ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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 ちょっと両方共執筆を暫く休んでたから本格的にアナコン進めてくよ~


第120話~一筆啓上”仕掛け”が見えた~

 桂ヒナギクのご機嫌を取る為に映画を見に来ていた綾崎ハヤテ。 しかし、いつの間にか二人は某有名な遊園地へとデートのようにやって来ていた。 白皇学院の生徒会長とどこの馬の骨かも分からない幸薄そうな少年とではデートというにも不釣合いなこの構図。

 

 

 しかし、そんな蜜の滴るほどの面白そうなネタに飛びつかない者は居ない。 かくいう黒羽舞夜も、この白皇の治安を揺るがしかねないスキャンダルに乗じてこの場所にやって来た者の一人だ。

 

 

「しかし唯子さんも人が悪い。 私達で二人のイチャラブデートを撮影してきてほしいだなんて」

 

 漆黒のカメラを片手に、黒羽は自販機の影に隠れながら椅子にて休憩を取るハヤテとヒナギクを見据えて淡々と独り言を呟いていた。 元々これは先輩である奈津美唯子に依頼されたことだったのである。

 

 

 さっきも言ったようにこの構図は白皇の生徒内でのヒナギクの立場を揺るがしかねないものだ。下手をすれば、ハヤテの立場も男子的と女子的からの批判は当然危ういものとなるだろう。 

 

勿論、二人を監視するのにはひとりでは色々と大変だろうと唯子も助っ人を手配してくれたというのだが、

 

 

「キャッホォォォォウ! 見ろよ木原、水しぶきヤベーって! 濡れる濡れる! 執事服マジで濡れる!!」

 

「うわスゲー! 写真、写真できてるぞテル! お前最後写真取られる瞬間、眼つぶってンぞ! 女子か? 女子なのか?」

 

 

 見事なまでに、任務そっちのけで遊園地を満喫していた。 呆れを含んだため息を二人に気付かれないように吐きながら、黒羽はベンチにてアトラクションで撮影された写真を見ているテルと木原に状況の報告を兼ねて近づき、

 

 

「なに見事にアトラクション満喫してるんですかお二人は」

 

「おお、黒羽。 なに、今しがたあの『水しぶき山』行ってきたんだがよ。 見ろよこれ、スゲーよ。 最後のコース、着水する瞬間写真撮ってくれるんだぜ」

 

 

 まるで少年のように目を輝かせるテルが不機嫌そうな黒羽を気にも留めずに先ほどの写真を見せつけてきた。

 

「まるで小学生のような幼稚さをこの私に見せつけてくれますね。 それはなにか、今後この私にそれをネタに虐めてくれと言っているのですか」

 

 続けて黒羽は言う。 今度は養豚場の豚を見るような目で二人を一瞥しながら彼女は冷ややかな口調で、

 

「いい加減夢から覚めたらどうですか。 所詮マスコットの中にはむさい手ぬぐいを頭に巻いたオッサンと、落ちているゴミを”夢の欠片”と言ってファンタジー感を無理に演出させる虚構の世界なんですから。 貴方たちは現実を見るべきです」

 

「ヤメろォ! お前は遊園地に恨みでもあるのかッ!?」

 

と木原。 便乗するように今度はテルが

 

「そうだそうだ! 俺たちはなぁ、東京出てくるまでは山で暮してたんだよ! 分かるか山!? マウンテン! 型月作品名物YAMA育ち!遊ぶ場所なんざメイとさつきが宜しくやってる森の中でどんぐり探しまくってるんだよ! 夢の国より野生の国なんだよ! 憧れちゃうのはしょうがないだろ!!」

 

と、十七の少年が涙を流しながらこちらへ反論している様は何とも言えぬ状態だ。 事実、テルと木原は本当に山育ちなのでこういった場所は本当に憧れと言ったものを抱いているのだろう。

 

「まぁ私は基本興味が無いので困りませんが、貴方たちは大変ですね。 一度そんな残念思考に染まってみたいものです」

 

うるせぇ、と黒羽の罵倒を一言で返したテルが彼女に聞く。

 

「アイツらはどうだったんだ?」

 

「ええ、まぁ簡単に言うとデートしてます。 ハヤテさまはいつも通り、ヒナギクさんは乙女プラグイン全開と言った感じで」

 

それを聞いた二人は今度はさっきとは違った羨ましいやら怒りやらが混ざった涙を流している。

 

「壁が足りねェ! 代用品は無いのか木原ッ」

 

「ダメだッ 持ってきていた叩き割り練習用の瓦が底を尽いちまったッ」

 

「生徒会長の胸を借りたらどうでしょう。文字通り、”壁”ですよ」

 

お前は死にてーのかッ!?、と木原とテルの同時突っ込みで一旦三人は落ち着きを取り戻すことにする。

 

「ぶっちゃけあの人の言うとおりに盗撮する必要ないじゃんかよ黒羽」

 

「ほう、それはなぜですかテル。 この私より頭が悪い貴方の意見で、どうぞ私を納得させてください」

 

 目を細めて黒羽が言うと、あまりの威圧感でテルが喉を鳴らした。 お、おう、と彼は続けて言うとわざとらしく咳払いをして見せて、

 

「だってよぉ、こういうって勝手に撮影したら二人は困るもんじゃねの? それにハヤテは会長のご機嫌をなんとかするって為にここに連れてきてんだから。 他意はないのは分かってんだろお前も」

 

 

それはそうだ、と黒羽は思う。 唯子からも、この撮影についての裏事情はある程度理由は聞いている。 それを承知の上でこちらに唯子は頼んできたのだからド畜生以外の何物ではないが。

 

「適当に報告すればいいんだよ。 ただ二人して遊んでた、それ以上の事はなかった。 写真もこうやってる俺らの写真をあのドSお嬢様に送りつけてやる」

 

「そんなことをすれば唯子さんからデストロイされそうなのですが気のせいでしょうか」

 

安心しろ、と黒羽の不安そうな問いに木原が答えた。 

 

「アイツらの学園生活には変えられないでしょ。 ねぇテルくん、俺たちもいろいろあったじゃないか」

 

「いろいろ・・・?」

 

 首を傾げている黒羽を見て、テルがまずそうに思ったのか木原の肩を掴んで一度二人は黒羽に対して背を向ける。 テルは片方の手で自身の頭を掻きながら小声で、

 

 

「黒羽もだいぶ関わってることだろうがソレは。 記憶を思い出させるような話はするなよ」

 

「す、すまん」

 

と、二人は再度前を向く。木原は不器用にも咳払いを数度して見せてから言った。

 

「まぁ、とにかくだ。 男女間のいざこざというのは、その個人だけでなく大多数の人々に計り知れない影響をもたらすのだ」

 

胸を張って言う木原に黒羽は手をぽん、と叩くと納得したように頷いて見せた。

 

「なるほど、痴情のもつれ・・・というヤツですね」

 

「あっれー? 俺なんか間違い誘発させるようなこと言った?」

 

「諦めろ木原くん。 この女はナギのせいで毒舌やネタに走る女になっちまったんだ・・・屋敷に来たときはまだ何色にも染まっていない女だったのに」

 

 テルが言うとおりで、黒羽が最初の屋敷で働き始めていた時はまだネタのネの字も知らない病弱な無垢な・・・それでこそロシアの荒熊さんが言うとおり、乙女だったのだ。

 しかし、ナギがパソコンで動画サイトを見せたり、漫画を見せ始めた頃だろうか、宿題を見せて欲しいとテルが黒羽に尋ねた時だ。彼女はいつもの無表情でこちらを見ながら、

 

 

―――ググれカス。

 

そう言ってきたのだからテルはびっくり。 それからナギによる魔改造は進み、彼女の部屋にはパソコンが設置されていることから時間の合間にそっちの勉強も進んでいるのだろう。

 

 

「テルの言う分も理解できました。 ですが、私はどうすればいいのでしょうか。 あまりこういった騒がしところは初めてなので・・・」

 

 その黒羽が困ったようにカメラを下す。 スクープ撮影の依頼を全力で全うしようとしていたからか目的がなくなった途端、これからの行動に迷いを持っているようだ。

 

「じゃあさ」

 

 テルが黒羽の持っていたカメラを優しい力で手に取って言った。

 

「俺らも遊ぼうぜ」

 

カメラを起動させて、目の前の黒羽にピントを合わせるとタイミングも聞かずにシャッター音を鳴らした。

 

「屋敷での仕事とか忘れてさ。 学校の事とかも、明日の事とかも、色んな縛り事から離れてさ、楽しむことだけ考えて過ごすのもいいじゃねぇか。 遊ぶことに時給は発生しねぇけど、もっと大事なものができるかもしれねぇからさ」

 

「先を考えない行動ですね・・・しかし、よいのですか?」

 

「なにが?」

 

と、すっとぼけたような表情をしたテルに眉をぴくり、と動かした黒羽が言う。

 

「これでは私達がデートしてるようですが」

 

「何言ってるんだ。 この木なんの木、木原君がいるじゃない・・アレ?」 

 

 笑顔で向けたその先、いた筈の木原竜児の姿はそこに居なかった。辺りを見渡してみるが、この大勢がいる遊園地だ。探せという方が無理である。

 

「そう言えばアイツ、熊のドゥさんの森に行きたいって言ってたからな。 もしかしたら一人でそっちに行ってるのかも」

 

呆けているテルに暫くしてか黒羽がため息を混じらせて口を開いた。

 

「この状況、私はマリアさんに申し訳なく思います」

 

「え? なんでマリアさん?」

 

「なんでって・・・理由を言わなきゃダメなのでしょうか」

 

「え?」

 

マジですか、と一連のやり取りに今度こそ呆れた黒羽は数秒ほど首を傾げているテルを見つめて、彼に背を向けると離れていくように歩き出した。

 

 

「オイオイ、どこ行く気だよ」

 

すると黒羽はピタリと足を止めて振り返ることもなく、彼女は告げる。

 

 

「トイレです。 付いてくるなら堂々とどうぞ。 その際はしっかりと法的手続きを踏んで、次からは法廷でお会いすることになるのでそれを承知なのでしたら」

 

「んなこと誰がするかよッ!! 早く戻って来いよ、ここで待ってっから」

 

「・・・・はい」

 

 僅かにテルの方を見ようと顔を動かしたが、すぐに正面へと向きなおして黒羽が歩き出していく。 すぐに人混みの中へと入っていった。 その様子に不安を抱いていたテルは腕を組んでベンチへと腰を掛けて唸る。

 

「・・・分からん」

 

 事情はどうであれ、固意地の彼女をうまく遊びに誘うことまでは良かった、だがそこから何かがおかしい、どうしてあの場面で黒羽の口からマリアの名前が出てきているのか、テルには理解できていなかった。

 そこから程なくして行方をくらましていた木原が戻ってきた。彼は熊のドゥさんの人形を片手に笑みを浮かべながらスキップしているのだがベンチに座っているテルを見て黒羽が居ないことに気付く。

 

 

「なぜお前が一人なんだッ!!」

 

「いや、トイレに行くって黒羽が言うもんでな・・・ここからトイレまで結構近い場所にあるから一人で行かせた。 お前はドゥさんとの触れ合いを満喫してきたようだな」

 

まぁそうだが、と不機嫌そうなテルにそう答えた木原はさほど気にする素振りも見せずに隣のベンチに座る。 

暫くして、木原の口が開かれる。

 

 

「んで、教えろよテル。 白銀が何企んでんのかよ」

 

 空を見上げた木原は唐突にその話題を出す。黒羽が不在と言うこともあり彼はここで聞くことにしたのだろうか。 テルは手を組んで真っ直ぐと今も尚絶えない人混みを見つめて言った。

 

「なんでも、これから先の出来事になるかもしれないけど・・・黒羽が死ぬことになるらしい」

 

「マジかよ」

 

木原に頷いてテルは続ける。

 

「俺もいろいろと聞いてみたがアイツは隙がない。 伊澄と咲夜にも頼んでみたけど成果はナシ・・・畜生、戯言だと斬って捨てればそれまでの話なんだが、アイツの言う事はどうも気になるんだよなぁ」

 

と、調査の依頼をしていた咲夜と伊澄の顔が浮かぶ。 そう言えば最近学校に顔を出さないようになっていたのをテルは思い出す。咲夜に関してはここ二日間、伊澄の家に泊まり込んでいる。愛沢家の屋敷でも会ってはいない。

 

なんにせよ、手詰まり状態なのには変わりがない。

 

「ただ一つ分かってることは・・・俺はアイツが気にくわねェ」

 

 吐き捨てるように言うテル。 その瞳にはこれまでの仕打ちに対する怒りとはまた別の感情が込められていた。

そこまでして自身を貶めるように動くのはなぜなのか、そしてそれが最終的に黒羽の死とどうつながっているのか。

 

 そんな事は関係はない。 テルが気に食わない理由は、テルが感じ取った白銀の目だ。 まるでこちらの心を見透かしたような物言いもそうだが、白銀拓斗の瞳はどこか死んでいる。何かに諦めてしまっているような瞳だった。上っ面だけの仮面をかぶっているのが、テルが感じた白銀拓斗である。

 

「お前そういうヤツ嫌いだもんな、基本よ。 自分の正反対の相手とか」

 

「おうともさ。 文句あっか」

 

 睨むような視線を横目で木原に送ると、彼は両手を自身の後頭部へと回して”ない”というジェスチャーを送った。

 

「お硬い思考だよな、んな事いってるとマリアさんに愛想つかれっぞ」

 

 上を向いたまま発せられたその単語にテルが頭を掻いた。

 

「お、お前までマリアさんの名前を・・・なんでだ」

 

いやなんでって、と木原が当然のようにその名を口にした意味を語る。

 

「お前のマリアさん好きは周囲に知られてるぞオイ。あの人がどうなのか知らねぇけど、お前はそういうことじゃないのかよ」

 

その意味を理解したテルは目を点にしていたが暫くして慌てて口を開く。

 

「違うぞ。 コレは”憧れ”だ。決して恋心ではない!」

 

彼はそういうのだが、目を回して、無理している感があるためか説得力に欠けるのは丸分かりだ。だが使用人の上司として、彼がそう思ってしまうのは仕方ないことなのかもしれない。 

 

 

ならば、と木原が質問を変える。

 

「マリアさんのことは尊敬している?」

 

「イエス」

 

「マリアさんと居ると緊張する?」

 

「イエス」

 

「マリアさんの写真は何枚所持してる?」

 

「屋敷に一枚」

 

「マリアさんに踏まれたい?」

 

「もちろんさ」

 

 

―――ダメだコイツ、早く何とかしないと。

 

 

 内心でそう決断を下すとともに、この変態執事に目を付けられているマリアに対して同情したくなった木原だった。 だが彼が出した答えの中にはその本心が現れている答えが幾つかあっただろう。 本人がまだ本格的に自覚していないだけなのかもしれない。

 

 

「時間の問題か・・・」

 

「時間って?」

 

木原のつぶやきにテルが怪訝そうな表情で尋ねると彼はキメ顔で頷きながら、

 

「ああ!」

 

意味がわからない返答をした。簡単に言うと誤魔化したのである。 と、これ以上話が脱却しない内に木原が話題を変えようとしたがここであることに気付く。

 

「黒羽・・・遅くね?」

 

たしかに、とテルが彼女が消えていった先の人混みを見据えて小さく頷く。 黒羽がここから離れて、そろそろ十分が経過しようとしていた。

 

「女子には色々あるんだ・・・もう少し待ってみようぜ」

 

「そうだな」

 

とお互いが納得した訳だが、そこから三十分。

 

 

「ハイ迷子! もう絶対迷子! 言わなきゃ回避できると思ってたけど迷子フラグ完全に回収しちゃったよ!」

 

「携帯も繋がらねぇぞオイ! もうハヤテ達どころの騒ぎじゃねぇッ 無駄に広いこの場所で迷子とか見事なトラブルメーカーだなアイツ!」

 

 最初からフラグが立ち始めてきたのは理解していた二人だったが口に出さなかったのは言うまでもない。伊澄のように一瞬で外国に行かないだけまだマシと言えるだろう。

 だが懸念すべきは別にある。屋敷にやって来た当初に比べては成長していた体力面だがまだ不安なモノはあるのだ。この場所は広く、人も多いこともあってか初めて来た人にとっては疲れる場所だ。

 

 

 

「ただでさえ体力にはまだ不安があるんだ。倒れちまったら大変だぜ。 急いで探しに行くぞ―――」

 

 テルがそう言って立ち上がった時だった。全身が感じた違和感と共に、筋肉が硬直する。

 

 

―――動けない。

 

 

 実際何かがテルを拘束しているのではなく、動こうと思えば動けるが、違和感があまりにも肌を通して寒気として伝わった為か、身体の動きが止まったのだ。

 

「木原、今何時だっけ?」

 

二人が空を見上げて、同じ事を思った矢先にテルが問う。 木原もその問に返すように一度時計を見た。

 

「三時だ。 オイオイオイオイ・・・・どうしてもう夜になってんだ?」

 

 

 見上げた空は既に夕の刻を過ぎていた。だがその目に映る夜の世界はあまりにも異質である。

星はただ一つもなく、上がるのは不気味な真紅の月のみ。 その月に照らされた遊園地は朱に染められていた。

 

「なんか、やべェ感じがするな・・・客は誰も気付いてねぇのか?」

 

視線を配り、この異様な光景を大多数いる客が誰ひとり気にしている様子はなかった。 これではまるで木原とテルだけがその異常に気づいているような。

 

 

 だがその予想は直ぐに裏切られる事になる。 ひとりの客が虚ろな瞳とともに木原とテルを見たのだ。しかしその様を見て、二人は目を数度見開く事になる。

 

 

―――こちらを向いた客のひとりは首を一回転させてこちらを見ていたのだ。

 

 

「いま明らかに首一周したような」

 

「あとゴキゴキ音鳴ったよな。 それと皆、目がイっちゃってるけど、体に寄生獣でも飼ってるのかな?」

 

見渡す限り、二人の視界に入る客の全てが白目を向いて、関節をあらぬ方向へと曲げてこちらに迫る様はどこかのゾンビゲームを連想させる。

 

「あーっと、スミマセン。 俺達、ちょっと聞きたいことあるんだけど、別に噛んだりしないよね? ウィルス撒き散らしたりしないよね? 捕食と称して顔面開いたりしないよね?」

 

 引きつった笑顔でそう尋ねるテルに、言葉を持ち合わせていなかったか、客の一人がその右手を前に翳すとある変化が起きた。 客の右腕がぐねぐねと動き始めて、生々しい骨が砕ける音と共にその姿を変えていったのだ。

 

『オ、オォォ・・・』

 

「え、マジかよ・・・」

 

青ざめる表情のテル。 なぜなら、客の右腕が一本の斧へとなっていたからだ。

 

「おいテル! 他の客もみろ!」

 

 木原の声に気づいた時には他の客達も各々が武器を作り出していた。 ある者は剣だったり、槍だったり、ハンマーだったりと兎に角殺る気は満々のようである。 

 

「・・・・・」

 

 変化した遊園地、殺意に満ちた客。この状況を理解するのにはどれくらいの時間がかかるだろうか、だが一つだけ理解出来てる事がテルにはある。

 

「また面倒な事に巻き込まれちまったってワケだ」

 

「どうする・・・テル」

 

周囲との距離を図りながら木原が構える。 ここで一発おっぱじめても良いという考えなのだろう。 だがテルは不敵にも笑って、

 

「安心しろよ、こういう時どうすればいいか知ってるかオイ」

 

横目で木原を見るが、彼は理由が分からないのか首をかしげたままだ。 ゆっくりと前を向いたテルは迫り来る集団に背を向けてひと呼吸の後、

 

 

「逃げるんだよォ―――!! どけぇ! 野次馬共ォ!」

 

「うおおおおおおおお! やっぱりそう来たかぁああああ!!」

 

 大声で叫びながら、二人は全速力で走り出す。 殺意を持った客を踏み、蹴ったりするなど掻き分けて、一目散に駆け抜けていった。 

 テルと木原が去って行くのを殺意を持っている客達の群れの中で一人堂々と闊歩する人がいる。客達はその者は対象外なのか、そのまま気にすることなく辺りをうろつくばかりだ。

 

 

「ふむ。 邪魔者が入ったか・・・あの男だけを引きずり込めれば良かったのだが」

 

 黒の外套に身を包んだ男は腕を組んで、今なお走り続けるテルの背中を見つめる。 その状況に舌打ちをしつつも後で小さく笑って見せた。

 

 

「だが関係ない。 ここでお前を殺せばいいだけの話だ・・・さて、外の方は無事に住んでいるのだろうか、心配だ」

 

・・・黒羽の様子は伊澄が監視をすると言っていたのだが、果たして彼女に務まるのだろうか。まぁ、彼女も光の巫女だ。 下手な行動はしないだろう。

 

 

 白銀拓斗は不気味に光る真紅の月を眺めながらも一抹の不安を感じるのだった。

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

 その一方で、地獄の遊園地を二人が走っていることとは露知らず、青空が広がるその遊園地内で黒羽舞夜は無表情ながらも緊張を含めたように身を固まらせて、ある人物と邂逅を果たしていた。

 

 

 

・・・なぜこの人がここに?

 

 

 纏っている雰囲気から事情をよく知らない一般の客でさえも、その場所をワザと避けているようにも見えるそこにいるのは一人の和服を着た少女だった。

 

彼女が微笑んで、ゆっくりと、おしとやかな口調で言ったのだ。

 

 

「ごきげんよう、黒羽さん」

 

 冷気のような物を感じて固まる黒羽にそう告げた少女、鷺ノ宮 伊澄の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 




ちなみにテルくんが迷い込んだ世界の人たちは一般人の顔した化物です。 もう寄生獣に寄生された人たちを想像してもらっても構いません。


 要点纏め
・某夢の国にてデート盗撮作戦
   ↓
・黒羽さん迷子
   ↓
・テルさん白銀くんの固有結界に拉致
   ↓
・黒羽さんと伊澄さん、決戦の時。

まぁ前のお話で咲夜と伊澄に何があったかは大抵の人なら予想できるはず、そしてこれから起きることも・・・
おや、黒羽さん死亡フラグかな? 


久し振りにテルさんが喋った気がする・・・やったぜ。

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