆れてそれしか言えないナギ。

 

「イカ墨をいかそうと思ってな。 イカ墨がないから仕方なく……」

 

 

「もはや料理と呼べませんよ! 兵器ですよ兵器!!」

 

ハヤテが猛然とツッコむが、テルは頭に手をやり

 

「ふっ…よせよ、テレるぜ」

 

誇らしげに言うのであった。

 

「お前の料理のセンスはもはや人外と言わざるを得んな……」

 

「いや、お嬢様も言えませんよあまり……」

 

ハヤテの小さな呟きをナギは聞こえないように咳払い。

 

 

「生まれついてのスキルだ。 どうしようもない」

 

テルが開き直ったか、両手を広げて言う。

 

「ならお前はアレか? その料理で世界でも破壊するつもりなのか?」

 

「逆だ。 俺の料理は新たなる始まり、生命の誕生を表してんだよ……食って見ろって、そうすればお前は万物の法則を理解し、人間を越えた存在に―」

 

「な ら ば お前 が 食え!!」

 

ベラベラ喋るテルに対してナギは限界だったか、テルの後頭部に手を当て、顔面をダークマターにぶちまけた。

 

その瞬間、テルの全身が痙攣を起こしたようにビクッと震える。

 

そして3秒後。

 

「………」

 

「あー、テルさーん?」

 

ピクリとも動かなくなったテルをハヤテが揺すると床に大の字に倒れる。

 

 

目は白目を剥いていた。

 

「自分が食べるまで作った料理は最高級だと思ってますからねぇ……」

 

マリアがふぅ、と残念そうに溜め息をつく。

 

 

「これは遺伝子レベルでヤバいですよ……」

 

白目を剥き、テルはついには黒い泡まで吹き出す。

 

 

「まぁ、なにはともあれハヤテよ、お前が変わりにミートソーススパゲティを作るのだ!!」

 

「は、はい! 分かりました!!」

(というか、朝ご飯はそれで良いんですね?)

 

そんな小さな疑問を考えながらせっせとキッチンへ戻る。 しかしキッチンは絶望と破滅をセットにした状態なのだ。まず最初に行うことが掃除であると思うとハヤテはトホホと先が思いやられるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―私立、白皇学院。

 

 

神々しい名前から察する通り、名門である。

 

 

在学中の生徒が殆どブルジョアジーであるため、校舎内にはカフェテリア、時計塔、美しい池などの立派な設備がいっぱいである。

 

 

「………………」

 

 

テルは1限目からずっと机に突っ伏していた。 原因は明白である。

 

 

(頭んなかで黒いパスタがぐるぐる回ってら……)

 

 

顔色が悪いのは確かなこと、それでもその状態で学校まで来たその根性、見上げたものである。

 

 

(授業もまともに受けれたモンじゃねぇわな……)

 

 

グッタリした表情の裏はなかなか腹黒い。 堂々と授業中眠る事ができるからである。

 

最も、普段の授業態度とあまり変わらないが……

 

 

「かの策士、竹中半部衛は言いました。 『己を知る者を守る』と」

 

黒板にチョークをガツガツと音を立てながら語るのは、我らが担任、桂 雪路である。

 

 

今は世界史の時間なのだがマイナーな日本史の話が出てくるのはなぜだろうか。

 

 

「先生、今は世界史の授業です」

 

雪路が次に織田信長の話をしかけた所で生徒の一人が手を挙げて指摘する。

 

ホットピンクでよく目立つ長髪の生徒、桂 ヒナギクは雪路の妹だ。

 

 

外見からして似ても似つかない、規律を乱さない、生徒会長を勤める生徒の模範的姿である。

 

 

「良いことヒナ。 己を知るという言葉だけでも胸の中に刻んでおくべきよ! 特に今の荒んだ日本にはッッ」

 

再び黒板にチョークを走らせ、『己を知る』と書き散らす。

 

それを見てか、ヒナギクも溜め息を少しばかりつき、これ以上は何も言うまいといった表情だ。

 

 

(姉の教師とその妹が同じ教室にいるって誰もツッコミ入れんのだな……おえ…)

 

 

一瞬ゲロを吐きそうな気分になるがなんとか持ちこたえる。

 

 

テルはこのままトイレに直行したい気分だが体が動かない。否、動かせない。

 

 

虚ろな瞳で黒板の文字を凝視した。

 

 

『己を知る』

 

 

(そう言えば俺って自分の事、全然知らねえや……)

 

 

皆さんお忘れかと思うが、テルは記憶喪失である。

 

 

自分の生い立ちから両親の顔、その友の顔は本人のテルは誰も覚えていないのだ。

 

(ただ一つだけ……)

 

 

そう一つだけ、分かった事があるのだ。

 

 

かつて自分は、「先生」なる人物と暮らしていた『らしい』。

 

その人物はテルになぜか剣術を教え、鍛えさせていた。

 

(恐らく俺のことを知っている数少ない人物の一人……)

 

しかしその人物はどこに居るのか分かった物ではない。

最低限の関係性は思い出しても、顔は全く思い出せないのだ。

 

 

(と、考えると逆に俺のことを知ってるヤツって今の知り合いを除いたらゼロなのか!?)

 

なんということか。 自分は友達ゼロ人という寂しい人生を送っていたのだ(仮定)。

 

 

(はぁ……鬱だ。 自殺してしまいそうな危機だ)

 

 

死ぬ前にゲロの危機を抱えているが……

 

 

(やば、色々考えすぎたから更に気持ち悪くなってきた……)

 

 

焦点はもう合わず、力尽きたテルは視界を完全にブラックアウトさせた。

 

しかしテルは思う。さほど悪い過去ではないのではないかと。 少なくとも、『今』あるこの光景は楽しい。 それだけで充分だ。

 

あの時を迎えるまでは……。

 

 

 

 

 

 

ここは都内の高層ビル……の屋上。

そこに設けられた貯水タンクに携帯片手に立つ一人の少年。

 

 

帽子を被り、ジーンズ、左手の真っ黒な手袋。 

 ジャケット姿の少年は誰かと会話しているようだった。

 

 

「あーあー 東京都練馬区に到着しましたぁー、どうぞ?」

 

音声チェックも兼ねてか若干、間延びした声をだす。 しかし相手からの返事はない。

 

 

「もしも~し」

 

立て続けに相手をコールする。

 

「黒羽(くろはね)さ~ん、聞いてますかぁ? 木原(きはら)ですよ~」

 

だが答えない。 男、木原は携帯の画面に向かって叫んだ。

 

「ダァ――!! このスットコドッコイ!! 返事ぐらいしやがれよ! ちゃんと言葉分かる!? ユアダスタン!?」

木原は息を切らしながら言い終える。 だが結局返事は来なかった。

 

「くそっ!!」

 

仕方なく携帯の通話を切る。 まぁこれは今に始まった事ではないが。

 

(まぁ何日も前からここにきてるし、業務連絡もしてあるから大丈夫か……でもアイツ、早ければ今夜にでも動きそうだよな)

 

その懸案事項を色々と考える。 どうやら木原という男は心配症のようだ。

 

「おっと」

 

 

ビル風に煽られて帽子が飛ばないように押さえるが、体のバランスが崩れて地面に落下する。

 

 

「ほい♪」

 

しかし空中で体を回転させ、体操選手顔負けの空宙返りを決めて、地面に着地。

 

 

木原は立ち上がると空を眺めて一人呟く。

 

 

「またアイツ……どこほっつき歩いてんだろうな」

 

 

 

そんな謎の脅威が迫る中、主人公は……

 

 

 

「おぼろ゛ろ゛ろ゛ろ゛……」

 

1人トイレにて吐き気と格闘中であった。






後書き
朝ゲロは本当に辛いぜ

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