ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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やってしまいました銀魂ネタ。 しかも外人でワタルをやらせるなんて無理ありすぎだろ。  最近思ってきたんですが、この投稿、ほとんど1,2話とかくっつけて投稿してるんで必然と文字数多くなってるんですけどここの皆さんにとってこの文字多いと読みにくかったりしますかね?


第27話~争いを生むのはいつも人の我欲~

マラソン大会中盤。 ゴールへと続く道のりの中 、竹刀を打ち合う乾いた音が響いていた。

 

「うおっ、ヒナ、頑張れ!!」

 

「委員長! ここで時間を食っていたら優勝できませんよ!?」

 

美希は応援し、書記は鍔迫り合いの最中の唯子を見て少し焦り気味だ。

 

 

「まぁ、そんな事を言うな書記くん……」

 

バシッと唯子は鍔迫り合いから逃れ、一旦距離を取る。

 

「私がやりたいようにやるのだ。 この勝負は、ある意味ではマラソンの優勝以上に重要な事なのだよ」

 

その時の唯子の表情は笑っていただろうか、書記は感じる。

 

別に怒っていたのではない、悲しんでいるのではない、ただいつもと違う感じがしたのだ。

 

「勝てばヒナギクくんとウハウハだぞ!! 優勝より大事ではないか!!」

 

「どこがですか!! めっちゃくだらない理由じゃないですか!!」

 

唯子に対してキレながら突っ込む書記。

 

「唯子さん、真面目にやりましょうよ……」

 

そのやり取りを見てかヒナギクが若干声色を強める。

 

唯子はそれを見て不敵に笑みながら

 

「済まないな、だが私は色々と楽しみながらやるのが好きなんだ……それは君が良く知っているだろう?」

 

「……はぁ」

 

ヒナギクは一旦考えて短い溜め息を漏らし

 

「相変わらずなんですね……」

 

ポツリとヒナギクが呟いた。

 

 

「ッッッ!!」

 

ヒナギクが気を緩めたその瞬間、唯子が左手の竹刀を構えて一気に距離を詰めてきた。

 

 

唯子は流れるような動作で竹刀をヒナギクに振り下ろした。

 

「まだッ!!」

 

だがヒナギク、どんな事態にも冷静に対応する。 いとも簡単に唯子の一撃を防いだ。

 

「ほぅ……ッッ」

 

「引っかかりませんよ!!」

 

ヒナギクは唯子に不敵に笑みを浮かべる。そして受け止めている竹刀に力を込め始めた。

 

「ああ、委員長ッ!!」

 

「ヒナ! 押せ押せ!!」

 

ゆっくりだが、ヒナギクの竹刀は次第に唯子の竹刀を押し返し始めた。

 

「………」

 

(そうか………)

 

唯子はその状態を見て少し目を細めた。

 

そしてフッと笑うとまたしても竹刀を横に弾いて距離を取った。

 

「次で終わりにしよう……ヒナギクくん」

 

「はい……」

 

唯子の目は真剣そのものだ。 今までのようなお茶目な様子は全くない。

 

まるで一人の剣士……

 

ヒナギクは生返事などせず、真剣に返すしかなかった。

 

 

「「………」」

 

一瞬の静寂の後……

 

 

二人の剣士は地面が抉れるぐらいの力で地を蹴り駆け出した。

 

 

互いが己の武器を、最も高速で繰り出せる動作を模索する。

 

ヒナギクは正攻法、真っ正面から両手で竹刀を持ち、居合いのようなスタイル。

 

 

唯子はまるで左手で持った竹刀をレイピアのように突き出すような構え、牙突のスタイル。

 

 

この魂とも呼べるそれぞれのスタイル、二人の鼓動が……

 

 

「「だあぁぁぁぁッッ!!!」」

 

 

ガシッッッ!!!

 

 

今、交差した。

 

 

「「…………」」

 

互いが走りながら素通りしたかのような光景。

 

 

ヒナギクと唯子はゆっくりと振り返り、お互いを見た。

 

 

「一体……どっちが?」

 

美希が手に汗を握る。 しかし空から何かが落ちてくる事に気付いた。

 

ガチャン。

 

と乾いた音をたてながら落ちてきたのは竹刀だ。

 

見ると、唯子の竹刀がない、更に……

 

 

「い、委員長ッッ」

 

書記が声を上げる。 唯子の胸の薔薇が静かに散ったのだ。

 

 

「……君と戦って、初めて…負けたかな?」

 

静寂の中、最初に口を開くの唯子。

 

「久しぶりだったので、楽しかったです唯子さん」

 

ヒナギクが小さな笑みを浮かべる。 しかしどこかやるせない感じだ。

 

それを見て、唯子はいつもの凛とした表情に戻る。

 

「さぁ早く行け、ヒナギクくん。 急がないと負けてしまうぞ?」

 

いつものだ。 唯子の凛とした表情は自然と相手の背中を押すような力強さがある。

 

ヒナギクは軽くお辞儀する。

 

「優勝しろよ。 私はいささか疲れた」

 

唯子は最後にそう呟いて反対方向に歩き出す。

 

 

ヒナギクは美希と共に走り出した。

「委員長、委員長~」

 

「さぁ書記くん、どこかのモニターでこのマラソンの結末を見守ろうではないか」

 

唯子を追いかける書記の姿を見て、美希は何か腑に落ちない事があった。

 

「なぁヒナ、唯子さんの噂はよく知っているが、あの人とヒナはなんかあったのか?」

 

ヒナギクはその質問に対して遠くを見るような目で答えた。

 

「唯子さんは私が入部したての時の剣道部の部長よ・・・・」

 

「ええ!?」

 

「そんな事より、早くしないと巻き返せないわ、スパートかけるわよ美希!!」

 

美希の体力考えず、ヒナギクは猛ダッシュ。美希は更なる恐怖に顔を青ざめさせたのだった。

 

 

唯子・書記組み、リタイア。

 

 

 

一方、テルチーム。

 

「走れ! ワタルン!」

 

「オーケィ」

 

テルを肩車していたワタルンがスピードを更に上げる。

 

 

スピードを上げに上げて、二人は何やら休憩所のような場所にたどり着いた。

 

元々白皇の敷地にあって作られたインテリジェンスの造り。

 

 

そこには一組の男がいた。

 

「おやおや・・・誰かいなくなったと思ったらあなた方ですか・・・」

 

一人は長身で顔も整った執事服の男。 紙は少し長めのライトパープル。

 

「野乃原、こいつは・・・」

 

もう一人はその主だろうか、どこにでもいそうな一般生徒Aのような雰囲気を醸し出す少年。

 

「アレ? お前は確かあの、えーっとだな・・・・」

 

テルが何か思い出しそうな表情で唸りだす。

 

「僕は---」

 

「あー待て待て、何もいうなよ、今思い出しそうだから、今喉のところで魚の骨が出掛かってるから・・・えーっと・・・」

 

何か閃いたように手を叩く。テルが考え考えに導き出した答えはこうだ。

 

「ヘタレくんだ!!」

 

「ちっがーっう!!」

 

少年は額に青筋を浮かべながら突っ込んだ。

 

「東宮 庚太郎だ!! 全然違うだろう!!」

 

「だってよ~、間違えるも何も俺お前知らねーし」

 

「じゃあ何でヘタレだけ当てやがるんだ!!」

 

「いや、もうナンカ・・・ね?」

 

「どういう意味だよォォォォ!!?」

 

ただひたすらに、東宮の絶叫が響いた。 

 

「あなたは・・・確か三千院家の・・・」

 

今度は野乃原という執事が口を静かに開く。

 

「テルだ。 善立 テル。 覚えてもらえて光栄じゃねーの」

 

名前が知られていたことにテルは若干笑みを浮かべた。

しかし、野乃原はクスリと笑みを浮かべながら続ける。

 

「死んだ瞳というのはほんとですね。 後、結構白皇を騒がせている問題児とか・・・」

 

「オイオイ、どんな噂が流れてるんだよ・・・テルさん泣いちまうよ」

 

テルが頭を掻きながら沈んだ声で呟く。 野乃原は更に尋ねる。

 

「君もこの大会に参加なのかな?」

 

「まぁな」

 

テルは当然だろ? 言わんばかりの顔で答える。

 

「先ほど、三千院家の執事くんを逃してしまってね・・・」

 

「ハヤテか・・・・」

 

野乃原のその言葉にテルは若干の反応を見せた。

 

「アレは野乃原が・・・」

 

「お黙りください坊ちゃま・・・」

 

野乃原が竹刀をビシッと地面に叩きつけた。東宮がヒッと体を震わせる。

 

「言い訳など言語道断。 そんな事では真の男になることはできませんよッッ!!」

 

笑顔で東宮に迫る野乃原は地味にホラーだ。 テルはそんな光景を見ながら欠伸をする。

 

「スパルタもいいけどね~ ま、ヘタレにはいい薬になるんじゃねーの? 行くかワタルン」

 

テルは本当に他人事のようにその場を去ろうとするが、野乃原が目をギラッと光らせた。

 

「待ちなさい。 私が簡単に逃がすとお思いですか?」

 

「ん?」

 

テルは思わず立ち止まる。 向こうはかなりこちらを敵視している。 こうなると戦いは避けられないか。

 

「戦ってもらいますよ・・・坊ちゃまとッッ!!」

 

「え?」

 

そんな素っ頓狂な声を出したのは例外なく東宮だ。 

 

「主の成長を促すのが執事の務めでもあります。 だから坊ちゃま、強くなってください!! 戦いを越えて!!」

 

「ちょちょ、待て待て!!」

 

と思っていた東宮だが、一度テルを見て考えてみる。

 

(確かにあいつは綾崎ほど怪物臭はしないし・・・・あんなやる気のない顔だ。 きっと僕より弱いやつに違いないッッ!!)

 

これなら僕にも勝てる。 そんな自信は一体どこから生まれたのかと突っ込んでみたい。

いかに容姿は戦いにおいて相手に影響を与えるかの問題だ。

 

「よーし! 相手になってやる-」

 

「まーった・・・・」

 

戦意向上した東宮にテルが待ったをかけた。

 

「執事と主が戦う・・・戦いにおいて、相手が誰であろうと関係ない弱肉強食の世界においては別に間違っているワケでもない・・・だがあえて言おう、アンフェアであると」

 

「まぁ確かに・・・そうではありますが」

 

野乃原がふむといった表情で頷いている。 そしてテルは言ったのだ。

 

「ここはフェアにするために、主と主で戦わせてみるってのはどーだ?」

 

テルがにやっと笑みを浮かべる。 野乃原はよい提案だと言わんばかりに竹刀を東宮に手渡した。

 

「そうですね。 いかにどちらの主を教育できているか、それを競い合う」

 

「そうだ。 不公平な点は何一つないだろ?」

 

「その前にあなたの主は誰ですか?」

 

野乃原はやはりといった感じで聞いてくる。 だがテルは堂々と答えるのだ。

 

「この・・・ワタルンだ。 今だけはこいつとペアを組んでるからな。一時的に主にしてくれ」

 

ワタル。その言葉を聴いて、東宮がニヤッと笑みを浮かべた。

 

(しめたッッ ワタルなら武術もなんもやってないし、その点に関しては剣術を習っているこっちに分があるッッ!!)

 

武術関連のスポーツを習っている者とそうでない者ではえらい違いが出てくる。 その点では明らかに東宮が有利だろう。

 

ズシ・・・・

 

 

しかしだ。

 

 

ズシ・・・・・

 

絶対という言葉がないのが世の常。

 

「頼んだぜワタルン」

 

「オーケェイ」

 

「お前誰だァァァァァァアッッ!!」

 

東宮は、目の前の、自分より明らかに背の高い外人を前にして思いっきり突っ込んだ。

 

「ワタルはこんなんじゃないだろ!! 明らかに別人だろ!! もっと小さくてなよなよしてるヘタレじゃなかったのかよ!!」

 

「おい、ワタルはヘタレなんかじゃねーよ」

 

テルは失敬なといった感じで東宮を睨む。

 

「いいか? マラソンはな、人生と同じなんだよ。 長い長いゴールを目指すということが、彼を立派な大人にさせたんだよ・・・」

 

「こんなワープ進化があってたまるか!! 明らかに大人じゃねーかァァァア!!!」

 

東宮は今度は野乃原を見た。

 

「野乃原、明らかに不正だ!! 僕じゃなくてお前が成敗しろ!!」

 

「なりません」

 

「な、なんでだ!?」

 

静かに返す野乃原に東宮は驚いた。 

 

「これは大事な試練なのです・・・坊ちゃまが、これからをどう生き、人生を行くのか・・・それを見極めなければならないという仕事が執事にはあります」

 

野乃原は更に続ける。

 

「そうでもしなければ、想い人を射止める男にもなれはしません」

 

「ッッッ!!」

 

その瞬間、東宮の中で何かが変わった。

 

(そうだ。 僕は・・・桂さんに認められる男になりたい!! 逃げちゃだめだ・・・逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ!!!)

 

「だぁぁぁぁぁあ!!」

 

東宮は果敢にも竹刀を構えて、ワタルンに突っ込んでいく。 しかし・・・

 

ガシッ

 

 

ワタルンが東宮の頭を鷲づかみする。 当然、背の低い東宮の振るう竹刀はワタルンの胸の薔薇すら掠ることなく空を切った。

 

やはり「絶対」なんてこの世にはないのかもしれない。

 

「france paaaaahn!!」

 

バシーン!!

 

「ぶはっ!!」

 

今度はワタルンの攻撃。 フランスパンを東宮の頭に軽く当てた。

 

「cream paaaahn!!」

 

ベチャッ!!

 

「あべしッ!!」

 

ワタルンはどこからか出したのか、今度はクリームパンを東宮の顔に投げつけた。 既に東宮の顔はクリーム塗れである。

 

「pizza paaaaaaaahn!!!」

 

ベシーン!!

 

「ひでぶッッ!!」

 

まだまだワタルンのターンは終わらない。 またしても出所不明のピザパンを取り出し、東宮に叩きつける。

 

「坊ちゃまァァァァァ!! ウオォォォォォォォオ!!」

 

「お前、結構馬鹿だな・・・・」

 

ハンカチ片手に涙を流しながら見守る野乃原に対してテルが細い目で見た。

 

 

数分後。

 

「・・・・・・」

 

東宮はクリームまみれのピザまみれのフランスパンまみれの、取り敢えずパン塗れになって倒れていた。

 

既に胸の薔薇はクリームやら何やらで原形とどめなくしている。勝敗は明らかだろう。

 

「坊ちゃま、あなたは頑張りました・・・坊ちゃまは真の男に一歩近づいたんですよッッ!!」

 

そう賞賛を評する野乃原はパン塗れの東宮を担いだ。 

 

「おいアンタ・・・・」

 

「はい?」

 

立ち去ろうとした野乃原がテルに呼び止められ、足を止める。

 

「そいつの剣術の太刀筋だけどよぉ、荒いから直しとけよ。 怪我するからな」

 

テルの言葉に野乃原は一瞬驚いた。

 

「分かるんですね」

 

「まぁあんだけ見境なく振り回してればな?」

 

首をコキコキと鳴らし、テルはワタルンと共に野乃原に背を向けて歩き出した。

 

「・・・・これは面白い、やはり噂どおりでしたね」

 

誰もいなくなった後でフッと笑いながら野乃原は呟いた。 

 

 

野乃原・東宮ペア、リタイア。

 

 

 

「お嬢様、なんだかんだで僕たちトップですよ」

 

「むぅ、私もここまで上手く事が運ぶとは思わなかったぞ」

 

ハヤテはナギを抱えながら走る。 ナギもこの態勢には慣れたようでもう気にしてはいなかった。

 

「この橋を渡れば、後はゴールまで一直線です!!」

 

ハヤテの目の前には一本の橋が。 下は谷底、真っ暗で何も見えない。 

 

(ここを渡りきれば勝てるのだな!!)

 

本来なら、いつも高すぎて怖いと思ってしまうナギも「優勝」という二文字の前に興奮を抑えれなかった。 その興奮が、一時的にも恐怖とは無縁にさせている。

 

だがしかし、こういうシチュエーション。

 

「待ちなさい、そう簡単に行かせる訳にはいかないわよ!!」

 

ラスボスが付き物だ。

 

「ヒナギクッッ!!」

 

橋を目の前にして後方から追ってくるように現れたのは息を少しだけ荒くしたヒナギクだった。

 

「ひ、ヒナ・・・み、水・・・もう無理・・・」

 

「あ、はい美希」

 

しかしその側の岩場に寄りかかるようにペアの美希が涙目でヒナギクより荒い息遣いで座り込んでいた。

ヒナギクは慌てて給水ボトルを手渡す。

 

「と言う訳で、ここを通すわけにはいかないの!!」

 

((人選ミスじゃないか?))

 

ナギとハヤテもこのヒナギクの誤算は一目見ただけで分かった。

 

「そんな事よりハヤテ君、あなたこのレースが終わるまでずっとナギを抱えたままでいるつもり?」

 

ヒナギクが呆れたような表情でハヤテを見る。

 

「まぁそのつもりですけど・・・・」

 

ハヤテはゆっくりとナギを地面に降ろす。

 

「でもハヤテ君が全部ナギを抱えてゴールしたとして・・・それはナギの為になるのかしら?」

 

ハヤテの言葉にヒナギクはナギ自身に問いかける。

 

(お嬢様の為・・・・そうだ、もともとこれはお嬢様の運動嫌いを少しでも無くす為・・・・)

 

ハヤテは今更になって気づかされた。 最初こそはナギの運動嫌いを無くすためのキッカケを作り出そうとしていたが、自身のクビもかかってしまってからは自分の為に、と目的が変わっていた。

 

「だ・・! だが走れないのは走れないのだ!! みんながヒナギクのように完璧ではないのだ!!」

 

流石にナギの意見も一理ある。 ナギとヒナギクの運動力を比べるのは、まさに天と地の差だ。

 

「・・・それでも」

 

ヒナギクはすこし神妙な顔で続ける。

 

「苦しくて、辛くて、死んでしまいそうな思いのその先に、何者にも変え難い喜びがあったりするのよ」

 

ヒナギクは言う。 もう駄目だ、できない、その境地を乗り切った場所に大きな喜びがあると。それは抱えられたままのナギには決して味わえないものだ。

これを聞いて戸惑うのはもちろんハヤテだ。

 

(確かにこのままではお嬢様の為にならない・・・でも負けてお嬢様に借金を返すことができなくなってしまっては・・・!)

 

「それでも一位にこだわる姿勢は嫌いじゃないわよ?」

 

(どっちだー!!)

 

付け加えたヒナギクの言葉にハヤテは更に困惑するが、すぐにもとの冷静な顔つきに戻り、ナギに言った。

 

「この橋を越えれば後は元のコースに戻って、そのままゴールへ一直線。 先に行ってください・・・」

 

ハヤテはどこからともなく箒を取り出す。

 

「僕がヒナギクさんを足止めします・・・」

 

「へぇ、でもナギの体力で辿り着けるかしら?」

 

ヒナギクが今度は挑発するように薄い笑みを浮かべる。 なんかさっきと言っている事が逆な気がするが。

 

「大丈夫です。 僕の鍛えた(二日間ほど)お嬢様ですから!!」

 

(ハヤテ・・・)

 

ナギも自身の顔を両の手でぱしっと叩き、渇を入れた後、走り出した。

 

「じゃあグズグズしてられないわね・・・・一気に行くわよハヤテ君!!」

 

ヒナギクが竹刀を構えて地を駆ける。 鋭い剣筋でハヤテをわき腹めがけて切りつけた。

 

「分かりました! いくらでも向かってきてください!!」

 

ハヤテは体の痛みを押し切ってヒナギクの一振り一振りを紙一重で避けていく。 

 

『おーっとここで燃えるようなラストバトルが勃発だーーーーっ!!』

 

『もうコメディー小説じゃないですね・・・・』

 

実況側も最早お手上げといった感じである。

 

しかし、そんな実況たちを置いてけぼりにして戦いは続くのだ。

 

(大丈夫、幸いにもこの戦いには一つの勝機がある!!)

 

ハヤテは柄にもなく薄く笑うとまるでヒナギクをある所へ誘導するかのように距離をとり始めた。

ヒナギクは逃がすまいとハヤテを追いかける。 そして・・・

 

「ただし・・・」

 

ハヤテがヒナギクを誘導した場所。

 

「つり橋の上ですけど・・・・」

 

「・・・・・・」

 

それはつり橋の上だった。

 

皆さんもお分かりと思いますが、ヒナギクは極度の高所恐怖症である。

 

「・・・・・」

 

どこまでも続く暗黒の世界、ヒナギクは石のように固まってしまった。

 

「・・・ちょっと揺らしてみたりして」

 

「キャーーー!! バカバカ動かないでよ!!」

 

悪戯っぽく端のロープに手を掛けるハヤテを見てヒナギクは涙目になりながら崩れ落ちた。

 

「ヘンタイ! バカ! いじわるーーーっ!!」

 

「なんとでも言って下さい。 僕はお嬢様の為なら鬼でも悪魔でもなりますよ」

 

その時のハヤテは悪魔の笑みを浮かべていたという。

 

(お嬢様、後は頑張って!!)

 

ハヤテはナギの走り出した方向を見てその無事と成功を祈った。

 

『いや~ここまで来てまさかの三千院家とは・・・』

 

『ええ、やはり自分の予想通りでした・・・』

 

『ですがまだ終わってないらしいですよ?』

 

実況側もなぜか盛り上がっている。

 

その時、ハヤテも気づいたのか橋の入り口に視線を戻した。

 

「ラスボスを倒したその先の・・・真のラスボスってのは知ってるか?」

 

黒い短髪の髪に死んだ魚のような瞳。 

 

善立 テルその人である。

 

「テルさん・・・・」

 

ハヤテも真剣な表情でテルと向き合った。

 

「巻き返してやったぜ・・・そこ、通してもらえねぇか?」

 

「できません・・・・」

 

ハヤテは返す。 そして箒を構えた。 

 

それが合図だったかのように、テルも野乃原から拝借した竹刀を構える。

 

「簡単な理屈だ---」

 

「同じ目的を持ったもの同士が競い合う時、この場合は---」

 

「即勝負だろ?」

 

互いが不敵に笑う。

 

「多分、初めてテルさんと戦うんじゃないかと思います・・・・」

 

「まぁそうだろうな・・・・」

 

(一回だけあるけどあんときは踏んだりけったりだったけどな)

 

思い出すだけでもイライラが湧き出てくる。 うんホント、その借りをテルは返さなければならない。

 

「一瞬だ」

 

「?」 

 

テルの言葉にハヤテは疑問を浮かべる。

 

「多分、打ち合いにはならねぇ・・・一回きりの・・・それで決まる・・・」

 

「なら、始めましょう・・・」

 

ハヤテは先ほどのテルの言葉が気になっていたが、すぐに雰囲気に戻した。

 

互いが武器を構えて・・・・

 

「行くぜ・・・・」

 

テルが呟いて、ハヤテに向かって走り出した。

 

 

 

ボード表。

 

一位 三千院家

 

二位 生徒会

 

三位 テル

 

四位 先生ペア、千里(リタイア?)

 

 

そして戦いは最高潮にッッッ!! 


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