四葉の影騎士と呼ばれたい男   作:DEAK

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毎度更新遅くなりまして申し訳ありません。

リアルというクソゲーがなかなかクリアできませんでした。何十回目かになる爆死を経てもうやってられん!ということでこっちの執筆に着手した次第です(汗


今回は独立武装大隊との会話とあの組織の正体についてです。


無頭竜(正体)

あの後、泣きだしてしまった深雪をなだめたり、しどろもどろになっている和人のフォローに奔走したりで午前中はあっという間に過ぎてしまい、午後はスピードシューティングを観戦すると決め、達也はいったん皆と別れた。

 

昨夜の侵入者について風間に問いただすためだ。

 

本来大佐クラスにあてがわれる筈の広い客室に風間は独立武装大隊の他の士官と共にいる筈だった。

風間の部下に案内され、達也が扉のノックの後部屋に入ると、達也の思った通り、ルームサービスのティーセットを片手に一服している姿があった。

 

 

「来たか、まぁ掛けてくれ」

 

「わかりました。では遠慮なく」

 

風間にざっくばらんな口調で椅子をすすめられ、達也は本当に遠慮なく椅子にどっかりと腰掛けふぅっと溜息を吐いた。

 

「大分疲れているようだね?」

 

達也の珍しい姿を見て風間の隣にいた真田繁留大尉が面白がる目つきを隠そうともせず言う。

 

「まぁ、色々ありまして」

 

「ふ、彼はなかなかいい魔法師になりそうじゃないか」

 

「柳大尉、見てたんですか?」

 

達也の言葉に一節の笑みと共に告げられた柳連大尉の言葉に真田の目つきの答えを見た気がして達也は半眼で真田と柳を見る。

 

「あれだけ騒げばな」

 

「因みに最初に見つけたのは風間少佐だからね?」

 

達也の見てたなら助けてくれてもいいのでは?という意味を込めた視線を軽く受け流し、真田にいたっては上官に罪をなすりつける始末だ。

 

「やれやれ、俺は部下に恵まれないな。正確に言うと面白いから見ていようと言ったのは山中君じゃなかったか?」

 

「ん?そうだったか?それならフィアンセと散歩している藤林君が確か」

 

「あらあら、それを言うなら柳大尉がそもそも……」

 

 

 

 

 

「みんなが面白がって見ていたというのが良くわかりました」

 

罪のなすりつけの堂々巡りになりそうだったので達也はもうみんな同罪だとけりをつける。実際にそう思っていた事だし。

 

 

「さて、特尉がご機嫌を損ねて任務を放棄しないうちに乾杯と行こうか」

 

風間が達也の年齢で考えれば相当失礼な事をしているのにも関わらず、それを軽く受け流しそれを聞いた藤林がティーカップを達也に差し出す。

 

 

「そう思うなら次回から助けて下さい」

 

「ふふ、努力するわ」

 

完全に疲れ切った声を出す達也に風間の副官(秘書?)である藤林少尉が軽く笑いながら言うが、どう考えても次回も面白がって見てそうだ。

 

 

他の軍閥とは系統からして違うとはいえ独立武装大隊ほどフラットな部隊はそうそうないだろう。達也も最初は軍系統の礼式にのっとって行動していたが上官がこんななので最近は自分も遠慮なしに行動する事にしている。

 

 

ようは結果だけ出せばいいのだ。うん

 

 

 

2年前の沖縄海戦以来からの付き合いになる独立魔装大隊の面々だが、そこから永らく会っていなかったのか?と言われればそんなことはなく、一番長く会っていない柳で半年強、真田や山中にいたっては先月会ったばかりだ。

 

自然に話題は近況報告や九校戦、そして無頭竜(ノーヘッドドラゴン)の蠢動へと移り変わっていた。昨夜の賊はやはり無頭竜(ノーヘッドドラゴン)の工作員であるのは間違いないとのことだが、ここで妙な事実が発覚したと言う。

 

 

 

無頭竜(ノーヘッドドラゴン)は既に壊滅済み、ですか?」

 

「そうだ。二年前の沖縄海戦の数週間後、日本の支部は全て壊滅しているという報告があったそうだ」

 

達也が風間の報告を繰り返し聞いてしまうのも無理はない。だが、達也が真に驚いたのはこの後であった。

 

「しかも、それを主導したのが

 

 

 

 

十師族が一つ、七草家だ」

 

「!?」

 

十師族の序列は同率一位が三つある。

 

四葉家

 

七草家

 

九島家

 

の三つだ。

 

四葉家は配下の魔法師こそ他の二家および五輪家と比べても少ないが、他の家にない隠密と人道を無視した魔法の数々、更に三十年前の『大漢の悲劇』で見せつけた圧倒的な殲滅力をもってアンタッチャブルと呼ばれている。

 

対する七草家は歴代最強と呼ばれる現当主を頭に据え、優秀な魔法師を多数輩出しており当主の一声あれば、一個大隊はゆうに出来あがると言われている。

 

最後の九島家は古式魔法を取り入れた現代魔法、および現代魔法を取り入れた古式魔法の二つを並行して研究する仮定に置いて誕生したある副産物を用いて他の二家に対抗している。

 

それは、『BS魔法の解明』である。事実九島家の手によって、自在に再現が可能になったBS魔法は数多くあり、更にそBS魔法の研究が飛躍的に進んだ事により、BS魔法師も他の魔法を無理なく使えるようになった。

 

 

このような背景から一般的に表の七草、裏の四葉、BSの九島と魔法師社会からは位置づけられている。

 

「仮にもこの国にそれなりに根を張っている組織を真正面から叩き潰すなんてやり方、七草家にしか出来ないからまぁ納得はできるけど」

 

真田が驚愕で言葉を失っている達也に変わり苦笑と共に言うが、彼自身も聞いた当初はにわかには信じられない報告だったようだ。

 

「まぁそれを俺達が考えても仕方なかろう」

 

「その通り。大事なのは今、この九校戦で暗躍している無頭竜(ノーヘッドドラゴン)を名乗っている組織は一体何なのか?」

 

山中が言ったのを風間が肯定した事で七草家に関する考察は打ち切られ、達也も思考の海から戻ってきた。

 

「何か分かっている事は?」

 

「すいません。もっと本格的に介入できればいいんですけど」

 

藤林が風間に眼を下げて言う。この部隊の面々にかかれば昨日とらえた賊の正体など簡単に暴いて見せそうだが今の所、本腰を入れて介入する気はないようだ。

 

「まぁそれは仕方ないな、こちらも警戒を怠らないようにしなければ」

 

「七草の手から逃れただけでなく、僅か二年で違法賭博の胴元が出来るまでに組織を回復せしめた手腕は侮れませんからね」

 

柳の場を取りまとめるかのような言葉に異論は起こらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、場所は静岡から東京のある洋風屋敷に移る。

 

 

 

「……名倉か、入れ」

 

「失礼いたします」

 

ノックもなし、出来るだけ気配を消して部屋の前に来たのにも関わらず扉の向こうから、それも個人まで特定して見せる、驚異的というよりもはや病的と言ってもいい察知能力に内心舌を巻きながら、男、名倉三郎は主の待つ書斎へと足を踏み入れた。

 

一応礼儀として扉はノックしてだが

 

 

「主、ご命令頂いた件ですが、推察通りで間違いないかと」

 

書斎に入って早々、言葉少ななにそう告げた名倉に部屋の主、七草弘一は特に気分を害した様子もなく、ただそうか、と返答しただけであった。

 

「事の顛末も主の推察通りであるとするならば……」

 

今回の事件はただの茶番で終わるかと

 

そう、続けられた名倉にようやく弘一は読んでいた書類から目を離す。

 

 

「……何か言いたい事があるのか?」

 

「いえ、強いて言うならば、これを九島閣下に伝えなくてよろしいのでしょうか?」

 

弘一は書類を机の上に置き、身体ごと名倉の方に向き直る。どうやら名倉に付き合ってやる心づもりのようだ。

 

「必要はなかろう。今でこそただの好々爺だが、元は十師族の当主として、世界最巧と呼ばれる魔法師として名をはせた老師にはいらぬお世話だ」

 

それに本当に危険であるなら真言殿が動く筈だと付け加え弘一は名倉の言葉を待つ、このような当たり前のことをわざわざ言う為に名倉が当主を煩わせるとは到底思えないからだ。

 

「確かにそうです。しかし、今回の九校戦には四葉の当主が来ているという情報を掴みまして」

 

これが本題かと弘一はようやく表情に変化を見せる。と言っても眉がピクリと動いただけだが。

 

「四葉に九島がいるなら余計に心配はいらない筈だが?」

 

「お戯れを、主」

 

気付いておいででしょう?と暗に名倉に言われ弘一はふんと鼻を鳴らす。

 

「この際、無頭竜(ノーヘッドドラゴン)の残党など問題ではありません。問題なのは九島と四葉が今回の九校戦に来ているという事実です」

 

名倉の言葉に弘一は何も言わない。続きを促されているのだろう。そのまま名倉の口は淀みなく動いた。

 

「もし、無頭竜(ノーヘッドドラゴン)殲滅という名目で九島と四葉が手を組んだら、我が七草家にとって無視できない脅威になるのは否定できません」

 

「なるほど、名倉。お前は我らに対抗するため、四葉と九島が今回の事で手を組むのではないかと危惧しているのだな?」

 

「はい、我らは九島や四葉の管轄にも手を出しております故に、摩擦は避けられないかと」

 

ほう、と弘一は息をつく。名倉の考察に感心したのではない。主の方針にある意味で否定的な意見を述べた事に弘一は純粋に興味を覚えたのだ。

 

「ここは手を打っておく必要があるのではないかと存じます」

 

「ふむ」

 

名倉のそう締めくくられた言葉に弘一は名倉から視線を外す。しばし彼は思考した後

 

「必要あるまい。すておけ」

 

と言い放った。

 

「……はい」

 

「不服そうだな?」

 

「いえ、めっそうも」

 

表情には出さなかった筈だがと名倉は思うが、主は想子(サイオン)の揺らぎや気配の変化で相手の心情を読み取る術に長けている。読心術でも使えるんじゃないかと思った事も一度や二度ではないのだが、本人いわく

 

「そんな物が使えればもっと楽なのだがな」

 

と笑い飛ばすだけであった。

 

「四葉と九島が手を組もうが我らのやることは変わらん。それより人手を割かねばならん案件は腐るほどあるだろう」

 

我らは十師族同士で争う事は求めてはいないのだからなと弘一は言うが名倉の不安は晴れなかった。

 

「しかし、閣下も全盛期程ではないとはいえ、かつては世界最強と呼ばれた魔法師です」

 

しかも、九島真言の古式魔法研究の躍進により、魔法の性能だけなら全盛期を遥かに上回っている。

 

「更に、四葉の現当主、四葉真夜に至っては現在世界最強の一角でありますし、四葉の魔法師相手に暗躍と謀略で争うのは流石に分が悪いかと」

 

「名倉」

 

ここで初めて弘一の雰囲気が変わる。

 

声色は変わっていない。しかし、纏う空気が、目の光が、無意識に漏れ出す想子(サイオン)の奔流がゆうに物語っていた。

 

 

 

暴れ狂う時を待っている暴竜の逆鱗に触れてしまったのだと

 

 

 

「私も歳をとってしまってな、物覚えが悪くなってしまったのだ」

 

「……っ」

 

「四葉真夜とは、誰の事かな?」

 

呼吸すらも許さぬ圧倒的プレッシャーの中、跳びそうになる意識をどうにか押さえ

 

「大変、失礼をいたしました」

 

なんとかこの言葉だけ名倉は絞り出した。焦りの余り、踏む必要のない地雷を踏み抜いてしまったようだ。

 

(主に四葉真夜の名は禁句であったな)

 

それでも表面上は平静を保つ辺り、名倉も相当な胆力を持つと言っていい、というよりこんぐらい出来なければ到底、弘一の側近など務まらない。

 

「四葉と九島より、『奴』の動きに眼を光らせておけ、手駒の組織が悉く潰されている以上そろそろ奴本人か、それに近い人物が動く筈だ」

 

「はい、かしこまりました。横浜中華街、長崎の出島、大阪方面を中心に諜報隊を放っております」

 

直ぐに調子を取り戻した名倉の回答に満足げに頷きつつ、弘一は

 

「三矢殿との連絡も密に取っておくように、そして連絡は紙媒体で行え、絶対に電子媒体は使うなよ?」

 

と言い加えた。名倉はそれに礼を持って返すと、そのまま部屋を後にした。

 

 

 

「ふう」

 

年甲斐もない事をしたなと思いながらも『彼女』の事に関するといまいち感情のコントロールが難しくなると、弘一は自らの未熟を自覚しつつ読んでいた書物を棚に戻した。一息入れねば集中出来そうになかったので女中を呼びコーヒーを用意させようとヴィジホンに手を伸ばした。

 

 

ほどなくして運ばれたブラックコーヒーを片手に弘一はふと机のわきに立てかけてある杖に眼を向けた。もう三十年も使っている年代物であり、中には細身の剣が収められているいわゆる仕込杖という奴だ。

 

 

(もう少しですよ……)

 

 

その時の弘一は部下や家族には絶対に見せない顔をしていた。杖の頭をなでるように触る弘一、その杖の側面には

 

 

 

『四葉元造』

 

 

と筆記体で書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、舞台は二度転換しここはある場所……

 

 

「我らの同志が昨日日本の国防軍に捕縛されたそうだ」

 

「仕方あるまい、奴らは我慢が効かなかったのだ」

 

「そうだな、当然の顛末だろう」

 

ここにいる者に身分の差はないという事の表れだろうか部屋の中央には円卓が鎮座しており、そこに十数人の男達が顔を見合わせていた。

 

「だが、彼等から我々の事が露見する恐れはないか?」

 

議題は昨夜、達也が捕えた者たちについてであり、奇しくも達也と独立魔装大隊との話しと一致していた。

 

「それはあるまい。彼等は我らの事を知らないのだからな」

 

「その通りだ知らないものを白状する事は出来まい」

 

一人の男が不安げに呟くのを隣にいた男が自分に言い聞かせるように言いその隣の男もそれに賛同する。

 

気付けば他の男達も昨日の顛末について大丈夫かそうでないか議論していたが

 

「今の所問題はない。順調に我々の目的に向かって事態は進んでいる」

 

ある一人の男の言葉により、円卓はしんと静まり返る。

 

「我らの本懐を思い出せ、マイクロブラックホール生成実験は上手くいかなかったがそれならこの九校戦にて証明すればよい」

 

男はそのまま円卓を見渡しながら朗々と語りかける。

 

 

 

 

 

「我らの頂きを……」

 

 

 

その男は自分の言葉に陶酔しているかのように目を閉じ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我らの頂きに相応しいのは黒髪ポニーテールであるという事実を!」

 

「おい待てダグラス!一番は金髪ツインテールだろうが!」

 

「何を言っている!?ドリルツインこそが至高だと何故気付かん!?」

 

 

そのまま全速力でアホな事をのたまった。

 

 

「ポニーだのツインだの愚かな、飾り気のないショートカットこそ全ての無駄をそぎ落とした最高の美だというのに……!」

 

「「「うるせぇよ変態!!」」」

 

「お前らにだけは言われたくねぇ!」

 

つられて円卓の面々も好き勝手に自分の頂きにあるもの、すなわち一番好きな髪型について八割の罵倒と共に白熱した議論を繰り広げる。

 

 

 

これこそが無頭竜(ノーヘッドドラゴン)……七草弘一によって滅ぼされた後、最も好きな女性の髪形について語り合い、悟りを開くという意思のもと再び集った熱き魂を持った変態共の集団である。

 

 

 

 

「まぁとりあえずこの九校戦でどの髪型が一番か決めてやるぞぉぉぉ!!」

 

「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 

 

 

きっと前世か来世はエレメリアンだ(確信

 

 

 

 

 




散々引っ張っといて正体がこれって……ぶん殴られても文句は言えない気がします(汗

残念ながら無頭竜がこれなので九校戦ではシリアスは行方不明ですwww
ただ達也達は今までである意味一番苦戦するかもしれませんね~

だってこういうのさばける奴が記憶喪失だもの(ゲス顔


今年最後の投稿がこんなんですいません(土下座





~補足説明~

番外編+没ネタ集にて七草弘一と黒羽貢の会話がありましたが、この時滅ぼされた組織の一つが本物の無頭竜だったんです。それから何故変態集団になったかは永遠の謎ということでひとつ

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