ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
・・・なぜ、こんな事になった!?
頭の中で疑惑が渦巻いている。 ハヤテは感じていた。 これはもはや不幸の前兆なのではないかと、たぶんこれはドッキリでそこら辺に生徒会のメンバーが隠れてドッキリカメラとかの看板を持ってくると思っていたが、それもない・・・だがそれよりも。
・・・ゆ、唯子さんってこんなにいい匂いするんだッ。
丁度ハヤテの顔からしたは顔を隠した唯子の頭があり、そこからは女性としての男たちを魅了する匂いにハヤテの心臓がさらに脈を早くした。 これでは血圧が上がりすぎて意識を失ってしまいそうだ。
「ゆ、唯子さん・・・あの」
目の前にある肩に手を置こうとした時だ。 自分の胸に頭を預けている唯子が小さく揺れた。
「ふふふ・・・」
「え?」
目を丸くしたハヤテだが、唯子は顔を伏せたままハヤテからそっと離れて顔をあげると
「はっはっはっは!」
高らかに笑っていた。ハヤテはこれに唖然とするばかりである。
「ははっ、本当に面白いな君は。 心臓の音には驚いたな~ なにか病気を発症したのかと思ったぞ」
「・・・・」
数秒ほど沈黙して。
「ええ――――!?」
「なんだなんだ。 そのあからさまなリアクションは。 『先輩のめったに見られないか弱い乙女姿を見てラッキー、ついでに俺の手篭にしてやろうと思ったのに残念だ』といった顔は」
「勝手に想像しないでください!!」
ほっほっほ、とお嬢様のような手つきで嘲笑う唯子。 ハヤテはその真実に大きく肩を落とす。
「なに、ちょっとからかって見たくなってみたくなっただけだよ。 君ほどの男なら色んな女性に迫られて場慣れしてると思ったのだが、意外に純粋な反応でビックリしたぞ」
「多分ほとんどの人がこういう反応すると思うんですけど!」
その反応も面白いと思ったか唯子は笑うのをやめない。 ここまで来るとタチの悪いイタズラじゃないのか。
「さて、私がここにいる理由を君は知りたがっている訳だが。 君はそこまで私のプライベートを詮索したいのか? 嫌われるぞ、しつこい男は・・・」
薄ら寒さを覚えるほどの鋭い視線にハヤテはたじろぐ。 これは一種の警告ではないかと、ハヤテの直感が訴えた。
「だが・・・」
急に顔の緊張を崩した唯子が髪を掻揚げた。 そして元々座っていたベンチに腰掛けると足を組む。
「面白いものを見れたことだし、理由を特別に答えてやろうではないか・・・君はここら辺で近所迷惑を働いている不良たちを知っているか?」
不良という単語に、ハヤテが唸る。 唯子はその間にもいつの間にバッグの中から板チョコを取り出して袋から取り出す。
「奴らが働いている迷惑行為はピンポンダッシュ。 ただのピンポンダッシュではないぞ? ターゲットにした家に二十四時間張り付いて三時間ごとに鳴らす極悪奴らだ」
「それは凄い小さい規模で悪さしてる不良ですね。 しかも三時間って・・・その人たちも夜も頑張って鳴らしてるんですね」
「私はこう夜出歩くのが好きなわけだが、ある日奴らの犯行現場を目撃したわけだ・・・これだ」
と、唯子は携帯の画面を見せるとそこには家の前で呼び鈴ボタンを押そうとしてる学生服を来た人物が立っていた。
「白皇と同じ進学校の大聖高校だな。 頭いい連中が馬鹿なことしてるぞお笑いだな」
パタンと携帯をたたみポケットにしまう。
「白皇と同じで、政治家の子供やら大手企業の社長の息子なんてザラだ。 白皇とタメを張ろうと必死なんだろうが生徒の質で差が出てるわけだ」
「ハッキリ言いますね」
「まぁこれも一部の生徒なわけだがその学校からはあまりいい噂を聞かないな。 ま、ここまで言えば君もわかるだろう? ちょっとした世直しだ」
無茶な。とハヤテは思う。 確かにこの時間なら張り込めばその犯人を見つけることもできるが、この近辺の家は多い。探すことをしても見つけることはできないのではないか。
「結構骨の折れる仕事ですよこれ」
「そんな事ない。 犯人をここに来るように仕向けたからな・・・おっと噂をすれば」
ハヤテが振り向くと、そこには5人の男がいた。 中の男一人が口を開く。
「なぁ、アンタか? 俺らの事知ってるの」
男はガムを噛んでるようで口が喋っている間も不自然な動きをしている。 対して唯子は凛として答えた。
「そうだとも犯罪者諸君。 私が君らを呼んだのだ」
犯罪?と唯子のフレーズに耳を疑うような声を出したのは端の男だ。
「俺らただ間違ってピンポンしちゃっただけだよな?」
「そうそう。 自分の家だと勘違いしちゃってさ」
「それに犯罪ってほどのことじゃないでしょ~」
各々が呑気に笑いながら述べる。 これにもハヤテは少々腹が立ってきた。 しかし、その横で唯子はいつものように冷静で表情を変えない。
「はぁ、お前ら本当に進学校に通っているのか?」
「あん?」
犯人である男がこちらを睨む。唯子はため息をついて続ける。
「お前らがやっていることはもはや『子供のイタズラ』では済まないレベルまできてるのだぞ?」
そして唯子はポケットから手帳を取り出し広げて男たちに向けて言った。
「お前らが犯行に及んだところに住んでた二丁目の山仲さんはピンポンの音が原因で不眠症になってしまった
。 体調を崩して今は病院で治療を受けている。 そして四丁目の田中さんはこちらも眠れなくなり、大好きな芋ようかんが食べれなくなっている・・・これは立派な傷害罪だぞ? 軽く裁判にかけれるくらいだ」
裁判と聞いた時か、ようやく男たちの顔に焦りが見えた。 だが、リーダー格の男が笑みを崩さない。
「だけど俺らはまだ未成年だ。 その程度の事、法が守ってくれるんだぜ?」
「まだ分からないか? その場は守ってくれても、お前らのこれからの経歴に一生モノの傷がつくんだぞ? 就職とか進学とかでどれくらい影響するのかな?」
ついでにと、唯子がポケットからデジタルカメラを取り出して彼らに見せつけた。
「このとおり、動画もあるので証拠は充分。 人は本人たちの嘘の証言と、不特定でもリアルの情報をどっちを欲するか・・・頭の良いお前らなら分かるはずだが」
「・・・ッ!」
突然、唯子に向かってリーダーが手を伸ばしてきた。 伸ばされた手を唯子はひらりと躱す。躱された男は焦りの表情を初めて見せた。
「そいつを寄越せ!」
「おお、そいつは出来ない相談だな。 人間焦ると簡単な判断も出来ないものなのかな?」
その言葉を聞いてか、相手の男たちの顔は殺気立った顔立ちになった。 ここまで言われて、行き下がる器ではないらしい。
「それだったら力ずくだ!」
「何をされても問題ないだろ!」
ニヤリと薄気味悪い笑を浮かべて男たちは近くに落ちていた木材を手にとった。
「さてさて、綾崎くん。 私はどうやら大変な状況に陥ってしまっているようだ」
「言われなくても分かりますよ」
ははっ。と軽く流していると目の前の男が木材を片手に突っ込んできた。勢いのままに木材を唯子の頭に縦に振り下ろす。
空を切った木材はそのまま地面に落ちた。 硬い地面に硬い木材をぶつけたことにより、手がしびれてしまったのだろう。
「ふん。行動力は認めるにしても、それに見合う論理観は全くないな。 まったくいいとこ育ちのド三流はこれだから困る」
唯子が一瞬の内に目の前に木材を落とした男に詰め寄った瞬間。男は全面からパンチをくらったように真後ろにブッ倒れた。
「なっ! 何をした?」
慌てるリーダーに唯子が手をパンパン、と叩いて答えた。
「ただの合気道だ。 習えば小学生でもお前らのような男で簡単に後ろに倒せる技だぞ。 まぁ私のは少々早すぎて見えなかったか、勢いがつきすぎてお前の仲間は失神してしまったが」
「なんでそんなモンを白皇のお嬢様が身につけてんだよ!!」
「ふふ・・乙女の嗜みというやつだ」
とんでもない嗜みを持った乙女がいたものですね。とハヤテが内心で呟くと唯子はどこからか持ってきたのか、手に竹刀を握ってひと振り。
「ぬわ!」
あっという間に二人の男が倒された。 残りの三人は角材を構えるが怯えているのか、足がすくんで見える。
「ふん、最近の男子は鍛え方がなってないッ」
目の前の男がガードするために構えている角材を唯子は角材ごとへし折った。
「え?なんで?」
「ふん!」
唖然とする男に唯子が容赦なく一閃を見舞う。残り一人になった男は仲間が居なくなったのを見て完全に怖気づいてしまった。
「貴様ら、いいところに通ってる癖にこんな親に迷惑をかける事してていいのか?」
「う、うるせー! 俺だって好きであんなメンドくさいところに通ってるんじゃねぇ!」
リーダー格の男が声を荒げた。
「変に親に期待されて! 無駄な勉強させられて、用意されたレールの上を歩く!将来は親の家業を継ぐだぁ!? 俺の意見もまともに聞く気もねぇ! 親が気にしてるのは世間体だけだ! 自分のお株が守りつつ、上がっていくことしか考えてねぇ!」
「少なくとも、自分にはここまでする意味があるといいたいわけか?」
地面に向けて竹刀を叩いた。 甲高い乾いた音が響く。
「くだらんな。 期待されてるだけまだマシではないのか? お前も男だろう。 親に一度たりとも逆らわないで、弱音を吐くな。 立ち向かってみろ、逆境を跳ね除けてみろ、用意されたレールくらい自分で書き換えてみろ」
「うおおおお!!」
男が声をあげて角材を持ち、唯子に突っ込んできた。 だが、唯子は相手に手加減をすることなく竹刀を一閃。
パシンという音ともに男の体がガクンと崩れ落ちた。
「ふぅ・・・終わった終わった」
「も、貰ったーーーー!!」
気を抜いた唯子の背後に、先ほど倒れていた男がいた。 最初に倒れていた男がいま意識を取り戻したのだろう。 武器も何も持たずに唯子に襲いかかる。
「唯子さん!」
言葉とともに真横から割って入ってきたのはハヤテだった。 後ろから襲いかかってきた男に割り込みハイキックを食らわせて男を撃沈させる。
「不意打ちで女性に手を上げるとは・・・」
「ふむ。流石は三千院家の執事・・・優秀だなどっかの誰かさんと違って」
恐らくどっかの誰かさんとはテルのことだろうか。 唯子は髪をかきあげると地面に置いてあったバッグを手に取るとハヤテに向けて言った。
「これで世直しは完了だ。 さっさとずらかろうじゃないか綾崎くん」
と、ぐいっとハヤテの腕が引っ張られる。 唯子がハヤテの腕を掴んでいたのだ。
「え?ちょ、ちょっと唯子さん?」
「は~っはっはっは!」
慌てるハヤテを軽快な笑いとともに唯子はその場をあとにしたのだった。
〇
「・・・ここが唯子さんの家ですか?」
手を引かれながら走って数十分。 ハヤテが来たのは奈津美と表札のある家だった。
「そうだとも。 これでも普通の家よりは大きい、が君の家に比べれば小さい方かな」
「いえ、そうじゃなくて・・・家の敷地内に剣道場が・・」
ハヤテが見た唯子の家の敷地内には家のすぐ隣に大きな建物があった。
「まぁ、昔はよくやっていたものだったがな、父の教えはなかなか厳しくて何度か私も泣かされたりした」
「へぇ、唯子さんの強さはお父さんのおかげでもあるんですね」
懐かしむように唯子は言うが急に顔の表情が険しくなった。
「確かに強くなれたことは感謝している。 だがその一方で父は過度な期待を私に寄せていた・・・将来道場を継がせようとしていたらしい。 父は結構有名な師範だったからな」
と、少しだけ笑みを零して続ける。
「尊敬もしていたし、さっきも言ったとおり感謝していた。 実際このまま親の言われた通りに道場を継いでいくのも悪くないなと思ったさ・・・だが」
その場からでも見える道場を見つめている表情をハヤテは見た。 どこか寂しげで、悲しそうで、怒りを感じる、そんな表情を。
「私が腕を怪我して、二度と竹刀が握れなくなったのを聞いて父がなんと言ったか教えてやろうか?」
「いえ、別に――――」
「剣を握れなくなったお前になんの価値があるんだッ」
聞いてはいけないことだと思ったが拒否をする前に唯子が言い放った。
「ははっ、久しぶりに怒りが湧いたよ・・・いや、殺意かな? とにかくドス黒いモノだったな。 そのまま親に殴りかかってしまった。 今では愉快な笑い話だ」
愉快な笑い話・・・と彼女は言っているが、ハヤテはその裏の意味を探る。 あの冷静で気ままで誰にも流されないような奈津美 唯子が親に遅い掛かるという意味は、その計り知れない激情の大きさ。
ハヤテがその怒りの大きさを知る術はない。 一体どれほどの怒りだっただろうか。
「それ以来かな・・・私と父はまともな会話をしていない。 ま、お互いに目も合わせないで無視してるのだからおあいこだ」
「そんな話って・・・無いですよ」
「無くなんてないものか。 所詮、親は子を金の成る木だとか自分のブランドを磨くことにしか興味がない。利用して自分らの利益になるなら子だってりようする大人もいる・・・・・・君だって同じ経験はあるはずだから分かるはずだろ?」
冷徹なその視線で射抜かれて、ハヤテは口を閉ざしてしまう。 自分も親に利用されて、利用され尽くされて終いには多額の借金を押し付けられて捨てられてしまった。 一存に否定は出来ない。
「まぁ私もアレで堅苦しい日々から解放されて今の生活が出来ている。 親との関係は変わらず最悪だが、悪くはないと思っているよ」
そう言うと、唯子は突然飛び上がり門の塀に飛び乗った。
「さて、今日はここまでだ。 付き合わせてしまって悪かったな・・・」
「唯子さん」
とハヤテが塀の上にいる唯子に呼び止めた。
「唯子さんがとても複雑な状況で暮らしているのは分かりました・・・でも、今日みたいな無茶だけは控えて欲しいんです」
「何故だ?」
見下ろす視線をものともせずハヤテは言った。
「唯子さんの身はたった一つですから・・・替えは効かないたった一つの物ですから。 それに唯子さんに何かあったら皆さんが悲しみます。 ヒナギクさんとか」
その言葉に唯子は数秒ほど言葉を失う。 今までこのような事を言ってくれた人がいただろうか。
「ふふっ・・・」
思わず笑が零れて、唯子は砕けた表情で言う。
「まったく、君はそういう言葉を誰構わず言うから要らぬ誤解を受けるのだ」
「え!? あ、あの、誤解って・・・」
「まぁいいよ。 素敵な言葉をありがとうハヤテ君。 また・・・明日な」
塀の上から屋根の上へと更に飛び上がる。 剣道ができなくてもその有り余った身体能力を活かす方法はないのだろうかとハヤテは思ったが、今の彼女はこの現状で満足しているのなら無理にその日常を壊す必要はない。
だがどこか心の片隅で思っていた。
・・・これで、いいのか?
良いはずはない。 どうにかしてあげたいとは思う。 だがどうしようもなかった。 このまま父と娘の距離が離れたままのだろうか。
「寒いな・・・早く帰らないと」
屋敷へと繋がる道を探し、コンビニでアイスを買って帰ろう。 その途中でハヤテは考える。
大切な人と心が離れたまま、一生会えなくなってしまったらどうなってしまうのだろう。
言い合った後に仲直り出来るのなら一時的な別れもいいだろう。 だが、その相手と仲直りする機会すら失ってしまった時に訪れるのは何か自分は知っている。 それは『後悔』だ。
改めて自分の罪を再認識する。 そのことを考えただけでただでさえ冷たい風が更に冷たくなるのをハヤテは感じた。
〇
「ただいま戻りました」
扉を開けて中に入るとソファに踏ん反りかえってるナギの姿があった。 ハヤテが帰ってくるのを確認すると体を起こしてこちらを向き合う。
「遅い!」
立ち上がって一気にその距離を詰める。 そんな彼女の顔は怒りで満ちていた。
「すみません。お嬢様、ちょっとトラブルに巻き込まれまして・・・」
「言い訳はいいのだ・・・ちょっとお前、許して欲しいならこのソファに座れ」
「え、なんで?」
いいから、と強くまた言われてハヤテはソファに座らされる。 ハヤテが座ると隣にナギもちょこんと座ってきた。
「あ、あの・・お嬢様」
恐る恐る聞くがナギは聞くふりも見せず、ハヤテが買ってきたハーゲンダッツの蓋を開けていく。
「こ、これにはホント深いわけが――――っん!?」
口に感じた冷気にハヤテが小さく反応を見せた。 ただ冷たいのではなく、甘さも兼ねたその味はハヤテの口に広がる。
「まぁなんだ? せっかくお前が買ってきてくれたのだ。 ちゃんと食べるし、それだけで拗ねたりはしない。 それに・・・ちょっと反省してるんだ」
ハヤテの口に突っ込んでいたスプーンを一旦取り出すとナギは視線を落とした。
「こんな夜に買わせに行かせたこと。 たまに思うのだ。 自分は時々、行き過ぎた振る舞いをしてはいないか・・・って。 このまま続けたらどこかで後悔するようなことになってしまうんじゃないかって」
膝の上にアイスを置いてナギは続ける。
「お前は・・・できれば私の側から離れないで欲しいから。 変な話だな、まるで絆を無理につなぎ止める様な哀れな行為だ。 お前もそう思うだろ?」
と、全てを聞いた上でハヤテは首を振った。
「僕もたまにあるんで、それを哀れだとか、変だとか思ったりはしませんよ」
「ふーん。 それってどうせ他の女たちのことでだろ?」
「いやいや、なんでいつもそっちに繋げようとするんですか?」
ある意味的を得ているようなものだが。とハヤテは苦笑する。 それを見てかナギも笑みを浮かべた。
「ま、いいや。 それよりも、私にはしっかりお使いをしてきた従者に褒美を与えなければならない」
「・・・?」
とナギの顔を見てハヤテが気付く。 少しだけだが視線を逸しているナギの顔は朱を帯びていた。
「だ、だからだな・・・私が食べさせてやるよ、うん」
「え、ええ!? そんな、勿体無いですよお嬢様!」
「ええい! つべこべ言わずに喰えよ! じゃあ私が全部喰うぞ! いいのか!?」
元々、それはナギの為に買ってきたものである。 だから全部食べられようとハヤテはどうということはない。だがそれではナギの怒りを引き出すトリガーになりかねないと直感で悟ったハヤテは。
「わ、分かりました。 で、では・・・」
「う、うむ」
戸惑いながらもスプーンでアイスを掬い、ハヤテの口に運ぶ。 アイスを飲み込んで味わっているとナギが聞いてきた。
「う、美味いか?」
「え、ええ」
「そ、そうか・・・えへへ」
向けられたナギの笑顔の眩しさにハヤテは思った。 この自分に向けられている笑顔がなくなるような事があっては決してならないと。
せめてこの笑顔だけは守らなければ、と。
「おやおや、二人はイチャイチャ気分ですよ。 どういう事ですかね黒羽さん」
「そうですね。 しかしテル、貴方は何やら不満そうな顔をしています。 ハヤテさんやナギちゃんがイチャイチャしてるのを見て嫉妬しているのですか? やっぱりホモじゃないですか」
ハヤテとナギが驚き、声のする方へ顔を向けるとそこにはテルと黒羽の姿があった。
「ちょ、ホモじゃねーし。 嫉妬じゃねーし。 適当なこと言うなし」
「返しがとってもガキっぽいですねありがとうございます。 さてさて二人とも遠慮せず続けてください。 ここの室温がまだ上がるようであれば私たちはいいところでお暇させていただきますので」
言われ続けて黙っていられなかったか、ナギが声をあげた。
「お、お前ら! おちょくりに来たのか!?」
「とんでもない。 なんかアイスの匂いがしたからこれから菓子パーでも開くかと思って、どうせなら皆でやろうかと思ってさ」
とテルがビニール袋から色々とお菓子を取り出す。 ポップコーンやらチョコ、スナックの類が入っていた。
「もう少ししたらマリアさんも来るぞ。 ちょっとだけなら良いって言ってたしな」
「そ、そうか・・・な、なら仕方ない。 皆で少し遊ぶか。 ハヤテ、残りのアイスは明日食べよう」
「は、はいお嬢様」
渡されたアイスを持ち、ハヤテが部屋を出ようとする。 テルがトランプやらボードゲームをどっかから持ち出してきたか床に広げている。
・・・今、僕がやるべきことは。
それは決して過去の罪をあれこれ考える必要はないだろう。 今、必要なこと。 この日常を守ることではないだろうか。
彼女を取り巻くその日常だけは、守り通そう。
ハヤテは笑顔のしたで決意を固めてその部屋を後にした。
後書き
どうして後半はハヤナギみたいな展開になったんですかね。 さて、シリアス要素を含んだ短編が終わり次回は久し振りに千里を使ったギャグ的なお話をしたいと思います。