ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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原作では妖怪が出てきてる話になっていますが、この小説ではゾンビとかも出回っています。 別に妖怪だけでもよかったんですけどそこはオリジナルっていうことで。


第31話~暴れていいのは喧嘩だけ~

「うおおおおおおっ!!!」」

 

地下迷宮内、ハヤテ達一行はゾンビの大軍に追われていた。

 

「ハヤテー!一体何なのだ!?」

 

ハヤテの横を走るナギが叫ぶ。

 

「はぐれゾンビですよ!しかも骸骨の!なんか人の道からだいぶはぐれてた感じしましたし!」

 

「つーかはぐれてんのは現世からじゃねーか!?」

 

すぐ横で走るワタルが突っ込んでいる。すかさずワタルは付け加えた。

 

「気をつけろよ!さっき先生が散々引っかかってたトラップが色々あるからな!」

 

「先に言えよ~……」

 

カチッ。

 

そんな事を言っているナギが床のスイッチを押してしまった。

 

後ろから矢が発射される。

 

「お嬢さま!!」

 

割って入ったハヤテはナギの盾になるように立ちはだかった。

 

ドシュッ!

 

「ぐっ……!!」

 

 

「ハヤテ!!」

 

矢がハヤテの肩を貫き、ナギの悲鳴が木霊した。

 

 

 

場所は戻りテル達。

 

 

「オォォ……」

 

ゾンビ達は唸っている。 数は大体100を越えているぐらいだ。

 

様々なゾンビがいる。 刀を持つもの、槍を持つもの、弓を持つもの、素手のもの。

 

その大軍の中で大立ち回りをする無謀な奴らがいた。

 

「ふんっ!」

 

気合いを込めた一撃により、竹刀によって切り上げられた頭は軽々と宙を舞う。

 

 

頭と言っても骸骨だからそんなグロくない。

 

そして即座にその胴体を袈裟斬りし、粉砕する。

 

足を止める事無く、大軍の波に飲まれる事無く、斬り倒す。

 

ある時は避け、的確に突きを繰り出す。

 

唯子は例えるなら漆黒の蝶が蜂のような獰猛さを兼ね備えているようだった。

 

「オォォ……」

 

今度はゾンビの反撃、何故か縦一列になり唯子に突っ込んでいく……ジ〇ットス〇リームアタックのつもりだろうか。

 

 

「セイィィィッ!!!」

 

唯子の後方で怒号が聞こえた。 チラッと振り返ると巨大な元〇玉、もといゾンビを丸く固めて作った塊を唯子が居ることを承知で投げつける。

 

 

「……ふぅ」

 

一瞬小さな溜め息をつくと唯子は真横に素早く飛ぶ。

 

大玉はゴロゴロと転がりながら縦一列のゾンビを巻き込んでいく。

 

 

ゴンッ! と音をたてて、壁に激突した。

千里ならではの力業である。

 

「なかなかの芸術だ……」

 

一人感慨に耽る千里。

 

「………」

 

唯子はその千里の頭部に竹刀の一撃をお見舞いした。

 

「私まで巻き込むつもりか……」

 

「ああ、そうか。 あまりに小さすぎて分からんかったぞ」

 

「……木偶の坊が」

 

またしてもお互いが睨みをきかせる。

だが不意に、唯子の視線が遠くのゾンビに移る。 弓を構えたゾンビが次々と矢を放ってきた。

 

ドスドス! と、地面に数発当たり、二人は当たらないように走りだす。

 

「厄介のがいるな……」

 

唯子は忌々しげに呟く。

 

「確かに厄介だ。 お前が盾になれ、その間に俺が蹴散らしてきてくれる」

 

「それはむしろ貴様の役目だろう……」

 

走りながらも続くこの言い合い。こいつら何処でも喧嘩ばかりだ。

 

「さて……テルくんはと…」

 

唯子は辺りを見渡し、テルを探す。 自分たちの周りには常にゾンビがいたが、一カ所に群がるようゾンビ達がいたのを見た。

 

 

 

 

時にテルは思う。此処最近、嫌な事ばかりであったと。

 

 

「どけどけェェェェ!!」

 

派手に宙を跳び、ゾンビの頭目掛けパイプを振り下ろす。

 

 

「次ィ!」

 

両断したゾンビに目も暮れず、力強い足運びで立ち回る。

 

 

「オォォ……」

 

刀を持ったゾンビが背後から切りかかる。

 

「肉がありませんよォ! カルシウムしか見えませんよォォォ!」

 

即座に振り返り、刀をパイプで受け止め、刀にパイプの先を引っ掛ける。

 

くの字になっているパイプは相手の武器を奪う。

 

そして頭部目掛けてのハイキックがゾンビにヒット。

 

「最近ムカつく事ばかりでよ……」

 

敵の腕を文字通り叩き折り、無力化した後、胴体ごと斬る。

 

「ストレス発散させろやァァァ!!」

 

彼は止まる事を知らない。

 

進む事に全てをなぎ倒していく台風のようだ。

 

進む道には屍の道のみ。

 

 

「オオォ……」

 

今度は槍を持ったゾンビ達がテルを囲むように現れた。

 

「………」

 

一瞬考えるのも束の間、ゾンビ達は同時に槍をテルの腹部目掛けて突く。

 

しかし、その槍達は空を斬らざるを得ない。

 

グサッとゾンビ達の腹部にお互いの槍を食らわせる羽目になった。

 

 

テルは真下に体を小さく屈ませていたのだ。 槍が通過した瞬間を狙い、素早く前方へ転がり込むついでに間を挟むゾンビの脚を叩き折った。

だが次の瞬間、足場に数発の矢が突き刺さる。

 

「チッ……」

 

すかさず第2射。甲高い弦の弾く音とともにまた数発。

 

「遠距離は相変わらず嫌いだぜ……」

 

二発ほどパイプで弾き、怪訝な顔を浮かべ目に入ったのは倒れているゾンビ。

 

 

「ソレ借りるぞっと」

 

ゾンビの輪から抜け出したテルは倒れているゾンビの槍を拾いあげた。

 

目指すは弓を放つその集団。

ブゥンッ! と腕を振り抜いた瞬間、風を切るように槍は飛んだ。

 

 

それは避ける事は不可能なほど……

 

グサッ!

 

「オオォ……」

 

槍は見事に集団の内、二体を貫いて見せた。

 

 

だが残りの弓兵がすかさず構える。しかし……

 

 

「遅い……」

 

竹刀を構えた唯子が一気に距離を詰める。

バシッという甲高い音が響き渡ったその余韻に浸かるまでもなく、ゾンビ達は崩れ落ちた。

 

「君はなかなかやるようだな……」

 

唯子が軽く笑いながらテルと合流する。

 

「アンタもやるじゃねぇか……」

 

その言葉に二人はニヤリと笑う。 お互いを讃え合う、などではなく、同じ剣の道に通ずる者としてだ。

 

 

「もう敵も居なくなったな……」

 

どこからか千里が現れ、辺りを見渡す。 先ほどまでいた弓兵で最後だったようだ。

 

 

しかし……

 

 

ボゴッ!

 

「む……」

 

唯子が目を細める。 またしても、ゾンビ達は地中から現れてきた。

 

「さっきより数が多いぜ……」

 

「倍ぐらい、いや、それ以上だな……」

 

 

口に指を当て、考える仕草をする唯子。

 

 

「フン! 貴様らはそこで見ているがいい! キングの真の力と言う物をッッ!!」

 

千里は後先考えず、ゾンビの大軍に勝手に突っ込んでいく。

 

 

「粉砕・玉砕・大喝采ィィィ!……ヌオォォォ!!」

 

見事にその波に飲まれた。

 

 

「バカだ……」

 

額に手を当てる唯子は仕方ないと言った感じで何かを取り出した。

 

 

「よし、爆破しよう」

 

「ちょっと待て!」

 

テルがすかさずストップ。 唯子が取り出したのは箱。 中には大量の筒状の物体がある。

 

 

ダイナマイトだ。

 

 

「なんで持ってるんだよ!!」

 

「なに。 そこにあったから拾ったまでだ……」

 

「なんで地下迷宮にあんだよダイナマイトが!」

 

物凄い見幕で突っ込んでいるがその間にもゾンビ達は増え続けていく。

 

 

「キリがねぇな……」

 

テルが舌打ちの後、吐き捨てるように呟いた。

 

「だから構ってる暇はない。 君は早く行った方がいいぞ……」

 

「ヒナギクと合流しねぇのか?」

 

「………」

 

その言葉に何故か黙り込んでしまう唯子。

 

「後からでも追いつけるさ……」

 

そう呟く。

 

「一ついいか……」

 

「なんだ?これからよもや私が、自爆特攻でも仕掛け、あたかも果敢に戦った戦士になろうとしている手前に」

 

 

テルは頭を掻きながら一つ聞いた。

 

「……アンタ、ヒナギクと何かあったか?」

 

「………」

 

最近、会ってみて分かったが正宗の会話からなにかとヒナギクは唯子に遠慮がちだ。先輩としてだけではない何かがある。

 

 

そして黙り込んだと言う事は何かがあったと言うことだ。

 

 

「彼女と私では……器が違いすぎる」

 

「……?」

 

「今も彼女は戦っているだろう。 自分の中の正義を通し、その力を正しく使っていく……」

 

 

楽しそうに語る一方でどこか悲しげな表情の唯子。

 

「眩しいのだよ。 彼女の色は……私はそんな色合いは持ち合わせていない……灰色だ…」

 

唯子は竹刀を地面につけて続ける。

 

 

「灰色は……どれだけ虚しい色か分かるかテルくん?」

 

「………」

 

今度はテルが黙った。 分からないと言ったところか。

 

 

「……昔、剣道をやっていた」

 

「昔……?」

 

初耳だ。さらに昔という単語がテルのなかで残る。

 

「君は、私が左利きだと思っているだろう?」

 

「違うのか?」

 

テルの言葉に、唯子は首を縦に振った。

「本来、私は右利きなんだよ。 だが右は……」

 

ヒュンッ!!という風を切り裂く音。唯子は何故か、テルに向けて右手に持ち替えた竹刀を繰り出した。

 

 

「うおっ!! なにしやがる……え?」

 

驚きの後、テルは間の抜けた声を出した。

 

 

恐らく、テルだから反応した。 しかし、利き手の速さは左手から繰り出される一撃より明らかに速かった。

 

少しでも反応が遅れれば、テルは食らっていたかもしれないだろう。

 

「……この通りさ」

 

カシャン。と竹刀が落ちたのと同時に唯子が笑みを浮かべていた。

 

 

しかし、それは苦痛の表情から上乗せしたかのような笑み。

 

額からは汗が出てきている。

 

「医者の話では……もう昔のように振るえないらしい」

 

苦痛に耐え、唯子は右手を押さえながら続ける。

 

 

「痛みも酷い……まるで焼き鏝を直接手首に当てられたようなものだよ……」

 

手首をさするがまだ苦痛は解けないらしい。

 

「何故彼女があんなに私に気を使うか分かるか?」

 

「知るかよ……」

 

テルはしかめながら答える。 彼女とはヒナギクの事だ。

 

 

「この怪我は、私が彼女と試合をしたときにできたものだ……」

 

 

―彼女、奈津美 唯子が語り出すあの日。

 

 

 

それは約一年前、春盛る、桜が舞い散る4月の事。

 

 

「剣道部ってここよね……」

 

 

渡された一枚のかみ切れ、入部届け。

 

予め、貰った部活の歓迎。その中でヒナギクは剣道部に足を運んでいた。

 

「おや、君は?」

 

「わっ!すいません!!」

 

突如後ろから声を掛けられ、ヒナギクは驚いてしまった。

 

「新入生か?」

 

 

入学当初、ヒナギクの前に現れた唯子は今より若干、髪が短い。

 

しかし、凛とした態度は変わらない。 威厳はあった。

 

 

取り敢えず、これが二人のファーストコンタクト。

 

 

思えばこれが始まりだった。

 

 

 

「………」

 

剣道部の道場は意外に部員が少なかった。 中では10人に満たるか満たないかのような感じだ。

 

 

床ではヒナギクがちょこんと座っており、見学している。

 

 

そして目の前では先ほどの唯子が防具をつけ、男子部員と模擬試合をしていた。

 

 

「始めッ!!」

 

審判の部員がその合図をした瞬間。

 

 

パシィッ!

 

男子部員の竹刀が床を転がる。そして

 

「勝負ありッ!!」

 

その声が響いた。

 

「え……?」

 

ヒナギクは目を疑う。 一瞬だ。 始まった瞬間に勝負がついている。 まさに電光石火の業。

 

 

隣の座っている部員がヒソヒソと会話しているのが聞こえる。

 

(出た! 奈津美先輩の神速!)

 

(相変わらず見切れないわ! 二年生で部長をやるだけあるわ)

 

(これで次の大会、優勝間違いなしだよ!!)

 

 

座っている部員からは尊敬を込めた会話が聞こえてくる。

 

 

「次!」

 

唯子は次の相手をする。 全て連戦だ。 そして全て勝つ。 圧倒的な強さで。

 

 

「ふむ。 終わろう、みんな」

 

唯子がそう言うと部員達が整列して、挨拶を挟み、解散していった。

 

「どうだった? 桂 ヒナギクくん」

 

「凄いですよ……ってあれ? なんで私の名前を……」

 

「うむ。一年の名前は大体ココに入っている」

そう言いながら自身の頭を指した。

 

「よし、剣道部に入ろう。 君は筋がいい……」

 

「いや、あの、私まだやってないのに分かるんですか?」

 

ヒナギクの言葉に唯子は勿論と言った感じで答えた。

 

「瞳を見ればだいたい分かるんだよ。 君は強くなりそうだ……」

 

「はぁ……」

 

理由がよく分からず、ヒナギクはそう言うしかなかった。

 

しかし、先ほどの試合に釘付けになっていたのは紛れもない事実であり、剣道というものに惹かれていたのもまた事実。

 

 

「ふむ。しかし君はなかなか可愛いな……」

 

「へ?何を……ひゃ!」

 

唯子はうっとりとした表情を見せてヒナギクの背後から抱きついた。

 

「ちょ、止めてくださいよ!」

 

「ふふふ……良いではないか」

 

「良くないです!」

 

 

その後、なんだかんだでヒナギクは学業と部活を両立するために剣道部に入部した。

 

 

 

―彼女の成長は凄かったよ。 まるで剣道をするために生まれてきたのではないかと思ったくらいだ。

 

 

「うむ。 やはりヒナギクくんは成長も速いし、スジもいい……」

 

「まだ唯子さんには勝てないですが……」

 

「そんな事を言って、数カ月で私に白星をつけさせないようになるとは……」

 

 

彼女の成長は数カ月で私の連勝を止めていた。

 

だがそれでは終わらないと思ったよ。 まだまだ彼女は伸びる。 どこまでも行けるな……とな。

 

 

心強い味方だったが、逆に私も新しいライバルが現れたと思って練習に打ち込んだよ。

 

私は負けず嫌いだからな。

 

 

だが、不幸な事にソレが災いしたんだ。




今語られる唯子の過去。 それが今のヒナギクと唯子の関係を作ったとも言えます。

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