ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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今回もオリジナルで伊澄とのお話になります。 あと一本くらいオリジナルを挟んで原作に行きたいと思いますので。 最近の悩みは金欠。


第20話~鳥目の人は夜に懐中電灯忘れずに~

―水。

 

我々が料理、掃除、補給などに利用されるこの液体は、人間の体内にも流れている。

 

人間の文明が今日発展してきたのは火、木、大地、水があったからだろう。

 

水車、ダムによる発電の働き。 水は私達人類にとって掛け替えのないものなのだ。

 

―しかし、人類の宝とも言える水は時に洪水、土砂災害などで人類に牙をむく。

かくいう、善立 テルの目の前に巨大な津波がやって来ていた。

 

巨大な波がテルの全身を叩きつけた。 体は意図も簡単に飲み込まれて泳ぐことも叶わない。

 

 

そうッ! 人類はその宝を自ら汚し、壊していたのだッ!

 

(ゴボコバゴボ……)

 

 体がどんどん沈んでいく。 世界は間違ってしまったのだ。 宝は大切にしなければいけないのに、金庫に保管することもしない。

 土壌汚染、水質汚染、宝である水が汚されているではないか、人間の手によって

人類は自然に、偉大なる自然に感謝し、見つめ直さなければならない。

 

(………ッッッ)

 

そう感じながらテルは深く、光を灯さない、漆黒の闇へと落ちていった。

 

「………」

 

目を覚ますと、テルはガバッと体を起こした。

 

「おはようございますテル様……」

 

聞き覚えのある声がしたテルが重たい瞼をこすり向けるとそこには伊澄がいた。

 

「アレ? 俺は大自然の恐怖を身をもって体験していた気がしたんだけど……」

 

「どんな体験ですか?」

 

伊澄が神妙そうに尋ねる。

 

「いや、スゴいのなんの……これから地球に起こりそうな世界規模の津波が……」

 

 ここであることに気付く。 伊澄がいる事もそうだがよく周りを見ると外なのだ。

あと自分の体もビッチャリと濡れている。

 

「なんで俺水浸しなの? 嘘だろ……俺もう十六だぞ……?」

 

「あのぅ、これには訳が……」

 

「なんだよ……あざ笑うなら笑えよ……俺は地獄に落ちたんだ……」

 

顔に手を当てて黄昏ているテルに伊澄が口を開いた。

 

「えっと…何を勘違いしてるか分かりませんが……テル様がなかなか起きてくれないので、冷水を掛けさせて頂きました……」

 

「なに? お前オレに恨みでもあんの?」

 

バケツ片手の伊澄を見てテルはひとまず安心する。

 

「でもなんでここまでして起こしに来たんだ? そんなに急ぎのようだったのか?」

 

改めて疑問に思っていることを伊澄に聞いた。

 

「えっと…そのぅ……」

 

伊澄は少しオロオロしながら続けた。

 

「一緒に来て頂きたい所があるんですが……」

 

「あン? こんな夜中にか?」

 

「はい……」

 

伊澄はコックリと頷いた。

 

 

 

 

「んで? 夜中に俺を屋敷から連れさらい、どこに行こうってんだ?」

 

場所は変わり、伊澄の車に移る。

 

「実は、白皇学院まで一緒に来てほしいんです……」

 

「白皇にィ?」

 

テルは顔を少し歪ませて言う。 なぜこんな時間に学校に行かなくてはならないのか、理由が分からなかったからだ。

 

「なんで?」

 

テルがそう聞くと

 

「それは後々お話します。 了解してくれますか?」

 

伊澄は突然キリッとさせてテルに言うが

 

「イヤだ」

 

「え?」

 

あっさり断られた。

 

「イヤ、実際だるいし、つーか俺眠いんだけど。 なんも事情を説明無しで了解しろっていうのは無理だわ」

 

 

「えーとその……」

 

伊澄はなんとか事情を話そうとするがなかなか言葉に出来ず、指を動かしていた。

 

「大体、俺の事情も考えないでそういう話をするのもどうかと思うよ普通」

 

「あ…すいません……」

 

 テルの言葉に伊澄はシュンとした表情を見せる。

テルはバツが悪そうに思ったのか頭を少し掻くと

 

「……しゃあない、誰にだって事情はあらぁ、今回は聞いてやるよ」

 

「本当ですか?」

 

 伊澄はいつものようにゆっくり話すが口調はどこか明るくなっていた。

それを見てテルは安心しかのように小さく息を吐いた。

 

夜の学校、白皇学院。

 

「こ、これは……」

 

 車から降りた伊澄とテルは白皇学院の旧校舎前に来ていた。

テルは旧校舎を見て顔を真っ青にして見ている。 そのただならぬ雰囲気に

 

「ゴメン、やっぱり無理」

 

「お待ち下さいテル様……約束が違いますよ……」

 

クルッとUターンするテルの執事服を伊澄がガシッと掴む。

 

「イヤイヤ! おかしいって! なんだよアレ!? 昼間と明らかに雰囲気が違うだろ!? 明らかに出そうじゃん!? どこのホーンテッドマンション!?」

 

テルの言うとおり、旧校舎の雰囲気は昼間と打って変わっていた。 暗い世界が洋風の校舎を恐怖の館へと変化させていた。

 

「まさか……テル様、幽霊が」

 

「イヤ、イヤイヤ、イヤ? 違うよ? 別に怖くなんかないよ? 俺が別に幽霊を怖がる訳ないじゃん。 何を言っているんだ伊澄君は」

 

「テル様……後ろ」

 

バッ!

 

「…………」

 

伊澄の言葉にこれまでにない反応速度を見せたテルは素早く車の真下に潜り込んだ。

 

「…………」

 

伊澄はじーっと見つめる。

 

「いや、これはな伊澄、ここからムー大陸に行けると思ってな……」

 

テルは車の真下からゆっくりと辺りを見渡しながら這い出てくる。

 

「………」

 

明らかに恐がっている。そう確信した伊澄だった。

 

 

「んで? その仕事ってのはなんだ?」

 

「えーっと……テル様に手伝って欲しいことがあります」

 

「ほぅ……」

 

ゆっくりと言う伊澄をテルは腕を組ながら聞く。

 

「私の悪霊退治を手伝ってもらいたいのですが……」

 

「はい?」

 

悪霊退治? という単語にテルは目を丸くした。

 

「この旧校舎にはとても有害な悪霊が住み着いていると聞きました。 だからこれからテル様は私のサポートを……」

 

「ちょッ、た、タンマタンマ!」

 

テルは不可解な伊澄の発言に話を中断させた。

 

(幽霊? マジでいるの? イヤイヤおかしい。 いくらこの小説がなんでもアリだからってそれはないだろ?)

 

心のそこからテルは幽霊の存在を否定する。 伊澄はその反応こそが不思議だといった感じで

 

「ふつーに居ますよ? 幽霊は……」

 

とテルに言う。

 

「おかしい、絶対におかしいッ! 伊澄ッ! それはイカンッ!そんなオカルト紛いの現象を信じちゃイカンッ! 夢を思い出せッ! お前が望んだ世界はそんなんだったのかァァァァッ!」

 

テルは伊澄の両肩を掴みブンブン揺らす。 なんとしても幽霊の存在を認めたくないらしい。

 

(どうしよう……テル様に分かって貰える為には一体どうしたら……)

 

揺らされる中、伊澄はテルに自身の仕事を理解してもらう方法を探していた。

 

 

ハッキリ言ってしまった結果、若干の、イヤ、半端ないほどの衝撃を与えてしまった。 ならばどうするかと考えていた時。

 

「……テル様、そこを少しどいてくれませんか?」

 

途端に伊澄の目が細くなり、強張った表情になった。

 

「なんだ?出たのか? 」

 

「はい……」

 

「どこに……」

 

 テルがそう呟いた時、肩にガシッと何かが捕まった。 その瞬間、体が冷気を浴びたように冷えていくのを感じた。

喉を鳴らし、ゆっくりと振り返ると……

 

 

「お前の後ろにダアアアア!!」

 

「ギャアアアアア!」

 

テルの目に映ったのは鉞を構えて今にも振り下ろしそうな男。 物凄い形相でテルに飛びかかった。

 

「はい……除霊っと……」

 

 伊澄は幽霊の動作に全く動じず、袖から一枚の札を取り出し投げつけた。

ヒラヒラと飛んだ札は幽霊の額に当たるとバチッと音を立てる。

 

「オオオオオオオオオッッッ!」

 

幽霊は苦痛の表情を浮かべてポンッと音を立てて消えてしまった。

 

「……………」

 

「信じて貰えますか?」

 

その光景を眺めて呆然としていたテルに伊澄はニコリと笑いかける。

 

 

「……やっぱ帰っていい?」

 

「ダメですよ? 約束を破る気ですか?」

 

「約束?」

 

はて? という表情を浮かべていたテルだったが、一つの出来事を思い出す。

 

─サンキューな! 今度なんかお礼しなきゃならねぇな

 

 

「アッ───!」

 

(たしかそんな事いってたような気がするけど! イラン伏線回収しやがって!)

 

だがっと頭をブンブン振り、改めて否定する。

だ、だけど伊澄く~ん、テルさんよく分かんないから死んじゃうよ~、さっきみたいなのがいっぱい居たらテルさん間違いなく死んじゃうよ~?」

 

「マリアさんに『テル様をお借りしてもいいですか』と頼んだ所、『どうぞ、寝たまんまですが連れてって下さい♪用事が終わるまで屋敷に帰さなくて結構です♪』と言っていました……」

 

 その言葉を聞き、テルは再び硬直した。

最早自身に逃げ道はないらしい。

 

 目の前には幽霊の館、屋敷に帰ればマリアが待っている。

正に前門の虎、後門の狼だ。

 

 

「……ハイ、行きます……行くしかないんだろ?」

 

「はい……ではこちらに……」

 

二人は旧校舎に向けて歩いていく。 テルは顔の生気がなくなり、白眼をむいてひきつらせていた。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、二人は知らない。

 

この夜、旧校舎には伊澄とテル達だけの人間がいる訳ではなかった。

 

 

 

「えーっと、取り敢えずお嬢様のノートがある四階にッてアアアアアア! 床が抜けたァァァァ!」

 

床が抜けて下に落ちていく執事しかり……

 

 

「でも、もしかしてケガとかしてるかもしれないし、大丈夫、私オバケとか平気だから。 じゃ、 しっかり勉強しておくのよ?」

 

 

床に落ちた執事を心配して旧校舎に飛び込むたくましい生徒会長しかり……

 

今宵、旧校舎には客がいっぱいだ……色んな意味で……だ。

 

 

 

 

 




テルと伊澄の奇妙な関係を抱いた夜の旧校舎篇。 この話を機に、テルと伊澄の関係が少しだけ変化したりします。

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