ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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大分遅れましたが帰って来たよ。 大ジョブ、完結するまではシネナイヨ。


第139話~終わりの始まり~①

―――――君は知るだろう・・・・・決して抗えぬ事が出来ない運命が存在していることを。 命を懸ける約束など巨大な運命の中では小さく、無力なものなのだということを。

 

―――――先の未来と戻らない過去が、紡ぎ出していくこの先の物語。 一人の少女の暗い闇夜を切り開き、その先の未来を掴みとる・・・・・それが彼を、犠牲へと駆り立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~生徒会室、天球の間~

 

「・・・・・どうしたの? 黒羽さん」

 

 

 原稿用紙にペン先を走らせていた黒羽舞夜のペンが停止したのは白皇学院の生徒会長、桂ヒナギクによって呼び止められたからだった。

 

「どうしたの、というと? ヒナギクさん」

 

「いや、急にどこかのケイ素系ポエムおじさんのような語りの文章が用紙に書いてあったから・・・・」

 

 ヒナギクが注視したのは原稿用紙に書かれた黒羽の奇妙な語りであった。

 

「たかだが生徒会の勧誘ガイドの文章なのに、そんな不吉な語りで始まったら誰かいなくなりそうじゃない。 入会希望者が人じゃなくて金色のケイ素体だったらどうするのよ」

 

「そうなったらヒナギクさんに対話してもらいましょう。 木刀正宗で平和的解決を図るのもありです」

 

 もはや最強戦力であるヒナギクが武器を持つというだけで平和的な対話とは程遠いものを感じるのは言うまでもない。 

 さて、簡単にこの状況を説明すると桂ヒナギクは今年の生徒会に所属希望する新一年生に配るパンフを生徒会メンバーで作成する予定ではあったのだが、三人組は補修で現在、姉である桂雪路と一緒に居残り。 頼みの綱の千春も急用の為、生徒会を休むことに。 

 

 そうなればヒナギクが一人でやらなければならない。 別に一人でやる事自体、難しいことではないが気が重いのは確かだ。 そんな時に事情をどこかから聞きつけて黒羽がやって来てこう言ったのだ。

 

 

『ほほう、ヒナギクさんお困りのようですね。 こんな私で良ければお手伝いをいたしましょう、さぁ私を生徒会室まで連れて行くのです』

 

 後半に何故命令されることになったのか疑問ではあったのか、そしてヒナギクが断ろうとしたのだが黒羽が食い下がって来たのでヒナギクは彼女の申し出を受け入れるしかなかったのである。

 

「ちなみに、この原稿用紙は私が遊んでいただけのものです。 完成した物は既にこちらに」

 

 あるんかい。 と、差し出された4~5枚の用紙を出しだしてきたのを見ると同時に、全てがまともな内容であったので感心していた。黒羽はヒナギクと同じくらい成績が優秀だ。 以前から白皇の二年の中では桂ヒナギクと黒羽舞夜ではどちらが頭が良いとか、人気があるのかと今ホットな話題となっているが、定期テストはまだ先だし、どちらが人気だとかと言うのもヒナギク本人にとってはどうでも良い話である。

 

「内容も新入生に向けて分かりやすく要点を纏めて書かれているから文句の言いようが無いわ、流石黒羽さんね。これならあまり訂正いらないわ」

 

 ガイドの一番上に書いている”超絶美少女、桂ヒナギクの名の下に集え!!”という煽り文句だけは取り敢えず訂正しておくとして、ヒナギクは予想以上の仕上がりに安堵していた。 生徒会三人娘とヒナギクで取り組む仕事では基本ヒナギクが大部分の仕事を担っており、仕事の配分は8:2とあまりにも効率が悪い。 だが黒羽との作業では明らかに程よく分けられて、圧倒的な時間効率で仕事を進めることが出来た。 

 

 

「仲間がいるって、本当に素晴らしいことなのね・・・・やば、わたしったら泣きそう」

 

 これまでの負担が一気に減ったことを実感で出来たせいか、ヒナギクは仲間という存在の大切さを改めて知った。一人でやるよりも、やはり皆で物事に取り組んだ方が良いものだ。

 

「喜んでいただけて、私としては満足です。 この前のお礼もしたかったですから」

 

 放たれた黒羽の言葉に違和感。

 

「ん? 私が黒羽さんにお礼をされるようなこと・・・・あったかしら」

 

「遊園地とか」

 

 記憶を遡ってみたものの、ここ最近の記憶で遊園地と言えば、あのハヤテとのデートで向かった遊園地だろうか。気前よくエスコートされていた立場だったがハヤテの電車代を貸すことになってしまうという最悪のオチで終わったあの日だ。 だがそこで黒羽や他の白皇の生徒がいた事実は無かった筈だ。

 

 疑問に残る表情をしているとその様子を見てか、黒羽が目を細めて言った。

 

「・・・・・いえ、忘れてください、私の間違いでした。 ヒナギクさんは廊下でバナナの皮で滑った私を王子様式お姫様抱っこで助けてくれたのでしたね」

 

「そんなことも無かったのだけれど」

 

 と、先ほどの黒羽の何かを確認するかのような問いに引っかかる物を感じながら、考え込むようにソファに座り込む。 だが、そんなヒナギクが座る目の前のテーブルにティーカップに注がれたコーヒが差し出された。

 

「あら、このコーヒーは・・・」

 

「ああ、勝手に淹れさせて頂きました。 屋敷での仕事のせいか、こういうのをやりたくなってしまってつい」

 

 ああ、そう言えばこの人は一応使用人なのね、とヒナギクがそう思ったのは彼女、黒羽舞夜が一般人から見たらとても給仕をするような人間には見えなかったからだ。 彼女の風格はお子様のナギとは大きく違い、気品に溢れて、どこか消えそうな儚さと朽ちる事のない優雅さを併せ持ったお嬢さまというポジションが似合うのである。

 

 コーヒーを一口して、独特のコクと匂いを堪能しながら肩から力を抜いて、ヒナギクは脱力するようにソファの背もたれに身を預ける。 今日まで忙しく気を張っていたのだがこのコーヒーを飲んで無理にでも力を抜かせてくれるような、魔法をかけられるような、そんな感じた。

 

「うわぁ、油断したら一気に寝ちゃいそう・・・・・」

 

「別に寝ても良いのです。 今は放課後で、ヒナギクさんは大量の生徒会の仕事を全うしていたのですから。 ただその後私が写真をとって校内にばら撒くとしても許していただきたいですがね」

 

「絶対寝ない!! ミンミン打破!リポD!! モンスター! 数々の栄養ドリンクを飲んでその醜態だけは回避するわ!!」

 

 生徒会長である自分が、まずそれ以前に寝顔が校内にばら撒かれるなど羞恥プレイの何物でもない。 見た目によらずなかなか鬼畜な考えをしていると思ったヒナギクである。

 

 

 でも、とヒナギクは心の中で呟いてその先の言葉を口にする。

 

「楽しそうね、黒羽さん」

 

「たのし、そう・・・・・ですか」

 

 飲み終わったカップを片付けようとする動作がピタリと止まる。 不意を突かれたような、キョトンとした顔の彼女は再びカップを手に取るとなにか考え込むようにまた動きを止めた。

 

「ん?」

 

数秒ほどの間を空け、ヒナギクがそう唸った時に立ち呆けていた黒羽がカップをテーブルに置いて自身もソファへと座り込んだのだ。 いつもの無表情とは違うどこか不安を感じているような表情で彼女は一言。

 

「そうでしょうか」

 

「すごい間があったことに突っ込むべきなのだけれど・・・・・まぁそうね、転校初日よりは絶対楽しそうにしていると思うわ」

 

 

 黒羽舞夜が白皇学院にやって来た当初、ヒナギクの彼女に対する評価はあまり良いものではなかった。 ナギを攫い、テルが苦戦を強いられるほどの冷酷無慈悲な戦闘マシーンが記憶喪失でやって来た等と信じられなかった為テルには内緒で怪しい動きを見せようものなら自身が正宗を駆使して対処するつもりでいたほどだ。

 

 だが、体育の授業を欠席したり、実際に目の前で倒れられたりする光景を見たりしていくうちにその話を信じざるを得なかった。 あとは彼女の一応主であるナギがあまり恐怖を感じず、むしろ仲良く接している事が黒羽を危険人物であるという考えを無くさせたのだ。

 

 

「私は・・・・実感があまり持てません。 今でもクラスの事はよく分からなくて・・・・口数は増えたと思いますが、友人は・・・・」

 

 

・・・・それは私すら友人に入っていないという意味ですか黒羽サン。

 

 ダウン気味に喋る黒羽に内心ちょっと傷ついたヒナギクだった。 どうやら黒羽は自分自身の変化にあまり気づく事が出来ていないようである。 それが実感できていないから、自信を持てていないのだろう。

 

 

 席が隣だという事もあって黒羽とは授業、お昼、移動などで顔を合わせる事が生徒会三人組よりも多い。だからこそ、黒羽の魅力に気づく事が出来る。

 

 

 黒い長髪に透き通るような白い肌。 絵に描いたような黒髪美人で成績も優秀、ちょっとしたミステリアスさを持つ高嶺の花のような存在。 

 

 以前自分が入学当初にであった金髪の少女、天王洲アテネ、彼女に近いものを感じた。威厳とか、高貴さとかではなく儚さとかキャラとか、不思議系オーラいっぱいで。だがそれだけではヒナギクは惹かれない。

 

 

 

 

 

「泉がこの前言ってたわ。 ”舞夜ちゃんがね、お昼のお弁当のおかず交換でウィンナーくれたの! 前は交換してくれなかったんだよ!”って」

 

 いつもはテルや生徒会の三人組に毒を吐く黒羽の心の中にはちゃんと優しさがある。 当初ではあまり見られなかった他人と多く関わりを持とうと必死に努力しているのをヒナギクは知っているのだ。

 

「・・・・あれは私の苦手な辛い系のウィンナーだったので仕方なく泉さんに差し上げただけのことです。 ええ、そうですとも。他意はありません」

 

 そして、こうやってちょっと照れくさくなると意固地になって否定するのも彼女の魅力の一つだ。

 

「ふふ・・・・」

 

 黒羽が小さくそう呟いたのを見て、ヒナギクは目を疑った。 黒羽はそのまま続ける。

 

「実は今週の日曜日に泉さんたちとショッピングに行こうと誘われてまして・・・・いつもメイド服か白皇の服しかみたことないから、洋服を皆で買おうと言ってまして」

 

 

 いつもは無表情で戸惑いなどの表情しか見せたことが無かった黒羽が、

 

「私服は黒の洋服があるから別にいいって言ったのに、”それじゃ女の子らしくないよー、もっと可愛いの着ようよ!!”って言うんですよ、あんまりじゃありません?」

 

 笑っていたのだ。

 

「ヒナギクさん?」

 

「え? あ、ああ、うん! 聞いてる!」

 

 思わず呆気にとられてたのは言うまでもないだろう、ヒナギクにとってもその黒羽の笑顔と言うのは初めて見る物だし、なによりも年相応にとても可愛らしいものだったからだ。 男子生徒だったら確実に今の笑顔で堕ちている、ヒナギクがもし男だったら確実にそうなっている自信がある。

 

・・・・こんなの不意打ちだわ。

 

ヒナギクの中で黒羽の魅力がまた一つ追加された。

 

 

 

 

「不思議なことですよね、ヒナギクさん。 私、笑えるんだって分かったんです」

 

 一息つくかと思いきや、黒羽の言葉にヒナギクは彼女の顔を見る。 笑顔、ではないが穏やかな表情で目線は黒羽自身の膝辺りだろうか、彼女の指は組まれていた。

 

 

「素敵なことよ。 黒羽さ―――」

 

「これは」

 

続きを言おうとしたヒナギクの台詞を黒羽が遮った。 そして次には影を落とすように声色を低くし、

 

「私の為に命を懸けてくれた人が最後にくれた”願い”だから」

 

 彼女の意味深な言葉にヒナギクは戸惑いを覚える。 命を懸けてくらた人の最後の願い、それが叶ったから、黒羽が笑顔を取り戻すことが出来た。 それはまだどこかにある夢のようなお話で、黒羽が変に誤魔化しているかもしれないとでさえ思った。

 

「ヒナギクさん」

 

 静かな口調で彼女は続ける。 小さくお辞儀をしながら、 

 

「”楽しかったです。 今まで、ありがとうございました”」

 

「どうしたのよ。 お別れでもするみたいじゃない」

 

「・・・・・そろそろ私も帰ります。 屋敷からのメールで”今日は手伝いが多いから早く来てくれ”ってマリアさんが、迎えの車ももう来てるらしいですから」

 

苦笑して彼女はソファから離れるとヒナギクに向けて小さく笑みを浮かべて言うのだ。

 

「また、明日」

 

 

 その笑みはどこか悲しさがあり、見ているこっちが不安になるようなものだった。 この時の感覚をヒナギクは一度体験している。 彼女の本当の両親が居なくなった時のと同じものだ。 

 

「え、いや。 待って黒羽さん―――」

 

 今呼び止めなければ、彼女がどこかへ知らない所へ行ってしまうのではないか、そんな気がしてヒナギクは思わず呼び止めようとした。 だが、その時には既にエレベーターの扉は閉まっており、ヒナギクも追いかけようとしたが。

 

「え、ウソ・・・・なに、コレ」

 

 視界が揺れる。 疲れ目の時のように辺りを銀の光が点滅する世界に見舞われ、ヒナギクは追いかけようとした足を止めてしまった。 だがその現象は一時的な物で数秒経つとすぐに安定した視界がヒナギクの眼に入ってきた。

 

「何だったのかしら、今のは・・・・私、疲れてるのかな」

 

と、眉間を指で押したりして見て思い出したことがあった。 自分は今日は新一年生のパンフレットを作成して働き詰めだったのだと。

 

小さくため息をついてヒナギクは資料を纏めだす。 自分が書いたものと、なにやら書いた覚えのない文章があるが一心不乱に仕事を終わらせようとした自分が書いたのだろうと一人で納得する。 

 

 

そしてヒナギクはパンフレットをクリップで止めるとテーブルに置かれていたカップを、飲み干されて空となった二つのカップを見て首を傾げた。

 

 

「私、誰とコーヒー飲んでたんだっけ・・・・?」

 

 

 ヒナギクのの問いに誰も答える者はおらず、ただ天球の間の時計の針が静かに音を刻んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 おいおい、なんだコレ、ただのシリアスじゃねぇか! 

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