ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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タイトルですが、別にだれも死にはしません、断じて。マラソン大会編、決着!


第28話~人生はマラソン、もうゴールしてもいいよね~

---神は言っている・・・ここで負ける運命(さだめ)ではないと・・・

 

 

この勝負を見ていた花菱 美希(白皇学院生徒会役員)は後にこう語っている。

 

 

 

 

―あの時の勝負? ああ、覚えてるよ。 私は給水しながら休んでたけど……

 

 

「ホラよッ」

 

「ッッッ!!」

 

 

―投げたんだ自分の竹刀を、テル夫くんが。 ハヤ太くんに向かってな……

 

 

―今思えば何やってんだアイツは? って考えたな~。 だって戦う武器が無くなればどっちが有利か明白……

武器をもった相手には複数で仕留めるっていう鉄則があるくらいだし。

 

 

「くっ……!!」

 

 

―ハヤ太くんか? 勿論弾いたよ、 箒で上手く真横に……な

 

―奇襲攻撃のつもりだったのか知らないけど、アレは無い。

 

 

 

―だけどソレが狙いだったんだよな……竹刀を投げたこと事態が。

 

 

「あ……」

 

―ハヤ太くんも『しまった!』って思ったんだろうな。

 

―いつの間にかハヤ太くんの目の前にいたんだ。 最初のは悪魔で目眩まし……

 

(マズい……)

 

―ハヤ太くんは動かないままだったよ。 こんな古い手を使われるとは思ってなかった……って感じだな。

 

―だけど不思議な事に、彼は攻撃しなかったんだよ……次の瞬間、音が響いたんだ。

 

 

パシィィン!

 

 

「………ッッッ!?」

 

 

―パシィィンって、そ、蚊を両手で潰す感じでハヤ太くんの顔の前で叩いたんだ。

 

 

―そ、コレが真の狙いだった。 ねこだまし……ハヤ太くんは簡単に引っかかってしまったんだよ。 フェイクのフェイクに……

 

「しまった!!」

 

 

―んで、慌てて振り返ったらテル夫くんは橋の出口にいたわけだ……ある意味マジックだわな。

 

 

 

 

 

 

―え? 冗談でしょ? いいえ、一秒一秒を細かく説明しているだけで、全て真実です!!

 

 

「テルさん!!」

 

ハヤテが叫ぶ。橋の出口にいるテルに向かってだ。

 

「言ったろ、打ち合いにはならねぇって……」

 

 

テルはニヤリと笑った。

 

「一回切りのソレで決まるってよ」

 

 

ハッキリと言えばズルい。 真剣勝負を自ら挑んでおいて蓋を開ければ武器を直接交えずねこだまし。

だがソレで道を開けてしまったのは紛れもない事実。

 

 

ハヤテは自分がペテンにかけられた事に歯をぎしりと鳴らした。

 

 

「勝負ってのはココよココ」

 

テルは頭をトントンと指でつつく。

 

「まだ!」

 

ハヤテはまだ間に合うとテルに迫る。だがその時、

 

「カモン、ワタルン!!」

 

 

テルの掛け声と共に橋を飛び越えて現れた人物は地をズシンと鳴らした。

 

 

(ワタルくんが?)

 

聞き慣れた名前を聞いてハヤテがそう思ったのも束の間。

 

「後は任せたぞワタルン」

 

「オーケィ」

 

「………」

 

一瞬の静寂の後。

 

 

「「「誰だアァァァァァァッッ!!?」」」

 

 

グラサンの外人を見て一同がそうツッコンだのだった。

 

 

「んじゃ、マジで任せたぜ」

 

テルはワタルンに親指を立てて、改めて走りだす。

 

 

ワタルンは頷くとフランスパンを取り出した。

 

「アレは何をしてるのかしら……」

 

 

「さぁ?食べて巨大化……ですかね?」

 

ハヤテとヒナギクが考察するなか、ワタルンは大きく息を吸い……

 

 

「france paaaaahn!!」

 

 

パシィィンとフランスパンを思いっきり叩きつけた。

 

 

バキン!

 

「「え?」」

 

何か支えていた金属の部品が破壊される音に、ハヤテ達は耳を疑った。

 

 

そして次第に橋が重量により落ち始める。

 

 

マズい。落ちている。

 

「ヒナギクさん!!」

 

「え?な、なに?」

 

「捕まっててください!!」

 

 

この間、僅か一秒に満たないだろう。 この間にハヤテはヒナギクを抱えて橋の入り口に跳び戻った。

 

 

「大丈夫ですかヒナギクさん?」

 

スタッと地面に着地するハヤテはヒナギクの安全を確認する。

 

「………」

 

返事がない、ヒナギクは目を回していた。 顔色も悪そうだ。

 

「………」

 

遠くではワタルンがじーっとこちらを見つめている。

 

「な、なんですか……」

 

グラサン越しで睨んでいるかわからないが、雰囲気からするに確実に睨んでいるだろう。 ワタルンはこちらに歩み寄って。

 

 

ベチャ。

 

ハヤテの顔にクリームパンが直撃した。

 

 

「………ぺッ」

 

と谷底に唾を吐き捨てる。 そうして彼はその場を去っていった。

 

 

「あの…僕なにか悪い事しましたか?」

 

 

「さぁな、分からん」

 

顔がクリーム塗れのハヤテに対して美希はそれしか答えれなかった。

 

 

(お嬢さま……テルさんより先に、ゴールへ!!)

 

 

だがそんなことより、クリームまみれのハヤテはナギの心配をするのだった。

 

 

 

 

テルはひたすらゴールに向けて走る。

 

 

(まさか一回きりの騙し討ちが通るとは思わなかったな……)

 

正直、ハヤテの体の怪我のお陰で上手くいった訳だ。

 

(後はゴールへ向かうまで、待ってろよ賞金よ!!)

 

テルの頭の中で札束の世界が浮かんだ。

 

 

ズリュッ。

 

「ん?」

 

ドゴッとテルは前のめりに転んでしまった。

 

「オイオイ、こんな事してる場合じゃねぇってのに……アレ?」

 

テルは体を起こすために腕で地面を押そうとする……が動かない。

 

 

「アレ? ナンダこれ?」

 

気付けば辺り一面真っ赤っか、頭部から凄い出血。

 

「え″え″え″え″っ!? ちょ、え″え″え″え″っ!? 」

 

テルは突然の事態にパニックだ。

 

 

説明しよう。何もハヤテだけが怪我をしている訳ではない。

 

テルもあの日、大怪我していた人物の一人なのだ。

 

 

「やっぱりガンダニウム合金で作らた方が良かったな……」

 

なんて言ってる場合ではない。 彼にはこの大会で優勝しなければならない。

 

 

自身の借金を払い、ラーメン辰也の不安を取り払ってやることだ。

 

 

もはや意地しかない……。

 

 

交わした約束のもとにあるのは男の意地だ。

 

 

「オオオオオッッッ!!!」

 

 

立った。 テルが立った。

 

 

 

ゴール付近。

 

 

『さぁマラソン大会もいよいよ大詰めだァ!!』

 

『名だたる強豪達を下してきたのは一体誰だ!!』

 

実況の泉とワタルがマイクを片手に総立ちだ。

 

 

「ハァ…ハァ……」

 

 

『おおーっと! 競技場一番乗りは、三千院家だァ―――!!』

 

 

「ハァ…ハァ……」

 

(あ、あと500メートル!!)

 

ナギは荒い息遣いながらも安定した走りを見せていた。

 

 

「待てえェェェェ!!」

 

競技場の入り口からの声にナギが振り返った。

 

 

「げっ! テル!!」

 

「ナギィ! 優勝は簡単にさせねぇぞォォォ!!」

 

しかしその足取りはかなり重い。 走っていてもナギよりちょっと速いぐらいだ。

 

 

『何かジジィみたいな走りですね泉さん』

 

『まず私は血塗れの経緯を説明してほしいんだけど……』

 

 

『また誰か来ましたよこの競技場に』

 

『アレ、本当ですね!!』

 

 

「オオオオオッッ! やらせはせん! やらせはせんぞォォォーーッッ!!」

 

怒涛の叫び声を上げながら走るのは崖に落ちた千里だ。

 

 

『崖からどうして無事に帰って来れたのかとツッコミたいですね』

 

『それは言わない約束なのだよワタルン♪』

 

『いや、あの泉さん、僕はワタルンではなくワタルです』

 

 

「なんだアイツは………」

 

 

必死の形相で走る千里を見て、テルがそう呟く。

 

「キングが負けるなど決して有り得ないッ!」

 

走る千里は怒涛のチャージング。 少しだがテルを追い越した。

 

(オイオイ、ここまで来てソレはねぇだろうがよ……)

 

走り、追い越していった千里の背中を悔しく見つめた。

 

(ここで負けたら、ジジィの借金返せなくなっちまう……ん?)

 

テルはここに来て一つ気付いた。

 

 

 

―今回、借金がどうとかでなんか俺らは騒いでるが負けた場合、ハヤテはクビなんだよな?

 

 

(クビっていうのは、離れちまうって事なんだよな……)

 

それは勿論、ハヤテは承知している。 もしハヤテとナギが離れてしまったらと考える。

 

 

……考える事を止めた。

 

(一番頑張ってるのはナギだよな……)

 

そう思い、先頭を走るナギの小さな背中を輝いているように見る。

 

 

(走ってきたんだよな……ここまで)

 

ここで自身の過ちに気付いた。 頑張ってるのはナギだ。俺じゃない。

 

 

(俺の借金はまだいい。けどあいつ等は離れちまったらダメなんだよ……)

 

 

少しばかりため息をつくとテルはスピードを上げた。

 

 

(誰かと一生会えなくなるなんて嫌だもんな!!)

 

「ヌオオオオオオッ!!」

 

 

力を振り絞ったテルは千里の体に思いっきり飛びかかった。

 

「な、なに!?」

 

 

『おおーっとここでテル夫くん、千里くんが転倒だァーーーッ!!』

 

 

倒れたテルは千里の足にしがみついていた。

 

「貴様、俺の邪魔をするのか!!」

 

「あぁそうだ。邪魔してんだよ邪魔ァ、あいつ等はな、一緒にいなきゃいけねぇんだよ、離れちまったらダメなんだよ!!」

 

 

これでもか言わんばかりに千里はテルを引き剥がそうとするがテルは意地でも離さなかった。

 

 

「行けえェェェェェェ、ナギィィィ!! マラソンキングになれぇぇぇぇぇ!!」

 

 

その声は主に向けての最大のエール。

 

(スマン、テル!)

 

ナギにはしっかりと届いていた。 テルに対する気持ちをぐっと堪え、そのままゴールへと向かう。

 

(辛いけど・・・さっきよりは息は荒くない・・・)

 

後100メートル。

 

(足も・・・軽くなってきた・・・)

 

後80メートル。

 

(ああ、これがヒナの言っていたことか・・・・)

 

後30メートル。

 

(みんなありがとう・・・・スポーツもそんなに悪くは・・・・)

 

後5メートル。

 

遂にナギがゴールテープを切る瞬間がやってきた。 目の前の白いテープは今までの自分とはまったく持って無縁。 この大会をやるまでは憎たらしく間で感じていたが、今ではこの湧きあがる高揚感を心行くまで実感している。

 

ゴール付近のスタンドからはマリアやクラウス。 委員長の唯子達がその瞬間を見ようと集まっていた。

 

 

 

 

----神は言っている・・・ここで負ける運命(さだめ)ではないと・・・・

 

 

「優------」

 

ナギがゴールテープを切ろうとしたその瞬間。ナギの横を小さな風が吹いた。

 

「一等賞ーーーーーーーーッッ!!!」

 

ピシッ!とその場の全員が凍りついた。

 

残り一メートル、つまりゴールテープ手前でナギを抜き返した人物は・・・・

 

「賞金はあたしのもんじゃぁーーーーーーい!!」

 

桂 雪路だった。

 

「「「「「エエェェエエェェェェエエエェエエエッッッ!!!!」」」」」」」」

 

競技場が揺れた。 それはもう大激震。 果ては大暴動でも起きるような勢い。

 

 

「・・・・・・・」

 

これを見ていたハヤテたちは、口をあんぐりとして、一人で万歳している雪路が目に映った。

それは美希やヒナギクも例外ではなく。

 

 

唯子はため息をつき、千里は競技場にて天高く吼える。

 

「・・・・マジで?」

 

テルは最後にそう呟くと、力尽きたのか瞼を閉じて、意識を失ったのだった。

 

 

 




やはり、安定の原作どおりでした。 そして橋をたたき落とすシーン。 またしても銀魂ネタ。 これだけでもかなりこの作品が銀魂に影響されてるかわかります。

これ見てて思ったんですけどワタルンって凄いギャグの塊だと思いました。 なんか第三部でも使いたいくらいですね。


次回は執事クエスト編です。

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