ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
短編がしばらく続きます。 いいところで追われなかったので二部構成です。 


第106話~夜の世直しはアイスを求めて~

ハーヤーテー、アーイースー」

 

夜、ソファにて寛いでいたナギが指で天井を指してこう言うのは簡単に言えば今、ナギが欲しいものだ。

 

「ハイ、お嬢様」

 

このどんな唐突なお題も難なく反応するのはハヤテだ。 急いで台所に向かい冷蔵庫の中にあるであろう買い置きしておいたアイスを取りに行く。

 

暫くして台所に着くと、ハヤテは目の前にある冷蔵庫を開ける。 アイスを保存している冷凍庫の中には様々な高級食材があった。

 

「うわっ、松阪牛が冷凍されてる。 しかも一ヶ月前のだ・・・テルさんだな」

 

恐らく、買ってきた肉をテルが勝手に冷凍庫に入れたのだろう。 たしか一ヶ月前にテルに高い肉を階建してきてほしいと頼んだら松坂牛をどこからか仕入れてきたのを思い出した。 だが結局その日にナギが麺とか食べたいと言ったもんで肉料理はお流れになってしまった。 その時だろうか。

 

「後で他にもありそうだけどあとにしよう。 まずはアイスだ・・・アレ?」

 

と食材をどかしたりしてアイスを探すが、ない。

 

「おっかしいなぁ。 結構大きめなのだからわかり易いんだけど」

 

「何がだ」

 

「あ、テルさん。 ここにあったアイスって知りません?」

 

真後ろからの声をテルと認識したハヤテはアイスの事を聞いてみた。 後ろのテルはうーんと唸って。

 

 

「んー、わからん。 どんなヤツ?」

 

「大きい箱に入ってるヤツですよ。結構まだ量が残ってて、バニラにキャラメルが混じってる珍しいアイスで―――――」

 

とハヤテが振り返ってその目に写った光景に全身を硬直させた。 イスに座るテルの目の前には開け放たれた冷気を放つ箱。 そしてそれに大きなスプーンでそれを口に運ぶテルの姿がそこにあった。

 

「偶然にもこのアイスもお前の探してるアイスと同じやつのようだ。 でもこれは多分別もんだよ。俺がいうから間違いない。確かにそこにあったけど」

 

「あ、アウト! テルさん、それアウト―――――!!」

 

シャウトしたハヤテはテルからアイスの箱を取り上げ、中を見た。 これがまだ残っているなら安堵の息が出たが、中にはナギが食べられる最低限の量も残っていなかったのだ。

 

「はぁ・・・残ってない」

 

「あー、スマン。 ハヤテ、俺も遠慮しようかと思ったんだけどな? あまりにも美味そうだからつい・・・な?」

 

「な? じゃないですよ! 今お嬢様が即効でアイス欲しがってるんです! これじゃあ機嫌悪くなっちゃうじゃないですか!!」

 

「こういう時はなハヤテ、落ち着け。 落ち着いて素数を数えろ2,4,8,10,12、14」

 

「それ偶数ですから!!」

 

 

声を荒げたハヤテにテルは即、椅子に正座で座り直した。 アイスは量を見越してこのひと箱しか買っていない。 ハヤテは最悪の状況に頭を抱えた。

 

「おーい、ハヤテェ、ちょっと来てくれェ」

 

「あ、ハイただいま!」

 

と、テルを叱る暇もなくハヤテはすぐさま台所から去っていった。 誰も居なくなったのを確認すると、テルは正座の姿勢を解き、背もたれに寄っかかり天井を向かって大きな息を吐いて、項垂れた。

 

「あー。 だから俺のせいじゃねーっつーの、どうしてもあのチビハネが食いてーって言うもんだからよぉ。 ちょっとだけあげようと思ったら全部食っちまったんだからよー」

 

 

 

 

 

 

「アイスは?」

 

「いやーそれが・・・」

 

ナギのいる部屋に戻ったハヤテは顔を引きつらせて、息を飲む。

 

「あ、アイスは実はなくて」

 

「アイスは?」

 

「もうなくなってまして・・・」

 

「あ・い・す?」

 

「お、お嬢様? さっきからなんで同じことしか言ってくれないんですか?」

 

勿論、ハヤテには理由が分かっていた。 ナギは今、とてつもなくアイスが食べたいのだ。 欲しいと言ったら欲しいのだ。 それがtダメになったとしてもダメなのだ。地球が滅んで食糧難になった状態でも同じことを言うだろう。

 

そして顔を曇らせたナギがソファから立ち上がってハヤテを指差して言った。

 

「無かったらさっさと買ってこんかァ!!」

 

「ええ――――――!?」

 

「驚く暇があるならさっさとお前買ってこーい! 私は食べると言ったものは今日中に食べないと気がすまないのだ! 嫌なのだ!」

 

「は、はい―――!」

 

ツインテールを逆立たせてナギが鬼のように怒った。 ハヤテはナギに急かされるままにすぐさまナギの部屋から飛び出した。 そしてその場から離れるとナギが扉から顔をひょっと出して。

 

「ハーゲンダッツ買ってこいよな! ラムレーズンのヤツ! あと二三個ほど別にハヤテチョイスで!!」

 

とナギは言い終えると勢いよく扉を閉めたのを見て、ハヤテは即ダッシュで主人のお使いをこなすのであった。

 

 

 

 

 

「こんな夜遅くに買い出しなんて・・・これ絶対テルさんのせいだ」

 

夜に一人で道を歩くハヤテはこの原因となった人物を頭に思い浮かべる。 なぜこうも自分が行かなければならないのか。 すべての原因はテルにあるのに。

 

「たしかにあの時お嬢さまの剣幕に慌てて出てったからテルさんを呼ぶ暇もなかったけど・・・」

 

・・・それにしても最近テルさんのつまみ食いが多い気がするのは気のせいかな?

 

思い出してみれば、最近のテルの生活には奇行が目立つ。 高尾山ハイキング以来、冷蔵庫のものを今まで以上に勝手に部屋に持ち出すようになったし、コンビニでは必要以上に菓子類を買っているのを見た。本人は勉強時に必要な糖分と言っていたが。

 

「もしかしたらペットでも飼ってるのかもしれない。 でもそしたら別に隠すことしなくてもいいのに、この屋敷は余るほど広いから、お嬢さまが気に入りさえすれば大丈夫だと思うんだけどな・・・」

 

今度帰ったら少し問い詰めてみよう。 多分笑って躱されそうだが、そしたら部屋を捜査してでも秘密を暴いてやらなくてはならない。

 

そんなことを想いながら道を進んでいると、小さな公園が目に入った。 その公園を見て足が止まったハヤテ。

 

「この公園から僕のすべてが始まった・・・なんてテロップが入るんだろうな、ゲームとか漫画なら」

 

借金取りから逃げているときに、パーティーを抜け出していたナギにであった場所、『負け犬公園』だ。

 

 

思えばここからすべての始まり。 この後マリアに出会い、三千院家に招かれて、ナギの執事をやることになり、ナギの幼馴染や、テルとの出会い。 様々なことがあった。 

 

テロ、誘拐、ロボとの決戦、ひな祭り、ダンジョン、高尾山。 どれも命を懸けなければならなかった。今でも現実味が湧かない。

 

だが、どんなに命がけになろうとも、迷惑な事態に巻き込まれても、不思議とそこにイヤだという感情はあまりなかった。 楽しい、まだ続けと、そう願っていたくらいだ。

 

・・・僕だけこんな思いをしていいのか?

 

『ハヤテ・・・私とあなたは・・・ずっと一緒よ』

 

ふと、過去の記憶が脳裏を過り、ハヤテは頭を振る。

 

「はは、そうだ。 何を幸せ気分でいたんだ僕は・・・」

 

自分が犯した罪は決して忘れられるものではない。 あの日の過ちはいつまでも心に残るのだ。 この罪をいつか償う時が来るだろうか。 

 

 

もし償う時が来たら、その時自分は。

 

 

 

 

「ふっふっふっふ・・・」

 

「ん?」

 

その公園の方から聞こえた小さな笑い声にハヤテは聞こえてきた方に目をやった。

 

「ふっふっふっふっふ・・・」

 

その声はさっきよりも大きくなり、声の主はベンチにて腕を組んで座っていた。 ハヤテは目を凝らしてその声の主を見た。

 

「何をそんな所で立ち止まっているのだハヤテくん」

 

「ゆ、唯子さん?」

 

ベンチに腕を、足を組んで座っていたのは上級生である奈津美 唯子だった。

 

「いやいや、こんなところでバッタリ会ってしまうなんて奇遇じゃないか。 ハヤテくん」

 

「えーっと、唯子さん。 こんなところで何してるんですか?」

 

ハヤテの問いに唯子は自分の横に置いてあったおでん缶を手に取り、蓋を開けた。

 

「私は夜徘徊するのが好きなんだ。 君はなんだ? 夜の街に繰り出して女と遊ぶのかな? 止めておけ、そういうのは二十歳を過ぎてからだ」

 

「誤解を生むようなこと言わないでください!!」

 

声を荒げたハヤテを見て唯子はクスリと笑った。 

 

「冗談だよ。 察するに、お嬢さまのお使いとか…かな? 」

 

「ええ、すごいですね。 簡単に当てられるとは思いませんでした」

 

「君がここを通る時っていうのは大抵お嬢さまのご機嫌取りに何かを買いに行ってるのだと、そう思ってな」

 

ふーんと思っているとある疑問にハヤテは気づいた。

 

「ということは、結構な頻度でここに居るんですか?」

 

「いや、ほぼ毎日だ」

 

と唯子はおでん缶からアツアツの大根を取り出す。

 

「『負け犬公園』、ここほど面白い場所は無いと思ってな・・・こんな話を知ってるか?」

 

そう言って唯子は大根を一口食べたところでそれを中に戻し、ベンチに置いた。

 

 

 

この公園にある一人の男が訪れた。 その男は有名大学を卒業後、大手銀行の社員として働いていたが突如としてやった覚えのない横領の疑惑をかけられてその会社の首を切られた。 自分の事件の真相を追っているうちに一文無しになり、哀れにもエリートからホームレスになった。 そんな男がこの公園で一夜過ごそうとやって来たわけだ。

 

「なんか闇社会の陰謀に巻き込まれた男の話ですね」

 

「ここで問題だ。この男が一日過ごしてこの公園から出てこの町から去っていった。 どうなったと思う?」

 

「え? 一文無しのホームレスですからね・・・盗みとかやって今は刑務所とか?」

 

ふむ。と頷くと唯子は続けた。

 

「これには正解は二通り用意されてるんだよハヤテくん、一つはさっき君が言ったのと、もう一つは思いがけない幸運を拾い上げてのし上がった・・・かだ」

 

「はぁ・・?」

 

と、ハヤテは曖昧な受け答えをした。 なぜここで答えが二通りの答えを用意したのか。 と悩んでると唯子はさらに続ける。

 

「私が言いたいのはだな。 この公園に来た者は必ず人生でGOODかBADの道のどちらかの道に進むのだよ。 不思議なことに、あのゲ○ツもこの公園で一夜過ごしてのし上がったとか」

 

「ええ!? ゲイツってここに来たんですか!?」

 

「まぁそこらへんは嘘だけど。 だが良いことばかりじゃなくて、最悪な方向に進んでしまうこともあるようだ。 例えば・・・誘拐とか」

 

ギクリ。と心の中でハヤテは焦った。 確かに、自分はあの日ここで狂言誘拐を実行しようとした。もし自分があそこで本気で狂言誘拐を成功させていたとして、今の生活はあり得るだろうか。 そもそも、ここであのナギと出会えなければ、今ごろハヤテはどこぞで野たれ死んでいた可能性がある。

 

「私はこう考えている。 確かにここでは『最高』と『最悪』の二択を迫られるが、どちらに進むかは、自分次第だと・・・」

 

一呼吸の間を置いた唯子は髪をかき上げて言った。

 

「だから君も・・・ここまで来たんだろう?」

 

 

鋭い目つきとなった唯子から感じた真剣さにハヤテは耳を傾ける。さきほどのお茶らけた態度とは違った態度だ。

 

「ちなみにさっきのホームレスになった男の話の続きだが。 別の街で空から金が降ってきてそれを元手に今じゃ超有名な金貸し会社を立ち上げたらしいぞ」

 

「なんかどこかで聞いたことのある話なんですがそれは・・・」

 

深く聞こうと思ったが、ハヤテはやめた。 それよりも、ハヤテは他に聞かなければならないことが一つあったからだ。

 

「唯子さん、一つ聞いて良いですか?」

 

「ふふ。なんだ? 言っておくが、これからデートしてもいいですか?と聞かれても私は受ける気は――――」

 

「どうしてまだ制服なんですか?」

 

唯子の台詞を言い終える前に放ったハヤテの一言に唯子が動きをピタリと止めた。

 

「最初は気にしてなかったけど、もう十時です。 普通なら私服とかに着替えて一枚何か羽織ってから外出だってするのに、唯子さんは学校からの状態そのままだ。 ベンチ横にあるカバンが何よりの証拠」

 

言葉を紡いでいくと共に、唯子の表情が険しくなる。 ハヤテは意を決して聞いた。

 

「今日はまだ、家に帰ってないんですか? 家で、何かあったんですか?」

 

「・・・・」

 

ハヤテの問いに唯子は押し黙った。 表情を見る限り、ハヤテは何かとんでもない地雷を踏んだと。

これは殴られるパターンだ。

 

まず唯子がベンチから立ち上がる。 そして下を向いたまま、ゆっくりとこちらに寄ってきて。

 

「あ、あの・・・」

 

次の瞬間。

 

「え?」

 

ぽふっ。と、柔らかな感触をハヤテは自身の胸部から感じた。 

 

 

「ちょ、ちょちょちょっと唯子さん!?」

 

ハヤテは慌てた。 なぜなら、こちらに歩み寄ってきた唯子が何をしてくるかと身構えていたらハヤテの胸に頭を当てて抱きついてきたからだ。




後書き
ちょっとハヤテくんは死んでもらうしかないようですね。 このままだとヒナギクたちもヤンデレルートを歩んでもらうことになっちゃいますね。

次回に続きます。

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