ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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一ヶ月更新のはずが、プラス一ヶ月更新へとなってしまい申し訳ありません。気づいたらもう120話間近かぁ、早いもんだ。


第119話~一筆啓上”監視”が見えた~

 桂 ヒナギクは、超有名高校である白皇学院の頂点に立つ生徒会長である。その担任教師である桂雪路の妹なのかという程の完全無欠のハイスペック超人だ。

 

・・・しかし、どうしてこうなった。

 

そう思うのは無理がない。彼女がいるこの場所は、千葉県にて有名な某おとぎの国、別名「魔法の国」である。ベンチに腰掛けているヒナギクが空を見上げていた時だ。遠くから全ての元凶とも呼ぶべき男がジュースを二つ程を持ってやって来た。

 

 

「ヒナギクさん、ジュース買ってきました。どうぞ」

 

同じクラスの、綾崎ハヤテその人である。

 

「あ、どうも」

 

小さく会釈してその缶ジュースを受け取ると、その冷たさを感じながら彼女はこうなるに至った経緯を最初から思い出す。全ての始まりは、バイト先の西沢歩の一言から始まったような物だ。

 

 

 

 

 

 

「え? 私がハヤテくんの事を嫌ってる?」

 

「え?違うの?」

 

喫茶店『どんぐり』にて、同じシフトに入ったヒナギクとハヤテと同じ高校に居た西沢歩。彼女達が口にしている話題はお互いが想っている意中の相手、綾崎ハヤテについてだ。

 

歩はきょとんとした表情で掃除中のブラシの手を止める。

 

「なんでもハヤテくんが言うには、”これ以上ヒナギクさんに嫌われるのは良くないと思うんですよ”―――って」

 

 

「ちょっと! それどういうことよ!!」

 

ヒナギクとしては、本当にいらぬ誤解が生まれていたというものだ。そう言えば、とヒナギクは思い出す。ここ最近のハヤテは自分と会話する時は基本まず謝罪から入っていたような気がすると。

 

 

「ですよねぇー、ハヤテ君の事、スキって言ってましたしねぇー」

 

「わ――! ちょっと歩! そんな事をこんな所で堂々と言っちゃダメでしょー!!」

 

「いいじゃないですか、マスターはもう帰っちゃいましたし、お店も今日は終わりで、シフト上は今日に至り私たちしかいないんですから」

 

 

確かに、彼女たちのトークを阻む邪魔者はいない。だからと言っても、そうやって声に出されてしまうというのはヒナギクにとっては恥ずかしいこと限りないのだ。

 

下田の温泉辺りからだろうか、些細な事から会話するようになり、お互いの意中の相手が同じだと知ってから、どうも彼女にペースを握られているような気がしてならないヒナギクである。

 

 

「そんな勘違いが生まれてしまうって事は・・・一体どんな事が二人のいる学校で起きているのかな?」

 

「し、知らないわよ!大体、私だってこんな勘違いが起きるような問題を起こしてなんか―――」

 

 

悪戯っぽい笑みを浮かべる歩にヒナギクは頬を染めて視線をそらす形で、考える。こうなることになったハヤテに関するこれまでの自分の振る舞いを。

 

 

 

 

 

―――もぉー!ハヤテくんのバカァ―――!!

 

ある時はマラソン大会の橋の上で。

 

 

 

―――こんなこと、いまさら何の意味もないから。おやすみ。

 

ある時は勉強を教えてる時に。

 

 

―――ずいぶんうっかりものの執事さんね!!

 

怒りに身を任せて政宗を振るったヒナ祭り祭りの深夜、時計塔にて。

 

 

 

「・・・・・うわ」

 

手で口を抑える。別に吐き気がきたという訳ではないのだ。ただ単に、おもいっきし自分のせいだということが確定しているのが分かったので、またしても恥ずかしくなっただけなのだ。

 

 

「ありすぎて、どれが原因か分からないわ」

 

「わぉ」

 

相対している友人、歩もその様子を見る限り、かなりドン引きしてしまっている。思い返してみれば、自分がハヤテから見たら冷たい人間だと思わせる場面は多かった。

 

だが、殆どの場面では必ずと言っていいほどシリアスな感情や生徒会長としての無駄に高いプライドが関係している時である。彼女はまったく気づいていないのだが。

 

「でもそれはあれ・・・だよね。 スキな男の子をいじめたくなるっていう。 テルくん風に言わせれば、”ちょっと男子ー、やめなよ”っていう委員長キャラをガキ大将が”うっせー来んなよブス!!”っていう気をひかせる為の」

 

 

「例えがおかしいわよ例えがッ!! それに、私は小学生の男子かッ!!」

 

猛然と突っ込んで、ヒナギクは深呼吸をして心を落ち着かせる。歩が気を聞かせたか何も言わずに水の入ったコップを持ってきた。受け取ったヒナギクは一気に呑み干しながら持ち前の頭脳で作戦を考える。

 

 

・・・とにかく、この勘違いをどうにかしないとッ!!

 

 

流石に意中の相手に、自分が嫌いだという勘違いがあっては一生思いを伝えることが出来ない。むしろ、ハヤテの中でヒナギクの認識はバイオレンスな生徒会長、または大神涼子のような渾名をつけられる羽目になる。

 

そんな不明極まりない恋の終わり方は、ヒナギクにとって不本意であり、白皇学院生徒会長としてのプライドが許さない。そう、絶対に許さないのである。

 

 

 

「でも、たまになら・・・ハヤテくんに優しく接してあげるのも必要なんじゃないかな」

 

「歩・・・」

 

空になったコップを受け取った歩から屈託のない笑顔とともに、自身の背中を押された気がした。頑張れよ、とそういう彼女にとって、自分の意中の相手の事を何も気にしないようなこの素振りは、アレだ。ナギ風に言わせてもらうなら、

 

 

 

・・・王者の風格、イヤ、まさしく”正妻の余裕”ッッ

 

 

そこまで余裕を見せつける様に、彼女は内なる闘争心を燃やす。ハヤテの誤解も解く事も大事だが、この目の前にいる歩を少しでも焦らせてやりたいと思ったのも事実だ。

 

―――なぜなら、西沢歩はヒナギクの友人であり、恋のライバルなのだから。

 

「決めたわ歩ッッ」

 

「え、え!? 何かなッ!?」

 

握っていたモップをまた力強く握り締めてヒナギクは確固たる意志を歩に見せつける。握力でモップがきしみ出すその緊張感が歩の背筋を立たせた。

 

 

「私は今日から・・・”心優しい女”になるッ!!」

 

「ひ、ヒナさん・・・モップが」

 

 

「あ・・・」

 

歩に言われて、ヒナギクは自身の手にあったモップがいつの間にか真っ二つにへし折られている事に漸く気づいたのだった。

 

 

 

 

そこから、ヒナギクの優しさ倍増計画が始まった。だがそれが、苦難の道のりだということを誰が予想できたであろうか。

 

彼女は決めていた。ハヤテに優しくするのであれば、他の人たちにも同じ対応をしていくことから始めるべきだと。要は慣れであると。 

 

まず第一に決めていたのは”笑顔で接する”という事だ。

 

 

―――たとえお気に入りのカップを生徒会三人組に割られても。

 

 

「ケガはない?ダメよ、こんな所で暴れたりしたら」

 

「ヒナ・・・怒ってないのか?」

 

「ぜんぜん、怒って無いわよ」

 

目を輝かせて彼女は笑顔で何もかも許し、

 

 

―――飲みすぎて給料を使い果たしている姉がいても

 

「わー!ゴメンねヒナ! 次からは計画的に使うから!!」

 

「もぉ~、しょうがないわねぇ」

 

まるで慈母の如き眼差しで彼女たちを包み込み、

 

 

―――教室で騒ぐ問題児たちが居ても

 

「72という数字は、一部の女子にとっては屈辱的な言葉だ。しかしこれは我々にとっては貴重なステータス、萌えるポイント・・・そう思わないか会長」

 

 

「テルくん、壁に背を向けて・・・そのまま立っていなさい。できれば授業中も」

 

 

「おお、生徒会長が武力行使しないぞ!いつものように竹刀で切り刻まないぞ!!」

 

 

最低限に”笑顔”だけは貫き通した。

 

 

・・・完璧ね。

 

その二文字に、越に浸るかもしれない甘美なその響きにヒナギクは誰も居なくなった生徒会室にて優雅にコーヒーを一口。今の自分なら、どんな障害がやってきてもキレずに平常心でなおかつ笑顔で全ての物事に対応することが出来る。絶対的な自信がヒナギクにあった。

 

 

そんな事を思いながら生徒会長としての激務に身を費やしていた最中、天球の間の扉が開き一人の生徒が入ってくる。綾崎ハヤテだった。

 

 

「ヒナギクさん!!」

 

「え、ええ!? どうしたのハヤテ君!?」

 

不意打ち、まさしくその言葉通りにハヤテがこの場に現れた事にヒナギクは動揺を隠せずにいた。彼の顔は珍しくも真剣であり、その表情に思わず胸を躍らせたヒナギクである。

 

やがて彼は右手に握っていた何かをこちらに見せてきて言った。

 

 

「僕と一緒に・・・この映画を見に行きませんかッッ」

 

 

「・・・・は?」

 

そう目を疑うような言葉を発したのには理由がある。彼の握るその二枚の紙は映画のチケットだ。だがその映画のチケットに描かれているのは小学生が見るような動物系の映画であった。

 

 

「ばっ!!バカ!! 高校生にもなって誰がそんな子供じみた映画を・・・・ッッ!!」

 

思わず、ヒナギクが言葉を切る。少し頭を冷やして考えてみれば、この自身の発言こそが冷たい態度でこれが原因で嫌われると思われるのではないか、と。

 

せっかくの努力が、このままでは水の泡だ。ただでさえ誤解を生み易い者同士だ、これ以上話をこじらせてしまう原因を作らないほうが良い。

 

 

ならば、この申し出は受けなければならない。ヒナギクは覚悟を決めた。

 

 

「わ、わ~~!!」

 

両手を組んでにこりと若干硬めの笑顔を浮かべて、

 

「う・・うれしいなぁ~ 私その映画ずっと前から観に行きたかったのぉ~」

 

輝かしい背景がいかにも喜んでいるということを演出させてくれることに賭けながら彼女は精一杯そうハヤテに答えて見せた。一方のハヤテはその不自然な笑顔を見て、若干恐怖心を抱いていたワケだが。

 

 

・・・私がどれくらいしおらしい女か、貴方に見せてあげるわ!!

 

 

 

 

というのが、これまでの回想だ。彼女は差し出されたそのジュースを口につけて小さくハヤテに気づかれないように溜息をつく。

 

 

「しかしまぁ、映画は残念だったわ。動物系の話だったのはまだよかったけど・・・よりによってあのネズミとイタチが戦う冒険アニメだったなんて」

 

対するハヤテもあの映画の内容には苦笑せざるを得なかった。

 

「ほんとですね。どうしてチケットとは違う映画が流れ始めたんでしょうか・・・しかもガ●バの冒険とは」

 

 

そう、最初こそ映画の内容は猫の世界を旅するファンタジー系の映画だった。ヒナギクもそれに見入っていて、これかrなお展開にさぞ心を躍らせていたことだろう。

 

だが、猫がジャンプしたその瞬間、猫の胴体を真っ二つに分断。何が起こったかと思ったらどうやらフィルムが破けたとのこと。その後に流れてきた映画がまさかのガ●バの冒険だった。

 

 

見た目は子供向けな絵のこのアニメ。その内容は、主人公を追ってくるイタチがホラーレベルで描かれており、それはお茶の間が見事に大泣きする事で有名なアニメだったのである。

 

気になる人は、一度見てもらえるとすぐ分かる。あのイタチはマジで怖い。

 

 

そんなこんなで、デート台無しの結末を迎えてしまったと思っていたヒナギクが憂いてた所、突然ハヤテが口を開いた。

 

 

―――ヒナギクさん、これから一緒に海を見に行きませんか?

 

 

キメ顔でそう言った彼は、戸惑うヒナギクを連れて電車という電車を乗り継いだ。その先に辿りついた場所が

この千葉県某所の遊園地だったのだ。

 

 

・・・やっぱり執事なのよね、ハヤテ君って。

 

チケットなどもさり気なく奢ってもらっているので、彼のエスコート力はこういう時は郡を抜いているといってもよい。一体これほどの能力はどうやって養ったのか、その源に疑問を抱いたヒナギクだった。

 

 

 

夕方となったこの時間帯でも、この遊園地は年中大盛況。人は賑わい、家族で、友達で、リア充で、老後の楽しみとしてやって来る定番のスポットだ。

 

・・・なにかおかしい。

 

 

だが、その夢の国の雰囲気を味わうヒナギクが脳裏にこびりついている異様な違和感を感じていた。本当に些細なことではないのだが、放っておいては色々と危険な何かを。

 

 

「ヒナギクさん・・・」

 

隣に居たハヤテも、その違和感に気付いたようで額に汗を浮かべた彼はくまなく周囲を警戒するように見渡した。

 

「やっぱり、ハヤテ君も気付いた?奇遇ね、私もよ」

 

この違和感を言葉で表すとすれば、こうだ。

 

 

―――監視されている。

 

 

 

獲物を探す目つきでヒナギクも辺りを見渡す。ヒナギクやハヤテも真剣に索敵に力を注げば、隠れている邪魔者など、一瞬で見つける事が可能なものだが、向こうは手練のようだ。その実力は今索敵中のハヤテとヒナギクもその存在が”気のせいではないか”と思わせるのだから油断ならない。

 

 

ヒナギクとハヤテは、同時に内心で呟いてみせる。それは口に出さなくとも、見事に丸かぶりする内容だった。

 

 

・・・誰かが、いるッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その警戒態勢に入った二人を自販機の影から黒光りする双眼鏡で見つめる人物がいる。

 

 

「リア充・・・発見」

 

 

無機質な声で呟いて双眼鏡を下ろし、露にしたその人物は、黒羽舞夜その人だった。

 

 

 

 

 

―――陰謀渦巻く魔法の遊園地、ここに開演。

 

 

 

 

 




このお話は、原作15.16巻からの遊園地が舞台。原作では一話で終わったこのお話が、第三部のラストの舞台になります。6話くらいで終わらせる予定です。前半ふざけて後半の唐突なシリアスへの変わりようにご注意ください。


では、また次回も宜しくお願いします。

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