ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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一ヶ月過ぎちまったぜ、・・・・・。 相変わらず無駄に展開が早いが申し訳ない。


・・・だらしない作者で済まない。


第123話~緑の亀を蹴り上げろ~

「ふふふ・・・・」

 

現実世界、遊園地の路地裏。 恍惚の表情を浮かべている一人の少女が居た。 鷺ノ宮伊澄である。

 

「これでテル様は・・・・」

 

 

私のモノだ。 と、その言葉を浮かべただけでまた笑いがこみ上げてきた。 その姿には普段冷静に振舞うおしとやかな、ましてや光の巫女としての姿は全く見られない。

 

 

「・・・・・・」

 

 

見下げる先にあるのは黒羽の倒れた身体。 腹部に突き刺さっている包丁は、先ほど自分が突き刺したものだ。

 

 

―――この女が、テル様を苦しめた。

 

 

 過去に、戦いを通して伊澄が黒羽から感じ取ったものは何も無かった。 まるで機械のように、何かの命令を受けて、ただただ動いているだけの存在。 一度は倒し、彼女を二度と見ることはないと思った。だが彼女は戻ってきた。記憶喪失になってやって来たのだ。 しかも、テルの住んでいるナギの屋敷である。

 

 時間が経って、テルを見れば、必ず隣に黒羽が居る。 それがどれほど伊澄の心を傷めさせていったか。 一度は彼女を庇うテルの言葉に従い、彼女の存在を認めようと努力した。だが、命のやり取りを、ましてや想い人を傷つけた相手を仲間に認めろというのは無理な話である。前までは妖怪退治も咲夜も含めて一緒に行っていたのに、最近はめっきり数が減ってしまった。 それは紛れもなく、彼女のせいだ。彼女が、黒羽舞夜がテルの時間を奪っている、そう感じた。

 

 奪われたのは、テルだけではない。それは三千院家の幼馴染、ナギもだった。以前、彼女の話題が彼女から出た時だ、ナギは黒羽についてこう語っていたのを思いだす。

 

 

―――黒羽は確かに不安の塊だ。 だが、あの儚さは昔の母のような放っておけないような、そんな感じがするのだ。

 

 

 嘘だ。と即座に自分は否定したかったが、諦めた。 それはナギを苦しめてしまうことに繋がるかもしれないからだ。 それゆえに、自分はこう考えてしまったのだ。 ”テルもナギも黒羽が全部奪っていったのだ”と。大切な人を奪われたことにより生まれたどす黒い感情は吐き出されることなく、溜め込まれる。 13歳の少女の精神を病ませるには充分だった。 

 

 

 

「ですがこの不安ともおさらば、白銀様には感謝しなければ・・・」

 

ゆっくりとその場を去ろうとした時、伊澄の動きが止まり、くるん、と踵が返される。 無表情で彼女は再び、倒れている黒羽の元へ歩き出した。

 

 

「あらあら私としたことが・・・」

 

特に足元をふらつかせる事なく、まっすぐと黒羽の場所へたどり着くと突き刺さっていた包丁を軽く引き抜いた。

 

「うっかりしてました」

 

凶器の回収もそうだが、もう一つやり残したことがあったと、伊澄は思いだす。包丁を手にしたまま、黒羽の頭の横に場所を変えて膝を折って座り込んだ。そして黒羽の首を掴み、狂気の滲ませた笑顔で言うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「首を切り落とさなきゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、異空間に放り込まれたテルと木原は自身を襲ってくる寄生獣モドキから逃げている最中、

 

 

「な、なんで咲夜がこんな所に・・・?」

 

 後ろ姿を確認したテルはそそくさに草陰を利用しながら後ろを向いている咲夜に近づいていく。少しの物音でも立てようものなら周りの怪人たちは必ずと言ってもいいほどこちらを見つけて、襲いかかってくるだろう。

 

「ってか何で俺たちはコソコソとほふく前進してるわけ?」

 

「ばっかヤローおめぇ、気配消して近づく方法っていったらコレしかねぇだろうが!ダンボールがあれば尚良しだったが、流石に異空間に持ってこれるほどテルさんは万能ではないのよ」

 

 

 

 まるでどこかのビッグボスの如くほふく前進を繰り返してやっと1メートルほどの距離まで近づいた時にテルは思う。本当に、なぜこの場所に咲夜が居たのか。 周りの怪人たちに襲われず、中央にどんと構えているその姿はまるで指揮を採っているかのようだ。

 

「ま、まさかアイツも寄生獣モドキに・・・・」

 

 

「んなワケねぇーだろ。 仮にも原作ヒロインだぞ。 そんな奴が顔くぱぁ、なんてやってみろよ・・・この作品終わるわ」

 

 

 不安が募らせる木原とテル。咲夜はこちらに気付いていないのかまだ周囲を見渡して仁王立ちで立ったままだ。

 

 

「さて、どうコンタクトを取ったらいいものか、バレないようにやんないとな・・・・・」

 

 

「それなんだけどよテル・・・・」

 

 なんとかして目の前の咲夜と連絡を取る方法はないものか、と思考を巡らせていた時だ。隣で伏していた木原がテルの肩を小突いてきた。 なんだ、と思ったテルがその横に視線を向けると木原は半笑いで口を動かして、

 

 

「もう囲まれてるってばよ」

 

 目を点にしたテルが周囲をぐるりと顔を回して見たときには数十の寄生獣もどきがこちらを囲むように存在していた。口元を刃に変形させたり、右腕をカギ爪で尖らせ、金属同士の擦れる嫌な音が360度から聞こえてくる。

 

 

「あー・・・・・」

 

テルは何か悟ったかのように空を見上げて呟いた。

 

 

「やっぱダンボールがないと無理か」

 

「そういう問題じゃねぇだろうがよッ」

 

 

 

「フハハハッハ―! ホントバカやなぁテルは!」

 

 突然として、先程から前を向いていた咲夜が嗤い声を上げながらこちらへ振り向いてきた。

 

「最初っからあんたらの動きは園内の監視カメラと同調してるウチのスマフォで筒抜けや!」

 

高笑いをしながら咲夜は続ける。

 

「ついでに言うと、この怪物寄生獣モドキはウチの命令には絶対服従や。 ウチが命令権を持っている限り、自身が襲われるっちゅー愚かなオチは絶対つかんからな」

 

 

「マジかよ・・・! たくさんの寄生獣モドキに襲われるっていう咲夜の薄い本ネタができる予定だったのに!! 大友もがっくりだよ!!」

 

 

「お前はボケることしかできねぇのかッ!!」

 

 真剣な顔で語られる台詞の内容のギャップに呆れた木原がテルの頭を最大に叩いた。この男には絶対にシリアスならない防御結界が常に発動でもしてるのだろうか。

 

 

「だがッ!!」

 

 

 唐突にテルが謎のポージングとともに腕を組、こちらのやり取りを見て高笑いする咲夜を指差した。

 

 

 

「今のやり取りで分かったが・・・『お前』、本当の愛沢咲夜ではないなッ!!」

 

「な、なんだって? それは本当かい!?」

 

 どこかの馬のオルフェノクのような反応を見せる木原にテルが小さく笑いながら続け、言い放つ。

 

 

「俺たちの小さなギャグやらボケに突っ込みを入れない・・・・それは俺達の知っている愛沢咲夜じゃあねェ―――ッ!」

 

「た、たしかにそうだ・・・お前何モンだァ―――ッ!!」

 

 そう、彼らが知っている愛沢咲夜とはお笑い芸人、もといエンタメお嬢さま。 笑うことに死ぬほどの危険があっても名の通り身を張ってでも笑いを取りに行くダチョウクラブリスペクト精神を持った人物だ。 その彼女が

小さなギャグやボケに何も反応を見せないというのは天地がひっくり返っても絶対にない。

 

 

「・・・・・」

 

 

 図星だったのだろうか、咲夜の姿をした人物は黙っていたがやがて小さく震えるように笑い出し、高らかに腕を上げて叫んだ。

 

 

『その通りだ人間ッ』

 

片手で顔の片方を隠した彼女の瞳の色が赤に変わると同時に纏っていたい雰囲気も一変した。 

 

「な、なんだこのプレッシャー!?」

 

 風など吹いてはいないはずなのに周囲に衝撃が走り、木々が揺れている。電気のようなもの肌パチパチと威圧するかのように発せられている。 まるでどこかの魔王のようだ。

 

『我はこの娘の身体を乗っ取った別の存在よッ いいか、忠告しておくぞ! 意識は別とは言え、この身体はお主らが知っている『愛沢咲夜』のモノ! 傷つければどうなるか―――――』

 

「くっ・・・! 姑息な手を・・・・!! どうするテル!!」

 

 打つ手なしか、と言われれば確かにそうである。 相手が言っていることが本当だとしたら、こちらは無闇に咲夜の身体へと攻撃することは出来ない。ゲームやらアニメでよく見られる設定といえばそれまでだが、実際にその手段を用いられるとこれほどまでに面倒な相手だ。

 

その問を隣の相棒に投げた木原だったが彼は次の瞬間、衝撃の光景を目の当たりにする。

 

 

「オラァァァァァッ!!」

 

「ギャアアアアアアアアッ!!」

 

 

 偽物の咲夜が説明を言い切る前にテルの飛び蹴りが咲夜の顔面に直撃させるその姿を。

 

 

『えっ・・・ちょっ! なんで・・・・ぼふぉ!』

 

 盛大に地面へと倒れた咲夜が唖然と戦意を喪失中にも関わらずまるで流れるかのような動きでテルは偽咲夜へとスリーパーホールドを決めていた。

 

「あー? どうせこの娘の身体がうんたらかんたらで俺達にエロい事する気だろうが」

 

『誰がするかッ! 需要ねぇだろうがそんなもんッ!! だいたい話聞いてなかったか!? この身体はこの娘の身体なんだぞ?』

 

「そ、そうだぜテル! このお嬢ちゃんの身体は本物なんだ!!」

 

「ダイジョーブダイジョーブ、大抵この作品の九割はギャグで流すから。 ドッキリドクター見てみろよ、博士トラックに跳ねられてるのに次のカットでは『あーマジ死ぬかと思った』で済まされてるから。 あんな感じで」

 

「あっ、なるほど」

 

『お前も納得すんなァ―――!!』

 

 これが咲夜本人だったら一体どんな悲惨な状態になっていただろうか。肉体だけは本物なだけの相手に対して、この男たちは本当に容赦がない。

 

『い、いたいっ! マジ、マジやめて!!』

 

 涙目で頭を抑える偽咲夜の頭に二人の片手に持っていたハリセンが嵐のように叩きつけられている。まるで一方的にいじめられているかのようなシーンだ。 いや、実際そうなのだが。

 

 

「あ~、たまらねぇぜ」

 

「お前、絶対私怨含めてるだろ」

 

いやぁ? と、木原に問われてもテルは嬉々としてハリセンを振り上げて続けるのだ。

 

「そんなァことないからねぇ! 研修始まってからのこいつのギャグをその名の通り身体を張って受けてた事なんて全然気にしてないからねェ―――ッ!!」

 

 

 目が澱んでいる。これは完全に仕返し目的でやっている感じがある。問答無用にハリセンを相手に振るうテルを見て、そう確信した木原だった。

 

 

「ちょ、調子に乗るな―――ッッ!!」

 

 一喝。 その叫びとともに両腕を思いっきり振り払われたと同時にテルと木原の身体が吹き飛ばされる。 突如として強烈な突風が吹いたかのような衝撃に二人は驚きながらも無事着地をすると、

 

「やるねェ」

 

不敵に笑って見せるのだ。それはテルだけでなく向こうで先ほどまで涙ぐんでいた偽咲夜も同じで、まるで遊びは終わったかのように雰囲気を変える。

 

 

 

『余興はここまでだ。 人間風情が・・・我の真の姿を見せてやる!!』

 

 

 偽咲夜が両腕を開いて見せると、今まで何故か呆然としていた寄生獣モドキ達がスライムのように溶け始め、テルや木原たちを無視して一斉に偽咲夜の方に集まていった。

 

 

『ハアアアアッ! バリアルフォーゼェェェェ!!』

 

 ヒロインがやってはいけないようなゲスな顔芸を披露した咲夜が一層に叫ぶとテルたちの視界を覆わんばかりに光の柱が天に向かってそそり立っている。 光の柱の周囲の雲がまるで暗雲の如く立ち込め、ゲームで魔王が降臨するかのように、稲妻が駆け巡っていた。

 

 

『ハッハッハッハ―――!! 我の真の姿を見たかッ 恐れ慄きのたまうがいいッ』

 

 

 サウンドウェーブをかけたかのような鈍い声、そして地響きを鳴らすかのような一歩と共に偽咲夜が現れる。だが、その姿はまさしく、ヒトではなく、別の物だった。

 

 

 

―――その姿、まるで・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「●ッパじゃねーかッ!?」

 

 

テルが指を差して突っ込んだ。隣にいた木原も、あー、と頷きながら、

 

 

「クッ●だ」

 

 

 視線の先、呆然と立ち尽くす二人の前には某配管工のゲーム世界のラスボスが目の前に体現していた。 緑のトゲ甲羅、巨大な四肢や身体の色合いなど正しくあの亀だ。

 

『どうだ見たかァ! 我の姿をッ 恐怖なる魔王の姿をッ』

 

全身から溢れ出る力を誇示するかのように一mほどの拳を握ってみせるがテルと木原は、

 

「ピエロの飛行船に乗ってないから結構最初のほうか? アレ? どうだっけ」

 

「いやでも最初のマリオのラスボスってたしかドンキーだったような」

 

「しらねーよ、取り敢えず木原! クリ●ーか緑甲羅もってこい、あいつの頭にぶち込もう」

 

「いや、それよりも溶岩に落とすことが一番いいのかもしれん!」

 

『・・・・・・』 

 

 

全くもって聞く耳を持っていなかった。無視されていた偽咲夜は怒りを覚えて、

 

 

『コッチヲミロォォォオオッ!!』

 

 

 怒号とともに、拳を振り上げては二人目掛けて地面へと振り下ろす。 巨大な拳が地面へとめり込んで盛大に音が物語るその威力は、クレーターを出現させるほど。 テルと木原もその攻撃には流石に危険を察知したのか、お互い瞬間的に飛び跳ねて距離をとって難を逃れる。

 

 

「だからァ! 俺あん時いったじゃん! ヨッ●ーは乗り捨てるものだって! ああやんないと手に入らない鍵とあるんだぞお前ッ それをお前、失敗して残機マイナス1と●ッシー失った昔の事わざわざ思い出してんじゃねぇよ!!」

 

 

「テル! お前にはアイツの叫びが聞こえなかったのか!? 主人にジャンプ台として乗り捨てられて、谷底へと消えていく小さな命の悲しい叫びがッ!!」

 

 

『嫌がらせかッ 揃いも揃って我をいじめるのかッ! 無視はいけないんだぞ!!』

 

偽咲夜の突っ込みにようやく気付いたか、テルと木原がこちらを向く。二人は偽咲夜を見上げながら、

 

「うるせぇな! こっちは正しい”でってぃう”の使い方で議論してんだよ! 鈍重は黙ってろ!」

 

「あの世界はなァ! 何かを踏み台にしなければアイテムを得られない悲しい世界なんだよッ! ●コノコも、ク●ボーも、ボ●兵も! ラグビー野郎も! 全員が踏み台なんだよ!」

 

『知るかボケェエエエエエエ!!』

 

轟、と偽咲夜の口から一杯に光るものが見えた次の瞬間、テルたちに向かって灼熱の炎が吐き出された。 火炎放射器のように吐き出される炎は一帯を焼き尽くし、辺り一帯が灼熱の地獄と化した。 先ほどから無視され続けていた為に怒りで我を忘れてしまったか、標的の二人には全く当たっていない。その様子を見て、テルが一言。

 

 

「・・・・火種の無い環境でこれほどの火遁を操るとは・・・やはり天才か」

 

「ボケてる場合じゃないだろ。 そろそろ洒落にならなくなってきた」

 

 偽咲夜の撒く炎は勢いを強め、テルたちをこの場所から逃さんとばかりに囲んでしまっていた。 炎に囲まれているからか、気温の上昇が半端じゃなく、テルと木原もその身に尋常じゃないほどの汗を流して現在の状況の悪さを今更ながら理解する。

 

 

だが、どうする。 と冷静に木原は分析する。 敵は仮にも某ゲームにてラスボスを張っていた魔王。 しかも咲夜の身体は本物なのだ。 偽咲夜の身体を傷つけて、本物の咲夜の身体が傷つかないという完璧な保証はない。 状況は猶猶苛烈だ。 その意図を横にいるテルは理解しているだろうか。その確認を踏まえて、彼に視線を送ると彼は一瞬こちらを見た後にゆっくりと前を向きながら、

 

 

「安心しろ」

 

 

 炎の渦に巻かれているこの場面で、彼はそう言ったのだ。

 

「アイツは絶対に助け出してやる。 一応、今は俺のご主人様だからな」

 

 

 指をポキポキと鳴らすと彼は木原の肩を掴んでニッコリと笑った。

 

 

 

「だからよぉ木原くん、ちょっと犠牲になってくんない?」

 

 

へ? という間抜けな言葉を発する間もなく、木原の視点がぐるんと変わる。 いつの間にか、木原の身は炎とは無縁の空中へと投げ出されていた。 本当に一瞬だった。背負投の要領でテルが背を向けた瞬間、超常的な力が働いたのか、偽咲夜の頭上を超えるほどに高く、彼の身は空を舞っていたのだ。

 

 

「なせば大抵なんとかなる! あとは自力で何とかしろ!」

 

 

「そんな無茶なッ!!」

 

360度の視界の変化に目を回しながらもテルの声をなんとか拾って、そう叫ぶ。 だが、長く彼と行動をともにしていたからか、なんとなくその狙いは分かる。 空中で受身をとって、偽咲夜の頭上に視線を落とすと落下と共に、その右足を振り上げた。

 

『何をする気だッ!?』

 

「これから落ちるッ!!」

 

頭上を取られた偽咲夜が上を見上げるが既に木原は落下のスピードを利用して、こちらへ足を振り下ろしたのを見て防御を構える。 構えた巨大な二の腕に木原の遠心力を最大限に活かした踵落としが炸裂するが、巨大な身体故に、衝撃は完全に防がれて逆に木原が弾き飛ばされた。

 

 

『効かぬわッ』

 

 

ウエイトを最大に活かしたこの防御。崩せる物はそうそう居ない。 この防御を突破できる存在とは、某配管工のパンチくらいだろうか。 

 

 

『・・・・ッ!?』

 

 勝利を確信した偽咲夜が見たのは木原の不敵な笑だった。 何かしらの策はあったのかもしれないが、奴の一撃はモノともせず、こちらは立っている。何を笑うことがあるのだろうか。

 

 

「ナイスだ木原ッ!!」

 

「おおッ! テメー後でパピコ奢れよな!」

 

なんだ、と偽咲夜の大きな瞳が声のする方へと向けられた時だ。 小さな男がいた。 何重にも梵字の書かれた札を巻きつけた、鉄パイプを構えた一人の男が偽咲夜の目の前に立っていたのだ。 不敵に笑った男、善立 テルは牙突の構えで偽咲夜の土手っ腹目掛け、

 

 

「光になれぇええええええええ!!!」

 

 

思いっきり突き刺さした。

 

 

『GYAAAAAAAAAAA!!』

 

 獣のような叫びは偽咲夜のモノだった。激痛なのか、別のものなかは分からないが、拳程の光が無数に偽咲夜の体内から放出され、量が多くなるごとにその身は一層光を増し、やがて。

 

 

ぼんっ、という小さな爆発音と煙の中から人影らしきものが見えたのをテルは見逃さない。丁度落下地点にあったためか、その落下スピードを覚悟した上で彼は身構える。そして次の瞬間。

 

 

「ぶはっ!」

 

落下してきた人物をその両手に受け取るために膝をクッションにすべく曲げてみたが、勢いが付き過ぎたためかテルは尻餅をついていた。 自身の痛みも束の間、受け止めた人物が無事なのを確認するために、その人の顔の頬を軽く叩いてみせる。

 

 

 

「おーい咲夜ァ 咲夜ァ! 西から登ったお日様が東に沈んでるぞ!」

 

「んなワケあるかァ! ボケも大概にせんかぁいいいいい!!」

 

 盛大な突っ込みとともに咲夜が目を覚ますのを見てか、テルは内心でほっと胸をなでおろしていた。 目覚めた早々にこれほどキレのいい突っ込みを見せれるならば大丈夫だろう。

 

 

 はっきり言って賭けに近いモノだった。咲夜をテルが攻撃するというこの手段は。木原が偽咲夜の動きを完全に止めるための囮になったが、”ただテルの攻撃を当てる”為の囮ではない。恐らく、偽咲夜は物理的な攻撃は全く効かないだろう。なぜなら、咲夜の中に入っていた物は憑依して咲夜を操っていたことから、霊体的な存在だとテルは推測した。 霊体という言葉を聞いて、テルはひとつだけ思い出したことがある。それはヒナ祭り祭りの時だ。 あの時、バーサーカー期の黒羽と戦っていた時、テルはボムという男?と出会ったことだ。

 

 そのボムというのは過去にリア充を妬むが故に生まれた怨霊で、テルが殴っても投げても倒すことは出来なかった。 チビハネの機転で、ボムは成仏したのだがこの出来事をヒントにテルはある事を考えた。自身が持っている伊澄の札。これが霊的力を阻害するというのであれば、霊体的な相手には有効なのではないかと。結果、今回の事で札を巻いた状態なら霊的な相手は除霊できるということが分かった。 なので咲夜本体にはダメージは行かないのである。

 

 

わかりやすく説明すると、『玄米ブレード』的な感じだ。

 

 

 

 

 

 

「そんだけ騒げれば大丈夫そうだな。 おい咲夜、一体何があった」

 

そう問われた咲夜が唸る。 ややあってから、

 

「・・・そうやテル。 お前さんに話さなきゃいけないことがあるんやが、その前に・・・・」

 

 

「ん?」

 

首を捻るテルに対して咲夜が顔を背けた。 真横から見える咲夜の顔が若干熱を帯びているように赤くしながら彼女は今度は身を捻ってもどかしそうに、

 

 

「ちょ、ちょっとな・・・? 恥ずかしいから、その・・・・降ろしてほしいねんけど」

 

「お、すまん」

 

と、先程までからずっと咲夜をお姫様抱っこしていた事に気づいたテルがゆっくりと咲夜を地面へと下ろす。 その身が離れるときに若干名残惜しそうにこちらを見ていたのは気のせいだろうか、とそんな事を思いながら咲夜の準備が整うまで待つことにする。

 

 

「あーもう、テルのせいで調子狂わされっぱなしやわ」

 

 まだ恥ずかしさから頬を染めていた咲夜が頭を掻きな呟いている。 深呼吸をついたりと、なんとか落ち着いたようだ。

 

「俺から質問、この状況作った犯人は誰だコノヤロー」

 

 テルが事の発端を咲夜に聞く。 この一日は途中で劇的に変化を遂げた。楽しい遊園地めぐりから地獄の寄生獣ランドへ無理やり飛ばされ、命まで狙われている。この状況はもはや普通ではない。咲夜は重々しく口を開いて言った。

 

 

「・・・・・白銀や」

 

「・・・・・」

 

 

その名に、テルが腕を組んで押し黙った。 その後ろに居た木原は訳がわからないと言った表情で咲夜に尋ねる。

 

「なんで白銀が・・・・・?」

 

「理由はよくわからん。 ただ、アイツが狙ってるのはテル、お前の命や」

 

 

物騒なモノだ、とテルは薄く笑ってみせる。 以前から中々隙を見せなかった訳だが、ここにきてようやく本性を見せてきたらしい。

 

「アイツ・・・魔法使いかなんかなのか?」

 

「ウチらも分からん。 伊澄さんもウチも白銀の魔法みたいな光を浴びてから何がなんだか・・・ウチ、何かしたか?」

 

覚えていないのか、とテルと木原が目を数度見開く。 やがてテルが小さく口を動かして言葉を作る。

 

 

「・・・・クッ●になってたぞ」

 

「なんでや! ってコントやってる場合やない! ようく聞いておけ、テル。 アイツの正体や」

 

「ん? なんだよ咲夜、もったいぶってないで早く教えろよ」

 

無駄に引っ張ているように見えたのだろうか、いつもの調子でテルが言うが、咲夜は深刻な表情で俯かせた。

 

「・・・・うっさいな、ウチだってな、受け止めようにも受け止めきれない事実っちゅーもんがあるねん・・・・」

 

辛い表情のままで咲夜は俯いていた顔を上げて、テルに言うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白銀はな・・・・未来から来たテル、お前自身や」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




伊澄さんが大変なことにィ・・・どうしよう、そろそろR18にしなきゃ(使命感)

投稿毎回遅れてしまってスミマセン。 正直に言いますと、こんな感じで遅れました。

『ヤマノススメ』を見て癒される⇒『甘城ブリリアントパーク』を見て作業が楽しくなる⇒『SHIROBAKO』を見て将来への不安が生まれ万策尽きる⇒『結城友奈は勇者である』の怒涛の欝ラッシュにより死にたくなる。

以下、最終回までループ。 この順で見たのが不味かった。 うん、ごめんなさい。ただの甘えでした。



これが今年ラスト投稿になるのかと思います。また変な終わり方しましたが、来年もまた宜しくお願いします。


もし時間があったら『結城友奈は勇者である』で短編つくるかもです。 

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