ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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 頑張るんだッ この章が終わるまでッ ッッ!!(10話以内予定)


ホントにオワンノカネ?


第127話~集まる人々~

 黒羽と伊澄の修羅場が終了していた同時刻。 テルは鉄パイプを怪物達相手に振るっていた。前に現れた怪物達を薙ぎ払っては進み戦闘、撃破進軍、戦闘、この繰り返しである。 ハッキリ言って、先ほどからエンカウント率がハードレベルだ。

 

「―――――ふんッ!!」

 

 

 最後の一体であろうか、その敵を斬り伏せたところで辺りを見渡したところ存在している敵はいなかったのを確認してテルは安堵の息を吐く。

 

 

 

・・・・・やってられねぇぜ。 このままじゃ先にこっちがダウンしちまうよ。

 

 正直、このまま殴りながらの進行となるとこちらの体力が持たない所だ。 早く目的の男の場所へと辿り着かなければならない。

 

 小さな風が吹いたのを感じた。 戦闘続きで汗が滲んでいた額に当てられて、ちょうどヒヤリとした感覚が癒しにも似た感覚をテルへと与える。

 

「やっぱりこっちで合ってんだな」

 

 風が吹く先の方向から滲み出す気配が、テルにそう告げる。 未来のテルはこの先に居るのだと。 この風も、テルを目的地まで誘うかのように体を吸い込むかのようである。

 

 

「・・・・・むむっ!」

 

 休む間もなく、その先へ進もうとした時だ。 背後で感じる気配がその足を止めさせた。 先ほどの生き残りが居たのか、新しくやってきた怪物の可能性を考え、テルは鉄パイプを握り、タイミングを計った。

 

 狙うは頭。 足音の大きさでどれくらいの距離が相手にいるのかがテルには感覚で分かる。 それはまったくズレたことはない。 自分の特技でもあったが、師匠である神崎百合子は”ビックリが効かない相手だからツマらないわね”とあまり褒めてはくれなかった。

 

 

・・・・あれ、でもなんかこの足音。

 

変だ、とテルは思う。 迫りくる足音に違和感を感じたのだ。 重量感を持った生物の足音とは遠い、何か。 例えるなら日曜日のサザエさんでタラちゃんを見ていると嫌でも聞こえてくるあの耳に残る足音のようだ。

 

 

 だが関係ない。 必殺あるのみ、目的必殺、サーチ&デストロイ。 油断を装って、脱力した直立姿勢から最速の一撃を見舞うべく一気に反転。 怪物の頭部にその鉄パイプが炸裂する、

 

 

『ヤーーーーーーーーーッッ!!』

 

筈だった。

 

 

 

「んあ?」

 

振り下ろしかけていた鉄パイプを止めたのは、的が圧倒的に小さすぎて、尚且つそれが知っている物体だったからだ。

 

 

『ヤヤヤヤヤヤ―――ッ!!』

 

「え、チビハネお前何してんの?」

 

眼下に現れたのはねんどろいどサイズの人形のような物体、黒羽の小さな分身ことチビハネだ。 涙目で震えている所をみると攻撃される事にかなり恐怖を感じてしまっていたらしい。

 

ひょい、とつまみ上げた。 相変わらず軽い、だがしかし、

 

『ヤ”ァァァァァァッッ!!』

 

「ギャァアアアア!! 噛むなッ!! 鼻を噛むなァッッ!!」

 

 このチビハネ、見た目によらず凶暴である。 ”やー”としか発することが出来ないが、ふざけんなよ、という意味だろうか万力並みの力で鼻を噛みつかれた。

 

 力任せに引き剥がして、チビハネはいまだに怒り露わに唸っているが涙目を浮かべながら話を聞くことにする。

 

「んで? なんで家でお留守番中のお前がこんな所にいるんだァ? まぁマスターである黒羽を追ってきたのかもしれねぇが」

 

と、チビハネは地面に降り立つと両手を上げて叫ぶ。

 

『やーっ!!』

 

どうやら正解らしい。 ナイスコミュニケーション。

 

「どうやってここに?」

 

その問いに、チビハネは少し頭を抱える。 困り顔は意外に可愛い。

 

 

『やー!!』

 

すると今度は手を使って円を描いて見せた。 その動作の後、描いた円を駆け抜けて、辺りを見渡して変顔、その状態で歩き回って、今度は走り出して、テルを指差した。

 

「えーっと・・・・・」

 

 動作だけで意味を探らなければならないこの光景はもはや言葉を通わすことが出来ないチビハネとテルの間では必要不可欠だ。 最初はどこぞの四八(仮)並みのムリゲーだ、と鬱になりかけていたテルだったが今は違う。その成果を見せつける時が来た。

 

「”穴を通り抜けたら、知らない場所に来たので、うろついてたら、寄生獣モドキに遭遇。 逃げ回ってたら俺を見つけた”――――これでどうだ!」

 

『・・・・・ッッ!!』

 

 まるで神を見たかのような表情だった。 目を輝かせてチビハネは歓喜の雄たけびと共に飛び上がる。

 

「やったぜ」

 

 パーフェクトコミュニケーション。 地獄のような試練を乗り切ってきた甲斐があったというものだ。

 

「お前も来るか? これから未来のオレに会いに行くんだ」

 

『・・・・・』

 

その時のチビハネの表情は凄いものだった。 まるで”え?お前何言っちゃってんの?”かのような確実にこちらの心を抉る顔である。

 

 

・・・・・仕方がない。 全く持って事情を知らないのだから、仕方ない。 重要だから二回言う訳だけど。 やばっ、オレ、泣きそう。

 

これでは自分が痛い事言ってるみたいではないかと軽く自己嫌悪に陥りそうだ。

 

 

「そーいえばお前、追われてたって言ってたけど、そいつらってちゃんと撒いたのか?」

 

『や』

 

まるで、”あっ・・・”と言わんばかりの詰まったかのような声にテルも思わず、

 

「あっ・・・・」

 

分かっていても、出てしまった言葉だ。 察っしてすぐ、テルの視線がチビハネの来たであろう道へと移される。

 

 

『グルルルル・・・・・』

 

先ほどテルが薙ぎ倒してきた数の倍はあるであろう怪物達の群れが牙を光らせていた。 テルとチビハネは無言を維持した後、軽やかに反転して、

 

「キエェエエエエエエエエッツ!!」

 

『ヤァ――――――――――ッッ!』

 

 

意味合い的には多分同じことを言っているだろう、二人?は奇声を上げながら走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、なるほどなるほど。 つまり白銀拓斗さんは未来からやって来たテルなのですね」

 

「えーっと、まずどこから突っ込めばば良いのやら。 今私、リアルな世界に居るのよね? 間違ってもバックトゥザフューチャーの世界になんて居ないわよね?」

 

 現状確認。 伊澄は自身が囚われ、洗脳されるまでの経緯をヒナギクたちに打ち明けることとなった。 もちろん、黒羽はともかく、ヒナギクは半信半疑だ。 いまから信じろというのが無理というものである。

 

「まぁまずそのまえに・・・・ハヤテくん?」

 

「はい」

 

 

ヒナギクは地面を見ると、そこに居たのは土下座しているハヤテがいた。 ヒナギクは正宗を構えて直立不動のまま歪んだ笑みを浮かべる。

 

「さて、どこに行ってたのかしら。 この非常事態の中」

 

「くっ・・・・!! 危険な状況を感じ取った僕は助けになれればと、武器を探しに向かっていました!!」

 

「遅いわよ!! 黒羽さんとか怪我しちゃってるのよ! もう事後よ事後!!」

 

ハヤテに対しての怒号はいつみても凄まじい。 伊澄と黒羽はそう思った。

 

「まぁまぁヒナギクさん。 私の手も、もう治りましたし・・・・結果オーライですよ」

 

「・・・・・」

 

と、黒羽は先ほどまで血を流していた手をヒナギクの前に翳す。 伊澄の治療により殆どの傷は塞がっていたのだ。 主人公ながらこの体たらくを慈悲深い心で許してくれる黒羽をハヤテは天使と思ったかもしれない、だがしかし。

 

「主人公がタイトルの通り、メッチャ速くやって来るのかと思ったらまさかの再登場までかかった話数はなんと三話だったなんて事を私は気にしません」

 

 

「ぐはッ!!」

 

「容赦ないわね、黒羽さん! まるでプロボクサーが弱点をボディブローで抉るかのようだわ! でもハヤテくん、話を聞いてだいたいわかったでしょ?」

 

「ええ」

 

とハヤテは土下座の姿勢から立ち上がった。

 

 

「白銀さんは実は未来からやって来た某英霊の如く、過去を改竄するためにこの時代のテルさんを亡き者にしようにして、同時に黒羽さんが辿るであろう死の未来を変えようとしているってことですよね」

 

 

そうよ、とヒナギクが相槌を打つ。

 

「でも疑問だわ。未来のテルくんがこの時代で自分を殺す意味って何かしら?」

 

「どういう意味ですか? 生徒会長さん」

 

伊澄の疑問に、ヒナギクはうーん、と唸って答えた。

 

「タイムパラドクスっていうのがあって、色んな説があるけど、下手をすると未来のテルくんも消えちゃうかもしれないってことよ」

 

タイムパラドクスというのは未来と過去の矛盾であるが、この場合はテルが過去の自分を殺した場合、未来のテルは存在できなくなるということだ。

 

 

「それにテルさんの消失と黒羽さんの死との関係も引っ掛ります。 過去に戻るなら、黒羽さんがそう言った死の瞬間にまで戻って、黒羽さんを救い出せばいいのに」

 

 敢えてそれをしないというのは、何かしら理由があるのだろうか。 自分を殺さなければいけない大事な理由が。 情報が少なすぎる上、推測するには至らないが故に一同は行動を起こすことにした。

 

「未来テルくんに会いに行くわよ」

 

ヒナギクが気を引き締めた表情で言う。

 

「未来で何が起きたのかは気になるところではあるけれど、テルくんが危ないっていうんだったら助けなきゃじゃない?」

 

「ツンデレた」

 

「ツンデレましたね」

 

「ツンデレじゃないッッ!!」

 

一同の茶化しを一喝し、ヒナギクは咳払いをして見たのは明後日の方向だ。 気恥ずかしい顔を悟られないようにそうしているのだろうが。

 

「あ、あのね? テルくん、ああ見えてもクラスの男子勢の盛り上げ役でもあるのよ。 ウザいってくらいにね」

 

「ええ、ヒナギクさんが調子乗ったテルさんにヒテンミツルギスタイルを食らわせる光景は最早白皇の名物になりつつあります」

 

「確かに私やりすぎちゃってるときあるけどさ、あの馬鹿さ加減ってのがさ、クラスに必要な物だっていうこと!」 

 

転入した最初の頃はあまりハヤテ以外の者とは関わりを持っていなかったが、マラソン大会、ヒナ祭り祭り、高尾山とクラスとの関わりが増えて言った事もあり、自然と他の生徒とも打ち解けるようになっていった。 勤勉で真面目な生徒が集うこの白皇で、授業中に寝たり、朝のホームルーム前にジェンガをやる男だ。 明らかに異質な存在だ。

 

 

だけど、クラスの者たちは彼を貶めようとはしない。 雪路に怒られようが、ヒナギクに殴られようが、馬鹿で、のんきだけど、自然と憎めないような奴。 それがテルである。

 

 

 

テルの持ち味でもあったあのテンションが自然とクラス全体を活発化させている事をヒナギクは知っているので、今テルがクラスから消えた時の事を考えるとクラスの中で大切なピースが欠けてしまうかのような、そんな気がしてならないのだ。

 

勿論、度が過ぎたこともあったのでその都度ヒナギク自身が制裁を加えて納めている訳だが。

 

「結局はヒナギクさんがデレているということで」

 

「だーかーらー!!」

 

黒羽の締めに即座に反応したヒナギクの悲鳴にも似た声が響いた。

 

 

 

 

 

「で? 伊澄さん、どうすれば未来テルくんの場所に行けるのかしら」

 

「生徒会長さん。 恐らくですが、その人はこの遊園地内に居ます。 多分テル様も・・・・・ただこの空間とは違った場所に、ですが」

 

「別の場所?」

 

ハヤテの問いに、伊澄が頷くと彼女はゆっくりと視線を動かして何もない空間を見つめた。

 

「結界が張られています。 この遊園地全体を包み込むような・・・・規模が大きいですね、結界というか、異空間というか」

 

「なら、この結界を壊すなんてどうでしょうか」

 

黒羽の言葉に、伊澄が首を振った。

 

 

「この結界・・・・かなり強力な術式で組まれています。 私の力を持ってしても、穴を一瞬開けるのが精いっぱいで」

 

「ならそれでいいじゃないですか」

 

 

黒羽の言葉に、一同耳を傾ける。

 

 

「開けた穴の中に入って、テルに会いに行きましょう。 そして中に入って、未来テルにSEKKYOUしてこのバカ騒動を終わらせるんです」

 

 

キョトンとした表情になったのは言うまでもないだろう。 それではまさに殴り込みのようなものだ。 その判断には伊澄は納得できなかったようで、

 

 

「待ってください。 入れても、帰れる保証はどこにもありませんよ。 中がどういう状況なのかもわかりませんし」

 

「なら、一人でも行きます。 私としても未来のテルから聞きたい事があるので・・・・・さ、伊澄さん、この空間に風穴でも」

 

 

「あ、あのぅヒナギクさん」

 

「ハヤテくん・・・・・ええ、私も同じことを考えてたわ・・・・・もう駄目よ、思考がテルくんっぽくなってる」

 

基本、黒羽は”決めたら絶対やる”人間だ。 その意思の強さは危険を承知で伊澄をぶん殴った姿を見れば十分理解できることである。 頑固な面も相まって、突っ走りっぷりに拍車が掛かっている。 後先も考えていないで行動する姿はテルのようであった。

 

「分かったわよ黒羽さん」

 

ヒナギクの言葉に黒羽が振り返った。 ヒナギクの表情はやれ仕方なし、と言ったものだ。

 

「私も付いていくわ。 黒羽さん放っておいたらまた無茶しかねないんだもの」

 

「無茶ですか・・・・」

 

ふむ、と黒羽は何か考えるような仕草で一間を置いた。

 

「私はあまり無茶をしない冷静な女だということを自負しております」

 

「どこがよ」

 

 即効でヒナギクが突っ込んでいた。 自分の事などを理解できていないようである。 

黒羽の両の肩にヒナギクが優しく手を置いた。

 

「痛いのは誰だってイヤよ。 見ている人も同じくらい痛い思いをすることだってあるんだから」

 

 不意に力が籠められる。 あの時の一瞬の判断の遅れが、黒羽を怪我させる要因となったのは事実だ。 生徒会長である自分がそんな遅れをとってしまったことは恥ずべきことである。 だがヒナギクは誰かが傷ついている姿を見たくはないのだ。 

 

 

「でもまぁ、ここには伊澄さんとハヤテくんもいるのよ? RPG系ゲームで言えば、序盤で職業勇者が三人もいるようなものだから」

 

「ついでにバーサーカーも付いてます・・・・・」

 

 

「なにか言った、ハヤテくん?」

 

「イイエ、ナニモ」

 

まったく、と言った表情でヒナギクがため息をつく。 こういった時、集団を自ら引っ張るリーダーシップ力こそが白皇の生徒会長の証なのだろう。

 

 

「それで? 黒羽さん、納得してくれたかしら?」

 

「・・・・・はい」

 

黒羽は顔色を変えていない、しかし、ヒナギクから見て先ほどよりは焦りを感じさせてはいなかった。 若干ながら綻んだかのようにも見える。 

 

結界の中にはテルが命を狙われており、それが自身に関連しているとなれば黙ってはいられない。 恐らく、それが焦りを生み出していたのだろう。 

 

「じゃ、伊澄さんお願いできるかしら? ハヤテくんも、不在だった分はしっかりと働いてもらうわよ」

 

正宗を振るって、ヒナギクは指示を飛ばす。 指示を受けた二人は微妙な表情で前に出るとそれぞれ不満を呟いた。

 

「何もそこまで引っ張ることないじゃないですか」

 

「生徒会長さん・・・・今日は人使いが荒いです」

 

普通に声に出していたら聞こえる距離なので本当に聞こえないくらいの小声で二人は前進。 だが結界をこじ開ける役は伊澄なので、自然と先頭に立つのは彼女である。

 

 

「八葉六式――――」

 

本来の使い方である札を数枚取り出して、空間に六芒星を描くと光の粒が周囲に出現し、徐々に収束していく。

 

「撃破滅却ッ!!」

 

右手を突きだした瞬間、収束して膨大な霊力を蓄えた極太レーザーが何もない空間へ放たれる。 本来なら何もない空間を走るレーザーだが、突如壁にぶつかったようにその進行が止まった。

 

 

「結界を一部破壊させますッ 合図をしたら、皆さん突入の準備をッ」

 

極太レーザーの威力は凄まじく、すぐにその見えない空間にガラスのひび割れのような亀裂が走り出した。一気に伊澄が押し切ると、軽快な音と共に人一人分が入れそうなくらいの穴が空間に空いたのだ。

 

 

「・・・・・・アレ」

 

 

誰しもが突入の事を考えている中、黒羽だけは別の事が頭に浮かんでいた。 

 

 

―――――あの光を、私はどこかで・・・・・。

 

 見たことがある。 実際に見るのはコレが始めたの筈なのに、何度か見たかのような既視感。 見てるだけでもあの大技を食らえばタダでは済まないのが分かるが、自分はその威力を直に体験したかのような身震いをしている。 目の前の一瞬の出来事がきっかけなのか自身の頭に走る小さな痛みに思わず、頭を押さえた。

 

「黒羽さん? 行くけど、準備は大丈夫?」

 

黒羽の一歩の歩幅を置いていたヒナギクがこちらに呼びかける。 黒羽以外は既に穴の中へと入っていたらしく、自分とヒナギクだけが遅れていた。

 

 

「・・・・・大丈夫です。 行きます」

 

・・・・・私の死の真相を知る必要がある。 死なない私が、どうやって死ぬのかを。

 

不安を感じさせぬよう、ヒナギクにはいつもの抑揚のない声で伝えた。 未来のテルに会いに行こうと言ったのは自分なのだ、と自身に言い聞かせる。 不安な要素はいまだ多い。 正直、自身に起きている事を理解しようとしただけで、頭がどうにかなりそうなのだ。

 

だから黒羽は伊澄に自分の命の始末をお願いしたのだろう。 変貌した後で、頼むことができる自信がないからだ。 だが、未来のテルを中心にして動くことで自身に関するヒントが得られるかもしれない。 それが良いことなのか、悪いことなのかも含めて、初めて自分は前進できるだろう。

 

その為に、黒羽はテルたちがいる空間へと一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 ヒナギクとハヤテは無言のまま、地面に突っ立ていた。 

眺めはほとんど自分たちが先ほどまで居た遊園地とは同じだ。しかし、園内の空は青空とはかけ離れてどんよりと薄暗く、月も真っ赤で気味の悪い空間だった。

 

だからこそ、この結界を作った白銀拓斗もとい、未来の善立テルが異質な存在であるということを決定づける要素である。二人は確信していたそれと同時、

 

 

『ガォオンッ!!』

 

 

 命のやり取りも覚悟しなければならない危険がいっぱいあるのだということも。

 

 

「ハヤテくん、私達・・・・やっぱり来るんじゃなかったかもね」

 

「ええ、まったくですよ」

 

 

目の前を覆い尽くさんばかりに溢れていたのは、首から下まで人間の身体の化け物たちだった。 頭部は触手やら安っぽい目の触覚が生えたその姿を見て二人は呟く。

 

 

「「ここは彼岸島?」」

 

『キッッシャァア!!』

 

惜しい、とでも言うように怪物たちは両手をバッテンにさせてさも不正解を二人に伝えた。 なかなかエンターテイナーな怪物達である。

 

「これはダメなやつよ・・・・・きっと未来のテル君も吸血鬼のウイルスにやられてこんな蛮行を犯したんだわ」

 

「だから違うと思います」

 

黒羽が後ろで突っ込んでいるが、その間にも怪物達は増え続けている。 頭部から露出している牙やら爪がガチガチと鳴り合わさって殺気を滲み出しているが、それを物ともしないように伊澄が冷静に息を吐いた。

 

「私の式神と同じような能力でしょう。 自身の霊力、または魔力で遠隔操作できる分身を複数放っている・・・・未来のテル様も、相当マジカルな能力をお持ちのようです」

 

「いやぁ、感心している場合では・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「伊澄さん?」

 

伊澄の表情が曇っていたことを見逃さなかったハヤテが尋ねた。 それに伊澄も目を細めて、

 

「ですが・・・・・制御が上手くいっていないようで」

 

その言葉を表すかのように、術者の力で制御されているのであれば個の動きは無い筈だ。しかし目の前の怪物たちはこちらを見ている者も居れば、集まらず木に登る者、端っこで寝る者、喧嘩するものもいる。

 

 

「あ、あそこでトランプしてるのも居ますよ」

 

「麻雀やってる奴もいるわ」

 

「二人とも、気を抜かないでください。 ちゃんと殺意をもってこちらを襲ってくる者もいます」

 

状況を分析する伊澄だが、一つの心配事があった。 遠隔操作で分身を操り続ける為には自身の霊力が必要不可欠。それがなくなってしまうと残った式神たちは残存する霊力で勝手に行動を始める。 これが起きてしまう場合、

 

 

 

・・・・・分身に供給できる”力”が足りないか、術者の生命が危険な状態になっているということ。

 

 

 なぜそこまで敵の術に詳しいかと言うと、先ほどのハヤテ達に説明したとおり、全てこの分身の過程は伊澄が使用している式神と同じ要素を持っているのだ。 

 だからこそ分かる。 その術の発動過程や、弱点なども。それを未来のテルが知っているということは、

 

 

「私が、未来でテル様に教えた?」

 

断言は出来ない。だがもしそうなのだとしたら、彼が持つ力は自身と同じと判断できる。 この結界を維持して、分身を作るという荒業は、いわば自身の身が焼き切れてしまうくらいの力を消費するからだ。 

 

 

「ハヤテ様、生徒会長さん。 辿り着かなければなりません、未来のテル様の元へ」

 

知らなければならない。 なぜ、彼がこの力を使えるようになったのか。 また、それを自分が止める事もできなかったのかも。

 

 

「当然よ!」

 

正宗を振るうヒナギクが向かってくる怪物達を切払った。

 

 

「せっかくの遊園地! 台無しにしてくれた礼をしてやるんだからッ!!」

 

ヒナギクの突撃に、ハヤテも応じるように前へと飛び出す。その両手に抱えられたのは丸太だ。

 

「え、ハヤテくんはなんで丸太なの!?」

 

「何言ってるんですか! 丸太は怪物達に効く最強の武器ですよ!」

 

それはどこかの島の吸血鬼限定の話だ、とかヒナギクは内心で突っ込んだが、彼が丸太を一突きするたびに化け物たちは煙を立てて消滅していく。 ただ単に丸太を一人で振り回すハヤテが強すぎるだけかもしれないが。

 

 

「みなさん! 丸太を持ちましたか!!」

 

お前くらいしか持てねぇよ、と全員が思ったのは言うまでもない。 背後では伊澄も札を飛ばしては前線のヒナギクたちを援護している。だが、それも不要なくらい、前線の二人は強い。 まるで本田忠勝と呂布奉遷、最強の戦闘力を持った武将が場を制圧しているかのようだ。

 

 

「まだ減らない!!」

 

怪物の群れを切り崩しても切り崩しても、その間を埋めるかのように次々と怪物は湧いてくる。キリがない状態だった。

 

伊澄の霊力と言うのも無限ではない。 先ほど壁に穴を空ける為に大きな霊力を消費させた。 時間が長引けば長引くほど、数が少ないこちらの戦いは不利になっていくものである。

 

 

「二人とも下がってください! ここは私が一気に―――――っ!!」

 

伊澄は戦況を打開すべく、一気に大技を放って場を殲滅しようと札を取り出した。 目の前集中して敵が集まっているのは恐らく、その向こうに主がいるからだ。 遠隔能力が落ちてきているといっても、その式神たちの使命は彼らの自覚していない所で働いている作用なのかもしれない。

 

「術式八葉・・・・」

 

 

だから最悪前方を吹き飛ばせば道が開ける。 その隙に前へと進む強行突破策しかないと踏んだのだが。 その準備として札を宙へと放り、霊力を集中させる。 雷轟が響き、大地を揺らす伊澄の大技が放たれようとした時だ。

 

 

「そこまでする必要はないぞ、伊澄」

 

 

怪物達の群れの向こうからハッキリと聞こえた声に伊澄の術が止まった。 その一言を聞いて、怪物たちが道を作るかのように身を端へと寄せていく。

 

群れが道を開けたその先には、西洋風の男が黒い外套を纏って立っていた。

 

 

「やぁ皆の衆」

 

白銀拓斗、もとい未来の善立 テルである。

 

 

「できれば何もせず、聞いてもらいたいことがある。 そして、聞くだけではなく、ぜひとも”承諾”してもらいたい」

 

悠然と歩を前へと進める彼は纏いつく殺気に怯むことはなかった。 周りの怪物達も、まるで機械のように動きを止めている。 これが白銀拓斗が怪物達を操っている主なのだという証拠だからだろうか。

 

 

「黒羽嬢をこちらに渡して欲しい、そしてこの時代の俺を殺すための手助けだ」

 




 補足として、チビハネが通ってきた穴というのは、伊澄さんがこじ開けてきた空間です。 別にチビハネがボソンジャンプしたり、ファフナーみたいな空間移動をしたわけではないのであしからず。

 多分後二話くらいすれば主人公がやっと戦ってくれる場面まで進めそうです。 そっからの展開は短めにいきますんで、よろしくお願いします。


もう少ししたら二話完結の番外編みたいなの出すかもです。

 

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