ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
ちょうど今Fateが始まってテンションが上がってるとか、そういうのもあって作業が進んでるのもあります。 一応第三章の元ネタだったりするのでw
時は遡る事、数時間前。東京都内某所、東京都を一望できる高層ビルの窓際のテーブルにて、四人の女が集っていた。 その内の一人であるハヤテの主、三千院ナギはPSPを起動させながら、この会食に付き合わされることになった者たちに問いかける。
「どうしてハヤテを借りたいのだ?」
隣では、ウエイトレスが客商売の鏡ともいえる接客テンプレスマイルでこちらのテーブルにあるグラスに注がれた。 中身は年齢的にもお酒はノーなので、ジュースである。
「うーん、一言で言えば、地雷撤去かな? マインスイーパー的な」
ナギをこの会食に連れ出したうちの一人、生徒会メンバーの花菱美希も同じくバックからPSPを起動させる。 一応食事をするところなのだが、みんな遊ぶ気満々だ。
「またなんかハヤテに変な事させる気だろう。 知っているぞ、動画研究部にはハヤテのいかがわしいシーンを集めた動画が眠っているということぉ」
依然、動画研究部に誘われていたハヤテが一日だけその身を預けたことがあった。 しかしその日の夕方、何故かぼろ雑巾のようになったハヤテが返ってきたのである。 彼はなんともないと言った感じだったが、これだったらテルを身代わりにしてやった方がよかったと思ったくらいだ。
そのくらいからか、この先輩たちが考える事は常に良からぬことなのではないのかと思っていたナギである。
「別に心配しなくていいさ。 なんにしても、地雷を撤去するには爆発させるのが一番さ」
「そうそう」
美希の言葉に乗っかるように理沙が頷いていた。 彼女も同じく赤色のPSPを起動させて、
「彼が返ってくるまで、このファミレスで我々が君の相手をさせてもらうのだ」
よし、集会所到着。 と、お互いが画面の中に集結する。 某ハンティングゲームの続編で、オンライン機能を用いれば、同じゲームを持っている者同士でゲームができるというものだ。
画面内ではナギのツインテの金髪少女が大剣を装備、生徒会メンバーは何故か豚の頭と怪鳥の頭を装備しただけで、後はインナー装備だけだった。
「狩りを舐めてないですか先輩方」
ちょっと頭を掻いてそう言ったナギだが、二人は親指を立てている。 分かってくれ、と言わんばかりに笑顔だが、その意図は全く分からない。
「あのー、ちょっとその点に聞きたいことがあるんだけど・・・・・」
その会話にこれまで介入してこなかった女がいる。 ヒナギクの姉、桂雪路だ。 美希たちが言う、ファミレスであろうこの広大な空間を見回して雪路は息を呑む。
「ここは都内でも五本指に入る超高級レストランでは・・・・」
「ああ、だからファミレスだろ?」
金銭感覚の違いを、雪路は感じたのだろう。お金もちの思考と言うのは全く持って理解できない。真昼間からキャビアやらフォアグラなどの珍味が堪能できるこの場所をどうすればファミレスと言えるのだろうか。
「多分あの席の皿にある黒い粒って多分キャビアでしょ? うわお、お子様ランチに飛騨牛!?」
じゅるり、ごくん。とどこかの飯を楽しむアニメのような顔に思わず涎が垂れる。凡人にとっては夢のような空間かも知れないが、ここをファミレス感覚で週利用するには、多分雪路の給料なんて霞むくらいの金額が必要なはずである。
「お客様・・・・・お飲み物をお持ちしました」
どこかのカードゲームアニメでバイクと合体しそうな顔をした執事服の男が飲み物を置いていく。 その男は颯爽と雪路の隣でメニュー表を取り出して見せた。
「お嬢さま方にはいつもお世話になっております・・・・・先生もワインなどでもいかがですか」
「・・・・・」
と、メニュー表を見た雪路の顔が固まった。 ずらっと映し出される商品名の数々。 百種類以上はあるのではないか。
次に気になったのは値段。ゼロが二つほど多くない? といった現象が下の商品に行けばいくほど増えていくのである。
こんなものを年下に、しかも学園の生徒に奢ってもらうなど、流石にマズイと思ったか桂雪路は、
「あ・・・・・み、水をもう一杯いいですか?」
「かしこまりました」
雪路は思う。 これは大人として、正しくあるべき姿なのだと、決して値段にビビったとかではないのだと。
○
「・・・・・なッ!」
闇の遊園地、白銀が作り出した結界内でヒナギクは呆気にとられたようにその目を大きく開いた。
確かにこちらの正宗による我突は白銀の頭部へと向けられていた筈だ。 それは距離的にも、ジャンプした後の跳躍を計算に入れたうえで、確実に直撃するものである。
そのはずなのに。
「どうして剣が空中で止まっているか、と? 簡単な話だ」
眼前の白銀からまたしても笑みがこちらに帰ってくる。 ヒナギクが突き出した正宗は白銀の頭部に届くことなく、その刀身をの先を額十センチの幅を開けて完全に停止させていた。
動かない。 まるで、強力な腕によってガッチリ固定されているように微動だにしない。
「言っただろう。 空間を固定して足場を作れると・・・・その足場は防御にだって使える訳だ」
そう言って、白銀はちょんちょん、突いたのは正宗の中腹の部分だ。
「この座標に、空間を固定してお前の正宗を止めた・・・・いや、実に危なかった」
「くっ・・・・・!」
強引にその拘束を振り解こうとして、ヒナギクの両腕に力が入る。 当然だ、こちらがダメージを負ったわけではないのだから、まだ勝負は付いていないはずなのである。
「残念だが、勝負と言うのはとうの昔に着いている」
まるでこちらの頭を見透かしたかのような返答にヒナギクはまたしても疑問を浮かべる。 それでも白銀は、まだ分かっていないのか、鈍い奴だと言わんばかりに肩を竦めると。
「下を見てみればいい」
「下って・・・・あ」
恐らくヒナギクは気づいていなかったのだろう。 分泌されるアドレナリンと、ひたすら上を目指していたという行動が、自分が今どういう場所にいるのかと言うことを忘れさせていた。
地上から約三十メートル。 白銀を追っていたヒナギクはようやくその失態を悟ったが時すでに遅し。
「わたし・・・高いトコ、ダメ」
桂ヒナギクは高所恐怖症だった。
○
戦闘終了。 そう心の中で告げた白銀は深く息を着いていた。
だがしかし、目の前から鋭い視線を感じる。 それは、年相応に可愛いというものではあるのだが、明らかにヒナギクは殺気を発していた。
「安心したまえ、私の力で君の足場は確保されている」
現に、ヒナギクは重力の作用で下に落下することはなかった。正宗は固定されて動かないままなら、ヒナギクは宙吊りになっている筈である。
だから白銀は親切にも、ヒナギクの足元に正座をして座れるくらいの空間の固定を行い、彼女が落ちないように施した。 そう、全ては親切な行いゆえである。
「何が足場よ!!」
怒号が返ってきた。
「下が透けてるじゃない! 私動けないじゃない! この変態! 痴漢! 馬鹿執事!! アナタもハヤテくんと同じで見た目は二ヘラって笑ってるけど中身はタチの悪い最悪な人間よ!!」
「マラソン大会の事を根に持っていたか・・・・・そこまでにしておいてやれ。 下でハヤテが泣いているぞ」
と、視線を下に移して腕で顔を覆っていたハヤテを白銀は見てしまった。 やはり、いつの時代でもこの男は不運極まりない。
「はっはっは! しかし、実に気分がいい。 罪滅ぼしと言ってはアレだが、未来のお前の事をちょっとだけ教えてやろう」
「み、未来・・・?」
涙目でぺたん、と固定された足場に崩れたヒナギクは白銀からその続きを聞く。
「”桂ヒナギク胸部徹底的強化失敗!”っていう新聞の見出しがあってな、大胸筋強化トレーニングマシーンのサンプルをやらされていたお前だったけど、一か月経っても全然変わらなかったってテレビでネタにされてたぞ」
桂ヒナギクは、未来では超有名人だ。 美人に箔がつき、剣道も世界レベルを圧倒する存在となり、その姿はお茶の間などにも取り上げられている。
「いやぁああああああああ!!!」
ヒナギクは絶叫した。 未来での自分がこのまま同じスタイルで、不変を貫いているということを知ったのだから。
「しかも成果を聞くときのお前のインタビューの映像、”これからこれから、まだまだ私には先があるから”ってカンペ無視して涙目で言ってたぞ。 俺、面白くてまだ録画してるから」
「やめてェ!! それ以上言わないでェ!!」
メンタルというメンタルを削られたヒナギクはやっぱりテルはテルだったというのを認識することになっただろう。 未来のテルである白銀としては高校時代に制裁を食らわされていた時期の仕返しができたと言った所だろうか。
・・・・・やり過ぎたかもしれんがな!!
だが後には引けない物で、ここまでやってしまったらあとはどうにでもなれというもの。 覚悟して、次の行動へと移ろうする白銀だったがその前に。
「色々と馬鹿をやらかして悪かったな」
「え?」
涙目だったヒナギクがこちらに反応する。 時間が惜しいから、白銀は言葉をできるだけ、簡単にして言った。
「俺、もうすぐ消えっから。 迷惑掛けたことも皆忘れるだろうけど、その前に言っとくぜ」
息をついて、言う。 変な顔はしてないだろうか。
「こんな形だけど、勝負出来て良かった・・・・じゃあな会長!!」
○
そう言って離れ落ちていく白銀を空中のヒナギクは見ていた。
去り際の一瞬だけ、彼が元の善立 テルに戻っていたのを。
――――俺、もうすぐ消えっから。
その意味は図らずとも、文字通り、この世界から消えるということだろうか。
やはり、最初から善立 テルなどこの世界から存在しなかったことにするというのが目的なのだろうかと、ヒナギクは考える。
「どうして、テルくんあんな顔を・・・・・?」
だからこそ、分からなかった。白銀が、未来のテルがこの時代で自分を殺す意味を。
どうして去り際に、いつもの学校で見る笑顔をしていたのかを。
「テルさん! 待ってください!!」
下は怖くて見れないヒナギクが音声を頼りに現状を理解しようとする。
「ハヤテ、今動けばヒナギクは落ちるぞ。 私がアイツの足場を維持させてやっているのだ。 私を追うようなら、私は容赦なく術を解除して、ヒナギクを落とす」
今、恐ろしいことを聞いた気がしたが、これも少しおかしい。 なぜこちらを拘束したままにさせておくのか。
怪我ひとつだけでもさせれば、こちらが白銀を追うことは出来なくなる上に、戦力を削ることだってできる。 だが、怪我もさせなければ、その場に拘束させるだけでなにもしない。
「もしかして・・・・・最初からそのつもり?」
ハヤテが無言になっているというのは下界を見渡せないヒナギクには分からないが、ハヤテもこちらが気になって動けていないはずだ。
これも、ハヤテを縛る強引な手段だが、ハヤテは怪我をしない。誰も傷ついてはいないのだ。 伊澄も操られていたが、命を奪われるような事はされていない。
もしかすると、根っからの性格は変わっていないのかもしれないと、ヒナギクは思ってしまった。
○
「できれば、派手な事をする前に片を付けたいと思っているんだが・・・・・」
「・・・・・」
赤い月が見下ろした地上で、向かい合う者がいる。 白銀と伊澄だ。
伊澄の見据える後方、ハヤテはやはり、動けないでいた。 一部始終を見ていたからだいたい分かる事ではあるが、空中に固定されているヒナギクがいつ落ちてくるか分からない為に、その場で待機しなければならない。
「式神の制御、結界の形成・・・・貴方の身体はどうなっているのですか」
辺りを見渡すように、伊澄は問う。 常人の者が扱うには、膨大な力を消費する術の数々。伊澄でも、この膨大な霊力を使用すれば、すぐさま枯渇状態になって、身体に異常を来す筈だ。
「貴方は・・・・生きてるのですか?」
「・・・・・」
その問いに、白銀はやや間を空けてから答えた。
「生きている。 私が死ぬ時は何かが成し遂げられなくなった時だ・・・・・」
だから、と白銀は組んでいた腕を解く。 開戦の合図だと二人が間合いを詰める。
「お前相手に手加減はできる自信はない。 それに、君と違って私はもともと魔力を多く持っていない・・・・長引けば長引くほど、私の方が不利になる」
その懐から何か、邪悪な気配を感じ取った伊澄が思わず息を呑む。 まるで冷気そのものが自身に張り付くような寒さだった。
殺されるかもしれない、と正直に恐怖した。 その証拠に、いつの間にか戦闘用の札を取り出して、白銀に向けている。
「くぅ・・・・」
だが、今までの疲労のツケもあってか、霊力の消費による頭痛が来た。 いくらなんでも燃費が悪すぎではないかと思う。
このままではまずい。 思考を研ぎ澄ませて戦術を練る事も出来なければ、今の霊力で目の前のマジカルな白銀を相手にするには命の危険がある。
どうしたものか、と伊澄が半歩引いた時だった。
「何をしているのですか・・・・!!」
思わず、声を荒げて伊澄は言う。 見つめる先は、伊澄の正面に背を向けて立った人物に向けてだ。
「そこで勝負は中断といきましょう。白銀さん、私がタオルを投げます」
黒羽舞夜が、伊澄よりも前に出たのだ。
○
まさしく冷静な判断だという自負を、黒羽舞夜は感じていた。
今目の前で繰り広げられる戦闘。 黒羽から見て、伊澄と白銀の戦闘で伊澄の不利は圧倒的な物である。 単騎でガチのハヤテとヒナギクを躱してきたのだから、その戦闘力は相当高いものである。
ましてや伊澄に関しては、あまり詳しくはないが、マジカルな力の使い過ぎで相当疲労しているようであった。彼女自身気づいていないかもしれないが、肩で息をしているのはその証拠だろう。
「なぜ戦いを止めるのか、その疑問についてはある程度分かっているでしょう」
後ろをチラリと見て、鋭い伊澄の視線が背筋を射抜いてきた。 先ほど、和解イベントを経た二人とは思えないようなギクシャクした関係。
「このままでは伊澄さん、貴女は負けます。 ええ、圧倒的に。 どのくらい圧倒的かというと、リングの上で”まっくのうちっ”コールがかかる位にボコボコにされるでしょう」
比喩としては強引かもしれないがこれくらい強めに言っておかなければ、この頑固者はまだ突っかかっていくだろう。 その前に、自分が止めなければならない。 黒羽はそう感じていた。
「では、大人しくこちらに来てくれるというのだな?」
首一つ縦に振って、白銀は息を小さく吐いた。 それは安堵に似たようなものだった。
「ま、待ちなさいッ」
それを黙ってみてられないのが伊澄であることを黒羽はまだ理解が浅かった。 彼女は決めたら梃子でも動かない。それ故に、既に戦闘態勢に入っている。 霊力を絞り出そうとしているのか、苦悶の表情で札を宙へと放っていく。
だが、宙に浮遊していた札は白銀が腕を振り下ろした瞬間、全ての札は真上から何かしらの物体がのしかかったかのように地面へと”押しつぶされて”いた。
「この術は・・・・・私の知らない物です、未来のテル様はこれを一体どこで?」
「力の根源はキミのものと至って同じものだ。 キミは霊力で行われているが、こちらは魔力。 それだけの違いだ」
そう言われて、伊澄が目にしたのは白銀が取り出したその黒い棒を見て、その異質な存在感を感じ取った。 鮮やかな模様が走った黒い棒だ。 だがこれは伊澄にとっては見覚えのあるものである。
「キミがくれた撃鉄君だ。 もうキミの知っている撃鉄君ではないがね」
禍々しいオーラを放つテルの相棒撃鉄君。もともとは鷺ノ宮家の妖怪退治に用いられる近接戦闘武器。 光の巫女を近接時の攻撃手段として用いられるはずだったのだが、生憎伊澄には向かなかった為、在庫処分も兼ねてテルに送られた逸品だ。
「もはや、これも一つの”生き物”だ。 そして私を縛る呪いの産物であり、全ての元凶で、私が未来で得た”真実”だ」
その意味を理解する術を伊澄たちは持ち合わせていないだろう。 これが、未来でテルを変えてしまった元凶なのだろうか。
「済まないな伊澄・・・・一応暴れられたら困るので、ちょっとした拘束はさせてもらう」
腕を翳して、下げた瞬間。 伊澄の身体が動かなくなった。 なんとか動かそうと身をよじるが、まるで何かに固定されて、その一切の動きを封じられているようである。
「関節部分を固定させてもらう。 暫くしたら解けるから安心しろ・・・・・それに」
と、二人の視線がある一点に絞られた。 それは白銀の腕。 変哲もない腕だ。
だがその黒い外套の裾からは少しずつだが砂のようなものが零れ落ちて言っている。 まるで身が崩れていくのを物語っているかのように。
「私には、時間が無いのだ」
伊澄がこれを見て、何を感じ取ったか分かる事ではないが黒羽はチンプンカンプンだ。 だから突拍子もなく、
「イマジン的な」
「多分違うと思います」
伊澄がしっかりと反応して突っ込むのを見て、白銀が今度は深いため息を吐いた。それは呆れたというものであるのは確かだろう。
「やはり・・・・貴方は」
「それ以上はダメだぞ伊澄」
先を言おうとした伊澄を制するように、白銀は身を翻して伊澄に背を向けた。
「私は、私の意志でこの場所に立っている。 これまでの行動も、これからの行動も、全てが私の意志だ」
「考え直せませんか? この時代では、私も居ます。 ハヤテさまや、咲夜、頼れる人が・・・・・」
彼を止める為に放った伊澄の言葉に、すまない、と続けて白銀は一言。
「もはや止まれぬ」
そう告げた白銀は黒羽の手を掴んで、動くことのできない三人を置いて去っていくのだった。
多分このままじゃ予定してた十話以内での完結は無理じゃないかなぁ(遠い目)
長く待たせてしまって読者のみなさん、すみません。