ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
ここは東京練馬区のどこかにある街。
年始の忙しさ目立つ今日この頃
「出てけやこのボケェェェ!!」
東京の寒空に男の怒号が響き渡る。 それと同時にラーメン屋から一人の少年が吹き飛ぶ形で放り出された。
「痛ェーなコノクソジジィィ!! いきなり出てけったぁどういう事だ!」
中から放り出された黒髪、短髪の少年は体を起こして声を上げる。
「どういう事もそういう事もねぇんだよ!! ラーメンの修行に失敗した奴はつまみ出すって約束しただろーが!!!」
店から出てきたのは白髪の老人だ。 そのラーメン屋の店長と思われる人物は眉間にシワを寄せ、額に青筋をうかべている。
「゛1ヶ月で俺が認めたら雇ってやる゛ ってのが約束だろーが! まだ一週間すら経ってねーよ!!」
少年は今にも飛びかかってきそうな勢いで老人に近づくが、老人は怯まず返す。
「そうとも、だがテメーの作ったラーメンは……何だコレはよォォォ!! 黒いぞコレ!?ソバじゃねーんだぞ!? 客から苦情と救急車の電話でイッパイだァァァ!!」
その少年の目の前に彼が作ったラーメンを差し出す。 ラーメンの麺は黒く、スープは何故か紫色だった。
しかし少年は冷静に。
「オイ、ジジィ違ェーよ。 それはアートだ。 俺の伝説的な技術故の色合いだぞ」
「口で言ってる割に鼻つまんでんじゃねーぞガキ。 だから4日で辞めさせてやるんだよ」
店長は服のポケットから何かを出すと少年の目の前に落とす。
チャリーンと寂しい音が響く。
「ナニ…コレ?」
少年は目を細めて落ちた何かを見つめる。
「何も一人で記憶喪失のお前を無一文で追い出すわけにはいかねぇ。 4日間の給料だ。 分かるな? 俺の慈悲よ」
店長は煙草に火をつけてくわえる。
少年は拳プルプル震わせて叫んだ。
「五百円じゃねェェェかァァ!! 記憶喪失で住む所も名前もねぇ奴に五百円でどう暮らしてけってんダァァァ!!」
その怒号にすかさず店長も反応する。
「知るかボケェェェ!! こっちは慈善事業じゃねーんだよ!! これ以上ここに居座んなら営業妨害で警察につまみ出すぞクソガキィィィ!!」
「チクショオォォォ!! 覚えてろジジィ! もし俺が死んだら三途の川にやってきたアンタを沈めてやるからなァァァ!!」
少年は希望のないお金を握ると猛ダッシュでその場を離れていった……
事実、ここに記憶喪失で名無しの少年の無職生活が始まったのであった。
―我が輩は少年である。 名前はまだ無い。
前回の話から彼は記憶喪失である。 自分の名前は勿論のこと、両親、ラーメン屋で雇われるまでの記憶も覚えていない。
ことの始まりは九十九里浜を散歩していたラーメン屋の店主が浜に打ち上げられている少年を保護したことから始まり……まぁそんな事はあとからやっても言いが少し省いて。
一週間の生活の後、ラーメン修行の話を聞かされ、成功すれば寝床を確保できたのだが……
彼の料理は常人よりも一線を越えており、それ故に1ヶ月の予定が4日という事になったのだ。
彼は今、絶望的な状況にある。
「あ゛ー、500円じゃ一日持たねえぞ」
店を出たのが昼過ぎだったが今はもう空は紅色に染まりつつある。
「あのジジィめ、これでどう生きてきゃあいいんだ。 今時500円なんて1000円より儚ェーよ。俺あんま使わないもん。絶対1000円より溜め込むクチだから」
手のひらの500を見つめながら歩く。
「500円あれば10円ガム50個買えるって意味ねぇか……ん?」
ふと軽快な音楽が聞こえる方に顔を向ける。
その時だ。彼の闘争心をたぎらせるものが見えたのは
少年が見たのは電化製品店に売られている大きなテレビだった。 が、気になったのテレビの内容である
~夕方の東京ニュース~
「今日午前未明○○区で誘拐事件が発生しました。 誘拐事件の現場に聞いてみましょう。結野アナ、結野アナ」
「はい、犯人は黒いリムジンの二人組、未遂事件となりましたが未だ逃走中とのことです」
それ以上の内容を少年は聞くまでもなかった。 「誘拐」と二文字が聞ければ後はどうでも良かった。
─誘拐。オイ、誘拐。二文字の裏にあるこの魅力はなんだ? 一獲千金とか出来ちまうのかコレ? 億とか貰えたらハーゲンダッツいくつ買えんだコレ?
少年は理解した。 これをやり切ればまさにキャッチザドリーム。 ドリームザキャッチ。
しかし心のサイレンに少年は思いとどまる
─誘拐は犯罪です。
そうだよオイ、捕まったら最後、出所しても前科持ちの人間を雇ってくれるだろうか……
─誘拐は犯罪です。
仮にも俺、メインだぞ? メインはこんなことしていいのか?
─誘拐は犯罪です。
なんか変な声がするな……
─誘拐は犯罪です。
つーかそろそろ止めない? イライラしてきた……
─誘拐は犯罪ry
「うるせぇぇぇえ!!」
頭のなかのサイレンをシャウトする
「男は度胸! 挑戦心をいつも持てってジジィもいってた。 だったら話は早い。そこらの店で軍手とロープを……」
適当な理由で自分のする事を正当化するのは止めましょう。
そしてロープ、軍手を揃えたわけだ。
端から見れば変人に見えるかもしれないがその瞳は確固たる決意が見えた。 そんな少年の手にはヤキソバパンが握られている。
「このヤキソバパンは聖なる作戦、聖戦に勝つための景気付け品で……」
―結局ジジィみたく小さい店でコツコツやっててもどうにも出来ねぇこともあるじゃねぇか。
追い出されたラーメン屋のことを考えながらヤキソバパンを口に運ぼうとするが
ふと目に映った光景に手の動きを止める。
「うっ、ぐす……」
「おいおい泣くなよ」
少年の視線の先には泣いている男の子とその子を泣きやませようとする少女が見えた。
「どうしたどうしたぁ、自分より弱そうな奴虐めてお前はジャイ○ンか?」
一旦自分の目的を忘れて少年は少女に問いかける。
「なんだお前は、別に私が泣かした訳ではないのだぞって誰がジャイ○ンだ!! 私には三千院ナギと言う名前があるのだ!!」
金髪ツインテールの少女ナギは目をつり上げて少年に反論するが少年は続ける。
「いかんよ君、ジャイアニズムかざしてっと最終的にス○夫みたいな奴しか友達ができなくなるぞ」
「お前は少し人の話を聞けよ!!」ナギは少年に突っ込む。 そして男の子の頭を撫でるが泣き止まない。
「親と離れてしまったらしいのだ。 親が安物求めている間にはぐれてしまったらしい」
その言葉を聞き少年は頭を掻きながらため息をつき、
「虐めじゃなかったのか……」
「だからそうだと―」
ナギが言い終わる前に少年は泣いてる子にヤキソバパンを差し出した。
「の○太……」
「いや、お前名前知らないだろ」
ナギは突っ込むが少年は続ける。
「男の子は簡単に泣いちゃいけねぇのよ。 ホレ、このヤキソバパンやるから母ちゃんと思って食え」
「お前パンを母親に見立てるなんて無理あるだろ。 最後なんて母親食えって言ってるもんだし……」
なんだかんだでヤキソバパンを食べた男の子は笑顔になり泣き止んだ。
その後、母親も戻ってきて仲良く帰っていった。
「まったく……もう少しマシな言い方はできないのかお前は?」
親子が去っていくのを眺めながらナギは言う。
「バカヤロー、男ってのは物心ついたらテメーでテメーを育てていくもんだ。 最終的には自分が変わるしかねぇんだよ」
少年はナギの言葉を素っ気なく返す。
「そんな理不尽なこと言われても分からん……ハヤテとは大違いだ」
今この場には居ない人物を思い呟くナギ。
「なに? ハヤオがどうしたって?」
「何でもない。 お前名前は?」
少年に突っ込むのも疲れたのかナギは少年の名前を聞いてきた。 当然、少年には名前は無い。
少年はふと考え込み。
「……エドワードとでも名乗っておこう」
勿論偽名である。 ナギは変な名前だなといった感じで少年を見ると
「ふむ。 ではエドワードよ、私は帰る。 さらばだ」
帰るといっても今のナギには付き人のハヤテが居ない。 どうしてこうなったかは第1話を参照。
ナギが去って行ったのを見ると少年は自分のしたことに気づき手を顔に当てて呟いた。
「アレ? なんで俺大事な食料あげちゃたの?」
頑張れエドワード(仮)