ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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第10話~潜入の基本とは自然と一体となること~

白昼の白皇学院。生徒達は広場を歩き、それぞれが授業を行う場所へ向かう。

 

どこの高校にもよく見られる光景。

 

そこを行く一つの影?

 

カサカサカサカサカサ……

 

いや、影ではない。それはスニーキング、潜入の必須アイテム、ダンボール。

 

 

彼は今、ダンボールの中に入っている。

 

「我ながら見事な潜入だ。 ここまで鮮やかに潜入を決めれるのはス○ークを差し置いて俺しかいまい」

 

ダンボールの中で不敵な笑みを浮かべる。 だが彼は気づいてはいない。 彼が歩く場所は広場のど真ん中、そこを似つかないダンボールが歩いていれば自然と目が向けられ事に。

 

(さて、一体どこにいるんだ? 取り敢えず色々探してみるか……)

 

─白皇は名門校なのでこれを機会に見学してみては?

マリアの言葉が蘇る。 確かにいい機会だが

 

「こんなヴァ○・ディール並みに広いトコ、どこから見学すればいいか分かりません!」

 

このバカデカさ、恐らく初めての人が入ったら確実に迷ってしまうだろう。

テルは人目を避けるために茂みの中へと移動した。

頭に木の棒を付けてカモフラージュを装っているのだが、執事服を着ているためあまり意味は無いかもしれない。

 

「大丈夫、自然と一体になれ……宇宙は俺の一部であり、俺は宇宙の一部だ」

 

何かのまじないなのか、テルは謎の呪文を唱え始めた。

身をかがめて低い姿勢で行動をしていく。

テルがものすごいス○ーク気分を堪能していたその時である。

 

「……だ!」

 

茂みの奥から一瞬だけ張り上げた声が聞こえた。

 

「ん?」

 

テルはその声が気になりその場所へ近づいていく。静かに近くと段々と声の主が見えてきた。

 

「なんか違うんだよなぁ……」

 

そう一人呟くのは少年だ。ナギと少し似た身長、毎日不機嫌そうな顔している。

 

「こんなんじゃ俺の思いは伝えられない、もう一回だ!」

 

少年はそう言うと一度深呼吸して目を閉じた。

 

「俺は……橘 ワタルは、伊澄の事がす─」

 

「どうしたのワタル君……」

 

「うおっ!?い、伊澄!?」

 

ワタルが言おうとした言葉が言い切られることはなく、突如現れた伊澄にワタルは激しく動揺した。

 

(まさかの本人登場かよ)

 

 

一人隠れていたテルはその光景を見ていた。

 

オロオロするワタルを見ていた伊澄は口を開いて聞く。

 

 

「それでワタル君……私がどうしたの?」

 

「へ!?いや、その……」

 

言葉を詰まらせていたワタルだったが意を決して伊澄と向き合う。

 

「お、俺はお前の事がす、す……」

 

「え……」

 

伊澄は表情の変わったワタルを見て顔が赤くなる。

 

(さぁ言え少年!お前の思いを告げて見ろ!だが成功したら死刑だァァァ!)

 

近くの茂みに身を隠していたテルは二人を見守っていた。

 

 

「す、す、酢だこ!」

 

「…………」

 

橘 ワタル。13歳。一年、いや、何年よりも長く感じた瞬間だったという。

 

「……ワタル君、私酸っぱいのはどうも……」

 

「えっ!? ああそう!分かった! じゃあ甘い何かだったら用意できるから」

 

「まぁ、楽しみにしてるわ……」

 

伊澄はニコリと笑顔を向けてワタルに言うとその場を去っていった。

 

(………)

 

 

ガクッと膝を落とし両手を地面に付ける。

 

(全く俺はなんていう……)

 

「ヘタレ君」

 

「なっ!?」

 

突如茂みからガサガサと顔を出したテルにワタルは驚いた。

 

「全く、やっぱり学校てのはこういうのが多々あるもんなんだよ。 気になるあの娘がいれば声も掛けずらい、自身の油断をもたらす……正に愚の骨頂、男子!」

 

「お前は何様だ! どんな暗い青春送ってんだよ!って待てよ…… 」

 

ワタルは語るテルに突っ込むがここで一つの疑問に気付く。

 

「お前、いつから居たんだ?」

 

 

ワタルの言葉にテルは顎に手を当てながら答えた。

 

 

「え~と、『俺は、橘 ワタルは……』って所から」

 

「ウオォォオ!」

 

 

顔を真っ赤にさせてワタルは叫ぶ。 不覚だ。 見ず知らずの他人に好きな子に告白の練習するところから実行(結果・失敗)にいたるまでを見られてしまった。

 

橘 ワタル。一生の不覚である。

 

 

「まぁまぁ」

 

テルは落ち込むワタルの肩をポンポンと叩く。

 

 

「若いうちは色々やってみるもんだ。 大丈夫、みんなそうやって大人の階段登るのさ」

 

 

「ムカつくんだけど、その『ドンマイ』って言ってる輝かしい笑顔がやたらムカつくんだけど!」

 

 

憐れみプラス、励ましの笑顔で親指を立てるテルがこの上なくイライラしたワタルだった。

 

 

テルは続けて一言。

「まぁ頑張れや平成酢だこヘタレ少年」

 

 

カチン。とワタルの中で何かが弾けた。

 

「うるせぇぇぇえ!!」

 

ワタルはそこにあった石を手に持ちテルめがけて投擲。

小さい石、中くらいの石が矢継ぎ早にテルに命中。

 

 

「オイコラ! 石を投げるな! 当たると痛ェんだぞ!? いやっ、あの、ちょっ、止めろって!」

それでもワタルは目をつり上げて石を投げるのを止めない。

 

仕舞いにテルのデコと鼻に石が命中し、テルは顔を抑えながら退散していった。

 

「ハァハァ……」

 

逃げていくテルを睨みながら、ワタルは投擲で疲れたのか息を荒くしていた。

 

 

「ったく、なんなんだよ……」

 

 

─橘 ワタルと善立 テル。 この二人はいずれ思いがけない形で再開することになる。

 

 

 

 

 

一方、白皇学院内にあるカフェテリア。

 

「なにィ!? 弁当を忘れただと!」

 

「はい……申し訳ありません、お嬢様」

 

ここカフェテリアで椅子に座る一人の少女、その側に立つ一人の少年、ナギとハヤテだ。

つい先ほどの事、授業の休み時間に自身が弁当を持ってくるのをすっかり忘れていた事に気付いたのだ。

 

「す、すいません! 僕がしっかりしなかったばっかりに……」

 

「むぅ……ハヤテでもたまにミスるんだな」

 

慌てるハヤテにナギは珍しいと言った表情。

 

「まぁいいさ、誰にだって失敗はある。 幸いここで食べていってもいいんだし……」

 

『♪~♪』

 

ナギが言い切る前にどこからともなくメロディーが、ナギの携帯である。

 

 

「もしもし、マリアか、どうした?」

 

 

「ナギ? あなたお弁当を忘れていきましたね?」

 

 

「私が忘れたのではなく、ハヤテが忘れたのだ」

 

「普段から自分で持つように心掛けていれば良かったのでは?」

 

「うぐっ!」

 

マリアに正論を言われたナギは返そうにも返せない。

マリアは続ける。

 

「……まぁ、ハヤテ君のせいにするのはよしましょう。 今テル君が二人のお弁当を持ってそちらに向かっています」

 

「なにィ!? あいつが?」

 

マリアの言葉にナギは声を荒げた。

 

「アイツの作った弁当は食べんぞ! 白皇で食中毒事件を起こす気か? 私はハヤテの弁当以外は認めん!」

 

マリアはその言葉にピクッと反応し、静かに返した。

 

「そうですか……なら、私の作ったお弁当は食べなくてもいいですね」

 

「へっ!? いや、違うんだマリア、そういう事ではなくてお前が作ったなんて知らなかったから……」

 

ナギの言葉にマリアは呆れながら返した。

 

「全く……ちゃんと感謝しなさい。 どこまで嫌ってるんですか」

 

「だってアイツすぐにバカにするし、いらなくボケるし、私をからかうし……私にとっての悪だ」

 

(なんという言われようでしょうか)

 

つくづくテル哀れとマリアは思いながら続ける。

 

「それはそうと、初めての白皇なのでハヤテ君みたいにトラブルに巻き込まれるかもしれません」

 

マリアの言葉を聞き、ナギは椅子の背もたれに寄りかかり、片腕を伸ばして背伸びをする。

 

「いやいや、流石にアイツはハヤテじゃないし、いきなり不審者扱いには……」

 

ピンポーン

と突然、白皇学院に響く放送の知らせ。

 

「え~。 現在、敷地内に不審者がいます。 黒髪短髪で若干死んだ魚のような瞳をした奴です。 生徒の皆さんは充分注意して下さい」

 

ピンポーン

と最後に締めの音がなるとナギは背もたれに寄りかかりながら片腕で目を隠した。

 

「マリアよ……」

 

「はい?」

 

「どうやら手遅れらしい……」

 

「ええっ!?」

 

マリアは驚きの声を上げた。

 

「仕方ない、こっちはなんとかしてみるから。 私はこれから授業がある。 じゃあな」

 

「わかりました。頼みましたよ、ナギ」

 

最後に言うとナギは電話を終えた。

 

(不本意だが少しヒナギクにも協力してもらうか)

 

「全く、なぜ私がアイツの為に……全く……」

 

ナギはぶすっと頬を膨らませた。

 

「お嬢様、どれだけテルさんの事が嫌いなんですか?」

 

ハヤテが苦笑いしながらもナギに慎重に聞いた。

 

「海よりも深く、富士の樹海よりも深くだ」

 

「それをいつまでも貫き通すおつもりですか?」

 

「無論……死ぬまで」

 

「それは相当な悪・即・斬っぷりですね……」

 

テルはこの先大変そうだ。

 

 

 

 

「チキショオォォォ! なんだアノふざけた放送はァ!」

 

当然、この放送を聞いていたテルは怒り心頭である。

 

「いつでも言ってんじゃん。 これはいざという時にダイヤモンド並みに輝くって……アレ?」

 

そんな事を呟きながら辺りを見渡しているとテルはひときわ目立つ建物が目に入った。

白皇学院の時計塔である。

 

「なんだここ……ん?」

 

 

テルが時計塔の入り口に近づいた時、立て札があった。何かが書かれている。

 

『生徒会以外の者の立ち入りを禁ずる』

 

「ほぅ……」

 

テルはその文字を見て少し考えるとニヤリと笑いを浮かべた。

 

「ダメダメそんなんじゃあ、『入るな』って書いてると入りたくなるじゃん? これは『押すな押すな』は『押せ押せ』っていうノリと一緒よ」

 

半ば強引に理由を付けて中に入っていく。

そこからは階段があったがちょうどエレベーターがあったのでそれを利用した。 目指すは最上階。

 

 

扉が開くとやたら広い場所に出た。

広い場所にはソファーや本棚、食器棚、奥にはテラス、そして社長とかが座りそうな大きな机がある。

 

 

─生徒会室『天球の間』そう呼ばれている。

 

 

そのテラスから見られる景色は絶景。

学院が見渡せ、遠くの校門までよく見える。 風が優しく吹いた。 頬を撫でるかのような穏やかな風。 今日は晴天の事もあり、気持ちのよい事限りなしだ。

 

「良いところだ。 ココを俺の昼寝場所にしようか」

 

「危ないから止めときなさい。落ちたら責任持てないわよ」

 

「そりゃそうだ……ってアレ?」

 

聞き覚えのない声がテルの後ろから聞こえた。 テルは後ろを振り向く。

 

「ゆ、幽霊?」

 

「失敬な、れっきとした人間よ」

 

そこに立っていたのはホットピンクの髪を背中まで伸ばした少女。 金色の瞳からは強い意志を感じる。

 

「今日はいい天気ですな」

 

テルは考えた。先ほどの放送の事だ。恐らくこの学校は生徒会はジャッ○メントとかいう組織でテルを捕まえに来た刺客なのだと。

 

ならば話は簡単。 スルースキルを発動してあたかも何事もなく去る。 これ平和的なやり方。

軽い足取りで少女の横を通り過ぎようとしたとき

 

「待ちなさい」

 

ガシッとテルの執事服の襟首が掴まれる。 襟首が掴まれた事により首が締め付けられた。

しかも女だというのに引っ張る力が強い。

 

「あら?あなたもしかしてナギの言ってた三千院家の執事さん?」

 

 

少女は何かに気づいたかのようにテルに聞く。

しかしテルはかすれた声で

 

「ちょっ……痛い、マジ……死ぬ……」

 

「あらゴメンなさい」

 

パッと襟首から手を離すとテルは少し息を荒げた。

 

「まぁ、そうだが…お前ナギを……知ってんのか?」

 

「まぁさっき聞いたんだけどね本人から……それにしても」

 

少女は淡々と答えるとテルの顔を見つめる。 じっと見られていたテルは少女に聞いた。

 

「お前もその口か……」

 

「はい?」

 

「お前もこの瞳を馬鹿にしてんのかァァァ!」

 

 

「え、いや、その……」

 

─私の新しい執事が来ているのだが、どうやらトラブルに巻き込まれてるらしい。 顔はもう死んだ魚のような瞳をしていて、基本グータラとダメな汁でできた人間だから一発で分かるぞ。

ナギの言葉を思い出すとその言葉一つ一つが忠実に再現されていたと感じた少女だった。

 

 

「ここは生徒会室だから部外者は立ち入り禁止になってるんだけど」

 

 

少女は話題を逸らし、テルに言う。

 

「そうかい、じゃああの立派な机は」

 

テルは奥にある大きな机を指差す。

 

「ええ、アレは生徒会長が座る場所よ」

 

 

「じゃあその会長様が来る前に逃げねぇとな」

 

 

「その必要は無いわよ」

 

 

テルの呟きに少女は笑いながら言った。 少女は続ける。

 

「目の前にいるじゃない、アナタの」

 

 

「え、マジ?」

 

 

テルは目を丸くして唖然とした声を出す。 少女は腰に手を当て言った。

 

 

「マジも何も……私がこの学校の生徒会長、桂 ヒナギクよ」

 

 

グータラ執事は完璧生徒会長との会合を果たす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─生徒会長。 それは学校に存在する魔の頂点。 全校生徒を悪の力で取り仕切り悪の行事に勤しむ。いずれ自身が大魔王となるために人々の魂を狙っているとんでもない奴。

 

「……で良かったんだっけ?」

 

「全くもって全然違うわよ! どこの漫画の設定?」

 

テルのとんだ勘違いにヒナギクはテルに突っ込んだ。

 

「イヤイヤ、お前らが漫画とか言っちゃダメだって」

 

「ちょっと、私の話聞いてる?」

 

「このレーベルの原作だってな……」

 

「あーっ! ストップストップ! 身も蓋もない事言わない!」

 

「アナタ本当に三千院家の執事?」

 

ヒナギクが疑いの視線を向ける。テルは失敬なと言った表情で

 

「そうだとも、善立 テル。 この俺のどこに不安要素がある」

 

「少なくとも私の知ってる三千院家の執事はいらなくボケに走ることはないわ」

 

ヒナギクが言っているのはハヤテの事だ。 まぁ出会って数日、あんまり分からないが。

 

「それで善立君はどうしてここに来たの?」

 

ヒナギクは話題を変え、テルが白皇学院に来た理由を聞く。

 

「ああ、そういえばこの弁当届けに来たんだった」

 

テルはヒナギクに両手にあった重箱を見せつける。 ヒナギクはふーんといった感じで

 

「一応執事らしい事やっているのね」

少し感心したかのようにテルに言う。 弁当を届けるのが執事らしい仕事かどうかさて置き。

 

「随分と大きい重箱ね……」

 

ヒナギクはテルの持つ重箱を見る。 両手の重箱は三段重ねの上物。 それが2つ分。

 

(ハヤテ君はともかく、ナギは食べきれるのかしら……)

とてもだがナギが食べるには大きすぎるのではないかと考えるヒナギクだった。

 

「せっかくマリアさんが作ったんだ。今この場で少しつまみたい」

 

「これマリアさんが作ったの?」

 

「おおよ、よく知ってんな」

 

「まぁ知ってるわよ……それよりナギの所に行くんでしょ?案内するわよ」

 

ヒナギクにそう言われ、テルは首を慣らしながら返した。

 

「ぜひ案内してくれ社長」

 

「社長じゃないから、私会長だから」

 

「あーあ分かった。 行くぞ課長」

 

「なんで降格させられてるの!?」

 

そんな会話を終えて二人は生徒会室を出てエレベーターの近くで止まる。

 

「それよりも善立君、学校は? 執事の仕事と両立してるの?」

 

ポチっとエレベーターのボタンを押す。 ゴウンゴウンと下からエレベーターが登ってくる音が聞こえる。

 

「……色々とあり、通っていない」

 

テルは面倒くさがったのかちゃんと理由を話さなかった。

しかしそこはヒナギク。 簡単には引き下がらない。

 

「どうして? 何か理由があるの?」

 

「いや、別にこれといっても……」

 

「だったらちゃんと通いなさいよ、楽しいわよ?」

 

「お前は先生か! なんか不登校の生徒を学校に連れていこうとしてる先生みたいだぞ!」

 

だんだんとエレベーターの音が近くなってくる。 ヒナギクは前を向くと呟いた。

 

「まぁ教師になるなら絶対になっちゃいけない『反面教師』にはなりたくはないわね……」

 

「あ?何だって?」

 

ヒナギクの言葉は聞き取れず、テルは不思議そうな顔をする。

その時、ちょうど扉の向こうで「ちん」と音がした。

到着音と共にテル前を向く。 テルが扉が開くのを待っていた時。

 

 

一瞬、殺気が感じられた。

 

「うおっ!?」

 

突如だが、何が何だか分からないテル。

ほんの数十センチ、僅かな隙間からだ。テルの頭目掛けて隙間から伸びるのは木刀だ。

テルはその瞬間に頭を少し引いていたので辛うじて眉間に突きつけられる程度ですんだ。

 

「ふっふっふ……私の初撃を避けるとはね」

 

不適な笑い声が扉から聞こえる。 エレベーターが完全に開くと中からその人物が現れた。

テルはその人物を見て嫌そうな顔した。

 

「お前は……エキセントリック教師……」

 

「見つけたわよ不審者ァ!!」

 

まるで獲物を見つけ出したかのような歓喜の声。 雪路だ。

 

「桂ァ、コイツ本当に教師か?」

 

「ええ、れっきとした教師よ。 あと私のお姉ちゃんの桂 雪路よ」

 

テルの質問にヒナギクはすらっと答える。 テルは顔を歪ませて返した。

 

「嘘だドンドコドーン!」

 

まぁ初見の人は混乱するだろう。髪の色とかそれ以前に性格とかその他諸々で。

 

「ヒナ、いいところに居たわね! ソイツは不審者よ!女の敵よ! 捕まえるから手伝いなさい!」

 

雪路は横にいるヒナギクに気付いたのか身も蓋も無いことを言う。

 

「ったく、俺をいつまでも不審者扱いする気だコノヤロー」

 

テルはダルそうに言うが雪路は木刀を構える。

 

「散々逃げ回っていたらしいけどここは時計塔の最上階。 孤立無援の八方塞がり、逃げ場は無いわよ」

 

「悪魔で俺の話はスルーか?」

 

 

「お姉ちゃん! この人はただお弁当を届けに来ただけ!」

 

二人のやりとりを見かねたのかヒナギクが割って入るな。 雪路はそれを見て動揺した。

 

「なっ! ひ、ヒナ……どうしてソイツを庇うの? ハッ! ま……まさか!」

 

雪路は拳をワナワナと奮わせて叫んだ。

 

「不審者ァ! 私の妹に何をしたァァァ!」

 

「何もしてねェェェエ!」

 

雪路の叫びを激しく否定する。

 

「惚けるんじゃないわよ! あの手この手使ってヒナを!」

 

「オイィィイ! ソッチの方に持ってくんじゃねぇ! 何人聞きの悪い事言ってんだァァァ!」

 

テルは激しく否定するが雪路は聞く耳を持たない。

雪路は怒りの形相に 持っていた木刀の握る力を強めた。

 

 

「ヒナ!私が今あなたをその呪縛から解放してあげる!」

 

雪路はテルの頭目掛けて木刀を振り下ろした。 テルのは避けきれず頭にドゴッと木刀の理不尽な一撃が炸裂する。

 

「うがっ!」

 

咄嗟に両手で防ごうとしたがそれは無理だ。 両手には重箱がある。つまりテルには今、両手が使えないという大きなハンデがあった。

 

「懺悔なさい!」

 

膝をついているテルに対し、雪路は更に追い討ちをかけようと木刀を振りかぶる。

この時、不思議な現象がテルを襲った。

 

(なんだ……この既視感)

 

既視感、それはどこかで見たことあるような感覚。 以前まるでこんな事を体験したことがあるようなないような

 

 

「でやァァァア!」

 

しかし、不幸なことにもその謎の既視感が彼の反応を遅らせてしまった。 避けられはずの一撃を

 

(やべっ……)

 

 

しまったと言わんばかりに顔をしかめるテル。両手は使えない、避けられない、ならば選択は一つ。

一撃を耐えるしかない。

その一撃を耐える決意をしてテルは身構えた。 しかし振り下ろされた一撃はテルに届く事はなく、一本の剣に遮られた。

 

ガキィという金属音が響き、雪路はその人物を見た。

 

「ヒナ!?」

 

「い・い・か・げ・ん・に……」

 

雪路が見るとそこには目をギラリと開かせているヒナギクがいた。

 

「しろォォォォォォオ!!!」

 

気合一閃のもと、ヒナギクは雪路の木刀を押し返した。

 

「何訳の分からないことを言ってるの!? そんな訳ないでしょうが!!」

 

ヒナギクは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。 雪路は距離を取ると近くにあった鉄の騎士が持っている装飾剣を引き抜いた。

 

「そう……ヒナ、あくまで私に刃向かうのね……なら私の相手が妹でも私は容赦しないわよ!」

 

「さっき私を救うんじゃなかったの!?」

 

その言葉を一つ紡ぐと二人は一気に近づき剣を交える。

 

「この前私が負けたのは私の剣が一本だったから! 二本なら負けないわよ!」

 

激しい斬撃の応酬。 雪路の二本の得物から繰り出される攻撃は一撃一撃が容赦なく、止まることがない、例えるなら止まることをしらない暴風雨。

しかし、その暴風雨を物ともしないかのようにヒナギクは雪路の一撃一撃を剣一本で防いでいた。

 

そして再び三本の剣がぶつかり合い、鍔迫り合いが始まる。

 

「じゃあお姉ちゃん、この前、貸した一万円はいつ帰ってくるのかしら?」

 

クスクスとした笑顔と共に雪路の痛い所を突く言葉が向けられる。

 

「ズ、ズルいわよヒナ!一度ならず二度までも諭吉を人質にとるなんて! 諭吉が何をしたって言うのよ!」

 

ヒナギクの言葉を聞いた瞬間、力強かった二本の剣が一瞬弱まったのをヒナギクは見逃さなかった。

 

「はぁ!」

 

その瞬間、バキンという鈍い音。 鍔迫り合いを解き、一つのヒナギク気合いの一撃が雪路の木刀に炸裂し、折れた音だ。

 

「ぬおっ!?」

 

雪路はたじろぐ、さっきまでの暴風雨の勢いはもう無い。

 

「まず妹に借金している事を恥ずかしく思いなさい」

 

ピッと剣を払うヒナギクに雪路はキョトンとした。

 

「なんで恥ずかしく思うの?」

 

「普通は思うのよ!」

 

ヒナギクは一喝し、剣先を雪路に向ける。

 

「まだやる? お姉ちゃん」

 

「むぐぐぐ……」

 

しかし彼女に降伏の二文字は無い。

 

「お~い、俺を蚊帳の外にするな~」

 

テルを一喝見た雪路は目を光らせてテルの重箱を一つ奪い去った。

 

「オイ! 弁当返せ!」

 

テルの言葉を聞かず、雪路は一気に生徒会室のテラスまで移動する。

 

「待ちなさい!お姉ちゃん!」

 

ヒナギクが睨むが雪路は不敵な笑みを浮かべる。

 

「さぁヒナ、ここまで来れるかしら高所恐怖症のアナタが! 試練一度とは限らないのよ!」

 

雪路はテラスの手すりに飛び乗るとヒナギクに言い放つ。

 

「はい?」

 

テルは目を丸くしてヒナギクを見る。よく見ると汗を垂らし、体が少し震え、明らかに動揺しているようだった。

 

「お、お姉ちゃん…私に……同じ手が…通用すると…でも……思って?」

 

(うわ!メッチャ通用してるよ! なんだよその負のスキル!)

 

心の中でテルは激しく突っ込む。 ヒナギクの震えは近づく度に増しているように見えた。

 

そう、何を隠そう彼女、桂 ヒナギクは極度の高所恐怖症である。

 

「で……でも!」

 

ヒナギクは瞳を見開き一歩また踏み出す。

 

「私は生徒会長 桂 ヒナギク! この名に恥じないようこんな試練を乗り越えてみせるわ!」

 

「フッ……」

 

だんだんと近付いてくるヒナギクを見て、雪路は穏やかな笑みを浮かべた。

 

「さすがは我が妹、その妹の決意に免じてこの弁当を返すわ」

 

「マジで?」

 

「ええマジよ」

 

「本当!? お姉ちゃん!」

 

ヒナギクもその場で止まり、笑顔を浮かべる。

 

「もちろんよ感謝しなさ─」

 

その時、非常に迷惑な事に雪路は突風によりバランスを大きく崩してしまった。

 

「ヌオオォオ!」

 

雪路は必死にバランスを取ったが、功を結ぶこと無く真後ろに倒れた。

次第に重力が働き、雪路の体が下へ下へと下がっていく。

 

(やばっ、これヤバいんじゃない!?)

 

 

雪路は事の重大さに漸く気付く、しかしその時にはヒナギクの姿も見えなくなっていた。

 

「お姉ちゃん!」

 

ヒナギクの悲痛な叫び、この時既に雪路の体は見えなくなっていた。

 

(ダメ!ダメよ! もう誰も勝手に居なくならないで!)

 

テラスの向こうから今にでも這い上がってくる雪路をヒナギクは願っているだろう。

しかし、雪路は登ってこない。 自然と涙が流れた。

 

(私を独りにしないで……)

 

「お嬢さん、あなたが落っとこしたのは何でしょう?」

 

 

突然、どこからともなく声が聞こえた。

 

「1.とんでもなく人の話を聞かないエキセントリック教師。 2.人の頭を問答無用で殴る教師」

 

ヒナギクは辺りを見渡す。 気付けばテルの姿が見当たらない。 その声はテラスから聞こえた。

 

 

 

テルのギリギリの行動により雪路は落下を免れていた。

 

 

テルはテラスの手すりに足を絡ませることなく、足で角度を90度で床に引っ掛けて雪路の体引っ張っていた。

 

 

「正解は……人の話を聞かない妹思いの姉だコノヤロォォォ!!」

 

気合いを入れて、背筋と腕の力だけで雪路を上へと放り投げる。

 

「ウハァァァ!」

 

雪路は宙を舞い、ヒナギクの所まで飛んでいき床に転げ落ちた。

 

 

「お姉ちゃん!大丈夫!?」

 

「いでででで……」

頭から入ったのか雪路は頭をさする平気のようだ。

 

「全く、釣り上げるこっちの身になってみろよ」

 

 

テルがテラスから這い上がりふぅと溜め息をつく。

 

「アンタ!もう少しやり方はなかったの!?」

 

先ほどのやり方が気に入らなかったのか雪路は怒りの声をあげる。

 

 

「アリャ。変だな、魚が喋ってるよ。 シャーマンが釣れちまったぜ」

 

「人面魚って言いたいのか、あんまりだろソレ!」

 

不満言う雪路の頭をヒナギクがポカッと叩いた。

 

「命の恩人には感謝しなさい」

 

頭を抑えた雪路はフッと笑い

 

「さすがは三千院家の執事。いいわ、ナギちゃんの所に案内してあげる」

 

テルに親指を立てて言い放った。

 

「コラ、その前に俺を不審者扱いした件を謝れ」

 

「さ~て行くわよ!」

 

完全にスルー。マイペースにもほどがある。

 

「ごめんねテル君、こういう人だから……あと、お姉ちゃんを助けてくれてありがと」

 

ヒナギクの言葉にテルは頭をボリボリと掻きながら

 

「おう……んじゃ弁当届けっか」

 

「ん?弁当?」

 

雪路がその言葉に動きを止める。 テルもだ。

 

「そういえばお姉ちゃん、持ってたお弁当は?」

 

ヒナギクはまさかと思いながら雪路に聞くが雪路はキリキリと体を動かして顔引きつらせた。

 

「し、下に……」

 

そう言って示すのはテラスの向こう側。

 

「…………」

 

「…………」

 

 

「「「…………」」」

 

 

 

 

 

 

「で? 弁当一つ無に帰してしまったと」

 

場所は変わり、カフェテリア。 テーブルにはナギとヒナギクが周りにはハヤテとテル、雪路が立ったいる。

 

「俺のせいじゃない、全てはこのエキセントリック教師のせいだ」

テルは雪路の方をジッと見つめる。

 

「貴様の執事としての能力がダメダメだと言うことだ」

 

「いいじゃねぇか幸いもう一個あるんだからさ、どうせ食べきれないだろ」

 

「ぬ……馬鹿にするな!」

 

自分があまり食べれない事を馬鹿にされたのが気に障ったのかテルを睨みつける。

 

「……聞きしに勝る対立っぷりね」

 

お互いに睨み合うテルとナギを見てヒナギクが呟いた。

 

「ヒナギクさんアレですよ、喧嘩するほど仲が良いっていう」

 

「その割にも今にも飛びかかりそうよ、アナタのご主人様」

 

ナギの顔は怒りの形相でガルルルと狼のような唸りを出していた。 ハヤテは取り敢えず間に入ってナギを落ち着かせた。

 

「お嬢様、一つでも僕には食べきれない大きさです。 テルさんとも一緒に食べませんか?」

 

「えー」

 

ナギは明らかに嫌そうな声をあげる。それに続き、ヒナギクが口を開いた。

 

「私もここで食べようかしら」

 

そうヒナギクは言うと自身の弁当を取り出しテーブルの上に置いた。

 

「なんだヒナギクもか……」

 

「何だとは何よ、まだ食べてなかったんだし、それにみんなと食べれば楽しいでしょ?」

 

ヒナギクの言葉にナギはそうだがと思うが、ナギにとってはハヤテと食べたかったというのが強い。

 

「ヒナ! そのお弁当、私にも頂戴!」

 

突然雪路がヒナギクに目を輝かせながら聞いた。

それを聞いたヒナギクはあっさりと返す。

 

「お姉ちゃん、教師なんだから自分で売店で買えば良いじゃない」

 

「給料前の私を助けると思って! もうカップ酒とチーカマしか買えないの」

 

「私の記憶からだと白皇の給料まで後10日以上あるわよね」

 

 何故ここまで金銭の消耗が激しいのかは大体分かるヒナギクだった。 仕方なく自身の弁当を分けてあげた。

まぁそこからは昼食タイム。 ナギがピーマン嫌いだの言ったり、テルが食べている弁当から雪路がカマボコを奪い、オカズ争奪戦へともつれ込んだりした。

 

(なんか家の食卓みたいな賑やかさ)

 

不思議と騒がしい団欒を眺めていると自然に笑みがこぼれた。

その瞬間、テルの視界が再び既視感に襲われた。

 

 

今度はこの団欒から。 まるでこの光景と記憶の光景がダブって見えるように映る。 写真がピンボケしているようにハッキリとは分からないが。

 

(俺もちゃんとこうやって誰かとメシを食っていた時があったのか?)

 

それは友人との時間かもしれない、もしくは家族との時間なのかもしれない。

だがピンボケしている光景と今見ている光景はどちらも賑やかそうだった。

それだけ分かれば充分かもしれない。

今日という日が何度も自身の記憶を引き出すように人の記憶は何かきっかけがあれば突然蘇る事もある。

 

(学校か………)

 

今日という日を振り返ってロクな事がなかったが少なくとも退屈はしなかった。 これは記憶ではなく、テル自身が感じた事だ。

そして一つの考えが頭に浮かんだ。 それについて少し考えるとフッと笑う。

 

(……それもいいかもしれないな)

 

 

 

 

 

─下校時間。

 

なんだかんだでテルはハヤテ達が帰るまで施設を見学していく事になった。 ちゃんと学校側から事情を話し、許可も了解したのである。

 

 

今はそれも終わり、三人は帰宅途中。

 

 

「あのさ…テル……」

 

「ん?」

 

 

夕日差し掛かる帰り道でナギが突然口を開いた。

だがなかなか喋らない。

 

「どうしたんだよ……」

 

テルはなかなか喋らないナギに聞く。 するとナギは顔を背けて言った。

 

「そ…その……一つ無くしたとはいえ、私達の為に弁当を届けてくれて……あ、ありがと……」

 

「あ~?」

 

テルは口に加えていたキャンディをポロッと落とした。 そして天を見上げてハヤテに駆け寄った。

 

「なぁハヤテ、急いで帰らないか? このままだと夕立がやってきそうだ」

 

「なっ! どういう意味だ!!」

 

「そういう意味だ」

 

テルは素っ気なく返す。ハヤテは苦笑していた。

 

「普段からそれぐらい素直ならいいのによ~」

 

「う、うるさい!うるさい!うるさい!」

 

テルの言葉をナギは顔を真っ赤にして打ち消すぐらい怒鳴り散らした。

まぁなんにせよなかなか感謝しないナギがこうして自分で感謝することを学んだのだからそれはそれで良かったかもしれないと安堵していたテルだったが。

 

「まぁ、私はただマリアに言われたことを仕方なく実行しただけだからな」

 

「お嬢様……」

 

「あ……」

 

ハヤテの言葉にナギはしまったと言った表情。

 

「………」

 

「まぁ、テル……」

 

「お前、駄目だ! 全然ッダメだッ!」

 

「ハヤテ! 逃げるぞ!」

 

「りょ、了解です!」

 

怒り心頭のテルから逃げるナギとハヤテ。 テルはそれを追いかけた。

 

「待てやゴルアアァァァア!」

 

「ハヤテ……」

 

テルの猛追から必死に逃げているナギがハヤテに聞く。

 

「私は珍しくも本当に珍しくもだぞ!今日は面倒くさく騒がしくも感じたが……」

 

「楽しかったのですか?」

 

ナギは言葉を見透かされたように驚いたが

 

「いや、やっぱりつまらなかっさ……」

 

「僕は……楽しかったですよ」

 

否定するナギを見てテルは笑いながら答えた。

 

 

「待てやゴルアアァァァア!」

 

 

この逃走劇。 屋敷まで続いたのである。

 

 

 

 

「ったくナギの野郎め……」

 

「まぁいいじゃないですか、何はともあれ感謝していたんですから」

 

夜の片付けの中、マリアとテルは皿洗いに勤しんでいた。

 

 

「イヤ、言わなくていい真実ってのがありますよ」

 

テルはナギの所業をまだ忘れていないでいた。 それを苦笑いで見たマリアは話題を変える。

 

 

「……それよりもテル君、白皇はどうでしたか?」

 

 

マリアの言葉にテルは少し手の動きを止めて、ゆっくりと話しだす。

 

「なんつーか……あの賑やかさ、クセになりそうですわ」

 

一言では説明出来なかったのかテルは端的に答えた。

 

 

「そうですか……」

 

マリアはそれを聞くと満足したように笑みを浮かべた。

テルは手を動かすのを止めて、マリアと向き合った。

 

「マリアさ─」

 

テルが言いかけた時、それはマリアの人差し指によって遮られた。

 

「分かってますよ……学校に行きたいんですよね」

 

まるで全て見抜いていたようなマリアの笑顔。 マリアは更に続ける。

 

「大丈夫です。 テル君にもしっかりと学生生活を楽しむ権利がありますから」

 

そう言うとテルに一通の封筒を渡す。

 

「白皇の編入書類です。 ナギやハヤテ君達も了解していますよ」

 

テルはその封筒を受け取る。

 

「編入試験、ハヤテ君と同じくハードですけど、やれますよね? 三千院家の執事なら」

 

テルはその言葉を聞くやニヤリと笑った。

 

「任せてください。 入学したら白皇に旋風を巻き起こしてやりますよ」

 

(頑張ってください、今日も、そして…これからも……)

 

 マリアは笑顔で心の中で呟く。 自分も学生だったから分かる。 しかし、マリアは一人飛び級ということもあり誰よりも先に学生生活を若い内に終えてしまった。

 本来ならばまだナギやハヤテ達とも通っている年でもある。

だからこそ、仕事だけで終わるのではない、 例え過去に学校に通っていたとしても学生生活という大切な時間はこれからの人生に大きく影響する。 彼が学校に行くことによりどんな事が起こるのか、マリアは期待していた。

普段ちゃらんぽらんとしているが彼には何か人に影響を与える力がある。

 

 

(これからが楽しみですね……)

 

そう思わずにはいられないマリアだった。

 

「まぁそれはそうとして、学校だけ集中して執事の仕事疎かにしたらタダじゃおきませんよ♪」

 

そう言うとマリアは笑顔でテルに磨いた包丁を見せ付ける。 研ぎ澄まされた包丁が光に反射し、キランと光った。

 

 

「あー……イエッサ~」

 

 

 

 

 

 

─数日後の話となるが、白皇学院に一人の男が奇跡の編入を果たす。


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