四葉の影騎士と呼ばれたい男   作:DEAK

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今回は主人公に大変な事が起こります!

え?主人公って誰?とか言わんといてwww


侵入者(貧乳者……うわなにするやめry)

ホテルの庭の奥の方、人気のない草木も眠る丑三つ時、というほど遅くはないが夜の静寂が支配する空間で一人の少年がいた。

 

もし『目がいい』人物がいたら彼の周りに独立した非物質存在となった情報体(精霊)が渦巻いているのが見て取れるだろう。

少年、吉田幹比古はその精霊と感覚を同調させるという精霊魔法における基礎訓練を行っていた。

 

(まだだ。僕は、まだもっとやれる筈なんだ)

 

幹比古は本来であれば、長男を差し置いて吉田家の神童と呼ばれる程の卓越した魔法技術を持っていた。それこそ一科生でもおかしくないほどの

 

しかし、数年前ある術式の行使中に事故が起こりそれ以降思うように魔法が使えなくなってしまった。特に発動スピードが目に見えて遅くなり元々速度で劣ると言われている現代魔法はおろか古式魔法の中でも遅いと言わざるを得ない程無様な物になってしまった。

 

(くそ!)

 

彼の感情の高ぶりに呼応するように同調していた精霊の励起もあからさまに乱れていく。ハッと息をのんだ幹比古は直ぐに妄執にも似た感情を抑え込み感覚同調に集中するが一向に精霊達が鎮まらない。

 

ここで幹比古は精霊たちが何か警告を発しているのではないかと思い、同調訓練の応用で感覚の糸を精霊の指し示す方向へと伸ばす。

 

するとその知覚に引っ掛かったのは

 

少しの悪意と下心だった。

 

(なんだこれは?)

 

混乱の極みに立たせられる幹比古であったが悪意がある以上見過ごすわけにはいかないと気を引き締めその悪意が発せられた場所へと駆けだした。

 

侵入者は三人、彼等も幹比古の存在に気付いたのか悪意が多少強くなる。

 

(やるしかない!)

 

幹比古は懐から三枚の呪符を取り出し、魔力を込め術を放つ。術は雷童子の派生形、一秒弱で雷撃が侵入者を襲うだろう。

 

だが、侵入者が此方に向けてきた物(恐らく銃だろう)の引き金を引くのには一秒もかからない。

 

間にあわない、と絶望にも似た焦燥が幹比古の心を満たすが何故か侵入者はその引き金を引かず幹比古の雷により意識を断たれた。

 

(なぜ、銃を撃たなかったんだ?)

 

確実に此方の術より早く引き金を引けた筈なのに……幹比古は倒した侵入者達に近づこうとして

 

 

「良い腕だな、幹比古」

 

「誰だ!」

 

不意に声をかけられ、足を止めた。声色が鋭くなってしまったのは仕方のない事だろう。

 

「俺だ」

 

「達也?」

 

暗闇から出てきたのは達也だった。達也はそのまま倒れた侵入者に近づき脈拍などを一通りとり、命に別条がない事を確認すると

 

「ブラインドポジションから複数相手への魔法行使、威力を鹵獲目的の為、最低限に抑え、事実こうして彼等を倒している。ベストな戦果だ」

 

急に達也から手放しの称賛を受け幹比古は目を白黒させる。何を言われているのか一瞬理解が追いつかなかったのだ。

 

「だけど、彼らが引き金を引いたら僕の魔法じゃ」

 

「何を言ってるんだお前は」

 

幹比古の言葉は達也の明らかな呆れを含んだ声に遮られる。

 

「良く見てみろ」

 

「こ、これは……!」

 

達也に促され幹比古も気絶した侵入者に近づき、彼らが持っていた物を良く見ると

 

「ドライヤー?」

 

「あと、櫛とハサミだな」

 

「もしかして……勘違い?」

 

どうやら銃だと思っていたのはドライヤーだったようだ。まさか無実の人間に魔法を打ってしまったのか?と顔が青くなるが

 

「いや、ここは関係者以外立ち入り禁止だ。侵入者なのは間違いないし仮に好奇心故の犯行だとしても文句は言えないだろうな」

 

達也の言葉に人知れずホッと胸をなでおろす。しかしそれはすぐに曇ってしまった。それを見て達也はもう一度やれやれとかぶりを振った。

 

「幹比古、お前は一体何をそんなに焦っている?何がそんなに気に食わないんだ?」

 

「……達也にはわからないさ」

 

顔色が悪くなった原因をズバリ言い当てられた気がして幹比古は気まり悪げに目を逸らす事しか出来なかった。

 

「お前が気にしているのは魔法の発動スピードじゃないか?」

 

「っ……エリカから聞いたのかい?」

 

これまた気にしている事をズバリと言い当てられ、幹比古の気分はどんどん陰鬱な物になっていく。

 

「いや」

 

達也は幹比古が魔法を発動する瞬間を実は見ていた。その際、魔法式に余分な迂回路がある事を視ていたが故の発言であったのだが、今の段階ではそこまで言うつもりもなければ必要もなかった。

 

「幹比古、お前は考えが執着するあまり考えが凝り固まっているんだ」

 

「君になにが」

 

「九島閣下も仰っていただろう。魔法はその使い方で幾らでもありようを変えられると」

 

幹比古の君に何がわかる!という憤りを乗せた叫びは達也の淡々とした言葉に軽く遮られてしまった。

カッとなり口汚い言葉を言いそうになる口を理性で何とか閉じ、幹比古は達也の言った言葉を今一度冷静に考え直す。

 

(落ち着いて考えるんだ。何故達也がこんな事を言ったのか)

 

考えが凝り固まっていると言われたがそんなことはない、と言いたいが確かに魔法発動速度の上昇にとらわれ過ぎていたのかもしれない。

 

(じゃあ、どうすればいい?)

 

と幹比古はここで達也が九島烈の名を出した事に気づく。ここであえて名を上げたと言う事はそこに何か意味がある筈だと

 

 

考え……そして気付く、達也の意図に

 

「そうか、そう言う事か」

 

「気付いたか」

 

憑き物が落ちたかのような幹比古の顔に達也も満足げに頷く。

 

「あぁ、つまり達也は……」

 

「そうだ俺が言いたいのは術式の」

 

 

 

 

 

 

 

 

「九島閣下のカッコいいポーズを身につけるべきだ。とそう言いたいんだね?」

 

「そうカッコいいポーズを……はい?」

 

達也が唖然と幹比古を見返すのにも気づかず彼は熱に浮かされたかのように一気にまくしたてる。

 

「なるほど、術式の完成に時間がかかるなら相手の方を発動まで止めてしまえばいいなんて、なかなか出来る事じゃないよ」

 

「やかましい、バス女よろしくバス男言われたいのか。ってそうじゃない!俺が言いたいのは魔法式に無駄があるということで……」

 

「そうと決まったら善は急げだね、早速老師にお願いしてみるよ!」

 

「いやだから話を聞け幹比古!そもそも老師にそんな暇は……って」

 

達也が必死に誤解を解こうとするがその甲斐虚しく、幹比古は笑顔で達也に手を振るとそのままホテルの中へと消えてしまった。

 

 

 

「……」

 

そして後には、所在なさげに手を前に出す達也が残された。

 

 

「ふ、達也。人を導くとはぷっ、む、難しいだろっくくく、難しいだろう?」

 

「少佐、喋るか笑うかどっちかにして下さい」

 

今まで隠れていたのであろう。笑いを隠すつもりもない風間少佐に全力で拳を叩きつけたい衝動にどうにか耐える達也であった。

 

 

 

 

 

 

「なぬ?温泉だって?」

 

「あぁ天然じゃないけど確かあったはずだぜ」

 

一方その頃、和人はライブが終わり、炭酸飲料を飲みながら彼等の部屋のベッドに腰掛けるディックと話をしていた。

 

因みにヨシタケ達と文弥くん(女装は解いた)もそこにはいて文弥くんはまだしもヨシタケ達はガッチガチに緊張していた。まぁテレビにも出ているような有名人が目の前にいれば無理もないが

 

「どうするよ?」

 

「あ~折角だし行ってみるかな」

 

「僕はその、色々あれだし……」

 

「「「「あ~」」」」

 

文弥くんの遠慮がちな言葉に俺達は同情をこめて頷くしか出来ない。いや、ほんとすいません。

 

(まぁ森崎に会ったら大変な事になるしな)

 

(あぁあいつの夢は俺達が守ってやらなきゃな)

 

(んな大げさな)

 

とヒデノリ、ヨシタケ、タダクニの三人がこんな会話をこっそりとやっているとは露知らず、俺はいそいそと温泉に入る準備をしているのだった。

 

「よっしゃあ!じゃあ温泉いくとすっか!」

 

「「「おうよ!」」」

 

「まぁ楽しんできてよ」

 

文弥くんのお見送りの言葉を背に俺達はいざ温泉へと駆けだすのだった。

 

「あ~でも誰かいないかちゃんと確認しろよ……って行っちまったか」

 

「すいません。人の話を聞かない奴等なんです」

 

「な~に、そこがあいつのいい所だよ」

 

文弥が気まずげに言うのをディックは笑って流した。そしておもむろに懐から四角い何かを取り出すと

 

「時に文弥くん」

 

「はい?」

 

「お前は、強いのか?」

 

ディックの言葉に文弥は目を見開く、その言葉が意味する事は一つだ。

 

「いいでしょう。受けて立ちます!」

 

「行くぞ!」

 

 

 

 

 

「「スタンドアップ!ヴァンガード!」」

 

 

この後、ジョーも加わり大カードゲーム大会になったのであった。

 

 

 

え?ガイアはフィアンセといちゃいちゃしてましたよ。爆発すればいいのにね★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、大浴場に向かった和人達だが果たして先約入るのかどうか?ということだが、結論から言うと残念ながら?いた。

 

 

「へ~ほのかってスタイルいいね~

 

 

剥いていい?」

 

「いいわけないでしょ!?」

 

「……」

 

「あ、あの桜井さん?じっと見つめられると……」

 

「水波でいいですよ。いえ、素直に羨ましいなと

 

 

 

もげればいいのに」

 

「深雪助けて!怖いよこの子!!」

 

しかも非常にマズイ?事に九校戦に出る一年生女子たちと、彼女たちよりも更に速く湯浴みしていた水波と亜夜子という大所帯であり、和人達の未来が見える様だ。

 

 

「綺麗な髪をしているね。僕は癖っ毛で伸ばせないから羨ましいよ」

 

「ありがとうございます。ですがスバルさんだってお肌のつやとか張りがあって羨ましいですわ」

 

「おほめにあずかり光栄です姫様」

 

「あら、気障な方ですわね」

 

お互いに笑い合いながら亜夜子と里見スバルという一高ミラージパッドに出場予定の選手が談笑している。彼女達は初対面にも関わらず上手く打ち解ける事が出来たようだ。まぁ偵察や侵入任務において相手の警戒を解く意味でもある程度のコミュニケーションスキルは必要であり今回は亜夜子のそのスキルがいかんなく発揮されたと言う事だろう。

 

ほのかが若干危険な目に会っているような気がしなくもないが、浴室はかねがね女の子達の平和なさえずりに満ちていた。

 

話題と言えば、九校戦の競技の話とかもあるが、やはりここは年ごろという事もあり恋愛話に花が咲くのは道理であり、それは今回も例外ではなかった。

 

「それでね、バーテンが素敵な小父様だったのよ」

 

「え?あの人明らかに四十歳超えてたじゃない。中年趣味とか終わってる~」

 

「そこはナイスミドルと言って欲しいわね。私に言わせれば高校生なんて子供よ子供、てんで頼りにならないっていうかさ~」

 

「そうかな~同年代でも頼りになる人とかはいると思うけどな~ね?亜夜子ちゃんはどう思う?」

 

とここで話を振られた亜夜子は湯船に身体を沈ませながらふと指をこめかみに当て考えるような仕草をする。

 

「そうですわね。やはり殿方は女性を守れるくらい強くなくては」

 

「あ、やっぱそう思う?」

 

身を乗り出してきたのは明智英美(通称エイミィ)というクォーターの底抜けの明るさがウリの少女だ。

 

「えぇそれこそコールタールの海をバタフライで渡り巨大像を素手で倒せるレベルの強さは欲しいですわね」

 

「えっと~それもう人間じゃないよね?」

 

「まぁものの例えですわ」

 

亜夜子の言葉を聞いた少女達は皆一様に背中に鬼の顔を持つあのオーガ的な大男を思い浮かべ、このままでは目の前の可憐な少女が「俺の子を産めッ!」とか言われてしまうと危機感を募らせたが、亜夜子の軽い冗談だったようではははと軽い笑いと共に軽く奔った緊張感は霧散する。

 

「でも強い男性に守って貰うのって憧れるよね~」

 

「十文字先輩とか?」

 

「あの人は強いっていうか逞しすぎるっていうか」

 

「じゃあ服部先輩は?」

 

「あの人変人じゃない。ね深雪?」

 

「え?いえ、あの人仕事はちゃんとまじめにやるわよ?たま~に変な事してるけど」

 

「そのたま~に、がね」

 

話を振られた深雪が服部を弁護になっているか微妙だが弁護するように言うと振った少女は半眼になりながら湯船に身を沈める。

 

「よく平気だよね深雪は」

 

「悲しいけど、これも慣れなのよほのか」

 

「?……あぁ」

 

遠い目をしてしまった深雪に首をかしげるが直ぐに原因に思い至りやっぱ苦労してるんだなぁとかれこれ深雪と二年の付き合いになるらしいある少年の顔を思い浮かべる。

 

「で?水波ちゃんは?やっぱ強い男の子が好きなの?」

 

「私ですか?」

 

ニコニコと亜夜子から水波にターゲットを変えたエイミィに水波はいつもみつあみに編んでいる髪を指に巻きつけながら考える。

 

「いえ、そういうのは特に」

 

「おや、これは意外だね」

 

横で聞いていたスバルが芝居がかった仕草で肩をすくめた。気付けば他のみんなも水波の言葉に注目しているようだ。

 

「えぇ、幸か不幸か私の周りは強い人だらけでしたから」

 

「あ~深雪やお兄さんが近くにいればね~」

 

確かに深雪も達也も超一流の戦闘魔法師であり、この二人さえいれば国さえ相手取れるだろう。そうでなくても水波の周りは四葉の魔法師が多く、世間一般で言う『強い男性』だらけだったのである。

 

「強いて言うならどんな私でもいいって行動で示してくれる人がいいですね」

 

「なんか、大人な意見~」

 

「四六時中気を張ってるのは疲れるからね。確かに僕もそんな人がいいな。いたらだけど」

 

スバルやエイミィは感心したように頷いているが、深雪は別の事を考えていた。

 

(水波ちゃん、やっぱり調整体である事を……)

 

ある特定の魔法を出力しやすいように人為的に手を加えられて誕生する調整体魔法師、禁断とされるその技術をもってして『桜』シリーズの第二世代桜井水波は産まれてきた。

 

人間と同じように生活できても不安定な遺伝子は本人の寿命や生殖能力に影を落とす。人としての営みがある意味閉ざされている彼女にしてみればその薄暗い過去を気にしない人間、忘れさせてくれる人間を求めるのもある意味当然なのではないだろうか。

 

 

(あれ?でもそうなると……)

 

とここで深雪の思考は中断される。何故なら

 

 

 

 

 

 

 

「しゃああああ!いっちばん乗……り?」

 

「…………き」

 

 

 

 

 

「「「「「きゃあああああああああ!!」」」」」

 

腰にタオルを巻いただけの格好で風呂場に男数人がやってきたからだ。

 

 

 

 

時は数分遡り……

 

 

 

「いや~温泉入れるってマジかよ」

 

「マジよマジ、達也君と幹比古君にも声かけたかったんだけどな」

 

「達也はCADの調整があるだろうし、幹比古は……どっかいっちまったな」

 

「というか、俺もいいのか?」

 

「いいっての、旅は道ずれだ」

 

温泉に向かう道中廊下を歩いていたレオ君とリビングでなにやら呟いていた森崎氏を誘い俺達は大浴場に来ていた。

 

最初はレオ君と森崎は気まずそうにしていたが元々二人とも細かい事は気にしないタイプだ普通に喋るようになるまでそう時間はかからなかった。

 

「実は、この九校戦に一目ぼれした人が来ていて」

 

「おぉ!マジかよ。運命の出会いって奴か?」

 

「俺が出るスピードシューティングかモノリスコードで優勝したら告白しようと思ってるんだ」

 

「森崎……頑張れよ!俺応援してるぜ!」

 

「ありがとう!俺、頑張るよ!」

 

(((相手校マジ頑張れ、森崎の夢を壊さないように)))

 

とまぁこんな風に色々と誤解が取り返し付かない方向に向かっているのを断腸の思い(笑)でスルーし大浴場の扉をあける。

 

 

「元々この浴場って湯治目的につくったらしいぜ」

 

「え?そうなの?」

 

「筋肉痛とか訓練中のけがとかその他もろもろに効くらしいってディックさんが言ってた」

 

「また聞きかよ」

 

俺が知ってたらむしろ驚きだわ。

 

「っと俺先行くぜ~」

 

「あ、ちょっと待て俺も行く」

 

「置いてくなよ~」

 

森崎君以外全員準備できたらしく、あとは浴室の扉をあけるだけである。

 

「森崎~先行くぞ~」

 

「お~う」

 

森崎はヨシタケの言葉に軽く返答しながらインナーを脱ぐ。とここである一点に眼がいった。

 

それは綺麗に折りたたまれた恐らく女性の衣服である。

 

 

 

 

「……やばい」

 

森崎の顔色が一気に青くなる。これはみんなに早く知らせなければと脱いだ衣服を着直す事も忘れ浴場の扉に近づくが

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「きゃああああああああああああああ!!」」」」」

 

 

「遅かったか……」

 

もう既に時遅く、恐れていた事態が起こってしまった。

 

 

 

 

 

「な、なんで此処に!?」

 

「それはこっちの台詞ですわ!このっ!!」

 

「あばっ!?」

 

「いやああああああ!!」

 

「痛い!?石鹸超痛いよこれ!!」

 

一方浴場では顔を熱とは違う原因で朱に染めた少女達の一方的な蹂躙戟が、和人達を襲っていた。

具体的には桶とか石鹸とか桶とか桶とか……桶どんだけあるの?

 

「か、和人!いたっ!ど、どうする!?」

 

遅い来る桶の雨から身をかばいつつヒデノリが聞いてくる。どうするって言われても、痛いっ!桶痛いんだけど!

 

みんな桶の乱撃から身をかばっているが唯一レオ君だけが目を覆いながらも桶を逃げも隠れもせず受けている。恐らく女性のあられもない姿を見てしまった事に罪悪感を感じているだけで桶の攻撃は全く効いていないのだろう。

 

どんだけ頑丈なんだよ……。

 

「よし、ここは……」

 

「なにか策があるのか!?」

 

「ここは……勇気を出して

 

 

 

 

 

 

 

この場に留まるっ!!」

 

俺の留まるという声が狭い浴室に反響し、しばし静寂が支配する。

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

「死ィィネェェェェェェェェ!!」

 

「変態は、滅びろっ!!」

 

少女達の蹂躙は勢いを増すのであった。

 

 

 

「で、デスヨネーーーッ!!」

 

「お前バカなの!?」

 

「この決断にどれだけの意味があんだよ!?」

 

く、仕方ない。撤退だ!

 

俺の声に皆踵を返し浴室を後にする。俺も行くかと後ろを向き滑らないように走るがそこに運悪く桶が飛来し

 

「あべし!?」

 

しかもこれまた運悪く後頭部に桶の角がクリーンヒットする。と残念ながら俺が覚えているのはここまでだった。

 

 

 

 

 

「ったく、あの男子どもは~!」

 

「後で制裁が必要」

 

「そうね、ひとり残らず氷漬けにしてあげなくては」

 

雫がぼそりとそれでも確かな怒りがこもった声で、そして深雪が身も心も凍るような恐ろしい笑顔でそれぞれ覗き(と彼女達は思っている)の主犯格達をののしる。

 

「って男子~!ひとり忘れてるわよ~!」

 

エイミィが扉に向かって叫んでいるように床に倒れている男子、恐らく和人だろうがいるのが湯気の中からでもよくわかる。

 

「さっさと出ていきなさい!この出歯亀が!」

 

「コンドルの上に出歯亀とは最低です、ね!」

 

亜夜子と水波はまだやり足りないのかそれぞれ一つづつ桶を和人に向かってぶん投げる。ぱこ~んといい音がしながら和人の頭に当たるが彼はピクリとも動かない。

 

おや?と不思議に思いみんなで顔を見合わせてると、水波が浴槽からあがり倒れている和人に近寄る。

 

「水波ちゃん大丈夫?」

 

「そうよ、もし倒れたフリとかだったら」

 

「大丈夫です。もしそうでも返り討ちにしてやりますから」

 

周りの言葉に水波は男らし過ぎる返答をしながらサムズアップし和人に更に近づき顔を近づける。

 

「……水波ちゃん?」

 

そこから動かなくなってしまった水波を不審に思い深雪が彼女の名を呼ぶと、水波は壊れたブリキ人形のように深雪達の方へと振りかえる。

その顔色は真っ青だ。

 

「あの……」

 

「うん?」

 

「和人さん…………息、してません……」

 

 

 

 

 

 

 

「「「「え……?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





主人公死す



なんか今回でヒロインの方向性が決まったような決まんなかったような~

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