ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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第12話~勢いに任せた行動は後に破滅を呼ぶ~

前略。ハヤテたちは勢いよく転んだマユミを唖然としながら見つめている。

 

「・・・ふんっ!」

地面に倒れていたマユミはガバッと起き上がり、体についた埃を払い、顔を真っ赤にさせながらナギを指差した。

 

「・・・さすがは三千院家、こういうトラップもあるのね」

 

「いや、お前が勝手に転んだだけだろ?」

 

ナギは至極当然のように返す。

 

「お嬢様、大丈夫ですか!?」

 

マユミの心配をしたシュトロハイムが駆け寄りマユミの体の埃を払い始める。

 

「ッ!!」

 

 それが不機嫌だったのかどうかは分からないが、マユミは埃を払っているシュトロハイムの腕を振り払った。 その時の彼女の目は鋭く冷たく、敵意を向けるような目だったのをテルは見逃さない。

 

「申し訳ありません・・・・」

 

「気安く触るんじゃないッ!!」

 

頭を深く下げるシュトロハイムにマユミは罵声を浴びせる。 それを見たテルが口を開いた。

 

「オイオイ・・・随分とそいつに対しては厳しいじゃねぇか。 新手のツンデレか?」

 

テルの言葉にマユミはいっそう顔を険しくさせる。

 

「貴方は?」

 

「俺もここの執事、善立 テルだ」

 

その言葉を聞くや、マユミはクスクスと笑い始める。

 

「貴方が三千院家の執事? なんの冗談?」

 

「うるせぇなドチビ」

 

「なっ!誰がドチビだ!」

 

「否定できねぇだろうが」

 

 今度テルがマユミをあざ笑う。 するとシュトロハイムが猛然と突っ込んできて

 

「ヌンッ!!」

 

右拳を思いっきり振り上げテルの真上に振り下ろす。 テルは寸前の所でかわし、地面は拳によりめり込んだ。

 

「お嬢様を侮辱するのは許さん!!」

 

目をギラつかせながら拳をゆっくりと床から引き抜く。パラパラと床の破片が落ちた。

 

「おーおー、こわいこわい・・・」

 

「今のはお前が悪いと思うぞテル」

 

 テルにため息をつきながら言うのはナギだ。

 

「WHY?なぜ?」

 

「理由はどうであれ、お前は悩み悩む乙女心を傷つけたのだ」

 

「そんな豆腐みたいなやわな乙女心だったとはな・・・・」

 

 ナギとマユミには背が一緒だということもあるのか

テルのこの言動には同じく思うところがあったのだろう。

 

「そんなことより・・・だ。 ハヤテを奪うといったなお前」

 

 腰に手を当て、堂々と構えるマユミを見てナギは聞く。

 

「ええ」

 

マユミはただ頷く。

 

「どういった手段でだ?」 

 

「そうね・・・・」

 

そう聞くとマユミは背中まで伸びた髪をかきあげた。

 

「まぁ、お金で買い上げようという合法的手段でいこうと思ってたけど、こちとらそちらとは違って財力はないの」

 

「人身売買は禁止だぞ」

 

「ナギ、あなたがそれを言いますか・・・・」

 

 マリアの言葉にナギはぎくっとした顔になる。 

 

「簡単なやり方でいくわよ。 決闘よ!」

 

「血糖?」

 

テルが頭にクエスチョンマークを浮かべた。

 

「なんだテル、お前血糖値きにしてるのか?」

 

「いや、さすがにこの年でそれは無いと思うがここ最近で甘いもの摂りすぎたかも・・・ああヤベェ、言われたら気になってきた」

 

「そっちじゃなーいッ!!」

 

拳をわなわなと振るわせたマユミがテルとナギを怒鳴り散らした。

 

「あー・・・俺もうダメかも。ここらでいい病院知らない? 今すぐにでも行きたいんだけど」

 

「ええ行きなさい。 そして二度と戻ってこないで・・・・」

 

 どこまでも予想外な展開にマユミは頭を抱えた。 しかし、ため息の後、気を取り直してナギをにらむ。

「貴方の執事と私の執事で戦ってもらうわ」

 

「ふむ・・・・決闘か。ハヤテなら楽勝だとも」

 

ナギは勝ち誇った笑みを浮かべる。ハヤテは慌てた。

 

「お、お嬢様・・・いいんですか?」

 

「ああ構わない。 本気で相手してやれ」

 

 憤然と言い放つとハヤテは苦笑いする。 これはもう避けて通れる道ではない。ナギの『徹底的に叩きのめせ』という目がハヤテをそうさせた。いや、そうせざるを得ない。

 

「では始めましょうか・・・・」

 

主二人が向き合い、にらみ合う。 知らぬ間に熱い火花が散っていた。

 

「マリアさん・・・・」

 

「なんですかテル君?」

 

「今回俺って空気なんですかね?」

 

「・・・・・・」

 

 テルの呟きにマリアは何も答えなかった。そんな事を言ってる間に決闘が始まる。

 

「では行きますよ ハヤテ殿!」

 

「!!」

 

ハヤテは驚いた。それは一瞬のことである。シュトロハイムはその体躯以上に機敏な動きでハヤテとの距離を縮めていた。

 

(速いッ!!)

 

 更に驚きは続く。今度は右腕でストレートでも放つ動作。テイクバック。だがこのテイクバックが異常だ。 コンパクトどころではない。体が目いっぱい開き、右腕は背中につくのではないかその瀬戸際。

 

(これは・・・避けなくてはならない!!)

 

 背筋を、いや、全身が凍りつくぐらいの殺気がそう判断させた。いくら自身が車とかに轢かれても平気だという自信も吹っ飛ばすかのような一撃と感じ取った。

 

「ヌン!!」

 

一つの気合の声が発せられ、異常なテイクバックから繰り出された右拳は振り下ろされた。 殺気を感じ取ったハヤテは本能のままにその一撃をかわし、拳は床へと直撃した。

 

「うおっ!!」

 

 拳の直撃の際、まるで巨人が足踏みをしたかのような地響きが屋敷に響いた。 その場に居たナギはその地響きによれよれとバランス取りをした。

 

「ふふ・・・・さすがはシュトロハイムの破壊の方程式」

 

「破壊の方程式?」

 

 ナギがマユミの不可解な単語を耳にして怪訝そうな表情をした。 マユミは薄く笑うと説明する。

 

「シュトロハイムは握力は測定不能、体重150キロ、そしてあの体躯から生み出されるスピード・・・・つまり、「握力×体重×スピード」=破壊力という方程式が彼の戦いなの」

 

「どこの漫画のヤクザ?」

 

 テルが突っ込むがマユミはさらに続ける。

 

「頭部なんかに当たったら大変よ」

 

その言葉にナギの背筋が凍った。 

 

「お、お前! ハヤテを死なせてしまったら元も子もないだろう!!」

 

 ナギの声が若干震えている。 テルもナギと同じ事を考えている。 確かに、あんな拳が当たったら、重症、最悪死だ。 しかしそれは同時にマユミの目的が達成できなくなることを指している。

 

 だがマユミは冷酷な笑みを浮かべて言った。

 

「生け捕り目的だけど、保障はできないわよ?彼・・・・・人殺しだから」

 

 その言葉が発せられたときにシュトロハイムの顔が若干ゆがむ。 テルはそれを見ていた。

 

「オイオイ、そんな奴がよく執事になれたな?」

 

「・・・・・・」

 

 テルが言うがマユミはその質問に答えることは無かった。 

 

「ハ、ハヤテ・・・・」

 

 ハヤテを見つめて震え声が発せられる。 テルはナギの横顔を見た。 最初とは違い、明らかにハヤテを心配する表情だった。 

 

見せつけられた危険な力。相手は人を殺めた人間。ひょっとしたら加減など気にせずハヤテを・・・・

 

「大丈夫ですよお嬢様」

 

 その不安はハヤテの一言によって打ち消された。

 

「僕はお嬢様の執事ですから・・・絶対に負けはしません」

 

笑顔をハヤテは向けた。 彼女が安心できるほどの笑顔を、何が何でも護る。 そうナギに言い聞かせるような優しい笑顔。 そしてナギはハヤテに言う。

 

「信じているぞ、ハヤテ!!」

 

 主は笑顔を取り戻していた。 それを見て安心したのか、ハヤテはシュトロハイムと向き合う。

 

(おお、さっきとはまるで違う瞳だ・・・これは自分のためではない、誰かを護るための・・・そうか、あの主を護るための彼の決意かッ!!)

 

「僕のお嬢様を悲しませる事は絶対にさせません・・・・」

 

その瞬間、シュトロハイムが一歩引いていた。気づかぬうちに・・・・なぜ?

 

ー彼が、自身よりも圧倒的に小さき者に。

 

 

ー彼が、自身よりも圧倒的に華奢な体を持つ者に。

 

 

ー彼が、自身よりも圧倒的な主を想う心(決意)を宿した瞳を持つ者に。

 

 

彼は、シュトロハイムは、綾崎 ハヤテに恐怖していた。

 

 

「だが・・・・」

 

 小さく呟くと、シュトロハイムは再び異常なテイクバックを取る。地響きを起こさせるほどの右ストレートだ。

 

(私もまた・・・・お嬢様のために戦う執事!!)

 

 まっすぐにハヤテの体躯に拳が迫る。 唸るような、何者を破壊する拳が。

その瞬間、善立 テルを驚愕させる出来事が起きた。

 

 

 

 

 

 

彼は後にこう語る。

 

「いや、実際人じゃないんじゃね?アイツ」

 

「アイツぜってーオリンピック行けるって、体操とかで」

 

「え? なんで体操かって? ああ、ハンドスプリングって分かるか? 体操クラブにでも行けば小学生でもやってる技。正式名称、前方倒立回転跳び」

 

「アレってさぁ基本的に跳び箱とかにも応用が利くんだけどさ、イメージはすこし助走して跳び箱の上に両手をそえる、んで勢いを使って前に回転する」

 

「イメージができなかったらyOutubeでもなんでも見て来い。 んじゃ本題。 あの跳び箱って止まってるじゃん。 例えばさぁ」

 

ーもしその跳び箱が選手に向かって移動してくるものだとしたら!?

 

ーもしその跳び箱が車の最高速度をを上回るほどの速さで向かってきたとしたら!?

 

「・・・・完璧に合わせれるのか、両手を・・・・速すぎてもダメ、遅すぎてもダメ、そんな絶妙なタイミングを助走

も無い、立ったままの状態で合わせれるか?」

 

「できるとしたら、それでこそオリンピックのメダリスト級。 だがそれでも練習は必要だ。 でもなぁ・・・・」

 

ーアイツなら、ハヤテならできちまうんだよ・・・・・

 

「!!な、なんと・・・」

 

 右腕が伸びきる瞬間、シュトロハイムは見ていた。 自身の右腕に両手をそえ、右腕を使い、ハンドスプリンするのを。 右ストレートは空を切った。そして

ハヤテは少しの間だけシュトロハイムの身長よりも高く上がった。

 

ーな? そう思っちまうだろ? でもやばかったのはここからだぜ・・・・

 

「はあぁぁぁああああ!!」

 

 浮いていたハヤテは大きく体を捻り、自身の右足をシュトロハイムの頭に打ち下ろした。

 

「ヌゥッ!」 

 

 打ち下ろされた蹴りはまるで金属のバットに殴られたかのような重い一撃。 しかし、ここで終わるハヤテではない。

 

 打ち下ろした瞬間、体を一回転させ再び右足を振り下ろした。

ドカッと同じ場所を連続的に当てられ、シュトロハイムは思わず膝を着く。

 

「なに!?」

 

シュトロハイムにとって、大きな驚愕。 ハヤテはまた再び体を一回転させて右足を振り下ろそうとしていたのを見た。

 

「・・・・ハラーショ」

 

確実に迫る一撃を前にシュトロハイムはこんなときにでも感嘆の言葉を呟いていた。

 

 

振り下ろされたハヤテの怒涛の三連撃が決まり、シュトロハイムは真正面から床に激突した。 シュトロハイムは倒れたまま動かない。そのまま気絶してしまったようだ。

 

「お嬢様を悲しませる人がいるのなら、僕は全力で立ち向かいます。 勝負は終わりました・・・・」

 

「・・・・・・」

 

目の前に立つハヤテを前にマユミは言葉を発しなかった。 しかし、そこには動揺の様子も特別に慌てた様子でもなかった。

 

その時の様子を見て、善立 テルは後にこう語る。

 

 

 

ー俺もこん時は思ってたよ、どう見てもハヤテの勝ち。 勝負は終わったかのように見えたんだ。 だが終わってなかったのさアイツ・・・・マユミにとっては

 

 

 

 

 

 

 

 

ーそして最後に言わせると、今回俺ぜんぜん目だってなくね?


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