ていうか今までがだらだら書きすぎ?
「われらの同盟にぜひとも参加を!」
「共に学園の平和を勝ち取ろう!」
まるで政治家の公演演説のように学生たちが校内のいたるところで同志を募る活動が見受けられるようになったのは今日からだ。
昨日の放送室占拠から一夜明け、異例とも言える生徒同士の討論会が開かれると決まってから一気に同盟の活動は活発化している。
(随分と盛り上がりだけはいいな)
と他人事のように達也が思っていると、目の端に見知った顔が困惑顔で男子生徒と話しているのを見つける。
そして、男子生徒の腕にはトリコロールのリストバンドがされていた。
「美月」
勧誘を受けているのかと思い、達也は声をかけると振り返った美月の顔がほっと緩む。どうやら結構な時間拘束されていたらしい。
「すいませんが過度な勧誘は迷惑行為とみなされる場合がありますので御遠慮下さい」
達也が腕章をわざと見える位置にさらしながら二人の間に割って入るとその男子生徒はじっと達也を見つめる。
(眼鏡?伊達眼鏡ではないな)
その男子生徒は細い体つきだがよく見ればそれなりに鍛え上げていることがわかる。
「わかった。それじゃ柴田さん、気をつけて」
彼は達也の言葉にあっさり頷くと美月に一声かけ去って行った。
その姿が会談の向こうに消えて行ったのを確認すると
「一体何があったんだ?」
達也は自分の後ろにいた美月に言うと彼女は部活で使うのだろう画材道具を胸に抱きながらぽつぽつと喋り出した。
「少し妙な事を言われまして」
「妙?」
「はい、しばらく色々な所から勧誘をされると思うけど絶対に受けるな、と」
「なに?」
美月の言葉に達也は演技ではない驚愕の表情を浮かべる。達也は彼が合同行事中に襲ってきた下手人だと思っていた。
そしてこの同盟メンバーの一員、それも相当深い所にいる者ではないかと思っていたのだが、そうなると美月の言葉が説明できなくなる。
「えぇ、私を勧誘するくらいならもっといい人がいると思うんですけど」
と美月はへりくだるが、彼女には特別な目があるし、それを差し引いても自分が卑下するような人間ではない事は達也自身が良く知っている。
だが、問題は美月の目、霊子放射光過敏症を向こうが知って言って来たのかどうかだ。
「彼は一体?」
「剣道部の主将さんです。確か三年の司甲さんとか」
司甲、詳しく調べてみる必要がありそうだ。と達也は心に決めた。
「あぁ、いらっしゃい達也君、深雪君も」
「こんばんわ師匠」
「すいません、お休みでしたか?」
その日の夜、達也と深雪は九重寺と呼ばれる寺にいた。寺といってもいるのはお坊さんとかそういうたぐいのものではない。
いるのは、目の前にただずんでいる忍術使いと呼ばれる古式魔法師だ。
そして頭をそり上げ、切れ長の目を更に細め二人を迎えたのは、この寺の住職でありその道では有名な忍術家、九重八雲だ。
「いやいや、流石に僕も約束しておいてそんな失礼なことはしないよ」
八雲は深雪の言葉に軽く笑いながら顎をなでる。
「明かりがついていらっしゃらなかったようなので」
「ん?あぁ。僕は忍びだからね、必要な時以外明かりはつけないようにしているのさ」
そういうものなのかと言われると納得してしまいそうになるが悪戯好きな八雲の性格を考えると、素直にうなずけないのも事実だ。
「師匠、実は折り入って相談が」
これ以上、八雲のペースに引きずり込まれるのは深雪の為にも良くないと思った達也はさっさと本題を切りだすことにした。
「ほう、エガリテにブランシュねぇ」
一通り達也の話を聞くと、八雲はふと視線を上に逸らした。
「その程度の事なら調べられるけど、そこまで分かってるなら風間くんに頼んだ方が早いんじゃないかい?」
「少佐に頼るのは」
「なるほど、あの家がいい顔をしないか」
と、ここで八雲は達也に視線を戻すと
「いいよ、引き受けてあげよう」
と言った。
「ありがとうございます」
八雲の了承の言葉を受け軽く達也が頭を下げ、その頭が戻らないうちに
「司甲、旧名鴨野甲、彼の先祖は陰陽道の大家加茂家の傍流だ」
八雲からまさにドンピシャで聞きたい事を言われ、達也は目を見張る。深雪も驚きを隠せず口に手を当てている。てっきりまた後日と言われると達也ですら思ったのだ、無理もない。
「と言っても彼の近縁者に魔法師はいないから彼の霊子放射光過敏症は一種の先祖がえりだろうね」
「俺が司甲の依頼をすることが分かっていたんですか?」
「いや?彼の事は事前に調べていたんだ。根を下ろす場所だからね。たいていの事は調べてある」
達也が驚きと言うより呆れを多分に含ませた口調で八雲に問うと八雲はしてやったりといった感じで応えた。相変わらずこの師匠の悪戯好きには困ったものである。慣れている達也はいいが、深雪の教育に良くない気がする。
「それで、司先輩とブランシュの関係は」
と、ここで深雪から問いかけがあった。深雪にしても八雲のこの程度の悪戯は慣れたもので、少なくとも彼に比べれば良心的と言ってもいい。
「うむ、甲君の義理のお兄さんがブランシェ日本支部のリーダー、の筈だ」
「の筈だ?」
八雲の歯切れの悪い言い切り方に深雪はオウム返しで首をかしげる。彼女の知る八雲からすればこの言い方は相当珍しい。
「う~ん、多分間違いないんだろうけど、最近妙な動きをしていてね」
八雲の方も情報の裏が取れてないのか、取れたからこその困惑なのか困ったように眉を八の字にしている。
「組織の理念と離れた行動をしているという事ですか?」
達也のフォローともとれる発言にも
「まぁ、そうともとれるかな?」
曖昧な回答しか返さない。達也の意識は思考の海に沈む、組織の理念に反する活動を行う者はたいてい行き詰り無秩序なテロ行為に走るものだ。非魔法師の差別撤廃という表向きの理念すらない集団が行う事といえば、自爆テロだろうか?それとももっと過激で短絡的なテロだろうか?ある意味ブランシュよりも厄介だ。
「すいません、もし差支えなければその行動について教えて頂けませんか?」
達也が危機感を募らせていると、深雪がこわばった声で八雲に尋ねた。彼女の方も達也が考えているような可能性に行きついたのだろう。思わず頬を緩めてしまう達也はシスコンと言われても否定はできないだろう。
「そうだね、わかる範囲でよければ」
「お願いします」
最大の緊張感をもって司波兄妹が八雲の言葉を待つ。
「まずは、
近所の、ゴミゼロ運動に参加し始めた」
「「……はい?」」
たっぷり三秒間固まり、ようやく吐き出した言葉も気にせず八雲が更に畳みかける。
「あと、町内会の行事にも参加して地域交流に貢献、周りからは出来た大人筆頭と上々の評判。更に高齢者の為の介護ボランティアにも参加してそこのシステムを大幅に改善して、今その会社は業界ナンバーワンらしいね。そこの社員からは神のように崇められているようだよ」
「え?え?え!?」
「それと、最近家庭教師も始めたらしくて教えられた生徒の成績はウナギ登り、うちの子も見てくれというマダムが絶えないんだとか」
「ちょちょちょ!?ちょっと待って下さい師匠!?」
目を渦巻き状にして混乱してしまった深雪の代わりに達也が八雲の口激をなんとか止める。
「一応まだあるんだけど」
「いえそうではなく」
達也は一呼吸置き、自分の精神を落ち着かせる。
「それ、普通に良い人ですよね」
「そうだね」
「……えぇ~?」
せっかく落ち着いた精神がまた崩れそうになる達也であるがなんとか持ちこたえる。
「因みに家庭教師を受けた子供からは『これ、進研ゼミでやった問題だ!』とのコメントが多数あるね」
「……」
「進研ゼミっていうのはね」
「あ、そこはいいです」
「あ、はい」
達也は聞かなきゃ良かったと思ったが聞いてしまった以上は事実を受け入れるしかない。
「これで……全部ですか?」
どうにか混乱から抜け出した深雪が八雲に懇願に等しい表情で言うと、八雲はふと目線を逸らしてしまう。
そこで深雪は悟ってしまう。
まだ終わりじゃないと
「深雪!?」
膝をついてしまった自分を見て兄が直ぐに駆け寄ってくる。
ごめんなさいお兄様、深雪は弱い妹です。
「あの、言っていいのかな?」
「もうここまできたら仕方ありません、お願いします」
流石に八雲の方にも罪悪感が湧いて来たのか渋々と言った感じで口を開く。
深雪は達也に支えられながらなんとか立っている感じだ。
「一番新しいのは、仕出し弁当の配達サービスだね。これも味、値段、どれも上々で大人気みたいだね。特に今日の白身魚のフライなんて衣は冷めてもサクサク、タルタルソースも自家製で本当に病みつきになるというか」
「師匠、そこだけやけに詳しいですね?」
達也がふと浮かんだ疑問を口に出すと、八雲はしまった、と視線を宙に泳がせた。
なにか不穏な気配を感じ達也が口を開こうとすると
「師匠」
八雲の弟子の一人だろう。剃髪の男性が一人、容器を持ちながら何処からともなく現れた。
「あ、もうそんな時間かい?」
「どうぞ」
八雲がやってしまったと額を手でたたくのも構わず弟子は八雲に容器を押しつけるように渡すとそのまま闇に消えて行った。
「師匠、それは?」
「いや、実はその配達サービスって受験生とか社会人とか向けに夜食サービスもやっていてね」
と八雲が容器を開けると、そこには湯気とにおいが食欲をそそるチーズオニオンスープ(パスタ入り)があった。
その容器には
弁当処『司ワン』と書かれていた。
「せ、師匠」
「もうこのチーズがとろける様で、パスタもしっかりアルデンテだし」
プルプルと震える達也をなだめるように最期に八雲が言う。
「あ、二人とも食べる?」
「師匠いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
もう達也は我慢の限界だった。
~少し時を遡り~
「ただいま~」
「おかえりなさい。それは?」
司一さんと話していて少し遅くなってしまったが穂波さんは笑顔で迎えてくれた。これが連絡もよこさず凄く遅くなろうものなら恐ろしい目に遭います。マジで
「これ?友人から貰いまして、作りすぎたから貰ってくれって」
「これは、筑前煮?」
穂波さんが俺の差し出した容器を開け、中身を確認する。
「まぁ、夕飯にあと一品くらいなら問題ないでしょう」
とそのままもう準備が出来ていたのだろう食卓にそれを置く。
と食卓にはいつもの客人がいた。
「あ、水波ちゃんいらっしゃい」
「どうも」
水波ちゃんはぺこりと頭を下げると、今までつけていたのであろうエプロンを外し席についた。
「さ、揃った事ですし食事にしますか」
穂波さんの一声で三人は食卓についた。
「お、ニラ玉がある!」
「今日はニラが安かったですから」
ラッキー!ニラを安くしてくれたスーパー超ありがとう。
「「「いただきま~す」」」
「どれ、!?」
と俺が貰った筑前煮を食べた穂波さんの動きが止まる。どれ、俺も食べてみるかね
「うお!?超うめぇ!」
何これ!?全部煮崩れしてないのに柔らかいし出汁も染みてていくら食べても飽きないよこれ!
見ると、水波ちゃんも驚愕に固まっている。
「そ、そんな、そこらへんの学生に負けるなんて」
ていうか結構凹んでいる。
ていうかあの人学生じゃないんだけど、まぁ友達としか言ってないから当然か
「ははは、まぁ上には上がいるという事で、修行にはげみたまえ」
まぁ俺は水波ちゃんの料理も好きだけどねと続けようとしたのだが、水波ちゃんの目がキラリと光り俺は自分の失策を悟った。
その後……
「あの、流石に一週間筑前煮は」
「……」
「残さず食べます」
あれから謎の対抗意識を燃やしたのか水波ちゃんは毎日俺に筑前煮を食わせるようになってきた。正直食い過ぎて違いが分からなくなってきているんだが
「水波、ニンジンは煮込みが一分早く、こんにゃくは45秒遅いようね。次回はそこに気をつけて」
「はい、叔母様」
「温度と湿度から煮込み時間を割り出してもずれが出ますから、後は感覚で身につけるしかないですね」
「はい、頑張ります!」
「頑張んないでくれぇ……」
穂波さんも実は悔しかったのかノリノリで水波ちゃんを手助けしてるし。あと俺はどんだけ筑前煮を食えばいいんだよぉ!
完全に腹が減った状態で書いたので食べ物の話ばっかですね。
なんか筑前煮って具を一つ一つ別の鍋で煮るらしいですね。知らなかったな~