ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前回は遅れちまったが、今回は間に合ったぜ兄弟。


第125~筋肉式和解術~

喧騒の中、黒羽舞夜はただ一人だけ思考を巡らせていた。 

 

「伊澄さん、これはいったいどういうことなのか説明してくれないかしら」

 

 相対するのは白皇学院の生徒会長、剣道部部長の桂ヒナギクが木刀・正宗を構えている。 目の前の伊澄もそれには不敵な笑みを維持したまま微動だにしない。

だがそんなことよりもだ。そんな殺気立った空間で黒羽は考える。 自身を狙ってきた伊澄よりも、偶然現れたのかも分からないヒナギクの登場よりも、”自分自身の事”についてだ。

 

 

・・・・・恐らく、誰も気づいていないでしょうが。

 

 黒羽の視線の先は自身の身を伊澄の凶器である包丁から守ってくれた一冊の穴の空いたジャンプが落ちている。だが、このジャンプを見て黒羽はあることに気付いた。

 

・・・・・包丁は雑誌を明らかに貫通していた。

 

 そう、ジャンプの雑誌の厚さではカバーできないほどの長さを有していたのが伊澄が持っていた凶器の包丁だ。 それを今目の前で持っている伊澄のを見てもその長さは雑誌程度の厚さだけでは守りきれないほどの長さなのは明らかである。 ましてや、柄まで深く刺さったのが自身が倒れる瞬間に確認できたのだ。 常人なら、間違なく死んでいる。

 

 

 だが、蓋を開けてみれば黒羽は死ななかった。 それどころか腹部から出血は愚か、切り傷すらも存在していない。

 感覚はあった。 自身の体内、肉と言う組織を鉄の異物が容赦なく斬り進んで侵入してくる感覚。 気味の悪い冷たさがリアルでその感覚はいまだに忘れられない。

 

 

・・・・・多分、私は変なのでしょう。

 

 冷静に分析して、その一言で済ませてしまったがおおよそは正解なのだろう。 刺されても死なない人間など、”変”と言わずしてなんなのか。

 

 

・・・・・彼女が私をテルから遠ざける理由が分かった気がする。

 

 

 以前の高尾山から彼女のテルに対しての反応はてっきり、ただの嫉妬なのではないかと思っていた。 だが、自身に起きたこの現象を見て自分は、黒羽舞夜が常人には危険視される、そういう存在なのだ。

 

 

――――ただ大切な者を守るために、伊澄も必死だったのだ。

 

 

 

 

・・・・・では私は……この身体は何なの。

 

 

 記憶をたどり、探ろうとしてもそこは真っ暗な部屋の中。 見渡しても灯りは見えず、自分の姿も見えない。ただただ空虚で自分では理解できない”黒羽舞夜”が現れて、自分を混乱させていく。

謎だけが深まるばかり、得体の知れない不安が残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 桂ヒナギクはこの状況でいくつか確認しなければならない事がある。木刀を構えていまだに斬りかからないのはその質問を伊澄にしてからでも遅くはないからだ。

 

 

「どうして彼女を・・・・・黒羽さんを襲うの? 貴女、一体何をしようとしてるか分かってる?」

 

 視線で牽制するヒナギクに対して、特に構えることなく脱力した伊澄はいつもの無表情で、

 

「ええ」

 

 そう答えた。 続けて伊澄の周りに現れたのは光の球。すべてが伊澄の霊力が込められた球体であり、威力は先ほど投げつけた起爆札の倍である。

 

 

「生徒会長さん、この人はテル様の為に死ななきゃいけない人なんです」

 

「どうして?」

 

「・・・・・」

 

 そう問うヒナギクに一瞬だが伊澄の表情が曇る。 忌々しそうに逸らしていた視線を黒羽へと戻す。

 

 

「この人が・・・・・テル様を不幸にしてしまったから」

 

「そっか」

 

 妙に納得してしまったヒナギクである。 もちろん、その理由で黒羽が死んでいいという納得ではなく。

 

 

・・・・・やっぱテル君が原因かッ!!

 

 ある程度伊澄のテルに対する態度は察していて理解できていたのだが、彼女が黒羽に執着する理由はようはあの男が原因なのだ。

 

 

・・・・・最近テル君、黒羽さんと一緒に居ること多かったからかしら。

 

 軽い疎遠、というか嫉妬のオーバーロード。 だが何もケアをしなかったテルにもかなり責任がある。まぁあの朴念仁は伊澄の好意については全く持って気づいていないためにそういう所に気が回らないのだろう。ダメな男だ。

 

 

「でもね伊澄さん。 それは黒羽さんを傷つける理由にしてはダメよ」

 

「どうして?」

 

どうして、と聞かれてもと道理的な観点から説明するのは今のヒナギクには難しい。いつもの伊澄なら常識的に考えてこの自身の行動を否定できるが、今は頭のネジが外れてしまっている。

 

・・・・・嫉妬心で私が歩を傷つけたりする、そんな事になったらどうなるか。

 

もしそうなったら、友達としても付き合いはできなくなるだろう。だがそれよりも確実に言えることがあるのが。

 

 

「・・・・・ハヤテくんが傷つく、かぁ」

 

「え?」

 

 こちらの小声に反応した伊澄がそんな声を出すと、ヒナギクは目の前で攻撃態勢に入っている伊澄を見据える。

 

 

「ねぇ伊澄さん、もし黒羽さんが死んでしまったら、一番傷つくのはテルくんなのよ」

 

「なぜです? この人が居なくなれば、テル様は幸せになれるのに」

 

恐ろしいことを言う。これが光の巫女の言うことか。

 

「テルくんにとって黒羽さんは主よ。 主の死は使用人にとっては悲しいことよ・・・・ましてや傷つけた相手が貴女だって知ったらテル君は――――」

 

 この言葉を言うか、言うまいか。 と、ヒナギクの中で二つの選択肢が迫る。勢いで言おうとしたらダメだ。この言葉は確実に伊澄をバーサクモードへと変化させるかもしれない禁句なのだ。慎重に言葉を選ばなければならない。

 

そう思っていた時だった。

 

 

「テルは貴女を嫌いになりますよ」

 

 

思わずヒナギクに振り返った先、その言葉を発していたのはヒナギクではなく、黒羽だった。

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬で、場の空気が凍りついた気がしたヒナギクだった。 今の伊澄に対して火に油を注ぐような言葉を、黒羽が発したのだから。

 

「え、ええ?」

 

 目の前の伊澄が無機質な顔でそんな声を漏らしていた。ちょっと混乱しているらしいが、黒羽はまだ続ける。

 

「ええ、失望しますよ確実に。 あの朴念仁でロクデナシボーイは今まで信頼してきた貴女が犯人・・・・火サスばりの断崖絶壁で薄ら笑いを浮かべながら正体を明かす貴女の姿が容易に想像できます」

 

 

「ちょっ! ストップ! スト――――ッップ!!」

 

 慌ててヒナギクが止めに入ったが黒羽は不満そうに顔をしかめる。

 

「何を止めるのですヒナギクさん。 敵は戦意喪失気味です。 相手の精神を攻撃するのはスポーツ、カードゲームの世界では常識なのです。 ほら、伊澄さんを見てください。 今にもポッキーのような儚い音と共に心が折れそうです」

 

「ああぁぁぁぁ―――――ッッ!!」

 

 突然の大声に二人が反応したその先には、両手で頭を抱える伊澄の姿がそこにあった。

 

「私が嫌われるの? テル様に? いや、いやよ・・・・・絶対いや・・・・・イヤイヤイヤイヤイヤ」

 

「作戦成功です」

 

グッジョブと言わんばかりに親指を立てる黒羽。この女は鬼か、と思ったヒナギクである。

 

「戦意喪失させるどころか、発狂させちゃったわよ。 これ無事に事が済んだあと後遺症とか残らないか不安なレベルだわ」

 

「そこらへんはテルに丸ごとポイするのでご安心を」

 

彼なら上手くやってくれるはずです、と頷く黒羽だがヒナギクは逆にそっちの方が危険なのでは、と思っていた。

 

 

「でもまだ安心できないわ。 伊澄さんが立ち上がったわよ」

 

殺気を感じた二人の視線の先には立ち上がり、怒りの涙を流しながら光の球を今にも放とうとする伊澄の姿があった。

 

 

「消えてなくなれッ! 何もかもッ!!」

 

「伊澄さんッ! 落ち着いてッ!!」

 

「テル様なら私を受け入れてくれるはずッ! だからみんな消えてくださいッ!」

 

 

まずい、完全にヤンデレを超越した何かになった。 とヒナギクはこの状況で唾を飲む。

 

 

「正宗でもやれるかどうか・・・・」

 

思わず握った木刀を見るが、伊澄と戦うのは初めてだ。 力量も不思議パワーを使える伊澄の方が上と言ってもいいだろう。 この時こそ、ハヤテがいれば戦闘は楽になるのだが。

 

 

「まったく、ハヤテくんはどこに行ったのやら」

 

その場に居ない人物を口にしてもやって来ることもないので、愚痴を零してから改めてヒナギクは伊澄と向き合う。 せめぎ合う霊力と剣圧が火花を散らしていた。

 

 

「ヒナギクさん」

 

「どうしたの黒羽さん。 危ないから貴女は下がってなきゃ・・・・・」

 

前方から目線を逸らすことなくヒナギクは指示を出すが、黒羽は二人の発する威圧感に動じることなくその言葉を放つ。

 

 

「私にいい考えがあります」

 

「いい考え?」

 

「はい、私は幽霊とかオカルトとかそういった類の事はあまり信じていませんでした・・・・ですが目の前の伊澄さんを見て、そういった非現実的な物を信用せざるを得ません。 それを踏まえて言いますが、伊澄さんは操られているのでは?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 適応力の速さに驚いているヒナギクだった。 常人なれば、この殺されかけている状況で冷静な考察などできる訳がない筈である。 自身も一度幽霊やらゾンビと戦ったことがあるからこそ冷静にできるのであって、前例なしで立ち会ったら間違いなくパニックになるだろう。

 

「どうしてそう思うの?」

 

「なんでって・・・・あの頭の上見れば」

 

 

と、黒羽が指す先を見てヒナギクは目を数度見開いた。いつの間にか伊澄の頭上には何か人の形をした何かが浮いているのだ。しかも一つではない。

 

 

 

『まことくんまことくんまことくんまことくん・・・・』

 

『ゆっきーゆっきーゆっきーゆっきー』

 

『さとしくんさとしくんさとしくんさとしくん・・・』

 

『カイくんカイくんカイくんカイくん・・・・』

 

『柱間ァ・・・・・』

 

 

なんかどこかで聞いたことある台詞を放つキャラたちが伊澄の頭上で一人を除いて陰鬱呟いていた。

 

 

「あ、あれは・・・・・!!」

 

「知っているのですかヒナギクさん?」

 

「あれは数々の修羅場を生み出し、視聴者にヤンデレの称号与えれらてきたヒロインたちッ!!」

 

「一人オッサンが混じってる気がするんですが」

 

 病んでいることに変わりないだろうが如何せん、明らかにヒロインの枠から外れてる人もいることにヒナギクは疑問を持たないらしい。 恐らく、生徒会長として突っ込んだら負けなのだろう。

 

 

「私の予想が正しければ、あのヤンデレキャラ達の怨霊によって伊澄さんの日頃のストレスが爆発してしまってあのバーサク状態に」

 

「物凄い超速理解に助かります。 では、どう解決すれば良いかほとんどお分かりになっている事でしょう」

 

首を小さく振って、ヒナギクは頷いた。

 

「あのヒロインたちをどうにかすれば・・・・」

 

妖怪や幽霊の類は成仏、除霊で片が付くものだ。 だが相手はあの伊澄であるということを忘れてはならない。

 

「大人しくしてて伊澄さん!!」

 

正宗を居合斬りの要領で構えて踏み込みから加速。 一気に間合いを詰めて伊澄の頭上にいる怨霊たちへ狙いを定める。 最速最大の一撃が確実に怨霊たちに放たれるはずだった。

 

 

「―――――ッ!!」

 

しかし、伊澄がそれを阻む。 荒れ狂うような勢いで光の球がヒナギク目がけて乱射された。 当たればただでは済まない霊力を秘めた光弾だ。 その危険性を踏まえて迫りくる光弾を斬り捨てて一度後ろへ下がる。

 

「・・・・・厄介ね」

 

 

今更ながらヒナギクは、伊澄の実力を思い知ることになった。 これまで妖怪退治などでは心強い味方が敵になるということがこれほど手ごわい敵になるとは。

 

 

「ヒナギクさん、まだ話は終わってはいません」

 

「え?」

 

長引く戦いを予想して気を引き締めようとした時、後ろの黒羽の言葉が聞こえた。

 

 

「いい手があると言ったでしょう」

 

「・・・・・」

 

 表情に起伏が無いから気づかなかったがこの時の黒羽の台詞はどこかテルの影響を受けているのだと感じた。

 

「ああ・・・・ダメよ黒羽さん、簡単にあの馬鹿執事に毒されちゃ」

 

思わず目の前で攻撃態勢に入っている伊澄に背を向けて黒羽の肩を掴んだヒナギクだった。

 

 

「何を言ってるのか分かりませんが・・・・ここから先、私が伊澄さんの隙を作りますので、そこを狙ってくれませんか?」

 

なかなか危険なことを言う。 それを許すほどヒナギクは愚かではない。

 

「ダメよ。 そんなの私が許すと思う?」

 

「・・・・元はと言えば、私が原因。 ケジメくらいは私に着けさせてください」

 

「な、なんか漢らしいセリフね。 本当に大丈夫なの?」

 

心配そうに言うヒナギクだが黒羽は声のトーンを落とすことなく、頷いて見せる。

 

「絶対安全。 ええ、石橋を叩いて渡るくらい心配するだけ無駄なことです」

 

 

「ええぇ・・・・」

 

 

 自信満々に言うからにはそれほどの策があるのだろうと、ヒナギクは考察するがそれでも不安は拭い切れない。

だからヒナギクは保険を掛けることにした。

 

「合図だけ出して。 あと、危険だと思ったら私が問答無用で乱入するから・・・・・OK?」

 

「OK」

 

 どこかの洋風映画の男のような返しにヒナギクはため息をついてその提案に了承することにした。

だが、ここで引き留めなかったことが後にヒナギクを後悔させる原因となる。

 

 

 

 

 

 最初に仕掛けたのは作戦を提案した黒羽だった。眼前の伊澄は霊力を光弾へと変化させてこちらにいつでも攻撃できる状態だ。

その猛獣の支配するエリアに堂々と無防備で黒羽は足を踏み入れ、伊澄の前へと出た。

 

 

「ほう―――――」

 

「黒羽さん! 危険すぎわ!!」

 

小さく伊澄が笑い、黒羽の後ろではヒナギクが待機している。

 

 

「自ら殺され手に来たのですか?」

 

 恐怖で頭がおかしくなったのか、と伊澄が言うと黒羽は肩を竦めた。

 

「御冗談を。 やられっ放しは私の望むところではありません。 しっかりとやり返さなくては」

 

 ガラにもなく肩を回す黒羽はヒナギクの注意も聞かずに前進。 

 

「倍返しです」

 

 次第に伊澄との距離を縮めていく。正気か、と敵である伊澄もそう感じた。

 

 

「ならば、消し炭一つ残らせないで葬って――――――」

 

 向かってくるのは格好の的。この距離で外すことはまずない。 既にヒナギクの救援が駆けつけられる最低距離を既にオーバーしている。

ならば、確実に殺れる。そう確信した時だった。

 

 

「そんなちゃちな力を使って私を殺すことが・・・・そんなに楽しいのですか」

 

「・・・・いま、なんと?」

 

放ちかけた光弾の操作を止めさせるほどの唐突な言葉に伊澄が目を細める。

 

「まるで自分より小さな虫を捻りつぶして王様気分を味わう子供のようです。今の貴女は」

 

「ッッッ!!」

 

胸を刺す彼女の言葉に、伊澄の思考が乱れる。だがこれは挑発だ。こちらを油断させる敵の策なのだ。乗ってはいけない、それは分かっているはずだ。

 

「来てみなさい、伊澄さん。 楽に殺しちゃつまらないでしょう」

 

「はは、ご冗談を。 そんな安い挑発に・・・・・」

 

対して効果など無いように、こちらは冷静に手を軽く振って黒羽の言葉に耳など貸さない。 そう装ったつもりだ。

 

「ジャンプだって無くなった。 貴女でも勝てる」

 

「ッッッ!!?」

 

直後、伊澄に電流が走る。 そうだ、今の黒羽には窮地を救った守護神、ジャンプというのは存在しないのだ。

 

「包丁を突きたてて・・・・・もがき苦しむ私の姿を見たくはないのか」

 

あの白い肌を貫通して、泣き叫びながら息絶えていく黒羽の姿を想像する。それだけ全身の血が沸騰しそうなくらいに、伊澄は興奮した。

 

「来いよ伊澄・・・・怖いのか」

 

「貴女を・・・・殺してやる!!」

 

一歩踏み出して、お互いに距離を縮めていく。この虫けらのような命、自身の力を使うまでもない。

 

「そうだ・・・・来いよ伊澄、霊力なんて捨てて・・・・・掛かって来い!」

 

「へへっ・・・・そうだ、そうよ。 貴女なんか怖くない・・・・・貴女なんか怖くないッ!!」

 

言語能力を失わせて狂気に走るその姿はまさしく修羅。包丁を再び構えた時には周囲を守るように回っていた光の球は消え去っていた。

 

「野郎ぶっころしてやらぁぁぁあああ!!」

 

まるでどこかの洋風映画のむさいオッサンたちのラストバトルを見るようだったと、後にヒナギクは記憶している。それを自然な流れと勘違いするくらいにその時のヒナギクは思考が麻痺していたのだろう。

 

 

「ッ!! しまった――――ッ!!」

 

 

 危うく流れに飲まれてかけて、正常な思考にヒナギクは戻る。だが気づいた時には、伊澄と黒羽の距離は一メートル弱。もちろん伊澄は包丁を平突きの構えで突っ込んできているし、黒羽に関しては避ける素振りも見せない。

 

 

――――ケジメくらい着けさせてください。

 

 

「まさか黒羽さんッ!!」

 

 一瞬、脳裏で数分前のやり取りを思い出す。 あの後から、黒羽の行動は伊澄を挑発して黒羽に直接攻撃させるように仕向けていた。 その理解不能な行動を今ヒナギクは理解してしまった。

 

 

「相討ち狙いッ!?」

 

 

 やりかねない。冷静に対処してしまう彼女だからこそ、命が失われるのであっても平気で差し出しかねない。配慮が足りなかった、とヒナギクは思う。彼女の考えを捻じ曲げてでも、ヒナギク自身が前に出なければならなかった。

 

 

「お願いッ 間に合って!!」

 

 

 自身の使命を桂ヒナギクは思い出す。 生徒会長だ。 学園の生徒会長、つまり生徒の安全は守らなければならない。 教師がすべきことだが自身の直感は現職の教師たち以上の正義感を帯びているのだ。だから、目の前で危険な目に逢っている生徒を見過ごす事などヒナギクには耐えられない。

 

「―――――ッッ!!」

 

 場に滞在する空気を切り裂くようにヒナギクが加速した時、彼女は黒羽の右手から見えた帯状の何かをその目に捉えた。

 

 

・・・・・あれは伊澄さんの札!?

 

 

 梵字がしっかりと刻まれているその札は何枚もの札を縁結びのように結んで長い帯のようになっていた。それを黒羽はボクサーの拳を固めるボックスづくりの要領で巻きつけていたのだ。

 

 

確かに、使われた後の札でも除霊本来の能力を持っているならば、伊澄の悪霊を倒すことはできるかもしれない。その可能性はある。 むしろ、かなり高い確率で成功するだろう。

 

「ダメよ黒羽さんッ!!」

 

 だがヒナギクは思い出す。過去に伊澄の札をそう使い、ロクな目に遭っていなかったテルの事を。テルが札関連で戦闘をしたときは次の日は必ず死にそうな顔をしているのだ。ゴキブリ並の生命力を持つテルなら疲労程度で済むかもしれない。

 しかし使用するのは一般人の黒羽だ。何が起きるか分かったものではない。その行為への危険性を叫んだヒナギクだったが、止められなかった。

 

 

次の瞬間、雷が弾けたような轟音と光と共にヒナギクの視界は奪われた。

 

 

 

 

 

 

―――――同時刻。

 

 

「・・・・・これは」

 

場所はテルたちが閉じ込められている結界内。 白銀が立ち止まって自身の身に起きた違和感を口にする。

 

 

 

「伊澄の霊圧が・・・・・消えた?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 筋肉式和解術・・・・このシーンだけは三年前から出来上がってたんだ。 ようやくこの時が来た・・・・長かったぜぇ。
 ホントにここにたどり着くまで長かった。ホントはテルと伊澄でやる予定だったけど。ハヤテは武器を探しに行っています。 

やっぱ修羅場は殴り合いで解決すべきだ(錯乱)

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