ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
ホントはクリスマス前に書き始めてて、クリスマス当日に上げる予定だったのが、結局流れて今と言うことに。 なので内容もクリスマスネタです。
寒空を切り裂く轟音とともに鉄の固まりがゆっくりと地上に降り立っていく。 それは一機だけではない。降り立ったと思えば次の飛行機が目的地へと移動するために滑走路へと移動していくのが見える。 だがこんな光景は空港なら日常茶飯事の光景だ。別段と不思議なことはない。
「・・・あー」
飛行機を降り、粗方チェックアウトを済ませたベレー帽を被った男は空港の自動ドアから数歩ほど歩いた所で何か思い出すようにそう呟いた。
時間帯的にも四時前だというのにかなり薄暗くなってきている。男は思い出した。自分が居た国では日本とはかなり時差が違ったのだと。
長いこと別の国で暮らしていると自分が本当に住んでいた国のこと等も忘れてしまっているとはなんとも情けない話だ、と男はゆっくりと視線を前に戻し、凍てつく風が身を震わせる中歩き出した。
「カムバック・・・ジャパン」
特に意味なく腕を振り上げた男、善立 テルは久し振りに日本に戻ってきていた。
●
ここ数年、テルは日本を離れて生きていた。 特に職業などを気にせず、その日その日をなんとか食いつないで風が吹くままに身を任せるような一人旅だった。 世界一周・・・とまでは行かなかったが、半週くらいは出来たのではないかという自己達成感がある。
世間はクリスマス色に染まっており、歩く道にはこれでもかと言わんばかりにサンタのパネルと装飾の凝ったツリーが並べられている。 勿論、クリスマスという日に対応した特別な男女の一組もちらほらと見られた。それを見るだけで、心底から湧き上がるような炎を感じるのは気のせいだろうか。
―――リア充爆発しろ。
という、今日も真の聖夜を迎えられない一部の男女たちの嘆きが聞こえた気がした。
「おや、おやおやおや」
周囲がお祭り騒ぎで賑わっているその道をダルそうにテルが歩いていた時だ。三人の女性とすれ違った際、テルの背後で先ほどのような聞き覚えのある声に思わず振り向いた。
「・・・ん?」
「む? むむむむむむむむ?」
「はりゃりゃ?」
それぞれがこちらを睨むかのように唸っているを見て、テルは困惑する。 コートを着ているだけなのか、よく分からないが、なんとなく、自身と同じ年齢のような気がするがそれは真ん中にいた紫色の髪の女性の一言によってその疑問は解決されるのだ。
「もしかして・・・テル夫くん?」
目を数度ぱちくりさせた女性に、付き添う者も同じような声を出してこちらを凝視して見せ、まるで時間が停止したかのような静かさはテルが困惑するには十分な間であった。
「はぁ・・・」
ため息をついてテルは心を落ち着かせる。そうだとも、ここは自分が育った国である日本だ。”彼女たち”が存在していて当たり前の場所なのだ。
――――生徒会の三人組、瀬川泉、花菱美希、朝風理沙。 どれもよく見知った人物たちだ。
○
テルが歩いて数分のある場所に半ば強引に連れて行かれた場所がある。居酒屋『まっどすねいく』という場所だ。 時期が時期であってかそれなりに混んでいるのか駐車スペースはほとんど埋まっている。 最初は入れないんじゃないかと危うんだテルだったが、入口付近の席が奇跡的に空いていた。
簡単に”乾杯”と告げた一同がそれぞれの飲み物を手に取って飲み始める。数十秒もしない間に、ビールを持った生徒会三人組の元ブルー、花菱美希がビールを持って呟いた。
「しかしまぁ、何年ぶりになるんだろか、テル夫くんよ」
「そうだなぁ・・・五年くらいだろうか。今年でオレ、二十二になったし」
無理に断る理由もなく、テルは答える。 五年、日数換算1825日。 こうしてしまえば随分と小さな数字だと思うが、
「みんな心配してたんだよー、連絡しても全然繋がんないしさー。 夜空のお星さまが落ちる時、そろそろどっかでぼろ雑巾のように野たれ死んでるかもしれないってなってたんだよ」
向かいの席にいた、いいんちょさん元レッドこと、瀬川泉は五年たってもほんわかな口調は変わらず、だがにぱっと笑みを浮かべながら持っているのは芋焼酎。 ビールすっ飛ばして焼酎に行くとはなかなか攻める奴だ。
「泉、チューハイでも良かったのにお前と言う奴は・・・・またカウンター破壊する気か?」
「はぅ」
レモンサワーを片手に元ブラックこと、理沙が泉の頭を軽く叩いた。 ”カウンター破壊”という理沙の発言に疑問を感じたテルだったが流すことにする。決して良いお話ではない筈だからだ。
「おっ」
美希のテーブル付近に置かれていたスマートフォンが振動したのを見た持ち主の美希がそれを手に取りだすと、慣れた手つきで何か動作をしている。それを見ていたテルが羨ましそうに見ながら、
「いいなスマホ」
「なんだ? テル夫くんはまだガラケーか。 今時ガラケーなんて時代遅れだぞ」
「うるせぇな、このガラケーを折りたたむ動作がいいんだろうがッ」
わざわざスマホ勢の三人の前で黒のガラケーを見せつけてみせるがそれだけでいかに虚しいかが分かったテルだった。彼は若干顔を赤らめている間に美希がスマホの操作を終えて懐に仕舞ってから言った。
「ヒナもうちょいでくるってよ」
その単語に、ビールを飲んでいたテルの全体の動きが停止した。すぐさまテルがグラスを置くと恐る恐る美希に尋ねる。
「え? 何、ヒナギクくるの?」
「そうだよー、アイツ今ちょっと卒論で立て込んでてさー」
”卒論”という単語に、テルが思考を巡らせて一つの答えを導く。だが疑問を持ったままで三人に言った言葉は、
「え、お前ら大学生なの? キャンパス?」
「そうだとも」
無いとも言い切れない胸を理沙が張って、続くように泉と美希がグラスを掲げる。
「我々は元・生徒会メンバーは!」
「私立白皇学院大学の四年生だ!」
嘘だろ、とテルは続けた。
「お前ら裏口入学使ったのかッ!!」
次の瞬間、んなわけねぇだろっ! という突っ込みが返ってきたのは言うまでもない。
「ちなみにヒナも同じだ。 もっともアイツはいろいろと忙しい身分だが」
「剣道で最近金メダルとってたよー。 もうなんだろうね」
「ありゃ抜刀斎の領域だったな。 テレビで見てた時、明らかに剣圧で火花見えてたもんな」
三人組の躱す会話をビールを飲みながら聞いていたテルが部屋の隅に置いてあった新聞の記事にある項目に括目する。
――――『桂ヒナギク、圧倒的強さで今年もアジア制覇』
という笑顔でデカデカとプリントされた太文字が語るに、高校での完璧超人っぷりが卒業後さらに磨きが掛かり、大学の剣道部は一年から世界大会に出場するという偉業をやってのけたらしい。それでいて学業も両立するさまに一時期、”桂ヒナギクは本当に人間なのか”という疑問が世界レベルで話題になったほどだ。 そしてあの見た目のレベルも相まってか最近はCMの方にも出るようになったとか。
「本人、口では”めんどくさい”って言ってるけど満更でもなさそうなのがな」
飲み干したグラスを揺らして、美希がメニューを取り出した。
「ま、こっちはヒナと居られる時間がだいぶ減ってしまって残念な訳だが」
「お前ら基本いつも一緒だったもんな」
そうだとも、と美希は指でメニューのドリンク名を指しながら続ける。
「だがこれから先、就職先までも一緒になれない。いままでヒナだけに頼って生きるのがどれくらいアイツにとって負担だったのかが私たちは高校卒業してから分かったつもりだ」
「へぇ」
先ほどの美希のようにグラスを手で揺らしながらテルは頷く。 ”こいつらも、いつのまにか大人になったのか”と。
考えてみれば、もう大学の四年生だ。卒論の事もあれば、就職活動と忙しい身分ではあるのだろう。五年とういう年月がテルにとって長いのか短いのかよくわからないが、彼女たちにとっては劇的な変化を起こすほどの、そして、大切な期間だったに違いない。
それを見て、自分はどうなのか、と思うテルであった。
「まぁ我々は卒論をほとんどヒナに任せてここに居るワケだが」
「ちょっと、俺の感動返せよー」
卒論は計画的に。
白銀編解決してないのに未来のお話上げるとか何をやってるんだァっ
しかし、今更でございます。 未来の美希たちの設定はもう完全にオリジナル。 泉に関しては完全にぶっ壊れキャラ。 ごめんね泉さん、でもこんなイメージしか浮かばなかったとよ。
平均四千文字だから頑張れば早い段階であげれるかも。 それと一緒に今やってるストーリーのちょっとした補完になれば、と思ってます。
ちなみに、タイトル”これから先の未来”は原作24.25巻あたりのナギの台詞からとっていたり。 気づいた人はいただろうか。