ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
はい、今回は珍しく男勢が一切出てきません。


第105話~三千院家、女たちの夜~

 時刻は九時、夜の三千院家。 幼稚園の良い子たちはもう布団とかに入って寝ているのではないだろうか。

寝る子は育ち、健やかに過ごせる。 だがこの屋敷、三千院家はまだ明るい。

 

「ナギ~、どこですか?」

 

眠らない住人その1、マリア。彼女は仕事の都合上、まだ寝ることが出来ない人物だ。 主であるナギを探しているようである。 しかし彼女もある程度仕事を終わらせて、パジャマ姿である。 

 

やがてマリアは一室にたどり着くとドアを開けて、中に二人の人物がいるのを確認して中に入った。

 

「こうなったらウィンガルの支援、騎士王アルフレッドでお前のドラゴニックオーバーロードカイザーバーミリオンをアタック!」

 

「ゲット、ヒールトリガー」

 

「ぬわあああああ! 負けたぁぁあ!!」

 

あたりにカードが散らばる。 小さな人物は大の字に床に倒れれて叫んでいた。

 

そこに居たのはナギと黒羽だった。二人ともパジャマ姿でいるが、まだ髪の部分から湯気が出ているところを見ると風呂上がりらしい。

 

「私がドライヤー取りに行ってる間にどこに行ったと思ったら、こんな所でカードゲームですか」

 

「おおマリア聞いてくれ!黒羽にヴァンガード教えて勝負してみたんだ!するとどうだ!」

 

「ええ、さっきのやり取りを見ていると見事にボロ負けしたみたいですね」

 

そうなんだ。とナギは悔しそうに話す。

 

「黒羽のやつ、とてつもなく運がいいぞだ! 一回目の勝負の時にツインドライブで二枚ともクリティカルトリガーもらって負けてしまったのだ! こんなことって有り得るのか!」

 

「・・・専門知識を言われても、わかる人にしかわからない話ですね」

 

苦笑いでデッキをまとめるマリアを見て黒羽が手伝い始めた。

 

「すみません。 なかなかお嬢様の望む良い勝負が出来なくて・・・」

 

「別に気にすることありませんよ。 ゲームとかでは負けるといつもこうなんです。それよりすごいですね、初めてのカードゲームでこんな短期間で勝てるものなんですか?」

 

聞かれた問いに黒羽はカードを手に広げた。

 

「不思議といい手が来るんです。 困った時に自分のターンになるとその状況を打開する手とかが来るもので・・・」

 

「そう言えばこの前の大富豪も凄かったですね。ほとんど初手の革命とかで上がってましたね」

 

「うーん。何か幸運の女神に見守られている奴なのかな、お前」

 

この幸運を少しでも誰かさんに分けてやりたいものだとナギは思ったのだった。カードを集めてひとまとめにしたマリアはデッキをテーブルの上に乗せる。

 

「さて、では始めましょうか」

 

「えー、別に良いではないか。 これ時間かかるしー」

 

ナギがめんどくさそうに言うとマリアは人差指を使ってナギを諌めた。

 

「いけません。 日頃の髪の毛のケアはちゃんとしないと。 風呂上りならなおのこと」

 

そう言うとマリアはドライヤー手に取り、二人に向けて構える。 ナギは渋々同意したのだった。

 

 

 

黒羽は椅子に座り、マリアがその後ろからドライヤーを当てるというものだ。室内ではドライヤーの吹く風が黒羽の髪を乾かしている。

 

「マリア~、まだか? やっぱり長いから明日でいいか?」

 

「ダメです。 二人とも髪の毛長いんですからちゃんと乾かしておかないとすぐ傷んじゃうんですよ? しかも、まだ一分くらいしか経ってません」

 

片手で黒羽の髪を持ちながらドライヤーを当てていく。 

 

「ふぅ、しかし黒羽さんもナギと同じくらいの髪の長さ・・・凄いですね」

 

「あの、大変でしたら明日にでも髪を切りましょうか?」

 

後ろを振り向いた黒羽をマリアは両手で優しく手を添えて前を向かせた。

 

「別にそういうことを言ったわけじゃないんですよ? ただ羨ましいと思って」

 

「羨ましい・・・ですか?」

 

「そうですよ。髪が長い女性ってやっぱ魅力的じゃないですか♫」

 

「ほう、ならマリアは私はこの長い髪と普段の魅力がプラスされてるわけだから超魅力的だな!」

 

ナギが勝ち誇ったかのような笑みを浮かべているとマリアはドライヤーのスイッチを切った。

 

「普段もっとしっかりとしてくれるようになればですけど。 せめて休日は午前中には起きてくるようにしてください」

 

と、痛いところを突かれたようでナギは喋るのをやめる。 黒羽が前を向きながら聞いた。

 

「マリアさん、さっきの続きをお願いします」

 

「そうですね。私の髪の長さって結構中途半端じゃないですか? あと、大抵のヒロインって結構髪が長い人が多いんですよねー」

 

「確かに、ナギ様部屋にある漫画を見ると結構髪の長い子多いですね・・金髪の」

 

「ええ、金髪の」

 

「な、なんだお前ら! 別に私は自分と同じ髪とかのヒロインがいる漫画集めて越に浸っているわけではないんだぞ!」

 

顔を真っ赤にして言うナギを無視して黒羽はマリアに言った。

 

「私が思うに、マリアさんは今の状態でも充分に魅力的な人だと思います」

 

「あらありがとう♫ でも黒羽さん、ここに来る前は髪の手入れとかは?」

 

「特に・・・してきた覚えがないんですが」

 

まぁ、とマリアが後ろで声を上げる。

 

「それはいけませんよ。髪は女の命です! こうやってドライヤーを当てる角度を変えるだけでも結構変わるんですから」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。 基本は上から下に向けてです。 それと、ツヤとかを出したいんだったら温風の後に冷風を当てたりするんですよ」

 

と、黒羽は空いていた片手で自身の髪が少しだけ乱れていたので手で直そうとすると。

 

「あ、ダメですよ。 手櫛は髪を傷める原因になっちゃいますから。 ちゃんと櫛使ってあげないと」

 

「あ、はい。気を付けます」

 

「うーん。マリアって凄いな。 そんじょそこらへんのお母さんよりお母さんだ」

 

隣で待っているナギが腕を組みながら言うとマリアがクスリと笑みを浮かべて言った。

 

「ふふ、どう言う意味かしらナギ? 詳しく聞かせてくださいな」

 

 

 

 

「そう言えば黒羽さん、最近テルくんともだいぶ仲良くなったんじゃないですか?」

 

とマリアは髪を乾かし終え、近くのソファに座っている黒羽に聞いた。今は順番が変わってナギの髪を乾かしている。

 

「そうでしょうか」

 

「そうですよ。 前までテルくんの事、様づけだったのに今は呼び捨てになってるじゃないですか。ハイキングに行ってからそうなってビックリしましたよ」

 

黒羽は視線をマリアに向けて膝の上では手を組んでいた。

 

「どうやら私と伊澄様の呼び方が被っているようなので止めてほしいと。 どうせなら呼び捨ての方がいいらしいのでこうなりました」

 

他に理由はもう一つあるのだが、これを言わないのが彼との約束である。 律儀に守る黒羽だった。

それを見たマリアは笑みを浮かべる。 

 

そしてナギが少し視線をあげて。 

 

「まぁ最近の伊澄、何故か知らんが負のオーラが溜まってるからな。 そう呼び方が被ったからってアイツが切れたりするわけないだろうけどな・・・あ、あとな」

 

「はい?」

 

言葉を途中で止めたナギがその場で両手の人差指を当てていた。

 

「わ、私のことも『様』づけしなくてもいいんだぞ。 ここにいる限りは皆家族みたいなものだからな!」

 

 

『ここにいる皆、家族だと思ってんだ』

 

 

ふと、高尾山でのテルの言葉が脳裏を過ぎった。 

 

「ふふ、嬉しいですわナギ。 じゃあ手始に『ナギちゃん』というのはどうでしょうか」

 

「や、やめろ! 恥ずかしい! 普通にナギでいい!」

 

と慌ててマリアの手から逃れるナギ。 黒羽は少し考えてからナギを見て口を開いた。

 

「ナギちゃん」

 

「う、うわぁやめろって!」

 

「ナギちゃん」

 

「ちゃん、じゃなくてナギでいいってば!」

 

「ナギちゃん」

 

「マリアまで悪乗りするな!」

 

いつの間にか悪乗りしていたマリアをナギが怒鳴ると、マリアは小さく笑った。 ナギは座っている黒羽をじっと見て顔をだんだんと赤くさせていく。

 

「・・・コイツに言われるとなんか恥ずかしいんだよなぁ」

 

「あっれ~? ナギがデレてますよ?」

 

「デレてない! 決してデレてないのだ!」

 

遂には恥ずかしすぎて両膝を抱えるナギ。 そしてそれを面白がるように黒羽が言う。

 

「ナギちゃん」

 

「・・・もう、好きにしてくれ」

 

ぐったりと頭をたれてナギはそれを受け入れたのだった。

 

「・・・」

 

黒羽は考える。 この屋敷の人々はなぜこうも他人に優しいのか。 勿論、ここにいる人だけが優しいという訳ではない。 だが一緒に生活して間近に見ている自分にとってはその優しさが普通以上に感じてしまう。

 

ましてや、ここにいる人々は血の繋がりがない人ばかり。 

 

 

だが、彼女は言った。 家族、と。 

 

自分は思ってもいいのだろうか、この人たちの事を家族と。 今までそう疑ってしまうのは恐らく自分がテルに対して同じことを思っていたように

 

『この人たちからも嫌われていないだろうか』

 

そんな事を考えていたからだ。だがハイキングで、自分はテルを信じることにした。 テルが思っていた事をナギが言われなくてもそう口に出せたのは本心からではないのか。

 

 

少なくとも、ナギの言葉を聞いたときに自分はテルに言われた時と同じ気持ちになった。 良かったと、それに今付け加えるなら。

 

『嬉しい』

 

そんな言葉が浮かんだ。

 

 

「はい、終わりましたよナギ、そろそろ寝たほうがいいんじゃないかしら?」

 

ドライヤーをしまい、頭を撫でるマリアにナギがニヤリと赤い顔のまま笑いながら言った。

 

「そうはいかない。 今日はなんか恥ずかしすぎて頭に血が上ってしばらく眠られない気分だ。 だから少しだけ夜を楽しませてもらうぞ」

 

と黒羽を見て。

 

「と、ところでだ黒羽。 お前はインターネットに興味とかはあるか?」

 

「ネットですか。 やったことがないのであまり興味は・・・」

 

「そ、そうか。 実はこれからニコ生で私の好きなアニメが流れるんだが暇だったら一緒に観ないか?」

 

もじもじとしてる様子を見て、黒羽は少し遅れて頷いた。

 

「そうですね。ナギちゃんの趣味とかを把握しておくことも、メイドとしての役目なのでしょう・・・教えてください」

 

「そ、そうか。 なら話は早いな! さっそく私の部屋で一緒に見るのだ!」

 

「こらこら、二人ともあまり夜遅くまで起きてるんじゃありませんよ」

 

困り顔で言うマリアに黒羽が冷静な顔で親指を立てて言った。

 

「大丈夫ですマリアさん。 私も三千院家のメイド、物事の分別をわきまえて行動します。 ハマりさえしなければ私はそのアニメが終わり次第、ナギちゃんを寝させますので」

 

「そ、そうですか? なら、お願いしますね?」

 

と黒羽の硬い意志を見てかマリアは納得して部屋を出る。 あのしっかりものの黒羽が言うのだから間違いないのだと。 

 

 

しかし次の日、ナギと黒羽は二人して午後に目覚めたのだった。

 

 

 





後書き
今回ただのガールズトークですね。そしてナギがデレました。相手女の子だけどいいんです!
髪の毛のケアの仕方は諸説ありますけど、皆が知っている身近なのを書きました。 ちなみに、ちゃんとトリートメントをドライヤー前にやってる設定です。

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