ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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第13話~ドラえもんの尻尾を引っ張ると何が起きるのか~

「うふふふ・・・」

 

それまで表情を変えていなかったマユミが唯一変えた表情。それは笑みだった。

 

「なにがおかしいのだ?」

 

ナギが不審に思ったのか、不敵に笑うマユミから一種の不気味さを感じ取った。 笑うのを止めるとマユミは髪を掻き揚げた。

 

「いや~ ここまで計画通りだとフェアじゃないと思ったんだけど・・・・」

 

「計画通り、ハヤテにいとも簡単に負けることがお前の計画なのか?」

 

ナギはマユミの言っていることが理解できなかった。 状況を見れば彼女の提示した条件通り、ハヤテはシュトロハイムを倒した。

 

 明らかについた勝利だ。 しかし、

 

(おかしい・・・・こいつはまだなんか隠している。 まるでこうなることが予想できていたように)

 

 テルはこの異変に少なからず気づいていた。なにか嫌な予感がする。そう思ったテルはハヤテに声を掛けようとした。 その時である。

 

「シュトロハァァァァイムッ!!」

 

 テルが声を掛けようとした瞬間、マユミが何かを呼び起こすような大声を出した。

 

「おいハヤテ!!」

 

テルがその異変に気づきハヤテに声を掛ける。 これは後ろにいるテルたちだからこそ分かる「異変」であり、マユミの目の前にいるハヤテには決して気づかない「異変」だった。

 

「ガアアアアアアア!!」

 

 ハヤテは後ろを振り返り驚愕する。 ハヤテの真後ろで確実に気絶していたシュトロハイムが立ち上がっていた。 その時、ハヤテの反応がほんの少し遅れてしまう。

 

「しまった!!」

 

 その一瞬を突かれ、シュトロハイムの右腕がハヤテの首にロックを掛けるように絡まり、ハヤテは身動きができなくなった。

 

「三千院 ナギ・・・・いいわよねぇ貴方は・・・・」

 

「な、なにがだ!」

 

 まるですべての条件が揃ったかのようにマユミは笑みを浮かべながら喋りだした。

 

「貴方はもっとも財力を持ち、裕福で、何もかもが与えられたその環境の中に育った」

 

 いきなり何を言い出すかと思えば、とテルは考える。 確かに、ナギは与えられた財力がある。時期的に当主になれればそれでこそ莫大な三千院家の遺産が手に入るのだ。しかし、だからどうした。

 

 

「それだけじゃない。 こんな優秀な執事を手に入れ、なおかつ大きな幸せを手に入れている。 言ってみればこのヒトが貴方の大きな支え・・・」

 

 クスクスと笑うように言うとマユミは身動きができないハヤテに近づいた。 ハヤテは少しだけ浮いている自身の視点からマユミを見つめる。

 

「僕は絶対お嬢様の元から離れない! 連れて行けるもんなら・・・」

 

「別に私が貴方を連れては行かないわ。 だって・・・・貴方からこちらに来るんだから」 

 

そう言うと、マユミはいつの間にか手に握っていた何かをハヤテに頭めがけて振りかざした。

ポチ。 なんともやわらかそうな音が聞こえた。 シュトロハイムはゆっくりとハヤテを降ろした。

 

「・・・・・」

 

ハヤテは何も言わず突っ立っている。 シュトロハイムももうこれ以上危害を加えるわけでも無く、マユミの後ろへと戻っていった。

 

「おいハヤテ大丈夫・・・・」

 

テルがまた何かを言いかけたとき、テルは言葉を失った。 ハヤテの頭にあるものを見て

呆然と突っ立っているハヤテの頭には見慣れないものがあった。 

一本だけ伸びたそれは先端に赤い玉が付いていた。見た感じなんかのアンテナのような。 具体的イメージをするとド○えもんの尻尾がハヤテの頭から生えている。 と言った方が分かりやすいか・・・・・

 

「あー・・・・・なんか突っ込んだら負けなのかな」

 

「なんだ、あの昭和をバリバリ感じさせるへんてこ・・・・なんだアレ?」

 

テルとナギが呟きを入れる。 あまりにも不可解なアタッチメントの出現に驚いたが馬鹿馬鹿しくなてしまう。

 

「テル」

 

「了解っと・・・・」

 

ナギに指示され、テルはハヤテに近寄る。 

 

「おーい、ハヤテ。 いいアタッチメントつけてんじゃねぇか。 俺にも分けてくれよ」

 

ようやく声を掛けられた。 肩に手を掛けて軽く揺さぶってみる。 しかしハヤテは動かない。

 

(なんか、変だ)

 

あまりにも不自然だったのでテルはハヤテの顔を覗き込む。

 

「!! お前・・・・」

 

覗いたハヤテの表情にテルは驚いてしまう。 何故だろうか、あれだけ決意に満ちていた瞳には全く生気が宿っていないという状態だったからだ。

 

「ハヤテ!!」

 

「なに!?」

 

テルが声の主に思わず視線をずらしてしまう。 

声の主は・・・・マユミだった。 その後、場を震撼させる出来事が起きる。

 その声が聞こえたと判断したのか、ハヤテは右肩に乗っていたテルの手を払い、その場で体を一本の軸にし半回転気味に回し蹴りをテルにお見舞いしたのだ。

 

「ぶっ!!」

 

 当然、不意を突かれたような一撃をテルは避ける事ができず直撃し、ナギの所まで吹っ飛んだ。

 

「は、ハヤテ・・・・お前、何をしているのだ?」

 

「・・・・・・」

 

ナギの質問にはまるで届いていないかのように何も答えてはくれない。

 

「今、お前が吹っ飛ばしたのはテルだぞ? 仮にも仲間ではないのか?」

 

「・・・・・・」

 

ナギの表情が焦りに変わる。 何故こんな事になっているのか、その思考が追いつかない。ハヤテはナギの命令よりもマユミの命令に従っていた。

 

「爽快・・・・爽快だわ」

 

慌てふためくナギを見てマユミが薄く笑う。

 

「どう? 大切な何かを奪われた気分は・・・・帰るわよハヤテ」

 

「・・・・・・」

 

 マユミが帰ろうとするとハヤテもまた、その後ろを追っていく。 その瞬間、ナギの胸が急速に締め付けられた。

 

「待ってくれ・・・・待ってくれハヤテェェェェエ!!」

 

涙を瞳に浮かべ、大声で、自身の限界までに叫んだ。自分の執事の名を。自分の身を何が何でも護ると言ってくれた大好きなヒトの名を。

 

「こんな事でいなくなったりしないよな!お前は私の執事だろ!」

 

 それを聞いたマユミは振り返ることなくピタリと立ち止まり、言い放った。

 

「無駄よ。 このヒトはもう私のモノ・・・・貴方の声は届かない」

 

 そう言い残すとマユミは無造作に丸っこい球体を投げつける。投げつけられた球体は床を転がり勢いよく中から白い煙が出てきた。 

 

「煙幕!!」

 

 テルが軽く舌打ちをするが辺りは明らかに1メートル先まで認識できないほど白煙に包まれていた。

 

「じゃあね三千院 ナギ。 思い知りなry・・・・痛い、噛んだ」

 

若干涙目を浮かべながら口を手で押さえると屋敷の外に用意していた車に乗り込んだ。

 

「畜生が・・・・・」

 

煙が完全に晴れるとテルは忌々しげにはき捨てた。 場には既にマユミが居らずシュトロハイムもハヤテも居なかった。

 

何が起きた。 いつもと変わらない日常だった。 ハズだったのにだ、いきなりぶっ壊していきやがった。 

状況を整理しろ、あいつ等がハヤテに何かしたんだ。少なくとも頭に変なのをつける前までは普通だった。 まぁそれよりも・・・・だ。

 

壊れた玄関を見つめる。 これはマズイ事になった。 取りあえず玄関とか色々やんなければ。色々と問題が山積だ。

 

(だが一番やっかいな問題は・・・・)

 

テルが視線をずらすとそこには膝を着き、顔を俯かせいるナギの姿があった。

 

「ハヤテ・・・・」

 

そう小さく呟く少女の顔から床に向かってぽつりと滴が数滴、落ちていった。

 

 

 

 

「一体どうなっちまったんだハヤテの野郎・・・・」

 

「分かりません。 あの二人が何かをしたのは確かでしょう」

 

 数々の問題もいくらか収拾がつき少し落ち着いた三千院家。 場所はある部屋の一室。

テルとマリアは一種で言う会議をしていた。

 

 議題はもちろん昼間に起きた出来事だ。 まぁまだあれから一時間ほどしか経っていないが

 

「うーん・・・・あのハヤテ君の頭に付いていたアレ気になりますね・・・・」

 

「あの野郎、ド○えもん気分になったつもりか?」

 

「遠くから見ていても分かりますわ。 恐らく操られているんでしょう」

マリアの言葉にテルは苦笑いを浮かべた。

 

「操るって・・・・そんなモンまでアリなんですかこの小説・・・・」

 

「テル君、よく聞いてください」

 

マリアがいつになく真剣な眼差しを向けた。

 

「この問題はなんとしても解決しなくてはいけません。 今まではナギが狙われてきましたが、ハヤテ君が直接狙われたのは初めてです」

 

「遺産目的ですか?」

 

「いいえ、日野寺家には三千院家の遺産相続にはまったく関係ありません。 そこが一番気になるところなんです」

 

 そうだ、考えても見ればあいつ等には遺産を相続する権利は無い。ナギを誘拐して身代金を要求するという手段があるが、奴らはそんな誘拐犯を装うことなくハヤテを奪うと言い、堂々ときた。

 

「ということはハヤテを利用する方法があるということですかね」

 

それしか考えられないと推測するテル。 コクリとマリアが頷く。 するとマリアが口を開いた。

 

「それに一番の心配はナギです・・・・今、どうしてます?」

 

 テルは視線を逸らし、頭を掻きながら話し始める。

 

 

 それは先ほど、廊下を歩いてナギの部屋を通りかかったときだった。 玄関の修理もやっている中でナギが真っ先に部屋へと走っていくのを見た。 

 

「ナギ」

 

「入ってこないでくれッ!!」

 

取っ手に手をかける瞬間。ナギの声が聞こえ、テルは手をかけるのを止めてしまった。

 

「なぁ、テル。 ハヤテはどうしたんだろうな・・・・」

 

そう呟くナギの声はとても弱弱しかった。 いつもの高く、強い声は聞こえない。

 

「私はアイツに約束されたんだ。 私を悲しませる奴らから何が何でも護るみたいな事を・・・」

 

「ナギ・・・・」

 

「それから色んなことがあって、私が色々と迷惑掛けたこともあった。 それでもハヤテは助けてくれた・・・・」

 

 

ナギにとって、これまでのハヤテとの出来事は二人の大きな信頼、つまり絆だ。

 

お互いが信じ合い、乗り越えてきたからこそ深い絆がそこにはある。

 

 

「だからハヤテが消えた後もハヤテは絶対に帰ってくるって信じていたのだ……」

 

 

部屋の中のナギは扉にもたれかかった。

 

「だがアイツは帰って来ない……私達の『絆』はこの程度のものだったのか!?」

 

今にも泣き出してしまいそうな声が響く。 仮に今ハヤテが居ればナギはすぐにでも笑顔になるだろうがハヤテいない。

 

(かと言って俺が代わりにはなれねえ……)

 

 

「しばらく一人にしてくれ……」

 

 

テルは何も言わない。今は今だけはこうして置くことが一番ではないかと思ったからだ。 2人の会話はそこで終わった。

 

 

現在に戻る。

 

 

「ナギにとってハヤテ君は大切な人なんですよ」

 

 

話を聞いたマリアは小さく笑うとそう言った。

 

 

「昔から遺産の事で命を狙われてましたから、最初は気を許せる人があまり居なかったんですよ」

 

 

それは初耳のテル。だが幼くても立派な三千院家の跡取り。 その手の奴らから命を狙われるのは当然か。 マリアは更に続ける。

 

 

「でもハヤテ君に出会ってから、前よりも明るくなって学校にも行くようになりました。 まぁ今でも休みがちですけど……」

 

 

「たしかに……」

 

 

テルは苦笑いを浮かべる。 しかし、ハヤテがナギにとって信頼できる存在であり、マリアもまたハヤテを信頼していたのだ。

 

 

「だから今度は私達がハヤテ君を助けてあげる番です」

 

 

マリアは力強く言った。テルもまた頷いてその場を去ろうとするとマリアが呼び止めた。

 

 

「私は日野寺家の場所を調べますがテル君は?」

 

マリアにそう聞かれ、テルは頬を掻きながら返した。

 

「俺も情報収集に白皇に」

 

 

「今日は休日ですよ?」

 

マリアがもっともな意見を言うがテルはニヤリと笑ってみせた。

 

 

「たぶんこんな休日でも頑張ってるマジメ君がいると思うんで」

 

 

そう言うと扉を開け部屋を出て行った。

 

 

(さて、なんか引っかかってんだよな……)

 

頭に浮かぶ疑問と戦いながらテルの足は玄関へと向かう。 玄関の修理は完了していた。

 

 

(やれるだけの事をやってみるか……)

 

バタン! と勢い良く玄関の扉を開けた。


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