ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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長くなってしまいました。 これからは10000字以上をノルマにして行きたいと思います。


第115話~千里、新居とアルバイト先を見つける~

唐突な自己紹介(某世紀末救世主伝説のナレーションボイスでお楽しみください)。 

乙葉 千里、彼は白皇学院に通う17歳の少年である。 父親が経営する会社、乙葉グループの御曹司にして次期社長という誰もが羨む栄光のロードを彼は順調に登っていた・・・だが!

 

突如として父親の会社は倒産し音信不通に! 千里は金も名誉も失い、路頭に迷う危機を迎えた! 

 

一難去ってまた一難・・・三千院家に居を構える千里だったが、白銀の罰ゲームによりまた新しく新居を探さなければならない! 己の力で、その道を開け千里ッ 王者の道は、お前の望む場所にあるゥ!

 

 

 

 

 

 

 

夕日が沈みかけている。 学生たちがそれぞれ部活を始め、教師たちは顧問の活動、またはデスクワークに励み、ある者は俺そんなの関係ねぇ、と言わんばかりに順風満帆な帰宅部ライフを送り自身のお小遣いの為にバイトをする生徒もいる。

 

 

バイトと言っても多々あり、コンビニ、飲食店、新聞配達など東京などの地方になれば腐る程ある訳だが、この建設現場にてひとりの大男が白い袋をもっては移動し、積む。 また戻って移動し、積むという動作を繰り返していた。

 

 

「ぬん!」

 

乙葉千里、その人である。 作業着姿に安全メット、手袋長靴を着こなした180を越える筋肉隆盛の男の姿は一端の作業員と比べてはるかに異質な物だ。 

 

 

さて、ここで一つの疑問。 なぜ、乙葉 千里がバイトをしているかという疑問が浮かんでくるだろう、それは少しだけ時間を遡ることになる。

 

 

 

 

 

――――数日前、それは三千院家でバトルドーム対決が行われた直後だった。 テルとペアを組んだ千里は白銀のチームに敗北をしてしまい、彼の提案した「何でも言う事を聞く」という罰ゲームを受け、一ヶ月以内に新しい新居を探さなければならなかった。

 

 

「貴様は確か言っていたな、この条件を呑む代わりに俺に関係のある情報を提供すると」

 

ゲーム直後、テルが執事研修で愛沢家に移ってからの事だ。 いつまで経っても白銀が話して来ない。 こちらの事を忘れているか、もしくは敢えて教えないようにしているのかもしれない。

 

どっちにしろ、自身の事だ。 自ら行動するしかない、そう思って休憩中の彼に聞くと。

 

 

「ん? ああ、すまない。 本気で忘れていた」

 

特に驚いた表情もせず、申し訳ないといった気持ちも伝わらなさそうな普通のトーンで彼は言った。思わず千里はガクッと、後ろのソファに腰を落とす。

 

 

 

「まぁそんな怒るな。 誰にだって物を忘れることがある。 君にはカルシウムが足りないかもな・・・今日の昼食は魚系の物が必要なのかもしれないな」

 

さて、と白銀は自ら注いだコーヒーカップを持つ。 どうやら話してくれるらしい。

 

「提供する情報は・・・君の父上に関してだ」

 

「なん・・・だと」

 

思わずた違ってしまう千里だったが、白銀が落ち着いて座るように促す。千里が座ってから言葉を作って、白銀は口を開く。

 

 

「会社が倒産してから行方を暗ましていた君の父だが、その父から君に伝言があるらしい」

 

なんだ? と、息を飲む千里に銀は淡々と続けて答えた。

 

「真の王になれ―――――と」

 

それを聞いた千里は目を点にした。 どういう意味だ? と頭で考えるが、皆目見当がつかない。 常に王を目指すように心がけ、その父上からもそういう類の言葉は聞かされていた。 ここでこの千里の父が示す「真の王」とは一体どういう意味なのか。

 

 

「そ、それだけなのか?」

 

千里の問いに、首を縦に振らずに言う。

 

「そうだ。 私だけしか知らないトップシークレットな情報だ。 私の考えになるが、君が真の王になることで父上は姿を現すのではないかな?」

 

まるでテルやナギ達がよく持っている漫画や、ゲームの内容のような展開だ。 と考える千里だが、微力なものだが手掛かりらしきものは手に入ったと前向きに考えなければならない。 そう思った千里が立ち上がって部屋を出ようとした時だ。

 

「おっと、すまん。 もう一つ言い忘れていたことがあった」

 

「貴様、忘れすぎだろ!」

 

良いツッコミだ。 と白銀が心の中で感心するが、これ以上怒らせるのも面倒なので手短に伝えることにする。

 

「家を探すなら、良い所を紹介してやろう。 ちょうどそこの従業員が足りてなくて困っているらしい。 アルバイトという形になるが、事情を説明したら住み込みで空いているアパートの一室を貸してくれるそうだ」

 

と、白銀が懐から名刺を取り出して千里が受け取るとそこには「松田建築」と書かれていた。

 

「なに、決して騙している訳ではない。 できれば君の力になってやりたい一心だ」

 

嘘をつけ、と白銀の笑みに対して千里が問い返した。

 

「善立を追い出すような真似をしておいて、俺が信じると思うか?なぜこんな事をする?」

 

「ふふ、なんのことだか・・・それよりも、君はこう立ち止まっている暇はないはずだ。 藁にもすがるくらいに追い込まれているだろう?」

 

「くっ・・・」

 

名刺を握り締めて、今度こそ千里は白銀のいる部屋を後にした。 落ち着きを取り戻した部屋の中で白銀がコーヒーを片手に一息をついた。 

 

「さすが王様。 『相変わらず』勘の良さは侮れないな」

 

 

 

 

 

 

 

と、その後は白銀の紹介された場所で彼はアルバイトとして雇われることができた。 まず、なんでアルバイトをしているかという疑問より、どうしてアルバイトが「できている」かという疑問を浮かべるが、以前失敗した接客と違い、力仕事を主とするこの場の方が、千里に向いているのだ。

 

 

週休2日、時給850円。 夕方から夜まで行われる力仕事としてこの給料は低い。 ましてや部屋を借りている身だ。 家賃は安くともそれだけで賄えるのかと問われれば厳しいものがある。

 

むしろ、この類の仕事に高校生が参加出来るのかとか突っ込んだらいけないのかもしれない。

 

 

・・・新しい俺の場所。 ここで父上の言う、真の王とやらを見つけなければならないのか。

 

 

 

回想を終えた千里は持っていた砂利の袋を指定の場所に積み上げて額の汗を拭う。 まだまだ体力的に余裕があるがまだ仕事の内容を覚えるので精一杯だ。

 

既に三千院家からは荷物など持ち出し、新しいアパートに引っ越している。 三千院家を出ていくときは呆気なく、ハヤテやマリアが応援はしてくれたがナギは興味全くなしといった感じで、おぉーそうか、と棒読み全開だった。

 

 

・・・おのれ、見てろ三千院! 絶対に俺はここで王として君臨してみせるッ

 

 

そして、新しい場所では新しい出会いというのがセオリーだが、思いがけない再会があった。

 

 

「おーい、新人」

 

遠くから小さな老人が歩いてくる。 見た目は160あるかないか。 白髪を生やし、若干腰を曲げた50代の老人だ。

 

「どうだい、慣れたかい?」

 

「社長」

 

 そう言ってくる老人に千里はまずまずだ、といってタオルを手に取る。 この老人は以前、千里がアルバイトを探していた時に公園で不良に絡まれていた老人だ。 その老人を千里が助けた訳だが、実はこの老人が紹介されたアルバイト先の社長だったのだ。 最近は定年退職していく者や、入ってもすぐにやめる者が多かったので従業員には常に空きがあったのだ。学生を入れる事を社長はあまり気に入っていなかったが、千里の事情など、当時の恩を返す意味も含めて千里を雇うことにしたのである。

 

 

「タフな男が来てくれて助かったよ。 慣れない内は怪我することが多いからな。 分からなくなったら先輩の従業員や俺に言っとくれ」

 

「うむ。 心得た、社長」

 

と、頷いて返した時だ。 近くに砂利の山の後ろで社員の一人が携帯を片手に休憩していたのが見えた。 それを見た社長は目の色を変えてその社員の近くに行き、

 

 

「何やっとんじゃぁああああ!!」

 

「げふっ!!」

 

ドロップキックをしたのだ。 それはもう、綺麗な決まり方で昔プロレスでもやってたんじゃないかというくらいの精度だった。

 

「休憩時間外に携帯弄るたァ いい度胸してんじゃねぇか。 お前今年入ってきた田中だな?」

 

まるでヤクザのようなにらみ方で田中に詰め寄る社長。 そうこの社長、普段はとても温厚なのだが仕事が絡むとまるで人格が変わり、誰もが恐る鬼となる。 

 

「ん? なんだこの携帯は」

 

社長は田中が落とした携帯を拾い上げると画面を凝視する。 携帯を取り上げられた田中は震え声で社長に笑顔で言うのだ。

 

「そ、それは僕の永遠のアイドル! モバマスの蘭子ちゃんです!」

 

ほう、と社長は眉をひそめてニッコリと笑った。 田中も一瞬の豹変に釣られて完全に笑ったが次の瞬間。

 

 

「俺の永遠のモバマスアイドルは幸子だバカヤロォ! 幸子以外のモバマスプレイヤーは全て敵だぁぁぁあああ!!!」

 

再び鬼の顔へと変貌し、持っていた携帯を叩き折る。 この時代にモバマスがあったの? とか深く考えないのがお約束。

 

 

「オラァ! さっさとテメェら持ち場に戻りやがれェ! モバマス班はさっさと鉄筋用意しろ! グリマス班は掘って掘って掘りまくれェ!」

 

社長の怒鳴り声で一斉に作業員たちが動き出す。 それまで通常のペースだったが、彼の一声で一気に上がる。こうして見ると、ある意味統制の取れている職場なのかもしれない。

 

「社長、俺はどっちに行けばいいのだ」

 

顔を引きつらせた千里が聞くと社長は鬼気迫る顔で言うのだ。

 

「お前はまだ決めるのは早い。 だからワシからアイドルが何たるかをしっかり教えてやる・・・まずはこれだ!」

 

と、手渡されたのはアニメのDVD。 それも一枚ではない、この大きさBOXだ。

 

「このアイマスをじっくり研究して、アイドルのなんたるかを見極めるのだ! それが仕事を極めるという真理へと繋がるッ」

 

仕事とは一体なんなのだろうか、と深く考えさせられた千里だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――白皇学院。

 

 

 

「うーん、なんか最近忘れているような・・・」

 

 朝の教室にて自分の席に座って何かを考えているのは白皇学院の生徒会長、桂 ヒナギクその人である。

生徒会の仕事を朝の段階である程度片付けている途中だった。 最近、普通に学校生活を遅れていることは良いのだが、高尾山辺りから自身の頭の中で何かがつっかえている感覚があるのだ。

 

その感覚を引き摺り、夜の睡眠までに影響・・・とまではいかないものの今日まで気にしている辺り、そろそろイライラみたいなものが溜まってくるかもしれない。

 

「何かしら・・・」

 

 

「やぁ会長。 最近なんか元気ないなぁ、携帯ゲームで間違って課金したことを悔やんでいるような顔だ」

 

「突然どうしたのテルくん。 私、携帯ゲームなんてあまりやってはいないのだけど・・・と言うよりも、最近、朝が早いわね・・・どういう風の吹き回し?」

 

ヒナギクの問いに、テルは、ふっ、と小さく笑って窓から見える景色を眺めて言うのだ。 どこかぼーっとして本当に景色を見ているのかわからないくらいの視線の泳ぎ具合で

 

 

「会長、天国の生き方ってなんだと思う?」

 

「・・・テルくん、自殺なんて考えちゃダメよ。 最近、仕事の環境が変わって疲れてるのよね? あまり溜め込むと体に良くないわ」

 

「俺が自殺志願者みたいな言い方しないでくれよ、おう。 確かに仕事に疲れてるけど・・・天国ってのは、つまり個人が決めた場所に安らぎがある場所こそ、天国と呼べるのではないかッ」

 

 

「え、ええ・・・」

 

ジト目のヒナギクに動じることなく、テルは続ける。

 

「最近俺の居た三千院家に白銀といういけ好かないホモ野郎がやってきた」

 

「ホモかどうかはさておき、咲夜さんの家で執事してた人よね? ナギから色々聞いているわ」

 

漸く反応したヒナギクにヒートアップしたか椅子から立ち上がり彼は腕を振ってみせる。

 

「俺の今までの天国とはッ マリアさんが居た場所だった。だが、今の職場はもはや地獄と化した! よほどのことがないくらい三千院家には戻れない! ならばどうするか、新しい天国を見つければいい! 俺の新しい場所とは、この白皇学院よ!」

 

狂ったような笑みを浮かべたテルはその理由を述べていく。

 

 

「ここにいれば、絶対に白銀に会うことはナイッ つまりここは俺にとってのもっともストレスが掛かる事のない天国ッ アイツは俺を邪魔することができない! 我覇者なりッ そう思うだろ会長ッ!?」

 

 

・・・ああ、この人どうしよう、早くなんとかしないと。

 

哀れみを見る目でヒナギクは彼を見た。 目を虚ろにさせながら先程の内容を語るテルの姿は明らかに頭を病んでいるようにしか見えないのである。

 

 

「勉強したくない、仕事したくない、学校行きたくない、仕事したくない、学校行きたくない」

 

交互にその単語を言い続けるテルをもう見てられないかと思ったか、ヒナギクは周囲に誰もいないのを確認して木刀・政宗を取り出した。 刃を逆に持ち替えて自分に向くようにしてテルの頭めがけ

 

「ふんッ」

 

気絶しない程度にぶん殴る。 ぎえっ、と一瞬叫んだテルは頭を回した後、自分で頭を何度も叩いてまるで眠覚めたような表情で言うのだ。

 

「お、会長じゃん。 おはよう、なんか頭がスゲー痛ェんだけどなんでだ?」

 

「さ、さぁ? 寝ぼけてたんじゃないかしら・・・でもテルくん顔色が良いわよ。 健康なのは相変わらずね」

 

「お、おう」

 

凶器として使用した政宗を背に隠して、ヒナギクは誤魔化した。 テルもそれで納得したのだから万事解決である。

 

 

「そう言えば、最近は黒羽さんと一緒には来ないのね」

 

「当たり前だ。愛沢家の仕事だってあるのにその都度、あっちの方まで戻ってたら時間ねぇって。 だから今は白銀が俺の代わりに面倒を見てるんだってさ」

 

「・・・?」

 

 ムカつく野郎だ、と小さく吐き捨てながらテルは考える。 実際の所、確認はしていないが昨日の夜に白銀がわざわざ迎えに来ていることから、全てテルが行っていた仕事は白銀が代わってやっているのだろう。

 

自分が邪魔、と白銀は言った。 今はまだこちらを襲ってくる事はないのだが、準備が整い次第行動に移すことが考えられる。 テルの方はその行動を移す前に白銀を叩くことを考えていた。 しかし、情報が少ない以上、こちらは動くことができないひたすら待つというスタイルだが。

 

 

だが、昨日は少しだが彼の腹の内を引きずり出すことが来たのではないかと考えていた。 黒羽の事についての話題では彼の態度が一瞬変わったのをテルは感じ取っていた。 

 

 

・・・もしかしたら黒羽が関係してるのかもなァ

 

 

「お、テル夫くん。 朝から早いじゃないか、おはよう」

 

 

白銀について憶測を立てていたテルに声を掛けてきたのは花菱 美希だ。 後ろにはいつも一緒にいる朝風理沙の姿もある。

 

「生徒会名物トリオの二人じゃないか。 なんか久しぶりだなオイ」

 

「どうも最近忘れられてきた気がしたんだ」

 

「このスーパーメインヒロインズ無くして、この作品成り立つのか! 否、立たない!」

 

テンポ良く答えていく二人だがテルはこのいつも見る生徒会メンバーの中にいいんちょさんレッドである瀬川泉がいないことに気付いた。

 

「そう言えば、泉はどうしたんだ?」

 

あれ?と美希と理沙も言われて気付いたか、視界の中で泉を探そうとするが当然見つからない。

 

「あ、多分私が忘れてたのって多分泉の事だわ。 貴女たち、風邪とかだったらちゃんと泉に連絡とかしておきなさいよ?」

 

もちろんだ、と美希が腕を組む。

 

「我々はリーダーであるレッドを決して忘れたりはしないッ それが仲間というものだ!」

 

「その仲間がこの数日間いなかったことに気づかなかったお前らはもはや畜生のレベルじゃねーぞ」

 

「う、うるさいぞテル夫くんの癖に! そういう君は、最近見事に新しいイケメン執事にさぞ複雑な気分を抱いているそうじゃないか」

 

「おお、私も聞いたぞ。 なんでもハヤ太くんを寝取られてしまって普段のモチベーションを保てないんだって?」

 

オイこら、とテルが先に反論しようとした時だ。 横で話を聞いていたヒナギクの様子がちょっとおかしい。ぐいっと理沙の前に詰め寄る言葉を震わせて問いかけた。

 

 

「ちょ、ちょっと理沙ッ ね、寝取られって、どういう意味よッ!?」

 

ヒナギクの剣幕に押されて、理沙は思わず半歩下がるが一瞬だけ美希とアイコンタクトを取り、助けを求める。 美希は数度瞬きして合図を伝える。

 

―――構わんぞ。 面白くしよう

 

と、ついでにと言った感じなのか、二人はテルへと合図を送る。 テルもお前誰だよってくらい乙女チックな瞬きをしてみせた。 無言で会話出来るのかどうかはさておき、似たような者同士では通じ合うこと訳ないのかもしれない。

 

 

恐らくヒナギクが動揺する言葉を頭の中で作り、理沙が口を開いた。

 

「そりゃあもう、使用人同士でそんな関係に発展しててもおかしくないんじゃないかな? 虎鉄くんみたいな男もいるくらいだし」

 

「で、でも・・・ハヤテくんに限ってそんな」

 

まだ焦り足りないな、と判断した美希が更に揺さぶりを掛ける。

 

「いや、でもほら、ハヤ太くんってなんかその手の人達を呼び寄せる乙女オーラがすごいじゃん。 もしかしたら、人気のない所で二人は名前を呼び合って!」

 

「あわわわわ」

 

「あー、そう言えば結構前だったかな、三千院家でハヤテがメイド服着せられてた時に黒羽が言ってたな。 『思わず、うひょひょひょ、って言いながらぱいタッチしてまうほどに女性オーラが出てました。 アレが女性だけでなく男性も引き寄せる魔性の類なのですね』って」

 

「ま、まさか! そんなの、有り得ないわ」

 

うむ、押しが弱い、と美希が再びテルにアイコンタクトを求める。

 

 

―――決め手に欠ける。 何か良いネタはないか。

 

 

―――うーん。 おっ、そうだ。

 

思い出したかのようにテルが瞬きの合図。 一旦テルはヒナギクに、会長、と声を掛けてから時間をかけていうのだ。

 

「実は、俺ハヤテからホワイトデーでお菓子貰ってるんだ」

 

 

「ファッ!?」

 

これはヒナギクだけでなく、美希と理沙も驚きであった。詳しくは、この作品のホワイトデーのお話をご覧下さい。

 

「ビックリした。 公園を通りかかったらコマンドーの冒頭みたいに『待ってたんだ・・・』とか言いながら俺にクッキーを渡してきてなぁ 結構本気だったよ、ウン」

 

 

と、いくつかテルが脚色を加えている物があるが大体はこの通りである。流石に効いたのかヒナギクの口からは何か霊体のようなものが現れ始めて教室の辺りを彷徨ていた。 

 

 

「オートメムゲンダイ、ミーテーテネー」

 

持ち歌歌いはじめちゃったよ、と、もはや生徒会長の面影がない。 どうしたものか、とテルが考えていた時だった。

 

 

「イーーナーーズーーマーー」

 

遠くから聞こえる声に反応した時には目の前には靴の裏があった。

 

 

「キィィィィックッッッ!!!」

 

 

靴がテルの顔面をえぐり、規格外の力がテルの体を簡単に中に浮かせる。 一回、二回、三回転と転がり窓を飛び越える。 教室内は静まり返り、そこに居たのは赤い目をして今にも口から蒸気を吹いてきそうなハヤテだった。

 

 

 

 

 

 

「あー飲みすぎたァー・・・ってアレ? 善立くん、こんな所で何してるの?」

 

二日酔いで頭痛のする身を動かして出勤してきた桂 雪路は白皇学院の庭にてヤムチャのごとく寝転がっている少年を発見するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、ハヤテ君。 流石に俺も度が過ぎたよ、悪かった謝る」

 

 

昼休みになり生徒たちが給食をとり始めた中、テルはハヤテに両の手を合わせて謝っていた。ハヤテは弁当を食べながら不機嫌そうな顔で

 

「もう、あの後ヒナギクさんの誤解を解くの大変だったんですからね?」

 

「いやぁ、申し訳ない」

 

「右に同じく」

 

美希に続いて理沙も謝る・・・笑い顔だが。

 

 

あの後はヒナギクの処理が大変で、こちらが何度も説明しても涙目のヒナギクが机に突っ伏したままだ。 朝も早く、生徒が少なかったのが幸いしたか、なんとか時間ギリギリまでにヒナギクとの誤解を解くことに成功した。

 

 

「まぁどうだろう。 ここは購買のパン一つで手を打たないか?」

 

 

「ま、まぁいいですよ。 大惨事は避けられましたし・・・でもパンは二つです。 これは譲れません」

 

意外にセコイな、と心の中で思いながらテルは了承した。 弁当を掻き込んで飲み込み、購買へ向かおうと席を立った時だ。 エビフライを食べていた黒羽が手を止めた。

 

「テル、今日は購買に行かない方がいい気がします」

 

へ? と、意味を理解できないテルは彼女にその意味を問う。

 

「どういうこと?」

 

「そこは女の勘です。 理解してください」

 

いや、無理だろ、とテルは考える。 別に暗殺者が来るわけでもないのに、大げさだなと思いながら購買に行く意思を強めるのだ。

 

「いや、大丈夫だろ。 それにこいつにちゃんと奢ってやらないと気がすまないって表情してるし・・・」

 

隣のハヤテを見て、黒羽も納得したか、仕方ないと言った表情で言った。

 

「分かりました。 では、私にチョコドーナッツお願いします」

 

「お前、ちゃっかり俺をパシリに使ってるなッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、白皇の購買ってあんま行ったことなかったなぁー いつも弁当で済ましてたからだけど」

 

テルは購買へと向かう道の途中、財布の中身を確認する。 今は一人奢ることができるくらいの余裕はある。給料日までまだ先だが、学生としては十分だろう。

 

「やっぱお金持ちの学校ですからねー、それなりに良い物を使ってるんじゃないでしょうか」

 

テルの横を歩きながらハヤテが言った。 コイツめ、俺に高いのを買わせる気だな、とテルが再び財布を確認。

 

・・・一つ1000円とかするパンあったらどうするよ。

 

もはや今月に生きる希望はないなと、心の中で諦めながら歩いていた時だ。 

 

 

「あ、テルさまー」

 

ふと間延びした声を掛けられた先に振り向くと、和服を着た少女、鷺ノ宮 伊澄の姿があった。

 

 

「おー、伊澄。 なんか凄い久しぶりだな」

 

「テルさん、今日そればっかしか言ってませんね」

 

ふふ、とその二人のやりとりを見て伊澄が笑う。

 

「実はここ数日ブラジルでカーニバルを・・・」

 

ついに地球の裏側に行ったか、といつもの迷子っぷりに驚くテルたちだったが不法入国でお縄にいつもかからないのが不思議で仕方ない。 何かトリックでもあるのかと疑ってしまうくらいだ。

 

 

「あら?」

 

と、伊澄がすんすん、と鼻を動かしている。 どうしたのかと疑問を浮かべたテルだったが伊澄が顔を上げてこちらに尋ねる。

 

「テル様、昨日はカレーを食べましたか?」

 

「ん?ああ、そうだ。 カレーだけど」

 

ほう、と伊澄は口元を袖で隠して更に尋ねる。 その時だろうか、テルだけが感じた背筋に凍るようなものが張り付いたのは。

 

「お一人で?」

 

なんだろう、とテルはここまで伊澄に質問攻めされたのは初めてだと思う前に、伊澄の表情を見る。 確認するとまるでブラックホールかな? と勘違いするくらいな暗黒な雰囲気を醸し出していた。

 

・・・どこでそんなベイダー卿並みの威圧感を手に入れたんだ

 

 

どう言ったものかな、と発言内容に気お付けながら考えたときにテルは感じた。 ここで黒羽の名を出してはいけないと。

 

 

何故かだったかは分からない。 いつもの彼の直感だ。 頭では理解できていない、だが心で理解できた・・的な。だから彼はいつもの変わらない表情で言うのだ。

 

「ん? 昨日は愛沢家で出た食事がカレーだっただけだぞ。 俺はいつも仕事が終わるのが遅いからひとりで食うのだ」

 

「・・・」

 

数秒ほどだが伊澄は考えて、思い過ごしかしら、と聞こえないくらいに声を漏らしたが疑いが無かったのを確認していつものおっとりした表情になる。

 

「なら、良かったです。 テル様も購買ですか? なら一緒に行きましょう」

 

・・・お、ベイダー卿が天使になったぞ?

 

と、はっきりした変化にテルは安堵する。 どうしてここで機転が効いたのか分からないが、テルとしては起こるはずだった惨劇を回避できたのではないかとそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

「あれ?結局伊澄、どこいったの?」

 

ものの数分で伊澄は行方を暗ましてしまった。 まさか学校の中にいても迷子になってしまうとは、予想外のことである。

 

ともあれ、二人は購買部の場所にたどり着いたが、様子が変だ。 購買部に集中する生徒の数が多い。 初めてここに来たから普段がどうなのか分からないが、明らかに客である生徒たちの熱気が違った。

 

しかもヤケに女性が多い。

 

 

「なんだこの行列!?」

 

「よほど人気なんですかね? なんか黄色い声援も聞こえますけど。 きっと店員がギャルゲの主人公格にイケメンなんじゃないですかね。 ほら、あそこの奥にハチマキを巻いた人が見えますよ」

 

大群の一番後方の列なので、二人が確認できたのは店員のハチマキだけだ。 顔だけはもっと距離を縮めなければ分からない。

 

 

「ともあれ、先を急ぎましょう。 売り切れて買えなかったなんてオチはつけさせませんからね」

 

 

お前はどれだけ俺に買わせたいんだ、と心の中で呆れながらテルとハヤテは人の群衆に突っ込む。 道を進む途中、争っている生徒と、目を歓喜に震わせている女性とも居た。 

 

誰がこの現象を引き起こしているのか、それはこの一番奥へ向かってみなければ分からない。

テルは気合と共に前へ前へと進み、遂に売り場の最も近い前線にたどり着く、そこに居た人物は。

 

「おう、二人とも。遅かったじゃないか」

 

 

ハチマキを頭に巻いて、パンを売りさばいていたのは白銀だった。

 

 

 

 

 

――――今日は購買で行かないほうが良いと思います。

 

 

 

テルは、数分前に黒羽に言われた事を思い出していて本当にここに来なければよかったと改めて思っていた。

 

 

目の前でパンを嬉々として売りさばいているこの男がテルにとってもっとも苦手な男、白銀拓斗だったからだ。

 

 

「ちょっ、なんでお前がここにいるんだァ!?」

 

生徒の波を掻き分けながらテルが白銀に尋ねる。 すると白銀が小さく笑って言うのだ。

 

 

「白皇学院で購買部の場所を一つ設けてもらったのだ。 アルバイト代も出るらしいのでな」

 

「白銀さん、お金に困ってるんですか?」

 

いや、と白銀は否定して続ける。

 

「給料の方は確かに足りていない。 貯蓄はあまり出来ていないのでね。 それよりも私は、パンを焼くのが大好きでね。 それはもう、ジャムおじさん以上の腕前があると自負しているくらいさ。 だからこれは私の腕を白皇学院でこの腕を提供してあげたいと思ったのだよ」

 

 

・・・お前それ絶対ウソだろッ

 

元気百倍とかそんな現象が起きたら絶対変なモノ入ってるんだろうな、とそんな事を思いながらテルは前へと進んで置かれていたパンを数個取り、お金と一緒に白銀の前にあるテーブルの上に叩きつける。

 

 

「まったく、乱暴なやつだな。 あと、百円ほど足りないぞ」

 

「キィ―――――ッ!!」

 

白銀に指摘されて、テルは財布からもう一枚取り出すとそれも机に叩きつけた。 周りがこぞって騒ぎ立てているのでテルの行動が目立たないのだ。

 

「さぁさぁ、売り切れ間近だ! 急がないと目当ての物がなくなるぞ諸君」

 

 

テルの行動を気にも止めず、白銀が手を大きく広げると一斉に歓声が高くなった。テルは生徒とは逆の方向に進みながら思う。これは絶対に新手の嫌がらせだと。

 

 

 

 

・・・ふぅ、執事の片手間、パン屋をやるというのも悪くない。

 

不機嫌を露わにしたテルとは対照的に、白銀は上機嫌であった。 迫り来る大量の生徒達を順に捌きながら商品であるパンを提供していく。

 

・・・旅の途中で身につけた甲斐があったというものだ。

 

いつしか、旅をしていた時にジャムを片手に持っていた老人から教えてもらったパンの制作技術がここで役二立つとは思いもしなかった。 その結果で、白皇学院の中に雇われ人として入ることができた。 これは大きな収穫だ。 

 

 

だが他にも収穫があった。

 

・・・やはり、人の「食」を通しての笑顔はいつ見ても良いものだ。

 

 

心の中で、自分の得てきた技術が多くの生徒たちを喜ばせているというのは悪い気がしない。 だが自身の目的の為に、この生徒達を利用しているという事を考えていると少々罪悪感を感じるが。

 

「おじさーん、パンチョーだい!」

 

「こらこら、私はまだ25歳だ」

 

目を丸くした小さな少女がいる。 一年生だろうか。 白銀は手早くパンを袋に詰めて少女に渡すことにする。少女は友達であろうもう一人の少女にパンを見せながら報告するのだ。

 

 

「シャルナちゃんシャルナちゃん、見てくださいコレ! カレーナンです! シャルナちゃん、カレーが出たので何か一発芸をッ」

 

「文ちゃん、遠まわしにかすかだけど私がインド人だということも踏まえて、どう考えても馬鹿にしてるようにしか見えないわ。  それに私辛いものが嫌いなの、張った倒すわよ」

 

 

なんと、まぁ、と白銀は思う。 本当にここは平和だなぁ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は長くなって、色々な場所で話が進んで行きました。 千里がバイトと新居を手に入れ、アイドル好きの社長が現れ、白皇になぜか白銀がやって来た。 今回はこんな感じですね。

さて、原作キャラもこぞって今回は出演してきました。 一年生組も漸く顔を出せて良かったです。ほんの一瞬だけですが・・・今回は黒羽さんの毒舌成分控えめなようです。 

そして、なんとか修羅場にならず収まりました。 修羅場好きの皆さんスミマセン。 ですが、次こそは必ずッ 必ず修羅場をッ


ちなみに、生徒会メンバーで泉がいないということは、原作を見ている人は分かると思いますがあの話をオリジナルを混ぜながら、次の話が終わったらやる予定です。

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